FILE:8


尋問結果報告書壱壱〇参号
記録者:帝国陸軍少尉大神志狼 日時:帝国暦四拾六年参月弐拾伍日
被尋問者:加賀由美子(性別:女/年齢:弐拾弐歳) 容疑:反国家運動
尋問者:大神志狼尋問補佐:天ヶ崎華蓮
尋問結果:
 被尋問者の所属せし反国家的運動組織の拠点および構成員の情報を得るも、なお不明な点有り。尋問要請元への取得情報の転送を行うと共に尋問の継続の是非を問うものとす。
 肉体損傷度は軽度。現在独房棟に拘束中。
(某所の軍施設の一室にて)
「いいかげんにしろっ、この(アマ)!」
 罵声と共に髭面の男が机の反対側に座っている女の胸倉を掴む。男のほうは少しよれた軍服姿、女の方は貫頭衣風の服を着ている。素材がやわなのか、びりっと布地が引き裂かれるような音が響いた。
「貴様が愚にもつかない反戦運動に熱を上げているのは分かってるんだ! お国の大事というのに自分のことばかり考えるこの非国民奴が!!」
「……私たちは間違ってない。あなたたちのほうこそ、自分たちが間違っているって気づいてないだけじゃない!」
「このっ!」
 男が顔を真っ赤にして女の頬を張り飛ばす。その拍子にびりっと女の胸元が大きく破れ、白い膨らみが半ば露わになった。殴られた拍子に唇を切ったのか口の端しから血を流しつつ、破れた胸元を掻き合せて女が男のことを睨む。
「何だ……何だその目はっ!」
 ばんっと平手で机を叩いた男が、怯む色を見せない女の態度に声を裏返らせる。ばんっともう一度女の頬に平手打ちを見舞うと、男ははぁはぁと大きく肩を上下させた。
「いいか、もう一度だけ訊くぞ。貴様の仲間はどこにいる? どこで何をたくらんでいるんだ!?」
「……」
「答えろ。答えなければ、貴様、緋号送りにするぞ」
「……っ!」
 男の口にした緋号送りという言葉に、一瞬女が動揺の色を見せる。緋号送り……それは事実上の死刑宣告も同然だからだ。緋号部隊と通称される部隊は公式には存在しないことになっている『汚れ役』の部隊。そこでは日夜苛烈な拷問が行われており、そこに連行されて生きて出たものはいないと噂されている。
「どうだ……御上にも慈悲はある。素直に喋れば貴様の罪も軽くなる。緋号送りともなれば死は確実だ。どうだ? まだ死にたくはないだろう?」
 女の動揺を見て取った男が、一転して猫撫で声を出す。ぎゅっと唇を噛み締め、胸元を掴む拳を震わせながら女はゆっくりと首を左右に振った。
「殺すなら……殺しなさい」
「馬鹿が……後悔するぞ」
 吐き捨てるようにそう言い、部屋から出て行く男の背中を女は微かに唇を震わせながら見つめていた。

 続けざまに響く銃声。地下の射撃訓練場で一息に弾倉の弾丸を全て撃ち放った大神が小さく頭を振って頭を掻く。と、普段利用者のあまりいない訓練場の扉が開き、銀髪の青年が姿を現わした。
「ここにいたのか」
「ああ、ヴァイ。まぁ、無趣味な人間でしてね。非番の日は大抵ここですよ。で、何か?」
 銃を台の上に置き、大神が笑顔で問い掛ける。ちらりと的の方に視線を向け、呆れたとも感心したともつかない表情を浮かべてヴァイが髪を掻き回した。
「いや、俺も暇なものでな。暇つぶしがてらに銃でも撃つかと思ったんだが……」
 標的に描かれたいくつもの同心円、その中央にぽっかりと開いた穴を見やってヴァイが苦笑を浮かべる。事前に華蓮から話を聞いたときは何かの冗談かと思ったが、こうして実際に見せられてしまうと認めざるをえない。
