中川典子の悲劇

作:園田大造さん

 中川典子はいきなり銃で撃たれた右足を引きずりながら、藪の中を死に物狂いで逃げていた。逃げるしかなかった。何しろ武器と言えば今まで手にしたこともないブーメランが一つ、使い方も分からなかったし、分かったとしても銃やナイフと戦える訳がない。それに典子はクラスメートたちと戦う意志もなかった。もちろん戦わなければ、最後の一人にならなければこの島から生きて出られない事は分かりすぎるほど分かっていた。それにこの島のシステムがほぼ完璧であることも、そして生き残ることができれば一生が保障されていることも、クラスメートたちの多数がそれを目当てに自分の命をも狙っていることも理解していたが、それでもこの少女に戦う意志はなかった。
 中川典子は国語、特に作文が得意なほかは成績に特に言うほどのことはない。大人しく控えめな性格が災いしてか、肩まである髪も良く似合っていて、小柄な体も黒目がちな目も、よく見ればとても可愛いのに、それにとてもやさしくてちょっとお茶目なのにクラスの中で完全な『いじめられっ子』キャラとして定着してしまっていた。そんな典子がもしゲームに血なまこになっている誰かに見つかればどんな恐ろしいことになるか、典子自身はそんな事はちっとも考えていなかった。
 そして必死で考えていた。絶対に、絶対にみんなで助かる方法があるはずだ、三日の内にそれを知ることができるはずだと。そのためにも私は生き延びなければならないと。そして何より怖かったのだ。自分に人殺しができると言うことを知ることが。例えその相手が大好きな七原君でも。そしてぼんやりと修学旅行の前に彼のためにクッキーを焼いたこと、もし七原君とばったり出会ったら、一体どうしようか、などと考えていた。もちろん行く手でじっと自分を待ち構えている二つの目があることなど、知りはしない。

 典子の首筋にいきなり鎌が押し当てられたのは、大きな木の脇を通り過ぎたその時だった。「ヒィッ…。」「ふふ、最初の獲物が典子とはラッキーね。私、前からお前がちょっと気に入らなかったんだから。」小さく悲鳴を上げる典子の耳に、聞きなれた一人のクラスメートの声が飛び込んでくる。その声は美しい、けれども凄まじいまでの冷酷さが潜んでいることは典子にはすぐに分かった。もちろんその声の主も。「相馬…相馬さん。」典子は小さく呟いていたがその声は恐怖に細かく震えていた。
 相馬光子は典子など及びも付かないクラスではもちろん、学校でも随一の美少女だった。ただ単に顔立ちが整っている以上に、中学三年で大人の美しさを体現している美少女というよりもう立派な美女で、同性の典子でさえぼうっとなることもある。しかしそれ以上に有名なのは、この相馬光子が学内の不良のリーダーだということなのだ。その美しさに似ず、人間らしい感情がやや欠落しているところがあって、それに典子に余り良い感情は抱いていないのは典子にも良く分かっている。それだけにこの光子が自分をどんな目に合わせるのか、それを思うと典子の体は自然に震えてくる。「ふふっ、お前だったらさぞ良い餌になってくれるよね。ねぇ、典子。ところでね…、」そんな典子に光子は残忍な笑みを満面に浮かべて話しかける。

 「本当なら裸にしてやったり色々やりたいけど、あんまりぼやぼやしていればこっちだって命が危ないからね。」手近にあった蔓草で木の枝から、白のブラウスもベージュのスカートのままで両の手首で吊るしてしまった典子に光子はいよいよ残忍な光を目に宿して話しかける。「いやぁっ…ああっ…あああ…相馬さん何をするの…何をする心算なの…いやぁーっ。」一方、爪先が地面から七、八十センチもの高さにつられた典子は手首で体重を支える苦痛に可憐な顔を歪めて訴えるが、典子がやや小柄な少女だけにその様はなんとも痛々しい。「これからお前に泣き叫んで貰って、精々獲物をおびき寄せてもらおうって訳。前から私、いかにも私可愛いですって顔つきのお前が気に入らなかったからちょうど良いよね。」しかし光子は無造作に言うと手にした鎌を横に払う。
 と同時に典子のまだ初々しい乳房は左右同時に、乳首のやや下あたりでブラウスごと横に切り裂かれてしまう。「ギャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…ウヒャアアアーアッ…ああう…痛いーっ…助けて…痛いーっ。」傷は結構深く、ブラウスが、ブラジャーが切り裂かれて断面から黄色い脂肪の層を晒して、典子は両手で吊るされた体を仰け反らせて絶叫し、たちまちブラウスは鮮血に赤く染まっていく。「そうそう、そうやってたっぷり良い声で泣いて獲物を呼び寄せて頂戴。」しかし光子は楽しそうに言いながら苦悶する典子の体が後ろを向いた時、再び鎌を一閃させて、ベージュのスカートに包まれている可愛らしい尻を横に切り裂く。
 「ヒギャアアアーアッ…ヒイイイィーイッ…助けてぇーっ…痛いッ…ああう…アギイイイィーイッ…誰かお願い助けてぇーっ。」たちまち左右の臀丘も半ばむき出しになって鮮血を溢れさせ、典子はいよいよ無残な声を張り上げて空中でのた打ち回らねばならない。「本当だったらせっかくお前を捕らえたんだ。もっと色々やってやりたいけど、こんなところでそんなとやってたら、マジでこっちの身が危ない。ま、精々そうやって泣き叫んで獲物の注意を集めてよね。」しかし光子はそんな典子に楽しげに言うと、血に染まった鎌をてに手近な藪の中にごそごそと潜り込んでしまう。

