四月十日 雨

 領主の座について初めて知ったのですが、実は領主がやるべき仕事というのはほとんどありません。領地の統治に関する様々な事は、どれも専門家の人がいるので、私が口を出すようなことがほとんど何もないのです。何かトラブルが起きれば別なんでしょうけど、少なくとも平穏な日々が続いている間は、特に私がしなければならないことというのはありません。
 確かに、領主様が仕事をしている姿というのは、私の記憶の中にはほとんどありません。カードゲームやボードゲームに興じたり、狩をしたりといったことばかりしていたように思います。それに、実際問題として、素人の私がうかつに口を出せばかえってよくない結果を招くことになるでしょう。
 一応、『生贄の娘』を拷問する、という仕事があることはあるのですが……これは、一日かけて行うような仕事ではありませんし、昨日は一日暇をもてあましていました。もちろん、領主様の死を発表し、同時に私がその地位を受け継ぐための様々な手続きをする、ということをしなければならないんですけど、その辺りの事務は全て執事のアルベルトさんがやってくれるので、私がしなければいけないことといえば彼の持ってくる書類にサインをすることぐらいです。
 アルベルトさんは、私は自分のやりたいことをやっていればいい、雑務は全部こちらでやるから、と言っていましたが、正直、私は無趣味な人間なのでそう言われても困ってしまいます。他の人たちが忙しく働いているところで一人何もしないでいると言うのは、結構辛いものがありますから。
 そんなわけで、今日もまた一日ボーっとしていなければいけないのかな、と、そう思っていたんですけど、昨日一日何もしないでずっと執務室の椅子に座っていたのを気にしたのか、アルベルトさんが仕事を用意してくれました。
 ……まぁ、その仕事が拷問だというのは、何故なのかと少し問い正したい気もします。もしかして、私は拷問をするのが好きなのだと、思われているのでしょうか? あっさりと肯定されそうなので、尋ねはしませんでしたが……。

 屋敷の地下に設けられた、拷問部屋。その一室に、十人近い女性たちが集められていた。いずれも若く、美しい女性たちだ。だが、その表情は一様に恐怖に染まっている。
 ここに集められた女性たちは、全て領主が以前側室として集めた女性たちだ。新たに領主となったミレニアは女性……側室などもともと必要ないが、そもそも領主の代替わりに際しては全領主の集めた側室は全て解雇して新たに集めなおすのがここに限らずこの時代のしきたりである。もっとも、ここブラッデンブルグ家においては、解雇ではなく処刑という形で処理するのだが……。
側室になれば豊かな暮らしが出来る代わりにいずれ残酷な死が訪れる。そのことを承知で側室としてこの屋敷に来た彼女たちではあるが、やはり目前に死が迫れば平静ではいられないらしく、互いに低い声で囁きあったり身体を震わせたりしている。
 と、軋んだ音を立てて扉が開く。部屋の片隅に固まっていた女性たちが一斉に恐怖の視線を扉に向けた。ゆっくりと室内へと足を踏み入れた人物を目にして、彼女たちの間から短い悲鳴が漏れる。
「……今から、あなたたちを拷問します」
 後ろ手に扉を閉めながら、入ってきた人物、ミレニアが静かにそう告げる。女性たちの間から再び引きつった悲鳴があふれるが、ミレニアは表情一つ変えない。
「最初は、あなたです」
「ひっ、いぃっ。お、お許しを、お許しを、領主様っ」
 指差された二十代前半の栗毛の女性が恐怖に顔を引きつらせて哀願の声を上げる。がたがたと震える彼女から視線を壁際に立つ下男のほうへと移し、ミレニアが無表情に命じた。
「トムス。彼女を連れてきて」
「う、うあ」
 不明瞭な声で答えると、トムスが無造作に震える女性へと歩み寄り、腕を掴んで引きずり起こす。ひっと小さな悲鳴を上げるものの、恐怖がその身体を縛っているのか女性は大きな抵抗を見せようとはしない。半ば引きずられるようにして連れてこられた女性へと無表情に一瞥を向けると、ミレニアは壁から生えた短い鎖で彼女の手足を拘束した。
「ひっ……あ、あぁ……御慈悲を……領主様……」
「……」
 震える女性の言葉には答えず、ミレニアが壁にかけられていたイバラ鞭を手に取る。無造作に振るわれた鞭が、恐怖に震える女性の身体を打ち据えた。
「ぎゃああああああぁぁっ! あぎっ、ぎいいぃ……」
 身に着けていた粗末な服もろとも、肌と肉とが鋭い棘に引き裂かれ、鮮血を撒き散らす。悲鳴を上げて顔をのけぞらす女性のことを無表情に見やり、ミレニアが再び鞭を振るう。
「ぎゃあぁっ! ひぎいいぃっ!」
 絶叫を上げて身悶える女性の姿に、部屋の隅に集められた他の女性たちが顔を背け、恐怖に身体を震わせる。だが、無言・無表情のまま、ミレニアは更に鞭を振るい続ける。
「ひぎゃあああぁっ! うぎゃっ! ギイヤアアアアアァァッ!!」
 肉を打つ鈍い音が響くたび、女性の口から凄絶な絶叫があふれる。引き裂かれた布地がたっぷりと鮮血を吸い、宙を舞う。女性が身悶えるたびにガチャガチャと鎖が鳴り、床の上に広がった血溜まりへと新たな鮮血が滴って波紋を広げる。
「ハグゥッ! ヒギャッ! ウギャアアァッ!!」
 一定のリズムで、執拗に繰り返される鞭打ち。身に着けていた衣服の大半が引き千切られ、全身をずたずたに引き裂かれた女性が苦痛の叫びを上げながら激しく身悶える。その様子を、表情一つ変えずに見つめながら、ミレニアが淡々とイバラ鞭を振るう。
「あぐ、あぐぐ……ひぐうぅ……」
 数十度目の鞭を受けた女性が、掠れた呻きを漏らしてがっくりと首を前に折った。痛みのあまり、意識を失ったらしい。もっとも、執拗な鞭打ちによって肌はぼろ雑巾のようにずたずたに引き裂かれ、かなり大きな血溜りが足元に広がっているから、大量出血が失神の原因なのかもしれないが。ともあれ、そんな無残な姿になった女性のことを無表情に見やり、無言のままミレニアが彼女の元へと歩み寄って鎖を外す。びちゃっと湿った音を立て、自らの流した血溜りの上へと倒れこんだ女性をやはり無表情に見やるミレニア。
「トムス。彼女を、外へ」
「うあ」
 血塗れになった女性をトムスが抱え上げ、部屋の外で待機していた医師へと引き渡す。ぐっしょりと血で濡れたイバラ鞭を壁に戻すと、ミレニアは視線を部屋の隅へと向けた。
「次は、あなたです。こちらへ」
「ひっ!? あ、あぁ……お許しを、領主様……お許しを」
 指名を受けたミレニアと同い年ぐらいの少女ががたがたと身体を震わせる。石造りの拘束台のほうへと足を進めながら、ミレニアが前髪を左手でかきあげる。
「来い、と、言ったのが、聞こえませんでしたか?」
「あ、あぁ……」
 絶望の呻きを漏らし、ふらふらと少女が立ち上がる。操られてでもいるようなおぼつかない足取りでやってきた少女へと服を脱いで拘束台の上へと寝るように命じると、ミレニアは台の上に置かれていた大き目の洋梨を手に取った。半分気絶したような状態になりつつ、ミレニアの言葉に逆らうだけの気力がないのか少女は言われたとおり服を脱ぎ、拘束台の上に裸体を横たえる。廊下から戻ってきたトムスへと洋梨を預けると、ミレニアは震える少女の手足を皮製のベルトで台に拘束した。
「いや……許して……あぁ……」
 掠れた声で哀願する少女を無表情に見やり、ミレニアがすっと右手を彼女の股間の辺りへと伸ばす。うっすらとした茂みに覆われた少女の秘所にミレニアの指が浅く入り込むと、ひっと引きつった悲鳴を少女が上げた。
「いっ、痛っ」
「……あなたは、まだ、処女でしたね、そういえば」