「お前の横で銃を撃つ気にはならんな。下手な射手ではないという自信はあるが、あんな芸当は出来そうにない」
「はぁ……」
 苦笑混じりに肩をすくめるヴァイに、どう反応していいのかわからないというように大神が気の抜けた反応を返す。もう一度肩をすくめるとヴァイは壁に背を預け腕を組んだ。
「まぁ、滅多に見れない代物という意味では、お前の射撃を見るのも悪くないか」
「見世物では、ないんですがねぇ」
 口元に苦笑を浮かべつつ、大神が一旦は台の上に置いた銃を再び手に取り、弾倉をいれかえる。再装填を終えた銃を無造作に構えると、傍から見る分にはほとんど狙いもつけずに大神は続けざまに引き金を引いた。連続して響く銃声。ぼこっと的の中心に穴が開く。ひゅうっと小さく口笛を吹き、手を叩いて見せるヴァイの方へと大神が照れたような笑顔を向けた。
 と、大神が何か言いかけようと口を開きかけた途端、軋んだ音を立てて扉が開く。視線をそっちの方へと向けた大神へと、胸にファイルを抱えた華蓮がやや硬い表情で一礼した。
「非番のところ、申し訳ありません。大神少尉、任務の依頼が入りました」
「任務? って、また、外部依頼かい?」
 緋号部隊では独自に防諜活動を行うと共に、他の部隊からの依頼を受けて尋問を行うといったこともやっている。自前で捕らえてきた諜報員の尋問であれば担当者がいるはずだから、非番の人間をわざわざ駆り出す必要はない。まぁ、もっとも、大神の場合は人がいいというのか、頼まれれば本来自分の仕事ではない尋問も行うので何かの理由--例えば今やってる実験がいいところだとか--で担当者が仕事を回してきた可能性もあるが。
「はい、第二参壱部隊からの転送尋問です。容疑は反国家活動です」
 そう答えながら華蓮が胸元に抱えていたファイルを手渡す。ぱらりとファイルを開いて中に記された内容を見ながら大神が軽く首を傾げた。
「これは……もしかして素人、かな? 華蓮、もう実物は見てきたんだろう? どうだった?」
「素人でしょう。特に訓練を受けた形跡は見られません。まぁ、気は強そうですが」
「やれやれ……気軽にこっちに回されてもなぁ。こういうのはちゃんと向こうで処理してもらわないと」
「どう、しますか? 少尉が嫌なのでしたら、他の者に回しますが」
「ん? 担当の手が空いてないからこっちに回ってきたんじゃないのかい?」
 怪訝そうに首を傾げる大神に、華蓮が真面目な表情で首を振る。
「いえ、まず少尉の意見を聞いておきたかったので。ちなみに、今日の担当官は相馬少尉です」
「彼、か……素人相手に彼じゃ、ちょっと可哀想かな。ちょっとやりすぎる感があるし……分かった、こっちで処理しよう。準備を頼む」
「分かりました。どのようなやり方で?」
「ん~~、ま、素人さんにあんまり酷いこともするのもなんだから……羽責めでもしようか」
「では、準備をしておきます。前処理は?」
「任せる」
「はい」
 はきはきと応答し、華蓮が大神に一礼して部屋から出て行く。今まで黙って二人の会話を聞いていたヴァイが壁から背を離した。
「仕事熱心で、結構なことだな」
「あはは……。まぁ、別に大した罪を犯したわけでもない素人を相手に、酷い拷問をするのもなんですからね。相馬少尉は腕はいいんですけど、結構過激ですから。彼に任せておくと可哀想な結果になるんじゃないかな、と。
 あ、ところで、ヴァイは見学していきますか? 今日やるのは、どちらかというと馬鹿馬鹿しい系統の拷問なんですけど」
 頭を掻きながら肩をすくめると、ふと思い出したように大神がヴァイへと問い掛ける。ぎゅっときつく眉を寄せ、ヴァイが大神のことを睨んだ。
