神崎すみれ


「くっ……この私ともあろうものが、はぐれてしまうなどと……」
 光武の操縦席の中で、神崎すみれはきゅっと唇を噛み締めた。周囲は燃え盛る炎に閉ざされ、操縦席の中に居てもじっとりと汗ばむほどの熱気が伝わってくる。炎と黒煙のために視界はひどく悪く、仲間たちの姿を完全に見失ってしまっている。
 黒鬼会の五行衆と名乗る幹部たちの一人、火車。彼とその手下たちが放った炎によって街並みは火の海と化していた。彼らを倒すべく出動した帝国華撃団の面々ではあったが、予想以上に早い火の回りに分断された形になっている。
「もっとも、この程度でやられる私たちではありませんけれど。……っ!?」
 不意に正面の炎の壁を付き破って現れたを、長刀の一閃で両断する。火花を散らしながら地面に崩れ落ちた相手をちらりと見やり、すみれはふんと鼻を鳴らした。
「観客も居ないのに、雑魚を倒していてもしかたありませんわね。まったく、不本意ですわ」
 じっと一所に留まっていては炎に巻かれる。光武の中に居れば多少は耐えられるとはいえ、炎を浴びつづけるのは流石に危険だ。今倒した敵が突き破り、多少は火勢の衰えた方へとすみれは光武を進めた。だが、それこそが相手の思うつぼだったのだ。
「っ! きゃああああああああっ!」
 突然、四方から強烈な火炎放射がすみれの光武を包み込む。罠にかかった、と、そう判断する間もなく、光武のあちこちが熱上昇に耐えきれずに煙を吹き出し、機能を停止していく。一瞬で蒸し風呂のような高温になった操縦席の中で、すみれは懸命に窮地を脱するべく光武を動かそうとする。だが、彼女の意思に反して光武は動こうとはせず、すみれ自身の意識も遠くなっていく。
(そんな……少尉……!)
 操縦席の中でがっくりとすみれが意識を失ってうなだれ、同時に光武もその場へと倒れ込む。火炎放射が止み、ゆっくりといくつかの影が機能を停止した光武の周りへと近寄っていった……。

「うっ……」
 小さく呻いて、すみれが顔を動かした。背中からひんやりとした感触が伝わってくる。気が付けば衣服は全て剥ぎ取られており、全裸で鋼鉄製の台の上に寝かされている。手首と足首には無骨な金属の輪がはめられ、そこから伸びた鎖は台の横へと消えていた。鎖はピンと張っていて、万歳をするように両腕をまっすぐに伸ばした体勢から身体を動かすことが出来ない。
「お目覚めですか?」
「っ……!? 私を、一体どうするつもりです!?」
 からかうような男の声に、そちらへと顔を向けながらすみれが反射的に詰問する。くっくっくっと低く笑うと、男は眼鏡を軽く中指で押し上げた。動作の一つ一つがいちいちきざっぽい。
「そうですね……。我々の仲間になってくれれば、いうことはないんですが。素直に頷いては、もらえないでしょう?