 割れ目から指を引き抜きながらミレニアが独白とも質問ともつかない口調でそう呟く。少女がうっすらと目に涙を浮かべて頷く。彼女はミレニアが正妻となる直前の募集で側室となったのだが、ミレニアを妻としてからは領主は他の女を抱く頻度が激減した。その結果、彼女は側室としてこの屋敷に来ながら、一度も領主の相手をすることなく、今日の日を迎えたのである。
「お許しください、領主様……側室とはいえ、私は名ばかりだったんです。どうか、御慈悲を……」
 少女の言葉に、ミレニアは無言のままトムスのほうへと手を差し出した。手渡された鋼鉄製の洋梨を、少女の股間へと当てる。ひんやりとした感触に、少女がひっと悲鳴を上げ、逃れようとするかのように身を捩じらせた。もちろん、そんなことをしても、拘束されている以上無駄なのだが。
「お許しをっ、どうかっ、御慈悲を……イギャアアアアアアアアアアァァッ!!??」
 哀願の声を上げる少女の秘所へと、ミレニアが洋梨を押し込む。ぶちぶちぶちっと肉を引き裂きながら、男の男根などよりよほど太い洋梨が未開通の秘所を蹂躙した。零れ落ちんばかりに目を見開き、少女が獣じみた絶叫を上げる。
「イギッ、ヒッ、ヒギイィッ! 裂けるっ、ざけるうぅっ! 抜いてっ、抜いでぇっ!!」
「流石に、かなり、きついですね」
 激しく首を左右に振りたて、絶叫をあげる少女。無表情に小さく呟くと、ミレニアは更に捻るように洋梨を狭い少女の秘所へとねじ込んでいく。引き裂かれた秘所からあふれる鮮血がべっとりと洋梨や少女の太股、拘束台を濡らす。
「ウギャアアアアアアアアアァァッ!! 死ぬっ、死んじゃうっ、ヒギャアアアアアアァァッ!!」
 身体を真っ二つにされていくような激痛に、少女が激しく身体をのたうたせ、絶叫する。完全に洋梨の胴体部分を少女の胎内へと埋め込むと、ミレニアは無造作に洋梨の根元の螺子を回した。少女の身体の中で洋梨の先端が開き、既に引き裂かれた柔肉を容赦なく押し広げていく。
「ウギャギャガギャッ、ヒギャアアアアア~~ッ!! ジヌウウゥゥッ! ウギャアアアアア~~~~ッ!!」
 若い娘があげるものとも思えない濁った絶叫を上げ、少女が身悶える。水でもかぶったかのように全身を脂汗で光らせ、零れ落ちんばかりに目を見開き、口の端に泡を浮かべて泣き叫ぶ。
「トムス」
 無表情に螺子を回し続けていたミレニアが、完全に洋梨が開ききったのを確認して下男を呼ぶ。のっそりと歩み寄ってきたトムスに洋梨の柄を握らせると、ミレニアはぽっこりと下腹部を膨れ上がらせ、苦痛の叫びを上げ続けている少女の頭のほうへと回りこんだ。
「それを、引き抜いてください」
「う、うあ」
 ミレニアの言葉に、トムスがぐっと手に力を籠める。びくんっと身体を跳ねさせ、少女がますます激しく絶叫する。ミレニアがのたうつ少女の胸に掌を触れさせるのとほぼ同時に、トムスが足を踏ん張り、一気に少女の秘所から洋梨を引き抜いた。
「ウッギャアアアアアアアアアァッァァアアアァァ~~~アアアァァッ!!!」
 断末魔じみた絶叫を上げ、少女が弓なりに身体をのけぞらせる。少女の胸を押さえた手から伝わってくる痙攣を楽しんででもいるかのように、ミレニアはじっと少女の顔を見つめていた。相変わらず、そこには何の表情も浮かんではいなかったが。
「あ……が……あ、が……ぁ……」
 ぶくぶくと口から泡を吹き、白目を剥いて少女が悶絶する。開いた状態のままの洋梨を無理やり引き抜かれた彼女の秘所は無残に裂け、どくどくと鮮血をあふれさせていた。びくっ、びくっと時折思い出したように痙攣する少女の身体から手を離すと、ミレニアは無言のままベルトを外し、少女を拘束台から解放する。
「次は……あなたです」
 悶絶した少女を廊下に運び出すようにトムスに指示すると、ミレニアが次の犠牲者を指名する。指名を受けた女性が絶望の呻きを漏らしながら、ふらふらと立ち上がった。
「服を脱いで、ここに座って」
「う、ううぅ……」
 ミレニアが指し示した、鋼鉄製の審問椅子。針の植えつけられた凶悪な椅子を目にして、女性ががたがたと全身を震わせる。椅子の前まで進み出はしたものの、服に手をかけたところで恐怖のためか彼女の動きが止まる。
「自分で座れないのであれば、無理矢理座らせることになりますが……」
「ひっ!? す、座りますっ、座りますからっ」
 逡巡をみせる女性へと、ミレニアがぼそっと呼びかける。びくっと身体を震わせ、女性は慌てて身に着けた衣服を脱ぎ捨てた。ごくっと唾を飲み込むと、恐る恐る針の生えた椅子へと腰を下ろす。
「あ、ぐ、ぐううぅ……い、痛い、痛いぃ……」
「まぁ、痛いでしょうね。もっとも、本当の苦痛は、これからですが」
 淡々とした口調でそう言うと、ミレニアがベルトで女性の手足を拘束する。腕や足、更に背もたれに押し付けられた背中にも針が刺さり、鮮血を滴らせた。苦痛の呻きを漏らす女性を無表情に見つめると、ミレニアは壁の棚へと足を向け、乳房挟みを取り出した。二枚の木の板を螺子でつなぎ合わせたもので、間には何本もの鋭い針が植えつけられている。
「ひいっ、ひいいいぃっ! 痛いっ、痛い痛い痛いいぃっ!」
 豊かな乳房を二枚の板で挟みこまれ、女性が甲高い悲鳴を上げる。板に植えつけられた針が乳房へと食い込み、血を滴らせていた。何とか苦痛から逃れようと、無駄な足掻きを見せる女性のことを無表情に見つめながら、ぎりぎりぎりっと螺子を回していくミレニア。二枚の木の板の間隔が狭まり、針が乳房へと更に深く食い込む。
「ひぎゃああああぁっ、痛いっ、胸がっ、胸が千切れるっ、ひぎいいいぃっ!」
 針が乳房の中に完全に埋め込まれ、今度は板が乳房を上下から挟み込んで押し潰し始める。髪を振り乱し、苦痛を訴える女性のことを、相変わらずの無表情で見つめるミレニア。身悶える姿も、泣き叫ぶ声も、共にまるで無視してでもいるかのように、一定のペースで螺子を回し、締め上げを強めていく。
「ぎいっ、ぎひいいぃっ、いやっ、やめてっ、許してっ、痛いっ、胸がっ、ああっ、ああっ、あああぁっ!」
 苦痛に身悶える度、審問椅子の針が彼女の尻や背を引き裂く。だらだらと全身から血を流しつつ、懸命に哀願する女性へと、ミレニアは無言で答えた。手を休めることなく、ぎりぎりと女性の乳房を締め上げていく。
「千切れっ、ぎいっ、胸がっ、ああぁっ、ひっ、ひぎいいぃっ、あっ、ああぁっ、痛いっ、許してっ、ひぎゃあぁっ、御慈悲をっ、千切れてっ、しまいますっ、うぎゃああぁっ」
 びくっ、びくっと大きく身体を痙攣させると、女性ががっくりとうなだれた。口の端から涎の糸を垂らして失神した女性のことを、軽く首を傾げてミレニアが見やる。
「もう、気絶しましたか。胸を引き千切る予定だったんですけど……まぁ、いいでしょう」
 ぼそぼそとそう呟くと、ミレニアが視線を部屋の隅へと向ける。恐怖にびくっと身体を震わせた女性たちを見やり、ミレニアがすっと右手を上げる。
「次は……あなたと、あなたです」
「え?」
「ふ、二人……?」
 指差された二人の少女たちが動揺の声を上げる。だが、無言のままのミレニアのまなざしを受け、二人は慌てて立ち上がった。すっとミレニアが視線を横に動かし、奇妙な形をしたロバのほうを見やる。
 奇妙な、といっても、基本的な形状そのものは変わらない。鋭角の頂点を持つ木製の胴体。鉄で補強されたその上部は光を反射して鈍い光を放ち、胴体部分は多くの血を吸ったのか黒ずんでいる。
 普通のロバと異なっているのは、その下部だ。四本の足が胴体から延びているのは変わらないが、それらは直接床についているのではなく、湾曲した板にくっつけられている。ちょうど、安楽椅子のような感じだ。もっとも、このロバにまたがってリラックスするのはまず無理だろうが。
「服は、脱いで」
「は、はい……」
 震えながら、二人の少女が服を脱ぐ。年は二人ともミレニアよりやや若いぐらいだろうか。黒髪を長く伸ばしたほうの少女は細身に身体に小ぶりの胸、淡い金髪を短くしたほうの少女は小柄な身体に似合わぬ豊かな胸の持ち主と、対照的な印象の少女たちだ。だが、二人とも、相似形といってもいいほどよく似た表情を浮かべている。
 無言のまま、ミレニアが二人の腕に天井から延びた鎖を巻きつける。鎖を巻き終えると、がちがちと歯を鳴らす二人のことを無言で見つめながら、ミレニアはすっと手を上げ、トムスに合図を送った。
「うっ、ううぅ……怖い、怖いよぉ……」
「くっ……」
 巻き上げ機が動き、二人の少女を吊り上げていく。二人の腰がロバの頂点を越えた辺りまで来たところでミレニアがトムスに巻き上げ機を止めるよう告げ、更にロバを運ぶよう新たな指示を与える。
「またいで」
 少女たちの真下にまでロバが運ばれると、ミレニアが淡々とした口調で命じる。ロバが足に当たり、微妙に身体を斜めにしていた少女たちがごくっと息を呑みながら、足を上げて鋭角のロバの頂点をまたぐ。トムスに手伝わせながら、少女たちの足に重そうな石をミレニアが吊るすと、二人の口から苦痛と恐怖の呻きが漏れた。がちがちと歯を鳴らす二人のことを無表情に見上げると、ミレニアはトムスに二人の身体を下ろすように命じる。
「うあっ、あああぁっ!」
「くひいぃぃっ!」
 ロバの両端に向かい合うように下ろされた少女たちが、股間に食い込むロバの痛みに悲鳴を上げて身をよじる。安定の悪いロバが二人の動きによってぐらぐらと揺れた。そして当然、その動きはロバにまたがった二人の少女の股間を更にえぐる。
「ひぎいいぃっ!? う、動かないでっ、ぎゃあああぁっ!」
「あ、あなたこそっ、あぎゃあああああぁっ!」
 互いの動きが互いを痛めつける。悲鳴を上げながら互いに相手に動かないように叫ぶが、激しい苦痛に苛まれながらでは動かないようにするのは難しい。それでも、二人は自らの苦痛を抑えようと、懸命の努力を払って何とか動きを止めようとし、それは何とか成功した。はぁ、はぁと荒い息を吐き、全身にびっしょりと汗を浮かべて股間を襲う痛みに耐える少女たち。無言のままミレニアが壁からさっき使ったイバラ鞭を手に取り、無造作に振るう。
「ヒギャアアアアアァッ!?」
 背中をイバラ鞭で打たれた黒髪の少女が悲鳴を上げて身体をのけぞらせる。ぎしっとロバが軋んだ音を立てて動き、反対側にまたがる少女の股間をえぐりつつ突き上げる。
「あぎっ!? ばっ、馬鹿っ、動かないでよっ!」
「そ、そんなこと、言ったって……」
 苦痛の叫びを上げた金髪の少女が目に涙を浮かべながら罵りの声を上げる。苦痛に途切れ途切れになりながら、抗議の声を上げかける黒髪の少女。そこへ、ミレニアが再びイバラ鞭を振るう。
「ウギャアアアアアアァッ!?」
「ぐひいぃっ!! あ、あなたこそっ、動かないでっ」
 今度は金髪の少女の背をイバラ鞭が襲う。悲鳴を上げて身体をのたうたせる金髪の少女。その動きがロバを揺らし、股間を突き上げられた黒髪の少女が悲鳴を上げて相手を非難する。はぁっ、はぁっと息を荒らげつつ、何か言い返そうとした金髪の少女だが、それより早くミレニアの振るうイバラ鞭が黒髪の少女を捕らえた。
「ヒギャアアアアアアァッ!」
「あぐぁっ! 動かっ、ないでっ! 痛いっ。
 イギャアアアアアアアァッ!?」
「ひぐうぅっ! 動かないでっ、裂けるっ、うあぁっ。
 ギヒイイイイィッ!?」
 無言のまま、ミレニアがイバラ鞭を振るい、二人の少女の背を交互に打ち据える。そのたびに打たれた少女の身体が跳ね、ロバが軋んだ音を立てて動き、もう一人の少女が股間をえぐられる痛みに叫び声を上げる。
「ア~ッ、ア~ッ、アア~~ッ! 動かないでっ、馬鹿ぁっ! ヒギャアアアアアァッ!」
「ギヒイイイィッ! そっちこそっ、我慢してよっ! アアアアアアァァッ!」
 苦痛に身悶えながら、揺れるロバの上で罵りあう二人。二人が何とか身体の動きを止めようとし、ロバの揺れが小さくなり始めるとミレニアがイバラ鞭でどちらかの身体を打ち据える。打たれたほうは苦痛に身体を跳ねさせ、その動きがロバの動きを再び大きくし、打たれなかったほうも股間をえぐり上げられる痛みに身体をのたうたせて結果的にロバの動きをますます大きくしてしまう。
「痛いっ、痛いってばっ! 動かないでぇっ! グヒイイイィッ!」
「アッ、アアッ、アアアアァッ! そっちこそっ、動かないでっ! ヒグウウゥッ!」
 揺れるロバでえぐられた股間からどくどくと血を流し、イバラ鞭で引き裂かれた背中を真っ赤に染めた二人の少女が、互いに苦痛に泣き叫びながら憎悪の視線を向けあう。冷静に考えれば、二人が恨むべきは互いではなく、この状況を作り出したミレニアなのだが……。
 苦痛に身体をのたうたせ、泣き叫びながら罵りあう二人の少女。無言・無表情のまま、ミレニアは二人の狂乱を見つめ、時折イバラ鞭を振るう。
 やがて、激しかった二人の少女の身悶えが次第に緩慢になってきた。どちらもかなりの量の血を流しているから、それも無理はあるまい。ミレニアの振るったイバラ鞭が黒髪の少女の背を捉えると、濁った悲鳴を上げて彼女は首をがっくりと前に倒し、意識を失った。相手が意識を失ったことでロバの揺れが収まり、金髪の少女のほうが息を荒らげながらすがるような視線をミレニアに向ける。
「も、もう、お許しを……領主さまぁ……」
「そう、ですね。トムス」
 鞭を振るう手をいったん休め、ミレニアがトムスを呼ぶ。ミレニアの指示を受けたトムスが意識を失った黒髪の少女を足に吊るされた石もろとも抱え上げ、ロバの上から下ろした。黒髪の少女が下ろされたことで金髪の少女がまたがっているほうが下がり、苦痛の呻きが彼女の口から漏れる。
「あ、ううぅ……早く……降ろして、ください……痛いぃ」
 少女の訴えに、ミレニアは無言のまま壁の巻き上げ機のほうに足を進める。彼女の手によって巻き上げ機が操作され、意識を失ったまま宙吊りになっていた黒髪の少女の足が床についた。ロバにまたがったままの金髪の少女の腕に巻きついた鎖も同様に緩んだわけだが、彼女のほうの状況はほとんど変わらない。せいぜい、上半身を動かせる範囲が広がった程度で、しかも迂闊に身体を動かせば股間に激痛が走る。
「りょ、領主様……お願いです……早く……」
 苦痛に身体を震わせながら、ロバにまたがらされたままの金髪の少女が哀願する。意識を失ったままの黒髪の少女から錘の石と手首を捉える鎖を外す作業をしていたミレニアが、すっと無言のまま彼女に視線を向けた。特に睨むというほど強い視線ではなかったのだが、金髪の少女がひっと息を呑んで沈黙する。
「トムス。彼女を、外へ」
 手首の鎖を解かれ、どさっと床の上に倒れこんだ黒髪の少女を指差しながら、ミレニアがそう命じる。不明瞭な声で答えると、トムスが意識を失いぐったりとしている少女を抱え上げ、部屋の外へと運び出す。それを見送ると、ミレニアはロバの胴体、つい先刻まで黒髪の少女がまたがらされていた辺りに掌を置いた。はっと目を見開く少女の顔を見上げ、ミレニアがべっとりと血に濡れたロバの胴体に両手をかけてぐっと押し下げる。
「ひぐうぅっ!? あっ、あぎぃっ!」
 ミレニアの力ではそれほど大きな動きにはならなかったが、それでもロバの背で股間をえぐられる少女にとってはかなりの苦痛だったのだろう。濁った悲鳴を上げて少女が顔をのけぞらせる。無言のままミレニアが手の力を緩めると、少女の体重によってロバの片端が下がった。
「な、なんでっ!? どうして……ヒギャアァッ!」
 自分もすぐに解放されるものと信じていた少女が、意外な展開に動揺の声を上げる。もっともなことだろうが、ミレニアはその問いにも答えようとはせず、再び無言のままロバを揺り動かした。既に引き裂かれた股間を更にえぐられ、少女が絶叫する。
「あっ、あっあっあっ、うがぁあぁあぁあぁあぁあぁっ! ひっ、ひぐううぅうぅっ!」
 ミレニアが無表情にロバを揺り動かす。身体をくねらせ、半狂乱になって泣き叫ぶ少女が、激痛に翻弄されながらも懸命に許しを請う。
「お許しをッ、あがぁっ、ひっ、ヒグウウゥッ、りょ、領主さまっ、うぎゃああぁっ、痛いっ、あぎっ、御慈悲を、うぎゃあぁっ、彼女はっ、ひぎいっ、許された、あああああぁっ、ではっ、ぐぎゃああぁっ、ないですかっ、ひぎいぃっ、何故っ、あああぁっ、私だけっ、あぎゃがあぁっ、ぎひいいぃっ」
「……気絶した人間を、それ以上責めても、仕方ないですから」
 表情一つ変えることなく、ロバの胴体を揺さぶる手を休めることもなく、ミレニアがそう答える。ぐっとロバの胴体を押し下げながら、ミレニアは軽く首をかしげた。
「気絶したら拷問は終わり、ですが……致命傷になるまで、気絶せずに耐え続けたほうが、結果的には、苦しまずに済むのかもしれませんね」
「うあぁっ、ああぁあぁあぁあぁっ、ひぎゃああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!!」
 少女に向かって言っているとも、ただの独り言ともつかない口調で呟きつつ、ミレニアはロバを揺さぶる手を休めない。既にトムスは部屋の中に戻ってきており、力仕事をさせるのであれば彼に命じたほうが楽だろうに、それもしない。気でも違ったかのように激しく身体をのたうたせつつ、絶叫を上げ続ける少女のことを無表情に見つめたまま、ミレニアは淡々とロバを揺さぶり続けている。
「あっ、がっ、あぁっ。う、ぐううぅ……」
 どれほどの時間がたったのか、ついに掠れた呻きを漏らして金髪の少女も意識を失う。客観的には短い時間だったのかもしれないが、責め苛まれている少女、更に彼女の絶叫を延々と聞かされ続けた残りの女性たちにとっては永遠にも等しい時間に感じられたかもしれない。ともあれ、少女が意識を失ったことで彼女への今日の拷問は終了ということになり、ミレニアが気絶した少女を外に運び出すようにトムスに告げる。
「さて、半分は終わったわけですが……」
 残された四人の女性たちのほうに視線を向け、ミレニアがそう呟く。掌についた鮮血を舐め取る彼女へと、拷問の順番を待つ四人の女性たちの中から一人が立ち上がり、声を上げた。
「りょ、領主様、お願いがございます」
 二十代も半ばを過ぎた、赤毛の女性が震える声でそう言う。すっと僅かに目を細め、ミレニアが彼女の顔を見やる。
「せめて、一思いに殺して欲しい、ですか?」
「は、はい……どうか、御慈悲を」
「ずいぶんと、虫のいい話ですね」
 声を震わせる女性へと、ミレニアがぼそり、と、呟く。ひっと短く息を呑んだ女性の瞳を正面から見つめ、ミレニアが言葉を続ける。
「側室となった時点で、今日のような日が来ることは、覚悟していたはずですが?」
「そ、それは……」
 顔を白くして視線を逸らす女性へと、ミレニアが軽く頭を振って言葉を続けた。
「まぁ、いいでしょう。死ぬ確率が高いので、今日やるつもりのなかった拷問ですが、あなたがそれを望むというのならば、やってみましょうか。こちらへ」
「ひっ!?」
 墓穴を掘ったことに気づいたのか、白を通り越して土気色に顔色を変えて女性が呻く。そんな彼女の反応を気にした様子もなく、ミレニアは拘束台のほうに足を進めた。動こうとしない女性へと、肩越しに振り返ったミレニアが視線で来るように再度促す。絶望の呻きを漏らし、ふらふらとした足取りで女性が拘束台--彼女にとっては処刑台か--へと歩み寄る。
「服を脱いで、そこに寝て」
「あ、あぁ……」
 がちがちと歯を鳴らしながら、女性がのろのろと服を脱ぐ。死やこれから行われる拷問への恐怖を、ミレニアの命令に逆らうことへの恐怖が上回り、逆らう気力もないらしい。ひんやりとした石造りの拘束台の上に裸身を横たえた女性の手足を、革のベルトではなく鉄の輪で固定するとミレニアは壁の棚へと足を向けた。
「そうですね、死ねるよう、神に祈りなさい。運が悪ければ、生き延びてしまいますから」
 棚から取り出した壷の中身、粘性の高い黒っぽい液体を刷毛で女性の手足に塗りつけながら、ミレニアがそう告げる。がちがちと歯を鳴らしながら絶望の呻きを漏らす女性のことを無表情に見つめると、ミレニアは壁にかけられていた松明を手に取り、無造作に彼女の右腕へと押し当てた。ぼわっと勢いよく炎が上がり、女性が大きく目を見開いて弓なりに身体をのけぞらせる。
「ギャアアアアアアアアアアァァ~~~ッ!! 熱いっ、熱いぃっ! ヒギャアアアアアアアア~~~~ッ!!」
 タールを塗りつけられた腕があっという間に炎に包まれ、女性が絶叫を上げて激しく頭を振りたてる。コツ、コツ、コツと小さな靴音を立てながらミレニアが拘束台を回り込み、泣き叫ぶ女性の左腕に松明の炎を押し付けた。
「ウッギャアアアアアアアァァッ! 燃えるっ、腕っ、がっ、ヒギャアアアアアアァァッ!! 熱いっ、熱いぃッ、ギャアアアアアアアアァァ~~~ッ!!」
 両腕を燃え上がらせ、ばたばたと激しく身体を暴れさせて女性が絶叫する。ゆっくりとした足取りでミレニアが女性の足のほうへと歩を進め、無造作に左足へと松明の炎を押し当てる。
「ウギャギャギャギャッ、ギャアアアアアアアアアァァ~~~ッ!! 足いぃっ、熱いッ、ヒギャアアアアアァァッ!!」
 両腕と左足とを炎に包まれ、女性が狂ったように身体をのたうたせて絶叫する。その凄惨な姿を表情一つ変えずに見つめ、ミレニアは最後に残った右足のほうへと足を進めた。
「ギャアアアアアアアァァアアアァアアァアァアアァアア~~~~ッ!!!」
 右足に松明の炎が押し当てられ、炎が足全体を包み込む。両手、両足に炎をまとい、音程の狂った絶叫を上げて女性は激しく身悶えた。黒っぽい煙が上がり、肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。
「火がっ、火がああぁっ! ウッギャアアアアアアアアアァァァッ!!」
「燃えるっ、燃えてるっ、ギャアアアアアアアァッ!! ウッギャアアアアアアァァッ!!」
「熱いっ、アアアアアァッ、腕っ、足っ、火っ、ヒギャアアアアアアアアァァッ!!」
 耳を覆いたくなるような濁った絶叫を上げ、狂ったように激しく身悶える女性。常人なら正視に耐えないその凄惨な姿を、ミレニアは眉一つ動かさずじっと見つめている。
「アーッ、アーッ、アーッ、アーッ! アヅイイィッ!!」
「ジヌッ、ジンジャウッ、ジヌウウゥッ! ウギャアアアアアアアァアアァアアァアアァアァアァアッ!!」
「ギャアアアアアアアアァッ! ヒギイィィィッ!! ウギャアアアアアアアアアァッ!!」
 喉も裂けよとばかりに絶叫を続ける女性。生きながら焼かれる苦しみは筆舌に尽くしがたい。魔女の火刑ですら、『慈悲』と称して火を放つ直前に殺しておくのが通例であるほどの、苦痛なのだ。しかも、焼かれているのが手足のみで、苦痛は尋常ではないにもかかわらずなかなか致命傷には至らない。
「ダズゲッ、ウギャアアアアアァッ!! 熱いッ、イギャアアアアアアアァッ! ジンジャウウゥッ!」
 周囲に立ち込める、肉の焼ける嫌な臭い。凄惨な光景から、目を逸らすことが出来ずに凝視していた側室たちが、耐えかねたように嘔吐を始める。頭の働きが鈍く、大抵の光景にはろくに反応を見せないはずのトムスですら、顔を背けた。
「ウギャGaギャッ、ヒギャあぁGiギャッ、ギャヒイいィッ、ウッギャアアぁアァッ」
 苦痛のためか、滅茶苦茶になった絶叫を上げて女性が身体をのたうたせる。その光景を、ただ一人、ミレニアだけがじっと見詰めていた。何の表情も浮かべずに。
「ギャッ、ギャギャギャッ、ヒギャアアアガガアァアァアァアァアァアアッ!! ギャッ! ギッ! ウギャガアアアアァッ」
 勢いを衰えさせる気配も見せず、炎が燃える。衰えることのない激痛に、陸に上がった魚のように激しく身体を跳ねさせ、絶叫を上げ続けることしか出来ずにいる女性。しかも、タールを塗られて勢いよく炎を上げる手足から、じわじわと炎が胴体部分へと燃え広がっていき、女性の苦痛を更に大きくしていく。
「ヒギイイィァアアギャアアアアアァッ!! ギャ~~ッ、ウギャアァ~~ッ、ジヌウゥッッ、ギャアアアァ~~~ッ!!」
「熱いっ、ヒギャアアアアァ~~ッ、ア~ッ、ア~ッ、ア~ッ、ア~ッ、ア~~ッ!!」
 既に、炎に包まれていない部分のほうが少なくなったような状態で、凄絶な絶叫を上げる女性。その姿を無表情に見つめるだけで、ミレニアは何の動きも見せようとはしない。ただ、無言・無表情で見つめているだけだ。
「殺してっ、もうっ、ゴロジデェッ、ウッギャアアア~~アアァ~~アア~~ッ!!」
「心配しなくても、ちゃんと死ねますよ。思ったより、火の回りが速いようですから」
 首から下を炎に包まれ、絶叫する女性へと、ミレニアが淡々とした口調でそう告げる。その言葉が耳に届いていないのか、女性は激しく身体をのたうたせながら絶叫を上げ続けた。
「アギャアアアアアァッ、ゴロジデェッ、アヅィイィッ、ウギャアアアアアアァッ!」
「ジヌッ、ジヌジヌジヌゥッ! ギャビャガアアアアア~~~~ッ!!」
「アギャギャギャギャッ、ヒギャッ、アヅィッ、ウギャアアァアァアァアァアアァア~~~ッ!!」
 炎に包まれ、絶叫を上げる女性。その無残な姿をミレニアはただ見つめ続けた。炎が消えるまでずっと無表情のままで。
「……さて。彼女は望み通り死ねた訳ですが……他にも、こうなりたいという人はいますか?」
 炎が消え、黒く焼け焦げた死体となったのことを見やり数度瞬きをすると、ミレニアが視線を部屋の隅へと向けてそう問いかける。あまりにも凄惨な光景に嘔吐を繰り返していた側室たちが、一斉にぶんぶんと首を左右に振った。
「そう、ですか。では、最初の予定通り、行うとしましょう。そこのあなた」
「ひっ!? わ、私、ですか!?」
「そう、あなたです。服を脱いで、そこへ」
 表情を引きつらせた女性へと、ミレニアが血に染まった審問椅子を指し示す。
「先ほどは、途中で気絶してしまいましたから。あなたは、最後まで気絶せずにいれるといいのですけれどね」
「さ、最後って……胸を引き千切る、とか、さっきおっしゃって……?」
 信じたくないといった表情で、声を震わせながら問いかける女性へと、ミレニアが無表情に頷く。
「まぁ、途中で気絶してしまったら、仕方ないですが。気絶しなければ、胸を引き千切るところまで、いくつもりです」
「そっ、そんなっ。そんなことをされたら、死んでしまいますっ。どうか、どうかお許しをっ」
「胸を引き千切られたぐらいで、死にはしません。死んだほうがましだと思うほどの、激痛を味わいはしますが」
 狼狽する女性へと、淡々とミレニアが応じる。大きく目を見開いて絶句した彼女へと、ミレニアがすっと僅かに目を細め、言葉を続けた。
「自分で座れないのであれば、無理矢理座らせることになりますが?」
「ひっ、いっ」
 ミレニアの言葉に、女性が短く息を呑んで首をぶんぶんと横に振る。
「座りますっ、自分で座りますからっ。どうか、御慈悲をっ!」
 審問椅子に座るのも、その後で乳房を締め上げられ、引き千切られるのももちろん怖いし嫌だ。だが、ここで座ることを拒絶すれば更に痛めつけられ、結局は座らされることになる。ならば、自分から進んで座ったほうが余計な苦痛を味あわずに済む分、まだましだ、と、そう判断したのだろう。すがるような必死の表情で彼女は叫んだ。
「……そう」
 すっと足元に視線をいったん落とし、ミレニアがそう呟く。その態度が、いかにも残念そうな姿に見えたのだろう。ミレニアがやはり痛めつけてから座らせよう、と、そう気を変えないうちにとばかりに、慌しく女性が服を脱ぎ捨て審問椅子へと駆け寄る。既に血に濡れた審問椅子を恐怖に表情を引きつらせながら一瞬凝視すると、彼女はどすんと勢いよく無数の針の植えつけられた審問椅子へと腰をおろした。
「うぎゃっ! ぎひいぃっ」
 審問椅子に腰掛けた女性が、濁った悲鳴を上げて飛び上がり、床の上へと倒れこむ。尻や背中からだらだらと血を流しながら、ひぃひぃと喘ぐ彼女のことをミレニアが無表情に見やる。
「あんなに勢いよく座れば、痛いのは当たり前でしょうに」
「あう、あ、あうぅ……」
「どうします? 座るのが嫌だというのであれば……」
「ひっ、座りますっ、座りますからぁっ」
 ミレニアの言葉を半ばで遮り、女性が慌てて立ち上がる。さすがに懲りたのか、今度はそろそろとゆっくり審問椅子へと腰掛ける女性のことを、ミレニアは無言で見つめている。
「うっ、ぐっ、うっ、ううぅっ、痛い……痛いぃ……」
「それでは、はじめましょうか」
 ぼろぼろと涙を流しながら、苦痛に呻く女性。彼女のことを無表情に見やり、感情を感じさせない口調でミレニアがそう呟く。革のベルトで手足や胴体を審問椅子に固定されていく女性が、より深く食い込む針の傷みに悲鳴を上げ、身をよじるが、ミレニアはその反応を気にも留めていないかのように、無言のまま淡々と作業を進めていく。
「ああ、そうだ、トムス。彼女の死体を、運び出しておいてください」
 女性の身体を固定する作業を進めつつ、ミレニアがそう命じる。頷いてのそりとトムスが動き、黒焦げになった女性の死体から拘束具を外すと抱えあげた。炭化した皮膚や肉がぼろぼろと零れ落ち、肉汁を滴らせる死肉があらわになる。
「ううっ、うあぁっ、ぐううぅっ」
「あまり、動かないでくださいね。苦痛が長引くのを望むのであれば、かまいませんが」
 苦痛に呻く女性へとそう呼びかけながら、ミレニアがベルトを巻き、締め付ける。針が身体に食い込む痛みに、反射的に立ち上がりかけた女性が息を呑んで懸命に身体の動きを押さえ込んだ。
 女性の身体を固定し終えると、ミレニアは先ほども使用した乳房挟みを手に取った。板の間に植えつけられた鋭い針が血を滴らせているのを目の当たりにし、ひっと女性が短い悲鳴を上げる。
「これは、ある程度胸が大きい人でないと使いにくい器具なんですけど……領主様が集めた人たちは、たいてい胸が大きいので特に問題はないですね」
 左手を自分の胸元へとあて、独り言のようにミレニアが呟く。実際、今審問椅子に座らされている女性も、普通の基準からするとかなり豊かな胸の持ち主だ。先ほどロバで責められた黒髪の少女や、ミレニア自身のような細身の女性もいるが、領主の趣味は巨乳寄りだったらしい。
「お許しを……どうか、御慈悲を……」
 震える声で哀願する女性の胸へと、無言のままミレニアが乳房挟みをセットする。上下から挟み込まれ、ひしゃげた胸に針が食い込む。大きく目を見開き、苦痛の声を上げる女性。その声を無視するかのように、ミレニアが螺子を回す。
「あギッ、ギッ、ギヤアアアアアァッ!!??」
 柔らかい乳房へと鋭い針がずぶずぶとめり込んでいく。女性の急所の一つである乳房への容赦のない責めに、ぶんぶんと首を左右に振りたてて苦痛の叫びを上げ、許しを請う女性。その悲痛な叫びがまるで耳に届いていないかのように、一定のリズムでミレニアが螺子を回し、豊かな胸を上下から押し潰していく。板の間隔が狭まるのと比例するように、女性の叫び声が大きくなり、身体の動きも激しくなる。
「ウギャギャギャギャッ、アギャアアァッ! 胸がっ、潰れるっ、ヒギャアアアアアァッ! いたぁいっ、痛いっ、痛い痛い痛イィッ!!」
「……痛い、と、言えるうちは、まだ本当の痛みではありません」
 泣き叫ぶ女性へとそう告げつつ、別段螺子を回す速度を上げるでもなくミレニアはゆっくりと女性の胸を締め上げていく。既に耐えがたいまでの激痛になっているにもかかわらず、更にじわじわと増し続ける胸の痛み。泣き叫ぶ女性の声が次第に濁っていく。
「ギエアゴアギアギガゴォギャギウビャ、オゴアギィヒギャイギャガグギエオゴガガガァッ」
 本来の乳房の大きさの半分以下、三分の一近くまで胸を押し潰された頃になると、もはや意味のある言葉をつむぐことも出来ず、女性は濁った声とも音ともつかないものを口から際限なくあふれ出させるだけという状態になった。かっと零れ落ちんばかりに見開かれた目ではあまりの激痛のあまり瞳孔が開き、おそらくほとんど何も見えていないだろうという状態だ。口の端には後から後から白い泡が浮かび、頬から首筋を伝って胸のほうにまで滴っている。
「このまま、意識を失うまで放置する、というのも一つの拷問法ではありますけど」
 螺子から手を離し、ミレニアが軽く首をかしげる。ぽんっと軽く彼女が乳房挟みを小突き、上下に小さく振動させると女性の口から人間のあげるものとは思えない濁った絶叫があふれた。
「まぁ、最初の予定通り、引き千切ることにしましょうか。トムス」
 女性の上げる絶叫に部屋の片隅で震える側室たちが耳を覆って悲鳴を上げる。それほどまでに凄絶な苦痛に満ちた叫びだったのだが、その叫びを上げさせた当の本人、ミレニアは表情一つ変えない。濁った絶叫を上げ続ける女性へと告げているとも、ただの独り言ともつかない口調で呟いくと、トムスを呼ぶ。
「う、うあ」
「それを掴んで、思い切り引っ張ってください」  のそのそと近寄ってきたトムスへと、無造作にミレニアが命じる。トムスが乳房挟みを掴むと、女性の口から再び凄絶な絶叫があふれた。ぐいっとトムスが乳房挟みを引っ張り、もはや表記不能な叫びを上げて女性が激しく身体を震わせる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?!?!?」
 トムスが顔を赤く染めて更に力を籠める。ぶちぶちぶちぃっと、肉の裂ける音が響き、声にならない絶叫を上げて女性が身体を痙攣させた。かっと見開いた目の端からは血の涙があふれ、絶叫する形に大きく開いた口からは大量の泡が噴出す。無残な胸の二つの傷から勢いよく鮮血を噴出させ、がくがくとまるで断末魔のような痙攣をみせる。
「痛みで心臓が止まるか、それとも頭が壊れるか……どちらかになる可能性も高いですけど、まぁ、特に問題はないでしょう」
 がくがくと全身を震わせる女性を拘束するベルトを外しながら、淡々とした口調でミレニアがそう呟く。女性の胸から噴出す鮮血をまともに浴びる状態だが、それを気にした様子もない。最後に左腕を拘束するベルトを外すと、掠れた呻きを漏らして意識を失った女性のことを外に運び出すようにトムスに命じ、ミレニアは血に濡れた髪をかきあげた。
「次は……そうですね、あなたにしましょうか」
「あ、あ、あ……」
 指名された、青い髪のショートの少女が顔を真っ青にしてふらふらと立ち上がる。
「こ、殺さないで……お願いです、私はまだ……死にたくない……」
「生きていたところで、苦痛が長引くだけですが……まぁ、あなたがそれを望むのであれば、それなりの対応は、出来ます。殺すことなく、痛めつける方法などいくらでもありますから」
 少女の訴えに、ミレニアが淡々とした口調でそう応じる。声を失った少女のことを無表情に見つめると、ミレニアは軽く首をかしげた。
「何週間も、何ヶ月も、ただ痛めつけられる日々が続く……それがあなたの望みですか?」
「ひ、あ、あ……」
 掠れた声を漏らし、がたがたと身体を震わせる少女。彼女が答えるのを待つように、ミレニアが沈黙したままじっと彼女の顔を見つめる。歯をがちがちと鳴らし、答えられずにいる少女の姿をしばらく見つめていたミレニアが、小さく溜息をつくと首を振った。
「まぁ……実際に、受けてみてから決めてもいいでしょう。服は着たままでかまいませんから、そこへ」
 ミレニアが拘束台のほうに視線を向けてそう言う。あぁ、と、絶望の呻きを漏らして少女がふらふらと拘束台のほうに足を向けた。黒焦げになった皮膚や肉片が散乱した拘束台をまじかで見て、少女が顔を青くする。
 拘束台の前に立ち、がたがたと身体を震わせる少女。すっと彼女の背後に歩み寄ったミレニアが、ぽんと軽く肩に手を置く。
「ひっ、ひいいいぃっ!」
 甲高い悲鳴を上げて少女がばっと身を翻す。恐怖に目を大きく見開き、がたがたと震える少女のことを無表情に見やると、ミレニアが無言のまま拘束台の上を指差す。ぼろぼろと涙をこぼしつつ、少女が拘束台の上に身を横たえた。手足をベルトで拘束されていく少女が半分気絶したような状態になってうつろな視線を宙にさまよわせた。
「口を開けて」
「う、あ……あ」
 泣きながら口を開ける少女に小型の万力のようなものを噛ませ、大きく口を開けたまま閉じられないようにする。トムスに壁際に置かれていた大きな壷を持ってこさせると、中に満たされた液体をひしゃくですくい、ミレニアは無造作に少女の口へと注ぎ込んだ。
「んぶっ、ぶっ、ぶごぉっ」
「本来、傷を洗う用の水ですから、飲みにくいかもしれませんね」
 塩と唐辛子とを混ぜ込んだ水を少女の口へと注ぎながら、ミレニアがぼそっと呟く。口の中や喉がひりひりと焼けるように痛み、到底飲み込めない。注がれた水の大半を吐き出し、けほけほと咳き込む少女のことを無表情に見やると、ミレニアが僅かに目を細めた。
「飲みにくいでしょうけど、ちゃんと飲んでください。そうでないと、いつまでたっても終わりませんから」
「う、あ、あうぅ」
 吐き出した水が目や鼻を洗い、粘膜を激しく痛ませる。ぼろぼろと涙をこぼし、すがるような視線を向ける少女へと、壷から再び水を掬いだして注ぐ。
「おぶうぅっ。うぶっ、げぶっ、ごぼぼっ」
 びくっ、びくっと身体を震わせながら、少女が懸命に注がれる水を飲み込もうとする。だが、ひりひりと喉を焼く水を飲み干すのは用意ではない。たちまちのうちにむせて咳き込み、水を吐き出してしまう。
「……仕方、ないですね」
 激しく咳き込む少女の姿を見やり、ミレニアが小さく首を振る。いったんひしゃくを拘束台の上に置くと、ミレニア壁の棚へと足を向けた。いくつもの結び目が作られた、長い布を手に取る。
「これを、使いましょうか」
「あ、う、うあぁ……」
 激しく咳き込んでいた少女が、ミレニアの言葉に視線を動かし、恐怖の呻きを漏らす。その布がどう使われ、どういう効果をもたらすのかを理解しているわけではないのだろうが、むしろ分からないからこそ恐怖がつのるということもある。
 ミレニアが布の端を少女の口に押し込み、ひしゃくで掬った水を注ぐ。びくっと身体を弓なりにのけぞらせ、少女がくぐもった悲鳴を上げた。水を注がれた布が喉の奥へと入り込み、息が詰まる。窒息から逃れようと懸命に息を吸おうとすれば、否応なしに注がれる水と布とを飲み込むことになる。喉を内側から焼かれているような灼熱の痛み、窒息しそうな息苦しさ……二つの苦痛に少女の身体がのたうつ。
「おごぉっ、うぶうぅっ、げぶっ、ごぉっ、おごおぉっ」
 白い布が、少女の口の中に消えていく。布に作られた結び目が、彼女の食道をこすり、苦痛を増す。このまま死んでしまいそうな苦しさと痛みに、半狂乱になって少女が身体をのたうたせる。
「えぶうぅっ、おぶっ、うぶぶっ、ごぼぉっ、おごっ、ごあああぁっ」
 少女の様子を無表情に見守りながら、ミレニアが何度もひしゃくで水を掬って注ぐ。窒息寸前の苦しみに身体をくねらせ、不明瞭な叫びを上げる少女。その口の中にずるずると布が消えていく。ミレニアが自分の左手に巻きつけた布を残し、布の全てが少女の口の中に消えるまで、それは延々と続いた。
「がっ、ふっ、あ……あぐが……おごぉっ」
 濡れた布が食道に張り付き、呼吸を妨げる。鼻の穴をぴくぴくと広げたり閉じたりさせながら、窒息する寸前の状態で身体を痙攣させる少女。ひくひくと痙攣し、浅い上下を繰り返す少女の胸の辺りに右手を置くと、ミレニアは一気に左腕を動かした。
「ウギャアアアアアアアアアアアアァァ~~~ッ!?」
 ずるずるずるっと、真っ赤に血で染まった布が少女の口から引きずり出される。絶叫を上げ、少女が身体を跳ねさせた。半ば近くまで引きずり出した布を再び左手で掴み、更にミレニアが布を引きずり出す。
「オギャアアアアアアアアアァァ~~~~ッ!!」
 布と共に引きずり出されような、少女の絶叫。内臓が裏返り、全て口から引きずり出されるような痛みと苦しみが一気に少女を襲う。血に染まった布へと視線を向け、次いで少女の顔に視線を移してミレニアが軽く首をかしげる。
「まだ、意識はあるようですね。では、続けましょう」
「あがっ!? あがっ、ああぁっ、うあああぁっ!!」
 恐怖に大きく目を見開き、激しく少女が首を振る。半狂乱になって不明瞭な叫びを上げる少女の顎にミレニアが手をかけ、万力で固定されて閉じることの出来ない口の中に布の端を押し込んだ。反射的に布を吐き出そうとした少女だが、ミレニアのまなざしを受けて凍りついたように動きを止める。
「気絶するまでは、繰り返しますから」
 淡々とした口調でそう告げ、ミレニアがひしゃくで水を掬う。再び水を注がれ、布を飲み込まされる少女の苦悶の声が響き始めた。ゆっくりと時間をかけて水と共に布を飲み込ませ、根元まで布を飲み込み終えると一気に引き抜く。
「アゴガアアアアアアアアアアァァァ~~~~ッ!!」
 内臓を引きずり出したのかと錯覚しそうなほど、ぐっしょりと血に染まった布。血で赤く染まった水を口から吐き出しながら、少女が身体を痙攣させる。布の結び目で傷つけられた喉を塩と唐辛子の混ぜ込まれた水が更に痛めつける。
「……まだ、意識はありますね」
「あ、あ、あ……」
 呻く少女が絶望と恐怖に表情を引きつらせる。無表情に、ミレニアは布の端を少女の口に押し込み、水を注ぎ始めた……。
「ずいぶんと時間がかかりましたが、あなたで、最後です」
 六度、布を引きずり出された少女がついに意識を失う。ひくひくと身体を痙攣させている彼女のことを無表情に見やると、ミレニアは最後に残された側室の女性へと視線を向けてそう告げた。壁に背を預けるようにしていた女性が唇を震わせ、声にならない呻きを漏らす。力なく投げ出された両足の付け根の辺りに、失禁したと思しき水溜りが出来ていた。目の前で繰り広げられる凄惨な拷問劇を延々とみせられ、既に半分気絶したような状態で放心している。
「服を脱いで、こちらへ」
「あ、あ、あ……」
 ロバのほうへと足を進めながらのミレニアの呼びかけに、弱々しく首を振りながら女性は動こうとしない。いや、既に腰が抜けていて、立ち上がることすらままならないのだ。
「自分では、立てませんか。トムス、彼女をここへ」
「うあ」
「あ、あぁ……」
 歩み寄ってきたトムスのことを怯えた瞳で見つめ、掠れた呻きを漏らす女性。強引に引きずり起こされ、こちらへと連れてこられる女性のことをミレニアが無表情に見つめている。
「ひ、あ、やっ、やあああぁっ!」
 ロバのすぐそばまで連れてこられ、血に染まったそれを間近で見せられた女性の表情に、恐怖が満ちる。不意に甲高い悲鳴を上げると、彼女はトムスの手から逃れようと半狂乱になって暴れ始めた。もちろん、怪力のトムスから逃れるのはどんなに激しく暴れたところで不可能なのだが、トムスのほうでもこの状態では彼女の動きを抑えることに専念せねばならず、なかなか拷問の準備に入れない。
「イヤッ、イヤイヤイヤっ、ヤダアァッ!」
 泣き叫びながらもがく女性。しばらくの間その様子を眺めていたミレニアだが、これでは埒が明かないと判断したのか、ゆっくりとロバを回り込んで女性の前へと足を進める。目の前に来たミレニアに無表情に見つめられ、女性が短い悲鳴を上げて大きく目を見開いた。
「暴れないでくれませんか? 余計な苦痛を味わいたいなら、話は別ですが」
 淡々とした口調でそう言いつつ、ミレニアがもがく女性の喉元へと手を伸ばす。ひぃっと短く悲鳴を上げ、女性が動きを止めた。がちがちと歯を鳴らす彼女のことを見つめたまま、ミレニアがトムスに彼女の両腕をそろえて手首に鎖を巻きつけさせる。トムスが彼女の元を離れ、壁の巻き上げ機のほうに足を進めるのを見送りながら、ミレニアはがたがたと震えている女性の喉元に軽く触れさせた手に微かに力を籠める。
「ひっ、いっ、やあああぁっ!」
「暴れないで」
 悲鳴を上げる女性へと短く告げ、更にミレニアが手に力を籠める。別にそれで息が出来なくなったわけではないのだろうが、零れ落ちんばかりに大きく目を見開き、女性がひゅーひゅーと掠れた息を漏らす。
「そういえば、服を脱がせるのを、忘れていましたね」
 軽く小首をかしげながらそう呟き、ミレニアが僅かに思案するように視線を宙にさまよわせる。だが、彼女の思案が定まるより早く、トムスが巻き上げ機のハンドルへと手をかけた。別にそれほど深く悩んでいたわけでもないのか、トムスを呼び止めることをせずにミレニアは一つ頭を振った。
「まぁ、このままでも、特に問題はないでしょう」
 トムスが巻き上げ機のハンドルを回す。ゆっくりと自分の身体が浮き上がっていくのを感じた女性が引きつった悲鳴を漏らす。反射的に身体をのたうたせようとした彼女だが、喉元に触れるミレニアの手がそれを押しとどめた。ひっ、ひっ、ひっと短く息を吐きながら、恐怖に震えている。彼女の身体がある程度浮き上がったところでミレニアが手を下ろすが、女性のほうはがちがちと歯を鳴らしながら、そのことにも気づいていないかのようにうわごとのような哀願の声を漏らし続けている。
「トムス、もう、その辺でかまいません。……あなたは、ロバをまたいで」
「ひっ、いっ」
 女性の腰がロバの頂点を越えた辺りでトムスにそう言うと、ミレニアは視線を女性の顔に向けて静かに告げた。引きつった悲鳴を漏らし、がたがたと身体を震わせる女性。だが、震えるばかりで一向に足を上げ、ロバをまたごうとはしない。まぁ、それが普通の反応だろうが。
「聞こえませんでしたか? またげ、と、そう言ったんですが」
「あ、あ、あ……許して、お願いですから……ああぁっ」
 ミレニアの言葉に、掠れた声で哀願する女性。すっとミレニアが彼女の太股の辺りに手を触れさせ、女性がひきつった悲鳴を漏らす。
「自分でまたげないのであれば、仕方ありませんが……」
「ひいっ」
 ミレニアの言葉に引きつった声を上げ、女性が慌ててロバをまたぐ。今はまだ股間とロバの間に僅かとはいえ隙間があるから苦痛は感じていないはずだが、表情は苦痛と恐怖に歪み、息は荒く、全身にびっしょりと汗をかいている。
「一応、これは、取っておくべきでしょうね」
 小さく呟くとミレニアが懐からナイフを取り出す。ヒイイッと引きつった悲鳴を上げる女性の服の裾を無造作にナイフで切り裂き、下着を露出させる。更に下着にもナイフを走らせ、女性の下半身を剥き出しにしてしまうとミレニアはナイフを鞘に収め、懐に戻した。
「それでは、始めましょうか」
「ひいっ……あ、うあっ、うああああぁっ!」
 ミレニアが宣言し、女性が悲鳴を上げて激しく頭を振りたてる。トムスはまだ巻き上げ機のハンドルに手をおいたまま動かしていないのだが、既にロバにまたがらされたかのように半狂乱になり、悲鳴を上げる女性。
「やぁっ、やだっ、やだぁっ! いやあああああぁっ!」
「……トムス、降ろして」
「ひいっ、ひいいぃっ! ヒギャアアアアアアアアアアァァッ!!」
 半狂乱になって泣き叫ぶ女性の身体が、ロバの上に降ろされる。耳が痛くなるような絶叫を上げ、激しく女性が足をばたつかせた。鎖にある程度のたるみが出来るまでトムスに巻き上げ機を操作させてから、ミレニアが彼を呼び寄せる。
