静寂


(いつまで……続くんだろう?)
 拘束衣を着せられ、ごろんと床の上に転がされた体勢でマヤはぼんやりとそんなことを考えていた。拘束衣は分厚い布製で、両腕を背中で一つにまとめ、両足も袋の中でそろえられたような形でベルトを巻かれているから、ほとんど自分の力で移動することは出来ない。両胸と股間に当たる部分の布地が切り抜かれているのは、まぁ、東城の趣味だろう。屈辱を感じないわけではないが、ある意味では女の囚人相手なら当然、ともいえる処置だから、あまり気にはならない。
 右目を潰されたせいで視界は相変わらずぼやけている。耳鳴りがほとんど収まったのは不幸中の幸いだが、あまりありがたがる気にもなれなかった。眼精疲労が原因の頭痛と吐き気は、日がたつごとに強くなるばかりだからだ。
 砕かれ、へし折られた歯は、今は入れ歯になっている。入れ歯、といっても、軟質ゴム製のもので、物を噛む役に立たないのはもちろん、舌を噛むことも事実上不可能だ。もっとも、マヤには最初から舌を噛んで自殺する気などないが。歯がなくなると容貌がかなり変化してみっともないことになるし、言葉も不明瞭になる。おそらくは、それを東城が嫌ったのだろう。醜い相手が呻くよりも奇麗な相手が泣き叫ぶ方が、あの男の趣味にとっては都合がいいはずだから。
「……まだ、元気みたいですね」
 かちゃりと、扉の開く音がした。続いて、ぽつり、と、そんな呟きが頭の上から降ってくる。ゆっくりと顔を上げたマヤの視界に、何を考えているのか相変わらず読めない有栖川シンの顔が飛び込んでくる。
「目に、絶望の色がない。不思議ですねぇ。とっくに、あきらめていてもいい頃なんですけど」
「おあいにくさま。最後まであきらめるつもりはないし、あなたがたに屈服する気もないわ。さっさと殺したら? そうすれば、少なくとも時間の無駄だけは防げるわよ」
「それを決めるのは、ボクではありませんから」
 挑発するようなマヤの言葉をあっさりと受け流し、有栖川は後ろに付き従う男たちに手で合図をした。荷物でも扱うような乱暴さで、男たちが床の上に転がったマヤの身体を抱え上げ、台車の上に放り投げる。どさっと、硬い台車の上に投げられてマヤが小さく呻く。
「あまり、意地を張らないで頂きたいんですけどねぇ。ボクたちも、暇なわけではありませんし。まぁ、痛い目にあうのはあなたですから、あなたの好きにしてくれてかまわないんですけど」
 どうでもよさそうな口調で、有栖川がそう呟いた。

「やっほー、マヤちゃん。気分はどうかなぁ?」
 にこにこと、本当に楽しそうな軽い口調で東城が運ばれてきたマヤに対してそう問いかける。目いっぱい不機嫌そうな表情を浮かべ、マヤは無言でそっぽを向いた。どんな反応を示しても目の前の男を喜ばせるだけだと分かってしまうのが、少し悔しい。いっそ、完全な無反応を示してやるのが一番なのかもしれないが、それが出来るほど彼女も大人ではない。
「おーやおや、黙んまりかい。つれないねぇ」
「そろそろ、始めたいんだが?」
 大袈裟に肩をすくめた東城に、氷のように冷ややかな視線を向けて樹璃がそう声を掛ける。少しむっとしたような表情を浮かべて東城が彼女のことをにらんだ。まったく引かずに樹璃もその視線を受けとめ、数瞬の間二人の視線が空中で火花を散らす。我関せず、といった風情で、有栖川は黙々と部屋の隅で作業を続けていた。
「……ま、いいか。有栖川さん? 準備はいいかい?」
