鈴原みさきの受難


「お嬢様。資料が届きました」
 黒いスーツにサングラスの男が恭しくひざまずき、数枚の紙を差し出す。悠然と椅子に腰かけていた伊集院麗華は小さく頷いて黒服から紙を受け取った。高校生ぐらいなのだろうが、他人を使うのを当然と考えているような印象がある。
「鈴原みさき……天使(エンジェル)はヒカルね。新人でありながら、なみいる強豪を破って関東大会に優勝、か」
「今、一番注目されている操縦者(デウス)だそうです」
 麗華の呟きに、黒服がそう応じる。彼の言葉を聞いた途端、麗華は秀麗な容貌に怒気をひらめかせて手にした紙を黒服へと投げつけた。
「一番注目されるべきなのは、このワタクシです!」
「はっ……申し訳有りません、お嬢様」
「彼女が次に出る試合を調べなさい。身のほどを知らない愚か者に、分というものを教えてさし上げましょう」
 椅子から立ち上がり、黒服へと背を向けると麗華は傲然とそう呟いた。はっと短く答えて頭を下げる黒服の方には、視線すら向けようとはしない。
「くだらない玩具ですけれど……ワタクシは全てにおいて一番でなければならないのですものね」
 豪華な机の上に置かれた、女王を思わせる豪華なコスチュームをまとった自らの天使を見やり、麗華はそう呟いた。

 関東大会と全国大会との間に挟まれるような感じで開催される、エンジェリックレイヤーの公式大会会場。大きな大会の間に位置するだけに注目度は低い大会だが、まだエンジェリックレイヤーを始めて間もないみさきは経験をつむためにもこの大会に出ることにしていた。新人とはいえ、いや、新人だからこそというべきか、いきなり関東大会で優勝候補といわれた強豪たちを打ち破ったみさきの名は一躍知られるようになっており、彼女が出場するという噂が流れたせいか注目度の低い大会にもかかわらず例年と比べれば来客者の数はかなり多い。
 とはいえ、流石に関東大会などとは比べものにならないほどこじんまりとした大会会場の裏手に、大型のトレーナーが停車している。トレーナーの周囲には数人の黒服たちが見張りのように立っており、偶然その側を通りがかった人たちはぎょっとした表情を浮かべて回れ右をしていった。元々、それほど人が来るような場所でもない。
「なーっ、何これ!?」
 トレーナーの中、天井から鎖で吊り下げられたみさきが自分の置かれている状況が一瞬理解できなかったのかすっとんきょうな叫びを上げる。会場に向かう途中で不意に後ろから口を塞がれたかと思ったら意識が遠くなり、気がつけば宙吊りにされていたのだからそれも当然か。まぁ、宙吊りと言ってもそれほど高く吊られているわけではなく、足が数cmほど床から浮いている程度だが。服はすべて脱がされ、幼い膨らみやつるりとした股間があらわになっていた。羞恥心に頬を染め、みさきが身をよじる。
「お目覚めのようね、鈴原みさき」
 口元に嘲笑を浮かべ、麗華が吊るされたみさきの前に歩み出る。じろじろと値踏みするような視線を向けられて、みさきが僅かに身をよじった。
「な、何のようなん? あ、あなたは、誰……?」
「資料だと中学生になってたけど、小学生の間違いじゃないの? 見事につるんぺたんだけど」
 みさきの問いかけを無視して、麗華が傍らに控える黒服の方に視線を向けてそう問いかける。小学生呼ばわりされて、みさきがショックを受けたような表情を浮かべた。小柄なせいもあるのだろうが、小学生、それも三年生ぐらいに見られることがそれほど珍しくない彼女だ。しょぼんと、うつむいたみさきの方に視線を戻し、麗華が苦笑にも似た笑みを浮かべた。
「ま、あなたが中学生だろうが小学生だろうが、別にどうでもいいわ。あなたに言いたいのは一つだけ。この大会でワタクシにわざと負けてもらいたいのよ。ただでとは言わないわ。わざと負けてくれたら、あなたに百万円あげるわ。庶民にとっては大金でしょう? ワタクシにとってははした金ですけれど。お~ほっほっほっほ」
