ロランの受難


「一体何だってんですか! ハリィ中尉。いきなり逮捕だなんて……」
 両腕を掴まれ、つれてこられたロランにハリィはゴーグル越しに冷ややかな視線を向けた。
「残念だよ、ロラン・セアック君。私は君にも同じムーン・レイスとしての誇りがあるものと思っていたのだが」
「ボクが何かしましたか!? こんな横暴、許されるはずが……」
「横暴なのはそちらのほうだ!」
 ロランの言葉をハリィの叫びが遮る。思わず口をつぐんだロランにむけ、ハリィは彼にしては珍しく語調を荒らげた。
「我々の誠意に対し、先に卑劣な策略を以て応じたのは君達ミリシャだ! あろうことかディアナ様を誘拐し、替え玉を送り込むとは……許しがたい!」
「誘拐……? 替え玉……?」
 呆然としたようにロランが鸚鵡返しに呟く。彼にとってもその言葉は予想外の言葉だったのだが、ハリィの目にはとぼけているように映ったらしい。
「君が知らないはずはないだろう? 何しろディアナ様の替え玉となったのはキエル嬢なのだからな。しかも彼女の言葉によれば例のヒゲのパイロット、ローラというのは君のことだそうじゃないか」
「それは……本当です。でもボクは、別にディアナ・カウンターに敵対するつもりはありません。ただ、皆が共存できればいいと思って……!」
「共存か。確かに、それができればそれに越したことはない。そして我々はそのために十分な誠意をもって行動してきた。だが、それに対して君達はどう答えた? ディアナ様を誘拐し、替え玉としてキエル嬢を送り込み、自分たちに都合のよいように事態を動かそうとしたのではないのか!?」
 ハリィの言葉に、ロランはギュッと唇を噛み締めた。
「ボクは、そんな話は聞かされていません! だいたい、ディアナ様を誘拐するなんて不可能じゃないですか。あんな厳重な警備を、どうやってくぐり抜けるっていうんです!?」
 ロランの反論に、今まで壁に背中を預けていたコレンが壁から背を離すとロランの前に立った。ニヤリと唇を笑みの形に歪めると何の前触れもなくロランの腹へと拳を打ち込む。
「ぐふっ!?」
「いいか、坊主。質問してるのは俺たちだ。自分の立場をよーくわきまえて、聞かれたことの答えだけをおとなしーく喋ってりゃいいんだ。分かったか?」
「げほっ、げほげほ」
 まともにみぞおちを突かれ、咳き込むロランにハリィが穏やかな声を掛ける。
「我々としても、あまり野蛮な行動は取りたくはない。だが、事が事だけに手段は選べんということも理解してもらおう。みたまえ」
 ハリィの言葉に、壁のモニターに光が点る。涙の滲む目をモニターへと向けたロランがはっと身体を強張らせた。
「キエルお嬢様!? 何て酷いことを……」
「気候や風土のせいか、それともたまたま体質的なものなのか、彼女には我々の使う自白剤が効かなかったものでね。私としては女性を虐待するのは好まないのだが、やむを得なかった。君があくまでも強情をはるというのであれば、君にもあれと同じかもっと酷い目にあってもらうことになる」
 モニターに映るキエルは、まさに満身創痍というのが相応しい状態だった。衣服は辛うじて腰の辺りを覆うだけのボロ布と化し、全身には縦横に赤い裂傷と火傷の跡が刻み込まれている。両手首は壁の鎖につながれ、万歳をするような形になっていた。意識はないのか顔はぐったりと伏せられている。
「どうして……どうしてあんな酷いことができるんです!?」
「無論、ディアナ様を救出するためだ。もっとも、流石にこんな危険な任務に就くだけのことはあって彼女も強情でね。かなりの時間と労力を費やして得られた物はさほど多くはない。時間を掛け過ぎればディアナ様の身に危険が及ぶやもしれん」
「だーから、てめえを連れてきたってわけさ。へっへっへ、喋るなら今のうちだぜぇ?」
 コレンの言葉に、きっとロランが彼のことを睨み付ける。
「あなたが、キエルお嬢様を?」
「ん? ああ、そーだよ。それがどうかしたか?」
「許さない……絶対に」
 ロランの言葉に、ひゅーとコレンが口笛を吹く。
「流石はガンダムのパイロット。そうこなくっちゃ俺としても張り合いがないってもんだぜ。ハリィ中尉、こりゃ、素直に口を割りそうもありませんなぁ?」
「……やむをえまい。コレン軍曹に任せる。だが、殺すなよ?」
「わーってますって」
 ぺろりと唇を舐めるとコレンは楽しそうに笑った。

「いーい格好だなぁ、坊主」
 腰ぐらいの高さの台に大の字に拘束されたロランを見下ろし、コレンが楽しそうに笑う。衣服も全て剥ぎ取られ、一糸まとわぬ姿にされたロランが毅然とした態度を崩さずにコレンのことを睨み返した。
「んー、いい目だよ。楽しみ楽しみ」
 両掌をもみ合わせると、コレンはまず台座から短い棒状の器具を取り上げた。先端は蠅叩きのように少し広がっており、握りの部分にはボタンが一つ付いている。
「まずは神経鞭で小手調べっと・」
 先端をロランの胸に当てるとコレンがボタンを押す。瞬間、ビクビクっとロランの身体が跳ねた。
「う、うわあぁぁっ」
「へへっ、効くだろう? こいつぁよ」
 ボタンから指を離し、コレンがロランの顔を覗き込む。ビッショリと額に汗を浮かべたロランへとコレンは楽しそうに笑いかけた。
「喋る気になったら言ってくれよな。さぁて、お次はどこにしよおかなっと」
 ぴたぴたと鞭の先端でロランの身体のあちこちを叩きながらコレンが台詞に奇妙な節を付ける。先端が身体に触れる度に身構えるように身体を硬くするロラン。
「よいしょっとぉ」
「あああああ、ああっ」
 二の腕の辺りに先端を当ててコレンがボタンを押す。痛みとも衝撃ともつかないものが全身を走り、ロランの口から叫びが上がった。
「んー、いい声だねぇ。あのお嬢ちゃんの声もなかなかだったけどなぁ」
「う、くっ……」
「さーて、それじゃ、次はここかなぁ?」
 コレンが鞭の先をロランの股間に当てる。四肢を拘束されているロランには逃れる術はない。彼の瞳に恐怖の色が浮かんだ。
「や、やめ……!!!」
 三度コレンがボタンを押す。声にならない悲鳴を上げてロランが身体をのけ反らせた。四肢を拘束している革のベルトがギシギシと軋んだ音を立てる。これ以上ないと言うほど目は大きく見開かれ、絶叫する形に開いた口からは声の変わりに白い泡が飛び散る。
 コレンが神経鞭をロランの股間から離す。糸の切れた操り人形のようにぐったりとしたロランが顔を横に向け虚ろな視線をさ迷わせる。半開きになった唇からは涎が細い糸を引いていた。
「おいおい、まだまだ夜は長いんだぜ? この程度で気絶しないでくれよなぁ」
 ぶちぶちと文句を言いながらコレンがバケツに水を汲み、ロランへとぶっかける。ロランの口から掠れた呻きが漏れ、目に焦点が戻ってくる。
「う、あ…あ……」

「さーて、お次はこの俺の筋肉美を見てもらいましょーか」
 むんっとボディビルダーのようにポーズを決めるコレン。盛り上がった力こぶがピクピクと動く。
「凄いだろう? 力だって並じゃないんだぜ?」
 そう言いつつコレンはポケットからクルミを取り出した。人差し指と親指の二本でそれを挟んでロランの顔の前に持っていく。
「いいか? よーく見てろよ?」
 コレンが指に力を込める。ぱきっと呆気ないほど簡単にクルミが割れた。
「と、まぁ、こんなもんだ。それじゃ、次は坊やの金玉を潰させてもらおうか」
「や、やめろ! 僕はディアナ様とキエルお嬢様が入れ替わってたなんて知らなかったんだ! 本当だってば!」
「やーれやれ。強情だねぇ、後悔するぜ?」
 口ではそう言いつつも楽しそうな笑いを浮かべてコレンがロランの下半身のほうへと移動する。右手の人差し指と親指でロランの玉を挟むと嬲るように動かす。
「い、痛い! やめ、あ、ぎっ、痛いってば。本当に何も知らないんだ!」
 コレンが指を少し動かす度に脳天へと激痛が突き抜ける。あまりの痛みに意識が半ば朦朧としてきた。
「ま、二つあるしねぇ。片っぽなくなっても困りゃしないか。そーらよっ」
「$×#&*+!! ×@#$%!!」
 意味を成さない、叫びとも肺から空気が押し出されただけともつかない声がロランの口から溢れだす。意識が真っ白に染まるが、意識を失いそうになると痛みのあまり逆に意識がはっきりする。気絶することも許されず、全身を痛みという感覚のみに支配されたロランが皮ベルトを引き千切らんばかりに全身を激しくのたうたせた。
 数十秒か、あるいは数分か。感覚的には永遠にも思えた時間が過ぎ、やっとロランは悶絶した。だが、すぐに容赦なくコレンに水を掛けられ意識を取り戻してしまう。チカチカと目の前に火花が散っていた。
「さーて、これでてめえは半分男じゃなくなっちまったわけだ。もともと女っぽい奴だったわけだし、かえって都合がいいんじゃねえか? ぎゃはははは」
「う……う……う……ぅ……」
「ほら、何とか言えよ。俺だって暇なわけじゃないんだしよ。てめえが素直にディアナ様をどこにやったか喋ってくれれば、すーぐに楽にしてやるぜ?」
「し、知ら……ない……本…当に……」
 とぎれとぎれに掠れた声で訴えるロラン。軽く肩をすくめるとコレンはもう一つの玉を指で挟んだ。
「しゃーねーなー。中途半端なことは言わず、完璧な女になってみるか? ええ?」
「や、やめて……お願い……します」
「なら話せよ」
「本当に……知らないんです。知ってたら、もうとっくに……」
「よーし、いい度胸だ。そーらよっ」
 ぐしゃりと、容赦なくコレンがロランの睾丸を挟み潰す。獣じみたといったら獣のほうが気分を悪くしそうな濁った悲鳴が室内を満たした。断末魔の悲鳴にも似た叫びを延々と上げ続け、力尽きたようにがくっとロランが気絶する。今度もコレンが水を掛けるが、ロランは僅かに瞼を動かしただけで意識を取り戻す様子はない。
「ありゃりゃ、ちょいとやり過ぎちまったかな。ま、いいか」
 軽く肩をすくめるとコレンはそう呟いた。

「う……うう」
 小さく呻いてロランが顔を上げる。いつのまにか、彼が拘束されていた台が立てられていた。彼のちょうど正面に当る部分にかなり大きめのモニターがある。ロランが意識を取り戻したのを見てコレンがニヤっと笑った。
「やぁっとお目覚めかい。待ちくたびれちまったぜ」
「う……う」
「痛くて声も出せないってか? ま、いいぜ。しばらくは映画観賞を楽しもうや」
「映画……観賞?」
「出来たてほやほやの新作だぜ。実は俺もまだ見てないんだがよ」
 そう言いつつコレンがモニターのスイッチを入れる。モニターにキエルが大映しになったのを見てロランが息を飲んだ。
「まさか……キエルお嬢様にこれ以上酷いことを……?」
「ま、しゃーねーわな。お前さんが素直に全部喋ってくれりゃあこんなことしないで済んだんだがねぇ」
 画面の外から飛んできた鞭が、キエルの肌に新たな紅い線を走らせる。ぎゅっと下唇を噛み締めて苦痛に耐えるキエル。二度、三度と鞭は振るわれ、既に無数の傷が刻みつけられた肌が裂けて真紅に染まる。やがて悲鳴を殺し切れなくなったのかキエルの口が大きく開かれた。
「何だぁ? マイクが死んでんじゃねぇか。サイレント映画じゃあるまいし……」
 少し不満そうにコレンがそう呟いた。彼の言葉の通り、鞭が肌を打つ音、キエルの悲鳴などは一切入っていない。ただ、それだけに、無音のまま苦痛に不自由な身体を揺らすキエルの姿は凄惨だった。
 やがて鞭が止り、かわって真っ赤に焼けた鉄の棒が画面に現われる。恐怖に表情をひきつらせるキエル。嬲るようにゆっくりと彼女へと近付いていく鉄の棒。思わず目を閉じたロランのまぶたをコレンがぐいっと開かせた。
「おいおい、音なしなんだからしっかり見なきゃ駄目だろーがよ。お前のせいであいつは酷いめになってんだぜ?」
 棒がキエルの肌に触れた途端、微かに白煙が上った。絶叫の形に口をあけ、キエルが身体を波うたせる。ぐりぐりと押しつけるように棒が動かされ、壁から延びてキエルの手首を捕えている二本の鎖が激しく揺れた。
 棒が画面から消えると、再び鞭が振るわれる。おそらくはその間に棒を熱っしなおしているのだろう。またしばらくすると焼けた鉄の棒がキエルの身体へと押し当てられ、新しい火傷をつくった。
「さーて、ま、この辺にしとくか」
 更に数度、同じことが繰り返され、キエルががっくりと首を折った所でコレンがモニターのスイッチを切る。ぎりっと奥歯を噛み締めているロランの前髪をつかむと強引にあおむかせた。
「お前が素直にならなけりゃ、もっと酷い目に二人ともあうことになるぜぇ? 大切な御主人様なんだろう?」
「そんなこと言われたって……知らないものは知らないんだ!」
「…………よーし、わかった! あくまでも強情を張るんならこっちにも考えがある」

 乱暴にロランの髪をはなすとコレンが部屋のかたすみの工具箱から巨大なペンチを取り出した。
「どーせ金玉は二つとも潰れてんだ。こいつもついでに取っちまおう」
 左手でロランの陰茎をつまむとコレンがそう言う。蒼白になったロランがしっかりと拘束された身体を揺らした。
「やめて! 本当にボクは何も知らないって……何度言ったら分かってもらえるんだ!?」
「素直じゃない奴は損をするって、教えてやるよ。そーら」
 ぎちぃとペンチが陰茎を咥え込む。表面に刻まれたギザギザの痛みにロランが悲鳴を上げた。全身にびっしょりと油汗が浮かぶ。
「そーら、そらそら。早く言わないと本当にチョン切れちまうぞー?」
 締めたり緩めたりを繰り返しながらコレンがからかうようにペンチを揺らす。その度にとんでもない悲鳴を上げてロランが身体を震わせた。大きく見開かれた目からはポロポロと涙が零れ落る。
「ひやぁっ、イ、イタイ、やめて、アアア」
「ホレホレホレ。血が滲んできたぞぉ。千切れちゃうぞぉ」
 コレンの手が動く度にビクンビクンとロランの身体が痙攣する。絶叫を続ける声は涸れ、口の横には泡が浮かびはじめていた。
「ちっ、しゃーねーなー。そーぉーぉーれーぇっと」
 一際大きな掛け声と共にコレンが身体ごと半回転するような感じで大きく腕を振る。ブチィっと嫌な音が響いた。勢いよくロランの股間から噴き出した鮮血がばしゃばしゃと床に血溜りを作った。
「ーーーーー!!ーー!ーーー@$#!---!!!!!!」
 ガクガクと全身を痙攣させ、表記不能な叫びをロランが上げる。涙と鼻水で顔はべちゃべちゃだ。汚ならしいものを扱うようにコレンがペンチに挟まったままの肉塊を床の上に放りなげ、踏みにじった。
「あーあーあ。こりゃ、医者呼ばなきゃしょーがねーなー」
 ポリポリと頭の後ろを掻きながらコレンはそうぼやいた。
TOPへ