 そうだ、みんながみんなで殺しあっているこの状態で泣き叫んでいる事って、自殺行為に等しいんだ、さすがに典子はそれに気付くと泣き叫ぶ事をやめ、代わりに項垂れたまま激しい苦痛にすすり泣き始める。ここはちょっとした広場のようになっていて見通しが利くから、藪の中から自分を見つけ狙うのには雑作もない。体重を支える両腕と鎌に切り裂かれた乳房や尻には激痛が走るが、哀れな少女は歯を食いしばってそれに耐えている。しかしクラスメートのほぼ全員が血眼になって殺しあっているこの状態で、両手で吊るされているというこの状態がどんなに恐ろしいかは、人並みに頭が働けば典子にも十分に分かっている。
 もし誰かに見つかれば、その時には間違いなく殺されてしまう。精一杯訴えたらもしかしたら…、だめ、それでもあの恐ろしい相馬さんに殺されちゃう。もしかしたらその人も一緒に、ああっ…ああっ…、どうしてこんなことになってしまったの。なにが悪かったの。どうして…どうして私がこんな目に。お父さん、お母さん、典子を助けて。典子はまだ死にたくない。一発の銃声が響いたのはその時だった。

 その瞬間、両手で吊るされていた典子のブラウスの脇腹の処に穴が開き、新たな鮮血が溢れ出す。「ヒャアアアーアッ…ああっ…ヒャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…痛いーっ…ぐあうっ…お願い痛い…助けてぇーっ…お願い助けてよう…。」そして同時にかわいらしい唇から無惨に絶叫が迸り、空中に吊られている体が激しく引き攣りのた打ち回る。銃弾は小さく、そのため貫通するには至らなかった事がより苦痛を大きなものにするのだろう、そのため典子は空中で吊られたまま、のた打ち回って泣き叫んでいる。声を出すともっともっとついさっきまでクラスメートだった殺人者たちが集まってくる、そう分っていてもその凄まじい激痛に泣き叫ばずにいるなど不可能だった。しかも二発目の銃声が轟くと同時に、スカートの左の腿の付根辺りに穴が開いて鮮血が吹き出す。
 「キイイイィーイッ…ヒイイイィッ…ウギャアアアーアッ…うああっ…ウギャアアアーアッ…痛いよーっ…助けて…キィエエエーエッ…お母さん助けて…痛いよーっ。」銃弾はきっと左の足の付根を砕いたに違いない、左足そのものはだらりと垂れ下がってしまうが、吊るされている典子の体そのものは悲痛な絶叫哀願とともに、無惨に引き攣りのた打ち回る。その時だった。藪の中から何か格闘するような音がするとともに、男子の物らしい呻くような声がする。「やったわ、典子。コルト・ガバメントゲットよ。」やがて藪の中から刃ばかりか柄までも真っ赤に染めた鎌を片手に、もう一方の手に小型の自動拳銃を手にした相馬光子が現れる。「これはお前の分け前だよ。遠慮なく受け取りな。」そして吊られたまま泣き叫んでいる典子に楽しそうに言うと、腿の付け根が砕かれた左足の膝に一発銃弾を打ち込み、囮がさらに多数の獲物を呼び寄せるためにさらに無惨に泣き狂わせる。