「馬鹿馬鹿しい?」
「あ、誤解しないでくださいね。別にふざけてるわけじゃないですし、結構効果的な拷問ではあるんです。ただ、見た目がちょっと……」
「ふぅん? まぁ、見てみるか」
「そうですか。まぁ、前処理の関係もありますから、とりあえずちょっと早いですけど食事にしましょうか」
「前処理、か。あれもちょっとな。あまり俺の好みではないが……」
「私だって、別に好みではないですけどね。あれを楽しみにしている兵士も結構いますし、無理にやめさせなければならないということもないでしょう。確率は低いとはいえ、あれで自白する奴がいないわけでもないですしね」
「まぁ、な……」
 ふんっと不機嫌そうに鼻を鳴らしたヴァイへと苦笑を向けながら、大神は扉を開けた。

「う、うう……あ、あなたたちには、人の心ってものがないの!?」
 X字型の張りつけ台に手足を拘束された女が悔しげに表情を歪めて部屋に入ってきた大神たちへと罵声を浴びせる。ふんっと小さく鼻を鳴らすと、無言のまま大神が女の前まで足を進め、無造作に平手打ちを放った。
「きゃあっ」
「非国民が偉そうな口を叩くな。お前は、こっちの質問に答えていればいい」
 頬を張られ悲鳴を上げる女へと、冷徹な口調で大神がそう告げる。唇を震わせる女へと大神は唇の端に笑みを浮かべて問い掛けた。
「さて……お前は国家に対して反逆の意思あり、との報告を受けている。それは事実か?」
「私はっ……! 間違ったことをしてるから間違ってるって言ってるだけよっ! きゃあっ」
 再び大神が女の頬を張り飛ばし、乾いた音と女の悲鳴が響く。頬を赤く晴らして涙ぐむ女へと、大神が淡々とした口調で言葉を続けた。
「質問にだけ、答えろ。では、次の質問だ。お前の仲間たちはどこにいる?」
「だ、誰が、そんな質問に答えるもんですかっ」
 大神の問いにそう叫び返し、女は次に来るであろう痛みに対して身構える。だが、彼女の予想に反して大神は彼女を殴ろうとはせず、視線を肩越しに華蓮の方へと投げかけた。
「華蓮、あれを」
「はい」
 小さく頷いて華蓮が脇に抱えていた小箱を開き、その中から大きめの鳥の羽を取り出して大神に手渡す。自身も羽を手にすると、華蓮はX字型に拘束された女の左斜め前に足を進めた。
「な、何をする気なの? ひゃっ!? あはっ、あははははははははっ!」
 華蓮の手が伸び、女の脇の下へと羽を這わせる。くすぐったさに不自由な身体をよじって笑い転げる女へと、大神が薄く笑いを浮かべながら羽を伸ばす。
「ひゃっ、ひゃめっ、あひゃひゃひゃひゃっ、ひーひっひっひっひっひ、あーっはっはっはっはっは」
 左右の脇の下をくすぐられ、女が髪を振り乱して笑い転げる。その光景を、呆れたような表情を浮かべて眺めていたヴァイが、気の進まなさそうな感じで大神へと問い掛ける。
「大神、これが、その?」
「ええ、馬鹿馬鹿しいでしょう?」
 ヴァイの方へと顔を向け、苦笑を浮かべて見せる大神。その間にも、彼の手は羽を操り、女の脇の下をくすぐりつづけている。無言のまま華蓮は、さわさわと肌の上をくすぐりながら女の乳房の方へと羽を動かしていく。
「呆れてものもいえん。こんなことをして、一体何の意味がある」
「あはははははっ、あーっはははははっ、ひゃめっ、ひゃっ、ひゃはははははっ、ひーっひっひっひひ、あはははははははははっ」
