モモレンジャーの受難


「くっ、うっ……」
 秘密戦隊ゴレンジャーの紅一点、モモレンジャーことペギー羽山は小さく呻きながら拘束された身体を懸命によじっていた。
 広い室内に居るのは、彼女だけだ。手術台を思わせる金属性の大きな台の上に、X字型に両手、両足を広げた形で拘束されている。衣服は脱がされていないが、これから何をされるのかという恐怖に彼女の額には汗が浮かんでいた。ちなみに、気絶している間に変身は解けていて、今の彼女はごく普通の私服姿だ。
「くっくっく、無駄なあがきはやめろ。貴様はもう、逃れることはできんのだ」
 しゅっと軽い音を立てて扉が開き、嘲笑と共に日輪仮面が数人の部下を引きつれて入ってくる。その名のとおり、頭は太陽の形をしている。滑稽といえば滑稽な姿の彼こそが、将軍と呼ばれる幹部の一人なのだ。
「わ、私をどうするつもり!?」
「ふん、くだらん質問だな。敵のメンバーを捕虜にした以上、やることは決まっているだろう?」
 小馬鹿にしたような口調でそう言うと、日輪仮面は先端が太陽の形をした杖をモモレンジャーへと突きつけた。
「しかし、誤算だったよ。わざわざ怪我までして張った罠の成果が、貴様一人とはな。予定では、貴様ら全員をあの世に送ってやるつもりだったが」
「ふん。私たちを甘く見るからよ。グッ!?」
 毅然とした態度で言い返したモモレンジャーが、日輪仮面の杖で顔を殴られて呻き声を上げる。唇を切ったのか、つぅっと赤い筋が口元から伸びた。
「えぇい、黙れ黙れっ。ゴレンジャーを一網打尽にする計画は失敗したが、貴様を捕らえた以上は問題などない。さしものゴレンジャーも、基地に大型ミサイルを打ち込まれればひとたまりもあるまい? さぁ、貴様たちの秘密基地はどこにあるのか白状するのだ」
「そんなこと、言うわけないでしょ!? 私から情報を引き出そうとしても無駄よ。さっさと殺すがいいわっ」
 ふいっと顔を背け、モモレンジャーがそう吐き捨てる。がんっとはらただしげに床を杖で叩くと、日輪仮面は背後にひかえる部下たちに命令を下した。
「こいつに思い知らせてやれっ。つまらん意地を張っても損をするだけだとなっ」
 日輪仮面の命令に、さっと敬礼すると部下たちがわらわらとモモレンジャーを拘束している手術台に群がる。部下たちの手が伸び、モモレンジャーが身にまとっている衣服をビリビリと引き裂く。羞恥と怒りで顔を真っ赤に染め、モモレンジャーが身をよじるが、両手首と両足首を太い金属製のベルトでしっかりと固定された今の状況では逃れられるはずもない。たちまちのうちに衣服はぼろ布と化し、裸に剥かれてしまう。
 モモレンジャーから衣服を剥ぎ取ってしまうと、部下たちが手術台の傍らに置かれていた機械から先端がワニ口クリップになったコードを引っ張り出す。ギザギザの付いた強力なクリップがモモレンジャーの乳首と秘所、更には最も敏感な部位であるクリトリスを挟み込む。
「つっ、うぅっ……」
 敏感な部位をクリップで挟まれ、モモレンジャーが苦痛の呻きを漏らして身体をよじる。血がにじむほど強力なクリップが五つ、それも女のもっとも敏感な部位へと付けられているのだからそれも当然だろう。むしろ、小さな呻きだけしか漏らさなかった精神力の方が賞賛に値する。
「さぁ、どうだ!? 素直に基地の場所を吐く気になったか!?」
「冗談じゃないわ。仲間を裏切るぐらいなら、死んだ方がましよ!」
 日輪仮面の問いかけに、毅然としてモモレンジャーが答える。がんっと床を杖で殴ると、日輪仮面はびゅっと機械に取りついている部下へと杖を向けた。
「やれっ!」
「キャアアアアアアアアアアアッ」
 部下が機械のレバーをがくんと倒した途端、甲高い悲鳴を上げてモモレンジャーが身体を弓なりにのけぞらせた。まるでブリッジをするかのように、高々と腰を突き上げ、ぶるぶるぶるっと小刻みに身体を痙攣させる。
「よし、やめっ」
 日輪仮面の言葉に、部下がレバーを元の位置に戻す。どさっと重い音を立ててモモレンジャーの身体が元に戻った。全身に汗が浮かび、半開きになった口からはよだれと荒い息が漏れている。
「どうかね? 電気ショックの味は。素直にしゃべりたくなってきただろう?」
「はぁ、はぁ、はぁ……。だ、誰が、しゃべるもんですかっ」
「ふん、強情な奴だ。やれいっ」
