003の受難


「うっ、くぅっ。や、やめてっ」
 X字型に組みあわされた張り付け台に全裸で手足を拘束され、鞭打ちを受けながらサイボーグ003--フランソワーズが苦しげに呻く。彼女の前に立つのは、申し訳程度に目鼻のついたロボットだ。改造されているとはいえ、もともと戦闘向きでない彼女にとってはロボットの怪力による鞭打ちはかなりの苦痛だった。軋むような合成の声で、ロボットが何度も繰り返してきた台詞を告げる。
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
「だ、誰がっ。うああぁっ。きゃあああああっ」
 彼女が否定の叫びを上げた途端、ビシィッ、バシィッと、耳を覆いたくなるような音が続けざまに響き、彼女の左右の胸にくっきりと赤い鞭の跡が刻み込まれた。更に、顔をのけぞらして悲鳴を上げた彼女の股間へと、ロボットが容赦なく鞭を振るう。
「ひいいいぃぃっ。イヤアアァッ」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
「いやっ、いやよっ。アアアーーーッ」
 悲鳴を上げながら、それでも懸命に首を左右に振るフランソワーズを容赦ない鞭の連打が襲う。ピンと張りつめた腕や足を鞭で打たれ、彼女の口から甲高い悲鳴があふれた。
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
「うっ、ううぅ……もう、やめて……きゃああああああっ」
 パシィンッと鞭が腹に横一文字の赤い筋を刻み込む。全身に縦横に赤い鞭の跡を刻み込まれ、フランソワーズの目から涙がこぼれた。
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
「だ、駄目……話せないわ。うあっ、うああっ、ひいぃっ」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 同じ言葉だけを、ひたすらに繰り返しながらロボットは鞭を振るう。薄暗い部屋の中に、フランソワーズのあげる悲鳴と鞭の音、ロボットの無機質な声だけが延々と響く。 (挿絵)
「うっ、ううぅ……」
 どれくらいの間、そんな時間が続いただろうか。鞭の跡の上に更に跡が刻まれ、フランソワーズの全身が真っ赤に染まる。がっくりとうなだれ、弱々しく呻いた彼女の耳にしゅっという微かな音が届いた。僅かに視線を横に向け、音の方を見た彼女がはっと目を見開いた。
 開いた扉から部屋の中へと入ってきたのは二つの影だ。一つは、フランソワーズを鞭打っているのと似た感じのロボット。そして、もう一つは……。
「ミ、ミイラ……?」
 呆然と、フランソワーズがそう呟く。自走式の車椅子に腰掛けているのは、かさかさに乾ききったミイラだった。科学者らしい白衣をまとっているが、その白衣も半ば風化してぼろぼろになっている。
「白状、したか?」
 車椅子を伴って入ってきたロボットが、鞭打ちの手を止めていたもう一体のロボットへと軋んだ質問を放つ。ちかちかと目を光らせながら、一体目が返答した。
「いいえ、まだです」
「では、次の段階に移る」
 無機質な合成音でそう言うと、ばくんと二体目のロボットの胴体が左右に開いた。そこに収められた何本ものコードを、一体目のロボットが引き出してフランソワーズの身体に吸盤で張りつけていく。
「ま、待って……!」
 フランソワーズの叫びに、一瞬二体のロボットが動きを止めた。胴体から何本ものコードを伸ばしたロボットが首だけをぐるっと180度回転させ、車椅子の方へと顔を向ける。
「御主人様、尋問を中止しますか?」
「……」
 ロボットの問いに、当然ながらミイラは答えない。ちかちかと目を光らせてしばらく沈黙していたロボットが、再び首をフランソワーズの方に向ける。
「了解。続行します」
「ちょ、ちょっと! その人は、もう死んで……きゃあああああっ!」
 フランソワーズの抗議の叫びが、途中で苦痛の絶叫に変わる。バリバリバリっと彼女の肌の上を青白い電光が走りまわり、ぶわっと髪が逆立った。大きく目を見開き、首をのけぞらせてぶるぶると全身を痙攣させる。(挿絵)
「あっ、がっ、は……っ。や、やめ……きゃああああああああああああっ!!」
 電気ショックがとだえ、がくっとうなだれて弱々しく呻くフランソワーズ。その弱々しい呟きを遮るようにロボットの目が光り、全身を電気ショックに貫かれたフランソワーズが絶叫を上げる。
「あっ、あっ、あっ、ああああーーっ!」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 X字に張り付けにされた裸身を震わせ、フランソワーズが悲鳴を上げつづける。鞭で彼女を打っていた時と同じように、ロボットが無機質な声で淡々とそう告げた。通電がいったん止まり、しゅううぅと全身からうっすらと白い煙を漂わせてフランソワーズがうなだれる。
「は、話す、わ……何でも、話すから、もう、やめて……」
 震える唇から、弱々しい声が漏れる。ぐるりと首を回転させ、ロボットが車椅子の方に顔を向けた。
「尋問を、中止しますか?」
「……」
 ロボットの問いに、答えはない。当然、ない。チカチカっと目を数度光らせ、ロボットがぐるんと首を回転させる。
「了解。続行します」
「やめてぇっ。イヤアアアアアアアアアアアアアッ」
 バリバリバリっと、フランソワーズの全身を電撃が貫く。こぼれんばかりに大きく目を見開き、手首と足首のいましめを引き千切らんばかりに激しく身体を震わせてフランソワーズが絶叫を上げる。
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
「話すわっ、話すからっ。その人はもう死んでるのっ。ねぇっ、もうやめてよっ」
 電気ショックが途切れると、ロボットが同じ問いを放つ。その問いに、涙目になって叫ぶフランソワーズ。フランソワーズの叫びにロボットが首を回転させ、ミイラに問いかける。
「尋問を、中止しますか?」
「……」
「その人はもう死んでるのっ! 答えなんか……きゃああああああああっ」
 フランソワーズの叫びにまったく耳を貸そうとはせず、首を回転させたロボットが電気ショックを浴びせる。青白い火花が肌の上を走りまわり、苦痛の叫びを上げながらフランソワーズが激しく身体を震わせる。苦痛のあまり失神する寸前で電気が止まり、がくっとうなだれてフランソワーズは荒い息を吐いた。力なく半開きになった口から、意味をなさない呟きと共によだれが流れ落ちる。
「あ、あぁ……が、は……ぁ」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 無機質な声でロボットがそう問いかける。度重なる通電に、口や舌がしびれてうまく動かない。それ以前に、何を言ったところで命令者が死んでいる以上ロボットたちが聞いてくれるはずもないが。
 僅かに身じろぎするだけで、全身の皮膚に引きつるような感覚がある。電気ショックによって焼かれ、うっすらと全身から白い煙が立ち上っていた。普通の人間であれば、とっくに心臓が止まっているだろう。改造された彼女だからこそ、まだ生きているのだ。不幸なことに。
「アアアアアアアーーーッ、ギャッ、ギャアアアアアアアッ」
 ロボットの目が光り、さっきまでよりいっそう強烈な電撃がフランソワーズの全身を貫く。びくんびくんと身体を激しく震わせ、フランソワーズが絶叫を放った。一分近くに渡って電流は流され続け、ついに白目を剥いてフランソワーズが気絶する。がっくりとうなだれ、半開きになった彼女の口からだらりと青黒く膨れあがった舌が垂れ下がった……。

「う、あ……」
 小さく呻いてフランソワーズが目を開いた。ひんやりとした感触。金属製の台の上に寝かされているらしい。起き上がろうと身体に力を入れるが、気が付けば手足を天井から伸びたアームによってがっちりと固定されている。手首と足首、肘と膝、肩と太股の付け根。アームの締め付けはきつく、結構痛い。
「対象の覚醒を確認。第三段階に移ります」
 ロボットの、無機質な声が聞こえる。引きつる感覚を無視して、フランソワーズは声のした方へと首を捻った。壁から突き出したレバーをロボットが握っている。
「な、何をするつもりなの……!?」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 恐怖に満ちたフランソワーズの問いに、ロボットが淡々とした口調で何度となく繰り返してきた台詞を放つ。絶望の表情を浮かべ、うまく動かない口を懸命に動かしてフランソワーズが叫ぶ。
「だから……! あなたたちを作った人はもう、死んでるのっ。お願いっ、もう、やめてっ」
「尋問を、開始します」
 がくん、と、ロボットがレバーを引く。ぎりぎりぎりっと軋んだ音を立てながらフランソワーズの足首と手首を捕らえたアームが持ち上がり始めた。膝と肘はがっちりと台に押しつけられたままだから、当然関節が本来曲がるはずのない方向へと強引に捻じ曲げられることになる。
「あっ、ああっ、やめてぇっ。痛いっ、折れ、折れちゃうぅっ。ああーーっ!」
 左右に首を振り、身体をのたうたせてフランソワーズが悲痛な悲鳴を上げる。ミシッ、ミシッと肘と膝の関節が軋んだ。骨格と筋肉を強化改造されている彼女だから並の人間よりはるかに耐久力は有るが、この状況では苦痛が長引くだけだ。
「ひ、ぎゃっ。あぎっ、ぎっ、折れ、るっ、やめてっ。嫌ぁっ、痛いっ、駄目っ、あああーーっ!」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 大きく目を見開き、髪を振り乱して泣き叫ぶフランソワーズへと、ロボットがそう言う。話すっ、と、絶叫するフランソワーズにいったんはレバーが元に戻され、アームの動きが止まる。だが……。
「尋問を、中止しますか?」
