ガロードの受難


「何だよ、それ! ティファがさらわれたって、どういうことだよ!?」
 フリーデンのブリッジで、ガロードがジャミルに食って掛かる。サングラスを掛けていてもはっきりと分かる苦渋の表情を浮かべ、ジャミルが答えた。
「おとりに引っ掛かった。お前たちが出撃した後、別のバルチャー艦が不意打ちを仕掛けてきてな」
「あーらら。この間苦労してアルタネイティブの連中から取り戻したばっかだってのに、よくさらわれるお姫様ですこと。
 で、どうすんの? このまま尻尾巻いて逃げちゃうわけ?」
 壁にもたれて腕を組んでいたロアビィが軽口めかした口調でそう尋ねる。彼の言葉にジャミルが答えるより早く、振り返ったガロードが叫んだ。
「冗談! ティファを取り返すに決まってんだろ!?」
「御立派御立派。で? 何かあて、あるわけ?」
「そ、それは……」
「今、ありったけの情報屋に調べさせている。この辺りで、補給が出来る街はそう多くない。まして、おとりに二艦、本命に一艦、計三艦ものバルチャー艦が動けば相当に目立つ。必ず、手掛かりは得られるはずだ」
 口篭ったガロードに言い聞かせるように、ジャミルがそう言う。くっと小さく呻いてガロードが拳を震わせた。
「ガロード、ウィッツ、ロアビィ。三人は自室で待機だ。いつでも動けるよう、身体を休めておけ」
「へいへい」
「りょーかい」
 ジャミルの言葉に、ウィッツとロアビィの二人が軽く肩をすくめながらあっさりと応じる。僅かに黙り込んでいたガロードも、いいな、と、再度念を押さえると不承不承といった感じで頷いた。

「くそっ。ティファ……」
 ベットの上にうつぶせに身体を投げ出し、拳をベットに叩きつけながらガロードが小さく呻く。大切な相手を守りきれなかった無力感に苛まれ、到底身体を休めるどころの騒ぎではない。
 と、ぴぴっという小さな電子音が響いた。机の上に置かれたトランクのようなケースからだ。まだ彼がフリーデンの一員となる前、一人でMSハントをしていた頃に使っていた通信機である。フリーデンに参加してからは、GXの操縦を覚えたりなんだかんだと忙しかったため、すっかり存在を失念していた代物だ。それに、フリーデンに参加した際にMSハントは辞めたと通告を出してあるから、今では誰も使うはずがない。
「何だぁ?」
 首を傾げながらベットから置き上がり、ガロードが通信機を開ける。画面に表示された数行の文字と地図を見て、はっきりと彼の顔がこわばった。
「ちくしょう……!」
 拳を握り締め、細かく震わせながらガロードが小さく呟く。画面に表示された文字を消し、ガロードはごろんとベットに横になった。目を閉じると、まぶたの裏にさっき見た文章が浮かび上がる。
ガロード・ランへ
 ティファ・アディールは預かった。返して欲しくば今夜12時、一人で次の地図の場所まで来い。
 無論、仲間に知らせた場合、彼女の身の安全は保証しない。
貴様に恨みを持つものより

「俺のごたごたに、ティファやみんなを巻き込んだってのかよ……」
 ぎりっと、血がにじむほど強く唇を噛み締めながらガロードはそう呟いた。

 そして、その日の深夜。小型のホバーバイクで一人フリーデンを抜け出したガロードは、地図に記されていた場所にたどり着いていた。戦争前の工場の跡地らしき建物を双眼鏡で確認し、僅かに考え込む。相手が何人で、どこに居るのか分からないのに正面から突入するのは論外だ。ティファという人質が居なければ、GXを使って正面から強襲してもいいかもしれないが。
「オーソドックスに、裏から回って速攻でティファをさらって逃げる。うん、これしかないよな、やっぱ」
 小さくそう呟くと、ガロードはバイクから降りて慎重に歩き始めた。だが、ほんの数歩進んだところで、だしぬけに銃声が響く。うわっと声を上げて反射的に後ろに跳んだガロードの足元で、チィンッと銃弾の跳ねる音が響く。
「よく来たな、ガロード! その度胸だけは、誉めてやるぜ!」
 高い所から、男のダミ声が降ってくる。声のした方を振り仰いだガロードがちっと舌打ちした。満月を背にしているために細かい所は分からないが、ともかく、張りだした岩壁の上に銃を構えた男の姿が見えた。