 さわさわと肌の上を這いまわる羽の刺激に、女が笑い転げる。涙、鼻水、涎と垂れ流しにして、身体をくねらせてひたすら笑う。右手に握った羽で女の乳房をくすぐりつつ、華蓮は左手で更に女の脇腹の当たりをくすぐり始めた。それにあわせるように、大神も左手を女の太股の辺りに這わせ、くすぐる。
「はひゃひゃひゃひゃっ、ひゃめ、アはははははっ、アはははっ、ごほっ、げほげほげほっ、あ、あーっはっはっはっはっは、ひゃめてっ、死んじゃ……あーっひゃっはっはっは」
「大神」
 自分の言葉に答えず女をくすぐっている大神へと、不機嫌そうな声をヴァイが投げかける。右手の羽で太股の辺りを、左手で首筋のあたりをそれぞれくすぐりつつ、大神が苦笑を浮かべた。
「ああ、すいません。えっと、ヴァイ。水責め……吊るしておいて水に漬けるタイプの方ですけど、あれは拷問としてどう思います?」
「ん? どういう意味だ?」
「あひゃっ、あーっはっはっはっは、ひゃめて、あひゃっ、ひゃひゃひゃひゃひゃっ、あーっはっはっはっはっは」
「拷問として有効かどうか、という意味ですけど」
 怪訝そうなヴァイへとそう応じつつ、大神は休むことなく両手を動かして女をくすぐる。ずっと黙ったままの華蓮も同様に休むことなく両手を動かして女をくすぐり、脇の下、脇腹、乳房、原、太股、首筋……その他あらゆるところをくすぐられ続けている女は恥も外聞もかなぐり捨てて引きつった笑い声を上げ、身をくねらせる。
「うひゃひゃひゃひゃっ、ひゃめっ、そこはっ、あーっはっはっはっは、ひゃめてぇっ、あはははははっ」
「それは、まぁ、有効だろう。水に漬けられた相手は息が出来ず、窒息する苦しさと死への恐怖で痛めつけられる。だが、それがどうかしたのか? 俺は、今やってるこれに何の意味があるのかと聞いているんだが」
「ひゃだっ、ひゃめ、あーっはっはっは、もう、あはははははっ、ひゃはははははっ」
「これも、見た目は馬鹿馬鹿しいですけど、効果は似たようなもんなんですよ」
「ひーっひっひっひっひっひ、ひゃはははははっ、あーっはっはっはっは、うぇ、げほげほげほっ」
「これが? 水責めと似たような効果?」
「げほっ、も、もう、ひゃめ……あーっはっはっはっはっは、ひゃめてぇっ、あひゃひゃひゃひゃっ」
「笑っている間は息を吐き出し続けているわけですからね。まるっきり吸えない訳でもないですけど、実質的に首を締められたり水に漬けられたりして息が出来ない状態と大差ないんですよ」
「あははははっ、ひゃーっはっはっはっはっは、げほげほげほっ、ひゃだ、もう、あーっはっはっはっは」
「ふぅん……」
「ひゃひゃはあひゃははっはっは、うひゃひゃひゃひゃっ、あーっはっはっはっは、ひーっひっひっひっひっひ」
 身をよじり笑い転げる女の姿を見やり、ヴァイが首を傾げる。言われてみれば確かに苦しそうにも見えなくはないが……。
「ぶわっはっはっはっは、あははははっ、あひゃひゃひゃはーっはっはっはっは」
「やはり、馬鹿馬鹿しいな……」
「あーっはっはっはっは、きゃははははっ、ひゃはっははははっ、ひゃーっひゃははははははっ」
「まぁ、拷問らしくないのは確かですが。さて、そろそろか。華蓮?」
「はい」
 ヴァイの呟きに肩をすくめて応じ、くすぐりの手を止めると大神は無言のまま女をくすぐっている華蓮へと声をかけた。小さく頷いて華蓮が手を止め、くすぐりから解放された女ががっくりと首をうなだれさせる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「くすぐられた感想はどうだ? 素直に仲間の居場所を話せばよし。話さなければ、もう一度くすぐるが?」
