九月十六日 晴れ

 今日は教会のほうから頼まれて、魔女の審問と処刑を行うことになりました。本来、魔女狩りは教会の仕事で、私が関わる必要はありません。ですが、今回魔女として告発された人たちは教会の関係者だったので、あまり公式に裁くのは外聞が良くない、ということで私にその役目が回ってくることになりました。気は進みませんけれど、教会からの依頼を迂闊に断るわけにも行きません。立場としては、向こうのほうが私より上ですから。
 私は、大きな声では言えませんけど、神や悪魔の存在を信じていませんし、当然、魔女の存在も信じていません。ですから、魔女狩りは、私にしてみれば無実の人間を拷問で無理矢理魔女として仕立て上げ、殺す、という気が進まない行為になります。処刑するのは仕方ないにしても、せめて拷問を行わずに魔女であると認めてくれれば、と思っていたんですけど、やはりそう上手くはいきませんでしたし。
 それと、これは、完全に私の問題で、クリシーヌには何の責任もないことだと分かってはいるのですけれど……彼女の台詞のせいで、嫌な記憶を呼び起こされてしまったのでますます憂鬱な気分にさせられました。もちろん、彼女に悪気があって言った訳ではありませんし、彼女を責めるのは筋違いだと分かってはいたのですが……。

 領主の館の地下に広がる数多くの拷問部屋。その一室に、修道服姿の若い女たちが六人、後ろ手に縄をかけられ連れてこられる。彼女たちは、ここから少し離れた山中にある、修道院の人間だ。無表情に彼女たちのことを見やり、ミレニアが淡々とした口調で問いかけた。
「この者たちですか?」
「はい、侯爵夫人。この者たちは、神に仕える修道女でありながら、悪魔の誘惑に転び、同性愛に耽っていた魔女たちでございます」
 ミレニアの問いかけに、僧服の男が恭しく頭を下げながらそう応じる。彼の言葉に、もっとも年配と思える修道女が声を上げた。
「嘘ですっ。私どもは、敬虔な神の下僕。魔女として疑われるなど、心外でございますっ」
「往生際が悪いですぞ、アリエラ修道院長。あなた方が、神の禁じられた同性愛に耽っていたこと、既に明白。自らの罪を悔い改め、素直に刑に服されよ」
「それは冤罪だと申し上げているのですっ。侯爵夫人、どうか御明察をっ!」
「自分たちは魔女ではない、と?」
 必死に訴えかけてくる修道女へと、表情一つ変えずにミレニアがそう問い返す。こくこくと何度も頷く彼女に向かい、ミレニアは淡々とした口調で告げた。
「その言葉の真偽は、審問の中で明らかとなるでしょう」
「侯爵夫人!」
 悲鳴にも似た声を上げる修道女のほうを見つめたまま、ミレニアが軽く片手を挙げる。クリシーヌが紐を引き、部屋の半ばを横切っていた垂れ幕をばさりと落とした。垂れ幕の向こうに置かれていた、六つのロバや焼き鏝を熱するための石箱、そして逆大の字形の磔台がその姿を現す。禍々しい拷問具の姿に、今まで怯えた表情で沈黙していた他の修道女たちの口から悲鳴があふれた。
「無実であるならば、神の加護の下、如何なる拷問にも耐えられるはず。そうですね?」
「左様でございます、侯爵夫人」
 無表情に淡々と問いかけるミレニアへと、問われた修道女ではなく僧服の男が口元に笑みを浮かべて頷く。唇を震わせる修道女のことを一瞥すると、ミレニアは無造作に命じた。
「審問を、始めます」
「ま、待って、待って!」
 ミレニアの言葉に、教会から派遣されてきた拷問吏たちが一斉に修道女たちをロバのほうへと引き立てていく。と、そのうちの一人、最も若く見える栗毛の少女が激しく身をよじりながら叫び声を上げた。
「認めますっ! 魔女だって認めますからっ、拷問しないでっ!」
「サリーナ! いけません、認めてはっ! 認めれば殺されるのですよ!?」
「どうせ、全員殺されるんですっ! だったら、いっそ、一思いに殺されたほうが……!」
 顔色を変える修道院長に向かって、少女がそう叫び返す。すっと靴音もなく歩み寄ったミレニアが、サリーナの肩に手を置いた。ひっと短い悲鳴を上げて身体を強張らせる彼女へと、ミレニアが淡々と問いかける。
「魔女だと、認めるのですね?」
「は、はい、認めますっ、私は魔女ですっ。ですから、どうか拷問は……!」
「いいでしょう。では、処刑を始めます」
 口元に薄く笑みを浮かべ、ミレニアがそう言う。ひっと息を呑むサリーナのことを、拷問吏とクリシーヌが二人がかりで磔台のほうへと運んだ。可動式の根元を操作していったん倒し、サリーナの手足を磔台に皮製のベルトで固定する。腹の辺りにもベルトを巻くと、再び磔台が立てられた。頭を下にした大の字型に磔られたサリーナの修道服の裾が大きくまくれ上がり、白い太腿や下着があらわになる。拷問吏が下着を引き裂き、クリシーヌが真っ赤に焼けた鉄の杭をセットした柱を磔台の後ろにセットした。懸命に首を曲げたサリーナが、自分の股間へと突きつけられた真っ赤に焼けた杭を目にして悲鳴を上げる。
「きゃあああああああああああああああああああぁぁぁっ! 何っ、何をする気なのっ!?」
「うふふふふ、知りたい? この真っ赤に焼けた杭には、刻みがつけてあるの。この柱の後ろのハンドルを回すと、歯車とその刻みが噛み合って、ゆっくりと回転しながら下に降りていく仕掛けになっているのよ。あなたの大事な部分から入り込んで、お腹を突き破るまでね」
