第一話 如月葉月


「あ、あの……本の、返却にきました……」
 放課後の、人気のない図書室。貸し出しカウンターの前に立った気弱そうな女生徒が小さな声でそう言った。背中ぐらいの髪を三つ編みにし、眼鏡をかけている。制服の襟に走るラインは赤だから、一年生だ。校則通り、左胸に小さなネームプレートを付けており、そこには如月葉月きさらぎはづきと記されていた。ちょっと珍しい姓名ではある。
「あ、そっ」
 不愛想に応じて、カウンターの中に居た図書委員が右手を差し出す。染めているのか、それとも地毛なのかは判然としないが、淡い栗色の髪をショートカットにした活発そうな少女だ。胸元のリボンを外し、大きく胸元をはだけるように制服を着崩している。上着の下のブラウスも第二ボタンまで外されていて、ちょっと覗き込めば下着や胸の膨らみが見えそうな感じだ。襟のラインは緑で、これは三年生を意味する。こちらは胸にネームプレートを付けてはいないが、カウンターの上にちょこんと紙を三角形にしてつくった名札が置かれていた。書かれている名前は、木崎優子きざきゆうこ
 おずおずと、三つ編み少女が本を差し出す。受け取って裏表紙を開き、図書委員が眉をしかめた。
「この本の返却日は、三日前のはずだけど?」
 じろり、と、上目使いににらまれ、三つ編み少女が泣きそうに表情を歪める。
「あ、あの、風邪をひいてしまって……学校、お休みしてたから……」
「ふぅん、だから? 返却日を過ぎた上に、言い訳までしようっていうの?」
 とんっと、カウンターで頬杖をつきながら図書委員がそう言う。ますます怯えた表情になって、三つ編み少女が胸元で左手を握り締めた。
「で、でも、今日、月曜日だから……」
「土日が休みだからしかたないって、言いたいの? 呆れたわね。遅れてごめんなさいの一言もなしに、自己正当化? おとなしそうな顔して、いい度胸してるじゃない」
 唇の端を歪め、図書委員がそう言う。何と言うか、鼠を見つけた猫のような表情だ。これからこの獲物をどう嬲ってやろうか、と、わくわくしているような瞳をしている。(挿絵
「ごっ、ごめんなさいっ。で、でも……」
「もう、いいわ。悪い子には、お仕置きが必要なようね」
 弱々しく反論しかける三つ編み少女の言葉をぴしゃりと遮り、図書委員がぱちんと指を鳴らした。一体どこにいたのか、二人の男子生徒が足音もなく三つ編み少女の背後に現れ、無言のまま左右から彼女の腕を掴む。動揺して三つ編み少女が身をよじるが、腕力が違い過ぎる。
「ゆっくり、教えてあげるわ。悪い子がどんな目に合うかを。ね、如月葉月さん……」
 ゆっくりと立ち上がり、カウンターの中から出てきた図書委員が三つ編み少女の胸のネームプレートを左手の指先で軽く持ちあげながらそうささやく。恐怖に眼鏡の奥の目を見開き、三つ編み少女が首を左右に振った。
「い、いや……お願い、許して……」
「連れていきなさい」
 三つ編み少女の弱々しい哀願の言葉に、図書委員がにやりと笑ってそう命じる。二人の男子生徒に引きずられるようにして連れていかれる三つ編み少女の姿を見送りながら、うふふっと図書委員が楽しげな笑い声を上げた……。

「お、お願いですっ。離してっ。酷いこと、しないで……っ」
 半泣きになった三つ編み少女--葉月の叫びが薄暗い室内に響く。途中で目隠しをされてしまったので、ここがどこかは分からない。ただ、階段を降りた回数から、どうやらここが学院の地下らしいということだけは分かった。この学院に、地下室が有るなどという話は聞いたことがなかったが、それだけにいっそう恐怖感が募る。今は目隠しは外され、眼鏡も掛けているが、部屋を照らす明かりが少し離れたところに置かれた机の上の蝋燭だけでは部屋の様子はほとんど分からない。まして、満足に周囲を見回すことも出来ない体勢だ。