「ティファをさらったのは、おまえらか!?」
「おおよ。てめぇをおびき出すには絶好の餌だからな。おっと、おかしなまね、すんじゃねーぞ。両手を頭の後ろで組んで、ゆっくりとあの建物に歩いていくんだ。分かってんだろ? 例えお前が逃げきれたとしても、可愛い彼女がどうなるかはよ」
 くくくっと楽しげに笑いながら男がそう言う。ちっと舌打ちすると、ガロードは言われたとおりに両手を頭の後ろに回した。人質を取られ、奇襲にも失敗した以上、覚悟を決めるしかなさそうだ。
「結構せこいよね、おじさんたち。俺みたいな子供相手に、人数そろえた上に女の子人質に取るなんてさ」
「うるせぇっ。がたがた言ってねえでとっとと歩け!」
「はいはい。今更、逃げも隠れもしないよ」
 軽口を叩きながら、ガロードは懸命に頭を回転させていた。自分はともかく、ティファの身の安全だけは何としても確保しなければいけない。その為にはどうすれば言いのか、ひたすらにガロードは自問自答を続けながら足を進めた。だが、結局答えのでないままに建物の入り口にたどり着いてしまう。
 建物の中に入ると、そこはがらんとした空間だった。工場と言うより、倉庫に近い。天井の照明設備は生きていて、意外なほど明るかった。体育館程度は有りそうな空間に、十人を越える男たちが並んでいる。誰も彼もがむさくるしい格好をしていて、とりあえずガロードの記憶の中には見た顔はない。ただ、相手が何者なのかの見当は、一応ついていた。
「おじさんたち、俺にMS取られたMS乗りでしょ? 子供一人に、随分と格好悪いこと、してくれるじゃない」
 ガロードの言葉に、ざわりと男たちがざわめく。動揺ではなく、怒りのこもったざわめきだ。相手を怒らせ、冷静な判断力を失わせるのは交渉術の一つでは有る。まぁ、ガロードの場合は、意識してやっているというよりも半分以上は性格だが。
「てめぇっ」
「うぐっ」
 ガロードの一番近くに居た男が、怒りの声と共に足を繰り出す。どすっと腹を蹴られ、ガロードが呻いた。一歩よろめき、へへっと小さく笑う。
「ティファはどこだよ。言われたとおり来てやったんだ、顔ぐらい見せてくれてもいいだろ?」
「ちっ、いい度胸してやがる」
 ガロードの言葉に、今蹴りを放った男が舌打ちする。奥に続く扉が開き、男が一人現れた。左腕でティファを抱え込むようにし、右手に握ったナイフを喉元に突きつけている。
「ティファ!」
「ガロード……!」
「おっと、動くんじゃないぜ。可愛い彼女の顔、切り刻まれたくなけりゃあな」
 互いの名を呼び合う二人の少年少女たち。反射的にダッシュしかけたガロードのことを、ナイフを握った男の声が押しとどめる。ぴたぴたとナイフの刃で頬を叩かれ、ティファの顔が僅かに青ざめた。色の濃いゴーグルを掛けた男をにらみつけ、ガロードが呻くと唸るの中間ぐらいの声を上げる。
「てめぇらの目的は俺だろうが。逃げも隠れもしねぇ! だから、ティファをはなせっ」
「くっくっく、泣かせるねぇ。おい!」
 ナイフを握った男の言葉に、わらわらと男たちがガロードの元へと歩み寄る。ジャケットを乱暴に脱がされ、両足首を床から生えた短い鎖で軽く肩幅に開いて繋がれる。その作業の合間に何回か小突かれ、ガロードが顔をしかめた。両腕はまだ無事だが、足を繋がれ、ジャケットに忍ばせた武器も奪われてしまっている。もっとも、一番頼りにしていた目潰し用の閃光弾は、ティファにナイフを突きつけた男がゴーグルをしている段階であまり意味のないものになっていたし、銃やナイフでこの人数を相手にするのはちょっと無理だ。自分一人が逃げのびるぐらいなら出来るかも知れないが、ティファを無事に助け出すことが出来るとは到底思えない。
 壁際に立っていた男が、レバーを引く。天井から、先端にフックの突いた鎖が二本、ガロードの肩幅よりも広いぐらいの間隔を開けてじゃらじゃらと降りてきた。表情を引きつらせるガロードの両腕を男たちが掴み、降りてきたフックの鋭い先端を彼の両掌に突き刺す。
「ぐあああっ」
