鮮血の城塞/外伝1


 ブラッデンブルグ侯爵家。それは既に成り上がりと称されることはない程度に長く続いている家系ではあるが、名門、と呼ばれるにはまだ一歩格が足りない、そんなやや中途半端な歴史を持つ一族。領地も特に大きくもなければ小さくもない、まぁ侯爵家ならばこんなものか、といった程度の大きさである。ただ、その領内に良質な金や銀、宝石類を産出する鉱山をいくつも持つが故に、その財力は一侯爵家には不相応なほど豊かである。
 そして、その豊富な財力を、これまでの当主は一貫して自分の趣味のために用いてきた。宮廷に進出して高い地位を得ることもその財力を持ってすれば容易であろうに、そういったことに興味を持つものは少なくともこれまではいなかったのだ。
 その、代々の当主が共通して没頭した趣味とは、拷問。若い娘を集め、残虐な行為を加えることだ。それゆえに、ブラッデンブルグ侯爵家の居城はある仇名で呼ばれている。鮮血の城塞、と……。
 父の急死によりこの血塗られた一門の当主となった青年、フレデリックもまた、先祖と同じ嗜好の持ち主だった。鮮血の城塞に、また、新たな凄惨な拷問の歴史が刻まれていく……。

「侯爵様。奴隷商人のマリナスが参りました」
「ふむ」
 一筋の乱れもなく服装を整えた執事、アルベルトの言葉に、自室でワインを味わっていた青年領主が面倒そうに頷いた。かなり整った容姿の持ち主で、社交界に出れば他の者の目を独占することも出来そうな貴公子然とした青年なのだが、服装のほうはお世辞にも気を遣っているようには見えない。よれっとした服を面倒そうに指で引っ張ると、彼はまだグラスに半分ほど残っていた赤ワインを一気にあおった。
「やっとか。本来なら、一昨日には着いているという話だったがな」
「よい奴隷を集めるのに、苦労したのでございましょう。当家に納める奴隷だというのに、あまり質のよくないものを持ってくるわけにもいかないでしょうから」
「おかげでこっちは予定が狂った。まだ俺用の側室は集め終わってないから、奴隷を相手にするぐらいしか楽しみがないって言うのにな」
 執事の言葉に不機嫌そうにそう言うと、青年が立ち上がる。
「親父の趣味で集めた奴隷は、俺の趣味じゃないしな。まぁ、憂さ晴らしの役にぐらいには立ったが」
「マリナスには、侯爵様のご趣味は伝えてあります。彼のことですから、よい奴隷を用意してきたことでしょう」
「ふん……」
 不機嫌そうに鼻を鳴らすと、青年が扉のほうに足を進める。恭しく扉を開いた執事のほうをじろりと睨み、吐き捨てるように青年が命じた。
「アルベルト、お前も来い」
「は? わたくしめも、でございますか?」
「そうだ。来い」
「承知いたしました」
 恭しく一礼する執事のことを、不機嫌そうに青年が睨む。先代の頃から仕えているこの執事のことが、正直彼は好きではなかった。子供の頃から家の中のことを取り仕切っていた彼には、どうしても苦手意識を覚えてしまうのだ。それを自分で認めたくなくて高圧的な態度に出てみても、向こうは柳に風と受け流してしまう。とはいえ、長年家の中を取り仕切ってきた彼を解雇したりすればいろいろと支障が出ることは明白だから、首にするわけにもいかない。拷問の場に来るよう命じたのもささやかな嫌がらせのつもりだったのだが、こうもあっさりと頷かれてしまうとあしらわれたような気がしてそれはそれで気分がよくない。とはいえ、今更やっぱり来なくていい、と言うのもやはり負けを認めるような感じでしゃくだ。
「行くぞ」
「はい、侯爵様」
 不機嫌そうに吐き捨てる青年へと、あくまでも恭しく執事は一礼して見せた。

