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「あふ……っと、いかんな」
 小さくあくびを漏らし、苦笑を浮かべてヴァイツッェッカーは銀色の髪をがりがりと掻きまわした。彼がドイツ軍から研修と言うことでここ緋号部隊に出向してからもう一週間。連日様々な拷問を見学させられ、そろそろ辟易し始めているのも事実だ。彼もきちんと訓練を受けた軍人であるから、悲鳴やら流血やらで気分を悪くすると言ったことはないが、それと拷問を好きになるかはまた別の問題である。
「まぁ、これも任務だ」
 小さくそう呟き、宿舎の廊下を歩くヴァイ。やがて目当ての部屋の前にたどり着き、彼は無造作にノックした。まだ早朝と言っていい時間だが、すぐに「はい」という女の声が部屋の中から返ってくる。わずかに眉を潜めた彼の目の前でがちゃりと扉が開き、既にきちんと軍服を身にまとった少女が顔を出す。
「あ、おはようございます。もうそんな時間ですか?」
「いや、少し俺が早く来たんだが……なんでお前がここに居るんだ?」
 礼儀正しく頭を下げる少女--華蓮へと怪訝そうにヴァイが尋ねる。彼が訪れたこの部屋の持ち主は、大神だ。当然彼が出てくると思ったのに、実際に出てきたのは華蓮である。
「プライベートです。すぐに少尉をお呼びしますね」
 ヴァイの問いにしれっとした顔でそう言うと、華蓮がいったん部屋の中に姿を消す。何とはなしに頭を掻いたヴァイの前に、待つほどの間もなく大神が姿を現した。
「いや、失礼しました。こちらから迎えに行くつもりだったんですが……」
 こちらは気恥ずかしそうにわずかに頬を染め、大神が謝罪する。拷問を行っている時はヴァイがたじろぐほど冷酷な面を見せる大神だが、こういう表情をすると少年っぽい印象になる。ごほん、と、軽く咳払いをしてヴァイは軽く肩をすくめてみせた。
「他人の私生活を詮索する気はない。それに、俺が時間より早く来たというだけのことだ。気にしないでくれ」
「はぁ、すいません。では、こちらへ」
 軽く首をすくめるようにして頷くと、大神が前に立って歩き出す。その後に従いながら、ヴァイは小さく苦笑を浮かべた……。

 緋号部隊は、拷問の研究をするために設立された部隊である。主な業務は、丸太と呼称される人体実験用の人間を相手に様々な拷問を加え、どの程度の拷問をすれば人は死ぬのかの研究をしたり、どういった拷問が自白を引き出すのに効果的かを研究したりすることである。だが、それ以外にも、外部の機関から要請されて、実際の尋問を行うこともある。
 ヴァイがここを訪れた理由も、第一の目的はここで研究されている尋問のノウハウを学ぶためだが、ドイツに於いて捕らえられたレジスタンスの尋問を要請するためでもあった。その捕らえられたレジスタンスの女は、既に大神の手によって拷問を受け、今後の計画や仲間の居場所などといった情報を全て自白させられている。自白後の彼女の身柄は緋号部隊に引き渡され、丸太の一人として様々な実験に供されて居るらしいが、その辺りの事情はヴァイの関知する所ではない。
「ああ、そう言えば、あなたが連れてきた例の女ですが、明日、限界実験に使われるそうですよ。私の担当では有りませんが、興味があるようでしたら見学できるように取り計らいますが?」
 前を歩く大神が、ふと思いついたようにそうヴァイに言う。限界実験、と言うのは、緋号部隊で使われている用語の一つで、要するに最初から殺すつもりで行う実験を指す。通常実験と呼ばれる、拷問の効果やどの程度の拷問を受けると失神、死亡するのかを確かめるために行う拷問の場合は実験終了後に治療が行われ、滅多に死に至ることはないのだが、限界実験を受けることになったら絶対に助からない。何しろ、拷問が終わるのは丸太が死亡した時なのだから。例えば同じ電流拷問であっても、通常実験であれば電圧を絞り、どの程度の時間、どの程度の間隔で電流を流すのが一番効果的に苦痛を与えられるかを調べるのを目的にする。対して限界実験の場合は高電圧の電流を流し、一体何ボルトの電流を流せば死ぬのかを確かめる。限界拷問に使用されると言うのは、実質的に丸太にとっての死刑宣告に等しい。
「いや、別にあの女の生死に興味はない。大神に手間を掛けさせるまでもあるまい」
「そうですか? 明日は非番ですから、手間と言うほどのことでもないんですが。まぁ、無理にとは言いません。さて、では、今日の任務を始めましょうか」