「わざと負ける……? いやや、そんなの、できへん!」
 高慢な高笑いと共に告げられた言葉に、みさきが拒絶の言葉を上げた。不満そうに眉をしかめ、麗華がみさきのことをにらみつける。
「人がせっかく穏便に話を進めてあげようとしているのに、断るの? 痛い目を見ないと自分の立場が分からないのかしら? もう一度だけ、チャンスを上げるわ。ワタクシに、負けなさい。いいわね?」
「嫌やったら、嫌や! 全力で戦って負けるんならともかく、最初から負けるつもりで戦うなんて、できへん!」
「ふぅん、そう? ……松原!」
 みさきの再度の拒絶の言葉に、明らかに不機嫌そうな表情になって麗華が傍らに控えていた黒服の名を呼ぶ。プロレスラーと言っても通用するような巨体を持つ黒服が、のそりと吊るされたみさきの前に歩み出た。流石に恐怖の表情を浮かべたみさきの腹へと、黒服が思いっきり拳を叩き込む。
「うぐっ! げほっ、げほげほげほっ」
「せっかく忠告してあげたのに、馬鹿な子ね。でも、もう分かったでしょう? ワタクシは優しいから、特別にもう一回聞いてあげる。わざと負けてくれるかしら?」
「けほっ、うっ、いやや……。わざと負けるなんて、絶対に嫌!」
 腹を強く殴られて、瞳に涙をにじませながらみさきが首を横に振る。ふっと短く息を吐いて、黒服が強烈なボディーブローを放った。宙吊りになったみさきの身体が後ろへとふっとび、鎖を鳴らしながら揺れる。げほげほっと激しく咳き込むみさきの前髪を掴んで黒服がもう一発、腹へとパンチを放つ。
「あぐっ、ぐっ、ごほっ……。うっ、ううぅ……なんで、こんなこと、するん?」
「決まってるでしょう? 関東大会で優勝したあなた、期待の新人と呼ばれているあなたを倒せば、ワタクシの名は一気に上がるわ。世間の注目は、ワタクシ一人に集まればいいの。その為には、あなたが邪魔なのよ」
「けほっ。だ、だったら、正々堂々と、戦えばいいでしょ。こんなことせんでも……ぐふっ」
 みさきの台詞を断ちきるように、黒服が彼女の腹へと拳を埋め込む。息を詰まらせ、激しく咳き込む彼女のことを馬鹿にするような目つきで麗華が眺めた。
「正々堂々? ふん、くだらない。こんな玩具の練習に、時間を裂くなんて馬鹿らしいとは思いませんの? まったく、こんな玩具のどこが面白いやら」
「くだらなくなんかない! みんな、一生懸命に頑張ってる。好きになれないんやったら、むりにやらんかて……あぐっ。げほっ、げほげほげほっ」
 反論の叫びを上げるみさきの腹へと黒服の拳が叩き込まれ、反動で前後に吊られた身体を揺らしながらみさきが激しく咳き込む。ふんっと小さく鼻を鳴らすと、麗華はみさきのことをにらみつけた。
「あなたの意見は、聞いていませんわ。あなたは、ワタクシに言われた通り、ワタクシの天使に負ければいいんです」
「絶対に、嫌や! 私はヒカルと約束したんやもん! 絶対にあきらめない、全力で頑張るって……がっ!」
 黒服の容赦ないボディーブローに、くの字に身体を折ってみさきが苦悶の声を上げる。胸の奥から吐き気が込み上げ、たまらずにみさきは少しだけ胃液を吐いてしまった。けほっ、けほっと咳込むみさきの髪を黒服が掴み、強引にあおむかせる。
「言い忘れてたけど、この松原はボクシングのヘビー級の日本ランカーよ。あなたみたいなお子様が何発も彼のパンチを受ければ、内臓が破裂しちゃうかもしれないわね。ふふっ、まさか殺すことまではしないだろうって、思ってる? 甘いわね。あんまり強情を張るようなら、本当に死んでもらうことになるわよ?」
「こ、殺す、て……!?」
