加賀野美冬


「ごめんなさいね、わざわざ呼びたてたりして」
「いえ……」
 笑顔を浮かべる那智香織(なちかおり)へと、如月葉月(きさらぎはづき)はやや困惑気味の答えを返し目を伏せた。生徒会メンバー用の個室は、寮の部屋だといわれてもちょっとぴんとこないほど広く、内装も整っている。
 今日、葉月がここを訪れたのは目の前の相手、香織に招かれたからだ。しかし、彼女は美化委員長なのだから、図書委員長である木崎優子(きざきゆうこ)の『お気に入り』である葉月とは、本来接点はない。同じ生徒会メンバーといっても、横の繋がりはあまりないのだから。
 まぁ、優子も香織も、生徒会メンバーの中では社交派として知られており、互いに友好的な関係を保っている。そういう意味では繋がりがないとはいえなくもないが、だとしても優子抜きで呼び出される覚えは葉月にはなかった。来年になれば図書委員長になるのがほぼ確実視されているとはいえ、今の自分はまだただの優子のお気に入り、極端な言い方をすれば優子の付属品に過ぎない。
「うふふっ、そんなに、緊張しないでちょうだい。今日はちょっと、あなたとお話したいと思っただけなんだから」
「お話、ですか……?」
「ええ、そう。あなた自身は気付いてないんでしょうけど、結構あなたに注目している人は多いんですよ。私も含めて、ですけど」
 穏やかな笑いを浮かべる香織の言葉に、とんとんっという軽いノックの音が重なる。視線を葉月の背後へと向ける香織。
「美冬? どうぞ」
「失礼、します」
 香織の言葉に小さな答えが返り、扉が開かれる。高価そうなティーセットを携えた美冬が室内に入ってくるのを肩越しに見やり、葉月が軽く頭を下げた。
「あ、お邪魔しています」
「……」
 無言で会釈を返し、美冬が二人の座るテーブルの上にティーセットを置く。手馴れた仕草で紅茶を淹れる美冬のことを見つめ、香織が小さく苦笑を浮かべた。
「ごめんなさいね、愛想のない子で」
「あ、いえ……あの、それで、那智先輩。お話というのは?」
「え? ああ、そう、そうね。まぁ、どちらかといえば、私のほうがあなたに話を聞かせてもらいたい、というのが本音なんですけれど。
 あ、美冬、あなたにも関係のある話だから、そのままそこに居て」
 葉月の言葉に軽く首を傾げ、半ば独り言のように呟いた香織が、紅茶を注ぎ終えて退室しようとする美冬を制止する。僅かに目をみはり、美冬が戸惑いの声を上げた。
「私も、ですか?」
「ええ、そう。
 あ、ごめんなさいね、如月さん。まぁ、とりあえずは、どうぞ」
 美冬に頷き返し、葉月へと紅茶を勧めると香織も自分の前に置かれたティーカップを手に取る。立ったままの美冬のほうにちらりと視線を向け、葉月もカップを手にした。立ち上る香気からかなり上質のものらしいと見当はつくが、残念ながら彼女の知識ではそれ以上のことは分からない。
「それでね、如月さん。あなた、この間、麻生(あそう)さんとプレイをしたんですってね。その時の話を、私にも聞かせて欲しいの。まぁ、話したくないのなら、無理にとはいわないけれど」
「え? あの、どうしてそのことを? ……ああ、優子さんから、聞いたんですね」
「それだけじゃないんだけどね。言ったでしょう? あなたに注目している人は、結構多いって」
 香織がこともなげにそう応じ、僅かに葉月が警戒するような視線を彼女に向ける。
「注目? 何故、ですか?」
「だって、あなたは目立つもの。目立つ人には注目したくなるのが人の(さが)というものでしょう?」
「目立つ……? 私が?」
「ええ、そう、あなたはとても目立つわ。生徒会メンバーは、世間の基準からすると異常な人ばかり。その中にあなたみたいな『普通』な人が混ざれば、目立つのも当たり前でしょう?」
 紅茶のカップを傾けながら、ごく当然のことのように香織がそう言う。は、はぁ、と、曖昧な返事を返し、葉月もカップを傾けた。くすっと小さく笑い、香織が葉月のことを見つめる。
「だから、そう言う『普通』なあなたが、どんなプレイをしたのか、何を感じたのか……私は、それが知りたいの。ただの好奇心だから、あなたが話したくないというんなら、無理に聞き出すつもりはないけど」
「別に、話したくないわけじゃ、ないんですけど……自分でも、少し混乱してて。
 やったのは、鞭と蝋燭、ああ、それと水責めっぽいこともやりました。今こうして冷静に思い返すと、ずいぶんと酷いことをしてしまったと思うんですけど、やってる間は楽しかったですね」
「酷いことって、例えば?」
「もう泣いている麻生さんを更に鞭で打ったり、蝋燭の蝋を垂らすだけじゃなくって直接炎で炙ったり……とかです。なんだか、麻生さんが泣き叫んでる姿を見ていると、どんどん興奮してきちゃって。もっと泣かせたい、もっと叫ばせたいって、つい……」
 僅かに視線を伏せながらそうぼそぼそと答える葉月のことを眺めながら、香織がふぅんと僅かに考えこむような表情を浮かべる。その雰囲気を感じて怪訝そうな表情を浮かべる葉月。
「那智先輩? どうしたんですか?」
