一月二日 晴

 今日は、私の誕生日でした。まぁ、別に、一つ年を取ったからといって何かが変わるわけでもないんですけど、一応はめでたい日ということに世間ではなっています。
 私としては、何か特別なことをするつもりもなかったんですけど、街の人たちに娯楽を提供するのも領主の仕事の一つ、なんだそうです。だから、去年考えていたように新年のパーティと私の誕生日のパーティを一回にまとめて済ませる、というのはなしになりました。まぁ、お祭り騒ぎをする口実は、大いに越したことはないとは私も思いますけど……だからといって、私の誕生日を祝うという名目で企画されたのが罪人の大量処刑というのはどうなんでしょうか。
 それは、まぁ、街の人たちにとって処刑というのは楽しみなものであるというのは分かるんですけど……これではまるで、私が人を殺すのが好きみたいじゃないですか。本来であれば去年の終わり頃に処刑されるはずだった人とか、領地の中の他の町や村で処刑されるはずの人たちを集めてきたので人数は結構多くなりましたし、それなりにバリエーション豊かな処刑が繰り広げられたんですけど、別に、私としては楽しい企画ではなかったですね。街の人たちは喜んでくれたみたいなので、かまわないといえばかまわないんですけど。
 それにしても、やっぱりたくさんの人の前で話すというのは緊張します。私の誕生日を祝いに来てくれた人たちですから、挨拶をしないわけにもいきませんし。プラムに笑顔を忘れないように、といわれていたので努力はしてみたんですけど、うまく、笑えていたでしょうか? 彼女の反応を見る限り、あまりそうは思えないんですけど……

 雲一つない、抜けるような青空。冬の冷たい風が吹き抜ける街の中央広場に、その寒さをものともせずに多くの人々が集まっている。年が明けて一日経った今日、この一帯を支配するブラッデンブルク侯爵夫人、ミレニアの誕生日を祝う式典が催されることになっているのだ。
 彼女に対する評価を街の人に尋ねたとしたら、多くの人は好意的な回答を返すだろう。税は安く、人々の暮らしは他の貴族たちの収める領地の人々に比べて格段に楽なものだ。ただし、残酷な性格をしており、人を殺すのがとても好きだということも、同時に--声を潜めながら--語られるだろう。
 実際、彼女が人を殺すのを楽しんでいるというのは、彼女の誕生日を祝う今日の式典が大量の罪人を集めての処刑ショーだというだけで一目瞭然である。本来であればとっくに処刑されているはずの人間を、わざわざ今日まで生かしておき、苦痛の日々を長引かせた上で殺そうというのだから、普通の神経で出来ることではない。街の人々にとって、罪人の処刑は大きな娯楽。それを期待しつつ、領主の残酷さに付いて声を潜めて語り合うものも群集の中には多く見られた。
「それでは、これより領主様よりお言葉をいただきます」
 広場の端に作られた特設台の上から、まだ若いメイド姿の娘が群集に向かってそう呼びかける。服装にそぐわない剣を腰に帯びた彼女の言葉にざわめきが群衆の間に広がり、視線が台の上に集中した。椅子に腰掛けていた漆黒のドレスを身につけた少女--ミレニアがゆっくりと立ち上がって広場に集まった群集を見まわす。
「今日は、私のために集まってもらい、感謝しています。ささやかながら、宴の用意をさせました。どうぞ、楽しんでいってください」
 無表情に、淡々とそう告げるとミレニアが微かに唇をほころばせる。
「罪を犯せば、それに相応しい報いが与えられるのだと……罪人たちの最期を心にとめ、皆さんが忘れずにいてくれればと思います。罪を犯せば、どれだけの苦痛が待つのか、そのことを……」
 薄く笑いを浮かべながらゆっくりとミレニアが群集を見まわす。周囲の気温が更に数度下がったかのような錯覚に襲われ、群集たちがしんと静まり返る。笑いを消し、淡々とした口調でミレニアは更に言葉を続けた。
「皆さんの上に幸いと安らぎが訪れんことを、祈ります。今日、この場で処刑される人々のような運命が、あなた方には訪れないように」
 無表情にそう告げると、すいっと視線を広場の中央、用意された処刑用の器具のほうへと向け、再びミレニアが薄く笑った。
「では、皆さん。宴を楽しんでください」