 ヴァイの言葉に軽く首を傾げながら応じ、大神が目的の扉を開く。部屋の中央に置かれた鋼鉄製の台の上に、大の字に一人の女が磔になっていた。栗色の髪、青い瞳の彫りの深い美人である。これから拷問を受けるのだから当然とも言えるが、全裸に剥かれており、日本人離れした大きな胸があらわになっている。しかも、仰向けになっているにもかかわらずほとんど漬れておらず、つんっと天井を向いていた。どこかぼんやりとした瞳で天井を見ているのは、既に前処理--筋弛緩剤を投与した上での電気ショック、およびその後に続く兵士たちによる陵辱--を受けているせいだろう。別に大神がやっておくように指示をしていたわけではないが、緋号部隊で女性の尋問が行われる時には定番の行為だ。
「資料を」
 大神の言葉に、華蓮が印刷された数枚の紙をバインダーに挟んだものを手渡す。受け取りながら軽く目を閉じ、開いた時にはもう大神の表情はさっきまでの子供っぽさを残した好青年から冷酷非情な軍人のものに変わっている。
「桐野彩菜、二十四歳、女。容疑、ロシア人の集団との接触、およびその破壊活動の支援。ふん、お国の不利益になるようなことをしでかすとは非国民が、と言いたい所だが、なんだ、ロシア人との雑種か。ならば、馬鹿な真似をしでかすのも無理はないか」
 資料にざっと目を通した大神が、侮蔑を隠そうともせずにそう言う。わずかに顔を上げた彩菜が唇を震わせるが、彼女が抗議の言葉を口にするよりも早く別の方向から抗議の声が上がった。
「大神。俺も日本人との混血だ。雑種という言葉は、正直言って気に食わん。やめてもらえないか?」
「ああ、失礼。しかし、優良人種たる日本人とドイツ人との混血であるあなたと、劣等民族との混血の彼女とを同列に扱ってるわけではありませんから」
「だとしても、だ」
 不機嫌そうにヴァイがそう言い、はぁと曖昧な返事を大神が返す。そこへ、唇を震わせながら小さな声で彩菜が抗議を挟んだ。
「私たちは同じ人間です。優れているとか、劣っているとか、そんな言い方は……あぐぅっ!」
「お前に発言を許可した覚えはないぞ? お前は、ただ質問に正直に答えていればいい」
 彩菜の言葉を、彼女の頬に鉄拳を見舞って中断させると大神が冷酷な口調でそう言い放つ。涙目になって沈黙する彩菜のことを眺めながら、大神はぱちんと指を鳴らした。壁際に控えていた四人の兵士たちが、それぞれ足下に置かれていた器具を手にとって彩菜の拘束された台の周囲に群がる。
「あっ、な、何を……? 何をするんですっ?」
 両腕と両足の横に刻まれていた切り込みに支柱を通し、兵士たちが機材の準備を進める。機材と言っても単純なものだが。まず、彼女の腕や足をまたぐように台座が渡され、そこに先端に大きなハンドルのついた長いネジが通される。彼女の腕や足に分厚い鉄の角柱が置かれ、そこに刻まれた窪みにネジの先端がセットされる。要するに巨大な万力で、ハンドルを回せばネジの先端が下方向に動き、鉄の角柱を押し下げる。分厚い角柱だから加えられた力は全体に分散し、彼女の腕や足全体を締め上げていくわけだ。
「これから、お前の手足を締め上げる。最初はたいしたことはないが、やがて激痛が走るようになり、なおも締め上げていけば骨にヒビが入る。それでも締め上げを続けると、最終的にはお前の手足の骨が粉々に砕けることになる。その痛みは筆舌に尽くしがたいし、いったんそうなってしまえば二度と手足は使いものにならない。
 まぁ、口で言うだけでは分からないだろうから、まずはその身で味わってもらおう」
 薄く笑いながら大神がそう告げ、兵士たちに向かって合図を送る。四人の兵士たちがそれぞれのハンドルを回し、彩菜の両腕、両足を同時に締め上げ始めた。
「あっ、くっ、くうぅっ。ああっ、痛いっ、やめてっ!」
「やめて欲しければ、質問に答えろ。まず、お前が協力している連中のアジトはどこだ?」
「し、知りませんっ。わ、私はっ、無関係ですっ。あっ、あああーーっ」
 ギリギリギリっと手足を締め上げられ、顔をのけぞらせて彩菜が悲鳴を上げる。薄く笑いながら大神が肩をすくめた。
「さて、いつまで無関係だと言ってられるかな? 仲間をかばうのもいいが、痛い目を見るだけ損だと思うがね。まぁ、強情を張るのはお前の自由だが」
「ああっ、痛いっ、腕っ、あ、足もっ、あああぁっ。お、お願いっ、やめてぇっ。私はっ、ああっ、本当にっ、無関係なんですっ。混血児だからって、捕まって、ああああぁっ、やめてっ、骨がっ、折れるぅっ」