 そうそう、自己紹介がまだでしたね。黒鬼会五行衆が一人、火車と申します」
「黒鬼会……! 冗談ではありませんわ。この私が敵に寝返るなどと……」
「くっくっく……さて、その強がりが、いつまで続きますかな?」
 笑いながら、火車が台の横のスイッチを入れる。低い歯車の回る音が響き、台の中へと鎖が引き込まれていった。当然、その鎖に繋がれたすみれの身体は上下へと引き伸ばされることになる。(挿絵
「くっ……うぅっ。うっ……ああぁっ」
 歯を食い縛り、悲鳴を上げまいとすみれが懸命に堪える。苦悶に表情が歪み、全身から油汗が吹き出す。ぎしぎしと骨が軋み、白い裸身がぴんと棒のように伸びる。
「どうします? 強情を張っても、痛い思いをするだけですよ」
「わ、私を、誰だと、思って……あああーーっ」
 からかうような火車の言葉に、反論しかけたすみれの口から押さえきれなくなった悲鳴があふれ出す。顔を左右に振り、髪を振り乱して少しでも苦痛を紛らわそうとするが、機械によって巻き取られていく鎖はじわじわと彼女の身体を引き伸ばしていく。
「あっ、あっ、ああーーっ。きゃあああああーーーっ」
「おっと」
 ごきん、と、鈍い音を立ててすみれの肘の関節が外れる。大きく目を見開き、絶叫を上げるすみれ。軽く苦笑を浮かべて火車がスイッチを切った。巻き上げ機が動きを止め、はっはっはっと切れ切れの息をすみれが吐く。機械が止まったとはいえ、依然身体を上下に引き伸ばされた状態であることには変わりがない。関節の外れた肘を中心に、全身に激痛が走っている。
「このまま、身体を上下に引き裂かれたいですか?」
 つうっと、張りつめた腹へと指を這わせて火車が嬲るようにそう問いかける。激痛に掻き消されそうになる意識を懸命に繋ぎとめ、すみれは弱々しく首を左右に振った。そのわずかな動きですら、叫び出したいほどの激痛を生む。
「では、我々の仲間になると?」
「だ、誰に、物を言ってるんです……!? くうぅっ」
「やれやれ、強情ですねぇ」
 叫んだ拍子に走った激痛に呻きながら、それでも気丈に自分のことをにらみつけてくるすみれの姿に、火車が軽く両腕を広げて肩をすくめる。彼が台の横の別のスイッチを操作すると、低い唸りと振動を伴って台がゆっくりと起き上がり始めた。
「うっ、ああぁっ」
 すみれが苦悶に表情を歪め、悲鳴を上げる。いくら鎖でピンと引き伸ばされ、身動き一つ出来ない状態に置かれていたとは言ってもそれは水平な台の上でのこと。台が傾き、垂直に近くなるにつれて自分の体重が二本の腕に掛かり、吊るされているのに近い状態になっていく。脱臼した両肘に更なる負荷が加わり、目の前が暗くなるほどの激痛が走った。
「ひっ、いっ。くっ、あ……ぁ。あああーーっ」
「くっくっく、痛いですか? ですが、この程度はまだ序の口ですよ」
 苦悶の叫びを上げるすみれへと愉快そうに笑いかけ、火車が壁にかけられていた松明を手に取る。炎の点った松明を顔の側へと近づけられ、すみれが短い悲鳴を上げて顔を背けた。炎の熱気がじりじりと頬に伝わってくる。
「せっかくの奇麗な肌を、火傷でただれさせたくはないでしょう? 一言、はいと言えば余計な苦痛を味あわずに済みますよ」
「ば、馬鹿にしないでくださるかしら。例え殺されたところでこの神崎すみれ、仲間を裏切るようなまねはいたしませんわ」
 伝わってくる炎の熱気と腕を中心に全身に走る激痛に表情を引きつらせながら、それでも気丈にすみれがそう言い放つ。くくっと低く笑うと、火車は手にした松明の炎をすみれの胸の膨らみへと触れさせた。
「っ、きゃああああああーーーっ」
 右の乳房を炎で包まれ、すみれが悲鳴を上げる。身をよじって逃げようにも、鎖で上下にぴんと身体を引き伸ばされた状態ではほとんど身体を動かすことが出来ない。唯一自由に動かせる頭を激しく振り立て、すみれが悲鳴を上げつづける。
「ひいいぃっ、ひっ、ひいやあああぁっ。ああっ、あつっ、ああっ、あっ、ああああーーーっ」
「くくく……火に焼かれる味はいかがです?」
 嬲るように、火車が松明を動かしていく。ぱちぱちと小さな音を立ててはぜる炎が揺らめきながらすみれの肌の上を這いまわり、白い肌を焼き焦がしていく。火車の言葉に答える余裕もなく、すみれは悲痛な悲鳴を上げ、ほとんど動かせない身体を懸命によじっていた。
 右の乳房から左の乳房へ、更に脇の下を通って脇腹をゆっくりと炎がくだっていく。黒焦げになるには程遠いが、それでも無残な火傷がすみれの肌に刻み込まれていった。肉の焼ける臭いが周囲に立ち込める。
「くくく……さぁ、ここはどうです?」
「ひっ、や、やめ……! うぎゃああああああーーーーっっ!」
 脇腹から腰、太股を通過してついに炎がすみれの秘所へと到達する。炎に包まれた陰毛がチリチリと縮れ、燃えあがる。獣じみた凄絶な絶叫を上げ、こぼれ落ちんばかりにすみれが大きく目を見開いた。長く尾を引く絶叫が掠れて消え、それと同時にがっくりとすみれの首が折れる。白目を剥いて失神したすみれの、半開きになった口からつうっとよだれが糸をひいて垂れた……。

「それで? どうするつもりなの? 彼女」
 腕組みをし、壁に背を預けた水狐が火車へとそう問いかける。くくっと低く笑うと火車は中指で眼鏡を押し上げた。
「そうですね。後二、三日責めてみて、それでも強情を張るようなら殺しましょう。帝国華撃団なぞ、一思いに殲滅するのは容易ですが、それでは面白くありませんからねぇ。仲間が一人一人殺されていく恐怖と焦りに、せいぜい苦しんでもらいましょう」
「ふ、ん。まぁ、勝手にするといいわ。もっとも、木喰の二の舞だけはやめてよね」
 僅かに顔をしかめると、水狐がそう言う。彼女たちと同じ五行衆の一人であった老人は、捕らえた華撃団のメンバーの一人と相打ちのような形で倒されている。彼女が言ったのはそのことだ。
「おやおや、この私がそんな無様なまねをするとでも? 心配は御無用ですよ」
「ふん」
 もう一度小さく鼻を鳴らすと、水狐は壁から背を離した。
「では、お手並み拝見といこうかしら」

 大きな水槽の中で、逆さ吊りにされたすみれが空気を求めて身体をくねらせる。両腕は背中側に回されて縛られており、両足首に巻かれた鎖によって水に漬けられているのだ。足首まで水の中に沈んでおり、どうあがいても顔を水面から出すことは出来ない。
 ごぼっと、口から大きな気泡を吐き出し、すみれが身体を痙攣させる。火車が笑いながら床から生えたレバーを倒すと、じゃらじゃらとすみれの足に繋がれた鎖が天井へと巻き上げられていった。水から顔を引き上げられたすみれが、激しく咳込む。
「げほっ、げほげほげほっ。……う、うぅ」
「どうです? そろそろ、気は変わりましたか?」
「ふざけ、ないで……。いくら続けたところで、無駄ですわよ」
 ぜぇぜぇと荒い息を吐き、弱々しい口調ながらもきっぱりとすみれが否定する。落胆したふうもなく、火車がレバーを倒した。
「うぶっ」
 ばしゃん、と、水しぶきを上げてすみれの身体が水中に沈む。口を閉じ、頬を膨らませて懸命に息を止めているが、だからと言って無限に息を止めていられるはずもない。やがてゆらゆらと上体が前後に揺れ始め、顔が苦悶に歪む。笑みを浮かべて火車が見守る中、ついにすみれの口から気泡があふれた。ごぼごぼと続けて気泡を吐き出しながら、すみれが水中で身体をくねらせる。(挿絵)激しい苦悶の踊りが緩慢になった頃を見計らい、火車はレバーを倒してすみれの身体を水から引き上げた。
「げほっ。うっ、ううぅ……ぁ」
 うつろになりかけた視線をさまよわせ、すみれが小さく呻く。ぽたぽたと水滴を滴らせ、逆さに吊られているすみれのことを火車が楽しそうな笑いを浮かべながら眺めている。
「びしょ濡れですね。風邪をひくといけません。乾かして上げましょう」
 火車がそう言いながらレバーを操作すると、天井のアームがゆっくりと回転した。その先端に吊るされているすみれの身体も宙を滑り、水槽の上から外れる。じゃらじゃらと鎖が鳴り、すみれの身体が火車の目の前に降りてきた。半分失神しているのか、すみれは小さく呻くだけで特に何の反応も見せようとはしない。
「けほっ。う、ぅ……ひっ!? ひいいぃやあああああっ!」
 火車が松明を手にし、その炎を逆さ吊りにされたすみれの肌に這わせた。朦朧としていたすみれの瞳に光が戻り、ぐんっと背を反らせて悲鳴を上げる。空中で身体をくねらせ、何とか炎から逃れようとあがくすみれの身体へと執拗に炎を這わせながら火車が薄く笑った。
「遠慮することはありませんよ。随分身体も冷えたでしょう? 暖めてあげようと言ってるんですから、どうぞ、たっぷりと火にあたってください」
「ひいぃっ。いやっ、熱っ、やめてぇっ。きゃああああぁっ」
 じりじりと炎で肌を焼き焦がされ、大きく目を見開き、半狂乱になってすみれが泣き叫ぶ。乳房をふるふると震わせながら身悶えるすみれの姿に、ますます嗜虐心をそそられたのか火車はゆっくりと炎を腹から胸の方へと動かして行った。
「ひっ、ひいいぃっ。きゃあああぁっ、やめっ、やめてぇっ。いやあああああぁぁっ」
 揺らめく炎が、すみれの乳房を焼く。背を反らせ、身悶えながら少しでも炎から身を遠ざけようとするすみれ。だが、吊るされた上体で背を反らしたところで、すぐに元に戻ってしまう。くくくっと低く笑うと火車はいったんすみれの身体から松明の炎を遠ざけた。熱気から解放され、はぁはぁと荒い息を吐いているすみれの髪を左手で掴み、自分の方へとぐいっと持ち上げる。
「さぁ、どうです? 素直に、私たちの仲間になる気になりましたか?」
「くっ……! 馬鹿にしないで。殺された方がよっぽどましですわ」
 髪を掴まれる痛みのせいか、目に涙を溜めながらもすみれが気丈にそう言い放つ。くっと唇の端を歪めると、火車はゆっくりと右手に握った松明の炎をすみれの顔へと近づけていった。
「せっかくの奇麗な顔を、台無しにしたいんですか?」
「う、あ……あぁっ。か、神崎、すみれを、甘く見ないでくださいます? 敵の脅しに屈するようなまねは、決していたしませんわ!」
 視界一杯に広がる炎に、恐怖に表情を歪めながらもすみれはそう言った。ふぅっと溜め息を一つつくと、火車は無造作に松明をすみれの右半面へと押しつけた。
「ぎゃあああああああああああああーーーーーっ!!!」
 凄絶な、すみれの絶叫。身体を震わせ、炎の洗礼から何とか逃れようともがく。だが、火車の左手は万力のようにがっちりとすみれの頭を押さえていて外れない。周囲に肉の焼ける臭いが立ち込める。
「しかたありませんね……あなたはもう、死んでくれて結構ですよ。私は、また別のおもちゃを探すとしましょう」
 ぐりぐりと松明をすみれの顔に押し付け、悲鳴を絞り出しながら火車がそう呟く。火車の手がすみれから離れた頃には、彼女の右半面は無残に焼けただれていた。左半面は奇麗なままなだけに、いっそう無残だ。
「しばらく、そうしててください。こっちにも準備が必要なんでね……」
 潰されなかった左目でなおも自分のことをにらんでいるすみれに向かい、火車は薄く笑いながらそう言った……。

 そして、数刻後。すみれは全裸のまま張り付けにされていた。それも、十字架ではなくキ十字と呼ばれるタイプの張り付け台だ。二本の横木のうち上の横木には両腕が、下の横木には両足が、それぞれ広げて釘で打ちつけられている。大の字に手足を広げ、乳房も陰部も隠すことも出来ずに衆目にさらすことになる、屈辱的な姿だ。
 張り付け台の下には薪が積まれ、正面には大きな撮影機が据えられている。その撮影機の横に立つ火車が、薄く笑みを浮かべながら眼鏡を指で押し上げた。
「公開処刑と言うのも面白いんですがね。帝国華撃団の目の前で処刑しようとして、万が一私が倒されたりあなたを奪回されたりしたら馬鹿みたいですし。活動写真という形で皆さんにはあなたの最後を見てもらおうと思うんですよ。せっかくの悲鳴をお聞かせできないのが残念ですが……まぁ、その分、動きで苦しみを表現していただけると嬉しいですね」
「よ、よくもまぁ、こんな馬鹿らしいことを思いつきますこと。知能指数が低いんじゃありませんこと?」
 よくもこの期に及んで、というべきか、苦痛に表情を歪めながらもすみれはそう憎まれ口を叩いてみせた。一瞬、むっとしたように表情をしかめて火車がぎりっと奥歯を噛み締める。
「……その分なら、いい絵が撮れそうですね。あなたは役者でもあるそうですが、せいぜい名演技を期待していますよ。何しろ、やり直しはありませんからね」
 無理矢理押し殺したような笑みを浮かべると、火車がそう言って撮影機を動かし始める。同時に、彼の配下らしき男が一人、松明を手に張り付け台の下へと駆け寄った。それを視界の端に収めつつ、火車の台詞に引っ掛かるものを覚えたすみれが思わず、といった感じで問いかける。
「ちょっと、どうしてそれを……!?」
「知る必要はありませんよ。ここで死ぬあなたには、ね」
 火車が薄く笑う。配下の男が薪に火を放ち、油でもしみ込ませてあったのかいっせいに薪が燃えあがった。燃えあがった炎の高さは、すみれの太股の辺りか。
「う、うわあああああああぁっ。ひっ、ひいぃっ」
 更に問いを続けようとしたすみれだが、燃えあがる炎に足を包み込まれては悲鳴を上げるしかない。本能的に炎から逃れようと身をよじるが、それは手足の傷を広げるだけだ。
「いっやああああああぁっ。ひぃっ、熱っ、熱いっ、いやああああぁっ」
 恐怖と苦痛に表情を引きつらせ、釘で手足を打ちつけられた身を精一杯にくねらせてすみれが叫びつづける。煙はほとんど上がっていないから窒息死することも出来なず、炎の高さも腰までないぐらいだから自分の足が焼かれていく苦痛を味わいながらもなかなか致命傷にはならない。
「ころっ、ひいいいぃっ、殺してっ、ああっ、熱いっ、ひ、ひいいぃっ、あ、ああぁっ。ひ、ひと、思いに、ひぃっ、殺してぇっ」
「やれやれ、しかたのない人ですねぇ。では、御要望にお答えして、薪を足してあげましょうか」
 じわじわと焼かれていく苦痛に耐えきれなくなったのか、すみれの口から哀願の叫びが漏れた。その叫びすら、悲鳴によって切れ切れになる。くくっと笑うと、火車が配下に軽く手を振った。薪の束が炎の中へと投げ込まれ、炎が勢いを増す。
 ただし、それでもまだ、炎の高さは腹の辺りだ。
「ぎいいぃっ、いやっ、イヤアアァッ。熱いのは嫌ぁっ。ひいいいいやああぁっっ」
 楽になるどころか、むしろ火に焼かれる範囲が広がった分苦痛が増しただけだ。口の端に白い泡を浮かべ、身体を激しくくねらせながらすみれが絶叫をあげつづける。
「あっ、熱いっ、嫌ぁっ。ひいいぃっ、ひっ、ひいいぃっ。うああああああーーっ! 殺してぇぇっ!」
 半狂乱になり、叫ぶすみれ。くくっと低く笑いながら、撮影機の窓を覗き込み、そこに写し撮られていくすみれの苦悶の図を火車が鑑賞している。
「ほら、もっと腰を振って。その程度の演技じゃ、お客さんを満足させられませんよ」
「ああっ、ああああっ、ああああああああああああああぁっ。ひいいいいいいいぃぃっ」
 あざけるような火車の言葉も耳に入っていないのか、すみれは身体をくねらせ、絶叫を上げつづけている。ぱちぱちという薪の燃える音、ぎしぎしという張り付け台の軋む音、そして、すみれの上げる絶叫だけが響き渡る。
「ふむ、少し、火が足りませんか。もう少し、追加ですね」
「うあぁっ、うあっ、熱いいぃっ。ひやっ、や、やめてぇっ、死んじゃうっ、ああっ、熱いっ、早く殺してぇっ」
 薪が追加され、炎がすみれの胸の辺りまで包み込む。既にまともな思考力も残されていないのか、すみれの口から漏れる悲鳴は支離滅裂になりかけている。白い肌の上を遠慮なしに炎が走りまわり、蹂躪していく。炎に包まれ、無残な踊りを踊りつづけるすみれの姿を、撮影機が無情に写し撮っていた。
「あっ、ああああーーーーっ!」
 炎に包まれたすみれの上げる悲痛な叫びが、むなしく周囲に響き渡った……。
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