「これより罪人の処刑を行う! まず一人目は、詐欺師レイナ。この者はその色香を以って多くの男を惑わし、金品を騙し取った。よって、絞首刑に処すものとする!」
 ミレニアが言葉を終えて椅子に腰をおろし、先ほどの剣を持ったメイドが声高に呼ばわる。群集の間にどよめきが起こり、両腕を屈強の男に掴まれた一人の女性が広場へと引き出される。広場の中央には、群集に処刑の様子がよく見えるように一段高くなった台が設けられ、今はその台の上に絞り首用の柱が立てられている。各種の処刑器具をこの台の上に載せ、様々な処刑を行うというのが今日の趣向なのだ。
「いやぁっ、いやっ、いやっ、縛り首はいやあぁぁっ。許してっ、許してっ! 死ぬのはいやあぁぁっ!!」
 激しく頭を左右に振りたて、涙と鼻水とで顔をべちゃべちゃにして泣き喚く女の姿に、群衆の間から失笑が漏れる。メイドの口上にあった通り、多くの男が騙されたのも無理はないというほどの美貌の持ち主なのだが、この状態ではそれも台無しだ。
「なお、この女の罪は深く、通常の絞首刑ではその罪は贖いきれない。よって、吊り上げによって処刑するものとする」
 絞首台の下に女が引きたてられるのを薄く笑いを浮かべながら見つめ、メイドがそう告げる。その言葉に、群衆の間にざわめきが広がった。
「ひいいいいいぃっ、いやっ、やめてっ、殺さないでぇっ!」
 甲高い悲鳴を上げ、哀願を繰り返す女。かがみこませた彼女の背に膝を置き、押さえ込みながら男の一人が上からぶら下がったロープの先端の輪を彼女の首に引っ掛けた。輪が完全に女の首にかかり、簡単には抜けなくなったことを確認すると、彼は柱の上部、L字型に張り出た部分の滑車に通されたロープの反対の端を握る男に目で合図を送る。
「ぐえぇっ!?」
 男がぐいっとロープの端を引き、女の口から濁った呻きとも叫びともつかない声が溢れた。素早く女の元を離れた男がもう一人の男と合流し、二人がかりでロープを引っ張る。
「ぐえっ、ぐええぇっ! ぐ、ぐるじい、ぐびが、じまるうぅっ。ぐえええぇっ!!」
 上へと引き上げられるロープに引きずり起こされるような感じで女が上体を起こし、膝立ちの状態から更に立ち上がる。しかしそれでも容赦なく引かれつづけるロープに、爪先立ちになった女の足が台から離れ、僅か数センチほどではあるが宙に浮いた。全体重が首にかかることになった女が、目を大きく見開き、踏み潰される蛙のような無様な声を上げた。首にかかった縄を解こうと、両手で首の辺りをかきむしっているが、もちろんそんなことでは首に食い込むロープは緩まない。
「ぐうえぇぇっ、かはっ、がっ、はっ、ぐ、ぐるじ、じぬ、じぬうぅぅっ! ぐえええぇっ」
 じたばたと足をばたつかせ、身体を激しくくねらせる女。裾の長い服を着せられていたせいでその足が観衆の目に曝されるようなことにはならないものの、激しく身体をくねらせて身悶える女の姿は扇情的なものがあった。だからこそ、民衆の劣情をそそるという理由で女性の絞首刑が普通は行われないのだ。
「かっ、はっ、あ、ががが、ぐ、ぐる、うぐぐぐぐ……ぐ、ぐえぇっ」
 顔を真っ赤に染め、人目を気にする余裕もなく激しく身体をくねらせて踊る女。口の端からよだれを垂らし、舌を突き出してびくっ、びくっと身体を痙攣させる。このまま窒息死するか、と、そう思えたとき、不意にロープの端を握る男たちが手を緩めた。僅かに浮いていた足が台につき、首を締め上げるロープが僅かに緩む。そのことをいぶかしく思う余裕もなく、女は大きく胸を上下させて空気を貪った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ぐええぇっ!?」
 無我夢中で空気を貪る女の息が、多少は整った頃合を見計らい、男たちが再びロープを引く。足が台から離れ、宙吊りになった女は再び激しく足をばたつかせ、身体をくねらせる苦悶の踊りを踊る羽目になった。
「ぐえええぇっ、ぐるじいっ、ぐっ、うぐぐぐぐ……ぐびっ、がっ、じまる、ぐえええぇぇっ!」
 喉を締め上げられているために叫ぶことも出来ず、呻き声を搾り出しながら女が激しく踊る。苦しさに失禁したのか、激しくばたつく足に黄色がかった液体が伝った。
