セーラージュピターの受難


byタナトス

「いけない!みんな、逃げて!」
マーキュリーの鋭い声が、耳に入った。
―くるっ―
敵のなんだかの攻撃に備えて、反射的に、身構える。
と・・、がらがらがらっ。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
足元が、不意に払われたような感じがした。
「く、わぁあっ」
バランスを失って、前につんのめりそうになる。
しかし、ジュピターの身体を、たとえ乱暴にではあっても、受け止めてくれる地面がなかった。
どこへ続くとも知れない暗闇に、ジュピターは、頭のほうから吸い込まれていった。
落ちてゆきながら、仲間の悲鳴をわずかに聞いたような気がしたが、遠ざかってゆく意識に、それは、幻のようにしか響かなかった。


がくんっ
すざまじい衝撃で、強制的に意識が現実へと、呼び戻される。
と同時に、強烈な激痛が、ジュピターを、襲った。
「くはぁあああっ、っつくぅうううっ」
左足、特に、付け根のあたり、形容のできない痛み。
痛みをこらえながら、うっすらと涙のにじむ目で、自分の足を確かめる。
「ええっ」
すんなりと、健康的に伸びたジュピターの足に、濃緑色の蔓が巻きついている。
しゅるっ。
足に食い込むほどに、強く巻きついていた、蔓の縛めが、いきなり解かれ、ジュピターは、地面に落下した。
しかし、地面は何かやわらかいもので覆われており、今度はジュピターを優しく受け止めてくれた。
高さもたいしたほどではない。
しかし、相変わらず、足は、じんじん痛む。
呼吸をしても、身体を少し動かしても、痛みがかけぬける。
起き上がろうとして、左足に全く力が入らないことに気づいた。
落ちてきた衝撃が、左足一本に懸かり、脱臼したに違いないと、ジュピターは思った。
―ひょっとしたら、腱も切ってしまったかも・・・―
あらぬ方向に曲がり、引きちぎられるような痛みを放つ左足を恨めしそうに見やる。
―どうやって、ここから脱出しよう―
そう思い、自分の落ちてきたほうを見上げてみた。
すると、自分のほうを、うっとりとした顔で見下ろしている女・・・妖魔といったほうがいいだろうか・・・と、目があった。
「あら、お目覚めかしら、かわいこちゃん」
シベリアの針葉樹林の葉のように濃い緑の肌。
フランスのバラ、”フルーツ”のような花が、彼女の頭で美しく咲いている。
ふっさりした花びらは、少しばかり重たげで、そのせいだろうか、少し顔を傾けている。
そのしぐさが、また妖艶だった。
外側の花びらは、真っ赤な鮮血をなすりつけたように緋色で染まっており、花びらの中心の処女雪のような純白でその二色は見事なグラデーションを成している。
ジュピターを見下ろすまなざしは優しげで、上品で、彼女のことを薔薇の精だと言った時、信じないものはいないだろう。
しかし、瞳の奥に秘められた輝きは、妖精の高潔さではなく、悪魔の残忍さであった。
「わたくしの名前は、ロゼル」
聞かれてもいないのに、名を名乗った。
絡み合う蔓で、ジュピターの髪をつかみ、顔をさらに上むかせ、うっとりした瞳でジュピターを見下ろしながらロゼルは続けた。
「あなたは、美しいわ。
声のほうも良かったわ。
押し殺したみたいにかわいらしい悲鳴をあげて。
でも、もっと泣き叫んでほしいわ。
わたくしの好みとしてはね。
そうそう、あなたは、わたくしに感謝しないといけないのよ、落ちてくるあなたを受け止めてあげたのだから」
 そう言うと、ロゼルは、ジュピターの左足の付け根を、蔓でしっかり固定し、おもむろにふくらはぎをつかんで、一気に捻り上げた。
「ぐぎゃぁああああ」
ひざが脱臼し、ごりっ、といやな音が響き渡る。
それでも、ロゼルは、妖艶な微笑を浮かべたまま。一向に力を弱めるそぶりを見せない。
今度は、ひざを、本来曲がらない方向に、力任せに押し曲げる。
ばきっ、ぶちぶちぶちっ。
びきっ。
ふくらはぎの裏から、骨が覗いた。