「さあ、意地を張っても痛い目を見るだけ損よ。素直に、ワタクシに従いなさい! それが愚民の取るべき道というものです」
 命令することに慣れきった人間の、傲慢な口調で麗華がそう命令する。殺すだとか死ぬだとか、一般人の常識から外れた台詞に、みさきの表情に恐怖の色が浮かんだ。
「け、けど……」
「まだ逆らうというの!? いいわ、思い知らせてあげる。篠崎、榊!」
 ためらうようなみさきの呟きに、麗華が声を荒らげる。幼い頃から望むもの全てを与えられてきた彼女の辞書には、我慢するとか妥協するとかいう言葉は載っていないらしい。彼女に名を呼ばれた二人の黒服が、ついたてのようなものをみさきの背中に押し当て、自分の肩をその板に当てて動かないように固定する。背中をついたてで支えられた状態のみさきへと、強烈なボディブローが放たれた。
「がっ……! ぐふっ、あ、が、うぶっ」
 吊るされている状態では、身体が後ろに吹き飛ぶために衝撃がいくらか逃がされていた。しかし、ついたてに支えられた今の状態では衝撃の逃げ場がなく、全ての衝撃がみさきの身体に振りかかる。打たれた衝撃で呼吸を詰まらせたみさきは、胸の奥に熱い塊が生まれるのを感じた。喉元を灼熱感が駆け登り、息と一緒に真っ赤な血の塊が口からあふれる。
「お~ほっほっほっほっほ。無様ね。身のほどをわきまえず、このワタクシに逆らうからそういう目にあうのよ」
「うっ、げほっ、げほげほっ。うっ、ぷ……がっ!」
 口元を真っ赤に染め、咳き込むみさき。ついたてが外され、今度は胸へと拳が放たれた。幼い膨らみを貫通して、衝撃が肺を直撃する。目が眩むような激痛と共に、肺の中の空気がすべて押し出された。目を大きく見開き、口を金魚のようにぱくぱくと開け閉めして身悶える。
「こんな玩具に、何でそんなにこだわれるのかしらね。くだらない」
 壁際に置かれた台の上から、みさきの天使、ヒカルを取りあげて麗華がそう呟く。苦痛に涙を流しながら喘ぎ、身悶えていたみさきが、涙のせいでぼやけた視線を麗華の方に向けてはっと目を見開いた。
「ヒカルに、触らんで!」
「ワタクシに、命令するんじゃないの!」
「がっ、はっ……!」
 みさきの叫びに、麗華の叫びが交錯する。腹を打たれ、くぐもった叫びを放ってみさきが激しく咳き込んだ。口元から黒っぽい血があふれ、床の上に飛び散る。滴る血は彼女の胸元にも落ち、白い肌の上を伝ってつうっと流れていた。何度も殴られ、彼女の腹の辺りにはいくつもの青あざが出来ている。
「あなたは、ワタクシの命令に従えばいいの。ほら、返事は?」
「うっ、ぐっ、くうぅっ。い、嫌、や……がふっ」
 ヒカルの腕を掴んでだらんとぶら下げながら、麗華が問いかける。腹の辺りに鉛を詰め込まれたような重さと、焼けた鉄の棒で引っ掻きまわされているような熱さと痛みとを感じ、苦悶に表情を歪めながらみさきが弱々しく首を振った。彼女の返答に黒服の拳が腹へと叩き込まれ、みさきが身体をくの字に折って口から血の塊を吐き出す。
「さぁ、これでもまだ強情を張るのかしら?」
「うぶっ、あ、げほっ。いや、や……」
 くぐもった呻きを上げ、咳き込みながら身体をくねらせるみさきへと麗華が何度目かの問いを発するが、みさきの返答は変わらない。ここで頷いてしまったら、今まで自分がやってきたことを全部否定することになる。そう、悟っているのだろうか。呆れたように肩をすくめると、麗華は椅子に腰を降ろして足を組んだ。
「彼女の気が変わるまで、続けなさい」
「はっ……」
「うぐうぅっ! がっ、はっ、げほげほげほっ。うっ、うぅ……おぶっ!」
 麗華の指示に、黒服がサングラスの下に表情を隠して頷く。黒服の強烈なボディーブローに、吹き飛ばされるように揺れながら、みさきがくぐもった呻きと激しい咳、そして胃液や血を吐き出すということを繰り返す。ふわ~あ、と、麗華がそんな光景を眺めながら退屈そうにあくびをした。