 嗜虐的な笑みを浮かべて、クリシーヌがそう言う。大きく目を見開き、サリーナが拘束された身体を激しくのたうたせた。
「いっやああああああああああぁぁっ!! そんなの嫌っ、嫌っ、止めてえぇっ!」
「今更遅いわよ。あなたは魔女だって自分で認めたんじゃない。たっぷりと苦しんで、死になさいっ」
 満面に笑みを浮かべてクリシーヌがそう言い、ハンドルを回す。ギギ、ギギギっと軋んだ音を立て、ゆっくりと回転しながら灼熱の杭が下がっていく。
「嫌っ、嫌っ、嫌ああああぁぁっ! 助けてっ、誰かっ、助けてっ! いやっ、いやっ、ぎゃあああああああああああああああぁぁぁっ!!」
 激しく頭を振りたて、絶叫するサリーナの股間に、杭の先端部分が触れる。じゅうっと白い煙が上がり、大きく目を見開いてサリーナが顔をのけぞらせた。ロバのところまで連れてこられ、肩を押さえつけられている修道女たちが目を逸らす。楽しげな笑みを浮かべながらクリシーヌが更にハンドルを回すと、杭の先端が秘所の割れ目を押し広げ、サリーナの胎内へと潜り込んだ。
「ぎゃあああああああぁあっ! 熱いっ、熱い熱い熱いっ、ウギャアアアアアアアアアアァァッ!!」
 敏感な秘所の粘膜を焼かれる熱さと痛みに、サリーナが絶叫を上げて激しく身体をのたうたせる。回転しながら押し込まれる焼けた杭に、秘所の粘膜が焼け付き巻き込まれ、更に激痛を生む。
「ギエエエエエエエエエエェッ!! ウギャアアアアアアアアアアアアァァッ!! グギェエエエエエエエエエエエエェッ!!」
「もうやめさせてっ! あ、あなたには、人の心というものがないんですかっ!?」
 獣じみた絶叫を上げて身悶えるサリーナから逸らした視線をミレニアへと向け、アリエラがそう叫ぶ。表情一つ変えずにサリーナの苦しみもがく姿を見つめていたミレニアが、すっと視線を彼女のほうへと移した。
「魔女には、最大限の過酷さを以ってあたるべし。教会の、教えです」
「だ、だからって!」
「グギャガアアアアアアアァァッ!! ギヤアアアアアアアアァァッ!! 裂けるっ、お腹がっ、破けるっ、ウギャアアアアアアアアアアァァッ!!」
 一際大きな絶叫を上げ、サリーナが顔をのけぞらせる。杭の先端部分が子宮口に突き当たったらしい。楽しげな笑みを浮かべたままクリシーヌが更にハンドルを回すと、凄絶な絶叫と共にサリーナが失禁する。
「グギャアアアアアアアアアアァァッ!!! 死ぬっ、死んじゃうっ、ウギャアアアアアアアアアアァァッ!!!」
 ぶくぶくと白い泡を吹き、半ば白目を剥きながらサリーナが激しくもがき、絶叫する。あまりに激しい痛みに、失神することも許されない。正確には、痛みで意識を失っても、次の瞬間には痛みで目が覚めてしまうのだ。その凄惨な姿を、表情一つ変えずに見やり、ミレニアが淡々とした口調で告げた。
「まだ、処刑の途中ですが。次に処刑されたいのは、誰です?」
「あ、あなたはっ、まだこんなことを続けるつもりなの!?」
「魔女を、生かして帰すわけには、いきませんから」
 逆上したアリエラとは対照的に、あくまでも淡々とした口調でミレニアがそう答える。目をそむけていた修道女の一人が、ぼろぼろと涙を流しながら叫んだ。
「私たちは魔女なんかじゃないっ! こんな酷い目に遭わされる罪なんて、犯していませんっ!」
「そう、ですか。この処刑は、魔女に対してのもの。魔女でなければ、処刑はしません」
「ほ、本当ですか!?」
「侯爵夫人!?」
 ミレニアの言葉に、修道女が目を輝かせ、僧服の男が動揺の声を上げる。今度は視線を僧服の男のほうへと移し、ミレニアが淡々と言葉をつむぐ。
「魔女であるかどうかは、審問の結果次第です」
「あ、ああ、左様ですな。魔女でないなら、拷問にかけられても魔女であるとは認めないはず。魔女であると認めないのであれば、拷問にかけ、認めたものから順に処刑していけばいいだけの話ですからな」
「ええ」
「グギャアアアアアアアァァッ!! ギエガアアアアアアアアアァァッ!! ウギャギャギャギャッ、ギャビャアアアアアアアアァァッ!!」
 ミレニアが頷くのとほぼ同時に、ついに子宮を杭が突き破ったのかサリーナが滅茶苦茶な絶叫を上げた。びくっと修道女たちが身体をすくませるのを見やり、淡々とした口調でミレニアが彼女たちに呼びかけた。
「魔女であることを認めないのであれば、拷問です。その前に、魔女であることを認め、処刑されることを望む人は居ますか?」
「ウギャアアアアアアアアアアァァッ!! 熱い、痛いいいぃっ! 殺してっ、もう殺してっ、ウギャアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 灼熱の杭がゆっくりと回転しながら腹へと入り込んでくるのだから、その激痛は筆舌に尽くしがたい。口から舌を突き出し、ぶくぶくと泡を吹きながらサリーナが身悶え、絶叫を上げ続ける。その有様を見せられては、修道女たちが魔女であると認められるはずもない。認めれば、自分が彼女と同じ目に遭うのだ。
「誰も、いませんか。では、審問を始めましょう」
「よろしいのですか?」
「死ぬまで待つ必要も、ないでしょう。まだ、時間はかかりますし」
「は、はあ、左様ですか。で、では、お前たち」
