朝比奈未森


「如月葉月さん?」
 下校時刻を少し回った、人気の少なくなった校舎の廊下。そこで不意に後ろから声をかけられて、葉月は戸惑いながら振り返った。活発そうなショートヘアの少女が一人、ぱたぱたと廊下を走ってくる。
「あ、あの、どなたですか?」
 ぎゅっと鞄を胸元に抱き抱えるようにして、葉月がそう問いかける。知らない相手に、不意に名前を呼ばれれば警戒するのも無理はないだろう。制服の襟元を走る赤いラインを見る限り、自分と同じ一年生らしいが、白井絵夢の例もあることだし安心は出来ない。
「あっ、ゴメンねっ。アタシは朝比奈未森(あさひなみもり)。ちょっと、時間いいかな?」
「え? あ、あの、ごめんなさい。人に、呼ばれてるから……」
 葉月の内心の動揺に気付いているのかいないのか、あっけらかんとした明るい口調で少女が名乗る。美人というよりは、可愛いという方がしっくりくるタイプだろう。軽く小首を傾げるようにして問いかけてくる彼女に向かい、済まなさそうに葉月が拒絶の言葉を口にした。前屈みになり、下から上目使いに葉月の顔を覗き込むようにしながら未森が更に問いを続ける。
「人に、って、もしかして、木崎先輩? 図書委員長の」
「え、ええ……」
「ふぅん、そっか。やっぱり、噂は本当だったんだ。ね、ね、木崎先輩に気に入られてるんでしょ? 歩きながらでいいからさ、いくつか質問に答えてよ。ね?」
 人懐っこい笑顔を浮かべながら、結構強引に未森が話を進めようとする。ごそごそと鞄の中からメモ帳とシャーペンを取り出す彼女のことを、思わず呆然と葉月は見つめてしまった。
「あ、あの、質問って……?」
「んー? ほら、この学校って報道系のクラブってないでしょ? アタシ、そういうのが好きだからさ、ないなら自分で作っちゃおうかなー、なんて思ってるわけ。
 で、宣伝兼ねて作る第一回の新聞の、ネタ集めしてるんだ、今。題して、『闇の生徒会の実態を探る!』。面白そうでしょ?」
「や、闇の、生徒会……!?」
 思わず、声を裏返した葉月のことを、きょとんとした未森が見つめた。
「どしたの? 変な声出して」
「そ、そのタイトルは、どうして……?」
「変かな? 何となく、謎めいた感じがして面白くない? ほら、やっぱり、新聞の見出しなんてのは読者の興味を引きつけてなんぼなんだし」
 軽い口調でそういう未森とは対照的に、葉月は服の下でびっしょりと汗をかいていた。彼女は自分では気付いていないだろうが、とてつもなく危険な橋を渡ろうとしている。止めるべきだろうか、だが、詳しい説明をせずに単に止めるだけで彼女があきらめるとは思えないし、かといって詳しい説明をしてもいいものかどうか……。内心で考え込んだ葉月の顔を、怪訝そうに未森が覗き込んだ。
「もしもーし? どうしちゃったの?」
「あ、あの、朝比奈さん……」
「は~ちゃん、なにやってんの?」
 ためらいながら口を開いた葉月を制するように、脳天気な声が響く。びくっと僅かに身体を震わせて振り返った葉月へと、声の主がひらひらっと手を振ってみせた。小柄な上に童顔なせいで、中学生か下手をすれば小学生ぐらいに見える少女だ。頭の左右でまとめた髪はくるっとロールしていて、大きなクロワッサンのような印象がある。髪をまとめるのは、大きなリボン。制服にもひらひらとしたフリルがたくさん付いている。もちろん、制服の改造はれっきとした校則違反なのだが。フリルに半ば埋もれているが、襟元に走るラインは二人と同じ赤色、一年生の色だ。
「赤岩、さん……」
「しぃちゃん、だよぉ。もうっ、は~ちゃんってば全然覚えてくんないんだもんっ」
 葉月の呼び掛けに、ぷうっと子供っぽく頬を膨らませて少女がそう言う。一瞬呆然としていた未森が、あっと小さく声を上げた。
「赤岩椎名(あかいわしいな)? Sクラスの……?」
「きゃはっ、しぃちゃん、有名人なんだぁ。で、おねーさんは誰?」
「あ、アタシは、朝比奈未森。赤岩さん、じゃない、しぃちゃん?」
「うんっ。あっと、は~ちゃん。ゆーこ先輩、待ってるよ。早く行った方がいいんじゃないかなぁ?」
 未森に『しぃちゃん』と呼ばれたのが嬉しいのか、満面の笑顔を浮かべて頷く椎名。いかにも子供っぽい動作だが、童顔のせいかあまり違和感がない。そんな彼女の呼びかけに、え、ええと掠れた声で頷いて葉月が視線を未森の方に向けた。
「すいません、朝比奈さん。わたしはこれで……」
「あ、ちょ、ちょっと。アタシも途中まで一緒に行くわよ。いろいろと、話を聞かせて欲しいんだから」
「お話? ね、ね、み~ちゃん、お話ってなぁに?」
 葉月の言葉に慌てた声を上げる未森の腕にひょいっと抱きつき、椎名が甘えた声を出す。一瞬目を丸くした未森が、やや戸惑いながら口を開いた。
「あ、あのね、アタシは新聞つくろうと思ってるの。で、生徒会のことをネタにしたいなぁって思って」
「へぇ~、生徒会のことを調べてるんだぁ。じゃ、しぃちゃんがは~ちゃんの代わりにいろいろと教えてあげよっか? しぃちゃん、これでも風紀委員だからぁ、いろいろ普通の人が知らないようなことも知ってるけどぉ?」
「へ?」
 椎名の言葉に、未森がきょとんとした声を上げる。この学年は一学年8クラス。A~Gの一般クラスと、厳選された少人数による特別クラスのSで8クラスだ。赤岩椎名はそのSクラスの人間で、生徒会に関わる人間はそのほとんどがSクラスなのだから--というより、生徒会に関わる人間がSクラスに編入される、という方が正確なのだが--、椎名が風紀委員というのはおかしな話ではない。実際、未森の頭の中にも知識としてそれは登録されている。ただ、噂では聞いていたものの、実際に会うのは初めて--Sクラスは別校舎なのだ--だったせいもあり、目の前のいかにも子供っぽい少女の姿と優秀で冷徹な風紀委員というイメージが巧く噛みあわなかったのだ。
「は~ちゃんもぉ、そのうちこっちに来るとは思うけどぉ、今はまだ知らないことが一杯有るからぁ。その点、しぃちゃんだったらぁ、み~ちゃんの知りたいと思うようなことはぜ~んぶ教えてあげられると思うんだけどぉ、どっかなぁ?」
「そ、そう……?」
 椎名のペースに半ば巻き込まれるような感じで、未森が首を傾げる。乗り気になってるような彼女の態度に、葉月がぎゅっと胸の前で拳を握った。しかし、にこにこと笑っている椎名に視線を向けられ、結局は何も言えずにぺこりと頭を下げる。
「それじゃ、私はこれで……」
「あ、ゴメンね、呼びとめちゃって」
「また後でねぇ、は~ちゃん」
 片手を顔の前に上げて拝むようなしぐさを見せる未森と、右手を頭上にあげてぶんぶんと勢いよく振る椎名。二人に見送られながら、葉月は最初の目的地--図書室へと向かった。

「ふぅん、来るのが遅いと思ったら、そんなことがあったんだ」
 図書室に並べられた机の上に腰かけ、木崎優子が軽く首を傾げながらそういう。椅子の上に座った葉月が恥ずかしそうに頬を染めながらこっくりと頷いた。上半身は裸である。幼い胸を絞り出すようにきつく赤い縄が巻かれ、うっすらと鞭の赤い筋が肌に浮かんでいた。椅子に腰かけたまま大きく足を開き、スカートをまくり上げて股間をあらわにしながら自慰を強制されているところだ。恥ずかしいのだが、手を止めれば優子が手にした乗馬鞭やら蹴りやらが飛んでくる。
「あ、あの、まだ、続けるんですか……?」
 羞恥に肌を真っ赤に染めて、葉月が弱々しく問いかける。いくらここが滅多に利用する人間がいない第二図書室とは言え、他の生徒が入ってくる可能性は皆無ではない。
「なに恥ずかしがってるのよ? いまさらでしょ? ああ、それとも、誰かが入ってくるかもって、怯えてるの? 大丈夫よ、私が黙らせるから、あなたが放課後の図書室でオナニーするような淫乱な女の子だなんて噂は、広がらないから」
「で、でも……」
 露骨な優子の表現に頬を染める葉月。弱々しく反論しつつ、彼女は視線をちらりと窓の方に向けた。カーテンが全開になっているから、コの字型の校舎の反対側、より高い階から室内を覗くことが可能な状態だ。その視線を目で追って、優子が苦笑を浮かべる。
「向こうの校舎から覗かれたところで、顔の判別なんて出来やしないわよ。ま、放課後の図書室でオナニーしてる女の子が居るって噂になって、ここの利用者が増えることはあるかもしれないけど。図書委員長としては、図書室の利用者が増えるのはいいことだしね。ほら、手を止めないのっ」
 けらけらと笑いながらそう言うと、優子が鞭を飛ばした。小さく悲鳴を上げ、すすり泣くような声をあげながら葉月はしかたなく再び手を動かし始めた。
(うう……もう、いや。誰か、助けて……!)
 誰かに裸を見られてしまうのでは、と、想像するだけで葉月は死んでしまいたいほどの羞恥に襲われてしまう。既に六月も半ば、初めて優子にお仕置きを受けてから二ヶ月近くたち、その間調教を受けつづけているにもかかわらず、葉月の羞恥心は一向に磨滅する様子を見せていなかった。もっとも、そんな初々しさを失わないところが、優子に気にいられている部分なのかもしれない。
「うっ、うぅんっ。ふ、あ、ふわぁ……」
「うふふっ、だいぶ、いい声で鳴くようになってきたじゃない。あら?」
 喘ぎを漏らす葉月のことを楽しげな笑いを浮かべて眺めていた優子が、ぶぶぶっという携帯の振動に眉を寄せた。校則では携帯・PHSの所持は禁止だが、生徒会の関係者は例外だ。何事かと思わず手を止めた葉月に鞭を振るってから、優子が懐から取り出した携帯を耳に当てる。
「もしもし? はぁ? なに言ってるのよ、いきなり。駄目よ、彼女は私の玩具なんだから。今遊んでるところなの。……あのねぇ、ちっちゃい子じゃあるまいし、他人の玩具を欲しがるんじゃないわよ、まったく。
 ……ちょ、ちょっと、泣かないでよっ。私がいじめてるみたいじゃない。……あー、はいはい。分かったわよ。貸したげるから、泣きやみなさいよ。もう……。じゃ、そっちに行かせるから。いい? 貸すのは今回だけだからね? ちゃんと返しなさいよ? ……はいはい。分かったから。もう切るわよ」
 怪訝そうな表情から不機嫌そうな表情へ、更に困惑からあきらめへと、次々に表情を変えながら優子が電話の向こうの相手と言葉を交わす。ふぅっと溜め息をついて携帯を切ると、額に指を当てて頭痛を堪えるような表情を優子は浮かべた。
「まったく、あの子ってば……。泣く子と地頭には勝てぬ、か。ほんとよね。
 葉月、服を着て。椎名が呼んでるわ。場所は、特別棟の化学室。いいわね?」
「え? え?」
 電話の内容に、呆然としていた葉月が急に言われてびっくりしたような表情を浮かべる。ひゅっと振った乗馬鞭の先端を葉月の鼻先へとつきつけると、少しいらだったような口調で優子が言葉を続けた。
「一度で分からないの? さっさと服を着て、特別棟の化学室に行きなさい。命令よ」
「は、はい……」
 怯えたような表情を浮かべ、床に脱ぎ捨てられたブラウスと上着を身に付ける葉月。その姿を不機嫌そうに眺めながら、優子が溜め息をついた。
「アレが次の風紀委員長ねぇ……世も末だわ」
「え?」
「何でもないわよ。さっさと行きなさいってばっ」
 八当たり気味に振るわれた鞭で頬をはたかれ、葉月がきゃっと小さな悲鳴を上げる。涙目になってずれた眼鏡を直すと、葉月は軽く頭を下げて足早に図書室を出ていった。はぁっともう一度溜め息をつき、優子がぐしゃぐしゃっと自分の髪を掻き回す。
「あーあ、つまんないの。地下(した)で適当な玩具でもみつくろおうかしらね?」
 今一つ気乗りのしない口調でそう呟くと、優子は机の上にぽいっと乗馬鞭を放り投げた。

「あ、来た来たっ。は~ちゃん、こっちこっち」
 明るい、と言うよりは、脳天気と形容したくなる口調でそう言いながら椎名が化学室の中央で元気よく手を振る。扉を開けた瞬間飛び込んで来た光景に思わず足を止めてしまった葉月が、恐る恐るといった感じで部屋の中へと足を踏みいれた。
「むーーっ! むむうぅっ」
 部屋の中央で、天井から吊るされた全裸の少女がくぐもった声を上げる。声がくぐもっているのは、猿轡を噛まされているせいだ。本人が身に付けていたパンティを丸めて口の中に押し込み、紐を回して吐き出せないようにした、即席の猿轡。机の間に渡されたモップの柄に、足を広げた体勢でふくらはぎの辺りを縛りつけられている。もっとも、縛り付けられていると言っても縄は緩く、むしろ足を動かせないように軽く巻き付けてある、といった方が正確だろう。当然体重を支える役にはたたず、彼女の体重は全て手首にかかっているはずだ。
「いらっしゃい。お客さんは、歓迎しますよ。ま、座ってください」
 吊るされた少女--未森の前に立つ男が薄く笑って葉月に席を進めた。皺の寄ったTシャツの上によれよれの白衣を羽織っている。口元には笑みが浮かんでいるが、黒縁の眼鏡の奥の目は少しも笑っていない。顎には不精髭がまばらに生えていた。
「あ、は~ちゃんははじめましてだよね? 風紀委員長の土門凶児(つちかどきょうじ)先輩だよぉ」
「は、はじめまして……」
 椎名の言葉に、おずおずと葉月が頭を下げる。もっとも、耳で聞く分には『キョウジ』という名前は珍しいものではないからそう出来た、という部分はあるかもしれない。字を示されれば、少なくとも驚愕の声を上げるぐらいのことはしていただろう。葉月の反応に軽く頷いただけで、口元に薄く笑みを浮かべたまま凶児は右腕を伸ばした。彼の手に握られたまち針が、ぷすりと吊るされた未森の乳房へと突き刺さる。
「むうう--っ!」
「私は、気が弱い男でしてね。血を見るのは苦手なんですよ。闇の生徒会のメンバーの中では、一番おとなしいのが私でしょうねぇ」
 目を見開き、首をのけぞらせてくぐもった悲鳴を上げる未森。誰かに向かって説明してるとも、独り言を言ってるだけとも取れる曖昧な口調で凶児がそう呟いた。呟きつつ、机の上の針山から引き抜いたまち針を、無造作に反対の乳房に突き立てる。新たな痛みにくぐもった悲鳴を上げ、身体を震わせる未森。
「痛いですか?」
「むー、ふぐーっ」
 凶児の問いに、目に涙を浮かべて未森が何度も頷く。それはそうだろう。既に、彼女の左右の乳房にはそれぞれ十を楽に越える数の針が突き立てられているのだ。猿轡を噛まされているせいでしゃべることが出来ないながら、懸命に哀願の声らしきものを未森が上げる。
「そうですか。まぁ、当然でしょうね。女性の乳房は、特に痛みには敏感な部分ですから」
「むぐううぅっ!」
 頷きながら、新たな針を突き立てる凶児。目を見開き、首をのけぞらせてくぐもった悲鳴を上げる未森へと、新たな針を手に取りながら凶児が言葉を続けた。
「痛覚というのは、要するに人間が身を守るためのものです。痛みを感じることで、人間は危険の存在を知り、そこから逃れようとすることが出来る」
「うぐあああぁっ!」
「痛みを感じるということは、極言してしまえば、放置すれば生命に関わる危険性が有る、ということです。痛みが大きいほど危険も大きい。単純な話ですよねぇ」
「ふっ、ふぐうぅぁっ!」
「しかし、そう考えるだけでは、女性の乳房が特に痛みに敏感でなければならない理由は説明できません。何しろ、これは基本的には脂肪の塊ですからね。別に、無くなっても生命に関わるわけじゃありませんから」
「むぐぐうああぁっ!」
 講義口調で言葉を続けながら、凶児が未森の左右の乳房へと交互に針を突き立てる。針を突き立てられる度にくぐもった悲鳴を上げ、未森は身体を震わせた。ポロポロと涙をこぼしながら苦痛に身悶える未森の姿を薄く笑いながら眺め、更に凶児が講義を続けていく。
「では、何故、乳房が痛みに対して特に敏感に出来ているのか。それは、乳房というのが子供を育てるために必要な器官だからです。無くなったとしても本人の生命維持には何ら問題は有りませんが、無くなってしまうと子供を育てることが出来なくなってしまう」
「むぐうううぅっ! ふっ、ぐっ……むぐううああぁっ!」
「つまり、個人の生命を守ることよりも、種族全体の維持の方が大切だ、ということですよね。例えば、足が無くなってしまえば本人の生命維持及び生活は困難になるわけですが……」
「んっ……」
 ぷすり、と、今度は太股の辺りに針を突き刺す凶児。ぴくっと身体を震わせ、小さく未森が声を上げた。もっとも、声も動きも、乳房に針を刺された時と比べればごく小さい。その反応を確認するように一つ頷くと凶児は次の針を手に取った。
「このように、足に針を刺した時の痛みは乳房に針を刺した時のそれと比べて小さいわけです。まぁ、そもそも、この程度の針の傷であれば危険度としてはごく低くなるわけで、むしろ危険度とふつりあいに大きな痛みを乳房は感じるようになっているわけですが」
「むぐううぅっ! む、ぐ、ぅ……ふぐうううぅっ!」
「つまり、個人の生活や生命などというものは、種族全体の保存という目的の前にはごく小さな価値しか持っていない、と、そういうことですね。そして、子を育てるための器官で有る乳房の中でも、直接子供に母乳を与えるための部分、乳首は特に敏感に出来ているわけですが……」
 ぷすりぷすりと未森の乳房に針を突き立てながら言葉を続けていた凶児がわずかに言葉を切り、視線を椎名の方に向けた。
「続きは、椎名君がやってみますか?」
「きゃははっ、いいのぉ? じゃ、しぃちゃんも、やるねぇ」
「ふぐっ、ふぐぐうぅっ。……うぐうう--っ!?」
 涙を流し、くぐもった哀願の声を上げている未森の右胸を、楽しそうな笑い声をあげながら椎名が背伸びして掴んだ。彼女の身長ではそうしないと吊るされている未森の乳首に針を刺すのは難しいのかもしれないが、十本以上の針を突き立てられた乳房を握られた方はたまったものではない。刺さってた針をより深く埋め込まれる激痛に、未森がくぐもった絶叫を放って背筋を反らせた。ぷるん、と、握られていない左胸が跳ねる。無邪気な笑いを浮かべながら椎名が握って引き下げた未森の乳首に垂直に針を突き立て、更に悲鳴を上げさせる。苦笑を浮かべながら、凶児が椎名に声を掛けた。
「椅子を踏み台にしたらどうです?」
「あ、そっかぁ。てへへ……」
「ふぐうぅっ、うぐっ、むぐうぅっ!」
 ぺろっと舌を出し、椅子の上に登る椎名。彼女に乳首をつままれ、ぐいっと引っ張られた未森が恐怖と苦痛に首を左右に振ってくぐもった悲鳴を上げる。垂直に針を突き立てられた乳首に更に針を刺される……その恐怖に、表情が引きつる。
「丁度、痛覚の実験をしたいと思ってたところだったんですよ。私は実験が出来るし、彼女は知りたかったことを身をもって知ることが出来る。利害の一致、と言う奴ですねぇ」
 恐怖に表情を歪め、ゆっくりと引き伸ばされた乳首に近づいてくる針を凝視している未森のことを眺めながら、凶児がそう呟く。自分に向かって言っているのだ、と、一瞬葉月が気付けなかったぐらい、淡々としたどうでもよさそうな口調だった。何と答えて言いのか分からずに困惑の表情を浮かべる葉月。そして、未森の乳首を横に針が貫いた。
「ふぐわあああああ--っ!」
 大きく首をのけぞらせて未森が絶叫する。軽く首を傾げながら、凶児が不精髭の浮いた顎をさすった。
「随分と激しい反応ですねぇ。乳首が特に弱点なのか、それとも純粋に痛みに弱いたちなのか……もう少し、データが必要ですか。椎名君、そっちの乳首にもう一本だ」
「ふぐっ、うぐぐうぅっ!」
 天井を仰ぐようにしてひくひくと身体を痙攣させていた未森が、凶児の呟きに恐怖の表情をはっきりと浮かべて首を振った。はぁい、と、明るく答えて未森がいったん乳首から指を離して机の上の針山から針を抜き取る。再び乳首をつままれ、針を近づけられた未森が恐怖と絶望が入り混じった叫びを上げた。ぷすっと、さっき貫通した針と直角に交わるように新たな針を乳首に突き立てられ、叫びが苦痛に満ちた絶叫に変わる。
「むぐがああああああああぁっ!」
「ふむ……。椎名君、次はクリトリスだ」
「はぁい」
 凶児の言葉に無邪気に応じると、椅子からぴょんっと飛び降りた椎名が未森の敏感な肉芽を無造作につまんだ。ふぐっ、と、くぐもった声を上げ、未森がイヤイヤをするように首を左右に振った。
「ここは、神経が集まってるから、という理由で痛みに敏感な場所ですね。何故神経が集まっているかというと、男性器と対応する器官だからです。人間の胎児は元来は男女の性別がなく、母親の胎内で成長するに従って器官の分化が起きるわけですが、男であれば大きく成長してペニスになる部分がこういう形で残ってるわけですね。まぁ、男に乳首が有るのと同じようなものですか」
「ふぐううっ、ふぐ……むがあああああああああ----っ!!」
 凶児の講義もほとんど耳に入れず、くぐもった悲鳴を上げていた未森が、ぷすりと縦にクリトリスを針で刺し貫かれて絶叫を放った。ビクンビクンと数度身体を痙攣させ、がっくりと前のめりに首を倒してうなだれる。軽く、凶児が肩をすくめた。
「おや、失神してしまいましたか。これはどうやら、痛みに弱い体質だった、ようですね」
「あやや。どっしよっか?」
「そうですね、感想も聞きたいことですし、水でもかけてみますか」
 軽く肩をすくめながらそう言い、凶児がバケツに水を汲む。ばしゃっと、無造作に水を浴びせられた未森がけほっけほっと軽く咳き込みながらうっすらと目を開けた。椅子の上に上って即席の猿轡を外し、うなだれる彼女の前髪を掴んで凶児が仰向かせる。
「気分は、どうです?」
「けほっ……もう、やめて。二度と、生徒会のことを嗅ぎ回ったりしないから……お願い、もう、許して……」
「おやおや。別に私は、生徒会のことを嗅ぎ回るな、などとは一度も言ってませんよ? 単にあなたが生徒会でやってることを知りたいと言うから、実際にやって見せて差し上げただけの話です。
 まぁ、もっとも、実際にあなたが新聞を出したりしたら、それを取り締まるのは私たち風紀委員の仕事ですから、予行練習的な意味もありますか」
 うなだれ、弱々しい口調で哀願する未森へと、笑いながら凶児がそう言う。言いながら、彼の左手が針を植え付けられた未森の左胸に伸ばした。ぐいっと、思いっきり握り締められて、未森が絶叫を放つ。
「ヒイイイイィィッ! 痛い、痛い痛い痛いぃっ! やめてっ、イヤアアアアアアアアァッ!!」
「もしかしたら、気持良くなるかもしれませんよ? 強い苦痛を感じると、人間の脳はそれを弱めるために脳内麻薬--エンドルフィンを分泌しますから」
 目を大きく見開き、絶叫をあげる未森へと笑いながら凶児がそう言う。針の突き立てられた乳房を揉みしだかれ、激痛に脳裏を真っ白にしながら未森が絶叫を放った。
「ギヒイイイィッ! ヒギッ、ギイイィッ、イヤアァッ、ヤメッ、許しっ、ギイイィッ!」
「ふむ、痛いだけですか……? これでも?」
 乳房を揉むのをいったんやめ、乳首を引っ張る凶児。かはっ、かはっと、とぎれとぎれの息を吐きながら口を開け締めする三森の乳首へと、ブスリと針が突き立てられる。声にならない悲鳴をあげて大きく首を仰け反らせると、ぐるんと白眼を剥いて再び未森は意識を失った。
「またですか。敏感なのはいいんですが、少し実験体としては耐久力に問題がありますねぇ……。ま、いいでしょう」
 苦笑を浮かべながら、そう言って凶児は肩をすくめた。彼に視線を向けられて、ビクッと思わず葉月が一歩後ずさる。
「葉月さん、でしたか。あなたも、どうです? 参加しますか?」
「い、いえ、私は……」
「そうですか。まぁ、参加したくなったら、いつでも言ってください。針はまだ、充分に用意してありますから」
 そう言いながら、凶児がバケツで水を浴びせ、未森の意識を取り戻させる。小刻みに身体を震わせながら、許しを乞う彼女の身体へと、凶児と椎名の手によって針が突き立てられていくのを、葉月は震えながら見守っていた。
 乳房にびっしりと針が埋め込まれ、秘所の周り、尻、太股などへも次々と針が突き立てられていく。悲鳴をあげ、身体をくねらせ、懸命に許しを乞う未森。けれど、その哀願が聞き入れられることはなく、幾度も気を失っては水を浴びせられ、あらかじめ用意された百本の針全てが打ち込まれるまで、未森が解放されることはなかったのである……。
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