「いつでもどうぞ」
「そんじゃ、ま、始めますか」
 東城が肩をすくめ、有栖川が二本のベルトを手にして台車の上に転がされたマヤの元へと歩み寄る。拘束衣の脇の金具にベルトを通し、拘束衣に開けられた穴から絞り出されたような形になっている乳房の上下へと、有栖川はベルトを回した。更に背中側で一つにまとめたベルトを天井からぶら下がったフックに引っ掻け、白衣のポケットから取り出した小さなリモコンのスイッチを入れる。
「うっ、く、う……っ」
 ぐぅんと、フックによって身体を持ち上げられ、マヤが小さく呻いた。両乳房を挟み込むように回されたベルトに全体じゅうがかかり、胸が締め上げられる。息が詰まる苦しさと、乳房を挟み込まれ、絞り出される痛みとにどうしても小さな呻きが漏れてしまうのを止められない。
「うっ、ぐっ。くぅ……っ」
 ゆっくりと引き上げられ、ついには足が完全に床から離れる。胸に回された二本のベルトで吊るされ、ぶらぶらとマヤの身体が揺れた。拘束衣を着せられているせいで、吊るされた人間というよりも蓑虫かなにかのような感じだ。
 身体を斜めにして揺れているマヤの前に、樹璃が歩み寄る。彼女が手にしている器具を目にして、マヤが僅かに怪訝そうに眉をしかめた。ヘッドホンのような形状だが、耳を覆う部分から外へと細い針が伸びている。
「また、騒音責め? 大袈裟な準備をした割には……」
「いや、違う。これは、鼓膜を破るための道具だ。もっとも、その過程で耐えがたい騒音に悩まされることになるから、あながち外れでもないが」
 意識的に笑みを浮かべてみせたマヤに向かい、樹璃がきっぱりとした口調でそう応じる。僅かに沈黙を挟み、ややこわばった形にマヤは唇を歪めた。
「ふぅん、目、歯ときて、今度は鼓膜ねぇ。でも、同じことよ。私は絶対に仲間のことなんてしゃべらないもの」
「そうだな。正直、これでお前が口を割るとは私も思っていない。だが……鼓膜は、破れても二週間もあれば再生する。今日口を割らなくても、二週間後、一ヶ月後と何度でもこの責めは繰り返せる」
 脅す風でもなく、淡々とした口調で樹璃にそう告げられ、マヤが沈黙する。小さく首を振ると、樹璃は腕を伸ばして吊るされたマヤの頭へとヘッドホンを被せた。
「私としては、早く口を割って欲しい。前にも言ったと思うが、お前を痛めつけるのは私の本意ではないので、な」
「……やるなら、さっさと始めれば!? 無駄だってこと、教えてあげるんだからっ!」
 ぎゅっと唇を噛み締め、マヤがそう言い放つ。小さく溜め息をつくと、樹璃は弟の方を振りかえった。
「始めてくれ」
「分かりました。5mmからいきます」
 無表情に頷くと、有栖川はリモコンを操作した。ぐぐぐっと更にマヤの身体が吊り上げられる。彼女の足の先が立っている樹璃の胸の辺りまで引き上げられたところで有栖川はリモコンをしまい、別のリモコンを取り出した。彼の指がぴっぴっといくつかのボタンを押すと、ヘッドホンから飛び出していた針が回転しながら内部へと潜り込んでいく。
「あっ、くううぅぅっ。くっ、あっ、ああああぁっ」
 途端に、マヤが表情を歪め、吊るされた身体をくねらせ始める。外に漏れる音はキュルルルルという微かな音で、注意していなければ聞こえないほど小さなものだ。しかし、ヘッドホンによって覆われ、耳の中で直接その音を聞いているマヤには、とんでもない轟音として感じられる。しかも、神経を引っ掻くような非常に耳ざわりな音だ。