「あははははっ、おいっ、この女、漏らしやがったぜ!」
 処刑台に近い『特等席』を確保することに成功した一部の人間が笑いながらそのことを告げ、群衆の間にどっと笑いが巻き起こった。その様子を椅子に腰掛けたミレニアは薄く笑って眺めている。
 身体を引っ張り上げ、死ぬ寸前まで窒息の苦しみを味あわせてはロープを緩めて息継ぎをさせる、ということが、更に三回ほど繰り返された。気が狂わんばかりの苦しさと恐怖に涙と鼻水、よだれとで女の顔はべちゃべちゃになっている。微かに首を傾げると、ミレニアが軽く右手を上げた。その合図を目にした男たちが、ちょうどその頃、またロープを緩められて台の上に降り立ち、懸命に空気を貪っていた女をぐいっと吊るし上げる。
「ぐええぇっ、ぐえっ、うぐぐぐぐ……ぐるじ、い、ぐび、が、じま、ぐぐぐぐぐ、ぐええええぇっ!」
 今回は僅かに足を浮かせるだけでは終わりにせず、ぐいっ、ぐいっと男たちがロープを引き、女の身体を吊るし上げていく。顔を真っ赤に紅潮させ、懸命に両手でロープを緩めようと無駄な足掻きをしながら女はついに絞首台に高々と掲げられた。ロープの端を支柱に結わえ付けた男たちが視線を向ける中、ますます激しく足をばたつかせ、身体をくねらせて女が最期の踊りを踊る。
「かはっ、かっ、あ、うぐぐ……ぐええええぇ……ぐ、ぐる、じ……ぐえぇぇ……」
 真っ赤に染まっていた顔が黒ずみ、口からは膨れ上がった舌が飛び出す。大きく目を見開き、涙と鼻水、それによだれで顔をべちゃべちゃにした女がビクンビクンと数度、身体を大きく痙攣させた。括約筋が緩み、ぼたぼたと糞尿をこぼれ落ちる。群集の笑い声に包まれ、多くの詐欺を働いた女はその生涯を終えた。

「ぎあっ、あ、あぐ……ぎゃああぁっ!」
 ビシッ、バシッという肉を打つ鈍い音と、男の上げる悲鳴が響く。絞首刑に処された女の死体をぶら下げたま、ま絞首台は既に広場の外れに移動させられていた。今は、その代わりに台の前で仮設の鞭打ち柱を抱かされた男の鞭打ちが行われている。中央の台の上で各種の処刑を行うという演出のため、それぞれの処刑に用いる器具を準備するのにある程度の時間が必要とされるのだが、その間に群集が暇を持て余すことのないように、ということで鞭打ちのような『軽い』刑が行われているのだ。
「あ、が、ぎゃあああぁっ。う、うぐぐ……ぎやあぁっ!」
 背中を血まみれにした男が、息も絶え絶えになりながら喘ぎ、鞭で打たれるたびに濁った悲鳴を上げる。通常の鞭打ち刑で用いるのは革鞭だが、今使われているのはイバラ鞭だ。当然、痛みや出血は激しくなる。
「わ、悪かった、俺が、悪かった。だ、だから、もう、許し……ギャアアァッ!」
 男は、三十代半ばほどだろうか。なかなか筋肉質の男なのだが、既に幾度となく鞭打たれてすっかり元気をなくしている。イバラ鞭で打たれるたびに血と肉とが飛び散り、男の口から悲鳴が溢れる。群衆はおおむねその様子を見て楽しんでいるようだが、中には眉をひそめるものもいる。何しろ、男が犯した罪はそれほど重いものではない。重罪を犯したものが残酷に処刑されるのを見るのは楽しいが、微罪のものが酷い罰を受けているのを見るのは楽しくない、ということなのだろう。自分がいつあの男の立場になるか、知れたものではないのだから。
 とはいえ、そうこうしているうちに準備が整ったらしく、男の鞭打ちは終了した。鞭打ちが終わったときには既に半ば気絶しており、引きずられるように彼は広場から連れ出されていったのである。

「続いて、幾度となく掏りを働いた男、ガレインの刑を執り行う。この者、過去に何度か掏りを働き罰を受けたにもかかわらず、一向に改心の気配がない。よって、二度と掏りを働けないよう、両腕を落とすものとする。
 この者の刑は、新たなる器具によって行う。本来は引き裂き刑用の器具ではあるが、試験も兼ねてこの男の刑にも用いるものとする」
 剣を腰に下げたメイドの口上に、群衆の間にどよめきが走る。引き裂き刑といえば、通常は馬を用いた四つ裂きのことだが、これが意外と成功しない。人間の身体と言うのは思ったより頑丈で、手足にロープを結びつけ、馬で四方に引っ張らせても容易に裂けないのだ。場合によっては、身体を引き裂くより先に馬が疲れ果て、処刑が失敗することも珍しくはない。もちろん、身体が裂けないとはいっても手足は脱臼し、肉は引っ張られ、犠牲者は酷く苦しむことになるのだが。