「話を聞くと、あなた、拷問人みたいね。優子は調教師だけど……」
「ご、拷問人って……それは、確かに、自分でも酷いことをしたとは、思いますけど」
 禍々しい言葉の響きに、絶句する葉月へと香織が笑いながら小さく首を振る。
「ああ、これは、生徒会メンバーの間でよく使われる分類法なの。別に、責めの過激さとは直接関係はないわ。むしろ、嗜好の問題ね」
「え、えっと……どういう、ことですか?」
「基本的には、『何を』目的とするかで分類されるの。相手を屈服させ、自分のものにすることを目指すのが調教師。苦痛を与えるのは、そのための手段に過ぎない、という人がこっちね。
 逆に、苦痛を与えることそのものが目的だという人が、拷問人。あなたは、麻生さんを自分の奴隷にしようとか、そういうことは考えていなかったんでしょう? だからあなたは拷問人なのよ」
「え、ええ、それは、まぁ……あ、でも、私、蝋燭のときは、少し屈服させるようなこともやりました。顔を焼かれるのがいいか、性器を焼かれるほうがいいかって。麻生さんを脅して、無理やり『お願い』させるようなことも、しましたし……。
 そういうのって、調教師のやることなんですよね?」
 拷問人と呼ばれるのが嫌なのか、僅かに身を乗り出すようにして葉月がそう問い掛ける。一瞬目を見開き、香織が苦笑を浮かべる。
「そんなことまでしていたの? あなた」
「え、あ……」
 僅かに呆れたようなものを含んだ香織の言葉に、葉月が口元を手で覆う。自分でやったこととはいえ、客観的に見ればかなり残酷、非道な行為なのは間違いない。思わず告白する形になった葉月が顔を赤らめて黙りこむのを穏やかな笑みを浮かべて見やりながら香織が言葉を続けた。
「拷問人にも、二種類あるわ。苦痛系拷問人は、純粋に肉体的苦痛(からだをいためつける)ことを目的とする。対して、遊戯系拷問人は、精神的に追いこむ(こころをいためつける)ことも楽しむ。
 あなたは今、顔と性器とでどちらを焼かれたいか選ばせた、そう言ったわよね。もちろん相手にしてみればどちらも焼かれたくない。けど、どちらかを選ばなければならない。そうやって絶望し、苦しむ姿をあなたは見たかった。違うかしら?」
「そ、それは……」
「調教師だとしたら、屈服することと苦痛を味わうこととを秤にかけさせる。性器を焼かれるか、それとも奴隷になるか、ってね。
 だけど、あなたは苦痛とより大きな苦痛とを秤にかけさせた。それはあなたの目的があくまでも苦痛を与えることだから。相手に選ばせたのは、肉体的苦痛(からだのいたみ)だけでなく、精神的苦痛(こころのいたみ)も与えたかったから」
「わ、私、は……」
 淡々とした香織の言葉に、愕然とした表情を浮かべて葉月が目を伏せる。くすっと笑うと香織は優雅な手つきでカップを傾けた。
「別に、あなたを責めているわけじゃないわ。確かに、世間一般の常識から見れば、あなたがしたことはいけないことかもしれない。けど、闇の生徒会(わたしたちのせかい)では、あなたみたいな人は珍しくない。恥ずかしがる必要(こと)も、自分を責める必要(こと)もないわ」
「で、でも……」
「ちなみに、あなたと同じタイプ……遊戯系拷問人には、委員長の中では神宮寺や雪野が該当するわね。お気に入りの人たちの中だと、この美冬が該当する。まぁ、お気に入りの人たちに関しては、他にも居るかもしれないけど」
「え……?」
 香織の言葉に、葉月が思わず、といった感じで美冬のほうに視線を向ける。こくん、と、小さく頷いて、美冬が小さな声で葉月の無言の問いに応じた。
「私も、そう、です」
「参考までにあげておくと、苦痛系拷問人に該当する委員長は相馬と白井……もっとも白井の場合は、正確にはここには分類できないんだけど」
「白井……絵夢さん、ですか? え、でも、分類できないって言うのは?」
「だって、彼女、サディストじゃないもの。彼女はマゾよ、それも真性の。彼女が他人を責めるのは、純粋に好意からなじゃないかって、私は思ってるんだけどね」
「好意から、ですか? え~と……?」
「だから、彼女はマゾだから、責められるのは気持ちのいいことなのよ。自分は他人に責められるのが嬉しい、だから私も他の人を責めてあげよう、そう言う思考回路(かんがえかた)をしているんじゃないかな、と、まぁ私が勝手に思ってるんだけど」
「それは……分かるような、分からないような……」
 戸惑いの表情を浮かべて葉月が首を傾げる。自分と似たようなタイプの人間が他にも居ると聞かされたせいか、少し動揺が収まってきたらしい。くすっと小さく笑うと香織が軽く首を傾げた。
「ところで、如月さん。一つお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?」
「え? あ、はい、私にできることでしたら……」
「そんなに身構えなくてもいいわ。簡単なことだから。あのね、あなたが誰かを責めているところを、私に見せて欲しいの。駄目かしら?」
「私の責めを、ですか……?