「う、あ……こ、こんなことで、喋るとでも……ひいっ」
 荒い息を吐いている女へと大神が問い掛ける。弱々しく顔を上げ、強がりを言いかける女の脇腹をつつっと華蓮が羽で撫でた。びくんっと身体を震わせ、引きつった悲鳴を女が上げる。
「そうか、では、もう少しくすぐるとしよう」
「ひっ!? あはっ、あははははっ、あはははははははははっ! いやっ、やめてっ、あーっはっはっはっはっは」
「喋れば、止めてやるさ」
「ひーっひっひっひっひ、あはっ、あははははははっ、きゃはははははっ、はっ、あははははははっ、やめっ、あはははははっ」
 涙を流し、身をくねらせて笑い転げる女。酷使された腹筋がずきずきと痛み、笑い続けているせいで満足に息も出来ず今にも窒息死してしまいそうなほどの地獄の苦しみを味わっているのだが、どれほど苦しいのか笑い続けているその姿から想像するのは困難だ。
「ひゃうっ、ひゃふうっ、ふひゃはははっ、ひゃはははははっ、ひゃめっ、そこっ、あーっはっはっはっはっは」
 さわさわと羽が女の乳首や肉芽を軽く撫でる。びくっ、びくっと身体を痙攣させる女の姿を見やりながら、大神がヴァイへと向かって言葉を放つ。
「ちなみに、このくすぐり責めは全身の感覚を敏感にする効果もあります。ですから、発展系として針責めを複合させることもありますね。華蓮?」
「はい」
 大神の言葉を受けて華蓮が一旦くすぐりの手を止め、腰につけた小箱から針を取り出す。羽で擦られ、ぴんとしこりたった女の乳首を指で摘むと、華蓮は無造作に針で横に貫いた。
「ヒギイイイイイィッ!? ひゃはっ、ひゃひゃひゃっ、あーっはっはっはっは」
 乳首で針を貫かれる痛みに絶叫を上げた女だが、大神の手と羽が彼女の身体を容赦なくくすぐり、再び笑い声を上げさせる。無言のまま華蓮が二本目の針を取りだし、さっき貫いた針と直角に交差するように再び女の乳首へとつきたてた。
「ヒギャハアアアアァッ!? い、いたっ、あははっ、あははははっ、あーっはっはっはっはっは」
 ちょっとした刺激にも敏感になっている乳首を針で貫かれ、女が絶叫する。だが、苦痛に歪んだ表情を見せたのはほんの僅かな間だけで、すぐに全身をくすぐられて笑い転げる羽目になる。
「あははははっ、ひゃはははははっ、ひーっひっひっひっひっひ、あはははっ、きゃはははははっ」
 身をくねらせて笑い転げる女。その乳首へと華蓮が細い糸を巻きつける。更にその糸の先端に小さな錘を吊るすと、巻きつけられた糸が乳首を十字に貫通した針に引っかかるような感じで乳首を強く引っ張る。
「い、いたっ、あははははっ、ひゃめてっ、あーっはっはっははは、くすぐっ、あははっ、痛いっ、あはっ、はははははっ」
 くすぐられ身をよじればぶら下げられた錘が揺れ、乳首に激痛が走る。かといって執拗に全身をくすぐる羽と指は、我慢しようとしても出来るものではない。痛み、苦しみ、くすぐったさ……三つが混ざり合って女を責めたてる。
「ヒグウウウウウゥッ!? あひゃっ、ひゃめてっ、もう、ひゃはははははっ、あーっはははははっははは」
 もう片方の乳首へも、華蓮が針を突き立てる。激痛に叫び、身体を一瞬硬直させる女。つうっと大神の指が彼女の脇腹を撫で上げ、羽が顎の下の辺りをくすぐる。さんざんくすぐられた身体は異常に敏感になり、どこに触れられてもくすぐったさを感じてしまう状態になっていた。我慢できないくすぐったさに笑い転げる女の身体が噴出した汗でぬめぬめと光る。