 群集の視線が、自然と処刑台の左右に置かれた巨大な器具に集まる。高々とそびえる長い支柱から可動式の横木が左右に張り出しているというもので、大きさを除けば天秤と同じ構造のようだ。横木の下がったほうからは二本のロープが垂らされており、そのうちの一本は地面に打ちこまれた杭に結び付けられている。横木の反対側、上がったほうからは大きな石--というより、小ぶりの岩といったほうが正確か--が吊るされていた。
「う、あ、あ……勘弁してくれ。腕を落とすなら、一思いにばっさりやってくれ。わけのわからない器具の実験台になるのなんてご免だ!」
 処刑台の上へと引き出されてきた貧相な小男が、恐怖に顔を真っ青にしてそう訴える。実際、この器具がどういうふうに用いられ、どういう結果をもたらすのかは彼自身も群集も分からない。彼の主張は当然のことだが、もちろん、だからといって彼の訴えが聞き入れられることはない。屈強な男たちによって処刑台の中央の辺りに立たされ、両足首を短いロープで固定される。更に、両肩へとロープをかけ、処刑台と肩とをつなぎ合わせると、男たちは垂れ下がった二本のロープを男の手首に固く結びつけた。
「お、おい、何をするんだ!? おいっ!?」
 恐怖と不安に声を上ずらせ、きょろきょろと目を動かす小男にはかまわず、処刑台から降りた男たちが斧を手にする。ぎくっとした表情を小男が浮かべるが、斧を手にした男たちは無言のまま地面と横木とを結ぶロープへと斧を振り下ろす。ロープが断ち切られ、吊られた岩の重みで勢いよく横木の一端が下がり……跳ね上がった反対側に結び付けられたロープが凄まじい勢いと強さで男の両腕を引っ張った。
「グギャアアアアアアアアアアアア~~~~ッ!!?」
 瞬間、両腕に激痛が走ったかと思うと、ぶちいぃっと言う耳障りな音を立てて男の両腕が肩の付け根からもぎ取られ、勢いよく宙に舞う。両腕を肩からもぎ取られた男が、ぐちゃぐちゃになった切断面から鮮血を撒き散らしながら絶叫し、処刑台の上へと倒れこむ。宙へと跳ね上がった腕がくるくると回転しながらその切断面から血を飛び散らし、飛んできた血を浴びた群集から悲鳴とも歓声ともつかない声が上がった。罪人の流す血は各種の病を癒す効果があると信じられており、斬首された罪人の流す血をハンカチに浸そうと殺到した群衆が押し合いへしあいするうちに死傷者が出る例もある。そういう意味では血が飛んでくるのはむしろ望むところではあるのだが、やはりいきなり頭の上から血の雨が降ってくれば驚いてしまうものだ。
「あ、あぎ……ぐぎぎぎ……あ、が」
 どくどくと無残に腕を千切り取られた傷口から血を流しつつ、男が不明瞭な呻き声を上げる。びくびくっと数度痙攣すると、彼はそのまま動かなくなった。処刑台の上へと上がった男たちが彼の身体を抱え上げ、脈や息を確かめる。
「……死にましたか?」
 椅子から立ち上がったミレニアが、口元に笑みを漂わせながら静かな口調でそう問い掛ける。特に声を張り上げるでもなく、淡々とした口調なのだが、不思議とよく通る声だ。群衆のざわめきが水でも浴びせられたかのように一瞬で静まり、奇妙な静寂が訪れる中、頷き返してくる男たちを見つめてミレニアが軽く首をかしげる。
「殺す予定ではなかったんですが。まぁ、運が悪かったんですね」
 淡々と、呟くようにそう言うとミレニアが再び椅子に腰を下ろして進行役のメイドへと視線を向ける。
「続けてください」
「は、はい。で、では、続いて、殺人の罪を犯したパメラの処刑をこの器具を用いて行う。罪人を!」
 僅かに動揺のそぶりを見せつつも、メイドがそう声を張り上げる。処刑台の上から両腕をもぎ取られた痛みでショック死した男の死体が降ろされ、代わってまだ四・五歳程度にしか見えない幼女が処刑台の上へと引きたてられてくる。これから処刑されるというのがまだ年端もいかない幼女であることに、群衆の間にざわめきが広がった。
「この者はカーウェイの村より送られてきた罪人である。両親を亡くした後、生きる為にこの者は村の畑の作物や家畜を盗むということを繰り返してきた。のみならず、その現場を捉えた村の住人を石を持って撲殺したという。
 境遇に哀れむ部分はあるものの、その罪は重く、また、一切悔悟の様子がみられないことからこの者を引き裂き刑に処すものとする!」
「いっ、いやっ、私、何にも悪いことなんてしてないよぉ。たすけてっ、だれかっ、たすけてよぉっ」
 メイドの宣告に、幼女の上げる悲鳴と哀願の声が重なる。涙をぼろぼろとこぼしながら訴える幼女の姿に哀れみを覚えたものは多いだろうが、群衆の間から助命を願う声は上がらない。そんなことをして自分が罪に問われてはたまらないという保身から出た発想がその理由の大部分を占めるのだろうが、このような幼女が惨殺されるところを見たいという暗い欲望が幾分含まれていないとは言いきれない。
「やだっ、やだやだやだぁっ。たすけてっ、おねがいっ、たすけてよぉっ。わたし、わるいことなんかしてないもんっ。いやあああぁっ、こわいっ、こわいよぉっ」
 梯子を用いて新たな縄を上に上がった横木の一端に結びなおし、それを馬で引かせて岩を吊るしたほうの一端を上に持ち上げる。更に地面の杭にロープを結び、横木を固定するという準備が整うと、男たちの手によって幼女の身体が処刑台の上、先ほどの男が流した鮮血が溜まった場所へと寝かされる。半狂乱になって泣きじゃくり、身体を暴れさせる幼女の身体を難なく押さえ込みつつ、男たちは彼女の細い足首に垂れ下がったロープを結びつけた。更に、もがく彼女の両腕を掴んで処刑台の上に押し付けると、掌を開かせてそこに釘を打ちこむ。
「ギャッ、ギャアァッ! いたいっ、いたいよぉっ……やだ、たすけて、ねぇ、だれか、たすけてよぉ……」
 両掌を釘づけにされた幼女が、すすり泣きを上げながら弱々しい口調で哀願する。誰もが痛ましく思うその姿を、ミレニアは口元に薄く笑いを浮かべながら見つめていた。幼女の痛々しい姿から思わず顔を背け、もしかしたらミレニアの気が変わって助命があるのではないかと彼女のほうに視線を向けた何人かの人々は、見てはいけないものを見てしまったような気分になって慌てて視線をミレニアから逸らす。
 幼女の掌を釘づけにし終えた男たちが処刑台の上から降り、斧を手にとって固定用のロープのほうへと歩み寄る。群衆が息を呑んで見守る中、斧が振り下ろされた。
「ギャッ!? ヒッ、ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!!」
 岩の重みで横木の一端が跳ね上がり、幼女の足を宙へと持ち上げる。勢いよく逆さまになった幼女の掌がびびっと裂け、彼女の全身が宙へと持ち上げられる。その痛みに短い悲鳴を放ち、更に自分の身体が逆さまに勢いよく宙へと跳ね上げられたことに恐怖の声を上げかけた幼女だが、次の瞬間、両足首が左右へと引っ張られ、凄まじい激痛と共に彼女の身体は股間から真っ二つに裂けていた。広場に集まった群集の頭上から、幼女の上げる断末魔の絶叫、更に身体を裂かれて迸った鮮血の雨と引き千切られた内臓とが降り注ぐ。まぁ、絶叫はともかく、血や内臓を頭から浴びる羽目になったのは、処刑を少しでも近くで見ようと最前列に近い場所を確保していた人々だ。こういう位置にいると斬首のときなどに血を被ることもあるから、ある程度の覚悟は出来ているはずだし、むしろそれを期待していたものも多かったろうが、流石に内臓まで飛び散ってくる事態は予想していなかったらしい。べちゃりと顔に張りつく血まみれの臓物に悲鳴を上げ、慌ててそれを振り払うといった光景がそこかしこで見うけられた。
 その光景を、ミレニアは静かに眺めている。口元に笑みを浮かべたままで。と、僅かに遠慮するようなそぶりを見せながらまだ子供っぽさを残したメイド服の少女が彼女に近づき、何事かを囁きかけた。その言葉を聞いたミレニアが微かに首をかしげ、僅かに視線を宙に向けると何事かを答えながら笑みを消したのだが、この騒ぎでは群衆の中にその一幕に気づいたものは皆無だったろう。
 小さからぬ混乱を見せる群集たちとの頭上で、縦に二つに引き裂かれ、血まみれの肉隗と化して吊り下げられた幼女の死骸がくるくると回転しながら左右に揺れていた……。

 続いて、窃盗の常習犯である男の斬首、更には酒に酔って暴れたあげく、人を三人殴り殺した大男の車刑が処刑台の上で行われた。この二つの処刑は型どおりに行われたのだが、前二つの処刑が変わったものだっただけに群衆の中には僅かに不満を覚えたものもいたようだ。とはいえ、見事に一撃で首を落として見せた処刑人の手腕には歓声と拍手が上がったし、車刑自体もかなり過激な処刑方であるからほとんどの人間は充分に満足したはずだ。

 粉々に砕かれた手足を車輪に巻きつけられ、息も絶え絶えになった大男が処刑台の上から降ろされ、場を繋ぐための鞭打ちが行われる中で次の処刑に用いる器具の準備が進められる。横木が二本の磔台、そして、丸太に四本の足を生やした拘束台が処刑台の上に設置され、人の身の丈ほどもある鉄の棒が二本準備される。それを見て串刺しを行うつもりだと気づいたものも多いだろうが、その二本の鉄の棒が真っ赤に熱せられているのを見て期待に胸を膨らませたものだ。
「さて、続いては忌まわしきソドムの男の処刑を行う。この者たちは神の教えに背き、忌まわしき同性愛に耽っていた。その罪は大きく、串刺しによって死を与えるものである」
全ての準備が整ったのを確認し、司会役のメイドがそう告げる。串刺しというのは予想通りだが、それによって処刑されるのがソドムの男だと聞いてどよめく群集たち。その間を通り、後ろ手に縛られた二人の男たちが処刑台へと引きたてられていく。二人とも上半身は普通に服を着ているが、下半身は剥き出しだ。
「この恥知らず!」「地獄に落ちろ!」
 群衆の間から浴びせられる罵声に、顔を伏せたまま引きたてられていく二人。処刑台の上に引きたてられた彼らのうち、青年は十字架に、少年は丸太のほうへと吊れていかれ、それぞれ拘束される。十字架のほうは両足を大きく広げ、大の字になるような格好だ。精悍な顔つきをした青年は既に覚悟を決めているのか硬く目を閉じたまま俯き、抵抗のそぶりは見せない。その態度がふてぶてしく見えるのか、群衆の間から罵りの声が投げつけられるが、青年のほうは微動だにしない。
 少年の方も哀願をしたり抵抗したりといったそぶりは見せないのだが、もう一人ほど覚悟は決まっていないらしくがたがたと震えている。こちらはむしろ女に見えるような柔和な顔つきの美少年だけに他の罪であれば同情を引けたかもしれない。だが、忌まわしきソドムの男となれば話は別だ。丸太を抱くようにしてうつぶせの姿勢で拘束された少年へと、容赦のない罵声が浴びせられる。少年が僅かに涙を浮かべ、ぎゅっと唇を噛み締める。
「この者たちが交わりに用いた不浄の穴を火によって清めるべく、火を以って熱した棒をそこより差し入れて串刺しにするものとする」
 メイドの口上に、群衆がどっと沸く。串刺し刑自体が結構残虐な処刑方であるのに加え、その串刺しに使う鉄の棒を真っ赤に熱しておけば犠牲者の味わう苦しみは何倍、いや、何十倍にもなるだろう。やれ、早くやれという群衆の歓声を受けながら、処刑人を勤める男たちが真っ赤に焼けた鉄の棒を手に取り、まずは丸太の上にうつぶせに拘束されている少年の元へと歩み寄る。一人が群集のほうへと向けられた尻肉へと手をかけてぐいっと押し広げ、もう一人が丸められた鉄棒の先端をすぼまった肛門へと押し当てた。
「ギャッ、ギャアアァッ、熱いッ、熱いいぃっ!」
 じゅううっと肉の焼ける音と共に白煙が上がり、肛門へと焼けた鉄の棒を押し当てられた少年が弾かれたように頭を上げて絶叫を上げる。げらげらと群衆が笑い声を上げる中、鉄棒を握った男はずぶりと焼けた鉄を少年の肛門から体内へとつき入れた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアァッ!!」
 女顔に似合った甲高い絶叫が少年の口から溢れる。うつぶせに拘束された身体をのたうたせ、バンバンと掌で丸太を支える足を叩く。だが、どれほど身体をのたうたせようと拘束された上体ではたかが知れていた。少年のもがきをほとんど邪魔にしていないかのように、僅かに左右に棒を捻りながら男は容赦なく少年の身体の中へと鉄棒を送り込んでいく。