 激しく左右に頭を振り、彩菜が叫びを上げる。肩から手首、股間から足首までの広範囲に渡って締め上げられ、ミシミシと骨が軋む音が頭の中で響く。手足を激痛が包み込み、逃れようと身体をよじれば逆に腕や足に更なる痛みが走る。
「お願いですっ、信じてくださいっ。私はっ、スパイなんかじゃないっ。ああっ、やめてっ、腕がっ、折れるっ。あああっ、いやっ、足がっ、漬れるぅっ。あああっ。信じてっ、私は、無実ですっ。くううぅああぁっ!」
「最初から、自分がスパイだと認めるスパイは居ない。まぁ、本当のことを話す気になるまで、締め上げるまでだ」
「嫌ああぁっ、やめてっ、やめてぇっ。ああああぁっ! 信じてっ、本当なんですっ、私は、無関係なんですっ、ああっ、あっ、きゃああああああぁっ!」
 激しく頭を振り立て、全身に油汗をにじませて悲痛な叫びを上げる彩菜。そんな彼女へと冷酷な言葉を大神がかけ、兵士たちが単調にハンドルを回す。ゆっくりと、しかし確実に角柱が押し下げられ、彩菜の両腕、両足をミシミシと締め上げ、押し潰していく。
「うあっ、あああっ、ああああああ---っ! 腕がっ、ああっ、足がっ、漬れるっ、あああっ、痛いっ、痛い痛い痛いっ! やめてぇっ。許してっ、私はっ、本当に何も知らないんですっ。あああっ、痛いっ、本当ですっ、信じてっ。ああああぁっ!」
 びくんっ、びくんっと腰を突き上げるように身体をのたうたせ、彩菜が悲鳴を上げる。薄く笑いながらその様子を見守っていた大神が、軽く手を上げて兵士たちを制した。
「そろそろ、ゆっくり回すことにしよう。あまり急いで骨を砕いてもしかたがない。ゆっくりと締め上げていけば、その分苦痛は大きくなる」
「はっ」
 大神の言葉に短く答え、兵士たちがハンドルを回す速度を緩める。目を大きく見開き、鉄の台を指先でがりがりと引っ掻きながら彩菜が苦痛の叫びを上げる。
「嫌っ、やめてっ、許してっ、アアアッ、ああっ、うあああぁっ! 骨が、ああっ、ミシミシって、くううぅっ、あっ、ああああああぁっ! 無実ですっ、私は、関係ないんですっ、お願い、信じてくださいっ、ああっ、アアアッ、あああああああぁっ!」
 悲鳴を上げて身体をのたうたせる彩菜。ちらりと腕時計に視線を落とし、大神が兵士たちに指示を飛ばす。
「一分で半回転だ。それなら、大体三十分ぐらいで骨に亀裂が走るだろう」
「はっ」
 大神の言葉に応じ、兵士たちが更にハンドルを回す速度を緩める。兵士たちがハンドルを回す速度を緩めたからといって、彩菜が受ける苦痛が軽減されるわけではない。ゆっくりと、じわじわ腕や足を締め上げられることによって苦痛を受ける時間は長引き、恐怖も増す。悲鳴を上げて身悶え、懸命に無実を主張する彩菜。その訴えを完全に無視し、大神は壁際の椅子に腰を降ろすと軽く足を組んだ。
「少尉。私は、雑用があるのでいったん失礼します」
「ん? ああ」
 軽く身を屈めるようにしながら華蓮が大神にささやきかけ、大神が無造作に頷く。部屋から出ていく華蓮のことを見送ると、大神はヴァイの方へと視線を移した。
「座ったらどうです?」
「いや、いい。それより、大神。彼女の言葉、どう思う?」
 壁に背中を預け、腕組みをしながらヴァイがそう問いかける。彼の視線の先では彩菜が悲痛な悲鳴を上げながら目を見開き、顔をのけぞらせ、豊かな二つのふくらみを震わせて身悶えている。
「彼女の言葉、というと、私は無実だという奴ですか?」
「ああ。彼女が自分でも言っていたように、混血児だからというだけで疑いをもたれ、誤認逮捕された可能性、完全に無視してもいいものかどうか……。無論、そちらの憲兵の捜査能力を疑うわけではないが、間違いを起こす可能性が皆無とは言いきれないだろう?」
 顎の辺りに手を当て、考え込むようにしながらヴァイがそう問いかける。軽く肩をすくめると、大神は苦笑を浮かべた。
「皆無どころか、結構有りますけどね、誤認逮捕は。まぁ、疑わしきは罰せよ、という世界ですから」
「と、いうことは……?」
「彼女が言っているように、無関係である可能性は、まぁ、五割、といったところですか。
 三石、回すのが早い。もっとゆっくりだ。菅野のペースに合わせてみろ」