「……お嬢様。そろそろ、開会式の時間ですが」
 一時間ほどの時間が過ぎた頃。腕時計に視線を走らせた黒服の一人が控え目な口調で麗華へとそう呼びかけた。軽く首を傾げながら、麗華がその黒服の方へと視線を向ける。
「あら、もうそんな時間? どうするの? あんまり意地を張るようだと、大会そのものに出場できなくなっちゃうけど。別にワタクシは、こんなくだらない大会に出れなくても困りはしないけど、あなたは出たいんじゃないの?」
「くだらなくなんか、ない……! うっ、うううぅっ」
 何十発とボディーブローを叩き込まれ、みさきの腹の辺りには一面に青あざが出来ている。ズキンズキンと全身を貫くような痛みに呻きつつ、それでも屈服しようとはしないみさきの姿に、麗華が苦笑を浮かべた。彼女が黒服のほうにちらりとめくばせをすると、小さく頷いて黒服が何十発目かの拳を放つ。
「おぐうぅっ! がはっ、うぶっ、あ、ううぅっ……」
 くぐもった悲鳴と共に血を吐き出し、びくっびくっと身体を痙攣させるみさきの姿に、黒服が振り返って麗華の方に視線を向ける。
「お嬢様、どうなさいます? これ以上続けると、本当に死んでしまいますが……」
「ふん。ワタクシに逆らうような愚か者の一人や二人、死んだところでどうということはないわ」
 不機嫌そうに鼻を鳴らし、左手で前髪をかきあげながら麗華がそう言い放つ。げふっげふっと咳き込みながら、みさきが口元から血を滴らせた。ぼろぼろになったみさきの方へと視線を向け、麗華が傲慢な笑みを口元に浮かべた。
「さあ、どうするの? ワタクシに従う? それとも、そのまま死ぬ?」
「約束、したんやもん。ヒカルと……ごふごふごふっ」
 台詞の途中で咳き込み、吐血するみさき。呆れたような表情を浮かべるとぽいっと麗華がヒカルを投げ捨てた。ごろごろっと床を転がるヒカルの姿に、みさきが目を見開く。
「ヒカル!」
「馬鹿じゃないの、あんた。ただの玩具でしょ、こんなの。約束? ふん、くだらない」
「やめてっ! ヒカルに、ひどいことせんといて!」
 みさきの叫びに、薄く口元に笑いを浮かべて麗華がヒカルを拾い上げた。ほっとしたような表情を浮かべたみさきが、身体の奥から走りぬける痛みにくううっと呻き声を上げる。薄く笑いを浮かべたまま、麗華は視線をみさきの背後の二人の黒服に向けた。
「アレの準備を。面白い余興を思いついたわ」
「は? はい、ただちに」
 麗華の言葉に一瞬怪訝そうな表情を浮かべた黒服たちだが、すぐに頷いて扉でしきられた隣の部屋へと移動する。少しの時間をおいて、彼らは薄い円盤状のプレートとそれとコードで繋がった機械を運んできた。プレートを、吊るされたみさきの下に置き、機械のスイッチを入れる。黒服から天使の操縦機を受け取った麗華が、ヒカルにコネクターを接続した。
「な、何を、するん……?」
 不安そうな表情を浮かべるみさきへと、ゴーグル越しの視線を向けて麗華が笑う。
「これがただの玩具に過ぎないって事、教えてあげるわ。……立ちなさい」
 麗華の言葉を受けて、プレートの上に置かれたヒカルがふらつきながら立ち上がった。目を見開くヒカルへと、麗華が嘲笑を浮かべる。
「今、この子の操縦者はワタクシよ。ワタクシの思う通りに、この子は動くの。ふふっ、随分とこの子にいれこんでたみたいだけど、所詮は玩具。誰にだって動かせるのよ」
「違う……! ヒカルは、私だけの天使やもん!」
「まだ分からないの? ふん、馬鹿は死ななきゃ治らないみたいね」
