マァムの受難(ダイの大冒険より)

作:闇鈴木

「う…うああ…も、もう許して…」

 魔王軍の基地の地下深くの一角で、薄桃色の道着をはだけさせ、無数の魔王軍の兵士たちに見下ろされながらあえぐマァムの姿がそこにあった。少し強気の美しい顔貌や、武闘家らしく後ろにキュッと纏め上げた髪、想像を絶する修練の賜物であるしなやかな筋肉を隠すスラッと伸びた四肢、あらゆる部分に兵士たちから受けた陵辱の跡と見られる暗緑色の半濁液がなまなましく流れ落ちる。悩殺的な太腿の付け根からは、純潔の証である鮮血もゆっくりと滴り落ちている。

「キィーヒッヒッヒッヒッヒ!気分はどうかね、エエッ、マァムよ」

見るからに卑屈そうな邪悪な笑みを浮かべる小柄の老魔族がひとり、マァムの吊るされている足元まで近づいてきた。

「くっ、…妖魔司教…、ザボエラっ…あなただったのね!」

「ふんっ、貴様のような年端もいかぬ小娘に、わが息子、妖魔学士ザムザが不覚を取るとは、どうにも腑に落ちんが…まあ、あんなゴミの事はどうでもいいわい。目下、ワシの当面の目標は超魔生物の完成じゃからな。オマエさんは人間の割には中々しぶといようじゃからの。ワシの研究のモルモットになってもらうぞ」

「ふざけないでっ!私をこれだけの目に合わせといて、その上さらにそんな研究のモルモットにしようとするなんて。あなたは許さないっ、閃華烈光け……きゃあああああっっ!」

両腕、両足の自由を奪っている鉄枷を引き千切ろうとした瞬間、マァムの全身に鋭い激痛が走った。瞳の網膜にバチバチと火花が散り、マァムはガクンとうなだれる。

「ふうむ、なるほど、それがザムザのデータに入っていた閃華烈光拳とかいう技か。マホイミと同等の効果を拳で繰り出すとはな。確かに対生物には絶大な効果を発揮できるようじゃな。だが、言い忘れたが今オマエさんを拘束しとる鉄枷はな、超魔合金の一種で、少しでも魔法力を感知すると、ライデイン並みの電撃が流れるからの、注意することじゃな」

「ううう……」

「さあて、時間もないことじゃし、早速研究を始めるとするかの」

ザボエラがパチンと指を鳴らすと、紫色をした触手がどこからともなくスルスルと伸びてきて、嫌がるマァムの唇を強引にこじ開け、咽奥まで侵入すると、腐臭のするドロドロとした半濁液を大量に分泌し始めた。鼻が曲がるような刺激臭が喉からたちのぼり、嘔吐感にむせるが、弾力のある直径10センチほどの触手に阻まれ、咳き込むことすらできない。分泌された液体は胃壁から吸収され、血液の循環に乗って数分でマァムの躯を侵食してゆく。(挿絵)

「…ご、ごほっ、ごほっ、な、何を、ごほっ、飲ませたのっ…!」

「キッヒッヒ、人間の細胞を超魔生物細胞に変化させる薬じゃよ。オマエさんに飲ませたのはその中でも、耐久力に特化させた高濃度の薬じゃ。超魔生物の防御力を想定しておる。痛みや苦痛が消えるわけじゃないがの。感謝せいよ。本来なら人間風情が絶対に得る事のできない耐久力をくれてやったのじゃからな。まあ、元の人間に戻ることはできんがの」

「………!!!そ、そんな……」

「あと、魔界特製の筋弛緩剤もたっぷりと混入しておいたからの。自慢の腕力も赤子並みになっておるはず。まあ、モルモットにそんなものは必要ないからの。さあ、超魔生物細胞がどこまで苦痛に耐えられるか、耐久実験を開始するぞ」

そう言い放つと、ザボエラは大小様々なニードルを取り出し、それらにジュルッと舌舐め摺りをした。

「まずは物理的ダメージからじゃ」

「まさか、それを私に刺すつもり…?ひ、卑怯よ!今すぐこの枷をはずして、正々堂々と勝負しなさいっ」

「ヒヒヒッ、モルモットというもんは、自分の置かれた立場というモノを理解せず、よく吼えるものじゃ。正々堂々…?ふん、耳が腐るわい」

ザボエラはマァムを一瞥すると、マァムのふくよかな双乳にニードルをゆっくりと突き立てていった。マァムの胸のふくらみを満たしていた熱い鮮血とクリーム色をした脂肪液がまざって、赤と白のマーブル模様を作りながらトロリと流れ落ちていく。