 あの、すいません、見られるのはかまわないんですけど、今すぐというのは、ちょっと難しいと思います。相手の人が居ませんから」
 香織の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべた葉月が、すぐに済まなさそうな表情になって頭を下げる。彼女の言葉に少し意表をつかれたような表情を香織が浮かべた。
「相手なら、私のほうで用意するわよ、それはもちろん」
「あの、ごめんなさい。自分でも、おかしな拘りだとは思うんですけど、私無実の人を責めたくはないんです。悪いことをした人に罰を与える、とか、何か情報を聞き出すために、とか、そういう大義名分があればいいんですけど、楽しむために、という理由で責めるようなことはしたくありません」
「ふぅん? でも、あなた、人を責めるのは楽しいんでしょう?」
「はい……でも、だからこそ、大義名分なしに無差別に人を責めるようなことは、したくないんです。自分が楽しむために不必要な責めを行うというのは、その、やっぱり越えてはいけない一線を越えてしまうような気がして」
「ああ、なるほど、ね。まぁ、その考え方は健全ね。生徒会メンバー(わたしたちのあいだ)だと、結構その辺の感覚が麻痺してきちゃうものだけど……社会に出てから問題を起こさないようにするためには、どうしても必要よね、そういう自己抑制は」
 苦笑を浮かべながら頷くと、香織は視線を美冬のほうへと向けた。
「ところで、美冬。あなた、お姉さんにずいぶんと突っかかるわよね。どうして?」
「え?」
 不意に、何の脈絡もなく問い掛けられて美冬が戸惑いの表情を浮かべる。それは葉月も同じで、まるで間の時間が飛ばされたかのように唐突で不自然な話題の転換だった。しかし、問いを発した香織は気にした様子もなく、更に重ねて問い掛ける。
「体育委員会の加賀野美夏よ。あなた、顔を合わせるたびに冷たくしたり、時には手を出したりもするでしょう? どうしてなの?」
「それは、相性が、悪いんです、きっと。姉妹でも、仲が悪いのは、珍しくないと、思います」
「本当に? 私は、違うと思うんだけど」
「どう、違うんですか?」
「あなた、お姉さんのことが好きなんでしょ。それも姉妹としてではなく、恋愛対象として」
 香織の言葉に、ぎゅっと美冬が唇を噛み締める。
「違い、ます。家族で、しかも女同士、ですよ。恋愛感情なんて、持ってません。いくらあなたでも、おかしなことを、言わないでください」
「嘘ね。あなたはお姉さんのことを愛してる。けど、それを上手く表現できず、つい苛めてしまう。そうなんでしょう?」
「違います。もう、やめてください」
「そう、あくまでも違うって言い張る気なの。
 ねぇ、如月さん。この状況だと、大義名分は立つんじゃない? 美冬に本当のことを言わせるために、ということで」
 顔を背ける美冬の姿に笑いを浮かべ、香織が視線を葉月の方に戻してそう問い掛ける。困惑したように、葉月が首を傾げると頬に指を当てた。
「その、ちょっと、強引なんじゃないかと、思います。無理やり冤罪を着せるような真似は……」
「冤罪なんかじゃないわ。彼女は本当にお姉さんのことを愛しているはずだもの」
「違います。私は、姉さんのことなんか……大嫌い、です」
「嘘ね。私には分かるわ。まぁ、認めたくない気持ちも分かるけど。彼女は相馬のお気に入り……そして性格的にもごく似ているという噂だものね。同性愛者を毛嫌いしている相馬と性格が似てるなら、彼女も多分同性愛者は嫌いでしょうし、ましてや自分の妹に想いを寄せられているだなんて知ったら……ねぇ?」
「やめてください。私は、本当に、姉さんのことを愛してなんか、いません。どうしたら、信じてくれるんですか?」
 顔を背けたまま、美冬が声を震わせる。小さく笑いを浮かべて香織が肩をすくめた。
「じゃあ、その判定を如月さんにお願いしましょうか。彼女の責めに耐えられれば……あなたが本当のことを言っているって信じてあげるし、変な疑いをかけたことを謝るわ」
「あ、あの、その……私の意思というのは」
「分かり、ました。身の潔白を、証明します。ただし、その時には、私があなたを責めます。おかしな、疑いをかけられた、私にはその権利が、あるはずです」
「ちょ、ちょっと、あの……」
「ふぅん、そう。まぁ、確かに、あなたにはその権利があるわね。もちろん、如月さんの責めに耐えられれば、だけど……。いいわ、もしもあなたが耐えられたなら、あなたには報復の機会をあげる」
「え、え~と……」
「分かり、ました。如月さん。お願いします」
 おろおろとしている葉月を尻目に、香織と美冬の間で交わされる会話。美冬が葉月のほうに視線を向けて軽く頭を下げ、困惑の表情を隠せない葉月へと香織が笑いかける。
「よろしくね、如月さん。変に手心を加えないでね。それは、美冬としても不本意でしょうし」
「本気で、お願いします。でないと、身の潔白の、証明に、なりません」
「……知りませんよ、どうなっても」
 溜息をついて、葉月はカップに残った紅茶を飲み干し、立ちあがった。

「さて。それじゃ、始めますけど……加賀野さん、出来れば、すぐに認めちゃってくださいね。あんまり意地を張られると、自分でも歯止めが効かなくなるかもしれませんから、私の場合。
 まぁ、結局は麻生さんを相手にしたときも最低限の自制は出来ましたし、今は那智先輩もいるから、大丈夫だとは思うんですけど……下手をすると、あなたのことを壊しちゃうかもしれませんから」
 学園の地下の拷問部屋。壁から生えた短い鎖で拘束された美冬へと、物憂げな口調で葉月がそう呼びかける。淡々とした中にひやっとするものを含んだその言葉に、全裸で拘束された美冬がかすかに表情を引きつらせた。
「認めるも何も……私は、本当のことしか、言ってませんから」
「ふぅ。そう、ですか。じゃあ、壊れちゃっても、自業自得ということで」
「ひっ……!?」
 気圧されながらも主張する美冬へと、葉月が笑いかける。思わず息を呑んだ美冬へと、葉月は口元に笑みを漂わせながら手にした鞭を振り下ろした。ちなみに、葉月が今日使っているのは腕ほどの長さの革鞭だ。複数の細い鞭を編みこんで作られたタイプで、比較的扱いやすい割には威力がある。葉月の技量では長い一本鞭は扱いきれないし、かといってキャット・ナイン・テイルのような鞭では自白を引き出すためという今日の目的に合わない。
「あくぅっ。くっ、う」
 美冬の右の乳房から腹へとかけて、真っ赤な鞭跡が刻みこまれる。苦痛の声を上げ、小さく身悶える美冬へと、薄く笑いを浮かべながら葉月が更に鞭を振るう。