 両掌をフックで貫通され、ガロードが苦悶の叫びを上げる。じゃらじゃらと音を立てて鎖が巻き上げられていき、ガロードは半分吊るされるような格好になってしまった。両手の貫通された傷がずきずきと痛む。
「ガロード!」
「へっ、へへっ。心配すんなよ、ティファ。この程度、どうってこと、ねえって」
 思わず声を上げるティファへと、顔中に油汗をにじませながらガロードが笑いかける。げらげらと笑いながら、周囲の男たちが手に手に得物を取った。ある者は釘を打ちつけた角材、またある者はチェーン。有刺鉄線を輪にして先に錘を付け、鞭のようにした物や鉄の棒を手にしている者も居る。
「いつまで、そんな減らず口が叩けるかな?」
 ティファへとナイフを突きつけた男が、笑いながらリンチの開始を告げた……。

「うぐっ」
 鉄の棒で腹を殴られ、前屈みになるようにしてガロードが呻く。にやにやと笑いながら、男がガロードの膝を薙ぎ払うように鉄の棒を振るう。膝の辺りを強打され、ガロードは苦痛の呻きを上げた。一瞬足から力が抜け、両手で吊るされるような格好になる。フックで貫通された掌に体重が掛かり、激痛と共に鮮血があふれ出す。
「くっ、くっそー。ぐふぅっ!」
 よろめきながら懸命に足に力をこめ、体勢を立て直すガロード。野球のバッティングの要領で振るわれた鉄の棒が再び彼の腹を捉え、くぐもった呻き声が上がる。
「へへへっ、いいざまだなぁ、坊主」
 釘付きの角材を手にした男が、嘲笑を浮かべながらガロードの背後に回り込み、彼の背に角材を振り降ろす。アンダーウェアと肌と肉とをまとめて引き裂かれ、苦痛の声を上げてのけぞるガロード。
「ぐあああぁっ。く、くっそー、てめえら……」
「おうおう、元気だねぇ。そうでなくっちゃ、こっちも楽しみがいがないってもんだ」
 鉄の棒を持った男が、その先端でどすっとガロードの腹を突く。くぐもった呻きがガロードの口から漏れた。更に釘付きの角材が背中に振り降ろされ、ガロードの口から苦痛の叫びが上がる。
「ガロード! お願い、もうやめてぇっ」
 前後を二人の男に挟まれ、鉄の棒と角材とで叩きのめされているガロードの姿に、ティファが悲痛な声で叫ぶ。前に乗り出した彼女の身体をぐいっと引き戻し、サングラスをかけた男が下卑た声で笑った。
「暴れるんじゃねぇよ。奇麗な顔、切り刻まれたくはねぇだろう?」
「て、てめぇっ! ティファには、手を出すんじゃねぇ!」
「おらっ、人のこと心配してられるようなざまかよっ!」
 叫んだガロードの背中に、角材が振り降ろされる。アンダーウェアが引き裂かれ、血がほとばしる。苦痛の声を上げて顔をのけぞらせるガロードの姿に笑い声が巻き起こり、少し離れた場所に腰を降ろしてガロードがいたぶられる様子を鑑賞していた男の一人が腰を上げる。
「そろそろ、かわってくれや」
「ん? ああ、いいぜ」
 鉄の棒を手にした男が無造作に頷き、その男に場所を譲る。じゃらり、と、手にしたチェーンを鳴らし、頬に火傷の跡のあるその男が薄く笑う。
「ガロード、てめぇに受けた恨み、今日まで忘れたことは一日たりともなかったんだ。たっぷりと、お返ししてやるぜ」
「はっ。MS盗られたのは、あんたがヘボだったせいだろーが。子供相手にみっともないとは思わないのかよ、おじさん」
 ずきずきと痛む背中に表情を歪めつつ、ガロードがそう言う。無言のまま唇の端を歪めると、男はチェーンを振り上げ、振り降ろした。ガロードの胸を打ち据えたチェーンが、皮を裂き肉をえぐる。
「ぐわあああぁっ!」
「その減らず口、叩けなくしてやるよっ!」
「う、うわあぁっ! があああぁっ! く、くそ、うわあああぁっ!」
 チェーンが幾度となくガロードの胸を打ち、肉をえぐる。のっそりと立ち上がった男が、ブラスナックルをはめた手でチェーンを振るう男の肩を叩いた。ん? と、軽く声を上げた男が、相手の方に振りかえって苦笑を浮かべると肩をすくめる。
「選手交代、ね。わあってるよ。俺が一人じめなんてしやしねえって」
「……」
 無言のままガロードの前に立った男が、がちんと両拳のブラスナックルを打ちあわせる。さんざんに打ちのめされ、呻いているガロードの腹へとブラスナックル付きの拳が叩き込まれた。