「ひっ、いいいぃっっ。ひっ、あっ、くううぁぁっ」
 満面に汗を浮かべ、苦しげにマヤが身をよじる。もがけばもがくほど胸をベルトで締め上げられ、苦痛が増すことになるのだが、耳の中で響く怪音はそんなことを考える余裕など完全に吹き飛ばしてしまっている。全身に寒気が走り、吐き気が込み上げてくる。
「うっ、くうぅっ。はぁはぁはぁ……」
 針が進んでいた時間は、実際にはほんの十数秒と言ったところだろう。だが、そのごく短い時間が、マヤには永遠にも等しい時間に感じられた。針が回転をやめてもしばらくの間は耳の中に身の毛もよだつような音の残滓が残り、がっくりと顔を伏せたまま荒い息をつくことしか出来ない。ぽたぽたと、汗の玉が顔から床へと滴っている。
「針が鼓膜に達するまで、およそ3cmと言ったところだ。今のペースでいっても、後五回は同じことを繰り返すことになるな。もちろん、針を進める距離は自由に調整できるし、後半はそれこそ1mm刻み、半mm刻みで進めることになるから、苦痛はもっと長引くが」
 淡々とした口調で、樹璃がそう告げる。ワンワンと酷い耳鳴りを感じながら、マヤはその言葉を聞いていた。もちろん、樹璃の言葉の裏には、そんな目にあいたくなければ素直に自白しろ、という含みが有ることも理解している。
「くっ、うっ……お、思ったほど、たいしたこと、ないのね。この程度なら、楽勝よ……」
 ふーっふーっと荒い息を吐きながら、誰が聞いても痩我慢としか思えないような台詞をマヤが吐く。軽く溜め息をつくと、樹璃が振り返りもせずに弟へと告げた。
「シン、もう一度、5mmだ」
「はい」
「あっ、あっ、あああーーーっ。くうううぅっ、うっ、ひいいいいぃっ」
 ぶんぶんと身体を前後にくねらせ、吊るされた身体を大きく揺らしながらマヤが絶叫する。僅かに痛ましそうな表情を浮かべて少女が苦悶する姿を眺め、樹璃が軽く拳を握った。
「ひいいいいぃっ。ひっ、ひぃっ。あぐっ、ぐっ、ぐぐぐぐぐぅっ」
 神経をさかなでする轟音に、マヤが身体をくねらせつづける。彼女が身体をくねらせるたびに、ぎしぎしとベルトが胸に食い込み、上下から挟み込むようにして乳房を絞り出す。肋骨が折れてしまうのではないかと思うような痛みと息苦しさ、更に根元から乳房を千切られるような痛みがマヤを襲う。
「うぐ、ぐぅ……っ。くっ、うううぅ……」
 針の回転が止まると、乱れた髪を汗で顔に張り付け、マヤが小さく呻いた。耳の奥に残る音の残滓を振り払おうとするかのように、弱々しく首を左右に振る。
「ん、と。そうだ、有栖川さんよ。ちょっと相談があるんだが」
「何です?」
 マヤが空中で身体をくねらせる様を楽しそうに眺めていた東城が、ふと何かを思いついたような表情になって有栖川を呼んだ。無造作に応じて近寄ってきた有栖川に、何やら耳打ちをする。
「……はぁ。まぁ、用意はしてありますが」
 耳打ちをされた有栖川が、こともなげにそう答え、耳打ちをした東城の方がびっくりしたように僅かに目を見開く。
「用意、してあるぅ?」
「あなたの性格だと、いかにも考えつきそうに思えたので。一応。備えあれば憂いなし、って、本当なんですねぇ」
 淡々とした口調でそう答えると、有栖川がリモコンを取り出したのとは別のポケットからテグスを巻いた小さなリールをいくつも取り出す。がっくりと顔を伏せ、荒い息を吐いていたマヤが、何をされるのかと微かに不安そうな表情を浮かべた。
「シン?」
「あんまり、気は進まないんですけどね。ああ、動かないでくださいね」
 後半はマヤに向けてそう言い、有栖川はテグスの先端に付けられていた釣り針を絞り出されて震えているマヤの乳房の先端、乳首に突き刺した。ひっと小さく声を上げて身体を震わせるマヤ。かまわずにぴーっとリールからテグスを伸ばし、軽く身体を曲げた状態にして足首を巻いているベルトから延びた小さなフックに結び付ける。足首と乳首をテグスで繋がれ、マヤが瞳に恐怖の色を微かに浮かべた。
「言うまでもないですけど、動くと痛いですよ」
「っ……!」
 淡々とした口調でそう言いながら、別のリールを手に取り、同じようにして反対の乳首と足首を繋ぐ。更に、何本ものテグスを今度は乳房に針を突き立てる形で足と繋ぐと、有栖川は一歩さがって無残な姿にされたマヤのことを眺めた。
 絞り出され、歪んだ形になった乳房に、何本もの釣り針が埋め込まれ、更に引き伸ばしている。空中に吊るされ、足を前に曲げた形を維持するというのは意外と大変なものだが、疲れて足を降ろせばテグスに引っ張られ、乳房と乳首に激痛が走る。
「さぁて、マヤちゃん。その体勢で、例の音に耐えられるかなぁ? 下手に暴れると、胸がちぎれちゃうぜぇ?」
「っ、勝手にすれば!? 別に、そんなの怖くないもの!」
 恐怖の表情を浮かべながらも、毅然とした態度でマヤがそう叫ぶ。くくくっと低く笑うと、東城が有栖川へと声を掛けた。
「今度は、3mmくらいでいこうか。な、有栖川さん」
「はぁ」
 ぴぴっと簡単な操作をすると、有栖川がリモコンをマヤへと向ける。キュルルルルルっという、寒気のする音が再びマヤの耳の中で響き始めた。身体の内側から聞こえてくるような身の毛もよだつ怪音に、マヤが身体を震わせる。
「ひいいぃっ、ぎっ、痛っ、あっ、あああぁっ、ぎいいぃっ」
 身体をくねらせるたびに、テグスによって足と結ばれた乳房がぐにゃぐにゃと淫微な形に引き伸ばされ、激痛を生む。深く突き刺さった釣り針は、返しのせいもあって容易には抜けない。強く引っ張られ、肉を裂いて傷を広げていくばかりだ。赤い傷跡が何本もマヤの乳房に走り、血を滴らせる。特に、強く引かれた乳首はちぎれんばかりに伸びきり、気が狂いそうな痛みを放っている。
「相変わらず、趣味が悪いな」
 吐き捨てるような口調で樹璃が呟くが、東城は気にしない。耐えがたい音響に身をくねらせ、結果として自分の身体を痛めつけているマヤのことを楽しそうに眺めているだけだ。
「ひぎ、ぎ……。くううぅっ」
 針の回転が止まり、口を大きく開いてはっはっと荒い息を吐きながらマヤが呻く。顔や乳房にはびっしょりと汗が浮かび、ぽたぽたと床に滴っている。身悶えるたびに引き裂かれる乳房の傷はたいしたことはないが、見た目は酷く無残だ。
「もう3mm」
「くううぅぁぁっ。あっ、ぎっ、ひいいいいぃっ」
 東城の無慈悲な宣告に、マヤが悲鳴を上げて身をくねらせる。発狂しそうな騒音、身悶えするたびに走る胸の激痛。更には、ベルとに締め上げられる息苦しさもある。胸の痛みだけでいえば、足と結ぶよりも錘を吊るす方が効果的かもしれない。それなら、錘を増やすことでいくらでも、それこそちぎれてしまうまで負荷を増すことが出来るのだから。だが、足と結ぶというやり方にも利点はある。引っ張られる方向が一定しないために傷が深くなること、負荷の大きさが変わるために痛みが常に新鮮になること、そして何より、自分の手で自分を傷つけていることが実感できることだ。音による苦痛に耐え、動かずに居れば胸への苦痛がなくなると、頭では分かっていても簡単に実行できるものではなく、それがマヤの心を嬲る役に立っている。
