麻生枝奈(その2)


「あら?」
 まだ始業時間にはずいぶんと早い時間帯。部活の早朝練習に来ているものを除けば、登校している人間などまだほとんどいない時間帯にもかかわらず、教室の扉に背を預けるような格好でぼんやりと立っている人影を見とめて如月葉月が怪訝そうな声を上げる。その声に気付いたのか、人影は扉から背を離すとこちらへと向かってきた。
「……ずいぶんと、早いな」
「え、ええ。でも、沙智さんも、早いですね。何か用でもあったんですか?」
 同級生である雪野沙智と葉月とは、比較的良好な関係を保っている。人付き合いが苦手な葉月にしてみれば、さしてきがねなく話せる数少ない人間の一人だ。もっとも、二人の共通の友人である赤岩椎名の存在がなければ、引っ込み思案の葉月と極端に無口な沙智とが親しくなることはなかっただろうが。
「昨日は、地下に行っていたそうだな? 椎名から聞いたが」
「え? ええ……。あの、それが、何か……?」
 自分の問いを無視するような形で、硬い表情のままそう問い掛けてくる沙智に葉月がやや動揺しながら頷く。じっと彼女の瞳を見詰めながら、沙智が更に問い掛けた。
「楽しかったか?」
「それは……まぁ。あの、沙智さん? どうかしたんですか?」
「いや……私の考え過ぎだったようだ。すまない、忘れてくれ」
「は、はぁ……」
 小さく頭を振って去っていく沙智の後姿を呆然と見やり、葉月は困惑した表情のまま首を傾げた。

「おや、あなたも、やっぱり来ていましたか」
 階段を上ろうとしたところで頭上から声をかけられ、沙智が足を止めて頭上を振り仰ぐ。眼鏡の蔓を指で押し上げながら、笑う白衣の男……よく見知った相手の顔に、沙智は無言で目礼する。
「取り越し苦労でしたか?」
「分からない、まだ。今のところは、平気そうだが」
「そうですか。実は昨日、木崎委員長に電話してみたんですが……ずいぶんと腹を立ててましたよ」
 笑いながらそう言い、階段を降りてくる相手の顔を不機嫌そうに見やりつつ、沙智が問い掛ける。
「何に?」
「もちろん、彼女にですよ。どうも、彼女に怒られたらしいんですよねぇ。しかも、彼女の雰囲気に何も言い返せず、謝ってしまったそうで。それを聞いたときは、まずいかな、とも思いましたが……そうですか、今のところは平気そうですか」
「私の判断が正しいかどうかは、知らない。ただ、貴重な情報の提供には、感謝する」
 そっけない口調でそう言い放ち、沙智が階段を上がる。軽く肩をすくめながら白衣の男--風紀委員長、土門凶児はすれ違いざまに彼女に呼びかけた。
「あなたには、期待してますよ」
「私は、椎名のために動いているだけだ。あなたのためではない」
「充分ですよ。それでね」
 笑いを含んだ凶児の言葉に、小さく沙智が舌打ちした。

「ふぅ……」
 特に何事もなく授業が終わったその日の放課後。学園の地下、生徒会専用の空間に足を踏み入れた葉月が重い溜息を吐く。ここに来たのは自分の意志だが、それでもその表情は暗い。
「楽しかった、か……そうよね、私、楽しかったのよね」
 コツ、コツ、コツと、静まり返った廊下に自分の靴音だけが響く。やがて目的地の扉へと到達し、葉月は憂鬱そうな表情で扉を見やった。ノブに手を伸ばし、握る直前になってためらうように宙をさ迷わせる。
「私は……」
 この扉を開けたいのか、開けたくないのか。昨日感じた、自分が自分でなくなるような感覚。その感覚をもう一度味わいたいという思いと、もう二度とごめんだという感覚とが、入り混じって自分の中に存在する。
「ん……」
 左手を口元に持っていき、人差し指の第一関節のあたりに軽く歯を当てる。僅かな逡巡の後、葉月は一度大きく深呼吸するとノブを握り、扉を開いた。
「う、あ……あぁ」
 壁に鎖で拘束され、ぐったりとうなだれていた枝奈が、扉の開く音に弱々しく顔を上げる。全身に刻まれた鞭の跡が痛々しい。その哀れな姿を目にすると、葉月の心にあったためらう気持ちがすうっと消えていった。
「気分は、どうですか?」
「う、ううぅ……お願い、もう、許して……」
「そうですね。本当は、今日は何もしないであなたを解放しようかと、ついさっきまでは考えてたんですけど……」
 にいっと口元を歪め、葉月が殊更にゆっくりと枝奈の元へと足を進める。怯えた表情を浮かべて首を左右に振る枝奈の髪の毛をがしっと掴むと葉月は意地の悪い口調で囁きかけた。
「でも、あなたの姿を見たら気が変わりました。ふふっ、今日は、蝋燭でたっぷりと責めてあげますよ」
「ひぃっ」
 掠れた悲鳴を上げる枝奈の髪を乱暴に突き放すと、葉月が彼女の手足を戒める鎖を外す。どさっと床の上に崩れ落ちた枝奈が這いずって逃げようとするが、体力の消耗のせいかその動きは鈍い。くすっと笑いを浮かべると、無造作に葉月は枝奈の腹を蹴り上げた。
「ぐふっ! あぐ、あ、げほげほげほっ」
「手間をかけさせないで貰えますか? まぁ、余計な苦痛を味わいたいというんなら、話は別ですが……」
 そう言いつつ、床の上でのたうつ枝奈の尻を蹴り飛ばす。別に格闘技をやってるわけでもない葉月の蹴りは軽いものだが、それでも枝奈の抵抗心を奪うには充分だった。まぁ、蹴り以上に、冷ややかな言葉の方がもっと効果的だったのかも知れないが、ともかく怯えた表情で枝奈が葉月の顔を見上げ、こくこくと何度も頷く。
「は、はい、逆らったりしません。だから、どうか、許して……」
「そう、そうやって素直にいうことを聞いていればいいんですよ。それじゃ、その台の上に寝てくださいね」
「あ、ああ……」
 にっこりと笑いながら葉月が台を指し示し、絶望の表情になって枝奈がぐったりと重い身体を台の上に引きずり上げる。丸一日にわたって何も口にしてないため、喉が乾いてヒリヒリと焼けるようだった。耐え難い喉の乾きに、おそるおそる枝奈が葉月へと呼びかける。
「あ、あの……何か、飲むものを……。喉が乾いて、もう、死にそうなんです……お願いします」
「ああ、そういえば、そうでしたね」
 革のベルトで金属製の台の上に枝奈の手足を拘束し、大の字にしながら葉月があっさりと頷く。ほっとした表情を浮かべた枝奈のほうに視線を向け、葉月が笑った。
「水でいいですよね。たっぷりと、飲ませてあげますから」
「……っ!?」
 葉月の言葉に、剣呑なものを感じ取った枝奈が表情を引きつらせる。自分が何か致命的な間違いを犯してしまったような感覚に捕らわれ、身体を震わせる枝奈の姿を笑いながら見やると葉月は彼女を置いて部屋から出ていった。
 そして、待つことしばし。恐怖に震える枝奈にとっては無限とも思える時が過ぎ、葉月が部屋に戻ってくる。右手には重そうに膨れたビニール袋を持ち、左手には何か器具のようなものを持った姿だ。一旦右手のビニール袋を床に置くと、葉月がにっこりと笑う。
「ごめんなさいね、お待たせして。それじゃ、始めましょうか」
「ひっ、い、イヤッ、何をする気っ!?」
 恐怖に目を見開いて叫ぶ枝奈の頬がぱぁんといい音を立てる。彼女に平手打ちを見舞った葉月が笑いながら枝奈の顔を覗き込んだ。
「あなたが喉が乾いたというから、わざわざ用意してきてあげたんですよ。感謝の言葉もなしですか?」
「あ、う……」
「ふぅ。まぁ、いいでしょう。さ、口を開けてください」
 右手に器具を持ち、葉月が笑う。本能的に歯を食いしばった枝奈のことを見やり、溜息を一つつくと葉月は左手を枝奈の乳房の先端、乳首へと向けた。爪を立てて乳首を摘み、容赦なく捻り上げる。
「ヒギャッ……ウブッ!?」
 悲鳴を上げた枝奈の口へと素早く器具を押しこむ葉月。器具から生えたベルトを器用に枝奈の頭の後ろに回し、固定する。更に器具の横に付いた螺子を回すと、ギリギリギリっと軋んだ音を立てて器具が開いていく。
「あ、が、あ、がが……」
 無理やり口を大きく開けさせられ、枝奈が不明瞭な呻きを上げながら涙を流す。これから何をされるかを明瞭に悟った恐怖の涙だ。くすくすと笑いながら葉月が彼女の頭も台のベルトで固定し、頭を動かせないようにする。
「さて、それじゃ、たっぷりと飲んでくださいね。喉が乾いて死にそうなんでしょう?」
 笑いながらそう告げ、葉月が1.5リットルペットボトルの蓋を開ける。恐怖に顔を引きつらせる枝奈の口へと無造作にミネラルウォーターが注がれた。
「うぶっ、ぶっ、ぶふぅっ! おぶっ、ぶっ、うぶぶぶぶ……」
 枝奈の口から不明瞭な悲鳴が漏れる。顔を背けることも口を閉じることも出来ず、窒息しないためには注がれる水を飲むしかない。もちろん枝奈も懸命に注がれる水を飲み干そうとしてはいるのだが、1.5リットルの一気飲みなど出来るものではない。息が続かなくなったところでむせ返り、それでも注がれる水が気管に入りこんで焼けるような痛みをもたらす。
「おぶっ、げぶっ、うぶぶぶぶ……ごぶっ、ぼっ、ごぼぉっ」
 大の字に拘束された身体がばたばたと跳ねる。ペットボトルの傾きを変え、一気に大量に注いだり間を置いて僅かに息を整えさせたり、といったことをしながら葉月が笑う。
「あらあら、もったいない。喉が乾いているんでしょう? 吐き出したりしないで、全部飲んでくださいよ」
「うぶっ、ぶっ、ごぶうぅっ……ぶふっ、うぶぶぶぶ」
 顔を水浸しにして枝奈が身悶える。びくんっ、びくんっと彼女の身体が跳ね、不明瞭な苦悶の叫びが溢れる。一本目のペットボトルが空になる頃には枝奈はぐったりとしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ほお、ふふひへぇ」
「あら、もう一本、持って来てあるんですけど、もう要らないんですか?」
 口を開けたまま固定されているせいで不明瞭な哀願の声を上げる枝奈。彼女の方に視線をやりつつ、葉月が床の上からもう一本のペットボトルを取り上げる。表情を引きつらせる枝奈。
「ひひゃはいっ、ほおひひゃはいっ」
「そうですか。でも、せっかく重いのを我慢して持ってきたんですから」
 そう言いつつ、葉月がペットボトルの栓を捻る。ぶしゅうっと、炭酸の抜ける小さな音が響いた。悲鳴を上げ、激しく身体をくねらせる枝奈。だが、拘束は緩まず、顔を背けることも口を閉じることも出来ない。黒い炭酸飲料がもがく枝奈の口へと無慈悲に注がれる。
「ふぶううぅぅっ! えぶっ、ぶはっ、ぶふぅぅっ」
 ぱちぱちと弾ける炭酸の刺激……ただの水でも辛いのに、炭酸飲料では一息に飲み干すのはますます難しい。目を大きく見開き、拘束された身体をくねらせて枝奈が苦悶の踊りを踊る。
「ふぶぶっ、うぶぅっ、ぶあっ、ぶああぁっ、ごぶっ、ぶっ、うぶあぁっ」
「ふふっ、炭酸の一気飲みは辛いですよね。ゆっくりと注いで上げますから、時間をかけて飲んでください」
 かえって残酷なことを言いながら、葉月が枝奈の口へと炭酸を注ぐ。激しく身体をばたつかせ、枝奈が悲痛な叫びを上げる。不明瞭なその叫びを聞きながら、葉月は笑っていた……

「う、あ……あふぅ」
 ぽかんと口を開けたまま、枝奈が弱々しく呻く。既にその口から器具は取り外されているが、体力をかなり消耗しているのかぐったりとしたまましゃべることも出来ない。そんな彼女の様子を見やり、葉月が軽く首を傾げた。
「少し、やり過ぎちゃいましたか。これ以上やるのも可哀想だし、蝋燭は明日にしたほうがいいかなぁ……?」
 ぐったりとしたまま荒い息を吐く枝奈。軽く肩をすくめると葉月は枝奈へと呼びかけた。
「どうします? 麻生さん。今日はもう疲れたって言うんなら、蝋燭はまた明日にしますけど」
「あ、う、あ……した?」
「ええ。蝋燭責め、今日やる予定でしたけど、麻生さんがそれは嫌だっていうんなら、明日にします。まぁ、麻生さんがまだ大丈夫って言うんなら、今日のうちに終わらせたいんですけど」
 葉月の言葉に、一瞬枝奈が沈黙する。体力はだいぶ消耗しているし、正直言えばもうこれ以上酷いことなど何もされたくない。だが、一晩ここで放置され、明日また蝋燭でいたぶられるというのもぞっとしない話だった。
「私は、大丈夫だから……蝋燭で責めていいから、もう終わりにして」
 本音を言えば、蝋燭で責められたくはない。だが、葉月は蝋燭責めをやらない限り自分を解放しようとはしないだろう。ならばさっさと終わらせて、この地獄から解放された方がまだましだ。そう考えた枝奈が震える声でそう答える。
「そうですか? まぁ、麻生さんがそういうんなら……」
 小さく呟いて葉月が棚から太い真っ赤な蝋燭を取り出す。ライターで火をつけるとゆらゆらと炎を揺らす蝋燭を枝奈の身体の上にかざした。ひっと枝奈が引きつった悲鳴を上げる。
「いやっ、近いっ、近過ぎるっ!」
「近い?」
「SMの蝋燭プレイは、身体から最低でも30cmは蝋燭を離すのよっ。そうしないと、蝋が熱すぎるっ。火傷しちゃうわっ」
「へぇ? ああ、なるほど、落ちる間に空気で冷やされるから、高いところから落とせば温度は低く、低いところから落とせば温度は高くなる、と、そういうわけですか」
「そうよっ。だから……!」
 額のベルトが外されているせいである程度自由に動かせる頭を懸命に上げ、葉月とその手の蝋燭とを見つめながら枝奈が懸命にそう叫ぶ。くすっと笑うと、葉月は更に手を下げ、ほとんど肌に触れそうな至近距離から溶けた蝋を枝奈の乳房へと浴びせ掛けた。
「ひぎゃああああああうううぅっ!?」
 絶叫を放って枝奈が顔をのけぞらせる。傾けた蝋燭を再び立て、蝋を貯めこみながら葉月がくすくすと笑った。
「ひ、ひぃ……酷い……酷いわ」
「ああ、本当に熱そうですね。でも、これってSM用の低温蝋燭とかいう奴でしょう? 普通の蝋燭と比べると、融点が低いからあんまり熱くないって聞きましたけど」
「ろ、蝋は蝋よ……熱いに、決まってるじゃない」
「まぁ、そうですね。熱くなければSMにはならないわけですし。っとと」
 喘ぐような枝奈の言葉に頷いた葉月が、手にした蝋燭の方に目をやって少し慌てたような声を上げる。こんもりと盛り上がった蝋が今にもこぼれそうになっていた。
「ぐひいいいいいやあああああぁっ!」
 びしゃっと溶けた真っ赤な蝋が枝奈の乳房に浴びせられる。至近距離から浴びせられ、熱いままの溶けた蝋は肌の上を少し流れていき、枝奈により大きな苦痛を与えた。
「ひっぐ、ひっぐ……ひ、酷いわ」
「まだまだ、始まったばかりですよ。ふふっ」
「きゃああああぁっ!」
 すすり泣く枝奈へと笑顔で応じ、ぽたり、と再び葉月が枝奈の肌へと蝋を垂らす。前の二回とは違って蝋を貯めこむ量が少なく、垂らされた蝋によって出来た真っ赤な花の大きさは小さい。とはいえ、肌に近い場所から落とされた蝋の熱さは枝奈に悲鳴を上げさせるには充分だった。
「きゃあああああぁっ! ひいいいいぃっ! 熱いっ、熱いいぃっ! ひきゃああああぁっ! やめてっ、もうやめてぇっ! くひいいいいいぃっ!」
 ぽたり、ぽたりと葉月が蝋を垂らす。肌の上に真っ赤な蝋の花が咲くたび、甲高い悲鳴を上げて枝奈が身体を跳ねさせる。その声にますます楽しそうに笑いながら葉月が手を動かし、肌のすぐ側から蝋を落とす。
「きひゃああああぁっ! ひっ、ひいいいいいっっ! 熱いっ、燃えちゃうっ! くひゃああああああぁっ!」
 胸、腹、太股、腕……身体のあちこちに真っ赤な蝋の花を咲かせて枝奈が身悶える。枝奈自身、蝋を垂らされるというプレイは幾度となく経験しているし、時には今のように近い位置から蝋を垂らされることもあった。だが、ここまで連続して至近距離から垂らされた経験はない。体勢を立て直す間も与えられず、灼熱の痛みに悲鳴を上げて身体を跳ねさせる。
「ふふっ、そろそろ、かな……?」
 いったん蝋燭を傾けるのを止め、葉月がそう呟く。はぁはぁと息を荒らげ、びっしょりと全身に脂汗をにじませて枝奈が掠れた声を上げた。
「な、何を、する気……?」
「もちろん、敏感な場所に垂らすんですよ。まずはこっちから……」
「ひいっ、いやっ、やめてっ、そんなところは……せめて、離して垂らしてっ、お願いだからっ!」
 右の乳房を握られ、枝奈が恐怖に満ちた絶叫を放つ。くすくすと笑いながら、葉月は触れんばかりに蝋燭を枝奈の乳首へと近づけ、そして蝋を垂らした。
 ぼとっ、じゅううううう……。
「ふぎゃああああああひいいいいぃぃっ!!」
「うふふっ、あははははっ」
 こぼれおちんばかりに目を見開いて絶叫を上げる枝奈。がくがくと全身を痙攣させる彼女の姿に、葉月が楽しそうに笑う。そして、笑いながら左の乳房を握り、乳首へと蝋燭を近づけていく。
「やぁっ、やめてぇっ……ぐひゃあああああああああぎいいぃぃっ!!」
 恐怖に表情を引きつらせて哀願の声を上げる枝奈。その声もむなしく乳首へと蝋が滴り、彼女の口から絶叫が溢れる。彼女の絶叫に、葉月の笑い声が重なった。
 そして、ひくひくと身体を痙攣させる枝奈の姿を楽しげに眺めやりながら、葉月が蝋燭に蝋を貯めこんでいく。ひぃ、ひいぃ、と、掠れた声で喘ぎながら枝奈が哀れな声で葉月に哀願した。
「も、もう、限界よ……これ以上は、許して……お願い、もう、許してよぉ」
「あら、肝心なところが、まだ残ってるじゃないですか。まぁ、そこに垂らしたら、蝋を垂らすのはやめにしますけどね」
「あ、ああぁ……」
 葉月の言葉に、絶望の呻きを枝奈が上げる。がっくりと首を横に向け、すすり泣く彼女の姿を見やりながら、たっぷりと蝋を貯めこんだ蝋燭を葉月は枝奈の股間の茂みへと近づけていく。
 ぼとぼとっ、じゅうわあああああ……。
「ぐうぎゃああああああぎいいいいいひゃがああああああぁっぁっっ!!」
 秘所が、肉芽が、溶けた蝋に覆われる。目を大きく見開き、口の端に白い泡すら浮かべて枝奈が激しく身悶えた。獣じみた絶叫を上げ、ベルトを弾き飛ばさんばかりに身悶える彼女の姿に、葉月が哄笑を上げる。
「あはっ、あはははははっ、あはははははははははっ!」
「ひ、ひいいぃぃ……」
 激しくのたうっていた枝奈の身体がピンと硬直し、その口から掠れた声が漏れる。そのまま意識を失った枝奈のことを見やると、葉月は無造作に彼女の脇の下に蝋燭の炎を近づけた。うっすらと白煙が上がり、腋毛が焦げて蛋白質の燃える嫌な臭いが立ち込める。
「ぐっ、ひゃっ!? ひゃぎいいいいぃっ!?」
「誰が、気絶していいなんて言いました?」
 激痛によって無理やり目覚めさせられた枝奈が、絶叫を上げて身悶える。彼女の脇の下をじりじりと炎で焼きながら、ぞっとするほど冷たい声音で葉月が問い掛けた。
「ひギアあああっ、熱いっ、くああアアあぁっ、アッ、アギイイィィッ!!」
 蝋を垂らされるどころか、直接肌を炎で焼かれる熱さと痛みに、狂ったように枝奈が絶叫し、身悶える。薄く笑いながら蝋燭を動かしていた葉月だが、炎が揺らぎ小さくなるのを見て一旦枝奈の肌から炎を離した。
「この角度だと、あまり長くは炙れませんね。かといって、姿勢を変えさせるのも面倒ですし……まぁ、今日はこのままでもいいですか」
 横たわる枝奈の脇を炙るには蝋燭を最低でも水平、実際には炎のある側を下げなければならない。その角度でも蝋燭がすぐに消えるわけではないが、長時間もたないのもまた事実。蝋燭を垂直に立て、小さくなって揺らぐ炎を安定させながら葉月が軽く首を傾げた。全身にびっしょりと脂汗を浮かべ、息を荒らげる枝奈が掠れた声を上げた。
「ひ、酷い……」
「あら、私に責められるのは、あなたが望んだことでしょう? それに、どういうふうに責めるかは私が決めていいって、あなたが最初に言ったんじゃないですか」
「そ、それは……だけど、何もここまで……」
「まぁ、優子さんにのせられた、自分の愚かさを呪うことですね。さぁ、そろそろいいみたいですし、反対の脇も炙ってあげましょうか」
「いやっ、やめてっ、もう許してっ! お願いっ、こんなのっ、もうプレイじゃないわよっ! 私は、こんなの、嫌あああぁぁっ!」
 引きつった悲鳴を上げて身体をのたうたせる枝奈。くすくすと笑いながら台を回りこみ、葉月は蝋燭を傾けると枝奈の脇の下へと炎を触れさせた。うっすらと白煙が上がり、毛と肉とが焼ける嫌な臭いが立ち込める。
「ヒグアアアアアア~~ッ!! ヒギッ、ギャッ、ギャアアアアアアァッ!!」
「ふふっ、どうです? 熱いでしょう?」
「ギアッ! 熱いっ、熱いぃっ! グウギャアアアアアアァァァギイイイイイィッ!!」
 激しく頭を振りたて、何とか炎から逃れようと枝奈が身体をばたつかせる。だが、所詮は無駄なあがき、拘束された身では逃れようもなく、蝋燭の炎がじりじりと容赦なく肌を焼く。
「ひゃぐああぎひぐわあひゃあぁぎいいいいいぃっ!!」
「あらあら、ずいぶんと器用な悲鳴ですね。どうやって発音してるんです?」
「おぐっ、ごっ、ぐああおおおぉぉっ! 熱いっ、燃えるっ、ひぎゃあああぐがががぉごあああぁっ!」
 滅茶苦茶な絶叫を上げて悶える枝奈に、葉月が笑いながら問い掛ける。もちろん、枝奈のほうに答える余裕などあるはずもなく、獣のような方向を上げて身悶えるばかりだ。やがて下に向けていられる限界に来たのか蝋燭の炎が弱まり、やっと葉月が枝奈を灼熱地獄から解放する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。お、お願いッ、もうやめてっ、もう許してっ」
「もう限界、ですか?」
「そうっ、そうよっ、もうこれ以上耐えられないっ。お願い、もういいでしょ!? ねぇっ、もう、許してよぉっ」
 涙をぼろぼろとこぼしながら枝奈が哀願する。んーと、顎に手を当てて僅かに考えこむような表情を浮かべると、葉月が首を傾げた。
「でも、まだそれだけ喋る元気があるなら、もうちょっとは平気そうですけどねぇ?」
「そ、そんな……」
「まぁ、もう一ヶ所炙って、それから考えましょうか、やめるかどうかは」
 葉月の言葉に、ひっと枝奈が息を呑む。彼女がどこを炙るつもりなのかは明白だが、それをされたときにどれほどの苦痛があるのか、想像もしたくない。
「やめてっ、お願いっ、そんなところを炙られたら、死んじゃうっ」
「あら、私、まだどこを炙るかなんていってませんよ? まぁ、その様子だと、予想はついてるみたいですけど……どうしてもそこを炙られるのが嫌なら、代わりに顔でも炙りましょうか? ふふふっ、目玉を炎で炙られたら、どんな悲鳴を上げるか、それも楽しそうですよねぇ……」
 くすくすと笑いながら、葉月が枝奈の髪を掴み、強引に顔を起こさせる。目の前に蝋燭の炎を突きつけられ、絹を裂くような悲鳴を枝奈が上げた。
「ひっ、ひいいいいいいぃっ!! いやっ、やめてっ、いやああああああぁっ!!」
「あら、これも嫌なんですか? あれも嫌、これも嫌は、通りませんよ?」
「やめてっ、顔はやめてっ! おま○こ焼いてもいいからっ、顔はやめてっ!」
 顔のすぐ側、熱気を感じるほどに炎を近づけられ、瞼をぎゅっと閉じて枝奈が絶叫する。彼女の絶叫にくすっと笑いを漏らすと、葉月が掴んでいた髪を離し、枝奈の下半身の方に移動する。
「へぇ、ここを焼かれたいんですか。でも、ここにはさっき蝋を垂らしましたし……私としては、あなたの目玉を焼いてみたいんですけどね。どんな悲鳴を上げてくれるのか、興味がありますから。
 まぁ、あなたがどうしてもここを焼いて欲しい、というんなら、こっちでもいいんですけど……ねぇ?」
 枝奈の秘所を覆った蝋を引き剥がしつつ、葉月が嬲るようにそう言う。表情を引きつらせ、全身をがくがくと震わせながら、枝奈が葉月に『お願い』した。
「お、お願い、します……私の、お、おま○こを、焼いて、ください……」
「そうですか。まぁ、お願いされたら、仕方ないですね。望み通り、焼いてあげましょう」
 ぎゅっと目を閉じ、苦痛に耐えようと全身に力をこめる枝奈。その姿を見やりながら、ごく無造作に葉月は蝋燭の炎を彼女の陰部へと触れさせた。充分覚悟を決めていたにもかかわらず、あまりの激痛に枝奈の身体が弓なりに反り返り、口から絶叫が迸る。
「イッッギャアアアアアアアアアアアア~~~~ッ!!!」
「あらあら、凄い悲鳴ですね。じゃあ、こうすると、どうなるんでしょう?」
 笑いながら葉月が炎がついたままの蝋燭を枝奈の秘所へとねじ込む。一瞬滅茶苦茶に枝奈の身体が暴れ、声にならない悲鳴を上げるとそのまま枝奈は悶絶した。大きく見開かれたままの目は完全に白目を剥き、口からは大量に白い泡が溢れ出す。びくっ、びくっと痙攣を繰り返す彼女の身体を眺め、葉月は軽く肩をすくめた。
「ちょっと、刺激が強過ぎましたか。流石に気絶二回目だと、これ以上続けるのは無理でしょうね」
 少し残念そうにそう呟くと、葉月は痙攣する枝奈をそのままに部屋から出ていった。
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