 淡々としたミレニアの言葉に、僧服の男が曖昧に頷いて拷問吏たちに指示を出す。修道女たちの着ていた服がナイフで引き裂かれ、髪をひとまとめにして天井の滑車からさがったロープに結わえ付けられる。悲鳴を上げて修道女たちがもがくが、後ろ手に拘束されている上に男女の体格差もある。程なく五人全ての準備が整い、ミレニアが軽く片手を挙げた。巻き上げ機のハンドルが回され、全裸に剥かれた五人の身体が髪で吊り上げられる。
「うあっ、あああああああぁぁっ」「痛いっ、髪がっ、ああああぁっ」「ひいいいいいいぃっ」
 処刑されるサリーナの絶叫に、髪吊りにされた五人の修道女たちの悲鳴が混じる。苦痛にもがく五人の股がロバの背を越えた辺りでいったん巻上げを止め、拷問吏たちがばたばたと暴れる修道女たちの足をつかんで強引にロバをまたがせた。拷問吏たちが被る鳥の仮面がミレニアのほうを向き、次の指示を待つ。
「魔女であることを認めるのであれば、いつでもどうぞ。……下ろしてください」
 またがされたロバを懸命に足で挟み込み、少しでも髪だけで吊るされる苦痛を抑えようとする修道女たちのことを無表情に見やり、感情を感じさせない口調でミレニアがそう宣告する。巻き上げ機が操作され、五人の修道女たちがロバの上に下ろされた。髪で吊られる痛みが消えると同時に、鋭いロバの背が股間に食い込む激痛が彼女たちを襲う。
「きゃああああああああああああああああああぁぁっ!」
 一斉に悲鳴を上げ、ロバの上で拘束された裸身をよじる修道女たち。全身を汗で濡らし、右へ左へ身体をよじってもがくその姿は淫らでさえある。サリーナの処刑を任されているクリシーヌが、ロバのほうへと視線を向けて口元に笑いを浮かべた。
「中々の見物ですわね、御主人様」
「こちらに参加したいのであれば、早めに処刑を終わらせることです」
 クリシーヌの言葉に、視線をロバの上でもがく修道女たちのほうへと向けたまま、ミレニアがそう答える。苦笑を浮かべ、クリシーヌがギギギッとハンドルを回した。灼熱した杭に腹の中を掻き回され、サリーナが絶叫を上げる。
「私も、早くそちらに行きたいのですが、なかなかこの娘もしぶとくて」
「まぁ、簡単には死なない体勢ですから」
 ロバの上でもがく修道女たちのほうへと足を進めながら、ミレニアが淡々とそう言う。頭を下にしたこの体勢では、血が重力によって頭や胸といったほうに集まるから、比較的失血による死が訪れるまでの時間が長くなる。極端な話、心臓と肺、そして脳が無事に機能しているのであれば、人間は死なない。胃や腸といった消化器系の臓器がなくなっても、栄養が取れなくなるだけだから即座の死には繋がらないのだ。外傷による死というのは、そのほとんどが出血または痛みのショックによるもので、こういう風にじわじわと時間をかけて苦痛を増していくやり方をされるとなかなか死ぬことが出来ない。
「ああっ、股が、股が裂けるっ。降ろしてっ、ここから降ろしてっ」
「魔女であることを認めれば、すぐに降ろします。認めないのであれば」
 歩み寄ったロバにまたがった修道女がぼろぼろと涙を流しながら訴えてくるのに対し、眉一つ動かさずにそう応じるとミレニアが手を伸ばす。腰の辺りをつかまれ、ロバの背に押し付けるように前後に揺さぶられて修道女が絶叫を上げた。
「ひぎゃあああああああぁぁっ!? 痛いっ、痛い痛い痛いっ!」
「認めるまで、苦痛を与えます」
「やめっ、やめてっ、ギャアアアアアアアアアアアァァッ!」
 揺さぶられた拍子に、敏感な肉芽が尖ったロバの背にこすり付けられ、修道女が絶叫する。他の修道女同様、自らも苦痛に身悶えながら、修道院長のアリエラがミレニアへと叫んだ。
「あ、あなたに人の心があるのならっ、もうこんな酷いことはやめさせてっ!」
「……彼女たちの足に、石を」
 アリエラの叫びに、淡々とした口調でそう命じるとミレニアがいったんロバに背を向けて最初に居た位置へと戻る。大きく目を見開き、アリエラがミレニアの背中へと向けて叫んだ。
「あ、あ、あなたっ!? あなたには、人の心というものがないのっ!?」
「別に、あなたには関係のないことです」
 淡々とそう応じると、ミレニアはサリーナのほうへと視線を向けた。際限なくあふれていた絶叫が止まり、びくびくと身体を痙攣させている。
「死にましたか?」
「はい、どうやらそのようでございます、御主人様」
「そう、ですか」
 人間が一人死んだというのに、ミレニアは眉一つ動かさず、淡々とそう呟いただけだ。彼女が視線をロバのほうに戻すと、ちょうど、拷問吏たちが修道女たちの足に石を吊るし終えたところだった。今はまだ台の上に石が置かれているからその重さは修道女たちにはかかっていない。だが、ひとたび台が取り除かれれば、その重さは彼女たち自身の体重と合わさり、なお一層強く尖ったロバの背に柔らかく敏感な部分を押し付けることになるだろう。自らの体重だけでも充分過ぎるほどの苦痛を感じている修道女たちが、一様に不安と恐怖の表情を浮かべている。
「説明する必要も、ないことですが。足に石を吊るされれば、苦痛は何倍にもなります。
 その前に、魔女であると認める人は、居ますか?」
 ゆっくりと苦痛に呻き、身をよじる修道女たちを見回し、ミレニアがそう問いかける。その問いかけに、誰も答えないのを確認すると、無造作にミレニアは片手を挙げた。拷問吏たちが台を取り去り、拷問部屋に絶叫が響き渡る。