 ヴァイとの会話の最中にちらりと視線を彩菜の方に向け、大神が兵士の一人を叱責する。叱責された右腕担当の兵士がはっと短く答えて頭を下げ、自分の前でハンドルを回している左腕担当の兵士の手元を凝視し、その回す速度に自分の回す速度を合わせる。彩菜の悲鳴が相変わらず室内を満たす中、大神が視線をヴァイの方に戻して言葉を続けた。
「失礼。ええと、どこまで話しましたっけ」
「彼女が無関係である可能性が五割ぐらいある、というところまでだ」
「ああ、そうそう。まぁ、かといって、無関係でない可能性も五割ぐらいありますから。拷問を中断するわけにもいきませんしね」
「ああっ、ウアアアァッ、嫌っ、やめてっ、もう許してっ! あああぁぁっ! 痛いっ、ああっ、くうううぅっ。信じてっ、私は、嘘なんかついてないわっ。本当に、無関係、あああああああぁっ!」
 仮に締め上げが強まらなくても充分すぎるほどの苦痛を味わっている彩菜にとって、ごくわずかずつ加えられる締め上げは劇的な効果を現す。髪を振り乱し、目を見開き、がりがりと台を指先で引っ掻きながら彩菜が絶叫し、身悶える。その様子を見つめながら、ぽつりとヴァイが呟いた。
「演技には、見えんな……」
「まぁ、民間人の協力者、という話ですから。訓練を受けたスパイとは違うでしょう。
 ふむ、しかし、ロシアか。この前の連中を、さっさと殺したのは早計だったか?」
 後半はヴァイに向けてというよりは独り言といった感じで大神がそう呟く。もっとも、今となっては室内は彩菜の上げる絶叫に満たされており、普通の会話の声もやや通りにくい。大神の台詞の後半はヴァイの耳には届かなかったらしく、彼は不機嫌そうに眉をしかめて彩菜の苦悶の姿を眺めている。
「うああああぁっ、くううぅっ、あっ、やめっ、やめてっ、お、折れ、るっ、ギイイイイィッ!」
 およそ、三十分後。悲鳴を上げつづけていた彩菜が表情を引きつらせ、更に激しく身悶える。その口から濁った絶叫があふれ出し、腰を突き上げるようにしてぶるぶると身体を痙攣させるのを見て大神が椅子から立ち上がった。兵士たちがいったんハンドルを回すのをとめる。
「ひぎっ、ぎっ、ぎひいぃぃ。うあ、あ、ああぁ……」
「どうやら、骨にひびが入ったようだな。ひびといっても、これだけ広範囲に何本も入れば痛みはかなりのものの筈だ。軽く刺激を受けただけで……」
「ギイイィィッ!!」
 台に歩み寄った大神がこつんと軽く彩菜の右足を締め上げている角柱を叩く。その途端濁った悲鳴を上げ、彩菜が目を見開いて身体をのけぞらせた。万力締めを受けている状態では、こういう軽く叩く程度の刺激が激痛を生む。まして、叩かれた部分の骨に既に何本もの亀裂が走り、息をするだけでも苦しくなるほどの痛みに責め苛まれているのだから、今の彼女にとっては更に激しい痛みに感じられた筈だ。
「さて、そろそろ話してもらおうか。まずはお前の仲間の居場所からだ」
「ひ、ひいぃ。し、知りません。あっ、やめてっ、ギャアアアァッ!」
 大神が言葉に弱々しく首を振る彩菜。涙でぼやけた視界の中で大神の手が自分の腕の方に伸びるのを見て表情を引きつらせ、制止の声を上げるがもちろん大神の手は止まらない。こつん、と、大神の手が軽く角柱を叩き、彩菜の口から絶叫があふれる。
「まだ強情を張る気力があるとは驚きだが。意地を張っても痛い目を見るだけだ。さて、答えてもらおうか」
「あ、あううぅ。本当に、私は無関係なんです。ああっ、お願い、信じてっ。ギャウウゥッ!」
 ポロポロと涙を流し、懸命に無実を主張する彩菜。無言のまま大神が彩菜の右腕の角柱を小突き、彩菜に悲鳴を上げさせる。激痛に喘いでいる彩菜のことを見下ろすと、大神は兵士たちをぐるりと見回した。
「しばらく、お前たちが相手をしてやれ。もう三十分、といったところか、とりあえずは」
 兵士たちにそう指示を出し、大神が壁際の椅子に戻る。自分のことを取り囲む兵士たちの顔を怯えた表情で見回し、彩菜が悲痛な叫びを上げた。
「お願いっ、信じてくださいっ。やめてっ、もう、酷いこと、しないで……ギャアアアアァッ!」
「まぁ、これで自白しないようなら、別の方法を試すまで、だな」
 こつん、と、角柱を小突かれて彩菜が濁った悲鳴を上げる。その悲鳴が消えてすすり泣く頃合を見計らって別の兵士が角柱を叩き、彩菜を絶叫させる。その絶叫が消えるとまた別の兵士が角柱を叩き、彩菜が絶叫。声が掠れて消える頃にまた角柱が叩かれ、悲痛な絶叫が響く。その単調なくり返しを眺めながら大神が小さく独白する。
「痛みで発狂、または死亡という可能性は?」
「ああ、ないとは言えませんが、まぁ、そうなったらそうなった時です。それほど緊急度の高い依頼でもありませんから」
「ギャアアアアアアァッ! あ、あう、ひいぃ。ギャアアアアァッ! ひっ、ひぃ、やめ、ギャウウウゥッ!」
 ヴァイの問いかけに事もなげに大神が応じ、ヴァイが眉をしかめる。その間にも、彩菜の絶叫が切れ切れに響き、部屋の空気を震わせていた。
「ふむ。まぁ、それはそちらの問題だが……しかし、民間人が、ここまで耐えられるものなのか?」
「さて。自白をかたくなに拒む理由としては、仲間に恋人が居るとか家族が参加してるとか、いろいろ可能性は考えられますが。
 それに、本当に無関係、という可能性もあります。知らなければ答えようがないですから。まぁ、だからといって拷問を中断する気はありませんけどね。
 とりあえず、一通りやってみて自白しないようなら、その時に考えますよ。まだ、やる予定の拷問の半分ぐらいしか消化してませんから」
「ギイイイィッ! 許して、もう……ウギイイイイィッ! ひっ、ひぃぃ、あうぅ、ギャアアアアァゥ!」
 ヴァイの問いに、大神が軽く肩をすくめて答える。不機嫌そうにヴァイが黙り込み、部屋の中に響くのは彩菜の絶叫だけになった。目を剥き、口の端に泡を浮かべて彩菜が身悶え、絶叫する。こつん、こつんと兵士たちが角柱を叩くたびに彩菜の腰が跳ね上がり、胸が揺れる。がりがりと指先が台を引っ掻き、爪が剥がれて鮮血が滴る。それでも彩菜の口から自白は得られず、ただひたすら自分は無関係だ、何も知らないのだと主張を続けていた。当然大神も中止を指示しようとはせず、無情に時だけが流れる。
「ギャウウゥッ! ひいいぃ……やめ、ウギャンッ! ひっ、ひ、い……ギャアアァッ! 私は、何も、知らない、ギャアアァッ!」
「さて、そろそろ三十分たったか。いつまでも続けていてもらちが開かないようだな、これは」
「あ、あうぅ……や、やっと、信じて、くれるんですか? 私が、無実だって事……」
 悲鳴を上げつづける彩菜の姿を見守っていた大神が、苦笑を浮かべて椅子から立ち上がる。兵士たちが角柱を叩くのをやめ、腕を締め上げられる苦痛に喘ぎながらも一息ついた彩菜が掠れた声で大神に問いかけた。しかし、彼女の期待を大神の言葉が打ち砕く。
「胸捻りを行う。機材の準備を」
「ひっ!? ま、まだ、これ以上酷いことをするつもりなんですか!? お願いですっ、私は無実なんですっ。信じて、お願い、信じてください……。こんな酷い目にあって、嘘なんて、つけるはずないじゃないですか……」
「以前、お前と同じ事を言った奴が居た」
 彩菜の哀願の言葉に、大神が酷薄な笑みを浮かべてそう答える。
「だがそいつは、更に痛めつけたら自分がロシアのスパイだと白状したよ。お前も、なかなか良く耐えてはいるが、いつまでも嘘をつきとおせるとは思わないことだ」
「そ、そんな……。わ、私は、本当に無関係なんです、お願いだから、信じて。もうこれ以上、酷いこと、しないで。お願いだから……」
 彩菜が哀願の声を上げるが、大神は小さく鼻を鳴らすだけで応じない。その間に兵士たちが機材を用意する。といっても、こちらも単純なものだ。胴体部分を腕や足を締め上げている万力と同じように台座がまたぎ、そこに刻まれたネジ穴からハンドル付きのネジが二本のびる。ほとんど同じ構造だが、違うのはネジの先端にもう一つ、小さな万力が付けられていることだ。
 兵士たちが二人一組みになり、一人が苦痛と恐怖に身をよじる彩菜のことを押さえつけながら彩菜の豊かな乳房を掴んで万力の間に乳首とその周辺の肉を挟み込む。もう一人が万力を操作し、指三本ほどの幅がある万力で彩菜の胸の先端部分を容赦なく締め上げた。
「ひいいいぃっ! 痛いっ、嫌あぁっ、痛いっ、痛い痛い痛いぃっ! やめてっ、胸がっ、あああぁっ!」
 左右の胸の先端部分を万力で締め上げられ、顔を左右に振って彩菜が身悶える。がっちりと万力が乳房をくわえこみ、ちょっとやそっとでは抜けなくなったことを確認すると、兵士たちのうち二人がハンドルに手をかけ、ぐいっと回した。
「ウギャアアアアアアアアァッ! ギイイイイイィッ! ギャッ、ギャギャウッ! ギイッヤアアアアアァッ!」
 万力はネジの先端に固定されているから、ネジが回転すれば当然それにしたがって回転する。今ハンドルが回されたのは四分の一回転ほどだが、乳首を含む乳房の先端部分を90度捻られたのだからたまらない。彩菜が絶叫を上げ、顔をのけぞらす。