「ぐふっ!」
「……」
 身体をくの字に折って呻くガロードを無言で見つめ、男がぐっと拳を握る。げほっげほっと咳き込んでいるガロードの顔へと拳が叩き込まれ、更には胸、腹へと続けざまに拳が叩き込まれる。
「あぐっ! がはっ! ぐあっ! げふっ! がっ! ごぶうっ! があぁっ!」
「……」
 無言のまま、表情を変えることもなく男がひたすら両手でパンチを繰り出す。容赦のない連打に踊るように身体を揺らしながらガロードが苦痛の声を上げた。パンチを受けて吹き飛ばされるたびに掌の傷がフックにえぐられ、血をほとばしらせる。
「……」
 無言のまま連打を続けていた男は、最後まで無言のまま自分の順番を終えた。軽く肩を上下させながら周囲の面々に軽く頭を下げ、元の場所に戻る。膝に力が入らず、フックに吊るされるような格好になったガロードの前に別の男が進み出た。有刺鉄線を束ね、鞭のようにしたものを持っている。
「くっくっく、いいざまだなぁ、ガロード」
「ぐっ、くそ……っ。うあああっ」
 男の嘲笑の声に顔を上げ、悔しそうに呻くガロード。男が振るった有刺鉄線の鞭がガロードの太股に巻きつき、肉をこそげ落しながらぐいっと引かれる。ぶしゅうっと血がほとばしり、苦悶の叫びを上げてガロードが顔をのけぞらせた。くっくっくと低く笑いながら、男が鞭を振るい、反対の太股に巻きつける。
「そうら、よっ」
「ぎゃあああぁっ!」
 鋭い刺が肌を裂き、肉をえぐる。苦悶の声を上げるガロードの姿に男は楽しそうに目を細めた。
「ガロード! やめてっ、やめてぇっ」
 サングラスの男の左腕に抱えられたまま、ティファが身をよじって叫び声を上げる。その声に気をよくしたのか、鞭を手にした男は楽しそうに笑いながらガロードの右腕に鞭を巻きつけ、ぐいっと引いた。
「ぐあっ、ぐうわあああっ!」
 服が、肌が、肉が。引き裂かれて血をほとばしらせる。ガロードの絶叫、ティファの悲痛な叫び。男たちのげらげらと笑う声……。くっくっくと含み笑いをしながらガロードの左腕に鞭を巻きつけ、強く引く。肉が裂け、血がほとばしり、ガロードが絶叫する。
「ちく、しょう……」
 苦痛に大きく肩を上下させ、ガロードが喘ぐ。右手でナイフをもてあそびながら、次の男がガロードの目の前に立った。ギリッと奥歯を噛み締め、順番待ちをしている男たちのことをガロードが睨み付ける。 まだ、リンチは半分も終わっていなかった……。

「ぐ、う、あ……」
 フックで吊るされ、ガロードが弱々しく呻く。ぼろ布のようになった上着。その裂け目から露出する肌にはいくつもの傷と青痣が刻まれている。有刺鉄線とチェーンとが鞭となって襲いかかり、肉を裂いた。鉄と木の棒がガロードの身体を乱打し、無数の痣を刻み込んだ。拳を使ったものやナイフを使ったものも居た。時には一人ずつ、時には複数からよってたかって、 思い思いの暴行を加えられたのだ。いったんは自分の順番を終え、交代した男たちも、その場のノリで二度、三度と暴行の輪に加わるのだからたまらない。最初の頃は減らず口を叩いたり、相手のことを睨み付けたりする余裕のあったガロードだが、リンチの中盤過ぎからはただ苦痛の叫びをあげることしか出来なくなっていた。
 抵抗することもできないガロードを好き放題に痛め付けた男たち。ティファを抱えたままその一部始終を黙ってみていたリーダー格の男が、他の男たちに声をかけ、彼らが充分に満足したかを確認した。
「まだ、やりたりねぇ奴はいるか?」
「いや、もう充分だ。なぁ?」
「ああ、最後は、あんたが締めてくれや」
「よーし、それじゃ、終りにするか」
 ガロードの受ける暴行を目の当たりにしたショックからか、がたがたと震えているだけになってしまったティファの身体を別の男に渡し、サングラスの男がそう言う。彼は部屋の片隅に積み上げられたがらくたの中から、電動ドリルを持ち出してきた。先端に長さ5cmはあるネジを装着し、その先端を服を引き裂かれ、あらわになったガロードのへそへと当てる。
「お、おい、冗談だろ……?」