「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアァァッ!! アアァッ、アアアァッ、アアアアアアーーーーッ!!」
「裂ける、裂ける裂ける裂けるぅっ! 股が、裂けちゃうっ、ヒイイイイイイイイイイィッ!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ! 降ろしてっ、ここから降ろしてえぇっ!!」
 激痛に泣き叫び、身悶える修道女たち。股間に食い込むロバの背が、肌や肉を食い破ったのか、だらだらと流れる鮮血がロバの胴を濡らす。泣き叫ぶ修道女の一人の下へと歩み寄り、ミレニアがゆっくりと問いかけた。
「そこから、降りたいですか?」
「降ろしてっ、股が、裂けるっ、死んじゃうううぅっ」
「魔女だと認めれば、降ろします。認めないのであれば、いつまでもそのままです」
「ううっ、ウアアアァッ、アアアアアアアアアアアアァッ!! ギャアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 表情一つ変えずにミレニアが彼女の足に吊られた石を踏みつける。絶叫を上げて身悶える修道女が、ついに耐え切れなくなったのか涙を流しながら叫んだ。
「認めますっ、魔女だって認めますっ! だからっ、もう許してっ! ヒギャアアアアアアアアアアアアアァァッ!」
「い、いけませんっ、ユーリ、認めて、はっ、くううううううううううぅっ」
 彼女の叫びにアリエラが顔色を変えるが、彼女自身もロバの責めにあっている最中だ。反射的に彼女のほうへと身を乗り出そうとした途端、ぐりっとロバの背で血塗れの股間をえぐられ、苦痛の声を上げる。それでもなお、呼びかけを続ける辺りは、たいしたものだが。
「認めれば、殺されますっ。くうっ、ああっ、み、認めてはっ、うぐっ、いけませんっ」
「五月蝿い女ですわね。黙らせましょうか? 御主人様」
「必要、ありません。
 さて、ユーリ、でしたか。彼女の言うとおり、認めれば、死です。それでも、魔女であることを、認めますか?」
 歩み寄ってきたクリシーヌの問いに、素っ気無く首を振るとミレニアがそう問いかけた。流石に躊躇いの色を見せる修道女の腰の辺りをクリシーヌが両手でつかみ、乱暴に揺さぶる。
「認めるの!? 認めないのっ!? さあ、どっち!?」
「ギッ、ギャッ、ガッ、ギャウッ、ガッ、ギャアアアアアァッ! ヤベッ、デエェッ、裂けるうぅぅっ!」
「認めるならやめてあげるわ。認めないなら、ほぅら」
「ギエエエエエエエエエエエエエェッ!! ヤベデエェッ! 認めるから、認めますからぁっ!!」
 クリシーヌの行動に、耐えられる限界を超えたのか、ぼろぼろと涙をこぼしながら修道女がそう叫ぶ。口元に笑みを浮かべるクリシーヌのことをちらりと見やり、淡々とした口調でミレニアが修道女へと問いかけた。
「魔女だと、認めるのですね?」
「認めますううぅっ、だからっ、はやくっ、ここからおろしてっ、ヒギャアアアアアアアアアアアアアァッ!」
 泣き喚く修道女のことを無表情に見やり、ミレニアが軽く片手をあげる。彼女の担当の拷問吏が巻き上げ機を操作し、彼女の身体を吊り上げた。股間にロバの背が食い込む苦痛からは解放されたものの、今度は髪だけで吊られる--しかも、自分の体重に加えて足に吊るされた石の重みもある--苦痛に襲われてユーリが泣き喚いた。
「痛いっ、痛い痛い痛いっ」
「痛い、と、言えるうちは、まだ大丈夫です」
 苦痛の叫びを上げるユーリへと素っ気無くそう応じ、ミレニアが視線を他の修道女たちのほうへと向ける。皆が苦痛に悲鳴を上げ、少しでも苦痛から逃れようと身をよじり、逆に苦痛を増す中、修道院長のアリエラのみがきっとミレニアのことを睨みつけていた。微かに首を傾げ、ミレニアがアリエラの前へと足を進める。
「何か?」
「な、何か、じゃないわっ。あ、あなたには、人の心と、いうものがっ、ないのっ!? どうして、こんな、酷いことがっ!?」
 苦痛のために途切れ途切れになりつつも、そう叫ぶアリエラ。表情一つ変えずに、ミレニアはすっと手を伸ばし、苦痛にひくひくと震えるアリエラの腹を指でなぞった。
「酷いこと、ですか。まだ、拷問は、始まったばかりですが」
「こ、これ以上、まだ酷いことを、する気なのっ!?」
「ええ」
 かっと目を見開いたアリエラへと、淡々とそう応じてミレニアが軽く片手をあげる。パチン、と、彼女が指を鳴らすと、拷問吏たちが壁から皮鞭を手に取り、一斉に振りかぶった。
「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!」
 ロバに乗せられ、苦痛に悶える修道女たちの背に、鞭が弾ける。背中にくっきりと赤い鞭痕を刻み込まれ、顔をのけぞらせて悲鳴を上げる修道女たち。その動きにロバの背が股間をえぐり、更に苦痛を増す。
「アアアアアアアァッ、痛いっ、許してっ、ヒイイイイイイイイイイィッ!」
「嫌っ、もうイヤッ、キャアアアアアアアアアアアアァッ!」
「ヒイイイイイイイイイイィッ! 御慈悲をっ、御慈悲をぉっ! キャアアアアアアアアアアァッッ!!」
