領主様は、食事の時にメイドの女の子に罰を与えるということをよくやります。女の子が上げる悲鳴を聞きながら食事を取るのが好きだかららしいんですけど、正室として食事の場に同席する私にとってはあんまり嬉しい趣味ではありません。まぁ、今ではもう、慣れてしまいましたが。
 だから、今日の夕食の時にメイドの女の子が棒打ちの罰を受けたこと自体は、よくあることなんですけど、その時ちょっとしたアクシデントが起きてしまいました。運悪く、その子が死んでしまったんですよね。それで、その子と仲が良かった人が逆上してしまって……座っていた位置の関係なんでしょうけど、私に飛びかかってきたんです。床の上に押し倒されて、首を締められるという経験は初めてだったんですけど、本当に殺されるかと思いました。もちろん、すぐにバルボアさんが引き剥がしてくれましたけど。
 普通に食事を取っているだけで、二人も死人が出るというのは、もしかしたらかなり異常なことなのかもしれません。このお屋敷では、人が死ぬのなんて珍しくもないことですけれど……。
(ミレニアの日記より抜粋)

 領主の館の、晩餐風景。長テーブルの端に領主とミレニアの席が設けられて居る。領主はどうやら上機嫌らしく、食事をするよりもミレニアに話しかける方により多く口を動かしていた。一方、話しかけられたミレニアは最小限の相槌を打つぐらいで、黙々と食事を続けている。
 可哀想なのは、食事の給仕をすることになった三人のメイドたちだろう。領主の側に仕えるのは常に神経を擦り減らす行為だが、食事の時は特に恐怖を感じる。領主が不機嫌な時はもちろん、上機嫌な時でもほとんど無視するも同然の態度をミレニアが取っているだけにいつ領主が怒りを発するか分からない。その怒りがミレニアに向かうならばよいが、ミレニアのことを完全に気に入っている--というより、完全に惚れ抜いている--領主が怒りをミレニアに向けることはない。その代わりに、ほとんど八つ当たりといった形でメイドたちに向かって怒りを発するのだ。理不尽な理由で、罰を受けたメイドの数はもう相当な数にのぼっており、領主様が上機嫌なまま食事が終わりますように、と、彼女たちは心から願っていた。
 おどおどと視線を交わし、不安そうな表情を浮かべているメイドたち。無表情にナイフを動かしていたミレニアが、すうっと左手を空になったワイングラスに伸ばした。弾かれたようにメイドの中でも最も若く見える少女がワインの瓶を手に取り、グラスへと注ごうとする。だが、慌てたためかそれとも緊張のためか、がちゃんと音を立てて瓶とグラスがぶつかり、こぼれた赤ワインがミレニアのメイド服の袖を濡らした。領主が眉をひそめ、無言でミレニアが失態を演じたメイドの少女へと視線を向ける。
「ひっ……! お、お許しをっ!」
 恐怖の表情を浮かべ、少女が床へと這いつくばる。すっと視線でそれを追うと、ミレニアが領主の方へは視線を向けぬままぼそっと問いかけた。
「どう、します?」
「ふむ、罰を与える必要があるな。自分の仕事もまともに出来んのではな」
「ひっ、ひいいぃっ! お許しをっ、どうかっ、御慈悲をっ!」
 自分の足にすがりつくようにして悲痛な声を上げる少女を、無表情に見下ろしてミレニアが呟く。
「罰、ですか。鞭を?」
「そんなところだろうな。回数は、これで決めるとしよう」
 楽しそうな笑いを浮かべながら、領主が白いサイコロを二つ、懐から取り出す。サイコロといっても、普通の四角い物ではなく、十の面を持つ物だ。もちろん正十面体などという物は存在しないから、五角錐を二つ、そこでくっつけたような形をしている。刻まれた数字は、0から9。奇妙に白い色をしているのは、人間の骨から削り出して作った物だからである。
「お前が十の位を決めるがいい。私は、一の位を決めるとしよう」
 ミレニアへとサイコロの一つを放り、そう言いながら無造作に領主がテーブルの上にサイコロを転がす。無言のまま、ミレニアもサイコロを転がした。ころころっと転がって出た目は、両方共0だ。
「ほう、百の目が出るか。では、回数は百だな」
「そう、ですか。……あなたたち。彼女を、押さえて」
 領主の笑いを含んだ答えに、無表情に頷くとミレニアが他のメイドたちへとそう声をかける。顔を見合わせるメイドたちへと、淡々とした口調でミレニアが更に言葉を続けた。
「かばう人は、同罪としますよ」
 ミレニアの言葉に、メイドたちの表情に恐怖と狼狽の色が浮かぶ。罪悪感に表情を歪めながら、メイドたちがミレニアの足にすがりつく少女の肩や腕を掴み、引き剥がすとテーブルから少し離れた場所に押さえ込んだ。胸と顔を床に押しつけられた少女が、じたばたともがきながら悲痛な叫びを上げる。
「いやあぁっ、いやああぁっ、離してっ、離してってばっ。ケイト、シャロン、お願いだからっ、離してよぉっ」
「ごめん、ごめんなさいっ。許して、ユニ……!」
 赤毛のメイドが、少女の悲痛な声にこちらも泣きそうな表情になってそう応じる。ぎゅっと唇を噛み締め、もう一人の栗色の髪のメイドは無言で少女のことを押さえ込んでいた。
 領主が鳴らしたベルの音に応じ、下男のバルボアがのっそりと食堂に姿を現す。扉の開く音に思わず首を捻じ曲げてそっちを見た少女--ユニが、彼の手に握られた細い木の棒を目にして恐怖の叫びを上げた。別に刺が付いているわけでもないごく普通の棒なのだが、これからそれで打たれると思えば恐怖の声を上げずにはいられないのだろう。
「身体を、起こしてください」
「そうそう。その格好では、苦痛に歪む顔が見にくいからな」
 ミレニアが、ユニのことを押さえつけている二人のメイドたちに向かって淡々と指示を出し、領主が愉快そうな笑いを浮かべて言葉を続ける。辛そうに表情を歪めながら、二人のメイドたちは恐怖に身体を震わせているユニの腕を掴んで上体を引き起こした。バルボアが彼女のメイド服の首元に手をかけ、一気に生地を引き裂いて白い背中をあらわにする。目を見開いて叫び声を上げるユニ。数歩下がると、バルボアは無造作に手にした棒で彼女の背中を打ち据えた。
「ひいいいいぃっ」
 甲高い悲鳴を上げ、ユニが首をのけぞらせる。ぱしぃんという乾いた音が響き、白い背中に真っ赤な筋が一本刻み込まれた。見開いた目に涙を浮かべ、イヤイヤをするように首を左右に振るユニの背中へと、バルボアが二発目を叩き込む。
「ひいいいいぃぃっ。い、痛いっ、やめてぇっ」
 身体を揺すり、悲鳴を上げながら何とか逃れようとあがくユニ。自分が打たれているかのように表情を歪め、顔を背けながら二人のメイドはユニの腕と肩を押さえ込んでいた。無言のままバルボアが棒を振り上げ、振り降ろす。
「いやあああぁっ、やめてっ、許してっ。ひっ、ひいいいいいぃっ」
 ぱしぃん、ぱしぃんと、乾いた音を響かせて細い木の棒がユニの背中を打ち据える。細いといっても、堅く丈夫な木の棒である。バルボアの怪力で振るわれれば、威力は相当なものだ。打たれるたびにびくんと身体をのけぞらせ、ユニが長く尾を引く悲鳴を上げる。くっくっく、と、楽しげな笑いを浮かべながら領主は泣き、悶えるユニの姿を眺めていた。
「なかなか、いい声で鳴くではないか。のう、ミレニア」
「……ええ」
「ひっ、ひっぐ、痛い……許して。ひっ、ひいいいいいぃぃっ」
 白い背中に何本もの赤い筋が走り、所々で肌が破けて真紅の血が滴り始める。涙とよだれで顔をべちゃべちゃにしたユニがすすり泣き、棒が振り降ろされるたびに弾かれたように身体をのけぞらせて甲高い悲鳴を上げる。
 棒が肉を打つ音、ユニのあげる悲鳴、そして、棒で打たれるユニの方には視線を向けようともしないミレニアの動かすナイフの音。そんな音だけが室内を満たす。黙々と食事を続けるミレニアとは対照的に、領主はほとんど食事の手を止め、楽しげな笑みを浮かべて打たれるユニの姿を眺めている。
「あ、ぎ……ぎャひイィッ」
 打たれた回数が五十を越え、六十に近くなってくると、ユニのあげる悲鳴が弱々しくなってきた。がっくりと頭を伏せたまま、既に肌がぼろぼろになり、血まみれになった背中を打たれるたびにびくっと痙攣するように頭を跳ね上げてくぐもった悲鳴を上げる。六十回目に打たれた時、ついにユニは白目を剥いて気絶してしまった。彼女の背中からあふれた血はスカートをぐっしょりと濡らし、床の上にまで広がっている。血をたっぷりと吸った木の棒を片手に、バルボアが視線を領主の方に向けた。
「ふむ、気を失ったか……」
「まだ、四十回残っています。続けてください」
 バルボアの視線を受け、領主が左手を顎に当てて僅かに考え込む。だが、彼が更に口を開いて言葉を続けるより早く、ミレニアが視線すら上げずにそう言った。気を失ったユニの腕を抱え込んでいたメイドたちが、驚愕に目を見開いてミレニアのことを見つめる。
「そんな……! これ以上続けたら、死んでしまいます!」
「百回と、最初に決まったことです。途中での変更は、ありません」
 赤毛の少女の叫びに、やっと視線を上げたミレニアが淡々とそう言う。絶句した少女からバルボアへと視線を動かし、ミレニアは静かに続けるよう促した。くくっと低く笑い、領主が肩をすくめる。
「確かに、途中で回数を変更するのは公平ではないな。バルボア、続けるがいい」
 領主の言葉に、無言で頷いてバルボアが棒を気絶したユニの背中へと振り降ろす。ひぐっと掠れた呻きが彼女の口から漏れ、びくんと身体が震える。もっとも、意識を取り戻したというわけではなく、打たれたショックで身体が痙攣し、肺から息が絞り出されただけのようだが。
「やめてっ、本当に、死んじゃうっ」
 赤毛の少女が泣きながらそう叫び、バルボアへと掴みかかった。だが、力が違い過ぎる。あっさりと振り払われ、床の上に倒れ込んだ彼女のすぐ横で、意識を失ったまま床にうつぶせに転がったユニの背中へと棒が振り降ろされた。びちゃっと湿った音が響き、力なく投げ出されていた彼女の手足がびくびくっと痙攣する。無言を保っていた栗色の髪の少女が、意を決したように顔を上げ、唇を震わせながら領主へと呼びかけた。
「領主様。お願いがございます。彼女が受ける筈だった罰の残り、私が代わって受けます。だから、彼女はもう許して上げてください」
「シャロン!?」
 バルボアに振り払われ、床の上に倒れ込んでいた赤毛の少女がびっくりしたように同僚の名を呼ぶ。堅い表情を浮かべたまま、じっと自分のことを見つめている少女に領主は軽い困惑の色を浮かべた。
「ふむ、お前が代わりに受けると申すか。……どう思う? ミレニア」
「罰は、罪を犯したものが背負うべきでしょう」
 淡々とした口調でそう言いながら、ミレニアが軽く目を閉じる。
「無実の人間が、罰を受ける必要はありませんから」
「ふぅむ。だが、本人の希望を無下に断るのも無慈悲と言うものだな。麗しい友情でもあることだし、叶えてやっても悪くはあるまい」
「領主様がそうお考えならば、どうぞ御自由に」
 考え込むような領主の呟きに、目を開いたミレニアがそっけなくそう応じる。苦笑を浮かべながら、領主はワインのグラスを口元へと運んだ。
「よかろう。お前の望み、聞き届けてやろう。ただし、残り回数そのままというわけにはいかん。そうだな、倍の七十六回としよう。それでもかまわないか?」
「……はい」
 僅かに声を震わせて頷く栗毛の少女--シャロンへと、ミレニアがちらりと視線を向けた。
「後悔、しますよ」
「自分で決めたことです。後悔なんて、しません」
「……そう、ですか」
 シャロンの言葉に、ほんの僅かに首を振るとミレニアはそれっきり沈黙した。領主が笑いながら服を脱いで四つんばいになるように命令し、無言でシャロンがそれに従う。ユニの流した血で真っ赤に染まった木の棒をバルボアが振り上げ、シャロンの白い背中へと振り降ろした。
「うぐっ!」
 唇を噛み締め、押し殺した悲鳴を上げてシャロンがびくっと顔をのけぞらせる。無言のまま、バルボアが棒を振り上げ、振り降ろす。走った痛みに身体を震わせ、懸命に悲鳴を噛み殺しているシャロンの姿を楽しそうに領主は眺めていた。
「ぐっ、ううぅっ」
「くくく……さて、いつまで頑張れるかな? バルボア、手加減は、無用だぞ」
「うぐうぅっ! はぁ、はぁ、はぁ……うぐうぁっ!」
 領主の言葉に無言で頷いて、両手で棒を握り直すとバルボアが棒を振り上げ、振り降ろす。どちらかといえば単調なそのリズムにあわせ、荒い息をつくことと唇を噛み締め、悲鳴を殺すことを交互に繰り返すシャロン。容赦のない打撃に、たちまちのうちに肌が破れ、肉が裂け、鮮血が白い肌を伝って床に敷かれた絨毯の上に滴る。
「はぁ、はぁ……あぐぐうぅっ!」
 棒で打たれるたびに、小振りの乳房がふるふると震える。痛みにびっしょりと満面に油汗を浮かべ、喘ぐシャロン。四つんばいになった上体を支える両腕がぶるぶると震える。しかし、バルボアは無言のまま容赦ない一撃をシャロンの傷だらけの背中へと振り降ろした。
「ひゃぎいいっ! ひっ……ひぃ……」
 がくんと肘が折れ、シャロンの上体が絨毯の上へとつっぷす。膝を立てたまま上体をぺったりと床につけた体勢は、見様によっては尻を高く掲げた扇情的な姿勢とも言えるが、半ば白目を剥きかけたシャロンには当然そんな意思はない。
「くくく、どうした? まだ……」
 嘲笑の言葉を投げかけようとしてふと領主が口を閉ざした。何のことはない、シャロンの苦痛に懸命に耐えようとしながらも耐えきれず、苦痛の喘ぎを漏らす姿を楽しむ方に気を取られ過ぎて何回打たれたかを数えるのをすっかり忘れていたのだ。自分でそのことに気付いて困惑の表情を浮かべた領主へと、打たれているシャロンの方へは視線をほとんど向けようともしていなかったミレニアが無表情に助け船を出す。
「二十六回目、です」
「そう、まだ二十六回目ではないか。まだ、五十回以上も残っているというのに、もうそのざまか?」
「辛くて耐えられないなら、残りの回数は元々受ける筈だった人に受けてもらいますけど、どうします?」
 領主の言葉に、僅かに唇を震わせるだけで答えられないシャロン。そんな彼女へと、淡々とした口調でミレニアが問いかけた。僅かに目を見開き、シャロンが弱々しく首を振りながら震える両腕に力を込めて上体を起こす。
「大丈夫、です……続けてください」
「死んでから後悔しても、遅いと思いますけど……まぁ、死にたい人に、忠告をする義理もないですね」
 ふわりと視線を宙にさまよわせながら、ミレニアがそう呟く。彼女の呟きにバルボアが僅かに眉をしかめて領主の方へと問うような視線を向けた。苦笑を浮かべながら、領主が肩をすくめる。
 今まで、尻の側から背骨を避けるように棒を振るっていたバルボアが、四つんばいになったシャロンの側面へと立ち位置を変える。血で真っ赤に染まった棒を両手でもう一度握り直すと、ふっと短い気合の息を吐いてバルボアがシャロンの背中へと棒を振り降ろした。
「がっ!?」
 強打された勢いで押し出された息の上げる音が、背骨の折れる鈍い音を掻き消す。目を見開き、四肢を痙攣させながら四方に投げ出してシャロンが絨毯の上へと倒れ込んだ。ビクンビクンと痙攣を起こす彼女の背中へと、更にバルボアが力の篭った一撃を加え、シャロンの口から悲鳴の代わりに血の塊が吐き出される。ごぼごぼと血を吐き出しながら、力なくシャロンが顔を上げかけるが、すぐに力尽きて絨毯の上に彼女の頭が落ちた。
「まったく、馬鹿な娘だ。せっかく、慈悲を与えてやろうというのに、断るから死ぬことになる。のう、ミレニア」
「……ええ」
 楽しげに笑いながらの領主の言葉に、ミレニアが言葉少なく頷く。唇を震わせ、半ば呆然として事の成り行きを見守っていた赤毛のメイド--ケイトが弾かれたようにへたり込んでいた体勢から立ち上がってミレニアへと飛びかかった。
「何で殺したの!? 何で……!?」
 まったく抵抗の様子を見せないミレニアを椅子ごと絨毯の上へと押し倒し、馬乗りになって彼女の首を締め上げながらケイトが叫ぶ。涙をポロポロと流し、顔を真っ赤に紅潮させて叫ぶケイトの顔を、ミレニアは無表情に見つめ返していた。
「バルボア!」
 領主が慌てて席から立ち上がりながら叫び、バルボアがケイトの肩に手をかけてぐいっとひきはがそうとする。だが、意外なほど強い力でミレニアの首を締め上げているケイトの身体は容易には引き剥がせない。小さく舌打ちをするとバルボアはケイトの両手首をそれぞれの手で握り締めた。万力で締め上げられているような強い力に、思わず緩んだケイトの手をべりっとミレニアの首から引き剥がす。
 数度軽く咳こむと、無言のままミレニアは立ち上がった。手形が赤く残る喉に軽く指先を当て、無表情にケイトの顔を見つめる。怒りを露にして領主がバルボアへと命令を出した。
「吊るせ! ミレニアを殺そうとするなど、断じて許しておけん!」
 右手一本で暴れるケイトの両手首をまとめて掴むと、バルボアは左手で腰に吊るしたロープの束を外した。器用にくるりとケイトの首にロープを巻きつけると、ロープの両端を両手に握ってぐるんと身体を半回転させる。首に巻かれたロープによって前屈みになったバルボアの背中に背負われるような形になり、ケイトの両足が床から離れた。
「うぐ--っ! うぐぐぐぐ……」
 大きく目を見開き、両足をばたばたと暴れさせてケイトが呻く。両手で懸命に首に食い込むロープを掴もうとしているのだが、もちろんそれで逃れられる筈もない。
 食い縛った口の端から、白い泡がこぼれる。両足で激しく宙を蹴りつけ、胴体をくねらせる。スカートがまくれ上がり、白い足を露にしながら激しい苦悶のダンスをケイトは踊った。
 およそ二分後、失禁したのか、スカートに衣魚が広がり、足を伝って薄黄色の液体が滴り落ちる。それでも数十秒の間はなおも激しく身体をくねらせていたケイトだったが、びくっびくっと数度身体を痙攣させると白目を剥き、唐突に激しいダンスの幕を降ろした。
「……二人とも、運が良かったですね。楽に死ねて……」
 小さな、誰の耳にも届かないような呟きを漏らすと、ミレニアは視線をまだ怒りの表情を浮かべている領主の方へと向けた。
「今晩は、どちらへ?」
「ん? あ、ああ、もちろんお前のところへ行くとも、ミレニア。それとも、こんなことがあったから、今晩は嫌か? お前がそう言うのであれば、しかたがないから他の者の所へ行くが……」
「いえ、かまいません。お待ちしています」
 無表情にそう応じると、ミレニアは軽く一礼して食堂をあとにした。床の上に転がった、二人の少女の死体には視線すら向けようとせずに……。
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