 麗華の言葉の間にも、黒服の手によってプレートの上に台が運ばれる。高さは、丁度、吊るされているみさきの腹の辺りだ。麗華の命令に従ってヒカルがジャンプし、台の上に飛びのろうとするのだが、うまく跳べずにがしゃんとプレートの上に落下した。ちっと舌打ちをして、麗華が黒服に指示を飛ばす。黒服の手によって台の上に立たされたヒカルへと、刃を出したカッターナイフが手渡される。両腕で抱え込むような体勢でカッターナイフを構え、よろめきながらヒカルはみさきの方へと向き直った。
「や、やめて、ヒカル……!」
「お~ほっほっほっほっほ。無駄ですわ。今のこの子は、ワタクシの思うがまま。さ、自分の信じていたモノに殺される気分は、どうです?」
「や、やだっ、やめてっ、ヒカルっ! キャアアアアアアアアァッ!」
 激しく首を振るみさきのへその上の辺りへと、体当たりをするような感じでヒカルがカッターナイフの刃を埋め込む。軽量型のヒカルはパワーが低いから、致命傷になるほど深くは突き刺さらない。だが、痛みはかなりのものだ。絶叫を上げるみさきのへそを、ぐぐぐっと体重をかけるようにして縦に切り裂いて、傷からカッターナイフをヒカルが引き抜く。縦に切り裂かれた傷口からあふれた血が、ヒカルの頭から足元までを真っ赤に濡らす。かはっ、かはっと苦しげな息を吐くみさきの腹に刻まれた傷へと、更に麗華はヒカルの両腕をかけさせた。左右に押し開くようにヒカルの腕が動き、傷を広げる。
「いっ、痛い痛い痛いっ! やめてっ、やめてヒカルっ! あああああああああぁっ!」
 みさきが悲鳴を上げ、激痛に身をよじる。その動きのせいで台からヒカルの足が離れるが、両手でしっかりと左右に割り開かれた肉を掴んでいるから落下はしない。ぶらんと傷にぶら下がる格好になったヒカルが肘を曲げて身体を引き上げ、どくどくと血をあふれさせるみさきの腹の傷へと上体を突っ込ませた。目を大きく見開き、絶叫するみさき。楽しげな笑いを浮かべながら、麗華がヒカルを操る。カッターナイフで切り開かれた傷からみさきの腹の中へと入り込んだヒカルが両腕でみさきの内臓--腸を抱え込んだ。にょきっとみさきの腹から生えているように見えるヒカルの足が動き、みさきの腹を蹴るようにして上体を引きずり出す。ヒカルに抱え込まれた腸が、その動きに合わせてずるずるっと縦に刻まれた傷から引っ張り出された。
「きゃああああああぁっ! アギッ、ギッ、ギャアアアアアアアアアァッ!!」
 完全に頭まで外に出てくると、重力に引かれて、ヒカルの身体が落下を始める。ヒカルの両腕はしっかりと腸を抱え込んだままだから、当然、ずるっずるっとみさきの腸も引っ張り出されていくことになる。激痛に絶叫を上げ、激しく身体をくねらせるみさき。だが、その動きがかえって引きずり出された腸にぶら下がるヒカルのことを振りまわし、腸をより早く引きずり出す結果になってしまう。
「ギイイィィッ! イダイッ、ギャッ、アッ! ヤメテッ、ヤメテェッ! ウアアアアアアアァッ!!」
「お~ほっほっほっほっほ。いい気味だこと。あなたがいけないのよ? 私の言うことを素直に聞いていれば、こんな目にはあわずに済んだのにねぇ」
 半狂乱になって泣きわめくみさきへと、高笑いを上げながら麗華がそんな言葉をなげかける。その言葉に答える余裕などどこにもなく、激しく身体をくねらせ、首を振り立てて絶叫していたみさきの口から、ごぶっと大量の血の塊が吐き出された。数度、何か言おうとしているかのように唇が震えるが、結局声にならないままがくっとみさきの首が折れた。ひくっひくっと断末魔の痙攣を見せるみさきへと侮蔑の視線を向け、麗華が操縦機を外す。
「ふん。死体の始末、任せるわよ」
 黒服へと一方的にそう命じると、麗華はそれっきり興味を失ったようにみさきへと背を向けた……。
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