 びしぃっ、ばしぃっ、と、規則正しく鞭音が響く。鞭打たれるたびにのけぞり、絶叫を上げる修道女たち。本職の拷問吏たちの振るう鞭だけに、肌を引き裂くことはせず、ただ赤く鞭痕を刻むだけで肌と肉とを引き裂かれるに等しい激痛を的確に与える。その痛みに身動きせずに耐えることは不可能だが、身悶えれば股間をロバの背でえぐられる。
「ギエエエエエエエエエエエエエエエェッ!! 熱いいいいいイイいいイイィッ!!」
 規則正しく響く鞭の音、そして修道女たちの上げる悲鳴。そこに、一際大きく、濁った絶叫が加わった。無論、魔女であることを認め、処刑されるユーリの上げる絶叫だ。逆さに磔られ、股間から灼熱の杭を体内へと捩じ込まれる残酷な処刑に、ユーリが半ば白目を剥いて絶叫し、身悶え、救いを求める。
「助けてっ、ギイヤアアアアアアァッ! アガッ、アギッ、ガアアアアアアアアァッ! 熱いっ、アアァッ、死ぬううぅっ、ギエエエエエエエエエエェアアアアアアアアァッ!! 誰がっ、助けてぇっ!」
「正面から、鞭を」
 ちらりと、一回だけ視線を処刑されるユーリのほうへと向けたものの、何の表情も浮かべずにすぐに視線をロバの上で鞭打たれる修道女たちのほうへと戻し、ミレニアがそう命じる。拷問吏たちが位置を変え、正面から修道女たちへと鞭を振るった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
「アヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィッ!!」
 くっきりと乳房に鞭痕を刻まれ、修道女たちが絶叫する。全身に浮かべた脂汗を飛ばし、身悶える修道女たちへと容赦のない鞭が飛び、更に苦痛を与え、絶叫させる。
「いやはや、これは……」
 流石に、辟易した表情を浮かべて僧服の男が胸元を抑える。室内は修道女たちの上げる悲痛な叫びに満ち、思わず耳を覆い目を閉じたくなるような凄惨な状態になっている。魔女の審問ではよくある光景、と言えなくもないが、複数の人間が一斉に上げる絶叫というのは、一人の上げるそれとはまた違った精神的負担となるものらしい。
「何か?」
「あ、いえ、別に……」
 唐突に振り返ったミレニアに問いかけられ、男はやや慌てて手を振って見せた。そう、ですか、と短く応じ、再びミレニアが視線をロバのほうへと戻す。表情一つ変えない彼女の姿に背筋に冷たいものを覚えつつ、男が小さく首を振る。
「ヒイイイイイイイイイイイイイイィッ! やめっ、もう止めてえええええええぇっ!」
 バシン、と、乳房を鞭で打たれ、甲高い声で悲鳴を上げて顔をのけぞらした修道女が、ぼろぼろと涙を流しながらそう叫ぶ。彼女の前に立ち、彼女の言葉を完全に無視して鞭を再び振り上げた拷問吏の肩を、ミレニアが掴んだ。仮面に覆われているためにその表情は分からないが、明らかに動揺した素振りで拷問吏が身を翻す。
「こ、侯爵夫人!?」
「何か?」
 他の拷問吏たちも思わず、といった感じで鞭を振るう手を止め、僧服の男が慌てた声を上げる。一人、何事もなかったかのように無表情にミレニアが男のほうへと振り返り、淡々とした口調で問いかけた。
「そ、そのような、下賎な輩に触れるのは、如何なものかと」
「私は、気にしませんから」
 ミレニアがあまりにも平然としているためか、妙にどぎまぎした口調になった僧服の男へと、ミレニアは素っ気無くそう応じた。思わず目を見開いた男から視線を外し、ロバの上で苦痛に喘ぐ修道女へとミレニアが問いかける。
「止めて、と、言いましたが。それは、魔女であることを認める、ということですか?」
「ち、違う、私は、魔女なんかじゃ、ありません……も、もう、許して、ください」
「そう、ですか。認めないのであれば、続けるだけです」
 苦痛に途切れ途切れの声で、哀願する修道女へとミレニアが表情一つ変えずにそう告げる。ゆっくりとミレニアに見回され、手を止めていた拷問吏たちが慌てて鞭を振り上げた。ひいいい、と、修道女たちが恐怖の悲鳴を上げるのを、ミレニアは眉一つ動かさずに黙って見つめている。
「御慈悲をっ、御慈悲、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!」
「アアアアアアアアアアアアアァッ! わ、私は、魔女なんかじゃ……ヒイイイイイイイイイイイイイイィッ!」
 懸命に哀願する修道女たちの声が、鞭で打たれるたびに悲鳴で途切れる。何とか苦痛から逃れようと、身をよじり、哀願するその姿は酷く無残で、哀れなものだ。しかし、ミレニアは表情一つ変えることなく、その姿を黙って見つめている。
「ヒギイイイイイイイイイイイイィッ! も、もうっ、止めてええぇっ!」
「魔女だと認めるまで、拷問は続けます」
 鞭打たれて顔をのけぞらせ、絶叫する修道女へと、淡々とした口調でミレニアがそう繰り返す。いい加減、気力の限界に来ていたのか、その言葉にぼろぼろと涙を流しながらその修道女は叫んだ。
「認めますっ、魔女だって、認めますっ! キャアアアアアアアアアアアアアアァァッ!」
 鞭を止めるのが間に合わなかったのか、再び鞭で打たれて修道女が絶叫する。僅かに首を振ると、ミレニアが彼女の前に進み出た。
「私は、魔女です、魔女だって認めます、だから、もう……」
 半ばうわごとのようにそう漏らす修道女のことを見上げ、ミレニアが煩わしげに落ちかかってきた前髪を掻きあげる。