 鮮血の城塞、と、そう仇名されるブラッデンブルグ家の居城。外から見た限りでは大き目の屋敷、と言った程度で、城と言うほどの規模は持ち合わせていないのだが、その地下には地上部分よりも遥かに広大な地下室群が広がっている。その全てが、拷問部屋、および地下牢の類だ。多くの若い女たちがここへと連れてこられ、過酷な拷問に絶叫し、そして死んでいった。その怨念を示すかのように、ひんやりと陰鬱な空気がそこには満ちている。
 そんな、地下の拷問部屋の一つ。おどおどと落ち着かない表情で、小太りの冴えない中年男が周囲を見回していた。壁から生えた拘束用の短い鎖、審問椅子、ロバといった拷問器具がただでさえ陰気な地下室を更に陰惨にしている。拷問器具はもちろん、壁や床にもべっとりと血の染みがついていて、いかに多くの血がこの部屋で流されてきたかを物語っていた。
 背後に控えさせた十七、八ぐらいの娘を見やり、中年男が不安そうな表情を浮かべる。自分の運命を既に知っている娘は見ていて可哀想になるぐらい蒼ざめ、がたがたと身体を震わせていた。それに同情しないではないが、もし彼女がこの館の主人に気に入られなかった場合、自分の身にも不幸が降りかかってくると思えば同情ばかりもしていられない。
「侯爵様は、胸の大きな娘が好みと言う話じゃ。ならば、この娘で問題はない、ない、ないはずなんじゃが……」
 不安そうに呟く男の視線は裸の娘の胸へと注がれている。体つきそのものは、どちらかと言えばほっそりとしているほうだろう。だが、その両胸は彼女の頭よりも更に何回りか大きく、一種グロテスクに思えるほどの大きさを誇っている。
 ギイ、と、軋んだ音を立てて扉が開く。ビクッとして慌ててそちらに視線を向けた男に、入ってきた青年が不機嫌そうな表情で視線を返した。
「約束は、一昨日だったはずだがな?」
「ひえぇっ、も、申し訳ございませぬ。よりよい奴隷をご用立てしようと奔走しておりましたところ、思わぬ崖崩れで足止めを食いまして……平に、平にご容赦を」
 不機嫌そうな青年の問いかけに、男がぺたりと平伏して額を床に擦り付ける。ふん、と、小さく鼻を鳴らすと青年は視線を爆乳娘のほうへと移した。少しでも心象をよくしようと言うのか、引きつった微笑を娘が浮かべる。
「マリナス。一つ、お前に言っておく事がある」
 部屋に置かれた椅子のほうへと足を進め、どかっと腰を下ろして足を組むと青年は不機嫌そうに頬杖をついてそう言った。
「はっ、はいっ、なんでございましょうか!?」
「女は巨乳でなければならない。が、爆乳までいってはいけない。何事にも限度と言うものがある」
「ひっ、ひええぇっ。も、申し訳……ございませぬ」
「三日だ。三日やるから、俺の目に適う女を連れて来い。さもなければ、今後一切の取引はなしだ。いいな?」
「はっ、はいっ、かしこまりました。次こそは、必ずっ」
「それと、その女は置いていけ。暇潰しの相手ぐらいにはなるだろう」
 酷薄な笑みを浮かべ、青年がそう言う。ヒイィッと掠れた悲鳴を上げ、娘がぺたんと尻餅をついた。額を床に擦り付けていた奴隷商人が顔を上げ、何度も頷く。
「わ、分かりました。この娘は置いていきますので、どうぞお楽しみくださいませ。それで、その、お代のほうは……?」
「マリナス。お前は、客の気に入らない商品を、無理に売りつけるのか?」
「へ? い、いえいえ、そのようなことは……」
「ならば、さっさと俺の気に入る奴隷をつれて来い。その娘は、期日に遅れた上に期待外れの奴隷を連れて来た罰としてもらいうける。何か、文句があるか?」
 じろりと男のことを睨みながら、青年が無茶苦茶な要求を突きつける。とはいえ、相手はこの辺り一帯を支配する貴族。ここでごねたりすれば今後の商売に差し障りがあるどころか、下手をすれば自分の首が飛びかねない。内心で泣きながら、精一杯の笑顔を浮かべて男は頷いた。
