リップの受難


「こら~っ、何するんだよっ。はなせぇ~~」
 手術台を思わせる腰の高さほどの台の上に大の字に拘束され、きらめきマン一号ことリップが叫ぶ。スーツとヘルメットは身に付けたままの拘束で、裸に剥かれていないのがまだ救いといえば救いだろうか。天井に設置されたライトの強い光に目を射られ、まぶしげにヘルメットの下の目を細めている。
「人権侵害だ~っ、警察の横暴だ~~っ」
 そう、彼女を捕らえているのは悪の組織ではなく、れっきとした警察である。もっとも、『花の刑事トリオ』を自称するこの三人組をれっきとした警察官と呼んでいいのかどうかは少し疑問だが。
 大体、彼らに捕まったのは失敗のせいではない。三人組の背後に潜む黒幕、その正体を突きとめるためにわざと捕まったのだ。取り調べを受ける中で逆に誘導し、相手に黒幕のことをしゃべらせようという計画だったのだ。
 それなのにそれなのに。子供が鳥を捕まえるような間抜けな罠にひっかかるなどというプライドを押し殺しすようなことまでしたのに、リップが連れ込まれたのは警察の留置所ではなく怪しげなこの施設だった。おまけに二号とも引きはなされ、孤立無援の状態である。
「ふふん、今までアタシたちを散々苦労させてくれたんだ、ちょっとは意趣返しをさせてもらっても罰は当たらないだろう? 心配しなくても殺しゃしないよ。明日の朝にはちゃーんと解放したげるから、ま、観念するんだね」
 リップの顔を覗き込みながら、ルージュが笑う。ぎりっと奥歯を噛み締めてリップが叫び返した。
「それでも警官か~っ。鬼! 悪魔! 年増!」
「と、とと、年増だってぇ~~!?」
 両拳を握り、きぃーっとルージュが叫ぶ。ぶるぶると拳を震わせながら、ルージュはリップを挟んで反対側に居るピエールへと叫んだ。
「ピエール! こいつに、思いしらせてやんなっ」
「はいはいはい。準備は万端、お任せあれ」
 揉み手をしながらピエールがそう答え、きらりと光を反射するナイフを取り出した。その反射光に、リップがぎくりと身体をすくめる。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっとぉ。そ、それでボクに何するつもりなわけ?」
「むふふふふ。はーい、動かないでくださいねぇ。動くと怪我しちゃいますよぉ」
 リップの腹へとナイフが当てられ、すうっと下に動く。スーツを二つのふくらみの下から股間近くまですっぱりと切り裂かれ、きゃあっっとリップが悲鳴を上げた。
「や、やめろーっ、変態っ、すけべっ、変質者っ」
「なっ、何を言うんだっ。女子校生に大人気のこのピエールをつかまえて変質者だなんて……」
「ピエール! いいからさっさとやぁっておしまいっ」
 思わずたじろいだピエールをルージュが叱咤する。そうそうと言わんばかりにその横でオンドレも頷いていた。ふむと気を取り直してピエールがリップを拘束してある台の側面に手を伸ばす。
「それでは、ぽちっとな」
「わっ、わっ、わぁっ。なになになに~!?」
 ぐーんと、台の左右からマジックハンドが伸びる。切れ込みの入ったスーツにマジックハンドの指がかかり、ぐいっと左右に切れ込みを広げる。若さにはちきれんばかりにみずみずしい滑らかな白い肌と、腹部の中心の辺りにつつましやかに走るへそとがあらわになった。
「ちょ、ちょっとちょっとぉっ。な、何するつもり!?」
「目立つ場所に傷を付けるわけにはいかないからねぇ。ほらほらピエール。さっさとやっちまいな」
 ルージュの言葉に、ピエールが別のボタンを押す。息をつめてリップが見守る中、更に三本のマジックハンドが台から現れた。こちらは、最初の二本に比べるとかなり細い。特に先端のものを掴む部分は、指というよりもピンセットといった感じになっている。
「ひっ……やだやだやだぁっ」
 顔を左右に振って僅かばかりの抵抗を見せるリップ。そんな彼女のへそへとピンセットが伸びた。左右からへそをつまみ、引き伸ばす。ひっと小さくリップが悲鳴を上げた。
「あぁ~ん、痛いっ、痛いってばっ。やめてぇ~」
「ちゃんと掃除してるかい? 見てあげようじゃないか」
 そう言いながら、ルージュが左右に広げられたリップのへそへと人差し指を突っ込む。ぐりぐりぐりっとルージュの指が動くと、その度にびくんびくんとリップの身体が震えた。
「やぁだぁっ、痛いっ、痛いってばっ。やめてよ~~っ」
 へそというのは、これで意外と急所だ。普段触れられることのない場所でも有るし、内臓との間の肉も薄くてちょっとした刺激でもすぐに内臓に影響するから、防衛機構として刺激には敏感になっているのだ。
 かりっ、かりっと、ルージュの爪がリップのへその内側を引っ掻く。ひぐっ、ひぐっと引きつった悲鳴をあげ、リップが拘束された身体をのたうたせた。マスクの下で目から涙がこぼれ、頬を伝う。
「ボ、ボクが何をしたってゆうのさ~。やめてぇっ」
「おやおや、泥棒が何を言うんだか。犯罪者がお仕置きされるのは当然だろう?」
 リップの悲鳴に楽しそうにルージュが笑う。真っ赤な蝋燭に火をともしたものを手にしたオンドレがつんつんっとルージュの背中をつついた。