 「やめて…千種さんお願い来ないで…あぐあう…あうう…千種さん来ちゃだめなの…お願い…お願い来ないで…。」無惨に切り裂かれて銃弾で血塗れになって吊るされている典子は、アイスピックを両手で構えて近寄ってくる千種貴子に懸命に訴えていた。光子とその美貌を競うほどの美人で陸上部のエースの貴子は、きっとまだ誰も殺していないのだろう、全身小刻みに震えながらも、一歩一歩踏み締めるように自分に近づいてくる。典子は貴子に殺されるのはいやだったし、それ以上に貴子がどこかに隠れて狙いをつけているはずの光子に殺されるのも見たくはなかった。しかし貴子はどうして典子がここでこんな姿になっているのか判断する力も失ったかのように、憑かれたような目をして典子に近づいていく。
 そしてそのアイスピックが力一杯突き出され、それは無惨に典子の鳩尾に突き刺さる。「ぐわうっ…ぎぐうあっ…ウギャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…痛いよーっ…助けて千種さん…はがう…痛いよーっ。」またも内臓をえぐられる激痛に典子は全身を仰け反らせて絶叫し、貴子は顔を強張らせたままアイスピックを引き抜こうとするその瞬間だった。銃声が響くと同時に美しかった貴子の顔の右半分が、無惨に泣き叫んでいる典子の目の前で弾け飛ぶ。「ヒイイイィーイッ…ヒイイイィッ…アヒイイイィーイッ…。」典子の口から苦痛とはまた違った悲鳴が迸る中、貴子はその美貌をグロテスクに砕かれてそのまま地面に崩れ落ちてしまう。典子はなおも無惨に泣き叫んでいるが、光子は用心深くその姿を現さない。

 「おやおや、えらく元気がなくなってきたじゃない。どうしたの。」藪の中から現れた光子は、全身を苛む激痛にぐったりと項垂れ喘いでいる典子の顎をつまんで顔を持ち上げながら面白そうに訊ねるが、もう彼女はそれに応じることもできない。ここにこうして吊るされてからどのくらいな時間がたったのだろう。三十分かもしれないし、三時間かもしれない。自分の足元には千種貴子が倒れていたし、小さな広場の片隅では新井田博が倒れている。言うまでもなく相馬光子が何事かと不用意に近づいてきたのを撃ち殺したものだが、光子はその死体を一応改めたものの、小さく舌打ちしてどこかに隠れてしまった。ともあれ光子はもう三人の級友を殺している。そして囮としての役に立たないとなれば、自分もやがて…。
 「役立たずになったら殺すしかないけど、さあどうかしら。」そう言いながら光子はまだしつこく持っていた鎌で、ブラウスの上から右の乳房を縦に切り裂いて、さらに左乳房までもやや斜めになってしまったがやはり縦に切り裂いてしまう。もちろん典子は堪ったものではない。「ヒャアアアーアッ…ぎあうっ…ギヒャアアアーアッ…ギャアアアーアッ…痛いーっ…痛いーっ…助けて…ヒャヒギイイイィッ…ヒイイイィーイッ…お願い誰か助けて…。」ぐったりとなっていた体を捩らせて、典子の恐ろしい絶叫が木立の間をこだまする。「おやおや典子、けっこう頑張るじゃないか。これならまだまだ囮となって…。」光子がうれしそうに言ったその時だった。突然飛来した矢が光子の左肩に突き刺さる。
