サンの受難


 単身、たたら場の長であるえぼしの命を奪うべく侵入を試みたサンは、奮戦むなしく囚われの身となっっていた。荒縄によって幾重にも縛られ、粗末な小屋の中へと転がされている。何とか縄から逃れようと身をくねらせていたサンが、近づいてくる足音に気付いてはっと動きを止めた。
「山犬の姫よ。一つ、相談がある」
 小屋の扉が開かれるなり、まだ若い女がそうサンへと呼びかけた。ぎっと女のことをにらみつけ、サンが叫ぶ。
「相談だと!?」
「そうだ。お前も知ってのとおり、我々はあの山を切り開こうと思っている。お前には、あの山に住む獣やもののけたちへの使者となってもらいたい。余計な抵抗をすることなく、我らへと山を明け渡すよう、皆を説得してはもらえぬか?」
「ふざけるなっ。山は、獣やもののけのものだ。貴様たち人間が手を出していい場所ではないっ」
 サンの叫びに、ふぅっと女--えぼしはため息をついた。
「互いに、無用の血を流すこともあるまいに……。まぁ、一晩、ゆっくりと考えることだ。お前の答えによっては、森の住人すべてがことごとく死に絶えることになるということを、よく考えるのだな」
「そのようなことにはならぬ! 私たちには、シシ神様がついている!」
「シシ神か……。そのようなものを、我々は怖れぬ。石火矢の前には、シシ神とてただの的よ」
 傲然とそう言い放つと、えぼしは衣の袖をさっと翻しながらサンへと背を向けた。
「余計な争いは好まん。だが、抵抗するのであれば、容赦はせん。よく、考えることだな、山犬の姫よ。お主も、モロに育てられたとはいえ人間であろう? 我らの仲間となった方が、得策だと思うがな」
 えぼしの言葉に、ぎゅっとサンは唇を噛み締めた。

 翌朝。河原へとサンは引き出された。後ろ手に縛られ、足首も縄で拘束されたサンのことを、砂利の転がる河原の上へと乱暴に男たちが放り出す。身体を大地へと打ちつけて呻くサンへと、えぼしが冷ややかな視線を投げかけた。
「さて、山犬の姫よ。一晩たって気は変わったか?」
「ふざけるなっ。殺すならさっさと殺せっ。私は、モロの娘だ。お前たち人間の仲間なんかじゃないっ」
 拘束されたまま上体を持ち上げ、サンが射るような視線をえぼしへと向ける。ふんっと小さく鼻を鳴らすと、えぼしは軽く右手を上げた。
「交渉決裂か。ならば、それなりの遇しかたをするとしよう」
 えぼしの言葉に、彼女の背後に控えていた男たちがわらわらと転がったままのサンへと群がる。屈強な男たちに押さえ込まれ、山刀で身にまとっていた衣服を切り裂かれてサンが小さく悲鳴を上げた。じたばたともがくが、相手の数が多い上に縛られているのだから抵抗のしようがない。あっという間に全裸に剥かれ、うつぶせに押さえ込まれてしまう。
「やめろっ。離せっ」
 河原に転がる石はどれも角が取れた丸い石だから、裸で押さえ込まれても肌を破るようなことはない。もっとも、痛くないわけではないし、屈辱に目の端に僅かに涙がにじむ。
 男の一人が、サンの足首を縛る縄をぶつっと断ち切った。自由になった足をばたつかせる暇も与えずにそれぞれの足を男たちが掴み、ぐいっとばかりに割り開く。あらかじめ用意されていた竹の棒へとサンの足首がそれぞれ結び付けられ、彼女が足を閉じようにも閉じられないように固定する。
「貴様や山犬たちに家族を殺されたもの、傷つけられたものがここには数多くいる。その恨み、その身体でたっぷりと味わうがいい」
「嬲るつもりか!? この、恥知らずっ。殺すなら、一思いに殺せっ」
 足を結び付けられた竹を胴体の方へと動かされ、尻を高く掲げるような体勢を取らされたサンが憤然として叫ぶ。全裸に剥かれ、足を広げているのだから、秘所も肛門も丸見えの屈辱的な姿だ。
「ふふふ。貴様は人間ではなく獣であろう? 獣相手に敬意を表する必要など、私は認めん。人間の戦士というのであれば、話は別だがな。山犬はそうやって這いつくばっているのがお似合いだ」
「くっ……!」
 あざけるようなえぼしの言葉に、サンがぎゅっと唇を噛み締める。口元に薄く笑みを浮かべたまま、えぼしは背後を振り返った。彼女の視線の先には、里の人間たちがずらっと並んでいる。たたら場の火を落とすわけにはいかないし、それ以外にも手を離せない仕事を持つものも多い。また、幼い子供たちも来ていないから全員というには程遠いが、それでも二十人は優に越す人間が集まっている。
「それぞれ、石を拾い、あの者の穴を埋めてやれ。家族や仲間の恨みを込めて、な」
 えぼしの言葉に、思い思いに足元に転がる石を拾い上げ、押さえ込まれているサンの後ろへと里の人間たちが並ぶ。先頭の男がしゃがみ込み、左手でサンの秘所を押し広げると手にした細長い石をその中へと押し込んだ。
「ひぎっ!? や、やめてぇっ。あがあぁっ」
 男を知らないのはもちろん、自分で慰めたこともない部分へと石を突っ込まれ、サンが大きく目を見開いて身体を震わせる。股間から身体をまっぷたつにされるかと思うほどの激痛が走り、こわばった太股へと血が伝う。
 石を押し込んだ男が立ちあがり、後ろの女へと場所を譲る。憎々しげな表情を浮かべて、その女はサンの秘所から僅かに顔を覗かせている前の男が突っ込んだ石の尻へと握った丸い石を当て、ぐいっと奥へ通し込んだ。
「がっ、あっ、ぎゃああああぁっ」
 びくんびくんと押さえ込まれた上体を跳ねさせ、サンが絶叫を上げる。ごりごりとこすれあいながら二つの石が狭い肉の通路を押し広げ、奥へ通し込まれていく。脳裏でチカチカと光が弾け、今まで味わったこともないような激痛が頭の中を満たす。
「あ……あぁ……う……ぅ」
 女が自分の石を押し込み終え、立ちあがって後ろの人間へと場所を譲る。口を半開きにしてよだれを垂れ流し、サンは虚ろになりかけた視線を地面の上に這わせた。石をくわえこんで無残に押し広げられた彼女の秘所へと、三人目が三つ目の石を力任せに押し込む。
「ぎひいぃぃっ、ぎっ、ぎゃあああああああぁっ」
 サンの絶叫が河原へと響き渡る。石を飲み込まされて下腹部がぽこんと膨れあがり、押し広げられた秘所からは破瓜の血がぽたぽたと滴る。
「やめ、て……もう、やめて……」
 弱々しい哀願の声がサンの口から漏れる。ふふんと鼻で笑うと、えぼしは順番を待っている里の者たちへと視線を投げかけた。
「さぁ、次だ。もたもたしていては、日が暮れるぞ」
「やめ……あがあああぁっ」
 四つ目の石が押し込まれ、サンの哀願の声が悲痛な絶叫へと変わる。強引に押し込まれる石たちが互いにこすれあいながら狭い肉の通路をメリメリと押し広げ、サンの口から絶叫を絞り出す。
 同様にして、五個、六個と、次々に石がサンの胎内へと押し込まれていき、サンの下腹部がはっきりと分かるほど膨らむ。ひくひくと身体を痙攣させ、河原の上につっぷしてサンは口からよだれを垂れ流していた。七つ目の石を手にしたまだ若い女がそんなサンの秘所へと石を押し込むべくかがみ込む。
「ひっ、ぐ、うぅっ。あっ、がっ」
 叫びとも、単に息が押し出された音ともつかない声を上げてサンがびくんと顔を上げる。その後ろでは眉をしかめ、女が懸命に石を押し込もうとしているのだが、ぎっしりと秘所に詰め込まれた石はなかなか動いてくれない。軽く苦笑を浮かべてえぼしが悪戦苦闘している女の肩へと手を置いた。
「そろそろ一杯か。どれ、少し下がっていろ」
 残念そうな表情を浮かべて自分の顔を見上げる女へと軽く笑いかけ、えぼしは懐から太い木の棒を取り出した。その先端をサンの秘所へと差し込み、側に控えていた男に支えさせる。すっと軽く息を吸うと、えぼしはサンの秘所から突き出した形になっている棒の端をドスッと蹴りつけた。
「うぎゃあああああああああああ--っ!!」
 凄絶な絶叫を上げ、サンが押さえ込んでいる男たちを跳ね飛ばさんばかりの勢いで上体をそらせる。今までほぼ一直線に並んでいた石たちが蹴られた衝撃でずれ、更に秘所の中を大きく押し広げる。最初に押し込まれた石の先端は、子宮孔を大きく押し広げ、半分その奥へと入り込んでいた。秘所の筋肉は強い力に耐えかねてあちこちで切れ、もはや二度と使い物にならないだろう。
「これで、まだ入るだろう。さ、続けるがいい」
 大きく目を見開き、ひくひくと身体を痙攣させているサンのことを見下ろし、えぼしが薄く笑う。血を流しているサンの秘所へと、女は自分が手にしていた石をねじこんだ。酸欠の金魚のようにぱくぱくと口を開閉させ、サンが身体を震わせる。
 無残なサンの姿を笑いながら里の人間立ちが鑑賞している。無遠慮な視線を浴びながら、石を秘所へと飲み込まされるたびにサンが悲鳴を上げ、背をそらして身体をのたうたせる。(挿絵)
「あっ、がはっ、やめ……うあああぁっ。ひぎぃっ」
 大小取り混ぜて、十三個の石がサンの秘所へと飲み込まれた。限界を越えて押し広げられたせいで耐えがたいほどの痛みがサンのことを責め苛み、口の端に白い泡が浮かぶ。えぼしがぎっしりと詰め込まれた石を更に木の棒で奥へと押し込もうとするが、サンの口から悲鳴をあふれさせるだけでもう石はびくともしない。ふん、と、僅かに鼻を鳴らすとえぼしは軽く肩をすくめた。
「前は、こんなものか。しかたない、残りの者は後ろの穴を埋めてやれ」
「やめ、て……もぅ、許し、て……」
 僅かに顔を上げ、サンが哀願の声を漏らす。気丈な仮面が剥がれ、弱々しい少女の素顔があらわになっていた。だが、その哀願の声が聞き届けられることはなく、新たな石がサンの肛門へと押し当てられる。
「ひぐっ、ぐうぅっ。駄目っ、やめてっ、嫌ああああぁっ」
 メリメリメリっと、石が肛門を押し広げてサンの中へと入り込んでいく。秘所の奥深くまでぎっしりと詰め込まれていた石と新たに押し込まれた石とが薄い筋肉を挟んでこすれあい、おぞましい感覚を伝えてくる。激痛とおぞましさに絶叫するサンの姿に、げらげらという笑い声が沸き起こった。
「あがっ、がっ、ひいいぃ--!」
 二個、三個と、石がサンの肛門から押し込まれていく。押し込まれる石はどれも川の流れで削られ、角が取れて丸くなっているから内臓を直接傷つけるようなことはない。もっとも、それはサンにとっては不幸中の幸いともいえない瑣末事だろう。激痛に脳裏でチカチカと光が明滅し、口からあふれる悲鳴も次第に獣じみた濁ったものへと変わっていく。
「ギャ、アッ!! っ、がッ、うギャアアAアァッ!」
 髪を振り乱し、激しく頭を振り、身体を震わせて絞り出すような絶叫を上げるサン。強引に押し広げられたせいで筋肉が裂け、肛門からも血が滴る。
 肛門にも、前と同じく十三個の石が詰め込まれた。もちろん、途中で木の棒を蹴りつけ、奥に押し込まれたというのは言うまでもない。半分失神したようになってサンは全身を細かく痙攣させ、口からよだれを垂れ流している。
 背中でまとめて縛られた腕を、山刀で縄を断ち切って男たちが自由にする。それでも、サンはぐったりとしたまま動かない。いや、動けない。足の縄も解き、河原の上に大の字に手足を押さえつけると、四人の男たちが斧を手にしてサンのことを取り囲んだ。
「う……あ。こ、殺す、のか……?」
 斧が反射する光に目を射られ、のろのろと顔を上げたサンが小さくそう呟く。どこか、ほっとしているような感じもするその呟きに、えぼしは唇を歪めた。
「まだ殺さん。山犬は、四つんばいで歩くものだろう? 貴様は山犬だそうだからな。人間のように二本足で立って歩く必要もあるまい」
「な、に……?」
 えぼしの言葉がとっさに理解できなかったのか、サンが僅かに怪訝そうな表情を浮かべる。小さく苦笑するとえぼしは斧を手にした男たちへと視線を向けた。無言で頷いた男たちが斧を振り上げ、いっせいに振り降ろす。
「ぎゃあああああああああぁっ!!」
 肘と膝で手足を切断され、血を吹き出しながらサンが絶叫する。短くなった手足をばたつかせ、河原を鮮血で染めながら転がりまわるサンのことをえぼしが小気味よさそうに見下ろした。
「さぁ、山犬の姫よ。森に帰るがいい。あの川を渡ってな」
「うっ、ううぅっ。あっ、くっ。お、覚えて、いろ。貴様の喉笛、いつか噛み裂いてやるっ」
 ともすれば激痛にかき消されそうになる意識を懸命につなぎとめ、サンが低くうなる。呪うようなサンの視線を平然と受けとめ、えぼしは軽く肩をすくめた。
「出来ぬよ、お前には」
「覚えていろ……!」
 よろよろと身を起こし、サンがえぼしをにらむ。そして、ふらつきながらサンは川へと向かい始めた。
 切断された手足が河原に触れるたびに、叫びたくなるような激痛が走る。剥き出しの筋肉を石がえぐり、砂や土が傷に擦り込まれる。大量の石を詰め込まれた秘所は麻痺しかけているのか今はそれほど激しくは痛まないが、詰め込まれた石はずっしりと重く、一歩進むたびにバランスを崩しかけてしまう。唇を噛み締め、痛みと屈辱に涙を流しながらサンは川へと向かった。
「くっ……!」
 川の流れに、サンは小さく呻いた。普段ならばどうということのない流れだが、手足を切断され、石を詰め込まれた今の身体で渡りきるのはかなり困難だ。それでもあきらめようとはせず、わずかな生への希望を掴むためにサンは流れへと身を投じた。
「うぶっ、ぐっ、ごぼっ。くっ、うっ、うあっ」
 水の流れが、サンを飲み込む。水中に没しては必死になって手足をばたつかせ、顔を水の上へと出す。僅かに息をついたかと思うと、また流れにさらわれて水中へと沈む。腹に詰め込まれた石のせいで身体がずっしりと重く、なかなか水面に顔を出せない。
「ぷはっ、あっ、ごぼぼっ、うぶっ、ぁ、ぐぶぅっ」
 空気の代わりに水を飲み、水中でサンが苦悶する。支流である川は幅も狭く、水深はそれほどない。だいたい、大人であれば膝の辺りか。それでも、這うように四つんばいになって歩くしかないサンにとっては絶望的ともいえる深さだ。水面は、ほぼ四つんばいになった彼女の顔の高さに等しい。
「このまま、生かして帰すんですか?」
 川の中ほどで苦悶しているサンを眺め、えぼしの片腕ともいえる位置にいる権左がそうえぼしに問いかけた。薄く唇に笑みを浮かべ、えぼしが視線をサンへと向けたまま頷く。
「生きて帰れるかは、まだ分からんがな。ここで死ぬならそれも運命、生き延びるならそれも運命だ。どちらにせよ、あの怪我では助かったとて当分動けまい。厄介な山犬どもも、姫の看病で手一杯となろう。その間に、シシ神を討ち果たす」
 薄く笑いながら、その中にも決意を秘めてえぼしがそう呟いた。彼女の視線の先では、切断された四肢でよろよろとサンが身を起こしていた。懸命に伸びあがり、顔を水面から出して空気を貪っている。何とか一息ついて、前に進もうとした途端に流れにさらわれ、小さな水しぶきを上げて彼女の身体が水面下に沈んだ。

(死にたくない……こんな所で、死にたくない……!)
 冷たい水の流れが、体温を奪い、体力を削ぎ取っていく。切断された四肢の傷から流れ出す血が、水を真っ赤に染める。たっぷりと腹に詰め込まれた石はずっしりと重く、身体の動きを妨げる。
 ごぼっと、自分の口から気泡が上がる。息の出来ない苦しさに、サンの顔が苦悶に歪む。水底で手足をふんばり、何とか水面から顔を出そうと懸命にもがく。切断されたむきだしの傷へと泥や小石が擦り込まれ、叫びたくなるような激痛が走る。
「ぶはっ、ぁっ、くっ、うぅ……。あぶっ、ごぼっ、うっ、うあぁっ」
 水面から顔を突き出し、空気を貪る。だが、水面すれすれの高さの顔を波だつ川の流れが叩き、空気と共に水が口や鼻から入り込んでくる。その苦しさに更に伸びあがろうとしたサンは、逆にバランスを崩して水の中へと倒れ込んだ。苦悶の顔を歪め、もがきながらじりじりと川を渡っていくサン。
 一体、どれぐらいの時間がたっただろうか?
 サンにとっては永遠にも等しい時間が過ぎた頃。
 不意にぐいっとサンの身体が上へと引き上げられた。体力を消耗し尽くし、ほとんど失神寸前だったサンがうっすらと目を開け、自分の身体を水から引き上げた者へと視線を向ける。
(誰、だ……?)
 怒りの表情を浮かべ、自分を抱き抱えたまま視線を川の反対側、えぼしたちが居る方へと向けている見知らぬ少年の顔へとぼんやりとした視線を向け、サンが心の中でそう呟く。
「何故、このような非道を為す!? この娘、私が貰い受ける!」
 少年のそんな叫びを聞きながら、サンの意識は闇へと落ちていった……。
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