「くあぁっ。あ、ぐぅ」
「痛いですか? 素直に認めるなら……やめますけど?」
 身体の前面に大きな×の字状に赤い鞭跡を刻みこまれた美冬へと、ゆっくりと鞭を振りかぶりながら葉月が問い掛ける。はぁっ、はぁっと息を荒らげながら、美冬が無言で頭を振った。
「そう……。なら、少し、叫んでもらいましょうか」
 そう宣言すると、葉月が短く息を吐いて続けざまに鞭を振るう。ビシッ、バシッと、肉を打つ鈍い音が響き、美冬の腕や足、腹、乳房へと次々に真っ赤な鞭跡が刻みこまれていく。
「くうっ、あっ、くううぅっ! あっ、ああっ、きゃあああああぁっ!」
 複数の細い革鞭を編みこんで作られた鞭は、打撃のたびにその表面の凹凸で犠牲者の肌を擦り、苦痛を増す。最初の頃は苦痛の叫びを噛み殺していた美冬だが、続けざまに与えられる苦痛に次第に耐えきれなくなったのか、甲高い悲鳴を上げて身体をくねらせ始めた。だが、どんなにもがいたところで短い鎖によって拘束された状態では動ける範囲などたかが知れている。くすくすと笑いながら、葉月は鞭から逃れようとあがく美冬の身体を、容赦なく打ち据える。
「ひぐうううぅっ! くひいいいいぃっ!」
 ビシッ、バシッと、革鞭が美冬の両胸の先端を打ち据える。敏感な乳首を打たれ、美冬の目から涙がこぼれた。更に葉月が鞭を振り上げ、振り下ろす。
「ひぎゃああああああぁっ!!」
 薄めの陰毛に覆われた美冬の秘所を、容赦のない一撃が襲う。もっとも敏感な部分に容赦のない一撃を受け、濁った絶叫を上げて美冬が身体をのけぞらせた。ぶるぶるっと全身を痙攣させ、そのままがっくりと鎖にぶら下がるような体勢になる。
「あら、気絶してしまいましたか? まだ、寝るには早いんですけど……あら?」
 苦笑を浮かべながら美冬のほうへと足を踏み出す葉月。うなだれた美冬の髪を掴もうと手を伸ばしかけ、ふと何かに気付いたような表情を浮かべると葉月は伸ばしかけた手をそのまま美冬の股間へと向けた。ひくっ、ひくっと全身を痙攣させている美冬の股間……そこが、かすかに湿り気を帯びている。
「お漏らし、じゃ、ないですね。もしかして加賀野さん、鞭で打たれて感じてるんですか?」
「ちが、う……感じて、なんか……ない」
「ふぅん? けど、これは……」
「ひゃうぅっ!?」
 弱々しい声で反論する美冬の秘所へと、葉月がずぶりと指を突き入れる。素っ頓狂な声を上げて身体を震わせる美冬。突き入れた指を動かし、くちゅくちゅと淫靡な音を立てさせながら、葉月が薄く笑った。
「こっちは、もうだいぶ濡れてるみたいですよ。実の姉を好きなだけでなく、マゾでもあったんですね、加賀野さんは」
「ちが、う……私、は……ぎゃうっ!?」
 秘所をいじられ、かすかに頬を赤らめながら抗弁しかける美冬。だが、その言葉を遮るように、秘所へと入れていた指を抜いた葉月が薄めの陰毛をまとめて摘んで引き抜く。苦痛に身体を震わせる美冬から視線を外し、葉月が様子を見守っている香織の方へと問い掛けた。
「彼女を調教したのは、那智先輩ですか?」
「ええ、そうよ。元々私は、相手を屈服させるのが好きな調教師だから。M奴隷を作るのは、私の嗜好からすれば当然でしょう?
 もっとも、彼女を調教したのは、目的があってのことなんだけどね」
「目的?」
「本来の性癖がSの人間を、Mとして調教したらどうなるか。打ち消しあうのか、それとも両方の特質を備えるのか……ちょっと興味があってね」
「ふぅん……で、どうなったんです?」
「うーん、調教が足りないのか、それともそういうものなのか、やっぱりSはSのままね。私としては、白井みたいな行動を取るようになってくれれば面白いな、と思ってたんだけど……」
 葉月の問いかけに、軽く肩をすくめながらこともなげに香織がそう応じる。視線を美冬のほうへと戻しながら、あまり興味のなさそうな口調で葉月が問い掛けた。
「失敗作、ですか?」
「あら、私はそこまで酷い人間じゃないわよ。私の思ったような結果が出なかったからといって、それは彼女のせいじゃないし、失敗作だなんて思ってないわ」
「ふぅん、そう、ですか。まぁ、それは、あなたと彼女の問題なので、私には直接関係のないことですけど……Mとして調教されてるっていうのは、ちょっと厄介ですね」
 半ば独り言のようにそう呟くと、葉月は力いっぱい美冬の胸へと鞭を叩きつけた。悲鳴を上げて身体を震わせる美冬へと、更に鞭を叩きつけながら葉月がやはり独り言のように呟く。
「苦痛のいくらかは、快感に変換されて軽減される……軽減率は、そんなに高くないみたいだけど。
 でも、それでも、口を割らせるためには、相当の苦痛が必要ね」
「ひぐうっ! あ、ぎ……ぎゃううぅっ! がっ、はっ……ひいいいぃっ、ひいっ、きゃああああああぁっ!!」
 両胸と股間をそれぞれ力いっぱい打ち据えると、今度はテンポを上げて美冬の全身を無茶苦茶に打ちまくる葉月。肉を打つ鈍い音、美冬の上げる悲鳴、鎖のなる音……それらが途切れることなく響く。やがて、鞭を受けて赤く染まっていた美冬の肌が所々で破け、血を滴らせ始めた。
「あらあら、血まみれになっちゃって。そろそろ認めたらどうです? これ以上、意地を張ってもいいことはないと思いますけど?」
「う、あ、あ……嫌、嫌よ……」
 流れ出す鮮血を指の腹で美冬の白い肌の上へと塗り広げながら、葉月が笑う。うなだれたまま掠れた声を上げる美冬の前髪を掴み、仰向かせると葉月が首を傾げた。
「どうして、そんなに意地を張るんです?」
「わ、私は、姉さんとの関係を、邪推されるのが、嫌なだけ。愛してもいない相手を、愛してるだなんて、言いたくないわ」
「ふぅん。まぁ、あなたもMとして調教されたなら、このぐらいの責めは許容範囲なのかもしれませんね。けど、もっと激しく責められたら、どうなるのかしら……?」
 薄く笑いながらそう半ば独り言のように呟くと、葉月が視線を香織の方へと向ける。
「那智先輩、確認しておきますけど、SMじゃなくって拷問になっちゃってもいいんでしたよね?」
「え、ええ……」
 どこかぞっとするようなものを含んだ葉月の言葉に、半ば気圧されるように香織が頷く。
「彼女に、認めさせるのが目的だから……強情を張るようなら、そうなっても、仕方ないと思うけど……」
「そうですか、分かりました」
 クスっと笑い、再び葉月が視線を美冬の方に戻す。額に浮かんだ汗を拭い、香織がふぅっと小さく息を吐いた。
「さて、お許しも出たことですし、あなたがこれ以上強情を張るなら本当に拷問しますよ?
