真宮寺さくら


(挿絵)
「っ、う……。ここ、は……?」
 ぼんやりと真宮寺さくらはそう呟いた。岩場の上にごろんと転がされている。ずきずきと頭が痛み、両腕は背中側に回されて拘束されているようだ。
「目が覚めたようだな」
 冷ややかな声が頭上から降ってきた。はっとさくらが顔を上げる。
「葵、叉丹……!」
「ようこそ、我らのアジトへ。歓迎するよ」
 崖上に高くなった場所から叉丹がそう言う。言っている内容とは裏腹に、その表情には憎しみの色が浮かんでいた。
 ぼんやりとしていた頭が、急速にはっきりとしてくる。一人で買い物に出かけ、突然現れた降魔たちに捕われたのだ。不自由な身体を起こし、きっと相手のことを睨みつける。
「私を、どうするつもり……!?」
「君の仲間、帝国華撃団の事をしゃべってもらおう。取るに足らないゴミとはいえ、我々の計画の邪魔になる存在であるのは事実だからな」
「冗談じゃないわ!」
「クックック、威勢がいいな。だが、その元気、いつまで持つかな? 素直にしゃべる気がないというなら、その身体に聞くまでのことだ」
 叉丹が笑う。その声に答えるように、のそりと降魔が姿を現した。後ろ手に拘束され、抵抗もままならないさくらの身体を抱え上げる。
「な、何をする気なの!?」
「言っただろう? 素直にしゃべってくれないなら、身体に聞くまでだと」
 叉丹の言葉が終わると同時に、さくらを抱え上げているのとは別の降魔が三角形をした木の棒を三本、間隔をおいて地面に並べる。袴の裾を膝の上までまくりあげられ、剥き出しになったさくらの白い脛が尖った木材の上へと降ろされた。
「ああっ」
 さくらの顔が苦痛に歪む。正座する形で上から降魔に押さえつけられ、身悶えすることもままならない。
尖った木材の先端が彼女の脛へと食いこみ、肌と肉を破る。
「くくく、痛いか? だが、こんなものはまだ序の口だぞ」
 叉丹が笑う。唇を噛み締め、きっとさくらは叉丹のことを睨みつけた。その視線を正面から受けとめ、ふんと小さく鼻を鳴らすと叉丹が軽く右手を上げる。さくらの身体を押さえつけていた降魔が彼女の身体を引き起こし、別の降魔がずっしりと重そうな重石をさくらの足の上に乗せた。
「う、あ……ああああああっ」
 さくらの口から悲鳴があふれる。石の重みによって更に深く木材が脛に食いこむ。膝の下、足首、そしてそのちょうど中間辺り。木材に乗せられた三ヶ所で激痛が弾ける。
「あっ……はっ、あ、あぁ……」
「石抱き責め、だ。もっとも、本当は十露盤という道具を使うのだがな」
 叉丹が嘲笑を浮かべながらそう説明する。十露盤は、尖った木材を五本隙間なく並べたような道具だ。一見、数が多い分今さくらがやられているように三本の木材の上に座らされるよりも辛そうだが、実際には体重が分散する為にかえって苦痛は少なくなる。
「う、く……ひ、ひぃやああああっ」
 さくらが身体をのけぞらし、悲鳴を上げる。更に一枚、重石が追加されたのだ。皮膚と肉は完全に裂け、木材の先端は骨にまで達している。あふれる血がゆっくりと地面に広がっていった。
「どうだ? しゃべる気になったか?」
「だ、誰、が……!」
 全身にびっしょりと油汗を浮かべ、荒い息を吐きながらさくらが気丈にも叉丹を睨む。ふっと薄く笑うと叉丹はひらりと崖の上から飛び降りた。降魔の一人から一本の棒を受け取り、さくらの元に歩み寄る。
「これは、帚尻という。かつて拷問に使われていたものだ」
 さくらの着物をはだけながら、叉丹が笑う。白い肩から胸元まで剥き出しにされ、さくらの頬が赤く染まった。くくくと低く笑いながら、叉丹がさくらの肩へと帚尻を振りおろす。
「きゃあああああっ」
 ばっと、さくらの肩から鮮血が散った。ずきずきと、鈍い痛みが間断なくさくらを責め苛む。
「くくくくく、ははははっ」
 哄笑をあげながら、二度、三度と叉丹が帚尻を振るう。ビシッ、バシッと肉を打つ音が響き、その度にさくらの可憐な唇から悲痛な呻きが漏れる。
 降魔の一人が、さくらの足の上に重ねられた重石に足をかけ、前後左右に揺する。重みの集中した足の骨がミシミシと嫌な音をたて、大きく目を見開いてさくらが絶叫を上げる。