ロゼルの力に、力場は、何の意味もなさなかった。
折れた骨は、筋肉を、皮膚を突き破り、断面を覗かせて、はじめて外の空気に触れた。
真っ白な骨の、ぎざぎざの断面は、筋肉をえぐっており、血管からあふれ出る血液が、真っ白い骨に彩りを添える。
まるで、ロゼルの花びらのようだ。
「はぎゃっぁぁぁ、ぐふっ、ひはぁっ、はぁ、ぐぅぅぅぅぅ」
「あら、うれしいわ、この程度で、そんなに歌ってくれるなんて」
―これ以上この化け物を喜ばしてたまるものか、きっと、みんなは助けに来てくれるわ。それまで辛抱すればいいのよ―
「ふっふぅぅっ、何よ、その程度で、私がよわねをはくとでも思っているのっ!」
「あらあら、顔に似合わず勇ましいのね。でも、仲間の助けを期待して強がっているのなら、それは大きな間違いよ」
「どっ・・・くうぅっ・・どういういみよっ」
「さあ、なんのことかしら」
そう嘯くとロゼルは、ジュピターの、無事なほうの足をつかむと、いきなり壁に勢いよくたたきつけた。
剥き出しの岩肌に、信じられないほどの衝撃でたたきつけられ、右手が折れ、血が吹き出る。
「はぎゃあああ」
その、ぶらぶらな手を、今度は、棘の映えた蔓がつかみ、捻り、ひねり上げる。
ずたずたになった皮膚と、筋繊維の間から、今度は、ぼろぼろに砕け、血に染まった骨のかけらが,ゆっくり散らばる。
血の糸を引きながら。
筋肉を抉り取ったその欠片が。
さらに力がこめられる。
ずりゅっ。
ひじを突き破り,ここからも骨が5~6センチ露出した。
苦しげに眉間にしわを寄せ、唇をかみ締め、悲鳴を押し殺そうとする。
頬は、苦痛で桜色に染まっている。
目には、涙が浮かび、脂汗でぬれた顔に、髪の毛が少しばかり張り付いている。
顔だけ見ると、情事のときの顔のようだ、必死に快感を押し殺す。
「今度は,削り取ってあげるわね」
ジュピターの返り血を浴びて、悲鳴を聞いて、もだえる顔を堪能して、ロゼルは今、大変ご機嫌らしい。
にこにこ笑いながら,棘の生えた蔓を,左手に巻きつける。
「ぐはっ、げほっっっつぅ、今に見てなさいっ、きっとみんながきて,あなたを倒すんだから・・・・そのときになって後悔しても遅いのよ」
「そうね、あなたのお友達もみんな美しいのでしょう?だったら、ここに来てくれたらうれしいわ。美しい女の子の悲鳴は、とても素敵ですもんね」
「ううっ、変態」
「あら、失礼な子ね」
そう言うと、蔓をつかんで、二の腕から、手首まで、一気に引きおろした。
「ぐぶばびぶはっぐぎゃぁああー」
必死で、声を立てるまいとして、唇をかみ締めているのだが、抑えきれない。
かみ締めた唇に血がにじむ。
左腕は、ぼろ雑巾のようになった。
神経の束が、破れた血管が、引きつれ、もつれ、筋肉はだらしなく垂れ下がっている。
えぐられ、そがれて、骨が覗いているところもあった。
「とってもきれいよ、まあ、わたくしには、及ばないかもしれないけれど」
自分の頭の花びらにそっと触れ、うっとりとロゼルは言った。
「ぷっ」
ジュピターの唾が、ロゼルに飛ぶ。
「あらあら、私が優しいからって、そんなにつけあがってはいけませんわよ」
そう言って、顔にかかった唾をジュピターの左手になすりつけて取った。
「今度は、右足ね」
今までになく、冷たい声。
ここになって、ジュピターの顔に、恐怖の色が浮かぶ。
―もっと痛いことをされてしまうの・・いやよ、誰か早く助けて―
いつもの、強気で、しっかりした雰囲気は、どこかに飛んでいってしまった。
「どうしてほしいかしら」
ジュピターの弱気を、敏感に察したのか、目を細めて楽しそうにジュピターを見る。
「そうだ、今度は、切り刻んであげましょうね」
そういう言うが早いか、新たな蔓を手にした。
棘は、ナイフのような形態をしていた。
ゆっくり、ジュピターに近づく。
右足だけで、何とかジュピターは、ロゼルから、逃れようとした。
痛みは、肉体だけでなく、精神をも弱めてゆく。
動くだけで、激痛が走る。
