真宮寺さくらの受難


「支配人。さくらです」
 トントンっと支配人室の扉をノックして、さくらがそう中へと声をかける。
「おう、へえんな」
「失礼します」
 軽く頭を下げて部屋に入ったさくらのことを、珍しく真剣な表情を浮かべて米田が迎える。そんな彼の真剣な表情に影響されたのか、さくらは少し緊張したように問いかけた。
「あの、何の御用でしょうか?」
「うむ。帝国華撃団花組、真宮寺さくら。これより一週間の特別訓練を命ずる。これが、辞令だ」
 重々しい口調でそう告げ、米田がひらりと一枚の紙を机の上に投げ出した。机へと歩み寄ってその紙を手に取りながら、さくらが首を傾げる。
「特別訓練、ですか……? しかも、場所が陸軍の施設……?」
「詳しい話は、マリアから聞いてくれ。先に、行ってるはずだ」
「マリアさんが……? あの、支配人。いえ、米田長官。一体、どういうこと何です?」
 ますます怪訝そうに首を傾げるさくら。ぐしゃぐしゃっと左手で髪を掻きまわし、米田が不機嫌そうに顔をしかめた。
「ここでは、詳しい説明は出来ん。重要機密扱いなもんでな。俺もだいぶ粘ってはみたんだが、上層部の連中がうるさくてなぁ。ま、マリアが居るから悪いようにはせんだろ。
 とりあえずお前は、指示された場所に向かってくれ。いいな?」
「はぁ……」
 なんとなく引っ掛かるようなものを感じつつ、さくらは頷いた。

 場所は変わって、陸軍省の管轄下にあるある施設。辞令を受け取ったさくらはとりあえずそこへと足を運んでいた。守衛を務めている無表情な兵士に辞令を渡し、奥へと案内される。途中、何度か訓練とやらについて尋ねてみたものの、兵士の答えはそっけなく、『説明は別の者がする』の一点ばりだ。
 案内された、応接室らしき部屋でしばらく待たされ、いいかげんうんざりとした頃になって部屋へとマリアが入ってくる。ソファから腰を浮かせたさくらに笑顔で答え、マリアは低いテーブルを挟んで向かい側へと腰を降ろした。
「いらっしゃい、さくら。米田長官から、詳しい話は聞かされた? その様子じゃ、もしかして何も聞かされていないのかしら?」
「そうなんですよ、マリアさん。長官ったら、詳しい話はマリアさんから聞け、としか教えてくれなくて。一体、特別訓練ってなんなんですか? 霊力とか光武とかの訓練だったら、陸軍の施設なんか使いませんよね?」
 テーブルの上に身を乗り出すようにして尋ねるさくらのことを苦笑を浮かべながら手で制し、マリアが部屋の扉へと視線を向ける。丁度その時扉が開き、陸軍の制服を来た女性がトレーに紅茶のポットとカップを載せて入ってきた。
「まずは、お茶でも飲みましょう? 疲れたでしょう?」
「え、ええ……それじゃ」
 どこか普段とは違う強引なマリアの態度に違和感を感じつつ、さくらはおとなしくマリアの言葉にしたがった。注いでもらった紅茶に砂糖を入れ、軽く掻きまわしてから口に含む。優雅なしぐさでカップを口元に運びながら、マリアはさくらの様子へと鋭い視線を向けていた。
「えっと、それで、マリアさん。話を……戻し、て……?」
 カップをテーブルの上に置いたさくらが話を再開しようとして、舌をもつれさせる。怪訝そうな表情を浮かべたのも束の間、さくらの上体がぐらりと揺れるとそのままテーブルの上につっぷした。小さく溜め息をつき、マリアが紅茶を運んできた女性へと視線を向ける。
「準備、よろしく」
「はい」
 すうすうと寝息を立て始めたさくらのことを、マリアは感情の掴みにくい表情でじっと見つめていた……。

「う、うぅん……」
 小さく呻いて、さくらが顔を上げる。どこか靄がかかったようなその瞳に急速に光が戻り、はっと大きく見開かれる。
「な、何……!?」
「お目覚めのようね、さくら」
「マリアさん! これは一体、何の冗談なんですか!? 降ろしてっ。降ろしてくださいっ!」
 Xの字型に組み合わされた木材に手足を広げて縛りつけられたさくらが正面に立つマリアへとそう叫ぶ。いったん服を脱がされたのか、身にまとっているのは貫頭衣風の白い服だ。貫頭衣、というよりは、白い布で作った袋に頭と腕を出す穴を開けただけ、といった方が正確かもしれない。地下室なのか窓はなく、天井に吊るされた裸電球がぼんやりと弱い光を放っている。
「冗談なんかじゃないわ。これが、特別訓練の正体よ」
「訓練、って……一体何の訓練をするって言うんですか!?」
「対尋問訓練。言葉を飾らないなら、拷問に耐える訓練よ」
 マリアの言葉に、さくらが表情を引きつらせる。
「ご、拷問……?」
「特殊部隊の隊員には、必須の訓練よ。花組も特殊部隊である以上、受けないわけにはいかないわ」
「何で!? 何でそんなこと、しなくちゃいけないんです!?」
「敵に囚われ、仲間や基地の情報を漏らされては困るから、よ。花組は秘密の部隊。その正体を知られることは避けなければならない。もっとも、隊員がみんな若い女ということで、米田長官が今までは何とか受けないで済むよう根回しをしていてくれたらしいんだけど……それももう限界ってわけ。
 でも、米田長官を恨んじゃ駄目よ。本当なら、あなたの訓練を担当するのは陸軍の人間になるはずだったの。それを、かなり強引に主張して私が担当っていうことにしてくれたんだから。あなただって、見ず知らずの男に裸を見られたくはないでしょう?」
 淡々とした口調でそう言うと、マリアはびゅっと右手に握った乗馬鞭を振るった。
「おしゃべりは、このぐらいにしておきましょう。手加減したら訓練にならないから、本気で行くわよ」
「や、やだっ、マリアさんっ、やめてぇっ」
 マリアの宣言に、さくらが悲鳴を上げる。すっと僅かに目を細めると、マリアが張りつけにされたさくらへと鞭を振るった。
「きゃああああぁっ」
「このぐらいでいちいち悲鳴を上げるんじゃないの! ほんのこて調べなのよ!?」
「いっ、いやああぁっ、ひっ、きゃああああっ」
 びゅっびゅっと鞭が空気を裂いてさくらの身体を襲う。着せられている服は見た目よりもやわなのか、鞭を受けるとあっさりと裂け、赤くなった肌があらわになる。
「ひいっ、痛いっ、マリアさんっ、やめてくださいっ。きゃああああっ」
「泣いたって、敵は同情なんかしてくれないわよ。あなたも、兵士でしょう!? 耐えなさいっ」
「いやあああっ、あっ、きゃああああっ、やめてっ、やめてぇっ。ひいいいいぃっ」
 容赦のない鞭の連打に、さくらが恥も外聞もなく泣きわめく。数十度に渡ってさくらの身体を散々に打ち据えると、僅かに息を切らせてマリアが鞭を振るう手を止めた。あちこちが裂けてボロボロになった服を身体にまとわりつかせ、がっくりとうなだれてさくらがすすり泣く。
「うっ、ううぅ……マリアさん……もう、やめてください……」
「泣きごとを言うんじゃないの。敵に捕まったら、仲間が助けにきてくれるまでひたすら耐えなくちゃいけないのよ? それともあなた、あっさりと仲間を見捨てて敵に情報を漏らすつもりなの?」
 鞭の先端をさくらの顎に当て、顔を上げさせながらマリアが厳しい口調でそう言う。弱々しくかぶりを振るさくらへと、マリアは厳しい視線を投げかけた。
「そ、それは……もちろん、そんなこと、しませんけど……」
「だったら、この程度で根を上げるんじゃないの!」
「きゃああああああっ」
 びしいぃっと乳房の辺りを打ち据えられ、さくらが悲鳴を上げて顔をのけぞらせる。ぎいぃっと軋んだ音が響き、部屋の扉が開いた。
「あらあら、やってるわね。マリア、初日なんだし、少しは手加減してあげないと駄目よ?」
「あやめさん……。そっちの準備は?」
 扉を開き、からかいを含んだ声をかけてきたあやめ--ちなみに、花組の副司令だ--へと向かい、マリアが僅かに眉をしかめてそう問いかける。軽く肩をすくめると、あやめは頷いた。
「出来てるわよ。さくらさん、辛いかもしれないけど、頑張ってちょうだいね。あなたならこの試練だって乗り越えられる、そう、私も司令も、大神くんだって信じてるんだから」
「あやめさん……はいっ」
 身体の痛みに表情を歪めながらも、さくらが頷く。少し憮然としたような表情を浮かべて、マリアがさくらの手足を縛る縄を解いた。床の上に降りたち、ぐらりとバランスを崩しかけたさくらの身体を支えてやりながらマリアはさくらの耳元に口を近づけてささやきかけた。
「少尉の名前が出た途端、元気になるのね?」
「なっ、何を言ってるんですか! そんなんじゃありませんよ……!」
「あら、私を仲間外れにして二人で内緒話?」
 マリアのささやきに頬を赤くして思わず叫んださくらへと、くすくすと笑いながらあやめがそう問いかける。慌てて首を振ったさくらへともう一度笑いかけ、あやめは軽く身体を開いて隣の部屋へと二人を招いた。マリアに支えられるようにして隣の部屋へと移動したさくらが、はっと目を見開く。
「こ、これって……?」
「水責め用の水車よ。使い方は……まぁ、見れば分かるわよね」
「さ、さくら。行くわよ」
 足を止めてしまったさくらの肩をマリアが押す。唇を震わせ、さくらはゆっくりと部屋の中央へと足を進めた。腰ぐらいまである石造りの四角い枠組の中には水が満たされ、その中央にはあやめの言葉どおり水車が置かれている。直径は人間の背丈よりも大きく、側面には手足を固定するためのベルトが付けられていた。
「冷たい……!」
 枠をのりこえ、水の中へと足を踏みいれたさくらが小さく悲鳴を上げる。後に続いて水の中へと入ってきたマリアが軽く肩をすくめた。
「氷水だもの。熱湯よりはましでしょ?」
「そ、それは、そうかもしれませんけど……」
「ほら、こっちよ。急いで」
 じゃぶじゃぶと水車の方へと足を進めながらマリアがさくらのことを呼ぶ。すうっと、一回大きく息を吸うと意を決したようにさくらは水車の側面へと足を進めた。さっきまで拘束されていたのと同じように、まず両腕をベルトで固定される。
「あやめさん」
「はいはい」
 マリアの呼びかけにあやめが枠組の外にあるレバーを倒す。ごうんごうんと低い音が響き、ゆっくりと水車が回り始めた。両腕を水車に括りつけられたさくらの身体が傾いていく。
 45度にさくらの上体が傾き、今まで水面下に沈んでいたベルトの一つが水から顔を出す。軽く手を上げてあやめに停止の合図を送ると、マリアはさくらの右足を掴んだ。
「ほら、足を上げて」
「はっ、はい……」
 恐る恐る、といった感じでさくらが右足を上げる。上体を斜めに傾け、左足一本で立つ不安定な格好だが、普段から剣術の訓練を積んでいるおかげか危うげな様子はない。さくらの右足首をベルトで固定すると、マリアは視線をあやめへと送った。無言で頷き、あやめがレバーをさっきとは逆に倒す。
「きゃっ、あっ」
 水車が逆に回転を始め、さくらが小さく悲鳴を上げた。いくらバランス感覚が優れていようと、流石に両手と片足を束縛された状態で回転されると体勢を維持できない。とととっとたたらを踏むようにして何とか左足一本でバランスを保とうとするが、直立する体勢を通り越して反対方向に身体が傾くようになるとそもそも足が床から離れてしまう。ぎしっと両手首のベルトが食い込んできて、少し痛い。
 やはり45度くらいまでさくらの身体が傾き、四つ目のベルトが水面から出てきたところでいったん回転が止まる。唯一自由だった左足もベルトで水車に拘束してしまうと、マリアはじゃばじゃばと水の中から出ていってしまった。濡れた足をタオルで拭きながら、あやめへと視線を向ける。
「それじゃあ、始めましょうか」
「そうね」
 がくん、と、あやめがレバーを倒す。ゆっくりと水車が回転を始め、45度に傾いていたさくらの身体が地面と平行になり、顔が水面へと近づいていく。長い髪がはらりと流れて一足早く水面に漬かり、今まで水に漬かっていた部分の布地がべったりと足に張りついている。白くて薄い布だから、足の形や色が透けて見えた。
「あっ、あぁっ……」
 近づいてくる水面へと視線を向け、さくらが引きつった声を上げる。本能的に首を曲げ、水面から離そうとしているのだが、もちろん水車自身の回転には勝てない。ざばり、と、水にさくらの頭が漬かり、首から肩、胸へと水中に沈んでいく。
 ゆっくりと水車が回転する。手足を広げて張りつけられたさくらが水の中で盛んに頭を振り、もがく。身体が上下逆さまになり、今度はゆっくりと顔が水面へと近づき始めた頃、ついにさくらの口が大きく開かれた。ごぼっと大きな気泡が上がり、さくらの身悶えが激しくなる。
「ぶはぁっ。あ、はっ……はぁ、はぁ、はぁ……けほっ」
 水車の回転によってやっと顔を水から上げることが出来たさくらが大きく息をつく。貪るように空気を吸い込み、数度咳込みながら水を吐き出す。ほつれた髪が顔に張りつき、濡れた服が肌にぴったりと密着していて妙に色っぽい姿だ。
 はぁはぁと肩を大きく上下させ、空気を貪っていたさくらの身体が斜めから直立になり、また斜めになる。ゆっくりと近づいてくる水面に恐怖の表情を浮かべると、さくらは胸一杯に空気を吸い込んだ。きつく唇を結び、頬を膨らませたさくらの頭が再び水の中に沈む。
 ぎゅっと両手を握り締め、足の指もきゅっと縮めてさくらが懸命に息を止めている。後もうしばらく息を止めていれば、と、さくらが息苦しさを懸命にこらえる。だが、左腕が水面から顔を覗かせた途端、がくんと少し揺れて水車が回転を止めた。水中でさくらが目を見開く。
(な、なに……!?)
 顔が真っ赤に染まる。息苦しさにもがいても、手足の拘束は緩みさえしない。回転の止まった水車に張りつけにされ、懸命に首を捻じ曲げても水面まではまだ遠い。
 ついに耐えきれなくなったさくらの口から、ごぼっと気泡が上がる。息を吐き、続いて本能的に息を吸おうとするが、今彼女の顔は水中にある。空気ではなく水を吸い込み、気管に水を入れてしまってさくらは激しくむせた。それが、残っていたわずかな空気も全て吐き出してしまう結果を生む。
(く、苦しい……! 溺れる……助けてぇっ)
 キィーンという耳なりを感じながら、さくらが心の中で叫ぶ。その叫びが届いたわけでもないのだろうが、再び水車が回転を始めた。ゆらゆらと揺れる水面がゆっくりと近づいてくるのを、発狂しそうな思いでさくらが見つめている。
「ぶっ、はぁっ! はぁ、はぁ、はぁ……うぶぅっ!?」
 ざばりと水面を割って顔を出したさくらが、荒い息を吐く。何かを考える余裕もなくひたすらに空気を貪るさくらの顔が、再び水面下に沈んだ。あやめがレバーを逆に倒し、水車を逆回転させたのだ。
「ごぼっ、ごぼごぼごぼごぼごぼ……」
 パニックを起こしたのか、水の中でさくらが何事かを叫んでいる。激しく気泡が上がり、水面を波立たせてさくらの顔を見えなくする。呼吸の出来ない苦しさに、さくらが拘束された身体をくねらせ、手を握ったり開いたりをくりかえす。
 その間にも水車は回転を続け、さくらの身体が逆さまになる。この頃になるともう吐き出す息が残っていないのか、ほとんど彼女の口から気泡は上がってこない。ただ身体をくねらせ、苦悶の踊りを踊るだけだ。
 その間にも水車は回転を続け、ゆっくりとだがさくらの顔が水面へと近づいていく。しかし、水面から顔が出る前に身体の動きが次第に緩慢になり、びくびくっと一回大きく痙攣すると完全に動きが止まってしまった。ざばぁっと水面を割って出てきたさくらの顔や髪からぽたぽたと水滴が滴る。ぐったりと全身から力が抜けており、まぶたは閉ざされている。
「やれやれ……」
 気絶したさくらのことをみやりながら軽く肩をすくめ、マリアが長い棒を床から拾い上げる。棒の先端でどすっと鳩尾の辺りを棒の先端で突かれ、げほげほっと激しく咳込んでさくらがうっすらとまぶたを開けた。
「げほっ、げほげほっ。けほっ。うっ……うぅ、マリア、さん……」
「もうギブアップかしら? さくら」
 挑発するようなマリアの言葉に、一瞬さくらが黙り込む。ぎゅっと、強く唇を噛み締めるとさくらは首を左右に振った。小さく笑ってあやめがレバーを倒し、水車が回転を始める。目をきつくつむり、さくらは訓練が終わる時をひたすら待ちつづけた……。

「う、うぅ……」
 どさっと、鉛のように重い身体を粗末な寝台の上に投げ出し、さくらが小さく呻いた。濡れた服は脱がされ、身体を拭かれた上で新しい服を着せられてはいるが、身体の心から冷えきってしまっている。
「とりあえず、初日はクリアね、さくら」
 どことなく冷ややかな口調でそう告げると、うつぶせに寝台の上に横たわるさくらの左腕をマリアは掴んだ。かじかんで細かく震える指を丸い円盤に添えさせ、細い紐で固定する。ぐったりとしたまま力が入らないさくらが、弱々しく首をひねってマリアの方を見た。
「マリア、さん……?」
「ゆっくりと寝れるとは、思ってないでしょ?」
 そっけなくそう言うと、マリアはさくらの右腕を掴んだ。肩の上の方から捻じ曲げ、左手に固定した円盤を掴ませる。左腕を下から、右腕を上から、背中で斜めにつなぎあわせるような形にされて、さくらが小さく悲鳴を上げる。
「い、痛いっ、マリアさんっ、痛いですっ」
「痛くなくちゃ、拷問にならないわよ」
 不自然な形に両腕を固定され、さくらが悲鳴を上げる。ちょっとでも身体を動かせば、両肩に激痛が走る。鉄砲、と、俗称される拘束法だ。
「寝れるかどうかは知らないけど、少しでも身体を休めておきなさい。明日もまた、訓練は続くんだから」
「そ、そんな……! マリアさん、お願いですっ。ほどいてくださいっ。腕が、折れちゃうぅっ」
「じっとしてれば、大して痛くないわよ。おやすみなさい、さくら」
 ぽんっとさくらの腰の辺りを軽く叩くと、さくらの上げる悲鳴とも抗議ともつかない言葉を無視してマリアが部屋から出ていく。ばたん、という扉の閉まる音を聞きながら、さくらは小さく悲鳴を上げた。

「ふっ、うっ。くっ……!」
 目を閉じ、きつく目を閉じてさくらが執拗な鞭の連打に耐える。初日は派手に悲鳴を上げていたさくらだが、一週間が立った今では微かに苦鳴を漏らす程度で済んでいる。毎日受ける鞭のおかげで所々の肌にはかさぶたが出来、鞭を受けて血を滴らせている場所も有るが、さくらの口からはもう泣きごとは漏れてこない。
「だいぶ慣れてきたじゃない、さくら」
 薄く笑いながらマリアがむき出しになったさくらの乳房をうちすえる。ぎゅっときつく眉をしかめ、さくらが短く息を吐く。翻った鞭が太股を打ち、くぅっと呻いてさくらが顔をのけぞらせる。
「……OK。それじゃ、水車に行きましょうか」
 更に数度鞭を振るい、額に浮かんだ汗を拭うとマリアがさくらにそう告げる。ふぅっと息を吐いて目を開いたさくらの股間を、ひゅっと短いアクションでマリアがうちすえた。
「きゃあぁっ!?」
「油断大敵よ、さくら」
 不意打ちに甲高い悲鳴を上げたさくらへと苦笑混じりにそう言い、マリアが拘束具を外す。涙目になって、さくらが少し恨めしそうにマリアのことをにらんだ。
「マリアさんの、いじわる……」
「うふふ、ごめんなさい。でも、その様子なら、水車の方は平気みたいね?」
 笑いながらそう言うと、マリアはぽんっとさくらの背を叩いた。
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