 「畜生。」光子は口汚く罵ると鎌を腰に差して、とっさに吊るされている典子を楯にして木立の間を窺う。この場合、攻撃側は慎重を期して確実に狙える位置に移動するのが定石だろうが、射手はその場から立て続けに矢を放ち、それは当然光子が楯にしている典子の体に命中する事になる。矢と言ってもボウ・ガンタイプの物だろう、狙いは割と正確だが、しかし楯からわずかに覗く光子に当てる事ができるほど正確ではない。しかも足を狙わず上半身を狙うから矢は光子に聞こえるほどの鈍い音を立てて、まず典子のへそのあたりに突き刺さり、続いて下腹部に、左腿にと次々に突き刺さる。「ギィエエエーエッ…ヒイイイィーイッ…ヒギイイイィッ…痛いーっ…いやだ…痛いよーっ…うがあっ…ウギャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…うわああっ…ウギャアアアーアッ…。」典子は自分の体に突き刺さる矢を大きく見開いた目で見詰めながら、やはり恐ろしい声で絶叫しながら全身をのた打ち回らせねばならない。
 「ふんっ、楯ならもうちょっと静かにしててよね。それに血塗れで汚いったらありゃしないんだから。」光子はしかしそんな典子を楯にしたまま手前勝手な文句を言っているが、目はしっかりと藪を見据えている。次の矢は典子と光子の体をかすめて背後に飛び去り、次の矢が右の腿の付け根を抉って、人間楯が無惨な声を張り上げた時、ようやく射点をつかんだ光子は藪に向かって立て続けに三回コルト・ガバメントの引き金を引き、銃声が轟くと同時に男子生徒の物らしいぐわっと言うような絶叫が聞えてくる。
 「どうやら…やったかな。」光子はなお慎重にその矢の射点に狙いを定めていたが、自身でも手応えを感じていたのだろう。銃をその射点に向けて慎重に構えたまま、戦果を確認するためにその場所に歩み寄っていく。或いはボウガンそのものに奇襲兵器としての魅力を感じたのかもしれない。しかし距離を半分余りに詰めた時、「畜生」という声とともに引き金を引き、銃声が起ると同時に腹に矢が尽きたってがっくりと体を折って蹲るように倒れてしまう。とその直後、藪をがさがさ言わせながら現れた熊のような男は図体の割りには気が弱く、皆から苛められている赤松義雄だった。赤松は『大丈夫』とでも言うように、地面に蹲ったように倒れている光子の傍らにしゃがみ込み様子を窺おうとするその瞬間、蹲っていた光子の右手が腰に差していた鎌を一閃させてその首に突き刺さっていた。赤松は信じられように目を見開いていたが、鎌が突き刺さったままの首から血飛沫を迸らさせながら、声もあげ得ず地面をのた打ち回り始める。
 一方、至近距離から腹に矢を受けた相馬光子も相当な深手なのだろう。美しい顔を無惨に歪めて立ち上がると、拳銃を握り直して吊るされて無惨に泣き叫んでいる典子に歩み寄っていくが、その顔は元が美しいだけに凄絶、凄惨、なんとも言い様がない。「どうやら私だめみたい。でも一人では死なないんだ。一人では死なないんだから。」その唇からはそんな言葉が漏れている。もちろんその意図は明らかだ。光子は典子を道連れにしようとしている。「助けて…いやっ…いやだ…ぐあうっ…うああ…死にたくない…死ぬのはいやだ…はがああっ…お願い死にたくない…。」典子の顔が恐怖に引きつって必死の声で許しを乞う。
 しかしよろめくような足どりで囮の処に戻った光子は目を輝かせながら手にしたコルト・ガバメントの銃口をそんな典子の額に押し当てる。発砲したばかりのそれは火傷をしそうなほどに熱く、典子の顔は恐怖に引きつる。光子はそんな典子の表情に美しい顔を醜く歪めて引き金にかかっている親指に力を込め、そして引く。しかし典子と光子の予想に反しカチッと言う音がするだけで何も起らない。弾がなかったんだ、光子の顔にしまったというような、典子の顔にはあっけにとられたような表情が浮かんだ次の瞬間、新たな銃声が広場に轟く。