 そう、ロボットがミイラに向かって問いかける。当然ながら返答はない。恐怖と苦痛に表情を引きつらせるフランソワーズ。そしてレバーが再び引かれ、アームが持ち上がっていく。(挿絵)
「イヤッ、イヤァァッ。痛っ、痛いっ、折れ、るぅっ。ぎゃあああああーーっ!」
 ついに、限界を越えたフランソワーズの右腕からばきっという鈍い音が響いた。びくんっと身体を硬直させて絶叫する彼女の左腕、そして両足からも関節の砕ける鈍い音が続けて響く。
「ひぎっ、ぎっ、ぎいぃっ、やめっ、痛っ、駄っ、目っ、ぎいぃっ。ぎっ、ぎぃっ」
 骨を砕いてもアームは動きを止めず、台から垂直になるまで彼女の四肢を引き上げていく。砕かれた骨と骨とがごりごりとこすれ合い、目も眩まんばかりの激痛に濁った悲鳴を上げながらびくんびくんと身体を痙攣させるフランソワーズ。
 フランソワーズの四肢が台と垂直になるのを確認して、ロボットが別のレバーを引いた。ゆっくりとアームが回転を始める。ぞうきんを絞るように手足を捻られ、フランソワーズの口から獣じみた絶叫が上がった。
「ぎゃああああああっ、うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃああ--っ」
 砕かれた関節がぎりぎりと捻られる。強化された筋肉と皮膚が捻られ引き伸ばされていく。一回転、に回転、三回転。並の人間ならばとっくの昔に捻じ切れられているだろう。そして、いくら肉体を強化されているとはいえいつかは限界が来る。
「ぎぎゃああああああーーーーっ!!!」
 びくんっと大きく身体を跳ねさせ、フランソワーズが絶叫する。ぶちっと右足が膝から捻じ切られ、少し遅れて他の手足もその後を追う。無残な傷口から鮮血をあふれさせ、びくんびくんとフランソワーズが身体を痙攣させた。
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 ロボットが単調にそう言い、既にお決まりとなった行程が繰り返された。ロボットが別のレバーを引き、激痛に思考のほとんどを支配され、まともにしゃべることも出来ないフランソワーズの手足の残り半分がアームによって引き上げられていく。
「ひ、ぎ、ぃ。や、め……う、あ、ぁ。許、して……ひ、ぎ」
 うわごとのように呟くフランソワーズ。腰と肩を固定され、半ばからちぎれた手足が台と垂直になる。肘や膝と違って肩や股の関節はその向きになっても問題はないが、アームが回転を始めれば話は別だ。
「ぎひいぃぃっ。嫌っ、嫌っ、イヤアアアァッ」
 目を見開き、涙とよだれを飛ばして激しくフランソワーズが頭を振る。その間にもぎりぎりとアームは回転を続け、ついには肩と股間からばきっという鈍い音を響かせた。
「ぎゃあああああああっ。うぎゃっ、ぎゃっ、ぎゃあああああああっ」
 激痛に、恥も外聞もかなぐり捨ててフランソワーズが獣じみた絶叫を上げる。関節が破壊され、筋肉と皮膚とが引き伸ばされ、捻られていく。一回転。二回転。三回転。乳房を震わせ、腹を波立たせ、為す術もなく激痛に翻弄されて泣きわめくことしかできない。
「ひぎゃああああ--っ!! ひっ、ひっ、ひっ。うぎゃああああーーっ!!」
 ぶちぃっと、まずは右腕、ついで左腕が胴体から捻じ切られる。更に二回、回転を加えられて両足も胴体から離れた。アームに掴まれたまま、空中でくるくるとバラバラになったフランソワーズの手足が回転を続ける。切断面からこぼれる鮮血に自らの身体を真紅に染め、ひくひくとフランソワーズは身体を痙攣させた。宙を見つめる瞳から焦点が消え、半開きになった口からうつろな笑いが漏れる。
「ははっ、はははっ、あははははっ」
「やめて欲しければ、君たちの秘密を話すことだ。そうすればすぐに楽にしてやろう」
 狂気じみた笑いを上げるフランソワーズに、ロボットが相変わらず単調にそう言う。その言葉ももう耳に入っていないのか、ただただ笑いつづけるフランソワーズの姿に、ロボットが壁のレバーを引く。今まで彼女の足首を掴んだまま回転していた二本のアームが、ぼとりと台の上に足を落とすとフランソワーズの両胸へと伸びた。二つのふくらみを挟み込み、ゆっくりと捻り上げていく。
「ひぎっ、ぎっ、ぎいぃっ」
 激痛に、フランソワーズが身体を痙攣させ、叫び声を上げる。乳房が捻れ、歪み、それでも止まらない回転についには根元からぶちぶちぶちっと引き千切られた。ぱくぱくと口を開閉させ、よだれをたれ流すフランソワーズへとロボットが問いかけるが、既に心が壊れてしまった彼女は何も答えない。それを否定と取ったのか、ロボットたちは更に尋問を続行した。天井から先端がメスのようになった細いアームが何本も降りてきて、フランソワーズの身体を切り刻み始めたのだ。
「ひっ、ひひひっ、あははっ、ぎっ、ぎぎぃっ、ひっ、ははははっ」
 狂気の笑いと苦痛の悲鳴をあげながら、ゆっくりとフランソワーズは解体されていった……。(挿絵)
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