「イヤアアアアアアッ。ヒッ、ヒッ、ヒイヤアアアアアッ」
「どうだ!? しゃべる気になったか!?」
「嫌、嫌、いやあぁっ! ----ッ!!」
 ぶんぶんと首を左右に振り続けるさくらの足の上に、三枚目の重石が乗せられる。声にならない悲鳴をあげ、一瞬身体を硬直させるとさくらの身体が重石の上へと崩れ落ちた。叉丹に打たれた肩からあふれ出す鮮血が、その上体を赤く染めている。三枚の重石の重みによって、さくらの足の骨は無残に砕けていた……。

 ゴロゴロと、雷が天空高くで轟きを上げる。時折閃めく雷光が、夜の闇に閉ざされた下界を一瞬照らし出す。
 人気のない山中に、ひっそりと咲き誇る桜の樹が一本。その太く張り出した枝から、一人の少女が縄で吊るされている。いわずとしれた、真宮寺さくらである。服は脱がされていないが、あちこちはだけたその姿はかえって全裸よりも扇情的かもしれなかった。霧雨によって乱れた髪が肌に貼りつき、更にはうなだれたうなじや縄によって絞り出され、服からはみ出した乳房に数枚の桜の花びらが貼りついている。
 闇の中、舞い散る桜の花びらの直中に浮かんでいるその姿は何ともいえず幻想的で色っぽかった。
「うぅ……。あぁ……」
 微かに開いた唇から、掠れた呻き声が漏れる。首と二の腕に回した縄で手首を縛り、胸元へと回すことで肩近くまで腕を引き上げるという『箱縛り』。その形で縛られるだけでもかなりの苦痛だが、今は更にそのまま樹から吊るされているのだ。苦しさは何倍にもなる。
「たまには花見も良いものだ。桜の樹にさくらを吊るす、というのはいささかくだらない洒落だがね」
「く、うぅ……」
 自分の苦悶を肴に杯を傾け、軽口を叩く叉丹を恨めしそうにさくらが睨んだ。先程の石抱き責めで砕かれた足には錘代わりの石がぶら下げられ、激痛を伝えてくる。自分の体重と石の重み、その双方が半ば捻り上げられたも同然の両腕にかかり、締め上げる。
「う、く……ひいっ」
 ドーンと、すさまじい音が鳴り響く。まだかなり遠いが、落雷があったらしい。思わずさくらはぎゅっと目をつぶり、悲鳴を上げた。彼女は雷が大の苦手なのだ。その小さな悲鳴に、ほうと叉丹が悪戯を思いついたような表情になって笑った。
「なるほど、貴様は雷が苦手か」
「なっ、そ、そんなこと、ないわよっ」
 動揺を隠しきれていない、うわずった声でさくらがそう反論する。くくくと嬲るように笑うと叉丹はさっと右腕を振るった。途端に頭上の雲がその黒さを増す。
「くぅ……な、何を……きゃあああああっ」
 ドーンドーンドーンと、立て続けに雷が落ちる。今度は、結構近い。さたんの魔力によって、きゃあきゃあと派手な悲鳴をあげながらさくらが身体を震わせた。雷が収まってからも身体の震えは止まらず、がちがちと奥歯が鳴る。
「女だてらに、と思っていたが……なかなか可愛いところもあるじゃないか」
 嘲けるような叉丹の言葉に被さる、再びの稲妻と轟音。
「きゃああああああっ。もう嫌ぁ! 大神さん、助けてぇっ」
 肺の中の空気全てを絞り出すような絶叫をさくらが上げる。ポロポロと頬を涙が伝い、いつもの気丈な彼女とはかけ離れた、年相応の脆さが露呈する。
「くくく、無駄だ無駄だ。どんなに泣きわめこうが助けなど来はしない。貴様に残された道は、私の質問に答えて楽になるか、それとも苦痛と恐怖の中で悶え死ぬかの二つだけだ」
 杯を傾けながら、叉丹が嬲るようにそう言う。ポロポロと涙をこぼしながらさくらがぎゅっと唇を噛み締めた。胸を強く圧迫されているせいで、息を吐くのは楽でも吸うのは楽ではない。悲鳴を上げることで大きく息を吐いてしまえば、その後しばらく窒息するのではないかという苦しみを味わうことになる。
「う、くぅ……はぁ、はぁ、はぁ……きゃああっ」
 懸命に息を吸い、何とか窒息の恐怖が薄れた頃合を見計らったようなタイミングで雷が落ちる。必死になって吸いこんだ空気が、一瞬ですべて悲鳴となって吐き出される。そうしてまた訪れる、窒息寸前の苦しみ。
「情報が目的ならば、責め殺すような真似はしないだろうなどと、甘いことは考えるなよ? 貴様は、あの憎っくき男、真宮寺の血を引く女なのだからな。貴様が苦しみ抜いて悶死するならば、それはそれでかまわんのだ」