「準備できましたぜ、ルージュ様」
「よーし、それじゃ、第二段階行ってみよーか」
「な、何するつもり!? やっ、やだぁっ」
 ルージュの明るい声に、首を捻じ曲げたリップが燃える蝋燭を見て悲鳴を上げる。ぐんっと更にへそが左右に広げられ、そこに真っ赤な蝋が滴らされた。
「きゃああああっ。熱いっ、熱いよぉっ」
 びくんっと身体を跳ねさせ、リップが悲鳴を上げる。たらーりたらりと蝋が滴り、リップのへそとその周辺を埋めていく。腹部を貫かれたような熱さと痛みに、リップが悲鳴を上げて頭を激しく左右に振った。
「熱いぃ~っ、やだっ、やだやだやだぁっ。きゃああああっ」
 やがて、こんもりと赤い蝋がリップのへその辺りに山を作る。ひぐっ、ひぐっとすすり上げているリップを小気味よさそうに見下ろし、ルージュが高笑いを上げた。
「ざまぁないわね、きらめきマン。今までの私たちの恨み、思いしったかい?」
「う、ううぅ~~」
 マスクに覆われた顔を屈辱と苦痛に歪め、リップが小さく呻く。ふふんと鼻で笑うと、ルージュが指を伸ばして固まった蝋を掻き落とした。ひんやりとした外気に触れたへその内側を、再び爪の先端で引っ掻く。
「痛いっ。痛いってばぁっ。もう許して~」
「んーふっふっふ、まだまだですよ、ルージュ様。ピエール特製ヘソ拷問機はまだまだこんなもんじゃあありませんからねぇ。ぽちっとなっと」
 年齢相応の可愛い悲鳴を上げるリップの姿に笑いながら、ピエールがボタンを押す。さっき伸びた三本のピンセットハンドのうち、使われていなかった最後の一つがぐぅんっと動き始めた。引っ込められたルージュの指と入れ違いになるように、広げられたリップのへその中へと潜り込んでいく。
「やっ、やだっ、何!? これ以上ボクに酷いことする気なの!?」
 不安と恐怖を含んだリップの悲鳴。低い作動音を立てながらピンセットがへその中に潜り込み、一番奥の皮をつまむ。びくんと首をのけぞらし、リップが悲鳴を上げた。
「痛いっ、痛い痛い痛いってばぁっ。ちぎれちゃうぅっ」
 へそを左右に広げられ、奥の部分を引き出される。まさかそんなことをされるとは夢にも思っていなかったリップが、錯乱気味の悲鳴を上げた。ばたばたと身体を暴れさせるが、手首と足首をしっかりと拘束された状態では何の意味もない。
「おーほっほっほっほ。泣け、わめけ、苦しめぇ~」
「ル、ルージュ様、押さえて押さえて。それじゃ悪の女首領ですよ」
 リップの苦悶する姿にルージュが高笑いを上げ、流石にまずいと思ったのかピエールが突っ込みを入れる。むぐっと言葉に詰まったルージュは、それをごまかすようにオンドレの方を振り返った。
「オンドレ、やぁっておしまい」
「へいへい」
 一瞬ピエールを顔を見合わせ、軽く肩をすくめるとオンドレはなみなみと溜まった真っ赤な蝋をリップのへそへと滴らせた。ひいいぃぃっと甲高い悲鳴を上げてリップが身体を弓なりにそらせる。弓なりにそらせた身体を数度ぶるぶるっと痙攣させ、がっくりと脱力すると顔を横に向けてリップはすすり泣いた。
「な、何で、ボクがこんな目に……?」
「はーい、注目注目。それじゃ今日のクライマックス、三回転半ひねり、いっちゃいましょーか」
 うつろな呟きを漏らすリップ。片手を上げ、ひらひらっと振って注目を集めるしぐさをしながらピエールが対照的に明るい声を上げた。おおーっというルージュ、オンドレ両名の声が唱和し、マスクの下でリップが大きく目を見開く。
「やっ、やめてっ。ボ、ボク、もう耐えられないよぉ……」
「むっふっふ、それ、ぽちっとな」
 ドクロのマークが描かれた、一回り大きなボタンをピエールが押す。リップのへそをつまんでいる三本のピンセットハンドが、ぐるっぐるっぐるっとゆっくりと回転を始めた。
「ひぎっ、ぎゃああああっ、痛いっ、ちぎれっ、ちゃうぅ……っ。きゃあああああああっ、あっ、あっ、やあああああああっ」
 これ以上はないというほど大きく目を見開き、リップが絶叫を上げる。引き伸ばされたへその肉と皮がピンセットに巻き取られ、更に引っ張られる。激痛が腹で弾け、その痛みに身体を震わせれば限界まで引き伸ばされた皮と肉が引っ張られて更なる激痛を生む。
「ひぎっ、ひぎいぃっ。死ぬっ、ボク、死んじゃうぅっ。きゃああああああっ」
 追い打ちをかけるように、鮮血のように真っ赤な蝋がへそに滴らされる。大きく目を見開き、口からよだれを飛ばしながらリップが身悶える。がくがくと全身が震え、絶叫が口からあふれ出す。
「んー、マスクが邪魔だねぇ」
 激しく頭を振るリップのマスクを、そう呟きながらルージュが外した。涙でべちょべちょになったリップの素顔を覗き込み、ルージュが笑う。
「へぇ、なかなか可愛い顔してるじゃないか。こんな小娘が快盗とはねぇ」
「ひぐっ、ひぐっ……許し、て……ボク、もうヤダァ……」
 回転が止まり、激痛が増すことはなくなった。それでも十分以上に強い激痛に責め苛まれながら、弱々しい嗚咽をリップは漏らしていた……。
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