 今、彼女は木馬の上に拘束されていた。木馬、と、いってもいわゆる三角木馬ではない。太い丸太に四本の足を生やしたものだ。木馬の上に腹這いになり、手足を木馬の足にロープで縛りつけられている。制服は着たままだが、靴とソックスは脱がされていて素足になっている。更に、パンティーを抜き取られ、スカートの裾をまくり上げられて下半身が剥き出しになっていた。彼女をここに連れ込み、拘束した二人の男子生徒たちの視線を感じて、頬が赤くなる。今時の高校生としては非常に珍しいことだが、内気で人見知りする質の彼女は、男性経験どころかまともに異性と付きあったことすらない。下半身を剥き出しにして、手足を拘束された今の状況は死ぬほど恥ずかしかった。
「うふふっ、可愛い格好になったじゃないの」
 笑い声と共に、かちゃりと音を立てて部屋の扉が開き、一人の女が部屋へと入ってくる。正面からの光に一瞬目を射られ、まぶしそうに目を細めた葉月が次の瞬間には驚愕に目を見開いた。
「さっきの……?」
「うふふ、そうよ。闇の図書委員長、木崎優子」
 先端に羽の飾りの付いた扇で口元を覆い隠し、優子が艶然と笑う。驚愕に声を失い、葉月はまじまじと彼女の姿を見つめてしまった。
 何しろ、彼女はついさっき会った図書委員と同一人物とは思えないほど変貌していた。顔の上半分は蝶を象った真っ赤な仮面で覆われており、楽しそうな笑みの形に歪められた唇には真っ赤な口紅を塗っている。更に、身にまとっているのは真紅のレザー・ボンテージ、それも股間の部分はハイレグ、胸の部分は切り取られていてそこから締め出された乳房が淫媚な形に強調されているという代物だ。おまけに、膝まであるピンヒールのブーツに肘まで覆う皮の手袋までしている。あいにく、葉月の知識の中には『女王様ルック』などという単語は含まれてはいなかったのだが、まさにそう呼ぶのがふさわしい格好だ。
「さ、準備が整いましたわ、新城あらき様」
 呆然としている葉月の背後へと視線を向け、優子が恭しい口調でそう言う。しゃっと、カーテンの引かれる微かな音が響き、動揺しつつ葉月が首を懸命にひねって肩越しに背後に視線を向けた。
「え……? う、嘘……」
 呆然とした呟きを漏らす、葉月。開かれたカーテンの向こうには、白いブレザー--生徒会役員の証である--を身に付けた一人の少年が楽しげな笑いを浮かべて座っていた。ただし、彼が腰掛けているのは椅子ではない。四つんばいになった、下着姿の女性。眼鏡がよく似合う理知的な容貌を持つ、今年大学を卒業したばかりの新任女教師だ。葉月のクラスの、副担任でもある。
 少年の左手が、女教師のパンティーの中に潜り込み、もぞもぞと動いている。ポールギャグをはめられた口から女教師が掠れた呻きを漏らし、頬を真っ赤に染め、首筋から流れ落ちて床の上に広がった黒髪を揺らして頭を振る。僅かに身悶えるだけで、その容貌--および、普段のスーツ姿--からは意外なほどに豊かな乳房がぷるんぷるんと揺れる。美しさよりも冷たさが先に立つような、そんな鋭い光を普段は宿している彼女の眼鏡の奥の瞳に、とろんと靄が掛かっていた。
「ふ、う、うぅん。ふ、あ、ふ、うぅっ」
 もぞもぞと薄い布地が動き、その下の少年の手の動きを伝えるたびに、びくんっと顔をのけぞらし、女教師は小さくくぐもった喘ぎ声を漏らしていた。つうっと、口元からよだれが糸を引いて床の上に落ち、小さな水溜りを作っている。その光景を、首をねじったまま葉月は呆然と眺めていた。現実の光景だと言うのが、どうしても信じられない。
「その子が、違反者かい?」
 呆然としている葉月の様子を気にも掛けず、涼しげな美声で少年が軽く首を傾げるようにして優子に問いかける。はい、と、恭しくお辞儀をして優子が微笑んだ。
「早速、罰を与えたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ひっ、いっ、嫌ぁっ。やめてっ、酷いこと、しないでっ」
 優子の言葉に、我に返った葉月が狼狽の表情を浮かべて掠れた叫びを上げる。うふふっと笑うと、優子が数歩歩み出て怯える葉月の顎に指をかけ、あおむかせた。
「あなた、運がいいわよ。私は名前のとおり、とっても優しいんだから。闇の生徒会には、とっても残酷な人が多いの。そんな人に当たったら、あなた、今頃もっと大変な目にあわされてるわよ。嬉しいでしょう? この学院のルールを教えてくれるのが、私みたいな優しい人で」
「お願い、許して……」
 掠れた、震える声で葉月が哀願する。ふふっと小さく笑うと優子は女教師に腰掛けた少年へと視線を戻した。
「悪い子は、お尻を叩かれる。それが昔からの伝統ですわ。お尻百叩きというのは、いかがでしょうか?」
「百叩き、ね。いいよ。優子の、好きなようにするといい」
 軽く首を傾げ、微笑を浮かべると少年がそう応じた。腰掛けた女教師のパンティの中から左手を引きぬき、ねっとりと濡れた指に舌を這わせる。左手と交代するように、彼の右手が女教師の胸元へと伸び、ブラジャーの内側へと差し込まれた。びくっと、女教師が身体を震わせて頭を左右に振る。拒絶しているような雰囲気は、ない。
「それじゃ、始めなよ。見物させてもらうからさ」
「はい、新城様」
 少年の言葉に頷き、優子が今までずっと無言を守っていた二人の男子生徒たちへと片手を上げて合図をする。一人がのっそりと動き、足元から何本もの木の枝を束ねたものを取り上げた。お尻を叩かれる、という優子の台詞に一瞬安堵の表情を浮かべた葉月だが、それを見てひっと短く息を飲んで顔を引きつらせた。
「いっ、嫌っ。お願いですっ。やめてくださいっ。お願いっ、許して……!」
「いーい? あなたが、自分で数を数えるのよ。ちゃんと数えないと、いつまでたっても終わらないから、そのつもりでね。あ、それと、当然だけど、数をごまかしちゃ駄目よ。そんなことしたら、また一から数え直させるからね」
 怯えた葉月の哀願を完全に無視して、優子がそう告げる。なおも言いつのろうとする葉月の後ろへと枝鞭を手にした男子生徒が移動し、剥き出しの白い尻へとひゅっと振り降ろした。
「ひいいいいぃーーっ」
 甲高い悲鳴をあげ、びくんと葉月が背を反らせる。おとなしく、手の掛からない子供だった彼女には、親にぶたれた経験がない。ただの平手打ちすら受けたことのない尻へと枝鞭の容赦ない一撃を受け、顔をのけぞらせて悲痛な声を上げる。その姿に、あらあら、と、口元を扇で覆って優子が笑った。
「駄目じゃない、ちゃんと数えないと。嫌なことは、早く終わらせるに限るでしょう?」
「ひっ、いっ。お、お願い、やめて……ひいいいぃ--っ」
 涙をあふれさせ、葉月が哀願する。その尻へと、枝鞭の第二撃が容赦なく襲いかかった。鋭い痛みに、背を反らせて葉月が悲鳴を上げる。くすくすと笑いながら優子が肩をすくめた。
「また数えられなかったわね。まだ0回よ? 頑張らないと、いつまでたっても終わらないわねぇ」
「ひっ、ひっ、ひぃっ。いっ、一ぃっ」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、尻を打たれた葉月が懸命に叫ぶ。白かった尻には、既に赤い筋が何本も走っていた。ひりひりとした痛みに、涙がこぼれる。
「そうそう、やれば出来るじゃない。ほら、あと99回」
「にっ、二ぃっ。あっ、ひぃっ、ひいいいいぃ--っ」
 ぴしゃり、ぴしゃりと、続けざまに枝鞭が葉月の尻を交差するように打ち据える。一撃目には辛うじて数を数えられた葉月だが、間を置かずに加えられた次の一撃には耐えきれなくなったように甲高い悲鳴をあげ、背筋を反りかえらせる。
「三っ、四ぃっ、あっ、ああっ、ご、五ぉっ。ひっ、やっ、痛いっ、ああっ、やめてぇっ」
 ぴしゃっ、ぴしゃっ、ぴしゃっと、手首のスナップを効かせて男子生徒が連打を浴びせる。痛みに葉月が呻き、涙を流し、ついには哀願の声を上げた。その間にも、ぴしゃりぴしゃりと枝鞭が葉月の尻を打ち据え、赤い筋を刻み込んでいく。
「ひぃっ、やっ、やめっ、ああっ、嫌ぁっ。やだっ、やだやだやだっ、ひいぃぃっ」
「泣いても駄目よ。あなたがちゃんと百数え終わるまで、罰は終わらないんだから。泣いてる暇があったら、数えた方がいいんじゃない? ああ、こんな忠告をしてあげるなんて、なんて私は優しいのかしら」
「あ、ああっ、ろっくぅっ、なっ、なぁっ、八っ! くっ、十ぅっ!」
 優子の、自己陶酔したような呟き。半ばやけくそのように葉月が数を叫ぶ。くすくすと笑うと、優子は鞭を振るう男子生徒にめくばせをした。小さく頷き、大きく男子生徒が腕を振り上げる。鞭の間隔が開いたことに息をのみ、葉月が身体を硬くする。ヒュンと空気を裂いて高々と振り上げられた枝鞭が葉月の尻へと振り降ろされた。
「ひっ、いいいいぃぃ--っ!」
 今まででも最大の痛みに、大きく目を見開いて葉月が絶叫する。顔をのけぞらせ、ぶるぶるっと身体を震わせるとがっくりとうなだれて荒い息を吐く。再び、男子生徒が枝鞭を振り上げた。
「や、め……きひいいぃぃぃ--っ!」
 弱々しく首を捻り、哀願の声を上げる葉月の尻に、容赦なく枝鞭が振り降ろされる。葉月の口から甲高い絶叫があふれ、肌が裂けてばっと鮮血が飛び散った。
「あらあら。駄目じゃない。女の子には、もっと優しくしてあげないと」
 くすくすと笑いながら優子が男子生徒へとそう言う。恐縮したように肩をすくめると、男子生徒は手首だけを使って軽くぴしぱしと葉月の尻を叩き始めた。軽く、とはいえ、既に真っ赤に腫れ上がった尻を枝鞭で叩かれているのだから結構痛い。葉月の口から、悲鳴と哀願が漏れる。(挿絵)
「痛っ、やめてっ、痛いの、あぁっ」
「ほら、早く数えなさい。これぐらいの痛みなら、数だって数えられるでしょう?」
「あっ、くっ、ひっ、十一っ、十二っ、十三っ、十四っ、十……」
 優子の言葉に、泣きながら葉月が数を数える。一定のリズムで打たれるのに合わせ、葉月はひたすら数を数えつづけた。
「二十一っ、二十二っ、二十三っ、二十四っ、二十五っ……」
 懸命に痛みを堪え、数を数えつづける葉月。その様子を眺めながら優子は軽く右手を上げた。小さく頷き、尻に当たる寸前で男子生徒が鞭を止める。だが、今まで単調なリズムで鞭打たれ、数を数えるということを続けてきた葉月は思わず三十っ、と、口にしていた。はっと表情をこわばらせる葉月へと、わざとらしい溜め息を付いて優子が視線を向ける。
「あらあら、打たれてもいないのに数を増やすなんて、いけない子ねぇ。最初に言ったわよね? ずるをしたら一から数え直しだって。可哀想だけど、やりなおしよ」
「そっ、そんな……っ。お願いですっ、もう許してくださいっ。お願いですから……っ」
「駄目よ。規則は規則だもの。はい、一から数え直して」
 優子の言葉と同時に、肘を曲げ、ぱしぃんと音を立てて男子生徒が葉月の尻を打ち据えた。手首だけでの軽い打撃に慣れ始めていた葉月が、ひいいぃっと甲高い悲鳴を上げる。
「ひっ、ひどい……っ。っきゃあああああっ」
 涙を流す葉月の尻へと、更に枝鞭が振るわれる。嗚咽を漏らしながら、葉月はしかたなくもう一度一から数え直し始めた。とはいえ、真っ赤に腫れ上がった尻を打たれる痛みは激しく、ともすれば数を口にすることも出来ずにただ悲鳴だけをあげることになる。
「ひぐっ、ひっ、十、二ぃっ、あっ、ああっ、ああっ。ひっ、いいいぃっ。じゅうさんんっ。嫌あぁっ、あっ、十四ぃ」
 枝鞭が振るわれるたびに彼女の尻はますます腫れあがっていき、あちこちの皮膚が裂けて血を流し始めた。小さな傷を、枝鞭が打ち据えて更に大きく広げる。そうなると傷をえぐられる痛みに泣きわめき、数を数えるどころの騒ぎではない。五回打たれる間にやっと一つ数を数えるかどうか、と言うペースで、それでもなんとか葉月は三十二まで数え上げた。既に打たれた回数は二百を越え、無数とも言える数の傷が彼女の尻を縦横に走って血を流している。枝鞭が尻を打つ音は、随分前に『ぴしゃり』から『びしゃっ』に変わっていた。白かった尻は赤く腫れ上がり、それ以上に赤い鮮血に染め上げられている。
「さっ、三十ぅっ、三っ」
 尻を枝鞭で打たれ、背筋を反りかえらせると絶叫するように葉月が数を数える。軽く優子が片手をあげ、男子生徒の手を止めさせた。鞭が止まったことを怪訝に思う余裕もなく、はぁはぁと葉月は息を荒らげている。うなだれた葉月の顎に指をかけ、あおむかせると優子はすっと目を細めた。
「また、嘘をついたわね?」
「う、嘘なんか、ついてませんっ」
 静かな優子の言葉に、動揺の表情を葉月が浮かべる。小さく首を振ると優子は静かな口調で言葉を続けた。
「ついたわ。まだ、三十一回でしょう? ごまかしちゃ駄目って、さっきも言ったのにまだ分からないの?」
「嘘じゃありません! わ、私、ちゃんと三十二って言いました。嘘なんか、つきません!」
 優子の言葉に、懸命に葉月が抗議の声を上げる。苦笑を浮かべると優子が軽く肩をすくめた。
「強情な娘ねぇ。いいわ、民主的に解決しましょう。あなたが嘘を付いたかどうか、多数決で決めるの。
 じゃ、この子が嘘を付いたと思う人は、手を上げて」
 優子の言葉に、二人の男子生徒がためらわずに手を上げる。小さく頷くと、優子は目を丸くしている葉月へと視線を戻した。
「賛成多数ね。嘘を付いてるのは、あなたの方に決まったわ」
「そ、そんな……!」
「民主的に、多数決を取ってあげたのよ。それで負けたんだから、あきらめなさい。ほら、一から数え直しよ」
 くすくすと笑いながら優子がそう言う。多数決も何も、二人の男子生徒たちが彼女の言葉に逆らうわけがないのだから、単なる数の暴力だ。絶望の表情を浮かべ、それでも抗議の声を上げようとする葉月の血に染まった尻を男子生徒が力いっぱい枝鞭で打ち据えた。背を反りかえらせ、葉月が悲鳴を上げる。
「きひいいぃぃっ。ひぎっ、ぎっ、や、やめ、て……ひいいいぃっ」
 びちゃっ、べちゃっと、濡れた音が響く。肌が破れ、肉が弾け、葉月の尻は見るも無残な様相を呈していた。枝鞭が、血を吸って真っ赤に染まっている。
「そのぐらいにしてあげたらどうだい? 優子。あんまりいじめすぎるのも可哀想だ」
 右手で女教師の乳房を弄びながら、苦笑混じりに新城がそう言う。軽く首を傾げ、優子が新城の方へと視線を向けた。くすくすと笑っている新城と視線を交差させ、にやりと口もとに笑みを浮かべて優子が頷く。
「それもそうですわね。奇麗なお尻もだいぶ血まみれになってしまいましたし。ただ……彼女はまだ、百までどころか五十も数えていませんから、これで無罪放免、というわけには流石にいきませんわ」
「そうだねぇ……かといって、それ以上お尻を叩くのは可哀想なんじゃない?」
 軽く首を傾げながら新城がそう言う。二人の、まるで予定されていたような会話を聞きながら、葉月は叩かれた尻から伝わってくる激痛に喘いでいた。こぼれた涙が眼鏡を濡らし、視界をぼやけさせている。
「さすがは新城様、お優しいですわね。では、お尻を叩くのはやめにして、背中を叩くことにしましょうか」
「お、お願い、もう、許して……。おうちに、帰して……」
 くすくすと笑いながらの優子の言葉に、息も絶え絶えといった風情になった葉月が哀願の声を上げる。だが、その哀れな声も、この場に居る誰の同情も買うことは出来なかった。手首を縛る紐がほどかれ、二人の男子生徒たちの手によって上体を引き起こされる。木馬にまたがるような格好になった葉月がひいぃっと悲鳴を上げた。丸い丸太だから股間に食い込むようなことはないが、血まみれになった尻が木に押しつけられて激しく痛む。
 苦痛に身悶える葉月のセーラー服が、男たちの手によって剥ぎ取られる。飾り気のないブラジャーがむしり取られ、やや未成熟な感じの小振りな乳房があらわになった。反射的に胸を腕で覆い隠そうとするが、男子生徒たちに腕は掴まれていて動かせない。抵抗することも出来ないまま再び身体が前に倒され、両手首を木馬の足に縛りつけられる。押し潰されて、小さな乳房がぐにゃりと形を歪めた。
「お、お願いです、もう、もうこれ以上、酷いこと、しないで……。許して、ください……」
 震える声で、必死に哀願を続ける葉月。そのきゃしゃな背中へと、枝鞭が振り降ろされた。ぱしぃんという乾いた音が響き、葉月の口から悲鳴があふれる。枝鞭に付着していた血が肌に移り、真っ赤な筋を描く。血の赤に隠されて目立たないが、数条のミミズ腫れが葉月の背中に走った。
「こっちはまだ、そんなに痛くないでしょう? でも、早く数えないと、お尻だけじゃなくて背中までぼろぼろになっちゃうわよ?」
「ひっ、ひいぃっ。お、お願いっ、許して……きゃあああっ」
 びしっ、ばしっと、背中に枝鞭を受け、葉月が悲鳴を上げる。ポロポロと涙をこぼしながら、しかたなしに葉月が打たれる回数を数え始めた。鞭の音と葉月の悲鳴、そして、苦痛に喘ぎながらも懸命に数を数える声だけがしばらく響く。
「三十、二っ。ひっ、ひっ、さっ、三十っ、三っ」
 背中を枝鞭で打たれるたびに、びくんと頭を反らせて葉月が悲鳴混じりの声を上げる。所々で白い肌が破れ、血を滴らせ始めていた。肩や首に近い辺りから腰の辺りまでまんべんなく鞭の洗礼を浴び、白かった背中に無数のミミズ腫れが刻み込まれて赤く腫れ上がる。
「三十、五……っ。ひっ!? きひいいぃぃっ!」
 背中に全神経を集中し、懸命に痛みに耐えていたところに、突然尻へと枝鞭の一撃を受けて葉月が背中を反りかえらせ、甲高い悲鳴を上げる。ぴんと背中を反りかえらせ、ぶるぶると全身を痙攣させる葉月の背中へと枝鞭の第二撃が襲いかかり、彼女の口から更なる悲鳴を絞り出す。木馬と密着した彼女の股間から、しゃあぁっと小水があふれた。
「あらあら、高校生にもなってお漏らし? みっともないわねぇ」
 くすくすと笑いながら、優子が嬲るような言葉を葉月へと投げ掛ける。一方、あざけられた葉月の方は虚脱したような表情を浮かべてひくひくと身体を痙攣させていた。木馬の足に縛りつけられた手足へと、背中や尻から流れ落ちた血が何本も赤い筋を描いている。
「おうちに、帰して……お願い……」
「百、数えたら帰してあげるわよ。もっとも、あなたのおうちはこの学院の寮だけどね」
 葉月のうつろな呟きに、軽く肩をすくめて優子がそう応じる。男子生徒が枝鞭を傷だらけの葉月の背中へと振るい、悲鳴を上げさせる。既に数を数えるどころの騒ぎではなく、打たれるたびに身体を震わせてただ悲鳴だけを上げつづける葉月。
「ひいぃっ。ひっ、ひいいぃっ。や、やめて……許して……きひいぃっ」
 十回、二十回と枝鞭が執拗に葉月の背中を打ち据える。肌が破れ、血が飛び散る。打たれるたびに身体を震わせ、悲鳴を上げる葉月。その悲鳴が徐々に小さくなっていき、叫びというよりは呻きに近いものへと変わっていく。やがて、ぶるぶるっと一度大きく身体を痙攣させ、掠れた呻きを漏らすと葉月は完全に失神した。軽く肩をすくめて、優子が新城の方へと視線を向ける。
「残念、気絶してしまいましたわ。とりあえず、この子は部屋に戻しておきますわね。続きは、またの機会にでも」
「そうだね。結構、楽しめそうだしね、その子。今壊しちゃうのはもったいないよね」
 くすくすと楽しげに笑いながら、新城は血まみれになり、気を失った葉月へと視線を向けた……。
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