「うっ、ううぅ……殺し、なさいよ……」
 がっくりとうなだれ、掠れた声でマヤがそう呟いた。針の回転は止まっているのに、残響は耳に残って消えてくれない。平衡感覚がおかしくなり、目の前がぐるぐる回っているようにすら感じられる。引き裂かれた胸はずきずきと痛み、呼吸をするだけでもかなり辛い。
「殺してほしけりゃ、素直に質問に答えることだな。さて、有栖川さん、本命もいこうか」
 にやにやと笑いながら東城がそう言い、小さく頷いて有栖川が吊るされたマヤの前へと歩み寄る。一瞬、何かマヤが言いたげに口を開きかけたが、結局は何も言わずに目を閉じた。
「あっ……や、やだ……っ」
「少し痛いですけど、我慢してくださいね」
 くり貫かれた拘束衣の穴から、マヤの秘所へと指を這わせつつ有栖川が淡々とした口調でそう言う。僅かに顔を赤らめ、マヤが身をよじった。その動きにつれて乳房が引っ張られ、小さく呻く。
「あぁ……っ!」
 有栖川の指が秘所の花びらをつまみ、引っ張る。絶望の色をにじませたマヤの小さな叫びにもまったく頓着せず、有栖川は指で引っ張った花びらへと釣り針をひっかけた。くううぅっと呻いて懸命に痛みに耐えるマヤ。針から伸びたテグスを足のベルトと結び、有栖川の指が反対側の花びらへと伸びる。秘所をまさぐられ、羞恥に顔を赤らめつつ小さく身悶えるマヤの姿を、にやにやと笑いながら東城は眺めていた。対照的に、無表情に有栖川は作業を続け、こちらの花びらも針とテグスで足と繋いでしまう。
「うっ、つ、うぅっ。ひいっ!?」
 苦痛と屈辱に小さく呻いていたマヤが、目を見開いてびくんと身体を震わせた。秘所の花びらだけでなく、有栖川の指はクリトリスにまで伸びていた。敏感な肉芽を指でつまみ、皮を剥くと容赦なく釣り針で貫く。激痛に身体を震わせれば、既に足と繋がれた両乳房と秘所に更なる痛みが走る。大きく目を見開き、荒い息を吐いてマヤは懸命に身体の動きを押さえ込んだ。彼女の動きが止まるのを待って、足のベルトとクリトリスとを有栖川がテグスで繋ぐ。
「ひっ、ぐっ。くっ、くうぅっ」
 吊るされた身体を緩やかなくの字に曲げ、切れ切れにマヤが呻く。じっとしていても針で貫かれた敏感な部分からは痛みが伝わってくるし、それを紛らわすために身体を動かせば更なる激痛に襲われる。ふーっふーっと息を荒らげ、マヤは懸命に耐えていた。
「残りは9mmか。んじゃ、とりあえず3mm追加だな」
 楽しそうに笑いながら、東城がそう言う。その言葉を耳にして、マヤが恐怖に表情を引きつらせた。あの音に耐えてじっとしているのは無理だと言うのは、もう充分に実感している。かといって今身体を動かせば、今までとは比べものにならない痛みを味わうのが確実だ。
「どうした? 降参かい?」
「ふっ、ざけないでっ。誰が……やるなら、さっさとやりなさいよっ」
 東城の言葉に、かえって背中を押されたような感じでマヤが叫ぶ。ゆっくりとリモコンを持ち上げながら、有栖川が尋ねた。
「いいんですね?」
「はっ、早く、やりなさいよっ。ひっ、ひいいいぃぁっ、ぎゃあああああっ」