「足に、石を吊るします。あなたはそちらの足に」
「うあ」
「ヒギャアアアアアアァッ! 痛いっ、痛いっ、痛いいぃっ! 股が、裂けるうぅっ!」
 ミレニアの言葉に、トムスが頷いてしゃがみこむ。同様にしゃがみこみ、小型の台座の上に重り用の石を置き、そこから伸びたロープを手に取るミレニア。二人のそんな動きに気づいているのかいないのか、甲高い絶叫を上げて女性が身体をくねらせ、足をばたつかせる。
「暴れないで、と、言っても、無駄でしょうね」
 狂ったように悲鳴を上げ続ける女性のことを見上げ、独り言のようにそう呟くとミレニアが彼女の足を掴む。ひいいぃっと引きつった悲鳴を上げ、女性が視線をミレニアのほうへと向けた。
「いやっ、いやああぁっ、やめてえぇっ! 本当に、股がっ、裂けるうぅっ!」
「そうですね」
 女性の引きつった絶叫にあっさりと頷き、ミレニアが女性の足首にロープを巻きつけようとする。恐怖に表情を引きつらせた女性が悲鳴をあげてもがき、その拍子にミレニアの手が外れた。跳ね上がった女性の足がガツンとまともにミレニアの顔面を捉え、微かな声を上げてミレニアが尻餅をつく。
「ひっ、ひいいいぃっ!?」
 意識してではないとはいえ、ミレニアの顔を蹴り飛ばしてしまった女性が、恐怖と絶望の悲鳴を上げる。表情一つ変えずに身を起こしたミレニアが、無言のまま大きく目を見開いた女性の顔を見上げる。
「おっ、お許しをっ、お許しをおぉっ!」
「……別に、怒っては、いませんけど」
 淡々とした口調で、無表情にそう言うとミレニアが再び女性の足を掴む。がちがちと歯を鳴らし、顔を青ざめさせて女性はミレニアが自分の足首へとロープを巻きつけていくのを見つめていた。少しでも動けば、ミレニアが怒りを爆発させ、自分は惨殺される。そんな思いが彼女の動きを凍りつかせたのか、ぴくりとも身体を動かさずに。
「……トムス、そちらは済みましたか?」
「うあ」
「そう。では、続けるとしましょうか」
 ゆっくりと立ち上がるとミレニアは石の下の台座を蹴り飛ばした。支えを失った石の重みが女性の足にかかり、股間をいっそう強くロバへと押し付ける。
「ヒグアアアアァッ!? 痛いっ、痛いいイィッ!」
 股間に走る激痛に、女性が悲鳴を上げて身体をのたうたせる。無表情にその姿を見やりながら、ミレニアはロバの背に手をかけた。安定の悪いロバを、ぐらぐらと揺さぶる。
「ヒガッ、ギャッ、ギャヒイイィッ、ヒギャアアアッ、アギイイイィッ、グギャアアアッ、オゴオォッ、ウギャアアアァッ!!」
 ぐらぐらと揺れるロバに股間を容赦なくえぐられ、女性が濁った絶叫を上げる。引き裂かれた股間からあふれる血がロバの側面を真っ赤に染め、ぽたぽたと床にまで滴る。
「ウギャアアアアァッ、ザケルウウゥッ、ヒギャアアアァァッ、ジヌウウゥッ、アギャガアアアアァッ!!」
 零れ落ちんばかりに目を見開き、絶叫する女性。その姿を無表情に見つめながら、ミレニアは更にロバを揺さぶった。股間を引き裂かれていく激痛に、女性が濁った絶叫を上げる。
「ウギャッ、アガッ、グギャァッ、ヒギイッ、アギャガッ、ヒグウウゥッ!」
「トムス。彼女の腰を、ロバに押し付けて」
 ロバを揺さぶりながら、ミレニアがトムスに指示を出す。頷いて歩み寄ってきたトムスが、無造作にぐいっと女性の腰を押さえ下に向けて力を籠める。
「ヒグアアアァッ!? アギャギャッ、グギャアヒイイィッ!!」
 断末魔を思わせる凄絶な絶叫を上げ、激しく身をのけぞらす女性。激痛のあまり口から泡を吹き、舌を突き出してあえぐ彼女の無残な姿を眉一つ動かさずに見つめ、ミレニアが更にロバを揺する。
「オギャアア゛アアァア゛アァアァア゛アァアッ!! ヒギャアアギゴアギャベギャアア゛ア!!」
 ビクッ、ビクッと身体を痙攣させながら女性が更に絶叫する。トムスはミレニアが制止の声を上げないためにひたすら腕に力を籠め続け、女性の股間をロバにめり込ませていく。ミレニアも、女性の狂乱する姿を無表情に見つめたまま、無言でロバを揺さぶり続けている。
「ア゛ーーーッ! ア゛ーーーッ! ア゛ーーーッ! ア゛ーーーッ! ア゛ーーーッ! ア゛ア゛ーーーッ!」
 激しく首を振りながら、舌を突き出し大きく開いた口から絶叫と泡とを吐き出し続ける女性。股間から身体が真っ二つにされそうな激痛に、脳裏は真っ白に染まり、ひたすら絶叫することしか出来ない。無残に引き裂かれた股間からはとめどなく鮮血があふれ、ロバの下の床に血溜りを広げている。
「ウア゛~~~~~~ッ!!! --ッ! ……ァッ! ……! ……!! ……!!!」
 ぐいっといっそう激しくミレニアがロバを揺さぶり、女性の股間をえぐる。声にならない絶叫を上げ、数度身体を痙攣させると女性はがっくりとうなだれた。ぶくぶくと泡を吹きながら悶絶した女性のことを無表情に見上げ、ミレニアがロバから手を放して前髪をかきあげる。
「トムス、もういいですよ」
「うあ」
「……流石に、これだけの人数を、まとめて拷問するとなると、疲れますね」
 特に疲れた様子も見せずにそう呟くと、ミレニアはトムスに気を失った女性をロバから降ろすよう指示した……。

「ご苦労様でした、侯爵様」
 拷問部屋から出てきたミレニアへと、執事のアルベルトが恭しく頭を下げる。一瞬何か言いたげに口を動かしかけ、ミレニアが小さく首を振って頷き返す。
「治療のほうは?」
「はい、ご命令どおり、医師たちに手当てをさせております。ただ……」
「誰か、死にましたか?」
 淡々としたミレニアの問いに、アルベルトが大きく頭を下げる。
「はい。フィオーラは出血が酷く、手の施しようがなかった、と。それと、ウルスラは、恐怖と苦痛のため気が違ってしまったようでして……」
「そう。ウルスラには、私が後で止めを刺します。気が狂った人間を、拷問しても意味はありませんから。ニノは、どうですか? 彼女も、発狂しかねないと思っていましたが?」
「はて、特に他の者の報告は受けておりませんので、問題はないものかと存じますが」
 表情を変えることもなく、感情を感じさせない口調でそう言うアルベルトへと、ミレニアが小さく頷く。
「フィオーラ、ウルスラ、それと、ソーニャの三人の死体は、家族の元に返し、葬らせるように。葬儀にかかる費用はこちらで負担する、とも、伝えてください。丁重に葬るように、と」
「……承知いたしました」
 ミレニアの指示に、一瞬何か言いたげな表情を浮かべたものの、特に何かを言うでもなく従順にアルベルトが頭を下げる。ゆっくりとした足取りで階段のほうへと向かいながら、ミレニアは血まみれになった自分の服を見下ろした。
「着替えは……ああ、また後で『生贄の娘』の相手をするのですから、このままのほうがいいかもしれませんね」
「左様でございますか? 無理にとは申しませんが、お着替えになられたほうがよろしいかと。そのお姿は、その、あまり目に優しいものではございませんし」
「……そう、ですね」
「湯浴みの準備も整えてございます。失礼ながら、髪もお洗いになったほうがよろしいかと存じますが」
「髪? ああ……そう、ですね」
 指摘されて始めて気がついた、という様子でべっとりと血で濡れた髪に触れるミレニア。無表情に小さく首を振ると、ミレニアは視線をアルベルトのほうへと向けた。
「それでは、ウルスラの止めを刺してから、湯浴みと着替えをする、ということで」
「かしこまりました、侯爵様」
 恭しく頭を下げるアルベルトに背を向け、ミレニアは拷問した側室たちが治療を受けている部屋へと足を向けた……。
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