「このまま回転させれば、お前の胸は捻り切られる。それがどれだけの痛みを伴うのか、今少し捻られただけでも十分想像がつくだろう。そんな目にあいたくなければ、素直に自白することだな」
「ギヒイイィッ! ヒギャッ、ギャウウゥッ、ヤメ、テッ、ヤメテェッ!」
「言った筈だ、やめて欲しければ自白しろ、と。お前の仲間たちはどこに隠れている?」
「知らないぃっ、本当に、知らないんですっ。ギイイイイィッ、胸、が、千切れ、るぅっ! やめてえぇっ」
「強情だな。では、もう少し回せば、素直になれるか?」
「ウギャアアアアアアアアアァッ!! ギャアアアアアアアアアアァッ! ギイッヤアアアアアアアアァッ!!」
 大神の合図で更にハンドルが四分の一、回される。最初のものと合わせて半回転。乳房を捻られた彩菜の口から耳を覆いたくなるような凄絶な絶叫があふれる。激しく振り立てられる彩菜の髪を掴み、大神が問いかけた。
「痛いだろう? 素直に自白すれば、すぐに痛みから解放してやる。どうだ? しゃべるか?」
「やめてっ、許してっ、本当、本当なんです。本当に私はっ、何も、知らないんです。無関係なんですっ。ああっ、ひいっ、胸が、ああっ、千切れちゃうっ、アアアァッ!」
「馬鹿を見ることになるぞ」
「ギビャアアアアアアアアアアアァッ! ビャベッ、ヂギレッ、ギャギャギャギャギャギャギャッ! グギャアアアアアアアアアァッ! アビャビャビャビャッ! ビビャアアアアアァッ!!」
 ハンドルが、回る。豊かな乳房が更に捻れ、目をこぼれ落ちんばかりに見開いて彩菜が絶叫を上げる。激痛に身をよじり、身体をのたうたせるが、両手両足、更に胸を固定された状態でのたうてばかえって痛みが増すばかりだ。
「次で一回転。ここで胸が千切れる奴が多い。お前の胸が耐えるかどうかは知らんが、早めに自白した方が身のためだぞ」
「あびゃっ、びゃから、びょんどうに、わひゃひは、にゃにも、ひらにゃい」
 激痛のあまり舌が回らないのか、不明瞭な発音で彩菜が自分の無実を主張する。唇の端を歪めると大神は兵士に合図を送った。更にハンドルが回り、彩菜の乳房を捻り上げる。
「グギャアアアアアアアアァッ! ビャベッデッ、ビビャアアアアアアアァッ! アギャアアアアアアアアァッ! ギイヤアアアアアアアアアアアアァッ!!」
 あまりにも大きく目を見開いたせいでまなじりが裂け、血の涙を流しながら彩菜が絶叫を上げる。一回転分捻られた乳房が放つ激痛に脳裏が真っ白になり、ぶくぶくと口から大量の白い泡を吐き出しながら彩菜は悶絶した。
「ちっ、気を失ったか。水!」
 舌打ちを一つして大神が指示を出し、兵士の一人がバケツの水を彩菜の顔に浴びせかける。うっすらと目を開いた彼女に向かい、大神が問いかける。
「まだ自白する気になれないのか?」
「ひらにゃい、の、ひょんとうに……おねひゃい、もうゆるひて……」
「強情だな」
「大神、彼女は本当に無関係なんじゃないか?」
 うまく回らない舌で哀願の声を上げる彩菜と、その答えに舌打ちをする大神。見かねたようにヴァイが声をかけると、大神が彼の方を振りかえって肩をすくめた。
「拷問は続けます。自白するまで、ね」
「しかし……」
「この尋問の責任者は、自分です。
 あくまでも自白しないというのであれば、右腕を砕く。次は左腕、右足、左足と順番に砕いていって、最後に胸を捻り切る。自白する気になったら、いつでも言え。すぐにやめてやる」
 なおも何か言いかけるヴァイに毅然とした言葉を投げかけると、大神は痛みに喘いでいる彩菜の方に視線を向けて淡々とそう告げた。表情を引きつらせ、哀願の叫びを上げる彩菜。それを無視して壁際の椅子に戻ると、声を潜めて大神はヴァイに話しかけた。
「すいません、先に言っておくべきでしたね。尋問を行っている最中に、被疑者に向かって無実の可能性を認めてはいけないんです。認めてしまうと、このまま黙っていれば無実として解放されるって希望を持たせてしまいますから。どんなに頑張っても無実と認めてもらえない、そう思わせ、絶望させるのが自白を引き出す早道なんですよ。
 まぁ、正直な話、私の感想としても九割九分まで彼女は冤罪だとは思いますが、彼女が無実だという証明が客観的に出来ない以上、拷問を中断するわけにはいかないんです。気を悪くしないでください」
「そう、か。いや、俺の方こそ、余計な口出しをしたようだ。すまない」