「く、うぅ……殺し、なさいよ。仲間を……みんなを売るぐらいなら……死んだ方が、まし……きゃあああっ」
 苦しみに表情を歪めながらも、気丈な態度を取り戻してさくらが叉丹を睨む。だが、その言葉は途中で悲鳴へと変わった。降魔の一体がその腕を伸ばし、先程の石抱きで折れ砕けたさくらの足を無造作に掴んだのだ。骨と骨とがこすれあい、肉を裂く。ぎしぎしと、きしんだ音を立てて更に細かく骨が砕ける。
「くううぅぅぅっ! ああああっ」
 髪を振り乱し、さくらが苦悶の声をあげる。脳天にまで突き抜ける、激しくも鈍い痛み。
 ぱらぱらと、雨がその強さを増し始める。微かに眉をひそめると叉丹は空を見上げた。
「本降りになったか。続きは、中だな」
 叉丹の言葉と合図をうけ、降魔たちがさくらの身体を樹から降ろす。ぐったりとして荒い息を吐く彼女の身体を無造作に抱え上げると、彼らは洞窟の奥へと消えていった……。

「きゃああああああっ、ああっ、ああっ、きゃああああああああっ」
 大きく目を見開き、絶え間ない絶叫をさくらが上げ続ける。天井から吊るされた彼女がまたがらされているのは、鋭く尖った三角木馬。かの有名な、木馬責めを受けているのだ。
「ひ、いっ、嫌あああああっ。あああああっ」
 服をすべて剥ぎ取られた白い裸身が、かがり火を受けててらてらと光る。全身に油汗を浮かべ、身体をくねらせる。鋭い木馬の背が股間に食いこむ激痛に、思考能力が半分麻痺する。
 彼女の両足に吊るされた石は、それぞれが20Kg近くもある。あふれだす血潮は木馬の側面を真っ赤に染め、地面へと大きな血溜りを作り出していた。最初にただまたがらされた時は、少しでも苦痛を和らげようと懸命に歯を食い縛り、動かないように努力していたさくらだが、石を吊るされた瞬間にそんな理性は吹き飛んだ。どうにかしてその激痛から逃れようと、必死にもがく。
 だが、もちろん、どんなにもがいたところで逃れられるはずもない。動けば動くほど、自らの傷を深め、ますます痛みを増すだけだ。しかも、この木馬の背には細かいギザギザが無数に刻まれている。歯の鈍い鋸の上にまたがっているようなものだ。肌と肉が引き裂かれ、ちかちかと目の前に光の粉が舞うほどの激痛が、一瞬ごとに強さを増しながらさくらを責め苛む。
「ぎ、いっ、ひいいいいいっ。あ、あ、あああああっ。きゃあああああっ」
「くくく、どうだ? そろそろ、素直になる気になったか?」
「いっ、やあぁぁぁっ。助けてっ、助けて、大神さん、みんな……きゃあああああっ」
 叉丹の言葉に、まだ微かに残っていた理性でさくらは激しく首を振った。けれど、その動きもすぐに拒絶なのかそれとも痛みの為にでたらめに身体を動かしているだけなのか判別がつかなくなる。
 白い首筋をあらわにして、大きくのけぞる。がっくりとうなだれ、弱々しく左右に首を振る。おこりにかかったかのようにぶるぶると全身を痙攣させる。そんな様々な動きの間も、絶叫だったり呻きだったりと変化を付けながらもさくらの悲鳴は途切れない。
「きゃあああっ、きゃ、あっ、ひいっ」
 ビシ、バシと、肉を打つ音がさくらの悲鳴に重なる。不器用に帚尻を持った降魔たちが、さくらの背や胸、腹を打ちだしたのだ。たちまちのうちに、さくらの上体が鮮血に染まる。下半身は、既に木馬によって大量の出血で真紅に染まっていたから、全身が血に彩られたことになる。
 痛みと涙のせいでぼやけた視界の隅で、何かが動いた。ガンガンと激しい耳鳴りを起こした耳に、何か言葉のようなものが飛びこんでくる。周囲の気配が慌ただしくなる。けれど、それらをはっきりと認識する余力は今のさくらにはない。
 ……どれほどの時間がたっただろうか。ふと、さくらは自分の周囲に誰も居なくなっていることに気付いた。もしかしたら、しばらくの間、意識を失っていたのかもしれない。木馬責めは未だに継続しており、耐えがたい痛みにともすれば意識全てが塗り潰されそうになる。それでも微かに残った冷静な部分で、彼女は今の状況を考えた。
(もしかして……みんなが?)
 助けに来てくれたのかもしれない。自分という獲物を放置して彼らがどこかへ行ってしまう可能性は低いと思えたから、出払う理由としてはそれぐらいしか考えられない。
(後、もう少し。もう少しだけ、耐えれば……)
 みんなが助けてくれる。そんな、僅かな希望だけを頼りに懸命に激痛に耐えるさくら。押さえきれずに漏らした彼女の悲鳴が、無人の空間に響いた。

 何度目かの失神から意識を取り戻した時、さくらは自分の身体が地面の上に転がっていることに気付いた。ずきんずきんと股間からは痛みが伝わってくるが、木馬にまたがっていた時ほどの激しい痛みではない。霞がかかったような視界の中に懐かしい仲間たちの顔を認め、自然とさくらの唇がほころぶ。
「みんな、助けに……?」
 ふっと、何か違和感を感じてさくらは数度瞬きをした。視界にかかった霞が晴れる。
「キ、キャアアアアアアッ」
 さくらが悲鳴を上げる。彼女が見たものは、地面の上に無造作に並べられた、仲間たちの生首だったのだ。大神、すみれ、マリア、アイリス、紅蘭、かんな。既に命を失った、六つの物言わぬ首がじっと自分のことを見つめている。
「嫌、嫌、イヤアアッ。嘘よ、こんなの、嘘よ……」
「嘘などではない。貴様を助けに来た連中は、我らに破れたのだ。くくく……貴様は情報を漏らしてはくれなかったが、連中をおびき寄せるおとりにはなってくれたというわけだな」
「嘘よ……これは、悪い夢なのよ……」
 ぶつぶつと、叉丹の言葉も耳に入っていない様子でさくらが呟き続ける。胎児のように身体を丸めたその姿に、叉丹は僅かに眉をしかめた。発狂されては、面白くないと思ったのだろう。
「ふ、ん。まぁ、いい。帝国華撃団を壊滅させた今、我らの障害となるものはない。帝都制圧の暁には、貴様も処刑してやる。それまで、せいぜい束の間の生を楽しむのだな」
 叉丹がそう言い放ち、地下牢を後にする。ぶつぶつとうわごとのように何かを呟きながら、さくらは仲間たちの生首をぼんやりと眺めていた……。

 帝都が降魔の手に落ちたのは、それから僅か、一週間後のことであった……。

 抜けるような青空が広がっている。その晴天の下、さくらは全裸に剥かれて磔にされていた。それだけでなく、徹底的に辱めようという意図が働いているのか、本来ならば男性専用の磔台であるキ十字に、大の字の形にだ。
 ぎゅっと唇を噛み締め、さくらは群集を眺めている。おそらくは不幸でしかないのだろうが、彼女の強靭な精神は、いったんはバランスを崩しかけたものの結局は立ち直り、発狂することなく今日の処刑の日を迎えていた。
 激しい拷問によって受けた傷は、完全とは言えないもののほぼ治っている。体力の回復に伴って気力も多少は戻ったのか、叉丹のことを睨む瞳からは強い意思の光は失われていない。
「これより、逆賊、帝国華撃団の生き残りの処刑を行う!」
 叉丹の宣言に、群集の間にどよめきが走る。絶望や同情などが入り混じったものだ。薄く満足そうに笑うと叉丹はさくらの方へと向き直った。
「気分はいかがかね?」
「いい気になっていられるのも、今のうちよ。いつか……いつか、必ず、私たちの意思を受け継ぐ人たちが現れる。その時が、あなたたち降魔が滅ぶ時なんだから」
「くっくっく、この期に及んでもまだそんな口がきけるとはな。たいしたものだ。せいぜい、楽しませてくれよ?」
 叉丹の言葉と同時に、一人の男が手に槍を持って姿を現す。操られてでもいるのか、表情は虚ろだ。彼が手に持っているのは、普通の槍ではない。木製の柄の先にUの字型をした穂先が取り付けられ、その穂先からは鋭い刺が何本も生えているという、看守の槍と呼ばれるものだ。
「く、ぅっ。きゃあああああっ」
 どすっ、と、その穂先が左右に開かれたさくらの右の太股に突き刺さる。Uの中に太股を挟みこむように、だ。鋭い刺が太股に何本も突き刺さり、鮮血をあふれ出させる。さくらの口から悲鳴が漏れた。
「楽には殺さん。貴様はあの憎い男の血を引いているのだからな」
 ぐりっと、傷を抉るようにして槍を男が引く。はっはっと息を弾ませるさくら。
「ぐううううぅぅっ」
 今度は左の太股に看守の槍が襲いかかる。何とか悲鳴は噛み殺そうと、さくらが唇を懸命に噛みしめる。つうっと、鮮血が唇の端から滴った。
 同様に、両腕も槍の洗礼を受ける。刺によって引き裂かれた無残な傷口からあふれ出す真紅の血。可憐な少女の苦悶の図に、群集から悲痛な呻きが上がる。
 からん、と、音を立てて槍を捨てると、男がさくらが張り付けられている台の下に置かれた一本の杭を取り上げた。その鋭く尖った先端を、さくらの股間、割れ目へと押し当てる。
「い、いやっ、やめてぇっ」
 何をされるのか察しがついたさくらの口から、思わず哀願の声が漏れた。それにはかまわずに男がぐいっと杭をさくらの秘所へと押し込む。
「ぎいいいいいっ」
 びくんっ、と、さくらの身体が跳ねた。秘所へと太い杭を打ち込まれ、引き裂かれるのではないかと思うような激痛が走る。
「あっ、がっ、はっ、ぎひぃぃっ!」
 杭が秘所を埋め尽くしても、男の手は止まらない。尖った先端が子宮を貫き、更には内臓にまで達する。びくんびくんと身体を痙攣させながら、さくらが絶叫を上げ続ける。杭によって強引に押し広げられた秘所から、ぼたぼたぼたぼたと鮮血が滴り落ちる。
「殺……して、お願い、一思い、に……」
 微かにさくらの唇が動き、哀願の言葉が漏れる。その言葉に叉丹が嬉しそうに笑い、男が無表情に磔台の陰から槍を取り出す。これは一見普通の槍だが、よくみると先端には矢じりのようにかえしがついている。
 どすっと、さくらの横に回った男が槍を両手に持って突き出した。さくらの左の脇腹から入った穂先が彼女の身体を貫通し、右肩の辺りから顔を覗かせる。噴水のように吹き出す自らの鮮血に頬を染め、さくらが絶叫を上げた。
 男が槍を引き抜く。先端に付いたかえしが内臓や肉を引っ掻け、脇腹の傷から引きずり出す。
「ぎいいいいっ、ぎゃあああああっ、もう、もう、やめてぇぇぇぇっ!」
 あまりにも強い激痛に、恥も外聞もなくさくらが泣きわめく。ゆっくりと張りつけ台の後ろを回って反対側に移動した男が、無表情に槍を突き出した。さくらの体内でXの字の形に傷が交差する。
 左右の肩の傷から吹き出す鮮血に顔を真紅に染め、さくらが悲痛な悲鳴を上げる。男が槍を引き抜くと、やはりこちらの傷からも内臓が引きずり出される。
「きゃあああああっ、ああっ、あああっ、きゃああああああああああっ」
 全身の力を振り絞ったかのような凄絶な絶叫。男が今度はさくらの腹へと槍を打ち込み、手前に引くような感じで腹を裂く。ぴくぴくと震える内臓があふれだした。ごぼっと、大量の血をさくらが吐き出す。悲鳴を上げ続けているのか、ごぼごぼと不気味な音がさくらの口や喉の辺りで鳴っている。
 あまりにも無残。あまりにも残酷。群集の中には卒倒する人間の姿すら見える。しかも、叉丹は喉への止めの槍をあえてうたせなかった。内臓を左右から一度、正面から一度。さくらを貫いた傷はそれだけだ。無論致命傷ではあるのだが、その痛みでショック死出来なかった以上は失血による死を待つしかない。確かに大量に出血しているから、それは緩慢な死では決してないが、それでも時間がある程度かかるのは避けられない。
 びくびくと全身を痙攣させ、血と共に判別できない悲鳴をあげながら、さくらはもがき苦しみ続けた……。
(挿絵)

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