「くひいいっ、い、痛ああいいいっ」

一本、また一本とザボエラは容赦なくニードルをマァムの体の至る所に突き刺していく。特に急所を狙いながら…。頚動脈、肝臓、膵臓、脾臓、鳩尾、横隔膜、胃臓、腎臓、神経組織…。膀胱に突き刺せば、相当溜まっていたのであろう、黄金色の液体がアンモニア臭を香り立たせながら噴出してくる。腸壁に突き刺してニードルを捏ね繰り回せば、広がった傷口からマァムの排泄物がニュルッ、ニュルニュルッとひねりでてくる。美少女武闘家の恥ずべき匂いがそこらじゅうに立ち込め、屈辱感と羞恥心に咽びながら、マァムは低い唸り声を上げる。

「おおう、臭う、臭うぞい、下等生物の汚物は鼻が曲がりそうな匂いじゃ。こんな臭いモンをよく腹の中に溜め込んで置けるもんじゃわい。ワシら高貴な魔族には信じられんよ、全く」

「ぐ、ぐうううううっ……、こ、殺すなら、早く殺しなさいよっ」

「やれやれ、これだからオマエ等は自分の立場が分かってないんじゃよ。お前らにはとっくに生きる権利も死ぬ権利もないのじゃ。次は刃物耐性の実験じゃ」

ザボエラは研ぎ澄まされたナイフを取り上げると、勢いよくマァムの右の乳房を切り落とした。

「ぎゃあああああっっ」

「キヒヒヒヒッッ、心地いい悲鳴じゃ」

切り取られた乳房はだらしなくぷるんと床に落ち、斬られた傷痕の奥の肋骨の間からは赤黒い内臓がはみだして、生臭い異臭を放つ。やがてしばらくすると、傷口から緑色の泡沫が噴出し、乳房の細胞組織が別の生き物のようにふつふつと復活していく。その異様な光景を目の当たりしたマァムは、いよいよ自分の躯が人間のものではなくなってしまったことを実感した。

「ふうむ、細胞組織が復活するまでにかかる時間は約8分25秒といったところか。とても実践で通用するレベルではないのう、もっと研究が必要じゃ」

「ああ…私のカラダが…なんてことなの…」

いつの間にか、ニードルで傷付けられた各部の損傷も回復していた。

「マァムよ、腹が減ったじゃろう、いい物を馳走してやる。者ども、準備せい」

妖魔士団の魔道士達の手によって、マァムの口に魔鉄鋼製の巨大な漏斗が取り付けられた。別の魔道士が移動性の高温炉を運んできた。

「キヒヒッ、この炉の中にはな、ドロドロに溶かして真っ赤になった鉛がたぁっぷり用意してあるんじゃ。こいつをオマエさんの腹の中に流し込むと、果たしてどうなるかのう、ヒヒヒッ」

「ンンッ、ムウンンッ、ムオモオウウウンンッッッ」

ザボエラは漏斗と同じく魔鉄鋼製の巨大な柄杓を手に取ると、ドロドロの高温になった鉛を炉から汲み上げ、大きく開いた漏斗の口から、マァムの胃に流し込んだ。(挿絵)

ジュウウウウウウウウッッッ!ジュジュジュウウウウウウウウウウッッツツツ!!

「ふごがああああああああああっっっ」

マァムは声にならない断末魔の叫び声をあげた。外からのダメージに対する耐性ならば、人間とはいえ多少は鍛えることができる。しかしながら、内臓は人間はもちろん魔族だって鍛えようがない。そこに熱く熱せられた大量の鉛を流し込まれたのである。次々と胃壁や腸壁が焼け爛れて、飛びだした鉛が筋繊維や皮膚組織、他の内臓組織に沁み込んでいく。やがて腹膜が溶けて破られ、マァムの腹から大量の鉛がドロドロと流れ出してきた。

「いかに超魔生物細胞でも、やはり内臓からのダメージには耐え切れんか。貴重なデータじゃ。しっかり記録しておけ、者どもよ」

「ぐむううっっ、ぐぷふううううっっ」

「ククク、ホントなら気絶でもしたいところじゃろうが、今のオマエさんの耐久力ならば、気絶するまでには至らん。たっぷり味わうんじゃな」

やがて、高温炉に用意された鉛が全て流し込まれると、マァムの口から漏斗が外された。マァムは何かを叫ぼうとしたが、咽喉が声帯も含めて全て焼け爛れており、声にはならなかった。マァムにはただザボエラを睨み付けることしかできなかった。

「ホオウ、まだそんな顔をすることができるのか。つくづく生意気な娘じゃ」

マァムの両膝にも鎖が取り付けられ、女性として最も恥ずかしい部分をザボエラの顔に向けるようにして大股開きの格好にさせられた。マァムの秘書を隠す武闘家用のタイツは、ザボエラが来る前に行われていた陵辱によってとっくに切り裂かれていた。無残に型崩れをした淡いピンク色の肉襞が陰毛の奥からのぞいていた。ザボエラは指を伸ばすと、ガバッと強引に押し広げ、内部をじっくりと観察し始めた。

「いっ、いやああああはあっ、み、見ないでぇっ」

「キッヒッヒ、どうやら相当突っ込んでもらったようじゃのう。ぐちゃぐちゃに崩れて処女膜なんぞ跡形もなく破けておるわ。こんな物には触るのもおぞましいわい」

ザボエラの言葉は、マァムの心の奥底をズタズタに引き裂いてゆく。マァムの脳裏には、想いを寄せる銀髪の剣士や、おっちょこちょいで頼りない魔法使いの顔が浮かんでは消える。いかに超魔生物細胞に改造されようとも、心の傷までは回復できるはずもない。

「…も、もう…許して…」

「まだじゃ、まだあと大事な実験が二つばかり残っておるからのう」

ザボエラは、濡れてもいないマァムの膣道をこじ開けると、指先に力を込めてズブリズブリと自分の腕をマァムの秘奥へと沈めてゆく。当然、マァムには快感など微塵もない。

「あ、あがああっ、い、痛いいいっ」

「さて、ここら辺が子宮の最奥かのう、このへんでよいか」

そういうと、ザボエラはゆっくりと呪文の詠唱を始めた。

「ま、まさか、この状態で、じゅ、呪文を唱えるつもり…!!!」

「キッヒッヒッヒ、ご名答じゃよ、マァム。ザボエラ様直々の極大爆裂呪文じゃ」

イ・オ・ナ・ズ・ンッ!!(挿絵)

シュオオオオッ

「や、やめ……」

ドォオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッッッ!!!!

ビチッ!ビチャッ!ビチャッ!ビチャッ!ビチャッ!

「ヴァアアアアアアアアアアアアアッッッッガフアウゥ」

マァムは口から大量の血反吐を噴き出し、ガクンガクン痙攣して後ろにのけぞった。

「おやおや、ちょっとやり過ぎてしまったかのう。威力は抑えたつもりだったんじゃがな。イオラぐらいにしておくべきだったか」

ザボエラの拷問には慣れているはずの、配下の魔道士達の中にさえ、余りの惨状に目を背けてしまう者がいた。辺りの岩壁にはマァムのその部分のものであったと思われる肉片が大量に飛び散り、血飛沫が一面に広がっていた。両脚は吹っ飛んでもげてしまい、マァムの上半身だけが鉄枷に繋がれてダラリと揺れていた。

(こ、こんな目にあっても、し、死ぬことも、き、気絶することも、できないの……?)

マァムは極限の苦痛の中で、意識だけははっきりしている自分の躯を恨んだ。

「なあに、これも実験のうちでな。昔、魔王軍のある戦士が、口の中からイオをかまされて死んだことがあるのでな、竜騎衆とやらの一人だったかの」

しかし、マァムはそんな魔王軍の事情など知るべくもない。

「やはり内部からの攻撃の耐性をもっと考えねばな。……ホウ、もう爆破した部分が回復し始めておる。これは、この小娘のもともとの体力も影響しておるようじゃ」

しかし、まだマァムの目は虚ろであった。もはや、先ほどのようにザボエラを睨み返すことすらできないほど、今のダメージは大きかったのだ。

「さて、ワシも少々疲れたから、次の実験で最後にしてやる。今日最後の実験は……」

そういうとザボエラはすくっと立ち上がり、傍らにあった極太のニードルを取り上げ、力任せにマァムの額に突き立て、頭蓋骨を刺し貫いた。

「あらゆる生物にとっての司令塔、脳への攻撃じゃよっ」

「あ…あがっ…ああっ……」

残りのニードルも、宙にふわりと浮いたかと思うと、ダメージでボロボロになっているマァムの体にズブズブッと突き刺さる。

「くひいいぃぃっ!」

「おまけじゃっ!電撃呪文、ギガデイィィィィンンンッ!!」

バリッ、バリバリバリバリバリッッッ!!

「あごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

「さあ、どうじゃっ。これで脳組織と記憶野が破壊されてなければ、ワシの超魔生物細胞が、あらゆる生物を超越した存在であるということが証明されるのじゃっ!マァムよっ!まだ意識はあるかっ?んんっ?」

「…あ…ああ…うう…あ…あはっ…あははっ…アハハハハ…ウフウフフフフ……」

「…だめじゃ、すっかり壊れてしまったわい。ムダな一日を過ごしたのぅ」

ザボエラはため息を一つつくと、くるりと踵を返した。(挿絵)

「この生ゴミは、手足をモンスターにでも食わせてしまえ。うまくすれば超魔生物細胞を取り込めるかもしれんからな。ただし、頭と胴体は残して置けよ。胚珠を埋め込んで、超魔生物を産ませる実験をするからな。しっかり片付けておけよ。ワシの聖なる実験室が、下品な人間風情の血肉ですっかり穢れてしまったわい」

ザボエラはそう呟くと、実験室を後にした。

 強さを得るために僧侶戦士から武闘家になり、巨悪を倒して平和を勝ち取る夢を見ていた、桃色の髪の一人の少女の冒険が、今ここで終わりを告げた。

<終>
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