 呆然と目を見開いている典子の足元で相馬光子はのた打ち回って苦悶していた。「ぐわうっ…ウギャアアアーアッ…うあうっ…苦しいよう…痛いよう…ヒャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…お願い助けて…痛いよう…。」腹に矢を受けて、さらにほぼ同じところに銃弾を受けて体は鮮血にまみれている。とは言え全身に五本の矢とアイスピック一本、四発の銃弾を受けている上に光子に鎌で切り刻まれている典子に比べたらダメージは軽いはずだが、そんな事に構ってはいられない様子だ。一方、赤松は赤松で全身を断末魔にひくつかせている。そこに現れたのは桐山和雄と黒長博の二人で、典子はもちろん光子や赤松の顔まで恐怖に引き攣る。案の定桐山は腰から小型の自動拳銃を抜くと、その恐怖に強張る表情に笑みさえも浮かべてまず赤松の、続いて光子の額に次々に銃弾を打ち込んで息の根を止めてしまう。
 
 桐山和雄は美少年だった。それこそ絵にかいたような美少年であり、その上運動神経も抜群なら頭脳もびっくりするくらいなほどに優秀で、どこからどう見ても文句の付けようもない生徒のはずだった。が彼は不良であるばかりか、学校はおろか付近一帯の不良を仕切っていると言われるリーダー的な存在だった。学校内ではやはりクラスメートのこの黒長博ともう一人沼井充の二人を従えていたが、肩で風を切って闊歩していたのならともかく、真面目に授業を受けたりしていたから益々気味悪がられていた。沼井が居ないのはもう殺されてしまったか、それともさっさと武器を奪うために桐山が殺してしまったか、桐山はそんな事さえやりかねない生徒なのだ。やっと悪魔から解放されたと思った典子は、また新たな悪魔の手で苛まれなければならないのだ。
 「助けて…ぐあああ…うああっ…痛いよう…桐山君助けて…ヒイイイィーイッ…ヒイイイィッ…ギヒイイイィーイッ…お願いです…お願い助けて…。」それでも典子は死に物狂いで哀願していた。許しを乞い助けを求めていた。しかしもちろんそれを聞き入れる桐山ではない。そうでなくても最期の一人になるまで殺し合う、そして最期の一人になればその一生涯は保証されるというこのゲームをもっとも素直に受け入れているのは、この桐山と彼がついさっき死骸にした相馬光子の二人なのだ。「相馬の奴、あの頭にしては中々面白いことを考えやがったな。」そんな典子の無残な姿を、そしてその周囲に散らばる他の三つのクラスメートの屍を眺めながら、桐山は残忍な笑みを浮かべて言う。
 「それでは早速我々も利用させてもらおう。黒長、見張っていろ。」桐山は従える黒長に命じると手にしている小型の自動拳銃を渡し、腰からも両刃のナイフを抜くといきなり、制服の、もう血に真っ赤に染まっている染まっているブラウスの胸元にこじ入れると、そのまま、既に光子の鎌にズタズタに切り裂かれているブラジャーごと真っ直ぐ縦に切り裂いてしまう。もちろんナイフは両刃だから彼女の肌も残酷に切り裂いて、さらに鎌で四つに切り裂かれているまだ膨らみきっていない初々しい、しかしその断面から黄色い脂肪の粒さえはみ出させている無惨な乳房もさらけ出される。「キャアアアーアッ…あああっ…ヒャアアアーアッ…いやです…いやだぁーっ…あがあうッ…ヒイイイィーイッ…桐山君助けて…いやぁーっ。」そして初めて目にした物の、まさかこれほどまで無惨な様相を呈していたとは思わなかったのか、典子もいよいよ無惨に泣き叫ぶ。
 「相馬にはあれで十分だったのかもしれないけど、僕の囮にはこんなのではまだまだ不十分なんだ。つまりは一目見たら一体これは何事だろうかって、後先構わず走り寄るような姿にならならないといけないんだ。」桐山はそう言いながら典子の背後に回ると、やはり光子の鎌に横一線に切り裂かれている彼女のかわいい尻にナイフを突き立て、今度は縦横無尽に切り刻み始める。「キャアアアーアッ…キャアアアーアッ…ぐあうっ…ウギャアアアーアッ…痛いわ…痛いーっ…キヒィエエエーエッ…栗山君やめてよう…お願い許して…キイイイィーイッ…桐山君助けてぇーっ。」もちろん肌をずたずたに切り刻まれる典子は狂ったように泣き叫び、いよいよ無惨にのた打ち回る。「おい、黒長。しっかり狙っていろ。囮をセットしている間にズドンでは洒落にならないからな。」その時、ふと顔をあげて桐山は銃を預けている黒長に気軽に声をかけるが、その顔に走る不思議な動揺を見逃さない。
 やがて典子の左右の臀部は膾のように切り刻まれ、スカートも下着も前に突き刺さっている矢で辛うじて体にへばり付いているだけになってしまうが、桐山はそれを毟り取るように奪い去って、典子をぼろぼろのブラウスとソックスと靴を履いたままの足以外はほとんど全裸にされてしまう。下腹部のまだ生えそろっていない若草やサーモンピンクの花弁まで晒されていて、美人ではないかもしれないが優しくておちゃめで可愛らしい典子の裸体は、恐らく普段ならば彼等が震い付きたくなるほど魅力的だったかもしれない。しかしその乳房は切り裂かれ、腹には矢やアイスピックが突き立ち、さらに何発かの銃弾が貫いて鮮血にまみれている。その姿は何とも無惨で、また典子自身ももう自分が裸になったことを恥ずかしがる余裕もない。「ぐああっ…グギイイイィーイッ…ヒイイイィッ…ひどいよう…痛いーっ…ヒィエエエーエッ…お母さん助けて…死にたくない…お母さん助けてぇーっ。」ただ無惨に泣き叫びのた打ち回るばかりだ。