「グ、グギャアアアアアアァッ! ギギャアアアアアアアァッ! う、腕っ、腕がああアアアァッ!!」
 大神の説明にヴァイが謝罪する。そこへ、彩菜の絶叫が響き渡った。右腕を締め上げていたハンドルが更に回され、角柱を押し下げて彼女の右腕を押し潰そうとしている。
「あまり、一気に潰すなよ? じわじわと締め上げ、砕くんだ。いいな?」
「はっ、はい」
「ギイイイイィッ! ウギャアアアアアァッ! ヤメテェッ! 私はっ、無実っ、ギギャアアアアアアァッ!」
 大神の言葉に、兵士がハンドルを回す速度を緩める。今までも決して早いというほどのペースではなかったのだが。ひびのはいった骨を更に締め上げられる激痛に、彩菜が泣きわめく。痛みに自然と身体がのたうつが、その動きが胸や他の手足から更に激痛を引き出すのだからたまらない。ほとんどまともにしゃべることもままならず、彩菜が絶叫を上げながら身悶える。
 七分後。悲鳴を上げつづけていた彩菜の口からひときわ大きな絶叫があふれ、彼女の右腕の骨が粉々に砕ける。大神がおざなりに問いかけ、彩菜が半分気絶しながら自分は無関係だという主張を繰り返す。軽く手を振って大神が続行を指示し、今度は左腕への締め上げが加えられる。
 今度は八分後、彩菜の左腕が砕かれる。激痛に半死人のような状態になって喘ぐ彩菜に大神が自白をするか尋ねるが、彩菜の答えは変わらない。右足の締め上げが、始まる。
 十三分後、彩菜の右足も砕けた。足は腕よりも骨が太く、肉の量も多いからその分時間がかかる。もちろん、それだけ苦痛を味わう時間が長くなるということでもあるが。
 最後の左足が砕けるまでに要した時間は、二十二分。途中で二回に渡り、彩菜が痛みに失神したため時間が掛かった。それでも、彩菜の主張は変わらない。
「ひ、ひぎぃ、い、ひぃぃ……」
「手足を砕かれてもまだ強情を張るか。見上げた根性、と、いいたいところだが、さて、胸を千切られてもまだ同じ事が続けられるかな?」
「お願い、信じて。嘘なんて、最初からついてないんです。私は、本当に、無関係なんです……」
「始めろ」
 彩菜の哀願の声を無視して大神が指示を出し、ゆっくりとハンドルが回される。
「ギギャアアアアァッ! ギャウッ、ギャッ、ビャッ、ブギャアアアアアアアアァッ! ギッ、ギギッ、ギイイィッ、ウッギャアアアアアアアアアア----ッ!!!」
 既に一回転していた乳房が更に捻られていく。45度、90度、135度……一回転半まで捻られてもまだ乳房は千切れない。ほうっと感心したように大神が声を上げるが、もちろん捻られている彩菜はそんなことを気にしている余裕などまるでない。両腕両足を砕かれた激痛に加え、胸を捻られる激痛に絶叫を上げ、身悶え、血の涙を流しながら白い泡を噴く。
「ウッギャアアアアアァッ! ギビャアアアアアァッ! ギヒイイイィィッ! ギャッ、ギッギャアアアアアアアァ----ッ!!」
 ぎりぎりぎりっと、ゆっくりとハンドルが回る。回転が二回転を越えた辺りで、ついに耐え切れなくなったのかぴぴぴっと乳房の根元の辺りの皮膚が裂け、血があふれ出した。断末魔じみた絶叫を上げて彩菜が身悶え、その動きも加わって乳房が根元から裂ける。捻られていた乳房が万力にぶら下がった状態で元に戻り、周囲に血の滴を撒き散らした。
「ぎゃう、う、あ、ひあああ……あ、う、わ」
「二回転もつとは思わなかったな。馬鹿みたいにでかい胸のおかげか」
 激痛と胸を失ったショックとでうつろな呻きを上げている彩菜のことを見下ろしながら、大神がそう呟く。そこへ、コンコンッというノックの音が響いた。
「華蓮か?」
「はい」
 大神の呼び掛けに答えながら華蓮が扉を開け、室内に足を踏みいれる。ちらりと台の上で身体をひくつかせている彩菜の方に視線を向け、表情を消したまま華蓮は大神に告げた。
「先程、憲兵隊から連絡が有りました。捜索中だったロシア人集団の拠点を発見、摘発に成功したそうです」
「おや、何だ、終わったのか。まぁ、この女が拘束されてからこちらに送られてくるまで一週間ぐらいあったらしいからな」
「その過程で、被疑者の桐野彩菜はその集団とは無関係だったことが判明したそうです」
 淡々とした口調で華蓮がそう告げ、ヴァイがぴくっと眉を跳ね上げる。軽く首を傾げて大神が華蓮に問いかけた。
「閣下は、なんて言ってる?」
「少尉の判断に、任せるとのことです」
「丸太の備蓄は?」
「有り余ってるわけではありませんが、不足してもいません。通常備蓄です」
「そうか。なら、潰すか」
「大神!?」
 あっさりと放たれた大神の台詞に、ヴァイが愕然とした表情で声を上げる。おそらくはその声を意図的に無視し、大神は激痛に喘ぎ、交わされる会話が耳に入っていないらしい彩菜のもとに歩みよった。
「桐野彩菜。お前の無実が証明されたそうだ」
「ほ、本当……? だ、だったらお願い、早く、これを、外して。痛いの、苦しいのよ……」
 大神の言葉に、彩菜がほっとしたようなものが混じった口調でそう哀願する。無言のまま大神が手を振ると、彩菜の胴体をまたいでいた台座が外された。そのまま手足の締め上げからも解放されると思っていた彩菜の胴体に、一回り大きな台座が二本、血を流している胸の傷の上辺りと下腹部の辺りに渡される。
「な、何……? え? な、何を、する気なの……? お願い、私が無実なのは、分かったんでしょう? お願いです、早く、外してください」
「ここ、緋号部隊では、いったん被疑者として収容された人間を生かして出すことはしない」
「え……? ええ?」
「普通であれば、尋問が終了した被疑者は丸太として登録され、様々な実験に使用される。だが、お前の場合は冤罪であったことが証明されたため、特別に慈悲を持ってこの場で処刑するものとする。感謝してもらいたい」
 大神の宣告に、彩菜の表情に絶望の色が広がる。
「う、嘘でしょう? ね、ねぇ、私は無実なの、無実なのよ!? ど、どうして、殺されなくちゃいけないの……? ねえ!?」
「機密保持のための、規則だ。くり返しになるが、感謝してもらいたい。本来であれば、今後数回に渡って拷問を受け、更に苦しんだ後に死ぬことになるのだが、特別にこの場で終わりにしてやる」
「嫌っ、イヤアァッ! やめてっ、殺さないでっ! お願いっ、何でもしますっ、何でもしますから、お願いっ、殺さないでぇっ!!」
 恐怖に泣き叫ぶ彩菜の身体の上に、鉄の板が乗せられる。台座にハンドル付きのネジが通され、その先端が鉄板に触れる。彩菜の腕や足を締め上げ、骨を砕いたのと同じ構造だ。
「イヤッ、イヤイヤイヤァッ! 殺さないでっ、お願いですっ、許してっ、ああっ、イヤッ、あっ、ああっ、あ、ぐ、う、ぐううううううぅっ」
 兵士たちがハンドルを回し、鉄板を押し下げる。悲鳴を上げて泣き叫んでいた彩菜の口から呻き声が漏れ、苦悶の表情が浮かぶ。胸と腹を強く圧迫され、満足に呼吸も出来なくなった彩菜に背を向けると、大神はヴァイの方に向かって軽く肩をすくめてみせた。
「納得出来ない、という顔ですね」
「……俺は、部外者だ。この部隊のやり方に、口を出すことはしないでおく」
「すいません。そう言っていただけると、助かります」
 顔を背けてそっけなく答えたヴァイに向かい、大神が軽く頭を下げる。その間にもハンドルは回され、鉄板が押し下げられていく。
「うぐっ、うぐぐっ、ぐうううううぅっ。ぐっ、ぐぐうっ、あぐぐぐぐ……ぐううううぅっ」
 顔を左右に振りながら、彩菜が呻く。苦痛を与えるのが目的ではないから、わざとゆっくりと押し下げていくようなことはしないが、この構造では犠牲者を即死させるのは不可能だ。
「うぐぐっ、あぐうぅっ、ぐう、ぐる、あぐぐぐ、うぐうう、ぐる、じ、い、あぐぐぐぐ……うぐううあうう」
 肋骨にぴしぴしっとひびが入り、彩菜の口から苦しげな叫びが漏れる。もっとも、叫びと言っても、胸を強く圧迫された状態では呻きと大差ないが。
「ぐぐぐ……ぐぶうぅっ!? げぶっ、ごぼごぼごぼ……ごぶうぅっ!!」
 更に鉄板が押し下げられ、折れた肋骨がぶすぶすっと内臓に突き刺さる。口から血を吐き出し、苦しみもがく彩菜。更に鉄板が下がると骨盤が砕け、内臓が破裂し、彩菜の口から絶叫の代わりに鮮血が吐き出される。大神が軽く片手を上げると兵士たちはハンドルを回すのをやめ、ネジの側面に刻まれた刻み目の数を数え始めた。これで、手足のものであれば骨が砕けるまでに必要な長さが、胴体であれば致命傷を与えるのに必要な長さが、それぞれ弾き出せるというわけだ。
 口をぱくぱくと開け閉めしながら、未だ死に切れずに身体を痙攣させている彩菜の周囲に群がり、兵士たちがネジの刻み目を数えている。その光景を眺めながら、大神は軽く肩をすくめた。
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