 ねえ、加賀野さん。あなたはお姉さんのことを愛している。家族としてではなく、恋愛相手として。そうですね?」
「う、あ……私、は、そんなこと……思って、ない」
「ふふっ、そう……認めないんですか」
 掠れた声で答える美冬へと、葉月が笑いかける。彼女の左手が美冬の乳房に刻みこまれた浅い傷へとかかった。そのまま、肉を抉るように爪を立て、傷口を押し広げる。
「ひぎっ、ぎっ、ぎいいぃぃっ!」
「素直に認めないというのなら……拷問をやるしかないですね。出来れば、拷問までいく前に、認めて欲しかったんですけど」
「ギヤアアアアアアァッ!!」
 傷口へと突きたてた爪を更に深く押しこみ、メリメリっと肉を引き裂く。大きく目を見開いて絶叫する美冬。血にまみれた指先を口元にあて、ぺろりと舌を出して血を舐め取ると葉月は一旦美冬の元を離れた。
「針と、蝋燭……使わずに済ませたかったんですけど、まぁ、仕方ないですね」
 薄く口元に笑みを浮かべてそう呟き、机の上に置いてあった針と蝋燭を手に取る葉月。何か言おうと口を開きかけた香織の方に、葉月が視線を向ける。思わず息を呑んだ香織へと、にこにこと笑いながら葉月が問い掛けた。
「かまわないんですよね、拷問しても」
「え、ええ、邪魔は、しないわ。そういう約束だもの」
「それじゃ、そこで見ていてください。ちょっと時間がかかるかもしれませんけど、まぁ、多分大丈夫だと思いますから」
 にこっと笑う葉月へと、気圧されたように香織が頷き返す。椅子を美冬の側まで運び、その上に針の入った小箱を置くと葉月は蝋燭に火をつけた。弱々しく顔を上げた美冬の目の前に、揺れる炎を突きつける。
「ひっ……」
「認める気になったら、そう言ってください。そうしたらすぐにやめますから」
 息を呑んだ美冬へとそう告げると、抉られて血を流す胸の傷の上で蝋燭を傾ける。白い蝋が傷の上に滴り落ち、傷を焼いた。
「ギャッ、アアアアアアアアアァッ!!」
「ふふっ、うふふ……」
 悲鳴を上げて身悶える美冬の姿に小さく笑いながら、葉月が直接蝋燭の炎を美冬の身体へと触れさせる。鞭によって刻まれた浅い傷を、丹念に焼かれて美冬が絶叫を上げて身悶える。
「ヒギッ、ギャッ、ギャアアアアアアァッ!! 熱いっ、熱いいぃっ! ヒギャアアアアアアアァッ!!」
「まだ、序の口ですよ」
 葉月が左手にも蝋燭を持ち、右手に握った蝋燭から炎を移す。二本の蝋燭で肌を焼かれることになった美冬が、大きく目を見開いて絶叫した。
「アッ、熱っ、アアァッ、燃えるっ、ヒッ、ヒイイイィッ、ギャアアアアアアアァァッ!!」
「ふふっ、熱いですか? でも、ここを焼かれたら、もっと熱いですよ?」
「ヒイイイィィヤアアアアアァァッ!! アヒイイイイイィッ!!」
 ぽとっ、ぽとっと、白い蝋が美冬の両乳首へと垂らされる。至近距離から垂らされた蝋の熱さに絶叫する美冬。くすくすと笑いながら、葉月は蝋に覆われた乳首へと炎を当てた。
「グギャギャギャギャッ、ギャアアアアア~~~ッ!!」
 炙る、などという生易しい状態ではなく、完全に胸の先端部分を炎に包まれ、美冬が濁った絶叫を上げた。口の端に泡を浮かべて激しく身悶える美冬。
「あらあら、年頃の女の子が、そんな汚い悲鳴を上げるなんて……そんなに熱いなら、さっさと認めたらどうです? そうすれば、すぐにやめてあげるんですけどねぇ」
「ウギャッ、ギャッ、ギャヒャアアアアア~~~ッ!!」
「まぁ、別に、どこまで意地を張ろうと、あなたの自由ですけど」
 絶叫を上げて身悶える美冬へとそう言って笑いかけると、葉月は一旦蝋燭を彼女の乳首から離した。そして、溜まった蝋を彼女の身体に振りかけて悲鳴を上げさせた後で、蝋燭を下へ動かす。はぁっ、はぁっと荒い息を吐く美冬が、何をされるかを理解してかすかに唇を震わせた。
「? 何か、言いましたか?」
「何、を、されて、も……私、の、答え、は……同じ、よ」
「あら……そう、ですか。うふふっ」
 かすかに漏れた言葉を聞きとめ、問い掛けた葉月へと美冬が切れ切れに応じる。一瞬目をみはり、葉月が楽しそうな笑いを浮かべた。
「なるほど。最初に那智先輩の意見を聞いたときは、正直、私も冤罪だと思ったんですけど。そこまで頑張るところを見ると、本当に知られたくない秘密があるみたいですね。けど、それを知られて困る相手は、お姉さんじゃない。違いますか?」
「……っ!? ど、どういう、意味よ?」
 僅かに動揺の色を見せる美冬へと、葉月が笑いかける。
「あなたは当然知ってるんでしょうけど、相馬委員長は同性愛者が大嫌い。同姓に想いを寄せる相手はもちろん、寄せられた相手に怒りを発することさえあるほど筋金入りです。それだけで、お姉さんの身は危険に曝される。
 ましてやあなた自身は那智委員長の『お気に入り』だからどんなに怒っても手は出せない。あなたに対して抱く怒りは、そのままお姉さんに向けられる可能性が高い。もしもあなたがお姉さんを愛していることを認め、そのことが相馬委員長の耳に入ったら……お姉さんがどんなに酷い目にあわされることか。そう考えれば、あなたは決して認めるわけにはいかない。お姉さんを守るためには、ね」