「バゼット! いけませんっ、認めては……あああああああああぁぁっ!」
 懸命にアリエラが制止の声をあげるが、容赦のない鞭が彼女を襲い悲鳴をあげさせる。一方、そんな彼女の叫びなどまるで気にもせず、ミレニアはさらに問い掛けた。
「魔女であることを認め、処刑されるのですね?」
「あ、ああ、あ、許して、私、魔女だから、認めるから、もう許して、あああ……」
 ミレニアの言葉が聞こえているのかいないのか、うわごとのように修道女(バゼット)が繰り返す。その瞳からは半分焦点が消えかけ、不安定に宙を彷徨っていた。
「魔女、魔女です……魔女でいいです。だから……もう、許して……魔女、だから」
「壊れましたか。まぁ、いいでしょう」
「あ、あ、あなたという人はっ!」
 ぶつぶつと呟く修道女の姿に、何の感情もこもらない呟きをもらすミレニア。アリエラが憤然とした声をあげるが、そちらには一瞥さえ向けずにミレニアがぶつぶつと呟きつづけるバゼットをロバから下ろすように指示する。
「あなたはっ、人の生命をっ、一体何だと思ってるのっ!?」
「魔女に慈悲を与えるな。それが、教会の教えでしょう?」
 自分へと非難の声を向けるアリエラに、淡々とそう応じるとミレニアは壁の棚へと足を向けた。三対六本の乳房裂き器を取り出し、ロバの上で責められている修道女たちの元へと戻ってくる。
「次は、これです。……錘は、棚の下に。準備を」
 がしゃんと音を立てて床の上に放り出される乳房裂き器。鞭を振るっていた拷問吏たちがそれを手に取り、修道女たちの下へと歩み寄る。すでに自分の担当していた修道女が魔女であることを認め、手の空いていた拷問吏たちがミレニアの指示に従い錘の準備をする。拳よりも一回りほど大きな、鉄製の錘だ。
「何!? 何を……ぎゃあああああああああぁぁっ!」
 ロバの上で苦痛にもだえていた修道女たちの胸に、乳房裂き器が装着される。ペンチを大きくしたような形状のそれは、湾曲した六本の爪でがっちりと修道女たちの乳房に食らいついた。鋭い先端が乳房を突き破り、食い込む。
「ぎいいいいいいいいぃぃっ! ぐぎゃああああああああああああああああああぁぁっ!!」
「胸がっ、千切れるっ、千切れるううぅっ!! ひぎいいいいいいいいいいぃぃっ!!」
「神よ……っ! 御慈悲を……ぎゃあああああああああぁぁっ!」
 女の急所である乳房に加えられる激痛に、修道女たちがロバの上で絶叫を上げる。ぐっ、ぐっと強く取っ手を握り、より深く爪を乳房に食い込ませていく拷問吏たち。びくびくと身体を痙攣させながら、絶叫する修道女たちのことを、クリシーヌが楽しげな笑みを浮かべて見やる。
「ふふっ、いい悲鳴ですわね。私も、そちらに参加したいものですわ。
 もうっ、ほらっ、後がつかえているんだから、さっさと死になさいっ」
「アギャギャギャギャッ、グギャッ、ギエエエエエエエエエエエエエエエエェッ!!」
 クリシーヌがハンドルを回し、逆さに拘束されたユーリの体内へと灼熱の棒をねじ込んでいく。絶叫を上げて身悶える彼女の口からは血の混じった泡が飛び、すでに大きく見開いた瞳からは焦点が消えていた。もう充分に致命傷といえる傷を受け、たとえこれから処置をしたとしても到底生命は助からない状態だ。それでも、生命の火が燃え尽きるまでのもうしばらくの間は、彼女はこの苦痛に叫びつづけなければならない。
「……錘を」
 胸に乳房裂き器を食い込まされ、ぼろぼろと涙を流しながらロバの上で身悶える三人の修道女たち。逆さに磔られ、体内を焼けた鉄の棒で貫かれ悶え死のうとしているユーリ。処刑の順番を待ちながら、既に心はここにないのかぶつぶつと何事かを呟きつづけているバゼット。どれをとっても無残な姿だが、そのいずれにも関心を持っていないかのように、ミレニアが淡々と告げる。
 ロバの上の修道女たちの胸に食い込む乳房裂き器。その先端の握りの部分に錘から伸びた短い鎖が巻きつけられる。ずしっと乳房裂き器に重さがかかり、爪を食い込まされた乳房に引き千切られる痛みが走る。
「ぎゃあああああああああぁっ! ひぎゃあああああああああああああああぁぁっ!」
「千切れっ、千切れるっ、胸がっ、千切れるっ、ひぎいいいいいいいいぃぃっ!」
「くあああぁぅ、うぐううぅっ、くひいいいいいぃっ。や、やめっ、なさいっ。あ、あなたにっ、すこしっ、ああぁっ、でもっ、くっ、人のっ、心がっ、ぐうっ、残っているのならっ。あああああああぁっ!」
 だらだらと胸から血を流しながら、修道女たちが苦痛の声をあげる。じわじわと時間をかけて乳房をもぎ取るように、錘の重さは調整してある。苦痛にもがくたびに錘が揺れ、ゆっくりと傷を広げながら乳房をもぎ取っていくのだ。一息に毟り取られたほうがよほど楽だろうに、犠牲者たちは長々と苦痛に耐えなければならない。
「嫌っ、もう嫌っ! 殺してっ、一思いに、殺してよおぉっ!」
「た、耐えるのですっ、カレン。こ、このような行いを、神が許されるはずが、ありませんっ。耐えるのですっ」
「そんなのっ、無理っ、無理よおぉっ。殺してっ、もうっ、殺してよおぉっ」
 修道女の一人が半狂乱になって泣き叫ぶ。アリエラが懸命に宥めるが、全身を襲う激痛にカレンと呼ばれた修道女は泣き叫ぶばかりだ。ゆっくりと歩み寄ったミレニアが、彼女の胸からぶら下がる錘に手をかけ、揺さぶった。
「ヒギッ、ギギャアアアアアアアアアアアアァァッ!?」
「魔女であることを、認めますか?」
 絶叫するカレンへと、ミレニアが淡々と問い掛ける。何か言おうと口を開きかけたカレンの耳に、凄絶な絶叫が届いた。思わずびくっと身体をすくめ、視線を声の下へと向ける。
 そこでは、三人目の犠牲者であるバゼットが、体内へと灼熱の棒をねじ込まれ、狂ったように身悶えながら絶叫を上げていた。カレンの視線を追うように自分もそちらへと視線を向けたミレニアが、淡々とした口調で告げる。
「魔女であることを認めるのであれば、ああなります」
「ひ……っ!?」
 今全身を苛む地獄のような激痛からはもちろん一刻も早く逃れたい。だが、魔女であることを認めればああなると言われ、そのあまりにも無残な姿に魔女であると認めるのも怖い。混乱したカレンが、ぶんぶんと首を左右に振りながら叫んだ。
「私っ、私はっ! 魔女なんかじゃ、ないっ。巻き添えを、食っただけなのっ」
「巻き添え?」
「そうっ、そうなのっ! 魔女は、あの三人っ。私はっ、何も、してないっ。あの三人がっ、魔女なのっ」
 既に息絶えた二人と、今処刑されつつある一人。その三人のみが魔女で、自分は魔女などではないという主張。その主張に、ミレニアはゆっくりと僧服の男の方へと振り返った。
「全員が魔女だと、聞いていましたが?」
「あ、それは……」
「これで終わりにするか、まだ続けるか。決めてください」
「え、あの、その……」
 静かなミレニアの問いかけに、僧服の男が口篭もる。気圧されたように、しどろもどろになって男は逆に問い掛けた。
「その、侯爵夫人は、どのようにお考えで?」
 男の問いに、ミレニアがすっと目を僅かに細める。背筋にぞくっとしたものを感じ、男は慌てて首を振った。
「あ、いえ、その……教会の調べでは、全員が魔女であることに間違いはない、と」
「嘘っ、嘘よっ、私は、魔女なんかじゃないっ! 私は無実なのっ。無実の人間を殺すなんて、そんなこと許されないでしょう!?」
 カレンが必死に叫び、ミレニアもその言葉に小さく頷く。
「全員が魔女であり、その審問には最大限の過酷さを以ってあたるべし。
 それが、私が教会から受けた指示ですが。魔女でない人間が、もし混ざっていたとしたら」
「そ、そのようなことはございませんっ、侯爵夫人」
 ミレニアの言葉に、慌てて男がそう叫ぶ。
「この者たちは、全員が間違いなく魔女です。苦痛から逃れるために、口からでまかせを言っているに過ぎません。どうか、真実を語るまで審問をお続けください」
「嘘っ、嘘嘘嘘っ。私は魔女なんかじゃないっ。お願いっ、信じてえぇっ!」
「……もう、いいです。よく分かりました」
 男の言葉にカレンが泣き叫ぶ。その叫びに紛れるように、もう一人の修道女ががっくりとうつむいて小さくそう呟いた。微かな呟きだったが、ミレニアの耳には届いたのか、彼女の視線が修道女のほうへと向けられる。
「もういい、とは?」
「魔女であると、認めます」
「バネッサ! 一体何を……!?」
 修道女が小さく、しかしはっきりと口にした言葉に、アリエラが動揺の声をあげる。こちらは表情一つ変えずに、ミレニアが念押しするように問い掛けた。
「魔女であることを認め、処刑される、と?」
「いくら耐えたところで……あなた方は、魔女でない、という結論を出す気はないのでしょう? ならば、耐えたところで無意味です」
「バネッサ! いけませんっ、認めてはっ!」
「院長様、認めなければ、どうなるというのです? このまま、死ぬまで責められつづけろとでも?」
 アリエラの制止に、バネッサが醒めた口調でそう応じる。うっと言葉に詰まったアリエラのことを見やり、バネッサは苦痛に歪んだ顔に微かに笑みを浮かべた。
「この人たちは、最初から、私たちを殺すつもりです。拷問にかけ、魔女であると認めれば処刑。認めなければ、認めるまで責めを続ける。
 どれほど耐えようと、魔女でないと判定して責めを終わらせるつもりなど、最初からないのです」
「だ、だとしても! 謂れのない罪を、自ら認めてはなりませんっ。
 たとえ殺されるにしても、魔女として処刑されるのと、冤罪によって殺されるのとでは大違いです」
「そう思うのなら、あなたが一人でそうすればいい。
 さぁ、私は魔女であることを認めました。早く、殺しなさい」
 アリエラの言葉を冷たく突き放し、バネッサがミレニアに呼びかける。小さく頷くと、ミレニアは彼女をロバから降ろすよう命じた。胸に食い込む乳房裂き器も外され、とりあえずは苦痛から解放されたバネッサがふぅと安堵の息を吐き、そのまま意識を失う。
「さて、これで残るは、二人ですが」
 意識を失ったバネッサから視線を移し、ミレニアがそう呟く。すっとその手が伸び、カレンの胸で揺れる乳房裂き器の錘を揺さぶった。ぶちっ、ぶちっと乳房の肉が引き裂かれ、鮮血が飛び散る。
「ギイイィッ! グギャアアアアアアアァァッ!!」
「あなたは、どうします?」
「アガッ、アガアアアアアァァッ! 胸がああぁっ! ギイッ、グギャアアッ、ギエエエエエエエッ!!」
 無造作に、ミレニアが錘を揺さぶる。絶叫を上げて身悶えるカレンの姿を無表情に見つめながら。
「嫌っ、もう嫌あああああああああああああああぁぁっ!
 千切れるっ、ほんとに千切れるううぅぅっ! ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!」
 ぶちぶちぶちっと、肉を裂く鈍い音と共にカレンの乳房が根元からもぎ取られる。絶叫を上げて大きくカレンが顔をのけぞらせ、口の端に白い泡を浮かべた。引き千切られた胸の傷口からあふれる鮮血に顔をまだらに染め、ミレニアがもう片方の乳房裂き器から吊るされた錘に手を伸ばす。
「魔女であることを、認めますか?」
「認めるっ、認めるからあぁぁぁっ! もう止めてええええええぇっ!!」
 淡々としたミレニアの問いかけに、カレンが絶叫する。表情一つ変えずに小さく頷くと、ミレニアは拷問吏たちにカレンをロバから降ろすよう命じた。そして、そのまま、アリエラが責められているロバへと足を向ける。
「これで、残るはあなた一人、ですが」
「あ、ぐ、くぅっ……神よ、どうかこの者たちを憐れみたまえ」
 全身にびっしょりと苦痛のための脂汗を浮かべ、息を荒らげながらアリエラがそう呟く。顔に付いた血を指先で拭い、ぺろりと舐めるとミレニアは薄く笑った。
「祈るのであれば、自分のために祈るべきだと思いますが」
「う、ぐ、あ……あぐううぅ……ひ、い……ギャアアアアアアアアアアアアアアァアァァッ!?」
 ロバに押し付けられた股間、乳房裂き器によってじわじわと引き裂かれつつある二つの膨らみ。その痛みに息を荒らげるアリエラが、絶叫を上げて顔をのけぞらせた。ミレニアの手が、乳房裂き器に吊るされた錘を掴み、乱暴に揺さぶったのだ。
「ギイッ! ギャッ! ガアアアアアアアァァッ!!」
「魔女であると、認めますか?」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
 問いかけながら、ミレニアが強く錘を引く。ぶちぶちぶちっと、根元からアリエラの乳房が引き千切られ、彼女の口から絶叫があふれた。
「ああっ、あああっ、あああああああぁっ! ひぎ、が、あ、あ、あ……」
 激痛に身悶えれば、その動きが股間を更に痛めつける。激痛のあまり半ば意識が飛びかけたアリエラへと、無表情にミレニアが問いかけた。
「あなたは、魔女ですね?」
「違う、違う……私は、魔女なんかじゃ……ない……」
「そう、ですか」
 苦痛に喘ぎながら、途切れ途切れに答えるアリエラ。無表情に頷くと、ミレニアはもう一方の錘へと手を伸ばした。乳房裂き器を乱暴に揺さぶられ、引かれる激痛に、アリエラが絶叫を下げて身悶える。
「グギャッ、ギャッ、ガッ、ギイッ、ガッ、千切れッ、ウギャギャッ、ギャウゥッ、ギャアアァッ!
 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!」
 ぶちぶちぶちっと音を立てて引き千切られる乳房。凄絶な絶叫を上げ、アリエラがびくびくと身体を痙攣させる。失禁したのか、ロバの側面を黄色がかった液体が伝った。その凄惨な姿に、思わずといった感じで僧服の男が顔を背け、胸の辺りを抑える。
「魔女であることを、認めますか?」 「魔女じゃ……ない……私は……魔女じゃ……ない」
 表情一つ変えずにミレニアが問いかけ、うわごとのようにアリエラが否定する。ミレニアが軽く小首をかしげ、前髪をかきあげた。
「まだ、認めませんか」
「ふふっ、なかなかしぶとい女ですわね、御主人様。
 それでしたら、そのまま全身を少しずつ切り刻んでいくというのはいかがでしょう? 少しずつ全身の肉を削ぎ取られる痛みに無様に泣き叫び身悶える……その姿はさぞかし見ものかと思いますが」
 クリシーヌがくすくすと笑いながらいかにも楽しそうにそう提案する。その台詞に、彼女に背を向ける格好になっていたミレニアがびくっと全身を震わせた。ぎゅっと、きつく拳を握ったミレニアへと、それに気づかなかったのか楽しげな笑みを浮かべたままクリシーヌが言葉を続ける。
「最初は強気に抵抗していても、全身を切り刻まれる苦痛の前にはそう長くは耐えられない。やがては無様に泣き喚き、何でも言う事を聞くからもう許してくださいと哀願するように」
「……さい」
 クリシーヌの言葉を遮るように、ミレニアの掠れた声が響く。は? と、怪訝そうな表情を浮かべたクリシーヌが首を傾げながらミレニアへと呼びかけた。
「あの、御主人様?」
「うるさいっ! 黙れっ!」
「ひ……っ!?」
 ぶんっと大きく腕を振りながら振り返り、ミレニアがクリシーヌのことを怒鳴りつける。その剣幕と、何よりもその瞳に燃える怒りの激しさに、一瞬で顔面蒼白となってクリシーヌが尻餅をついた。つかつかとクリシーヌの元へと歩み寄ったミレニアが彼女の胸倉を掴んで捻りあげる。
「べらべらと余計なことを……誰があなたに意見を言えといったの!?」
「ひっ! も、申し訳、ございません」
 初めて見るミレニアの激しい怒りに、ぶるぶると震えながらクリシーヌが掠れた声をだす。メイド服の股間の辺りに黒いしみを広げ、今にも恐怖のあまり気絶してしまいそうな様子のクリシーヌの姿を凝視すること数秒。ぎりっと強く奥歯を噛み締めたミレニアが、乱暴にクリシーヌのことを突き飛ばすと数度大きく深呼吸した。
「……失礼。取り乱しました」
「あ、いえ、その……お気になさらずに」
 無表情に戻ったミレニアに軽く頭を下げられ、僧服の男が掠れた声で応じる。ほんの僅かな時間だったが、ミレニアの見せた怒りは凄まじかった。もしも迂闊なことを言ったりすれば、間違いなく惨殺されると確信できる空気があったのだ。完全に腰を抜かしているクリシーヌのことをチラッと見やり、ミレニアが溜息をつく。
「気分が優れないので、続きは後日に。よろしいですか?」
「は、承知いたしました」
 ミレニアの言葉に、男が即答して頭を下げる。教会からの指示では、今日一日で決着をつける予定だったのだが、今のミレニアに向かって歯向かう勇気などとてもない。一体何が彼女の機嫌を損ねたのかは分からないが、今の彼女は激情を無理やり押し殺した爆弾のような状態だ。
「では、彼女たちは牢の方に。クリシーヌ」
「ひいっ!?」
「彼らの案内を。それと、許すのは、一度だけです」
「はっ、はいっ」
 爪が掌に食い込んで血を流すほど強く拳を握り、そう告げるとミレニアは部屋を後にした……。
TOPへ
この作品の感想は?: