ヤクモの受難


「どうだいヤクモ。そろそろ僕の求婚を受ける気にはなったかい?」
 両手を鎖で縛られ、天井から吊されたヤクモの眼前には、爬虫類族の王・リュウマが立っていた。何度も繰り返された彼の問いに、ヤクモがやはり首を振る。
「嫌です!」
「強情だねぇ」
 かたくなに拒否を続けるヤクモに、リョウマがやや呆れたようにそう呟き、彼女の身体へと18回目の冷水を浴びせかけた。髪や服からは水が滴り落ち、床は水浸しになっている。はっ、はっと肩を弾ませるヤクモの口から、白い吐息があふれた。
「いい加減にしないと痛い目に遭わせるけどいいのかい?今までは君の美しい肌に傷を付けたくないから拷問器具は使わなかったが、僕もそろそろ我慢出来なくなってきたよ」
 軽く肩をすくめながらリョウマがそう言う。その言葉の通り、確かにリュウマはヤクモを拷問室に連れ込んでから一度も彼女を傷つけるような行為をしていない。彼女を鎖で吊し、ただひたすらに水を浴びせるだけだった。
 とはいえ、冷水を浴びせられれば人間の身体からは体温が失われ、それと共に体力や気力も奪われていく。冷たいというよりも熱い、もしくは痛いと感じられるような冷水を何度も浴びせられ、ヤクモの唇は紫色に染まり、細かく震えていた。このまま冷水を浴びせられつづければ、最悪、凍死してしまうかもしれない。
「なぜ私に求婚を迫るのですか?」
 息を切らせながら、それでもヤクモはリュウマに声をかける。表情、口調、共に毅然とした態度を保ったままだ。
「それは、君が最後の人間だからさ。他のマトリクサーは君を恐れ排除しようとするが、僕は違う。君を手元に置いておけば他のマトリクサーは、ますます僕の強さに恐れ、敬う。
 だから、君を僕の伴侶として迎えてやるのさ。」
 リュウマはそう答えると、ヤクモの口を強引に大きく開かせ金具で固定する。
「う、んんー」
 苦しがるヤクモを尻目に、リュウマが棚の瓶から何かを取り出しヤクモに見せた。
「これは、僕が品種改良した幼虫でね、体内に入れると神経毒を出すんだ」
 ヤクモの目の前で、グロテスクな幼虫が体液を分泌させ、ぐねぐねとうごめく。醜悪なその姿に顔を背けようとするヤクモの顎を掴み、自分の方に向けさせるとリョウマはにやっと笑みを浮かべた。
「存分に味わって考え直してほしいな」
 リュウマが開かれたヤクモの口に幼虫を放り込む。ヤクモは舌で幼虫の侵入に抵抗するが、それも虚しくヤクモの食道を幼虫はスルスルと入っていった。喉をうごめきながら幼虫が下っていくおぞましい感覚に身をよじったヤクモが、不意にびくんっと身体を震わせた。
「あ・・・熱い、身体が・・・」
 口の金具を外されたヤクモが、うわごとのような呟きを漏らしながら自由のきかぬ身体をよじった。全身がかっと熱くなり、しびれる。しびれと熱さは瞬く間に全身に広がり、首から下の自由があっという間に奪われてしまった。今の彼女の意のままになるのは、首から上だけだ。
「どうだい。これでも僕の求婚は受けないのか?」
 リョウマのその質問に、ヤクモは首を横に振った。身体は完全に自由にならないのだが、感覚はしっかりと残っている。それがかえって不気味だった。
「それなら仕方ない。こちらも強行手段に出るとしよう」
 ヤクモが首を振るのを見たリョウマはそう言うと、ヤクモを鎖から解放し、床に下ろした。へなへなっとその場に座り込んだヤクモが、顔を懸命に上に向けてリョウマの顔を見つめる。
「何をする気なのですか?」
 ヤクモが不安げな表情でリュウマに問いかける。くくっと低くリョウマが笑いを漏らした。
「こうするのさっ」
 そう言うなり、リュウマは体の痺れて動けないヤクモに触れると、人形遊びでもするかのようにヤクモを動かしポーズをとらせる。ヤクモは懸命に抵抗しようとするのだが、全身がしびれていて指一本自分の意思では動かせない状態だ。
「うん。すばらしい」
 しばらくそうやってヤクモの手足を動かしていたリョウマがそう呟いて頷く。ヤクモがリョウマの持ってきた大鏡を覗き込むと、そこには立ち膝になり両手を頭の後ろで組んだ悩ましいポーズをとる自分がいた。誘うように胸を突き出した、扇情的なポーズを取る自分の姿が……。
「なっ、何をする気なの・・・」
「こうするのさっ」
 羞恥に頬を染め、弱々しく問いかけるヤクモ。笑いながらその問いに応じると、リュウマはナイフを取り出してヤクモの服を引き裂き始めた。びびっ、びびびっと布地が切り裂かれ、何度も冷水を浴びせられたせいで透き通るように白くなった肌があらわになっていく。
「やっ、お願いっ、やめてー」
 唯一自由になる首を左右に振り立て、ヤクモが哀願の悲鳴を上げる。だが、リュウマはヤクモの声を無視して服を引き裂いてゆく。意図的にゆっくりと、数分間をかけてヤクモは全裸にされてしまった。
「綺麗だよ。ヤクモ」
 満悦の笑みを浮かべるリュウマとは反対に、ヤクモは頬を紅潮させて涙を浮かべていた。
「や、やめて、見ないで……」
 弱々しい哀願の声も、かえって相手の加虐心をあおるだけだ。羞恥に頬を染めるヤクモの背後に回り込んだリョウマが、脇の下から手を回して彼女の二つの膨らみをわし掴みにする。
「いやーーっ、やめてっ、触らないでっ」
「君は僕の花嫁になるんだ。恥ずかしがることはないだろう?」
「いっ、嫌ですっ! 私は、あなたの花嫁になんかなりませんっ!」
 両胸を揉みしだかれ、ポロポロと涙を流しながらヤクモが拒絶の声を上げる。軽く肩をすくめると、リョウマはいったんヤクモの乳房から手を離した。
「やれやれ、強情だね。でもね、今の君はまったく抵抗できないんだ。素直に僕の求婚を受け入れた方が、利口だと思うけど?」
 リョウマの言葉に、唇を噛み締めてヤクモが首を左右に振る。ふうっと溜め息をつくと、リョウマは両手を軽く広げた。
「まぁ、いいさ。さっきも言ったけど、僕は君の奇麗な身体に傷なんか付けたくないんだ。だから痛めつけるような真似はしないけど、その代わり、もっと恥ずかしい思いをしてもらうよ。君にとっては、むしろその方が辛いかもしれないねぇ」
「な、何を、するつもりです……?」
 リョウマの言葉に、不安そうな声をヤクモが上げる。その声には答えようとはせず、リョウマはヤクモの腕を掴んだ。両手を組み、頭の後ろに回していた手をいったん外させ、右手を股間の辺りに、左手を彼女自身の乳房の辺りへと移動させる。
「君も女の子だから、お人形遊びをしたことぐらいはあるだろう? いろんなポーズを取らせてみたりしてさ」
 笑いながらリョウマがヤクモの指を動かす。左手は左の乳房を掴むように、そして左手は、人差し指と薬指とで秘所の割れ目を左右に押し開き、中指をその中に入れるように、それぞれ形を作る。立て膝になっていた腰を地面に降ろさせ、ぐいっと足を左右に割り開く。膝を立てさせ、M字型を作る。リョウマがそんな作業を進める間、ヤクモは懸命に身体をよじって抵抗しようとするのだが、身体はまったく意のままにならない。
「あはは、いやらしい格好になったねぇ、ヤクモ」
「いっ、いやあああああぁーーっ! イヤッ、イヤッ、イヤアアアアアアアァッ!!」
 鏡に映った自分の姿に、ヤクモが悲痛な叫びを上げて激しく首を左右に振り立てる。大きく股を開き、秘所を割り開いて指を挿入し、自分の胸を揉む。鏡に映った、そんなひわいなポーズを取らされた自分……。
「題して、『自慰に耽る少女』。なかなかいい出来だろう? 素材もいいしね」
 笑いながらリョウマがそう言う。羞恥に頬を真っ赤に染め、ヤクモが顔を鏡から背けるが、リョウマの手が彼女の頭を掴んで強引に鏡の方に向けさせる。
「よくご覧よ。とっても奇麗なんだからさ」
「やめて、許して……。こんな格好、恥ずかしい……」
「おや、この格好は嫌かい? じゃあ、別のポーズを取ってみようか」
 すすり泣くようなヤクモの哀願の声に、からかうような笑いを浮かべてリョウマが彼女の身体に手をかけた。自由にならない身体だが、感覚はきっちりと残っている。リョウマが彼女の腕や足を掴み、ポーズを変えていくたびにヤクモは悲鳴を上げ、首を振り立てるが、相変わらず身体には力が入らず、まったく抵抗できない。
 両手で二つの膨らみを下からすくいあげるように持ち上げ、膨らみの先端を指の腹で転がす自分。前屈みになり、自分の股間を覗き込むようにしながら両手の指で秘所をいじる自分。張り型を右手で掴み、左手で押し広げた秘所へと挿入しようとしている自分……。様々なひわいなポーズを取らされた自分の姿が鏡に映り、からかうようなリョウマの声が振ってくる。頬ばかりか全身を羞恥に真っ赤に染め、悲痛な声でヤクモが泣き叫ぶ。
「許して! お願いっ、もう、許してっ! こんなの……こんなの、恥ずかしくて死んじゃう……」
「何故恥ずかしがるんだい? こんなに奇麗なのに」
「イヤアアアアァッ!」
 リョウマの言葉と共に今度はうつぶせに寝かされ、尻を高く掲げて両手で秘所と肛門とをいじる姿を取らされたヤクモが悲鳴を上げる。前後に合わせ鏡のように二枚の鏡が置かれ、自分の指で押し広げられた秘所や床で押し潰された乳房などが交互に無数に連なっていた。
「お願い、もう許して……こんなの、嫌よ……」
 羞恥のあまり消え入りそうな声でヤクモが哀願の声を上げる。心に深い傷を負い、涙を流すヤクモへとリョウマが笑いながら問いかけた。
「それじゃ、僕の求婚を受けてくれるかい?」
「そ、それは……」
 ためらうような声を上げ、うつむくヤクモ。水に濡れた髪を掴んで彼女の顔を上げさせると、リョウマは彼女の瞳を覗き込んだ。
「最後の機会だよ、ヤクモ。拒むも受け入れるも君の自由だけど、ここで拒んだらもう二度と君は助からない。よく考えてから答えることだね」
「わ、私は……あなたのものにはなりません」
 唇を震わせながら、ヤクモがそう言う。半ばその答えを予期していたのか、さして落胆する様子も見せずにリョウマは彼女の髪を離して立ち上がった。うつぶせになった彼女の身体を抱え起こし、最初に取らせたのと同じ両手を頭の後ろで組んだ姿勢を取らせる。
「それじゃ、しかたないね。君を僕の妻にするのはあきらめよう。けど、君を解放するわけにもいかないからね。別の方法で僕のものにしてあげるよ」
「な、何を、するつもりなの……?」
 ヤクモの不安そうな言葉に、薄く笑いながらリョウマが懐から注射器を取り出す。怯えた表情を見せるヤクモの胸や腕など計7ヶ所に、リョウマは怪しげな薬を打ち込んだ。すると、しだいにヤクモの体が石化を始める。注射を打たれた部分を中心にして全身が灰色に染まり、硬化していく様を呆然とヤクモは見つめた。
「こっ、これは……?」
「気に入ってもらえたかな?最初から君が僕の求婚を断る事は予想していたからね。こうして石化にする事にしてたんだ。石像にしてしまえば、君は老いる事もなくその美しさを保ったまま永遠に生き続ける」
 そう言いながら、リュウマはヤクモの石になった体を触った。
「分かるかい?この感触。石像にしたとはいえ、君の感覚は残っているんだ」
 ヤクモは以前にも、ギャザによって、石になった事はあったが、あの時には感覚はなかった。今は意識も感覚も変わらずに残っており、全身が冷たく冷えて動かないことを除けば生身の時とまったく変わらない。彼女の肌の上を撫でまわしていたリョウマの手が、彼女の二つの膨らみに触れる。
「今、君の乳房を揉んでいるんだがどうかな? 君の乳房と性器のある部分だけはある程度の柔らかさが残るように石化したんだ」
 嬲るようにリョウマがそう言う。ヤクモにもそれは分かった。石になって固くなった体に比べ、乳房は表面こそ他の部分同様固いが、ゴム球くらいの柔らかさを弾力があった。
「もうすぐ、顔も石化するが心配しなくていいよ。石化した君の体は非常に頑丈でね。並のマトリクサーでは小さなヒビや傷を付ける事しか出来ない。僕でも、乳房や耳をもぎ取るのが精一杯だ。それにどんなに傷ついても一晩もあれば完全に自己再生してしまうしね」
 そう言いながら、リュウマはヤクモの左の乳房を無造作に握ると一息にもぎ取った。
「ああああぁぁぁ~!」
 乳房をむしり取られる激痛に、ヤクモが高い悲鳴をあげる。身体の中まで石化しているせいで、血は一滴も流れない。鏡に映った、乳房を片方むしり取られた自分の無残な姿に、ヤクモがイヤイヤをするように首を振る。その首にも、徐々に灰色が上がってきて、動かなくなっていく。
「お願い、元に戻して!」
 ぽんぽんとむしり取った乳房を手の中で弄ぶリョウマに向かい、ヤクモは悲鳴じみた哀願の声を上げた。
「残念だけどそれは無理だ。解毒剤がないから元の戻せないし、殺す方法は君の頭をを粉々に砕くしかないんだが、誰にもそんな事は出来ない。殺すには、この星が爆発するくらいのエネルギー量がないとね」
 悲痛なヤクモの叫びにゆっくりと首を振り、リュウマが淡々と話を続ける。
「これからは、君は、僕の鑑賞物、そして玩具として生きてもらう。石像になった君にできる事は‘見る’‘聞く’‘痛みを味わう’の3通りだけだ。この星の終焉が来る日まで可愛がってあげるよ」
 リュウマが話し終える頃には、ヤクモは頭まで完全に石化していた。
「あと、喋る事は出来なくなっても、君の心の叫び声は僕にだけは聞こえるから、いつでも話かけて来ていいよ」
 恐怖の表情を色濃く刻んだ少女の石像へとそう話しかけながら、リュウマは彼女を自分のプライベートルームにある台の上に、他の彫像と同様に飾り付けた。こうして見ると、ヤクモは他のどの彫像よりも美しい“裸身の少女の石像” であった。
「あぁ、今日からしばらく留守にするんだ。今の君は寝ることも気絶する事すら出来ない状態だからね。留守の間に君をいたぶっているよう部下に命令しておいてあげるよ。
 でも、その前に」
 リュウマは太いネジを持ってくるとヤクモの秘所にヒビを入れながらねじり込んでいった。彼の頭の中にヤクモの絶叫が響く。秘所を引き裂かれる少女の悲痛な叫びに唇を笑みの形に歪めながら深々とネジを埋め込み、更に貞操帯を付ける。次に、リョウマはヤクモの右の乳房を左同様にもぎ取ると、二つの断面をセメントで塗り固め、乳房が再生できないようにした。
「僕の部下とはいえ、君の乳房や秘所を触らせたくないのでね。痛いだろうが、がんばって我慢して待っててね」
 そう言い残し、リュウマは部屋を後にした。

 それから、数日間。リュウマの耳にはヤクモの悲鳴が鳴り響いていた。彼の部下たちに全身を触られ、舐めまわされ、噛みつかれ、床に叩きつけられ、ありとあらゆる暴虐を受けて泣きわめくヤクモ。しかし、彼女の石化した身体には小さなひび程度しか入らず、それもすぐに直ってしまう。失神することも眠ることも許されず、ヤクモは悲痛な叫びを上げつづける。
 リョウマが戻り、部下たちの暴虐から解放された後も、ヤクモには安息の日はこない。乳房の傷を塞いだセメントが取り除かれ、貞操帯とネジも外され、一晩が立つ頃にはヤクモの身体は元通りに戻っていた。そのことにほっと一息つく間もなく、リョウマの手によって再び乳房をむしり取られ、秘所を引き裂かれる。あるいは、再び再生したまだ弾力を残した乳房や秘所やらをいじられる。激痛に絶叫し、屈辱に泣きわめくヤクモ。通常であればとっくに死に至るか発狂しているかどちらかだろうに、石像と化したヤクモの意識は鮮明に保たれたままだ。
(イヤッ、やめて、誰か助けて……っ!)
 ヤクモの上げる悲痛な心の叫びに、リョウマが楽しそうに笑う。
 --ヤクモが死を迎えたのは、この後、地球の寿命が費えた数百億年も先の事だった
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