「だ、か、ら……違、う……」
「ふぅん、そう、ですか?」
「ヒギャアアアアァァッ!? ギヒッ、ヒッ、ヒギャアアアアアアァッ!!」
 切れ切れに否定の言葉を漏らす美冬へと、楽しそうな笑いを向ける葉月。そのまま彼女は二本の蝋燭を美冬の股間の辺りまで降ろし、二つの炎を一つにまとめるようにして茂みに覆われた敏感な粘膜を焼く。目を見開き、激しく鎖を鳴らして身悶える美冬の姿に、葉月が楽しそうな笑い声を上げ、香織がごくっと唾を飲みこむ。
「ウギャギャギャギャッ、ギャアアアア~~~ッ!! 燃えるっ、燃えてるっ、私の、あそこがっ、ヒギャアアアアああ~~~~っ!!」
「熱いでしょう? これでもまだ、意地を張りますか?」
「ギイイィィッ、ヒギャッ、ギャアアアアアァッ!! ヒギイイィィ~~~ッ!!」
 激しく首を左右に振りたてながら、濁った絶叫を上げる香織。くすっと小さく笑うと、葉月が一旦美冬の股間から炎を離し、更には蝋燭の片方の炎を吹き消す。
「苦痛から逃れたければ、ただ認めればいい。そうすれば、あなたはともかく楽になれる。お姉さんがどうなるかはさておき、ね」
「あ、ぐ……い、いいかげんにして! さっきから聞いていれば、勝手なことばっかり……!」
「けど、そうとでも考えなければ、あなたのこの頑張りようは説明できないと思うんですけど? 単に自分が同性愛者呼ばわりされるのが嫌だというだけで、こうまで頑張れはしないでしょう? まぁ、あなたが頑張る理由が何にせよ、私はあなたが認めるまで苦痛を与えつづけるだけの話ですけどね」
 くすくすと笑いながらそう言うと、炎がついたままの蝋燭を傍らの椅子の上に置く。今度は小箱に納められたまち針を手に取ると、針の先端を蝋燭の炎で軽く炙り、葉月が美冬の指を掴む。
「まぁ、拷問といえば、これは定番ですよね」
「ひっ、い、嫌ッ、やめてっ……!」
「やめますよ、いつでも。言ったでしょう? あなたが認めれば、すぐにやめるって。認めるんですか?」
「わ、私はっ、姉さんを、愛してなんか……いないわ」
 嬲るような葉月の言葉に、唇を震わせる美冬。だが、ゆっくりと首を振り、否定の言葉を口にする美冬へと、葉月が笑みを向ける。
「ふふっ、そう。それじゃ……いきますよ?」
「ギャアァッ!!」
 ずぶりと針を爪と肉の間に突き入れられ、悲鳴を上げて美冬が身体を跳ねさせる。思わず、といった感じで顔を背けた香織の耳に、更なる美冬の悲鳴が届いた。
「ヒギャァッ! あ、が……ギヒイィッ!!」
「ふふっ、まずは一本ずつ……全部の指に刺してもまだ認めないなら、もう一本。それでも駄目ならまた一本追加。どこまで頑張れます?」
「ア、ガ……い、痛い、痛い……ギャアァッ!」
「ふふっ、頑張りますね。頑張る人は好きですよ。けど……もう充分でしょう?」
「ギャウウゥ!」
 左手の指全てに針を突き入れられ、美冬が荒い息を吐く。くすくすと笑いながら、葉月はまち針を爪に突き入れたまま、ぐるぐると回転させた。肉を抉られる激痛に絶叫する美冬。
「あなたはここまで頑張ったんですもの。認めてしまっても、誰もあなたを馬鹿にしたりはしませんよ」
「嫌ッ、嫌嫌嫌っ! 私は認めないっ、絶対に、認めないっ!」
「ふふっ、愛する人を守るため、苦痛に耐える姿……素敵ですよ、加賀野さん」
「ギャアアアアァッ!」
 ずぶり、と、既に針の突きこまれている爪と肉との間に、更に新たな針が突き込まれる。ぽたぽたと鮮血を滴らせつつ、美冬が濁った悲鳴を上げた。くすくすと笑いながら、葉月は更に他の指にも針を突き入れていく。
「ヒギャアァッ! ギヒイイィッ! ガァゥ、ガァァッ! グアアアァッ!」
「ふふっ、ふふふっ、さあ、三本目です」
「あ、ああ……やめて、もう、やめて……」
「認める、ということですか? それは」
「い、いや……認めない、認めない、けど……もう、許してっ」
「駄目ですよ」
「ヒグアアアアアァッ!!」
 ぼろぼろと涙をこぼしつつ、哀願の声を上げる美冬。にこにこと笑いながら葉月が三本目の針を爪の下へと突き入れていく。激痛に絶叫し、身悶える美冬の姿を、ぎゅっと拳を握り締めて香織が凝視している。
「あ、あが、ああう……はぁっ、はぁっ、はぁっ、い、痛い、痛いよぉ……」
「痛いでしょう? 楽に、なりたいでしょう? ふふっ、あなたが認めれば、あなたは楽になれる。あなたは、ね」
「ううっ、う、許して、もう、許して……先輩、助けて……」
 裏に含むところのあるような葉月の言葉に、泣きじゃくりながら美冬が視線を香織の方に向け、助けを求める。あ、と、小さく声を上げ、口を開きかけた香織へと、葉月が肩越しに視線を向けた。
「あなたが、やれといったことですよね?」
「そ、そうね……けど」
「邪魔は、しませんよね? そう言いましたものね?」
「え、ええ……」
「なら、いいんです。見ててください、そこで黙って」