「そ、それでは、この娘は置いていきます。次回は、必ずやご期待に添える奴隷を連れてまいりますので、どうかそれまでお待ちくださいませ」
「ふん。では、行け」
 犬でも追い払うかのように手をひらひらさせ、青年がそう言う。びっしょりと満面に汗をかいて男が出て行くのを見送り、青年は面白くもなさそうに鼻を鳴らした。
「気の弱い奴だ。あそこでもう少しごねるようなら、素直に言い値で買ってやったんだがな」
「まぁ、あの男は昔からあんな調子ですから、仕方ございませんでしょう。さて、侯爵様。この娘、どうなさいます?」
 まるで何事もなかったかのように平然とした口調で執事がそう問いかける。肩を軽くすくめると、青年は苦笑を浮かべた。
「正直、ここまで胸がでかいと逆に不気味で食指が動かんが……まぁ、いい。アルベルト、壁に繋げ。それと、火箸の準備だ」
「かしこまりました」
 恭しく一礼し、執事がへたり込んで震える娘のほうへと歩み寄る。彼が引き起こそうと伸ばした腕を、引きつった悲鳴を上げて娘がバシッと振り払った。
「いやあああぁっ、こないでっ、こないでぇっ! 酷いことしないでぇっ! 死ぬのは嫌アァッ!」
「少々、うるさいですな」
 泣き叫ぶ娘のことを眉一つ動かず見やってそう呟き、執事が唐突に蹴りを放つ。まともに爪先が娘の鳩尾の辺りに埋め込まれ、くぐもった呻きを漏らして娘が身体を二つに折った。
「う、げええええぇぇ……」
「これで、少しはおとなしくなるでしょう。さて……」
 げほっ、げほっと咳き込んでいる娘を強引に引きづり起こし、壁のほうにひきづって行く執事。怯えた表情を浮かべる彼女の腕を強引に引っ張り上げ、壁から生えた鎖の先にぶら下がる枷をはめる。反対の腕も同様に鎖に繋ぐと、震える娘の足元にかがみこみ、両足を開くような格好で足首も鎖に繋いでしまう。X字型に壁に拘束された娘が、恐怖にすすり泣くのを気にもしてないかの様子で、立ち上がった執事が青年のほうに一礼した。
「それでは、火箸の用意をしてまいります。それまでの間、どうぞお楽しみくださいませ」
「ふん」
 不機嫌そうな様子を装って鼻を鳴らしながら、口元には酷薄な笑みを浮かべて青年が立ち上がる。ガチャガチャと鎖を鳴らし、怯えた仕草で身をよじる娘の下へと歩み寄ると、無造作に青年は娘の乳房を握り締めた。
「あぐっ、あぐううぅっ! い、痛いっ」
「一体、何を食ったらこんなにでかくなるんだ? 片手どころか、両手でも掴みきれんぞ?」
 侮蔑の表情を隠そうともせず、青年は反対の胸も掴む。ぎゅっと握り潰そうとでもしているかのように肉に指を食い込ませ、捻りあげると娘の口から絶叫があふれた。
「ひぎいいいぃぃ! 痛い痛い痛いっ! 胸がっ、潰れるうぅっ! やめてえぇっ!」
「ふん、やめて欲しいか?」
「あぎゃあああああああぁぁっ! もう、いやあああああああぁっ!」
 嘲笑を浮かべながら更に青年が乳房を捻り上げる。絶叫を上げて身をよじる娘の胸から手を離すと、今度はその先端、乳首を青年はつまみ上げた。指の腹で挟み潰すようにしながら捻りあげる。
「うあっ、あああぁっ、あきいいいぃぃっ!」
「その程度か? もっと、叫べるだろう?」
 鋭い痛みに悲鳴を上げる娘へとそう呼びかけながら、青年が今度は指の腹ではなく、爪を立てるようにして娘の乳首を捻りあげる。
「ひぎゃあああああああああぁぁっ! 乳首っ、取れちゃううぅっ」
「まだまだだな……両方なら、どうだ?」
「ぎいいいいぃっ、ぎゃっ、ぎゃひゃああああああぁっ! やめてええぇっ!」
 両乳首を爪を立てて捻られ、娘がよだれを撒き散らして泣き叫ぶ。くくくっと低く笑うと、青年は乳首から指を離し、軽く拳を握った。痛みから解放され、はぁはぁと息を荒らげる娘の乳房へと、思いっきり拳を叩きつける。
「おぐうううぅっ!?」
「ふむ、なかなか柔らかくていい手応えだな。そらっ」
「げふうううぅっ!?」
「そらっ、そらっ、そらっ」
「あぐっ、がっ、はあぁっ、げぶううぅっ」
 どすっ、どすっ、どすっと、連続して青年の拳が娘の乳房へとめり込む。衝撃に息を詰まらせ、くぐもった呻きを漏らして身体を揺らす娘の乳房にいくつもの青痣が刻み込まれていく。青年が僅かに息を切らし、手を休めるとがっくりとうなだれた娘が鎖にぶら下がるような体勢になって哀願の声を上げた。
「あ、が、は……もう、やめて……許して……」
「許す? 何を、許して欲しいんだ?」
「も、もう、殴らないで……お願い……」
「そうか、殴られるのは嫌か。では、殴るのはなしにしてやろう」
「ほ、本当……? っ!? ひぎゃああああああぁっ!?」
 青年の言葉にほっと安堵の息を吐いた娘が、再び乳首をつままれて息を呑む。ぐいっと青年がつまんだ乳首を捻ると娘の口から絶叫があふれた。薄く口元に笑いを浮かべながら、更に青年が乳首を捻る。
「あぎっ、ぎいいいぃっ! 千切れっ、ちゃうっ、やめっ、きゃああああああぁっ!」
「文句が多い奴だな。殴られるのが嫌だと言うから、こうしているんじゃないか」
 嬲るような台詞と共に更に青年が乳首を捻る。乳房の先端部分までまとめて捻りあげられ、激痛に娘が泣き叫ぶ。
「ひぎゃああああああああぁぁっ!? 千切れるっ、私の乳首っ、取れちゃううぅっ! ぎゃあああああああぁぁっ!」
「ふん、豚は豚なりに、いい声で鳴くものだな。そら」
「あぎゃああああああああぁぁっ!!」
 爪を立て、強く乳首を挟み込んだまま一気に青年が腕を引く。乳首を千切り取られたと錯覚するような激痛に襲われて娘が絶叫を上げた。くくくっと低く笑う青年の背後へと、靴音もなく執事がすっと歩み寄る。
「侯爵様、火箸の準備が整いましてございます」
「ん、そうか。では、後は任せる。俺は、のんびり見物させてもらおう」
「かしこまりました」
 深々と一礼する執事の傍らを通り抜け、青年が椅子に腰を下ろす。高々と足を組むと頬杖をつき、これから行われる凄惨な拷問劇を鑑賞する態勢に入る青年。手にしていた石造りの箱を床に置き、その中仁山と積まれ真っ赤に熱せられた石炭の中から指ほどの太さを持つ長い鉄串を取り出す執事。手で握るための木製の柄の先から伸びた串の長さは大人の肘から手首ほどもあるだろうか。焼けた石炭の中に突き込まれていた串は、当然真っ赤に焼けている。
「ひいっ。やっ、やあぁっ、何っ、何をするの!?」
 顔の前に鉄串をかざされた娘が、熱気を肌で感じて涙で濡れた顔を恐怖に引きつらせ、激しく首を振る。悲鳴を上げて身悶える娘の右胸を、無言のまま執事がわしづかみにした。そして、巨大なサイズの乳房の最も膨らみの大きな辺りへと、無造作に真っ赤に焼けた鉄串を突き立てる。
「ヒギャアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!??」
 胸で弾けた激痛に、顔をのけぞらせ絶叫を上げる娘。うっすらと白煙を上げる鉄串を、ずぶずぶと執事が柔らかい乳房へと突きこんでいく。
「アギャアアアアアアアアアアアア~~~~~~~ッ!!!!」
 生まれて初めて味わう強烈な痛みに、娘が濁った絶叫を上げ、身悶える。根元まで串を乳房に突き入れた執事が軽く首をかしげた。
「ふぅむ、貫通いたしませぬか。これは、大きいですなぁ」
「アギャッ、ギャアアッ、アヅイッ、アヅイイィッ! ウギャアアアアアアアアァァッ!!」
 敏感な乳房に、指ほどの太さがある鉄串を突き込まれる痛みだけでも尋常なものではない。加えてその串が熱せられており、じりじりと乳房を内側から焼き焦がしていくのだから、その苦痛は筆舌に尽くしがたいものだろう。ガチャガチャと鎖を激しく鳴らし、苦痛から逃れようとでもしているかのように激しく絶叫しながら身体をのたうたせる娘。人間の頭よりよほど大きな二つの乳房がその動きにあわせて大きく上下左右に揺れ、弾む。
「まぁ、貫通せぬものはいたしかたございませんな。では、次の串を」
「イギッ!? やべでっ、じんじゃううぅっ!」
 執事の呟きが耳に届いたのか、娘が悲痛な叫びを上げる。口元を皮肉げに歪め、青年が肩をすくめた。
「これで、死ぬかな?」
「はてさて、胸に串を刺されただけで死ぬものかどうか……まぁ、試してみれば、結果は自ずと出ることでございましょう」
「そうだな。これで死ぬようなら、次からは面白い賭けが出来るな。続けろ、アルベルト」
 残酷な会話を交わす青年と執事。苦痛と恐怖に可憐な要望を歪め、娘が泣き叫ぶ。
「やめてっ、やだああぁっ! ひっ、やっ、やあぁっ、やああああぁっ!」
 執事が泣き叫ぶ娘の今度は左胸を掴む。娘のほうも逃れようともがくのだが、手足を拘束された状態では所詮無駄な足掻きだ。ことさらゆっくりと乳房へと近づけられる二本目の鉄串を大きく目を見開いて凝視しながら、絶望の叫びを上げる。
「やああぁっ、やだやだやだあぁっ、やめっ……ウッギャアアアアアアアアアア~~~~~ッ!!」
 ずぶり、と、乳房に串が突き刺さる。そのままずぶずぶと執事が鉄串を突き入れ、激痛に身体を跳ねさせながら娘が絶叫する。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!! ヒギャアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 零れ落ちんばかりに目を見開き、喉が張り裂けんばかりの絶叫を張り上げる娘。苦痛にのたうつその裸身を、楽しそうに青年が眺めている。根元まで串を突き込み終えた執事が、こちらは無表情に三本目の串を手に取った。
「アッ、ッガアアアァァッ、オゴオオォッ、ウグオオオォォッ!」
 乳房を内側から焼かれる激痛に、身体をのたうたせながら娘が獣のように吠える。ブルンブルンと巨大な乳房を揺らして身悶える姿は、青年を楽しませる絶好のダンスだった。
「ハギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!!」
 乳首をつままれ、三本目の鉄串を右乳房に突きたてられた娘が大きく跳ね上がる。涙と涎、そして鼻水とで顔をべちゃべちゃにして激痛に泣き叫びながら激しく身悶える娘の姿を、悦に入った低い笑い声を漏らしながら青年が鑑賞する。娘の胸があまりに巨大なせいで串は貫通せず、傷も焼かれた上に串で押さえられているから出血もほとんどない。見た目としては根元まで突き込まれた針の木製の柄が乳房からにょきっと生えているだけだから見た目はそれほどグロテスクではなかった。だが、急所の一つである乳房に太い串を突き立てられ、しかも内側から焼かれている娘の味わう苦痛は、それこそ全身を切り刻まれているのと同等、いや、それ以上だ。
「オグアアアァッ、ヒギャッ、アギイイィッ、ギッ、ギヒャアアアアアァァッ!! ジヌウゥゥゥッ!!」
「死ぬ死ぬと言いつつ、なかなか死にませんな、この娘は」
「アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 四本目の串を左胸へと突きたてながら執事が呟き、娘が凄絶な絶叫を上げる。既に自分で立っていられないのか鎖で吊るされるような格好になっていた娘の身体が、与えられた激痛に反応してか大きく弓なりにのけぞり、跳ねた。
「アガオッ、ゴォッ、グアアァッ、ヒギャアアァッ、イギッ、ギイイイィッ、オゴオオォッ!」
 獣じみた低く濁った叫びを上げ、激しく乳房を揺らして身悶える娘。力尽きたようにその動きが緩慢になる頃合を見計らい、執事が五本目の串を右胸に突き刺す。
「イギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ! ギヒイイイイイイイィィッ!!」
 凄絶な痛みに娘が身体を弓なりにそらせ、絶叫を上げる。ずぶずぶと串が乳房に突きこまれていくと陸に揚げられた魚のように激しく娘の身体がのたうつ。いつ息を吸っているのかと思うほどとめどなく絶叫をあふれさせ、巨大な胸を揺らして娘が激痛に激しく身悶える姿はまともな神経を持つ人間であれば思わず目を背けるほど無残なものだ。だが、頬杖をついたままその光景を眺める青年の口元には楽しげな笑みが浮かんでいる。
「アガッ、ガハァッ、オグウゥッ、ガッ、グアアアァッ、オゴオオォッ!!」
 既に苦痛が許容量を越えているのか、焦点の消えた瞳を宙にさまよわせながら娘が獣のような叫び声を上げ続ける。六本目の串が左胸へと突きたてられると、一際大きな絶叫を上げて娘はがっくりと首を前に倒した。
「ふん、死んだか?」
「……いえ、気を失っただけのようでございます」
 どうでもよさそうな青年の問いかけに、うなだれた娘の鼻の下に手をやった執事が僅かに間をおいて答える。ふん、と、面白くもなさそうに青年が鼻を鳴らした。
「だらしのない奴だ。水をかけてたたき起こせ」
「かしこまりました」
 軽く一礼すると執事が桶の水をばしゃりと娘の頭に浴びせる。弱々しい呻きを漏らしてのろのろと顔を上げた娘へと残酷な笑みを向けると、青年は足を組みなおし、命じた。
「起きたようだな。では、続けろ」
「かしこまりました」
 朦朧としていた意識が戻ってきたのか、乳房を内側から焼く灼熱の痛みに再び叫び始めた娘へと、七本目の鉄串が向けられる。ずぶり、と、右胸に鉄串が突き刺さった瞬間、娘の身体が跳ね、絶叫があふれた。
「ウッギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!」
「気を失ったら、何度でも起こして続けろ」
「はい、侯爵様」
 残酷な青年の命令に、執事が無造作に頷く。苦痛に泣き叫ぶ娘の乳房へと、八本目の鉄串が向けられた……。

「何だ、結局、死ななかったな」
 意識を失い、がっくりとうなだれている娘のことを見やり、青年がつまらなさそうに呟く。途中で何度も鉄串を追加で焼きなおし、娘が悶絶すれば水をかけて覚醒させ、片胸だけでも数十本の鉄串を突き立てたのだが、娘はまだ息をしていた。もっとも、頭のほうがどうなっているかは分からないが……。
「いかがいたしましょう? 流石にもう、串を刺す場所がなくなってまいりましたが」
 無数とも思える木製の柄を乱立させた娘の乳房を見やりながら執事が問いかける。完全に興味を失った様子で青年が手をひらひらと振った。
「もう飽きた。そいつはもういらんから、適当に始末しておけ」
「はい、ではそのように」
 深々と頭を下げる執事。椅子から立ち上がると、青年は軽くあくびをして身体を伸ばした……。
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