 しかし桐山もただその裸体を楽しむためだけに典子を裸にした訳ではなかった。「おい、黒長、こいつの足を前から広げてしっかり固定しておけ。そう、その通りだ。」桐山は手近に転がっていた太さが三、四センチ、長さが1メートルほどの木の枝を拾い上げていう。そして黒長が拳銃を腰に差して前で典子の足首をしっかり握って両足を左右に広げるのを満足そうに眺めながら、その木の枝を典子の肛門に思い切り捩じ込む。節くれ立っている上、先端も爆ぜたようになっているだけで大して尖っていもいない木の枝だから、たちまち肛門が裂けろ続いて内臓が残酷に引き裂かれる。「ぐがうっ…グギャアアアーアッ…ウギャアアァッ…そんな…こんなのやめて…あがああっ…アギャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…桐山君助けて…痛いよーっ。」内臓をズタズタにされていく、そして体を串刺しにされていく激痛に、典子は無惨にのけ反って泣き叫ぶ。
 もちろん木の枝にも鮮血が幾筋も伝うが、桐山は容赦はしない。「おい黒長。もっとしっかり押さえていろ。」さらに何とか両足を閉じようと泣き叫ぶ典子に手を焼き、しかしそれでも懸命に足首を捕まえている黒長に声をかけながら、桐山はぐいぐい捩じ込むようにして枝で典子の体を貫いていく。全くぼやぼやとしていられない。ぼやぼやしていれば囮にする典子の回りの死体がまた二つ増えることになりかねない。もっとも自分の背後には木があり正面では黒長が体をこちらに向けているから、自分は奇襲を受ける心配のないのは計算に入れている。しかし典子にとっては地獄だった。
 「助けて…お願い助けてぇーっ…グギャヒイイイィーイッ…ギヒイイイィーイッ…イヒギィッ…痛いよーっ…痛いよーっ…グギャアアアーアッ…死…死にたくないよう、ギヒィエエエーエッ…お母さん助けて…えげげぇっ…アヒイイイィーイッ…ギギヒイイイィッ…死にたくない…痛いーっ…死にたくないよーっ。」内臓をズタズタにしながら木の枝が食い込む度、頭までも粉々になりそうな激痛が脳天まで貫くのだ。しかもそれは木の枝が一センチ食い込む度に凄絶な物となる。
 やがて典子のアイスピックの突き刺されている鳩尾のやや下あたりが不自然に膨らみ始めるが、桐山はいよいよ力を込めて木の枝を彼女の肛門へ通し込み続ける。「ヒャギャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…痛いーっ…桐山君やめて…お願いやめてぇーっ…うあうっ…ウギャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…桐山君助けて…いやっ…いやぁーっ。」典子の絶叫がいよいよ高くなる中、その部分はいよいよ不自然に盛り上がっていき、やがて内側から弾けるように避けてそこからにょっきりと姿を現したのは、鮮血に染まって腸らしい青い臓器の断片のような物をまとわりつかせた木の枝だった。「ようし、黒長、足を離していいぞ。」肯いた黒長は両足をしっかりと握っていた手を離したその瞬間だった。桐山の手には腰から引き抜いたナイフが握られ、黒長が腰の拳銃に手をやるより早く、それは黒長の頸動脈を切り裂いていた。
 黒長もまた信じられないように目を見開いて地面に崩れ落ちるように倒れ、桐山はその腰にさされたままの拳銃を引き抜いて自分の腰に差す。「お前程度の考えていること程度はお見通しだぜ。なあ典子。」桐山はついさっきまで手下に等しかったクラスメートの死体を靴で小突きながら、ついさっき自分が串刺しにしたクラスメートに声をかける。しかし典子はそのどちらも見てはいなかった。「ギギャアアアーアッ…ヒイイイィッ…ギヒイイイィーイッ…痛いよーっ…死にたくない…ぐわうっ…ハギイイイィーイッ…お母さん死にたくない…お父さん助けて…グヒャアアアーアッ…ギヒャアアアーアッ…ぎああっ…。」体を肛門から胸元まで、それも節くれ立った木の枝に串刺しにされた激痛にのどを震わせて泣き叫んでいた。
 しかしそれでも桐山には大した感情の変化はない。まあ泣き叫べば泣き叫ぶだけ獲物が集まってくるだろう、そんな顔付きだ。「仕方がないな。それでは死体を片付けないとな。相馬もアイデアは良いのに死体がこんなに転がっていれば誰だって警戒するのに。」しかしやがて桐山はあたりに注意を払いながら、散らばっている死体をまるで荷物でも扱うように藪の中に引きずり込む。もちろん赤松のボウ・ガンを、まだ七本あまり残っている矢とともに自分の物にする事を忘れないが、その死体を足を持って引きずりながらふと気付いて呟く。「しまった。黒長の奴、こいつをやらせてから殺すのだったな。」

 清水比呂乃は目の前にぶら下がっている物を面白そうに眺めていた。それはほとんど裸にされた上に両手で吊るされ、滅茶苦茶に苛まれた上に胸元から木の枝のような物を突き出してぐったりと項垂れて、凄絶な苦痛に無惨に、そして不様に泣き叫んでいた。そして懸命に訴えていた。「ヒガギイイイィーイッ…うあうっ…来ちゃだめ…清水さん来ちゃだめよう…ぐあうっ…ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…ヒイイイィーイッ…お願い来ないで…ああっ…いやだ…いやぁーっ。」もちろんそれは中川典子の無惨な姿だったが、比呂乃はそれが自分の右手にあるM19・357マグナムの所為だと信じていた。自動拳銃のそれは少女の手にはあまりに大きく、重く、その威力は想像するだに恐ろしい。それはいつも大人しかった典子には怖いだろう、比呂乃はほくそえんでいた。
 光子の一の子分的な存在であり、常に金魚の糞のようにその後に従っていたにしては度胸も十分にある比呂乃は自身に割り当てられたコルト・ハイウェイパトロールマンというリボルバーで旗上という男子生徒を倒してこの銃を奪っていたから、彼女は今銃を二丁も持っている。弾は無駄にはできないけど、こいつでこのマグナムの威力を確かめておくのも悪くない。「来ちゃだめ…殺されるわ…ヒイイイィーイッ…清水さん殺される…。」典子はまた訳の分らないことを言って訴えているけど容赦はしない。重たいけどこんなもの片手でだって扱えるんだ。比呂乃はしびれそうになる手でずっしり重いマグナムを支えて引き金を引く。
 比呂乃が狙ったのは腹のはずだった。しかしやはり銃そのものの重さのために銃口が下を向いてしまったのだろう。威力のありすぎるほどの銃弾は既に二発の銃弾を受けている左足の膝に命中し、そこから下を一発で吹き飛ばしてしまう。「グギャヒャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…があうっ…助けて…ガギィエエエーエッ…痛いよーっ…助けて…痛いよーっ。」さらに片足吹き飛ばされてしまった典子は息を吹き返したように泣き叫ぶが、絶叫は一つだけではなかった。「ギャアアアーアッ…ギャアアアーアッ…ギャアアアーアッ…手首が…私の手首が…痛いよーっ…ヒャアアアーアッ…痛いよーっ。」撃った比呂乃もまた右手首を押さえてのた打ちまわっていた。余りに強力な銃の、余りに強力な反動は一発で彼女の右手首を砕いてしまったのだ。だがやがて別な銃声が響いてその悲鳴のうちの一つが途絶える。桐山の銃弾が泣き叫んでいる比呂乃の頭部を貫いたのだ。やがて注意深く姿を現した桐山はマグナムとコルト・ハイウェイパトロールの二丁の戦果ににんまりと笑う。

 「ウオオオォーオッ。」突然、背後から雄叫びを上げながら飛び出してきたのは倉元洋二だった。そして両手で吊るされて無残に泣き叫んでいる典子に手にした短刀で思い切りきりつける。差し込む。もしそれがまともな短刀なら、典子はこの時点で絶命していたかもしれない。しかしその担当はいたるところ赤錆だらけで、刺してもまともに肌を突き通すこともできないし、切っても骨までも達しない。しかしこのことが逆に典子には地獄だった。「ギャアアアーアッ…やめてぇーっ…倉元君やめて…ヒャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…ひぎいいいぃっ…痛いーっ…お願いやめて…痛いーっ。」まるで鋸で全身を切り裂かれるような激痛に典子は木の枝に串刺しにされた体をのた打ち回られて泣き叫ぶ。
 しかし倉元は狂ったように典子の背中や、既に鎌やナイフに膾にされている臀部に無数に切りつけると、手で典子の体を正対させて胸や腹にさびた短刀で切りつけていく。幾ら錆びていても短刀だった。突き刺せば腹の皮膚を貫いて内臓まで達するし、切れば一センチ程度は軽く切り裂く。しかも錆びている事が激痛をいよいよ凄まじくする。「ギィエエエーエッ…ウギャアアアーアッ…ウギャアアアーアッ…痛いよーっ…お願い殺さないで…うぎひいいいぃっ…痛いーっ…痛いーっ。」典子は狂ったように泣き叫ぶが、倉元は或いはこの極限状態に耐え切れず狂っていたのかもしれない。目を血走らせ、何か訳の分からないことを呟きながら錆びた短刀で典子をさらにずたずたにしていく。
 「ヒギャアアアーアッ…ぐあうっ…グギャアアアーアッ…痛いよーっ…倉元君痛い…ヒィエエエーエッ…ぐがあっ…グヒィエエエーエッ…お願い助けて、いやぁーっ…ヒャギャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…ひひいいいぃっ…殺して…お願い殺して…痛いよーっ…ウギャアアアーアッ…死んじゃうよう…。」ついに典子の口からその言葉が迸る。その言葉が自分を殺してくれと言っているのか、それともどこかに隠れているはずの桐山にこの狂ったクラスメートを殺してくれと言っているのか、もう典子自身にも分からない。しかし典子自身の体が邪魔になるのか、桐山は中々発砲しない。結局、倉元が血染めの短刀を手に絶命した時、吊るされている典子の体は全身無数の切り傷に覆いつくされ、ぐったりと項垂れて喘ぐだけになっていた。