「ヒイイイイイイイイイィィッ!」
 再びレバーが倒され、モモレンジャーの全身を電流が走り抜ける。弓なりにのけぞり、モモレンジャーが甲高い絶叫を上げた。全身がバラバラになってしまいそうな衝撃と激痛に、脳裏が真っ白になる。
「やめっ」
「かっ、はっ。あぐ……ぅ。はぁ、はぁ、はぁ」
 モモレンジャーの全身が汗に濡れてヌラヌラと光る。時折痙攣するように身体を震わせながら、モモレンジャーは荒い息を吐いた。
「どうだ? これでもまだ、強情を張るのか?」
「こ、殺し、なさい……っ。わ、私は、何も、しゃべらない……わよ」
 朦朧となりながらも、弱々しく首を左右に振ってモモレンジャーがそう答える。ちっと舌打ちをすると日輪仮面はぶんっと杖を振るった。
「出力上昇!」
 日輪仮面の命令に、敬礼を返すと機械に取りついていた部下がつまみを回す。部下が再び自分の方に視線を向けてきたのを確認すると、日輪仮面は杖を振り降ろした。
「始めろっ」
「ギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!」
 三度弓なりにのけぞり、モモレンジャーが凄絶な絶叫を上げる。これ以上ないというほど高々と腰を突き上げ、ぶるぶると全身を痙攣させながらモモレンジャーは悲鳴を上げつづけた。彼女の手首と足首を拘束しているのは、伸縮性のある皮のベルトではなく、頑丈な金属ベルトだ。手術台に密着するように固定された状況で激しく身体をのけぞらせたせいで、手首と足首でゴキッ、ベキィッと骨の砕ける嫌な音が響いた。
「やめっ」
「ヒギ……ッ。ヒッ、イィッ。あ、あぐぅ……っ」
 どさりと重い音を立ててモモレンジャーの身体が手術台の上に落ちる。半分失神してしまっているのか、うつろな視線を宙にさまよわせるモモレンジャー。その顔先へと、日輪仮面が杖を突きつけた。
「さぁ、言えっ。貴様たちの秘密基地はどこにあるのだ!?」
「しゃ、べるはず、ないでしょ……。こ、殺し、なさいよ……」
 日輪仮面の問いに、切れ切れにモモレンジャーが答えを返す。半分うわごとのようなモモレンジャーの答えに、日輪仮面が苛ただしげに杖を振りまわした。
「パターンBだ。やれっ」
 日輪仮面の指示を受け、機械に取りついていた部下ががちゃがちゃと側面のレバーを操作する。彼が通電用のレバーを引くと、びくんっとモモレンジャーが身体を震わせた。
「あっ、あっ、ああーーーっ。ひっ、ぎっ、あぁっ。ひぎゃっ、うぅっ、くううぅぅ……っ」
 苦しげに呻きながら、モモレンジャーが身体をのたうたせる。五つのクリップすべてに微弱な電流が流され、更にランダムに選ばれた二つがさっきまで浴びていたような強烈な電流を走らせる。微弱な電流とはいえ筋肉が引きつるような痛みと不快感が有るし、強烈なショックの方はいつ、どこにショックが来るかがまったく予想できない。衝撃に対して身構えることも出来ずにモモレンジャーが悲鳴を上げ、くねくねと身体をくねらせる。
「痛いか? 苦しいか? 素直に基地の場所を白状すれば、その苦痛から逃れられるのだぞ?」
「うあぁっ、あっ、あっ、あああーーっ。こ、殺し、なさいっ。ひいっ、ぎゃっ、うあああっ。殺しな、さいよっ。きいぃぃ、ひっ、ひいっ、ぎゃうっ。殺し、うああぁっ、あっ、ああああっ」
 びくんびくんと身体を震わせ、身悶えながらもモモレンジャーはひたすらに殺せとだけ答える。何度も電流を流された秘所や乳首からうっすらと白煙が立ち上り、微かに肉の焦げる臭いが漂う。
「えぇいっ、強情な奴だ。パターンA、最大出力! ……何をもたもたしているっ、さっさとやれっ」
 最大出力、との命令に一瞬躊躇を示した部下を怒鳴りつけ、日輪仮面がぶんぶんと杖を振りまわす。慌てて機械上面のつまみを最大値まで回すと、部下は側面のレバーをがちゃがちゃがちゃっと動かした。
「--! ----っ! --ぃ--ぅ--ぁっ!!」
 バリバリバリっと放電する音が響き、モモレンジャーの身体の表面を青白い火花が走りまわる。これ以上ないというほど大きく目と口を開き、モモレンジャーは身体を弓なりに硬直させた。絶叫が喉の奥で弾け、声にならない悲鳴を上げながら身体を小刻みに痙攣させる。顎が外れんばかりに開かれた口から、悲鳴や絶叫の代わりというわけでもないのだろうが、ぶくぶくぶくっと白い泡があふれた。
「日輪仮面様っ、これ以上は……!」
 次から次へと泡を吹き出しつづけるモモレンジャーの姿に、部下の一人がたまりかねたようにそう叫ぶ。ちいっと舌打ちをすると日輪仮面は杖を振った。
「よしっ、やめっ」
 がくんとレバーが戻され、放電が止まる。大量の泡で顔の下半分を埋め、モモレンジャーは完全に白目を剥いて気絶していた……。

「うっ……ううう……」
 荒涼とした荒れ地の真ん中に、一本の十字架が立てられている。全裸のままそこにはりつけにされているのは、言わずと知れたモモレンジャーだ。あれから更に拷問を受けたのか、白い肌の上には鞭や焼きゴテの跡が縦横に走っている。
「まったく、強情な奴だ。あれだけ責められても口を割らんとはな。まぁ、いい。イーグルの支部に貴様を公開処刑すると言う情報を流しておいた。貴様を助けにきたところを、一網打尽にしてくれるわ」
「わ、私たちは、決して負けたりしない……あなたたちの計画は、絶対に阻止してみせるわ」
 日輪仮面の言葉に、苦痛に表情を歪めながらもモモレンジャーが気丈にそう言い放つ。ふんと鼻を鳴らすと、日輪仮面は背後に控える部下たちの方を振り返った。
「準備をしろっ」
 日輪仮面の命令に、部下たちがモモレンジャーの元へと駆け寄る。彼らが手に握っているのは……ダイナマイトだ。
「なっ、何を……!?」
 動揺の声を上げるモモレンジャーの腹へと、全部で五本のダイナマイトが括りつけられる。そこから伸びた導火線は一つにまとめられ、別のもっと長い導火線へと結び付けられた。モモレンジャーを張りつけにしている十字架台の周囲へと、螺旋を描くようにして長い導火線が置かれる。
「せいぜい、死の恐怖を味わってくれ。刻一刻と自分の死ぬ瞬間が近づいてくるのを、その目で見ながら死んでいくがよいわ」
 楽しそうにそう言うと、日輪仮面が手にした杖の先端を導火線の先端へと押し当てる。しゅっと軽い音を立てて導火線に火が付いた。
「あっ……ああぁっ」
 十字架にはりつけにされた身体をよじり、モモレンジャーが恐怖の表情を浮かべる。しゅうしゅうと微かな音を立て、ゆっくりと、だが確実に導火線が燃えていく。
「くくく……ダイナマイトに火が付けば、貴様は木端微塵だ」
「うっ……ううぅっ」
 全身に油汗を浮かべ、何とか逃れようとモモレンジャーが身体をよじる。骨の砕けた手首と足首に激痛が走り、苦痛に表情が歪む。もちろん、もがいた程度で厳重な拘束が緩むはずもない。
 螺旋を描いた導火線が、うっすらと煙を上げて燃えていく。恐怖に目を閉じても、しゅうしゅうという燃える音が耳に入り、なまじ見えないだけに恐怖感を増す。じわじわと自分が死ぬ瞬間が近づいてくるのを実感するというのは、常人であればそれだけで発狂しかねないだけの恐怖だ。
「いっ、嫌ぁ……!」
 悲鳴を漏らし、全身を汗でびっしょりと濡らしてモモレンジャーが身をよじる。哀れな犠牲者がもがく姿を、日輪仮面は楽しそうに眺めていた。
「くっくっく……泣け、わめけっ。じわじわと迫る死の恐怖に、怯えながら死んでいけっ」
「うっ、ううぅ……っ」
 唇を噛み締め、小さく呻きながらモモレンジャーが目を閉じた。恐怖に大きく肩を喘がせ、頭を小さく左右に振る。しゅうしゅうという音が、ゆっくりと、だが確実に大きく、近くなっていくのを、気が狂いそうな思いで聞いているしかない。
(助けて……!)
 心の中で、モモレンジャーがそう叫んだ瞬間。何っ! と、日輪仮面が動揺の声を上げた。
 はっと目を見開いたモモレンジャーの視界に、緑色のブーメランが地面に突き刺さっているのが見えた。ブーメランによって断ち切られ、導火線は消えている。
「ゴレンジャー!」
「そこまでだっ、日輪仮面! モモレンジャーは返してもらうぞっ!」
「えぇいっ、飛んで火に入る夏の虫よっ。返り討ちにしてくれるわっ」
 アカレンジャーと日輪仮面のやりとりを耳にしながら、緊張の糸が切れたモモレンジャーの意識は闇に落ちていった。

  その後、救出されたモモレンジャーは仲間と共に戦いつづけ、黒十字軍を壊滅させることになるのだが、それはまた、別の物語である……。
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