それでも、逃れようとする。
骨に、筋肉に、神経に、じかに空気が触れる。
地面とこすれる。
「あら、壊れちゃいそうね、まだまだ早いわよ」
すっと指先にバラを咲かせ、ジュピターの口に、無理やりその蜜を注ぎ込む。
身体に熱いものが染み渡り、体力が戻ってくる、そして、痛みも。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「これで、まだまだあなたは死ねないわ、今のはほんの気付けぐすりのようなものなのよ。
おもちゃがそう簡単に壊れちゃ、面白くないものね。
ふふっ、それにしても、あなた、結構繊細なのね。
他の子達は、もう少しがんばっているんじゃないかしら?」
―ほっ、他の子・・・?―
体力が、精神が回復しても、痛みが消えるわけではない。
今にジュピターに、他人のことを心配する余裕など、残っていなかった。
ぎりぎりぎり。
いきなりロゼルはジュピターの足に、ちょうどのこぎりを引くように、蔓を当て、切り始めた。
ロゼルは、どうも、前おきなく、いきなり攻撃に入ってしまうらしい。
くせだろう、おそらく。
ジュピターが、痛みのあまり暴れようとしても、四肢のうち、三本までは、全く役に立たないので、かなわない。
残りの一本は、しっかりとロゼルがにぎっていて、びくともしない。
かわいい顔をして、一番怪力だったりするらしい。
ロゼルは。
仕方なく、返り血で、赤く染まった胴体をくねらせて、ジュピターは痛みに耐える。
もう、どこが痛いのか分からない。
どこも痛いから。
ロゼルは、魚をおろすみたいに、ジュピターの足を細切れにしてゆく。
腿もふくらはぎも。
「ぐっぐるっぅう、ひひゃひや、やめでーうぐっ、ぐはっ、いぐぅうううううっ。ひっ、ひっ、ひっ」
ロゼルは切り取った肉片をジュピターに見せながら言った。
「意外と肉好きがいいのね、あなた。
やっぱり思春期の少女はいいわ」
それを口に運ぶ。
「あなたもどう?
とっても新鮮よ、だって、まだ生きているところをとったのだから」
そう言って、肉片をジュピターの口に、押し込んだ。
生臭いにおいが口いっぱいに広がる。
―私、私の肉・・・私の体・・・今口に入っているの・・えっ、えっええええっ・・イヤー―
「うえっ、げぼっ」
口内のものを吐き出す。
唾液と血にまみれた肉片が、さっきまで、自分の一部だった肉片が、口からこぼれる。
ぼと、ぼとっ。
「うえぇぇぇ」
すっぱいものが、胃からこみ上げる。
「うげっ、げっげっ、けほけほ・・」
「あら、おいしくなかったの?
変ね、人間って、自分のことが、一番大事だと聞いていたのだけれど?」
不思議そうに嫌悪感と戦うジュピターを見ていたが、やがてにっこり微笑んでいった。
「いいことをおもいつきましたわ」
 誰かが、『いいことを思いついた』といったとき、それがいいことであったためしはない。(みなさんもそうじゃありません?)
今回も、その例外にはならなかった。
ロゼルが指をぱちんと鳴らすと、一本の蔓が、するすると、近づいてきた。
その蔓にロゼルが触れると真っ赤なつぼみができ、そして、すぐに、ぱぁっと花開いた。
毒々しい赤色。
”パパ・メイアン”のような。
そのバラを手折り、涙と、よだれでぐちょぐちょになったジュピターに近づく。
花蜜をまず、左足に注ぐ。
じゅぅううしゅわわゎゎゎ。
白煙と、ジュピターの絶叫があがる。
「酸よ、あなたのおなかの中に、持っているじゃない」
ただでさえぼろぼろの体組織が、もっと破壊される。
筋繊維のわずかな隙間にも酸は染み込み、体を焼いてゆく。
神経を溶かし、骨を侵す。
「こちらも」
なぜかうれしそうなロゼル。
まだ手足しか責めてないのに。
じゅぅうううっ、じゅっじゅっ、しゅわぁぁぁぁ。
「はぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
背中をそらせてもだえるジュピタ―。
「あら、酸は嫌いなの?
残念だわ」
ちっとも残念そうではない。
再び指を鳴らす。
今度咲かせたバラは、純白。
”シルエット”のように。
また手折る。
そして、今度は腕に蜜を滴らせる。
「きゃぁぁぁぁんきゃんきゃんぐっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
つんとした刺激臭。
アルカリ。
「中和してあげようと思って」
何を言っているのだろうか、ロゼルは。
中和するつもりだったら、足にかけるものだろうに。
アルカリは、じんわりと、しかし確実に腕のたんぱく質を、溶かしてゆく。
筋肉が侵される。
皮膚が、溶ける。
血や、肉片の混じったどろどろの液体が、滴り落ちる。
際立ってゆく、白い骨。
「この服が、邪魔ね」
真っ赤なバラを、手にとり、蜜をブローチにかけた。
 ブローチは、見る見る腐食してゆき、やがて、パチン、と音をたててジュピターの変身がとかれた。
蔓が優しく衣服を剥ぎ取ってゆく。
まだ、誰にも見せたことのない素肌が、露になってゆく。
女性らしくなり始めた、ふくらみの先の桜色の乳首。
くびれたウエスト。
うっすら煙るような、恥毛。
「美しいわ」
足を閉じようにも、とじれないので、または開きっぱなしで、恥部を隠そうにも、腕が動かないので、すべてをさらけ出して。
そんなジュピターを、ロゼルは賞賛した。
ジュピターは、痛くて、ついさっきまで、仲間のことすら忘れていたのに、今は屈辱で頬を真っ赤に染め、人間らしい瞳の色を、取り戻している。
「ぐっぐっぐぅぅぅっ」
「あなたは、処女、なのかしら」
痛さと屈辱で、呻き声しか出ない。
怒りで涙をにじませながら、ロゼルをきっとにらみつける。
「そのようね」
蔓が延びてきた。
太くて、白っぽいのが三本。
ロゼルは指を口に含み、妖艶な笑みを浮かべた。
口から抜いた指には鋭いつめがあった。
ジュピターに近づいていく。
「ひっ」
必死で後ずさろうとするジュピター。
「わたくしが、あなたの初めての人になってあげるわ」
そう言うが早いか、長く鋭いつめで、ジュピターのおなかを裂いてゆく。
ぷつっ。
「ひいぃぃぃっ」
皮膚が破れる。
ずっずっずっ。
「あうっあうっあっううぅぅぅ」
つめが下がるにつれ、黄色い、コーンのような脂肪の粒が、あふれ出てくる。
ばりばりばり。
「ひぎゃぁぁぁぁぁも・・もううごぶぶびばぎゃふぅぅぅやべでぎょぉぉぐえぇぇぇぇ」
生きたまま、麻酔もなしに、腹膜を裂かれる。
金魚ばちのそこの、砂利の匂いが立ち込める。
内臓の匂い。
腸があふれる。
桃色がかった、小腸。
少し灰色がかった大腸。
ちぢみあがった、胃も見える。
きっと、内出血していることだろう。
ストレスで。
失禁とともに、膀胱がしぼんでゆく。
その付近に見える、くすんだ桜色の、子宮。
「それじゃ、あなたの内蔵を、すごいことにしてあげる」
ロゼルは指をなめながら、アクメの時のような表情だ。
ロゼルの合図で、蔓が寄ってくる。
そして、蔓は、腸の間に滑り込み、ぬるぬると、内臓を犯し始めた。
絡みつき、もつれる腸。
 内臓の隙間に滑り込み、容赦なく先端を突き立て、犯す。
「うぐっぐぎゃっひぃぃぃぃいやべ、やべてーぐぐぐぐひっやぁぁぁん」
一本が、胃壁を破り、食道を逆流して、その先端を、ジュピターの口から覗かせた。
そこで、前後運動をする。
「うぐっ、ぐむっ、むむむほっ」
もう一本は、腸壁を突き破り、腸の中に入って、アヌスから、頭を除かせた。
そこで、前後運動をする。
「どう、お口、お尻を内側から奪われる気分は。
外からそうされる人はたくさんいるわ、でも、内側からそれを味わえるのは、あなただけ、光栄でしょ。
まあ、普通の人はできないわよ、だって、一回やって味を占めても、二回目は、できないから。死んじゃって」
ジュピターは半ば、白目をむき、もう何もいえないでいる。
表情だけをみると快感でよがっているのか、痛みで、悶えているのか、分からない。
きっと、痛いばかりなのだろうけど。
普通だったら、すでに痛みと多量出血で、死に至ってもおかしくないはずなのだが、ロゼルの花蜜のせいで、痛みから、死から、解放されないまま、苦しんでいる。
と、残りの蔓が、子宮を突き破り、膣の中へ侵入した。
「ふごっ」
性器に加えられた痛みで、意識が返ってくる。
蔓は、ジュピターの処女幕を、内側から突き破った。
血で染まった蔓が、膣内で、前後運動する。
「大好きな人の、おちんちんじゃなくて、私の蔓に、奪われて、どんな気分?」
そんなことを知って、どうしようというのだろうか。
気持ちいいわけではないことは、確かだろう。
好きな人とやっていても、一回目は、ひどく痛いのに。
悲鳴もあげられず、両手、両足も動かないので、目だけで必死に、ロゼルに、命乞いしようとする。
涙にぬれ、痛みに耐え切れなくて、今まで、死ぬこと以上に恐れていたこと、敵に屈服すること、を、自ら進んで、必死でしようとしている。
「うぐっふごっ」
「そろそろ、今度こそ限界ね」
合図によって、蔓は体内に引っ込んだ。
白濁液が、体内にあふれる。
蔓は、自ら放出したべとべとの液体と、血にまみれて、ジュピターの体から離れていっ
た。
ほっとするのもつかの間、体内から、棘の生えた蔓が延びてゆく。
腸に絡まり、腸を捻るもの、食い込むもの、内側に入り込んだ蔓もある。
肝臓を貫くもの、肺に絡みつくもの。
物理的痛みがわずかにでも加えられると、その時の痛みだけで、ショック死することさえあるという臓器、腎臓。
そこにも棘が絡まり、挙句の果てに、締め上げたりしている。
太目の蔓が、膣に入り込み、肉をえぐりながら、いったん外に出る。
そして、ジュピターのクリトリスを棘で貫いてから、体内に戻ってゆく。
貞操帯みたいになった。
ロゼルは、蔓を操ることができるようだ。
さもなければ、こううまくジュピターを責めるように、蔓が広がっていくとは、考えられない。
腕や、足にも蔓が絡み合う。
しかし、顔を犯す蔓は、ない。
やがて、葉が生え始めた。
花も。
内臓に絡んでいるものには、小ぶりのバラが咲いた。
ボンボンみたいで可愛い花。
「喜んでちょうだい、このまま永遠にあなたは美しいままでいられるのよ。
死ねないし、精神も崩壊できないまま。
ううん、楽しくないかしら?
でも、安心していいのよ、私、いつでもそばにいてあげてもいいかしらって思っているわ。
あなたは、とってもきれいよ」
「うううわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
響き渡る絶叫。
そして、沈黙。
ジュピターは、もう声を立てることすら、放棄した。
ロゼルは満足そうに、ジュピターを眺めた。
きれいで、カラフルな内臓に、濃緑色の蔓がアクセントとなっている。
そこに乱れ咲く、ロゼルの頭に咲き誇るのと、同じ色のバラ。
棘が食い込んでいるので、うっすらと、血をかぶり、てらてらと光っている内臓。
そこも美しいが、手足はもっと見栄えがした。
ずたずたの、桃色の筋肉。
垂れ下がる、クリーム色の血管、神経。
白い骨。
真っ赤な鮮血。
血が通わないために、真っ青になった指先。
そこに、濃い、緑の蔓が、骨の間をくぐり、血管をねじらせ、複雑に絡んでいる。
やわらかそうな、葉がゆらゆらゆれる。
美しく花開いた、大ぶりの白いバラ。
その花びらが、だんだんと赤く染まってゆく。
 

魂の抜けたようなうつろな表情のジュピターの顔にロゼルはそっと口づける。
ジュピターの鼻に、かぐわしいバラの香りが漂った。


ロゼルは、自分の作り出した、見事な芸術作品の傍らに座って、その美しい姿にいつまでも見入っていた。

fin