 ずぐっ、ぐぐぐぐぐ……。
「ギャアアアアアアアァッ!! 熱いッ、熱いいぃっ! ウギャアアアアアアアアァッ!!」
 灼熱の鉄棒を体内へと押し込まれ、身体を内側から焼かれていく少年。しかも、鉄棒の先端は丸められており、苦痛がより長引くように計算されていた。腸を押し広げ、焼きながら体内へと鉄棒がねじ込まれていく苦痛に、少年が身体をのたうたせ、口の端から泡を飛ばして絶叫する。
 肘の長さよりも短い程度の長さまで鉄棒を少年の体内へと埋め込むと、男がいったん棒を押し込むのを止める。もちろん、だからといって少年が苦痛から解放されたわけではない。体内に押し込まれた鉄棒は今でもじりじりと彼の身体を内側から焼き、彼の生命力を削り取っている。その熱さと痛みに頭を激しく振りたて、悲鳴を上げつづけているのだ。
 とはいえ、男が鉄棒を押し込むのを止めたことに群衆の間からいぶかしげな声が上がる。串刺しは、最期に杭の先端が顔を覗かせるまでやるのが普通だ。もちろん、それ以前の段階でたいていの人間は息絶えるのだが。
 これでもう終わりなのかと群衆の間に小さなざわめきが広がるが、その声が大きくなる以前に男たちは少年の拘束されている丸太をいったん持ち上げ、群集のほうに少年の顔が向くように置きなおす。鉄棒を体内に押し込まれ、泣き叫ぶ少年の顔がよく群衆にも見えるように、という配慮だったのだ。そのことに気づいた群集から歓声が上がり、男の一人が少年の背後に回ると再び鉄棒をぐいぐいと押し込んでいく。
「ウギャギャギャギャッ、グギャッ、ガギャギャッ、グギャアアアアァッ!!」
 灼熱の棒を体内へと押し込まれ、濁った絶叫を撒き散らしながら少年が激しく頭を振りたてる。腸が押し広げられ、焼かれ、ついには丸まった先端で突き破られる。女性にも思える線の細い美貌をぐしゃぐしゃに歪め、少年が泣き叫ぶ。
「ウギャギャギャッ、ガガガッ、ウギャッ、グギャギャッ、ガフッ、ア……ゴブゥッ」
 ずぶずぶと彼の体内を貫いていく真っ赤に焼けた鉄の棒。絶叫を上げつづけていた少年の身体がやがてビクンと痙攣し、ごぼりと血の塊が吐き出される。それから後はもう悲鳴が彼の口から溢れることはなく、弱々しく動く唇の間から断続的に血の泡がこぼれるばかりとなった。見開かれた瞳にはぼんやりと膜がかかったようになり、ひくひくと身体が痙攣をみせるだけになる。群衆の間からやや落胆気味の溜息が溢れるが、しばらくして少年の口から鉄棒の先端が見事に顔をのぞかせると拍手と喝采が上がった。串刺しは性器、あるいは肛門から入れて口から出すのが最上とされるが、実際にはうまく口から出ることはほとんどない。うつぶせに拘束した甲斐あってというべきか、見事に口から杭の先端を出させることに成功した男たちへと、群集から惜しみない賛辞の声が浴びせられる。
「さて、引き続きソドムの男の処刑を行う。この男こそ主犯、かの者を忌まわしき道に引きずり込んだ張本人である。よって、性器を取り除いた後にかの者よりも更に太い杭で串刺しにするものとする」
 群衆の上げる歓呼の声がやや落ち着いた頃を見計らい、司会役のメイドがそう告げる。再び巻き起こる歓声を浴びながら、処刑人たちは磔台に拘束された青年のほうへと足を進めた。まだ熱した鉄棒は手にしておらず、代わりに一人はワニ型ペンチを、もう一人は肛門用の洋梨を持っている。
「ぐっ、うっ……!」
 まず、ワニ型ペンチを手にしたほうの処刑人がだらんと垂れ下がった青年の一物を挟み込む。ギザギザの刻まれたペンチで敏感な男性器をはさまれたのだから相当な痛みがあったはずだが、青年は僅かに苦痛の声を上げただけだ。歯を食いしばり、悲鳴を噛み殺している青年へと群集から罵声が飛ぶ。そんな青年の反応にも群集の罵声にも我関せずといった感じで、処刑人は無造作にペンチを捻り、青年の一物を根元から毟り取った。
「グッ、アッ、アアァッ!」
 ぶしゅううっと青年の股間から鮮血が迸り、流石に堪え切れなかったのか青年の口から苦痛の叫びが漏れた。もっとも、男性器を根元から毟り取られておいてこの程度の声しか上げないというのも、驚嘆すべき意志の強さではあるが。
「うっ、ぐっ、ぐぐぐ……ぐあぁっ!?」