 流石に表情を青ざめさせ、ガロードが呆然としたように呟く。にやりと笑うと、男が電動ドリルのスイッチを入れた。ぎゅるるるるっと低いうなりを立ててドリルが回る。ネジが回転しながら、ズブリとガロードのへそへとめりこんだ。(挿絵
「ぐあっ、ぐあああああああ--っ!」
 腹で弾けた激痛に、ガロードが大きく口を開けて絶叫した。回転するネジが、皮膚と筋肉とを巻き込み、引き千切りながら徐々に腹の中へと埋没していく。鮮血が飛び散り、焼けた鉄を押し当てられたような熱さにガロードが首をのけぞらせて絶叫をあげた。
「ぐあああっ、がっ、があああ--っ、ぐがっ、がっ、ぐわああああああ--っ!!」
「やめてぇっ。ガロードが、死んじゃうっ」
 目の前で展開される光景の凄惨さに、ティファが悲鳴をあげ、身をよじる。だが、抱え込む男の腕の力は強く、いくらもがいた所で逃れられない。その間にも、ゆっくりとネジはガロードの体内へとめりこんで行く。少し力を込めて押し込めばあっさりと頭まで埋没させることも可能だろうに、男がわざとゆっくり動かしているのだ。
「うぎぃっ、ぎっ、がっ、ぐがああああっ。あががっ、ぐがっ、ぐがががががっ。ぐあああ--っ!」
 ガロードが激しく頭を振り立て、絶叫する。ネジの回転が腸へと穴を開け、巻き込んで行く。どくっ、どくっと鮮血をあふれさせ、びくんびくんとガロードの腹が波打った。
「あがががががががががっ、ぐがっ、ぎゃっ、ぎゃぎゃぎゃぎゃっ、うぎゃあああああ--っ!!」
 ネジが、ゆっくりと進む。絶え間ない絶叫をあげ、激しく頭を振り、手足をばたつかせて苦悶の踊りを踊るガロード。その様子を、げらげらと笑いながら男たちが眺めている。ティファの上げる悲痛な叫びと、ガロードの絶叫、そして電動ドリルの作動音がしばらく室内に響きつづける。
「あががががっ、ぐがはぁっ」
 どれくらいの時間がたっただろうか。ついにネジが頭までガロードの腹に埋め込まれた。それを待っていたかのように、ひときわ大きな悲鳴を放ち、白目を剥いてガロードが意識を失う。げらげら笑いながら男たちがガロードを小突くが、完全に失神していて目を覚ます気配はない。ひとしきりガロードを小突きまわすと、男たちは互いに肩をすくめて笑いあった。
「ようし、撤収だ。後は、この女を政府の連中に引き渡して、金を山分けと行こうぜ」
 ナイフの男が、陽気な声でそう言う。おおっと男たちが歓声を上げた。
「待って! ガロードに、手当を……! お願い、あのままじゃ、死んじゃう……!」
「ふん、こいつを、抜いて欲しいのかい? ま、なら、御望み通りにしてやるよ」
 ティファの叫びに、サングラスの男がガロードの腹にめりこんだ釘の頭をつまむ。そこから少し押し込むようにしながら上向きに傾けると、一気に釘を手前に引いた。
「グウギャアアアアアアァッ!!」
「ガロード!!」
 ガロードの絶叫、ティファの叫び。腹が縦に裂け、釘と一緒にガロードの内臓までもが腹から引きずり出される。今まで痛めつけられたせいであちこちに傷があったのが災いしたのか、腹の傷はかなり大きく広がった。内臓をあふれさせ、がはっ、がはっと口から血を吐きながらガロードが身体を痙攣させる。
「あ~あ、こりゃ駄目だな。手当したって助かりゃしねぇ。そら、いくぞっ」
「そんなっ……! 待って、お願い、ガロードを……!」
「手当したって助かりゃしねえって言ってんだろ? ほら、わがまま言ってないで行くぞっ」
「嫌っ、ガロード! ガロード!」
「ティ、ティファ……ごふっ」
 ぼろぼろと涙を流しながらティファがガロードに呼びかけ、僅かに顔を上げたガロードが何かを言おうとする。だが、その口から真っ赤な鮮血があふれ、彼の胸元を濡らした。死の痙攣が彼の身体を包み込む。全身をぼろぼろにされ、腹から内臓をあふれさせた無残な姿だ。
 男たちが次々と部屋から出て行く。なおもガロードの元へと駆け寄ろうとするティファを引きずりながらナイフの男が最後に部屋を出、扉を閉めるスイッチを押す。重々しい音を立てて左右から扉が閉まり、部屋の照明が消え、部屋の中は完全な闇に閉ざされた……。
TOPへ
この作品の感想は?: