白井絵夢


「気分はいかがかしら? 委員長殿?」
 くすくすと笑いながら、制服姿の女生徒が侮蔑の色を込めてそう問いかける。分娩台を思わせる台の上に全裸で拘束された保健委員長、白井絵夢が口元に微かな笑みを浮かべた。
「少なくとも、悪い気分ではありませんわね」
「あら、そう。けど、いつまでその余裕が続くかしら? うふふっ」
 絵夢の言葉にあからさまな嘲笑を浮かべ、女生徒が傍らに置かれた机の上に腰を降ろす。机の上には大振りのレバー式のスイッチが置かれており、そこから伸びたコードは床の上に置かれた四角い機械へと、更にその機械から伸びた二本のコードは絵夢の左右の足首に巻かれたベルトへと繋がっている。
「まずは、小手調べといきましょうか」
 薄く笑みを浮かべながら、女生徒がレバーに手をかけ、ガコンと倒す。同時に、弾かれたように絵夢が身体を弓なりにのけぞらせ、甲高い悲鳴を上げた。
「きゃああああああああぁぁ--っ!」
 膝と手首とに巻かれた拘束用の革ベルトを引き千切らんばかりに大きく身体をのけぞらせ、ぶるぶると小刻みに身体を痙攣させる絵夢。その様を冷笑を浮かべながら眺めていた女生徒がレバーを元の位置に戻すと、断ち切られたように悲鳴が消え、どさっと重い音を立てて絵夢の身体が拘束台の上に落ちる。全身にびっしょりと汗を浮かべ、はぁはぁと荒い息を吐く絵夢のことを眺めやりながら、女生徒が口元を右手の甲で覆って嘲笑を上げた。
「うふふっ、どう? 電流の味は」
「い、いいわ……凄く、気持ち、いいの……」
「あら、そう。なら、もっと味わいなさい」
 うわごとのような絵夢の返答に、侮蔑の笑みを浮かべると女生徒が再びレバーを倒す。絵夢の身体がブリッジでもするかのように弓なりにのけぞり、口からは悲鳴があふれる。
「ひああああああああああぁぁ--っ!」
「あはっ、あはははっ」
 笑い声をあげながら女生徒がレバーを戻し、絵夢を電気責めから解放した。どさっと拘束台の上に汗でびっしょりになった裸身を落とし、絵夢が荒い息を吐く。軽く反動をつけて机の上から降り、女生徒は拘束台へと歩み寄ると喘いでいる絵夢の前髪を乱暴に掴んで自分の方へと顔を向けさせる。
「どう? 気持ちいいの? 電気を流されるのが、嬉しいの?」
 侮蔑混じりの女生徒の問いかけに、とろんとした瞳を宙にさまよわせて絵夢が頷いた。
「は、はい、気持ちいいです……嬉しいですぅ」
「あらあら、本当に変態ねぇ、あなた。電気を流されて喜ぶなんて。ここなんか、もうぐちょぐちょじゃない」
 くすくすと笑いながら、割り広げられた絵夢の股間へと女生徒が手を伸ばす。ぐっしょりと濡れ、ひくひくとうごめいている秘所へと指を突っ込んで掻き回すと、ひいぃっと喉を鳴らして絵夢が顔をのけぞらせた。
「いいっ。そ、そこっ、気持ちいいのぉ。もっと、もっと掻き回してぇ」
 清楚な容貌に似合わぬいんとうな声をあげ、絵夢が喘ぐ。だが、にやりと口元を歪めると女生徒はあっさりと絵夢の秘所から指を引き抜いてしまった。あぁんっと残念そうな声を上げる絵夢の前髪を再び掴み、侮蔑を込めて笑いかける。
「あなたみたいな変態には、指じゃ物足りないでしょう? もっといいものをあげる。電極をあなたの中に突っ込んで、電気を流してあげるわ。電流に犯されて、たっぷり悶えなさい」
「あ、あぁん……」
 目をとろんと潤ませ、絵夢がおねだりをするように腰を振る。苦笑を浮かべながら女生徒は機械から伸びたコードの一つを太い金属製の棒に繋ぐと、手加減なしに一気に絵夢の秘所へと突き込んだ。
「くひいいいぃっ! 太い、太くて、冷たいのが、奥、奥に当たってるっ」
「あらあら、随分とこれが気にいったみたいね。でも、これに電気を流されても喜んでいられるかしら?」
 目を剥いて喘ぐ絵夢へとからかうような声をかけながら女生徒が机の上に腰を降ろす。拘束台に身体を固定されたまま、期待するように腰を振っている絵夢。女生徒の手がレバーを倒した途端、絵夢の身体が大きく弓なりにのけぞった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアァッ!!」
 目と口とをまんまるに開き、絵夢が絶叫する。両足首からの通電を受けた時より更に大きく身体をのけぞらし、ぶるぶると激しく身体を痙攣させる。女生徒がレバーを戻すとどさっと絵夢の身体が落ち、ひゅー、ひゅーと喉が笛のような音を立てる。
「どう? 天国が見えたかしら? それとも、地獄? うふふ」
「う、あ、あ……」
 からかうような女生徒の言葉に、半開きになった口の端からよだれを滴らしながら絵夢が不明瞭な喘ぎ声を上げる。くすっと笑うと再び女生徒がレバーを倒した。
「ギッギャアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 絶叫と、痙攣。がたがたと拘束台が揺れ、ピンと反りかえった身体の上でぶるぶると乳房が揺れ踊る。レバーが戻されるとどさっと重い音が響き、大きく胸を上下させて絵夢が喘いだ。
「あっはっはっはっは、ほぉら」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 笑いながら女生徒がレバーを倒す。絶叫を上げ、大きく身体を弓なりにのけぞらせて絵夢が悶える。敏感な秘所の粘膜を中心として全身を電気が貫き、激痛と熱とを走らせる。だが、目と口とを大きく開いた絵夢の顔には、苦痛以外のものも確かに浮かんでいた。
「うふっ、うふふっ。気持ち良かったでしょう? さて、どうしようかしら? もう終わりにして欲しい? それとも、もっと酷い目にあわされたい?」
「う、あ、あ……も、もっと、もっと、私を、痛めつけて……目茶苦茶に、してぇ……」
 レバーを戻し、電気ショックから絵夢を解放すると女生徒は荒い息を吐いている彼女のもとに歩みより、前髪を掴んで嬲るような口調で問いかける。ぼんやりと幕がかかったような瞳を宙にさまよわせながら、うわごとのように絵夢が哀願の声を上げる。その反応を予想していたのか、軽く肩をすくめただけで少女は拘束台の横に屈み込み、その下に置かれていたものを取り出した。
「それじゃあ、これを使って上げる。結構、作るのは大変だったのよ? 感謝して欲しいわね」
 笑いながら少女が取り出したのは、有刺鉄線で編んだ網だった。二本の細い鉄の棒を十数本の有刺鉄線が互いに絡み合いながら繋いでいる、というものだ。拘束台の横から取っ手を引き出し、二本の鉄の棒をそこに固定する。歪んだアーチを描き、有刺鉄線で編まれた剣呑な網が絵夢の肩から太股の間にかけての範囲を覆った。今は鉄の刺は絵夢の身体に触れてはいない。
「さて、この状態で電気を流したら、どうなると思う?」
「あ、ああ……そんな、そんなことされたら、身体がズタズタになっちゃいます。ああ、凄い、痛くて、気持ちよくなれる……あぁん、お願い、早く、早くぅ」
 清純な容貌をいんとうに歪め、絵夢が懇願する。侮蔑の視線を投げ掛けると、女生徒は絵夢の股間から無造作に電極を引き抜いた。あぁんとくやしげな声を上げる絵夢を無視し、機械の元へと歩み寄るとボタンを操作してモードを高電圧モードから低電圧・断続通電モードへと切り替える。これは、低い電圧を流す、切るを延々と繰り返すと言うものだ。操作を終えると彼女は机へと戻り、無言のままレバーを倒した。
「ウギャッ、ギッ、ギビャッ、ビャッ、ギギャガギギャッ、ウギャッ、ウギャギャッ、ギギギギギッ、ギギャギャッ、ギャビャアアアァッ、グギャッ、ギャウッ、ギャビャビャッ……!!」
 電気ショックによってびくんと跳ねた絵夢の裸身が、張り巡らされた有刺鉄線の網へと勢いよく突っ込む。白い柔肌へと無数の刺が突き刺さり、容赦なく引き裂いて真っ赤な鮮血をあふれさせる。断続的な通電に、絵夢の身体が跳ね上がり、短い時間痙攣し、拘束台の上に落ちてはまた跳ね上がるということを繰り返すが、彼女の身体の上には有刺鉄線で編まれた凶悪な網が被せられているのだ。裸身が跳ね上がるたびに有刺鉄線の無数の刺が彼女の柔肌を引き裂き、痙攣によってその傷が更に広がり、脱力して拘束台の上に落ちる時には突き刺さったままの刺たちが更に傷をえぐり、広げる。
「どう? 気持ちいい? それとも、流石のあなたでも痛いだけかしら?」
「ギャビャガガガッ、グギャガッ、ギャギャギャッ、ウギャッ、ギャギィッ、ウギャアッ、ビャッ、ビギャギャギャッ、ギャウウゥッ、ヒギャッ、グギャガッ、ギャギャッ、グギャアァッ、ギギギギギッ、ギャギャアッ……!!」
 落ちかかってきた前髪を無造作に掻き上げ、侮蔑の笑みを浮かべて女生徒が問い掛ける。絵夢の方はといえば、大きく目を見開いたまま、若い娘が上げるとも思えぬ濁った獣じみた意味をなさぬ絶叫を上げつづけながらがくがくと身体を上下に震わせている。今の通電は断続的なものだが、通電を受けている絵夢の感覚としては連続通電と大して変わらない。致命的な程強烈ではないにせよ、意思に反して身体が跳ねる程度には強い電流が彼女の身体を貫き、細胞一つ一つを焼かれるような激しい痛みが全身を駆け巡る。加えて、鋭い有刺鉄線の網が容赦なく彼女の柔肌を捕らえ、貫き、引き裂いていく。傷の上に傷が刻み込まれ、肌がぼろぼろに裂け、肉がえぐられる。無数の傷から鮮血が際限なくほとばしり、全裸のはずの彼女が真っ赤な服を着ているかのような錯覚さえ起こさせるほどだ。彼女の全身を染める血の海の中には、小さな肉片すら浮かんでいる。
「ウゲギャッ、ギャビャッ、ギガガガガッ、ウギィッ、ヒギャギャッ、グギャアアッ、ギギャウッ、ギャウッ、ギャギャギャンッ、ウギャガガガッ、グゲウッ、ビャギャアギギャッ、グギャビャガガギィッ……!」
 絵夢の口からは、際限なく濁った絶叫があふれる。一つの痛みに上げる絶叫に別の痛みがもたらす絶叫が重なり、不明瞭な意味をなさない絶叫だ。今、彼女は、普通の人間であれば失神どころかそのまま発狂、あるいはショック死を起こしても不思議ではないほどの激痛に責め苛まれている筈である。しかし、彼女の股間からあふれる蜜はその量と濃さをどんどんと増していき……。
「あら……?」
 軽く首を傾げる女生徒の見守る中、ぷしゅうぅっと絵夢の股間から透明な液体が勢いよく噴射する。一瞬痛みのあまり失禁したかと思った女生徒だが、その正体に気付いて顔をのけぞらせて笑い声を上げた。
「あはっ、あははははっ。あんた、そんな状態で、潮吹くほど感じてるわけ!? とんでもない変態ね! このマゾ犬!」
「アギャギャッ、ギャビッ、ギャガガガガッ、ウギャッ、ギガゥガビャガッ、ギャガガッ、ウギャアッ、ギャッ、ヒギャアァッ……!」
 女生徒の嘲笑が耳に入っているのかいないのか、濁った絶叫を上げながらがくがくと身体を上下に振りつづける絵夢。
 一分……二分……。時間が刻々と過ぎるが、女生徒は口元に笑みを浮かべたまま動きを見せない。濁った絶叫を上げ、がくがくと身体を上下に痙攣させる絵夢のことを眺めているだけだ。
 五分……十分……。なおも女生徒は動かない。絵夢の身体からあふれ出す血は、既に拘束台の下の床に大きな血溜りを作っている。と、不意に彼女の大きく開かれたまま絶叫を吐き出しつづけてきた口の端に、白い泡が浮かんだ。最初はほんの少しだったその泡が、加速度的に量を増して彼女の口全体を覆い、更にあふれて顔へと掛かる。既に悲鳴を上げることを止めながらも、がくがくと腰を振りつつ更に潮を吹く絵夢の姿に口元を歪め、女生徒がレバーを戻した。電気ショックから解放され、身体を跳ねさせるのを止めた絵夢は、完全に白目を剥き、ぶくぶくと口から白い泡を吹いて悶絶している。もっとも、その悶絶の理由が、苦痛のためなのか激し過ぎる快楽のせいなのかはよく分からない。彼女にとっては、苦痛は快楽のほぼ同義語であろうから。
「やれやれ、潮吹いて悶絶とはね」
 呆れたように肩をすくめながら、女生徒が絵夢の身体を覆う有刺鉄線の網を取り外し、更に彼女の足首から電極付きのベルトを外す。それらを片付けると、女生徒は絵夢の顔へとバケツで水を浴びせ掛けた。べっとりと髪を顔に張り付け、弱々しい呻きを漏らしながら絵夢がまぶたを上げる。
「う、あ……あう」
「そんなに気持ち良かった? じゃ、最後の仕上げに、たっぷりと薬を塗って上げる。ふふっ、どれだけしみるかは、わざわざ説明するまでもないわよね? たっぷりと塗り込んで上げるから、丸一日以上は楽しめる筈よ。どう? 嬉しい?」
「は、はい……嬉しい、です。は、早く、塗って……もっと、痛くして。気持ちよくさせてぇ」
 目をとろんと潤ませて、絵夢が哀願する。口元を歪めると、女生徒は足元においてあった漆塗りの重箱を取り上げ、蓋を開いた。無造作にボロ雑巾のようになった絵夢の身体の上で重箱をひっくり返し、中にたっぷりと満たされた真っ赤な塗り薬を彼女の上にぶちまける。
「ウッギャアアアアアアアアアアァァッ!!」
 絶叫を上げ、目を見開き、身体を反りかえらせようとする絵夢。その身体を押さえ込むようにして、女生徒は両手の平で山盛りになった赤い塗り薬を絵夢の無残な傷へと塗り込んでいく。
「ウギャギャギャギャギャギャッ、ギャビャッ、ビャッ、ビャギャガジャベブギャゲビィッ、ブギャッ、アジャゲギャグギャッ、ビャギャジャブデジャギャッ、ビジャギャガギャァッ!!」
 女生徒の手が動くたび、絵夢の上げる絶叫が錯乱した、意味をなさないものになっていく。この薬は新城財閥の資金援助を受け、絵夢とその姉の砂斗、それに彼女たちの実家の製薬会社の研究員たちとで開発したもので、奇跡的とも言えるほどの治癒効果を発揮するのだが、商品化はされていない。かなりの重傷でも一日あれば跡も残さず消えさるという、冗談というよりは妄想じみた治癒効果を発揮するにもかかわらず、いや、むしろそれ故にというべきか、塗られた人間にとんでもない激痛をもたらすせいだ。しかも、その痛みは傷が完全に癒えるまで弱まることなく続く。傷を治すために塗った薬の痛みで発狂、あるいはショック死したのでは笑い話にもならないだろう。
 獣じみた、といったら獣の方で腹を立てそうなほど濁った、既に表記不能の絶叫を上げながら、絵夢が激しく身体をのたうたせる。しかし、まんべんなく薬を塗り込み終えた女生徒が視線を絵夢の股間に移すと、そこからは後から後から濃い蜜があふれ出し、滴り落ちていた。
「信じられない変態ぶりね、まったく……」
 呆れたように肩をすくめ、女生徒が絶叫を上げながら拘束具を引き千切らんばかりに激しくのたうつ絵夢に背を向ける。一瞬絵夢の身体が弓なりに反り、ぷしゅううっと股間から潮が吹き出した。

「一応、終わったわよ。明日になったら様子を見に来ることね」
「御苦労様です。これは、約束の報酬です」
 絶叫を上げながら普通の人間であれば発狂ものの激痛に悶えつづける絵夢を残し、部屋から出た女生徒は後ろ手に扉を閉めて絵夢の絶叫を断ち切ると、廊下に控えていた男子生徒に憮然とした表情で声をかけた。一応の礼儀は守りつつも、動作や口調の奥に嫌悪感を交えて男子生徒が分厚い封筒を差し出す。無言でそれを受け取った女生徒の背に、やや甲高い声がかけられた。
「お仕事は終わった? だったら、次は私の依頼を受けて欲しいんだけど、予約は大丈夫かしら? プレイ請け負い人の麻生枝奈さん?」
「木崎委員長……?」
 かけられた声に振り返った女生徒--枝奈が僅かに意外そうに目を見開く。悪戯っぽい笑みを浮かべ、闇の生徒会図書委員長、木崎優子はひらりと片手を振った。
「そうよ。で、どうなの? 先約があれば無理にとは言わないけど?」
「いえ、かまいません。ですが、あなたであればわざわざ私を雇わなくても相手には困らないのでは?」
 やや警戒するように枝奈がそう問い掛ける。彼女は、生徒会に属さないフリーの人間だ。普段は、やはり生徒会には属していないものの、サド、もしくはマゾの性癖を持つ生徒を対象にプレイの相手を勤めている。生徒会の、特に中枢近くに位置している人間ならともかく、そうでない人間にとってはプレイの相手を探すのは結構難しい。ソフトSMならまだしも、ハードSM、さらには拷問に近いようなレベルのものとなると尚更だ。枝奈自身はサド寄りの人間で、本来は責められて喜ぶ性癖は持ちあわせていないのだが、彼女は金銭的な欲求で自分の性癖を押さえ込むのが容易なタイプであり、それなりの報酬と引替えに責められ役を勤めることが多い。今回は絵夢からの依頼で久しぶりに責め役をやったわけだが、元々彼女と生徒会との関りは薄かった。生徒会の人間であれば、わざわざ金を出してプレイの相手を探さなくても相手はよりどりみどりなのだから、それも当然だが。絵夢が責め役を彼女に依頼したのは、その過激な要求に他の委員長たちや配下の保健委員たちが尻ごみ--あるいは閉口--をしたせいでしかない。拷問好きな委員長も多いが、そう言った人間が見たいのは苦痛と恐怖に歪む表情であり、快楽に悶える表情ではないのだ。
「まぁ、私の相手ならわざわざあなたに頼まないけどね。あなたに相手をして欲しいのは、あなたと同室の相手なのよ」
「如月葉月、ですか? しかし、彼女はあなたの『お気に入り』でしょう? 相手など、あなたがいくらでも見繕える筈では?」
 苦笑混じりの優子の言葉に、更に怪訝そうに枝奈が問い返す。ひょいっと肩をすくめて優子が苦笑を浮かべる。
「どっかの馬鹿が余計なことをしてくれたおかげで、私の予定が狂っちゃったのよね。もう少ししてからあの子に『責める悦び』を徐々に教えてくつもりだったのに、馬鹿が私に断りなくあの子に結構ハードな責めをやらせちゃったのよ。おかげですっかり警戒心が強くなっちゃって、私の言うことなんか聞こうともしないの。ま、そこが可愛いんだけどさ。
 ともかく、今のあの子は私の命令を聞く気がまるでないし、私の配下の人間が自分を責めてくれって頼んでもやらないと思うのよね。私の差し金で強制されてるんだって分かっちゃうだろうから。
 でも、形はどうあれ、他人を責める経験をしたことでもやもやとくすぶってるものはあるみたいなの。今は期待よりも不安の方が大きいみたいだけど、同室のあなたならちょっと気に掛かったことがあるんだけど、みたいな感じで話を切り出せば、もってきようによってはあの子に責め役をやらせることが出来るんじゃないかなって、そう思ってね」
「……確かに、最近の彼女はどこかぼうっとしてるような所があります。気にはなってたんですけど。
 でも、うまくいくかどうかは分かりませんよ? 彼女は元々おとなしい子で、あんまりサドの傾向強くないみたいですから」
「駄目なら駄目でいいわ。別の方法を考えるから。うまくあの子に『責める悦び』を教えられたら報酬を払う、駄目でも別にペナルティはなし。悪い話じゃないと思うけど?」
 なおも警戒するような枝奈の言葉に、軽く肩をすくめながら優子がそう言う。しかし、口元は笑っていてもその目は笑っていない。内心で小さく溜め息をつくと、亮子は笑みを浮かべてみせた。
「確かに、美味しい話ですね。その依頼、請けさせてもらいます。
 確認しておきますが、内容は彼女を責めに慣れさせること、責めの内容そのものは問わない。それでいいですか?」
「ええ、いいわ。ま、最初からハードなのは無理でしょうしね。軽く鞭と蝋燭辺りで十分よ。もともと、私自身もそんなにハードな責めをする方じゃないし」
 笑みを浮かべながら--相変わらず目は笑っていないが--優子がそう言い、枝奈は内心で溜め息をつきながら頭を下げた。
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