 硬く目を閉じ、満面に汗を浮かべて苦痛に耐える青年の肛門へと、今度は洋梨が容赦なくねじ込まれる。メリメリメリッと肛門を押し広げ、洋梨が挿入される痛みに苦しげな呻きを漏らす青年。根元まで洋梨を挿入した処刑人が手元の螺子を操作し、その先端を割り開く。肛門を内側から引き裂かれることになった青年が、初めて目を見開き、苦痛の声を上げた。その間にも、洋梨の先端は開いていき、彼の肛門を引き裂いていく。
「あぐっ、ぐっ、あっ、うぐぐ……ぐうぅっ!」
 ぶちぶちと肛門の括約筋が引き千切られ、鮮血が滴る。身体が真っ二つになるのでは、と、そう錯覚するほどの激痛が青年を襲っているはずだが、僅かに頭を左右に振りたてながらくぐもった呻きを漏らすばかりで青年はなかなか絶叫を上げようとはしない。完全に洋梨が開ききり、青年の肛門を引き裂きながら引き抜かれてもそれは変わらなかった。群衆の間から、殺意にも似た憎悪の視線が青年へと投げかけられる。
 性器の引き千切りと肛門の拡張を終えた処刑人たちが、ついに串刺し用の鉄棒を手に取る。腕二本分ほどの太さの真っ赤に焼けた鉄柱。これが今から青年の体内へとねじ込まれるのだ。群集たちの歓声を浴びながら、処刑人たちは磔台に拘束された青年を見上げ、一人がその背後に回って磔台の後ろに取り付けられていたハンドルを回す。ぐぐッ、ぐぐぐっと磔台が上へと伸び、青年の股間が男たちの頭よりも高い位置にまで移動していく。
 青年の股間の下の窪みへと鉄棒がセットされ、今度はハンドルが反対に回される。青年の身体が下がっていき、ついに真っ赤に熱せられた鉄棒の先端に無残に引き裂かれた彼の肛門が触れた。その熱さに青年がびくっと身体を震わせ、僅かに顔をのけぞらせる。だが、それでも悲鳴を噛み殺すその姿に、群衆の間から小さな溜息が漏れた。処刑人の一人が棒の位置を微調整し、ハンドルを回す相方へと合図を送る。
「ぐっ、あっ、あぐぐぐぐ……!」
 ハンドルが回り、磔台が下がる。青年の肛門へと鉄棒の先端が入り込み、焼けた鉄棒が内臓を内側から焼く。苦痛の呻きを漏らし、青年が僅かに頭を揺らした。
 青年の前で鉄棒の位置を微調整していた処刑人が磔台の背後に回り、群衆の目に青年の全身を曝す。ことさらにゆっくりとハンドルが回され、じりじりと青年の身体が下がる。
「ぐあっ、あっ、ぐっ、ぐぐぐっ、ぐうううぅっ!」
 太い鉄の棒が体内へとねじ込まれていく痛み、真っ赤に焼けた鉄の棒が内臓を焼く痛み。普通であれば理性など残らず吹き飛び、絶叫を上げて身悶えることしか出来なくなるはずの激痛に、青年はなおもあがらい続けている。とはいえ、噛み殺しきれない呻き声は徐々に大きくなり、振りたてる頭の動きも激しくなっていってはいるのだが。
「あがっ、ぐっ、ぐぐっ、ぐああっ、ぐっ……ぐあああああああああああぁっ!」
 鉄の棒がおよそ肘から先ぐらいの長さまでねじ込まれた辺りで、ついに堪え切れなくなったのか青年の口から絶叫が溢れた。どっと歓声が上がり、一度絶叫してしまうともう押さえが効かないのか身体をよじりながら青年が濁った絶叫を上げつづける。
「ぐあああああああああぁっ! がっ、ぎっ、ぐぎゃあああああああああああぁっ!!」
 絶叫を上げ身悶える青年。その間にもハンドルは回されつづけ、じりじりと彼の身体は下がっていく。体内へとより深く鉄の棒が突き刺さり、内臓を押し広げ、引き裂き、焼く。
「ぎゃっ、ぎゃあああああああぁっ! うぎゃあああああああああああぁっ!!」
 青年の絶叫が広場へと響く。群衆が笑い、歓声を上げながらその光景を見守る。無表情にその様子を眺めていたミレニアが、青年が血を吐き出し、口から杭の先端を突き出させたのを見届けてからゆっくりと椅子から立ち上がった。処刑台のほうへ向けて歓声と拍手を送る群衆へと、淡々と呼びかける。
「これで、処刑は終わりです。ささやかながら食事を用意させました。楽しんでいってください」
 水を打ったかのようにしんと静まり返る群衆。彼らへと背を向けると、ミレニアは席の傍らに立つ子供っぽさを残したメイドの頭に軽く手を置いた……
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