 耳の中で針が回転し、気が狂いそうな音を響かせる。その音にぴんと身体を張りつめさせたマヤは、足に結ばれたテグスによって乳首と乳房、更には秘所の花びらとクリトリスを強く引かれ、激痛に叫び声を上げた。身体を震わせるたびに引っ張られる角度と強さが変わり、痛みが次々に変化していく。耳の中で響く音、敏感な部分に走る痛み。その二つが、マヤの精神を追い込んでいく。髪を振り乱し、頭を振りつづけるマヤ。(挿絵)
 針の回転が止まると、マヤはがっくりと顔を伏せてすすり泣いた。少しでも痛みを和らげようと、懸命に足を上げている姿は、いじましくさえある。もっとも、その哀れな姿は、東城の嗜虐心をそそる役にしかたっていない。
「じわじわいこうか。次は1mmだ」
 たのしげに笑いながらそう言う東城のことを、僅かに顔を上げたマヤが恨めしげな目で見つめた。

「ふっ……ふっ、ぅ……ぁっ」
 朦朧とした視線をさまよわせ、マヤが弱々しく呻く。苦笑を浮かべながら、東城が軽く肩をすくめた。
「やるねぇ、マヤちゃん。1mm三回に0.5mm三回、よく耐えたじゃないか」
「くっ、うぅ……しゃ、しゃべら、ないで……」
 弱々しく、掠れた声でマヤが小さく呟く。針はとっくの昔に止まっているというのに、耳の中にはまだ残響が残っている。そして、ゆっくりと小さくなっていくその残響は、何か別の音を聞く度に再び強さを取り戻し、身の毛のよだつような音となって彼女の精神を責め苛んでいる。
 だらんと足れ下がった足がテグスによって乳房と乳首、秘所の花びらとクリトリスを強く引っ張っている。ちぎれんばかりに引き伸ばされた三つの突起が激しく痛み、それ以外の場所からもかなりの強さの痛みを感じているのだが、その痛みを和らげるために足を上げるだけの余力は、もう彼女には残されていないらしい。
「おやおや、どうしたんだい? マヤちゃん。ぼろぼろじゃないか。もうあきらめて、素直に質問に答えてくれる気になったかなぁ?」
 心底楽しそうに、東城が言葉を放つ。くるしげに頭を小さく振り、マヤが呻きとも呟きともつかない答えを返した。
「い、や……。しゃべら、ない……」
「強情だねぇ。ま、予想はしてたけどな。さて、と。それじゃ、とりあえず終わりにしますか。有栖川さんよ、やってくれや」
「ええ」
 きつく唇を噛み締めている樹璃のことを横目で見やり、有栖川がリモコンのボタンを押す。今まで何度も繰り返されてきた凶悪な音の洗礼に、か細い悲鳴を上げてマヤが身悶えた。彼女の身悶える動きに合わせるように、引き伸ばされた乳房や秘所がぐにゃぐにゃと歪み、肉が裂けて血が滴る。
「ふっ、あぁっ。あくっ、くっ、くぅぅぁっ。ひっ、ひぁっ、ひっ、ふぅぁっ、アグッ!?」
 目を閉じ、くねくねと身体を揺らしていたマヤが、不意にかっと目を見開き、ぴんっと身体を硬直させる。針の先端が鼓膜に触れたのだ。鼓膜が直接振動し、既に音として認識できないほどの轟音が頭の中で鳴り響く。
「アッ……!」
 掠れた叫びを残し、がくっとマヤの首が折れる。白目を剥いて気絶したマヤの姿を眺め、クククっと東城が低い忍び笑いを漏らした。
「いやいやいや、楽しませてくれるねぇ、マヤちゃん。次はどんな悲鳴を聞かせてくれるのか、今から楽しみでしょうがないよ」
「目的を間違えるなよ。趣味を仕事に持ち込むなとは言わんが、趣味を仕事に優先させるのは問題だぞ」
 冷たい口調で樹璃が東城にそう言うが、東城はそれでも楽しそうに笑っていた……。
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