 突然、びっくりするほど大きな銃声が轟く。そう、隠れていた桐山さえびっくりほど大きな銃声だった。「ヒャギャアアアーアッ…ヒャアアアーアッ…アヒャアアアーアッ…助けて…痛いーっ…お願い助けて…ギィエエエーエッ…ヒイイイィーイッ…痛いーっ…ヒイイイィーイッ…。」そして囮とした吊るされていた典子の、さすがに苛み尽くされてぐったりとなっていた体がまるで巨大な手で打ちのめされたように大きくのた打ち、引き攣り凄絶な絶叫が木立の間をこだまする。実際、典子は全身、そう顔といわず、腹といわず、胸といわず、手足といわず無数の灼熱した小さな弾丸を受けた細かな穴を穿たれてその全てから鮮血を吹き出し、血みどろになってのた打ち回っていた。
 ショット・ガンだ。こいつは手ごわいぞ、桐山は瞬時に藪の中で体を低くして銃を構えるがなぜかそれ以上何もしない。もしかしたら探りだったか、桐山がそう思ってふと気を緩めたその瞬間、背後から伸びてきた手に握られていた軍用ナイフが、その喉を書き切ろうとする。桐原も運動神経にも体力にも自身がある。すんでのところでその手首をつかんでそのナイフを奪い取ろうとするが、その相手も相当な使い手と見えて容易くそれを躱す。なぜ銃を使わない?桐山は一瞬そう思うが、もしさっきのショット・ガンの奴が近くにいればたちまち二人纏めて血祭りだ。こうなれば体で戦うしかない。

 「七原君…やっと…やっと…。」桐山が隠れていた藪から血に染まっているナイフを手に現れた生徒を見て、典子は思わず声を上げる。一目ぼれしてしまったけど言葉にできなかった七原君、プレゼントしようとしてクッキーを焼いた七原君。その七原君にやっと会えたのだ。典子の声は苦痛に喘ぐ中にも悦びに溢れている。しかしその男子生徒は呆然として言葉もない。もちろん典子というのは分ったろう、散弾を浴びて十あまりの穴が開いてはいてもその容貌は相変わらずやさしげで可愛らしかった。
 しかしその体は無惨に苛まれ尽くしていた。銃弾が、散弾が、ナイフが、鎌が全身をずたずたに苛んでいた上に、その体を木の枝が乱暴に貫いていた。こんな無惨なクラスメートに七原でなくてもなんて声をかければ良いのだろう。しかもその体には断末魔の麻痺さえ走っている。「七原君…私…私…。」典子はしかしそれでも最期の力を振り絞って、自分の思いを伝えようとする。しかしその時、今二人のいる地域が危険地域となる旨が通報され、七原はやや躊躇いはあるものの典子の言葉を耳にすることなく安全地帯へと走り去っていく。『いかないで…七原君お願い…せめて…せめて…』そんな七原の姿を見詰めながら既にものを言う気力さえ失っている典子の首に巻かれているガダルカナル22号がやがて…。


 最期にお詫びしなければならないのだが、私はこの小説を読んだこともないし、映画だって見てはいない。そもそも私はベストセラーには全く興味がないのだし、私程度の筆力で原作の持っている雰囲気など出せる訳がないから、読んだところで作品の出来にそう大した違いがないことは私が保証する。とは言え余りに滅茶苦茶を書くのも興醒めだから一応の人間関係やら、ゲームのルールやら、キャラクターやら、所持している武器やらに付いては最低限の情報は仕入れた。
 しかしこれにしたってそう重視したわけではなく、ちょい役クラスの性格設定とか誰が誰をどう殺したかなどはもういい加減を突き抜けている。桐山だの相馬だのは中々魅力的なキャラらしいが、それも無視してただの悪役とした。こんな作戦が不可能なシステムがあるのかもしれないが、それも正直知ったこっちゃない。詰まるところこの小説のシチュエーションは物になると言う直感だけで作った代物だから、細かなことを指摘されたら作者としては非常に困る。例によってどうか温かい目で見ていただきたい。