「ハガアアアアアアアァッ!? ひっ、あひゃひゃひゃひゃっ、やめてっ、死ぬ、死んじゃ……あーっはっはっはっはっは」
 十字に交差するように乳首に針が突き立てられる。悲鳴を上げて目を剥く女の身体を更に大神がくすぐり、彼女の口から笑い声を溢れさせる。そちら側の乳首にも糸を巻きつけ、錘を吊るすと華蓮は再び羽を手に取った。
「あひゃひゃひゃひゃっ、あーっはっはっはっはっは、ははははははっ」
「ひーっひっひっひっひ、きひゃひゃひゃひゃっ、ひっひっひいいいいぃっ」
「ぶわはははははっはははっ、あーっはっはっはっはっは、ははははははっ」
 二人がかりでくすぐられる女が、狂ったように身体をのたうたせて笑う。両乳首に吊るされた錘が激しく揺れ、激痛を走らせるのもお構いなしだ。というより、そんなことを考えている余裕などどこにもない。
「あひゃひゃひゃひゃっ、ひゃめてっ、狂うっ、狂っちゃう、あーっはっはっはっはっは」
「痛いっ、あはははははっ、あーっはっはっはっは、痛いぃっ、あっはっはっはっは」
「うひゃひゃひゃひゃっ、あーっはっはっはっは、ひゃめてよっ、もうっ、あーっはっはっはっはっは」
 半ば白目を剥きかけ、女が笑いつづける。彼女の足元にかがみこみ、華蓮が指と羽とで足の裏をくすぐる。彼女の背後に回った大神が、左右の脇腹を撫で上げ脇の下を集中的に責める。
「ひゃべるっ、あーっひゃっひゃっひゃっひゃ、ひゃべるからぁっ、ひぃーっひっひっひっひ、もうひゃめてぇっ、あーっはっはっははははははは」
 涙と鼻水と涎とで顔をべちゃべちゃにして、女が叫ぶ。もっとも、笑い転げながらだからその発音は不明瞭で、笑っているのか喋っているのかよく分からないという状態だが。
「ん? 喋る気に、なったのか?」
 女が最初に叫んでからなおもしばらくくすぐりを続けていた大神が、何度目かの女の叫びを耳にして首を傾げる。もっとも、そう問い掛けつつ彼の両手は女の身体をくすぐりつづけているのだが。
「ひゃべるっ、あーっははっはは、ひゃべりまふっ、うひゃひゃひゃひゃっ、ひゃから、あひゃひゃひゃはっはっは、もうひゃめてぇっ」
「そうか、喋るか。華蓮」
 小さく頷いて大神が手を止め、華蓮を制止する。はぁはぁと荒い息を吐く女の前髪を掴んで仰向かせると、その目の前に羽をかざして笑いかける。
「質問には、すぐに答えろ。さもなければ……分かるな?」
「ひゃ、ひゃい……」
 さんざん笑いつづけていたせいで顎が麻痺しているのか、不明瞭な発音で女が答える。彼女の瞳に紛れもない恐怖の色が浮かんでいるのを確認し、大神は手際よく質問をしていった。

「やれやれ。予想通りとはいえ、ちょっと虚しくなりますよねぇ」
 尋問を終えた大神がとんとんと肩を叩きながらそうぼやく。結局のところ、彼女から聞き出せたのは彼女と同じような意見を持つ人間の名前とその住所、その程度のものでしかなかった。別に武器を集めて暴動を起こそうとしていたわけでも、誰かの暗殺を企んでいたわけでもない、言ってしまえば不平屋の集まりに過ぎなかったというわけだ。
「で、どうするんだ、この後始末は?」
「一応、書類は何枚か書く羽目になるでしょうけどね。多分彼女の尋問はこれで終わりです。まぁ、向こうの部隊の隊長さんの性格にもよりますが」
 苦笑を浮かべつつそう言うと、大神は大きく伸びをした。
「まぁ、本職の諜報員を相手にぎりぎりのしのぎあいをすることを考えれば、今日みたいな簡単な件は息抜きって感じですかねぇ……」
TOPへ
この作品の感想は?: