何もかもが、ぼんやりと霞み、歪んでいた。右目は完全に潰され、左目も潰されこそしなかったものの酷く傷つけられたせいで視力が極端に低下している。今ではもう、前に伸ばした自分の手すらはっきりとは見えない。
 鈍い痛みは、既におなじみの感覚になっていた。右目を潰された以上、左目だけで物を見なければならない。それは、傷つけられ、機能を低下させた左目に多大な負担をかけることを意味する。目に疲労が溜まり、首筋から肩にかけてがひどく重い。ただの疲れ目、ただの肩凝りと、簡単に言ってしまうには重すぎる感覚にマヤは支配されていた。頭痛を招き、吐き気を催させる重苦しさだ。
『左目も、このままでは遠からず失明する』
 淡々とした口調で告げられた樹璃の言葉がふと脳裏に浮かんだ。負担をかけつづけられた左目は、やがて限界を超えて失明にいたるだろう、と。もちろん、機械の目を入れてやればたちまち視力は回復する。いや、回復するどころか、元々の目よりもはるかに視力をよくすることだって出来る。闇を見通したり、普通の目では見えないほど遠くを見たり、あるいは、見えないほど小さな物を見ることも出来るだろう。実際、今の社会ではその程度の機械化など日常茶飯事のことだ。
(けど、それは、自然じゃない……)
 生まれたままの姿で生きること。それが、自分たちの信念だ。だからこそ、自分も、そして仲間たちも、一切の肉体改造を施してはいない。たとえ人から、愚かな行為だと笑われようとも。
 ……微かな耳鳴りと、重苦しい頭痛。目を閉じ、マヤはシーツを握り締めて小さく呻いた。
 尋問の名を借りた拷問の際に加えられる激痛と、休息のためであるはずの時間に味わう鈍痛。そのどちらがより辛いのか、マヤには分からなくなり始めていた。拷問の際に加えられる激痛は、巨木に打ち込まれる斧のように強烈な衝撃を精神に与える。そして、衝撃に傷つけられた幹を徐々に削っていくノミがずっと続くこの鈍痛だ。張り詰めた糸のように、徐々に自分の精神が追い詰められていくのが分かる。細く細く削られた糸は、一体いつ切れるのか。
(切らせるわけにはいかない……)
 重苦しく、去ってくれない鈍痛に表情を歪めながら、マヤが心の中でそう呟いた。
(まずは耳。そして目。次は、どこ……?)
 鼻か、口か。東城の性格からして、乳房や性器といった部分はもう少し後になるだろう。それとも、まだ完全に機能を失ってはいない耳や目を、完全に使いものにならなくするのだろうか? 目が見えない相手であっても拷問をするのにそれほど支障はないだろうし、耳が聞こえなくても頭蓋骨を直接振動させて声を届けることは出来る。尋問には支障はないし、むしろ暗黒・無音の世界に放置するだけで十分な拷問になるはずだ。今の状態は、聴覚自体は比較的無事で、ただ時折酷い耳鳴りがするぐらいだからそういった恐怖とは無縁である。見方を変えれば、生殺し状態、ともいえるが。
 それとも、腕や足だろうか? 既に逃亡の希望は持っていないが、逃亡を防ぐ、あるいは反抗を不可能にするために腕や足の腱を切っておく、あるいは、もっと単純に腕や足を切り落とすというのは、有効な手段だろう。もっとも、切り落としてしまうと爪や指といった敏感な部分に責めを行えなくなるから、やられるとしてももっと後になってからかもしれないが。
 自分に対して加えられる拷問を、マヤはあれこれと想像した。もちろんその想像は楽しいものではない。ないが、あらかじめ想像しておけば、少しは耐えやすくなるだろう、という意図が有る。
(それにしても……犯される覚悟は、してたんだけど)
 ふっと、そんなことを思ってマヤが軽く首を傾げた。今の状態であれこれ自分の未来を考えても、直接的な利点はないが、少なくとも消えてくれない鈍痛を紛らわす役には立つ。意識して、マヤは無意味な思考に没頭するよう努めていた。
 陵辱。女を相手にした場合、という制限は有るものの精神的に追い詰めるためにはかなり有効な手段だし、多人数を相手にさせるなら肉体的な苦痛・消耗も激しくなる。その気になれば、犯しつづけることで人を殺すことだって出来るのだ。そう言った効果を抜きにしても、『楽しむ』という観点からすれば、これ以上のものはあるまい。基本的に、女性に対する拷問といった場合、行われないのが不思議なくらいあたりまえの行動だ。実際、女の兵士、あるいはスパイには、敵対勢力に捕まったら生きて帰れるかどうかは別として、犯されるのは当然のこと、という感覚が在る。
 マヤ自身は、まだ男を知らない。知らないが、そういった風潮は熟知しているし、覚悟はとっくに決めている。怖くないといったら無論嘘になるが、そう言った行為を加えられなかったことで拍子抜けした部分があることも否定できない。
(されないで済むなら、それに越したことはないけれど……)
 ぼんやりとそんなことを考えながら、マヤは何気なく視線を扉の方に向けた。ぼんやりとした視界の中に、黒っぽい影が見える。
「だ、誰……?」
「ふむ。この距離で、人の顔の判別が付けられないのか。思ったより視力の低下は酷いようだな。私が入ってきたのにも気付いていなかったようだが……私の言葉は聞こえているか?」
 黒い影が動く。僅かに唇を歪めてマヤが答えを返した。
「聞こえてるわ。ちょっと考え事をしていただけ。耳は別に、おかしくなってないから」
「そうか。それは何よりだ。
 ……すまないが、またつきあってもらうぞ?」
 影--樹璃の言葉の中に、自分に同情するような響きを感じてマヤは小さく笑った。
「つきあわされているのは、あなたの方でしょ? あなたも大変ね。東城の御機嫌取りをしなくちゃいけないんですもの」
「……今日は、妙に饒舌じゃないか。そろそろあきらめたのか?」
「あきらめる!? 私が? まさか。そんなはずないでしょう? 死にたがりを生かしておかなきゃいけないあなたに、同情してあげただけよ」
 声を荒らげて反論する自分に、樹璃は唇を歪めてみせた、ようだ。ぼんやりとした影にしか見えない彼女の表情など分かりはしないが、そんな雰囲気がした。
「同情してくれるなら、早くしゃべって欲しいな。そうすれば、私もこんな仕事から解放される」
「おあいにくさま! 私はあなたの事も嫌いなの。あなたや東城が困る事は、私には嬉しい事だもの。絶対に、あなたたちの思い通りになんてなってあげないわ」
「痛い目にあうだけ、損だと思うのだが、な」
 僅かに憮然としたように、樹璃がそう呟いた。

「やぁ、元気だったかい? マヤちゃん」
 にこにこと笑いながら、東城がそう言う。この男は、自分をいたぶるのが楽しくてたまらないんだろうな、と、分かりきった事をマヤは思った。わざわざ反論をして、相手を面白がらせる必要もない。マヤはただ沈黙をもって東城に答えた。
「おやおや、だんまりかい? つれないねぇ。ま、いいや。それじゃ、始めるとしますか」
 鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で、東城がそう言う。それと同時に、マヤが座らされた椅子の背もたれが後ろに倒れていく。45度ほど傾いたところで動きが止まり、誰かの手が伸びてマヤの鼻をつまんだ。口を開けさせたいらしい、と察したマヤが、抵抗のそぶりも見せずに口を開ける。どうせ抵抗しきれるはずもないし、だったら素直に従った方が相手の興を削げる分得だ。
 がちっと、奥歯の間に柱のようなものが差し込まれる。その柱が少し長さを増し、顎が外れるのではないかと思うほど大きくマヤの口を押し開けた。顎に走る痛みにマヤが表情を歪める。
「あ、が……」
 不明瞭に呻くマヤの耳に、キュイイイィンという、神経をかきむしるような音が届く。歯医者に行けば、いくらでも聞くことの出来る例の音だ。
(これは、予想してなかったな……)
 口に対する拷問、として、歯を抜く、というのは考えていたのだが。もちろんそれもされるのだろうが、その前の段階としてこういう事態を想定していなかったのは、迂闊だったかもしれない。目を潰す時にだって、一針で済むところをわざわざ何本も突き刺してくれた男が相手なのだ。単純に歯を抜く、あるいはへし折るぐらいで済むと思う方が間違っている。
 奇妙に冷静になってマヤはそう分析した。どのみち抵抗のしようはないし、するつもりもない。ただひたすら耐えるしかないなら、耐えるだけだ。
「歯並びがいいな。虫歯もないし、いい口の見本にしたいぐらいだ」
 大きく開かれたマヤの口の中を覗き込みながら、樹璃がそう呟く。場違いな発言に、東城と有栖川シンの二人が顔を見合わせた。にこりともせず、樹璃がマヤの奥歯にドリルを当てる。
「あがっ、がががっ」
 エナメル質を削り、ドリルが歯に食い込んでいく。不快な振動と音、そして激痛が口の奥で弾けた。椅子に拘束された身体を震わせ、マヤが悲鳴を上げる。
「があああっ、うがっ、がぎがあっ」
 大きく口を開かされているため、まともな言葉を発することも出来ずにマヤがのたうつ。ゆっくりとドリルを動かして穴を広げると、樹璃はいったんドリルを口から出した。ひくっひくっと身体を震わせているマヤを見下ろし、脇に置かれている台から先の細いスポイトを取り上げる。
「ひぎぁっ、あああっ、ぐあぁっ」
 スポイトの先端が奥歯の穴に差し込まれ、中の液体が滴らされる。大きく目を見開き、マヤが身体を震わせた。スポイトの中身はただのよく冷えたレモンの絞り汁だが、神経が剥き出しになった歯に滴らされればとんでもない激痛を生む。
「ひあぁっ、あがっ、がががっ、ぐがぁっ」
 再びドリルが穴に差し込まれ、神経をずたずたに引き千切る。脳裏で光がチカチカと点滅するほどの激痛。大粒の涙をこぼし、マヤが絶叫をあげつづける。
 ドリルが歯から離れ、歯茎に当てられる。柔らかい歯茎の肉をドリルがあっさりと突き破り、歯茎に包まれた歯の根に当たる。口の中に鮮血があふれ、大きく開かれた唇の端からこぼれ落ちる。(挿絵)
「あががががっ、がぐがぁっ」
 二股に分かれた歯の根をドリルが削る。樹璃がドリルを口の中から引き抜き、入れ変わりに有栖川がペンチを差し込んで削られた歯を挟む。彼が腕に力を込めると、半ば近くまで削られ、もろくなっていた歯の根がへし折れた。びくんびくんと身体を震わせ、マヤが絶叫を上げる。鮮血にまみれた歯をトレーに落とし、今度は下の前歯をペンチで挟む。
「ひがぁっ、ががっ、あがぁっ」
 前後に歯を揺さぶられ、マヤが苦痛の叫びを上げる。こちらは、ドリルで根を削っていないから結構頑丈だ。もっとも、この状況では、苦痛を感じる時間が長くなるだけの話で、それほどありがたい訳ではないが。ミシ、ミシっという歯の軋む音は、マヤの放つ悲鳴にかき消されて他人の耳には届かない。ただ、骨を通じてマヤ本人にだけは非常に不快感を伴う音として認識されている。
 しばらくそんなことを続けると、ついに耐えきれなくなってばきっと前歯がへし折れた。身体を弓なりにのけぞらせ、絶叫を上げるマヤ。かまわずに、今へし折った歯の横の歯を有栖川がペンチで挟む。
「歯が無くなると、どんな美人も台無しになるぜ? さっさと白状しちまった方が身のためなんじゃないかい? マヤちゃん」
「うぐぐっ、うぐあぁっ」
 いっぱいの涙を溜め、マヤが首を左右に振る。もっとも、樹璃が頭を押さえているから、その動きはごく小さいものだが。苦笑を浮かべながら東城が肩をすくめ、無表情に有栖川がペンチを動かす。
「あがっ、が、がぁっ」
 上下の前歯、四本が次々とペンチでへし折られていく。次々と、といっても、一本一本にそれなりの時間がかかり、マヤに地獄の苦しみを味合わせながら、だが。口の周りを鮮血で真っ赤に染め、マヤが身体をのたうたせ、絶叫を上げる。
 血で先端が赤く染まったペンチを置き、有栖川が樹璃と位置を入れ変わった。幾分か、気が進まなさそうな表情を浮かべて樹璃がドリルを再び手に取る。回転するドリルの先端が、前歯の有った辺り、まだ歯茎の中に残った歯の根の部分へと当てられる。
「うぐあああああっ、があぁっ、うがあああああっ」
 柔らかい歯茎が、ドリルで削れる。鮮血があふれ、喉の奥に流れ込んでむせる。歯茎の中に埋まったままの歯の根が、ドリルでほじくり出されていく。ある程度歯茎の肉が削り取られると、その傷口にピンセットがねじこまれ、ぐらぐらと揺れる歯の残骸を引っ張り出す。その過程一つ一つが激痛を生み、途切れることのない絶叫をマヤに上げさせる。
 口の中に吸入機が突っ込まれ、唾液や血を吸い取り始める。あまり大量の血が口の中にあふれると、喉に詰まって窒息する危険が有るからだ。その間にもドリルが歯を削り、ぼろぼろにしていく。
 ある程度ドリルで歯を削ると、今度は有栖川のペンチがぼろぼろになった歯を引き抜き始める。苦痛が脳裏で弾け、獣の断末魔のような絶叫が口からあふれるのを止められない。自分がもがき苦しむ姿を、東城がにやにやと笑いながら楽しんでいると分かっていても。流れる涙が、痛みのせいなのか、それとも悔しさのせいなのか、マヤ自身にも分からない。
「はがっ、あががっ。ががっ、うががああああっ」
 数本の歯がへし折られると、ドリルがその傷にのびて歯茎を更にえぐり、残った歯の根を引きぬく作業が始まる。いつ果てるとも知れない激痛に、マヤはただ絶叫することしか出来ない。時折なげかけられる東城の言葉に、懸命に首を振るのが精一杯の抵抗だ。
「そろそろ、これにいきますか? 姉さん」
 トレーの中に、両手の指を越える数の歯が転がされた頃。不気味に光るノミを傍らの台から取り上げて有栖川がそう樹璃へと問いかけた。僅かに顔をしかめて樹璃が弟へと視線を向ける。
「……まさか、お前まで楽しんでいるクチか?」
「いえ、そう言う訳でも有りませんが。命令ですから。
 姉さんが、やめろというならやめますけれど?」
「おいおい、樹璃先生。こいつに情が移ったんじゃないでだろうな? 手心を加えるのは、なしだぜ?」
 有栖川の言葉に、結構本気の口調で東城がそう言う。ふん、と、小さく鼻を鳴らして樹璃が場所を弟に譲った。
「生命が危険と判断すれば、中止を勧告する。が、今はそういう状況ではない。止めはしないさ」
「そうこなくっちゃな。じゃ、有栖川さん、始めてくれや」
 くっくっくと含み笑いをしながら東城がそう言い、はぁと曖昧な返事を返して有栖川がマヤの歯の根元辺りにノミの先端を触れさせる。ノミの幅は、普通のものよりだいぶ細い。それでも歯よりは太いから、隣接する左右の歯にもノミが当たる格好になる。
「結構強く響きますけど、我慢してくださいね」
 そう言いながら、有栖川がコンっと軽く金槌でノミの柄を叩いた。ぐうぅっとマヤが呻き声を漏らす。軽い衝撃だが、歯から顎にかけて広がった痛みはかなり大きい。コンッ、コンッと何度も有栖川が軽く柄を叩き、その度にびくっびくっと身体を震わせてマヤが呻きを上げる。鋭いノミの先端が、歯のエナメル質を削って食い込んでいく。
「う、むぐぅっ! うぐぐ……」
 有栖川が、今までよりも大きく金槌を振り上げ、柄を強く叩く。マヤが大きく目を見開いて、くぐもった叫びを漏らす。歯がへし折られたとマヤは感じたが、実際には半ば近くまでノミが食い込んだだけでまだまだ歯はしっかりとしている。
「あ、っと。自白する気になったら、椅子を二回叩いてくださいね」
 有栖川がそう言い、ぎゅっとマヤが椅子を掴む。意地でも自白はしない、という意思表示だ。その態度に東城が愉快そうに唇を歪め、樹璃が小さく溜め息をつく。我関せず、という態度で有栖川がノミの柄へと金槌を振り降ろした。
「うぐぅっ、ぐがっ、がぁっ」
 ばきっと、へし折られた三本の歯がマヤの口の中に飛び散る。無造作に彼女の口の中に手を突っ込み、有栖川が歯を取り出した。ノミがきちんと当たった中央の歯はほぼ直線状に折れているが、半分ほどしか当たっていなかった左右の歯は途中から斜めに割れていた。
 歯茎から、斜めに割れた歯が牙のように生えている。その、断面へとノミを当て、有栖川がコンコンッと金槌で叩く。鮮血の混じった唾液を飛ばし、マヤが悲痛な叫びを上げた。ぎゅっと椅子を握り締める手の関節が、力の入れすぎで白くなっている。
「削って、抜いて、折って。随分と痛むでしょう? そろそろ、楽になっても誰もあなたを責めはしませんよ?」
 有栖川の言葉に、ぶんぶんとマヤが首を左右に振る。軽く肩をすくめると、有栖川は樹璃に場所を譲った。再び、歯をドリルで削られる苦痛が始まる。身体をのたうたせ、もがくマヤ。けれど、椅子にベルトで拘束された身では、逃れられるはずもない。
「うぐあぁっ、があああっ、ぐあああっ」
 汗と唾液と鮮血を飛び散らせながら、マヤは懸命に激痛に耐えていた……。
 ……どれくらいの時間がたっただろうか。絶叫を上げつづけていたマヤが不意に絶叫を途切れさせた。大きく目を見開いたまま、失神している。トレーの中には既に二ダース近い歯の残骸が転がされており、ひくひくと小さく痙攣を続けるマヤの口の周りは鮮血で真っ赤に染まっている。いや、口の周りだけではない。絶叫に伴って飛び散った鮮血は、彼女の服の胸元の辺りもぐっしょりと濡らしている。
「ちっ、気を失ったか」
「気絶したら、終了という約束だったな?」
 舌打ちをする東城に、樹璃がやや険のある視線を向けてそう問いかける。軽く肩をすくめて東城が苦笑を浮かべた。
「樹璃先生は、今回はお気に召さなかったようで?」
「ふ、ん。人間が感じる痛みの中で、一番強い痛みは何だと思う?
 虫歯だ。単純だが、これは事実だ。歯を抜いてしまえば、それで終わり。だが、削った状態で放置すれば、それは重度の虫歯と同じ状態になって彼女を苦しめる。どちらが効果的か、少し考えれば分かることだ」
「何も、長時間の責めだけが効果的ってわけでもないでしょう? 瞬間的な痛みでいえば、歯をへし折られ、歯茎を削られる、その痛みもたいしたもんだ。それで決着がつけば、わざわざ時間をかけることもない。お互いのためにもね」
 東城の言葉に、ふんと不機嫌そうに鼻を鳴らして樹璃がそっぽを向く。東城の言葉にも一理あるが、この責めでマヤが屈服しないだろう、と、そう予測を立てていたなら説得力はない。この男は、目の前で少女がのたうち、苦しむ姿を見物したいだけではないのか、と、樹璃は考えている。
 不機嫌そうな姉へと横目で視線を向けながら、有栖川は無表情に血で汚れた器材を掃除していた……。
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