 蛇に睨まれた蛙の気分を味わいながら、ぎこちなく頷く香織。葉月は小さく口元に笑みを浮かべると視線を美冬の方に戻し、怯えた表情を浮かべる彼女の指を掴んで更に針を突き入れていく。
「キャアアァッ、ギャウゥッ! ギャアアアァッ! 痛いっ、痛いぃっ! やめてっ、許してっ!」
「認めなさい。そうすれば、楽になれます。逆に言えば、認めない限り、苦痛は続きますよ」
「あ、ああぁっ、ヒギャアアアアァッ! ギヒイイィッ!」
 五本の指に三本ずつ、計十五本の針を突き入れられた美冬が、悲鳴を上げて身悶える。爪の下に溢れる血が爪を真っ赤に染め、まるでマニキュアを塗ったかのようにも見える美冬の指。クスっと笑うと葉月は彼女の手首を掴み、ぐいっと捻じ曲げた。左手で指の先をまとめて握り、爪に突き入れられたまち針たちの先端を壁に押し付ける。ひいぃっと掠れた悲鳴を美冬が漏らした。
「知ってますか、これ。三味線、とか言うんですよ」
「やぁっ、やっ、やだあぁっ! やめてっ、やめてぇっ!」
 壁に押し付けられた針の先端がかすかに動くたび、激痛が走る。恐怖に表情を歪め、泣きじゃくりつつも美冬は恐怖に身体を動かすことが出来ない。下手に暴れれば、より激しい痛みを味わうことになる。
「認めますか?」
「み、認め……ないわっ! ヒグギャアアアアアアアアアアァァ~~~~ッ!!」
 拒絶の言葉を口にした途端、手首を大きく動かされ、ギギギッと針の先端が壁を擦る。指先で弾けた激痛に、目を見開いて美冬が絶叫する。くすくすと笑いながら、葉月は更に美冬の手首を動かし、爪に突き入れられた針の先端を壁に擦りつける。
「グヒイイィッ、ヒギャッ、ガアアアッ、ギャウッ、ギイイィッ、グギャハアアアアァッ!!」
 濁った絶叫を上げて美冬が身悶える。針の振動は肉を抉り、爪を剥がそうとする。爪の部分をまとめて握りこまれていなければ、とっくに爪が全て剥がされていた事だろう。激痛に叫ぶことしか出来ない美冬の姿を楽しげに見やりつつ、葉月が更に大きく手を動かす。
 ギギギギギッ、ガガガガガガッ!
「ウッギャアアアアアアアアアア~~~~ッ!!!」
 びくんっ、びくんっと美冬の身体が痙攣する。くすっと笑うと葉月はがっくりとうなだれた美冬を見やりつつ、べっとりと掌を濡らす彼女の血を舐め取る。
「さあ、どうします? お姉さんを愛していることを、認めますか?」
「ひ、ど、い……酷過ぎ、る……ああぁ……」
「認めるか、と、そう私は聞いているんですけど?」
 うなだれて喘ぐ美冬の前髪を掴み、強引に仰向かせながら葉月が問い掛ける。恐怖に表情を強張らせつつも、美冬は小さく首を横に振った。葉月の唇が歪む。
「そう、まだ認めないんですか。この程度じゃ、不足というわけですね。
 じゃあ、もっと大きな苦痛を、与えてあげます。もしかすると、あなた、壊れちゃうかもしれませんね」
「ひっ……!?」
 息を呑む美冬の前で、するりと葉月が身につけていた制服を脱ぎ捨てる。あっという間に自らも全裸となった葉月が、流石に怪訝そうな表情を浮かべる美冬の前へとかがみこむ。そして、彼女は苦痛と恐怖とで完全に乾ききっている美冬の秘所へと、遠慮会釈なしに人差し指から薬指までの三本をまとめてねじ込んだ。
「ぐひいいぃぃっ! 痛いっ、裂けるっ、裂けちゃうっ! 痛いぃっ! 抜いてっ、抜いてぇっ!」
「まだ、序の口ですよ、これぐらい。ほぉら」
「グギャアアアアアアアアアアァッ!!」
 苦痛にも悶える美冬の哀願の声に、笑って答えると葉月は親指と小指も追加した。拳を握り、ぐぐっ、ぐぐぐっと、美冬の秘所へと自らの手を押しこんでいく。絶叫を上げて身悶える美冬の股間から、鮮血が滴った。
「あ……ガッ……ア……ギ……ガ」
 激痛のあまり、まともに悲鳴を上げることさえ出来ず、大きく目を見開いたまま美冬が身体を痙攣させる。くすっと笑うと葉月はぐいっと捻るように更に腕を突き入れた。
「ゴアアアアァッ! オゴッ、ガッ、グオオオォッ! ギャビャアアアアアァッ!!」
 ぶちぶちっ、ぶちぶちっと、肉が切れる嫌な感触が葉月の腕に伝わる。美冬の股間からあふれる鮮血がその量を増し、葉月の腕を真っ赤に染め上げる。
「ふふっ、加賀野さんの中って、ぬるぬるしてて気持ちいいですよ……」
「うガッ、ギャッ、オごごっ、ゴオォッ、ガッ、はっ、ぐギャギャッ、あぎイイィッ!!」
 陶然としたように呟き、葉月が腕を動かす。びくっ、びくっと身体を大きく痙攣させ、口から泡を吹きながら美冬が切れ切れの悲鳴を放つ。
「ふふっ、痛いですか? でも、まだまだ……」
 くすくすと笑いながら、葉月が血でぬめる自分の右腕に左拳を掏りつける。そしてべっとりと鮮血にまみれたそれを、葉月は大きく押し広げられた美冬の秘所にあてた。
「きついでしょうけど、頑張って飲みこんでくださいね」
「ア、ガ、ハ……ひゃ、ひゃに、を……ウギャアアアアアアアァァッ~~~ッ!?!?」
 メリメリメリッと美冬の秘所を引き裂き、葉月の左腕が彼女の胎内へと押しこまれる。肌と肉とが裂け、吹き出した鮮血が葉月の胸元をまだらに染める。ふふっ、ふふふっと笑いながら、葉月はなおも二本の腕をまとめて美冬の中へと押しこんでいく。
「グアッ、ガッ、オゴッ、グオオオッ、ギャウッ、ギッ、ギギャゥッ、ガッ、ガガガッ、グアアァッ!!」
 ぶちっ、ぶちっと、限界を超えて引き伸ばされた柔肉が弾ける。だらだらと際限なく溢れ出す血が葉月の腕を染め、彼女の胸や腹、太股に滴り落ちる。あまりの激痛に失神することさえ出来ず、美冬がびくんびくんと身体を痙攣させながら切れ切れの声を上げる。
()、ぬ、ガ、ガガ……グギャッ、()ん、ガウッ、じゃう、ウギャアアァッ! ()け、る……ウギギギギッ、()け、ギャアアアアァッ!!」
「ふふっ、うふふふふっ」
 どこか常軌を逸した笑い声を上げつつ、葉月が無理やり押しこんだ二本の腕を動かす。そのたびに柔肉が弾け、美冬の口から絶叫が溢れる。後から後から美冬の口からは白い泡が溢れ、かっと見開かれた瞳からは焦点が消えかけている。
「抜いてっ、抜いてぇっ! ()け、ウッギャアアアアアアア~~~~ッ!! ヒギャッ、ウギャギャッ、ゴアアアアアァッ!!」
 美冬の哀願の声もむなしく、葉月が更に深く腕を押しこむ。身体が真っ二つに裂けそうな激痛に、美冬の視界が白く染まる。意志によらず身体が跳ね、痙攣する。
「ふふっ、このまま、お腹を突き破って上げましょうか?」
「や、べ、て……ギャウウゥッ! ヒギャッ、アギャギャッ、グギャアアアアァッ!! (ごろ)ざない、でぇっ、グギャヒイイイィィ~~~ッ!!」
 葉月の笑いを含んだ呼びかけに、美冬が絶叫する。実際には葉月の力で腹を突き破るなど到底不可能だが、美冬の感じている激痛はそんな思考を許さない。いや、美冬にしてみれば、本気で腹の中を掻き回されているような痛みを感じ、腹どころか頭のてっぺんまで貫通されそうな恐怖感を味わっているのだから、むしろ彼女の絶叫も当然のことかもしれない。
「苦痛から逃れるには、どうすればいいか……教えてあげましたよね?」
 美冬の絶叫に、口元に冷笑を浮かべて葉月が両腕をぐいっと左右に開く。といっても、美冬の秘所に締めつけられているような状態だから、開くといってもごく僅かだ。しかし、その僅かな動きが、美冬にとってみれば全身を引き裂かれるかのような激痛に感じられる。
「グギャアアアア~~~ッ! ヒゴッ、オゴッ、ゴアアァッ、グオッ、ガアアアァッ!! ギャッ……ヒッ……ア、ガッ、ア……ガフッ……ビッ、ギャッ……アァッ」
「ふふっ、どこまで強情が張れるか……楽しみですね。それに、あなたの中はとても気持ちいいですし。いつまでも、こうしていたいぐらいですよ」
「ヒッ、ガッ……ガウッ……ガッ……アッ……イギャッ……アガァッ……ビャウッ……ヒガァッ」
 ぞっとするものを含んだ笑みを浮かべつつ、葉月が両腕を動かす。捻り、押しこみ、握った拳を僅かに広げ、爪で傷つけられた肉を引っかき、左右に押し広げつつ僅かに抜き、また押しこむ。一つ一つの動きが、美冬のもっとも敏感な部分を引き裂き、血をあふれさせ、筆舌に尽くしがたい激痛を与える。美冬はまともに思考することすらままならず、もはや許しを乞う言葉さえ紡げずに、ただ身体を痙攣させ、切れ切れに叫び、泡を吹くことしか出来ない。
「あっ、ああっ……美冬、美冬……ごめん、ごめんなさい……」
 葉月の腕を飲みこんだ美冬の下腹部が、その動きに合わせて盛り上がる。カッと目を見開いたまま、凄絶な絶叫を上げて身体を跳ねさせる美冬の姿を見つめながら、両手で口元を覆って香織が涙を流す。彼女の予想を遥かに越えた事態に、理性は止めなければと告げているのだが、身体がすくんで動けない。そして、制止するもののいないまま、葉月は容赦なく両拳で美冬の秘所を蹂躪していく。
「ほらほら、まだ認めないんですか? ふふっ、ふふふっ」
「ギャウッ、ア……み、ギャアァッ! グアッ、や、ギャッ、ギャウゥッ! も、ウギャアァッ! ヒッ、ギ……ギヤァッ!!」
 葉月の問いかけに、答えようにも激痛のあまり喋ることさえ出来ない。くすくすと笑いながら葉月が腕を動かし、美冬が絶叫する。まるで自分が責め苛まれてでもいるかのように表情を歪めた香織が、がたがたと震えながら見守る中、そんな行為がひたすら繰り返される。

 ……そして、どれくらいの時間がたっただろうか。美冬の声から力がなくなり、もはや叫びというよりただ息が漏れる音といった感じになった頃、葉月がやっと両腕を美冬の秘所から引き抜いた。びくんっ、と、大きく身体を震わせた美冬の口から、掠れた声が漏れる。
「も、もう、許し、て……」
「認めるなら、許してあげますよ。認めないなら……そうですね、今度は、腕ではなくて足を入れてあげましょうか?」
 半ば失神しかけた美冬の前髪を、血まみれの手で掴んで仰向かせながら、葉月が笑う。ひっ、と、短く息を呑んだ美冬が、渾身の力を振り絞るように絶叫を上げた。
「イヤアアアアアァッ!! 認めるっ、認めますっ! 認めるからっ、もうやめてっ、許してぇっ!」
「そう、認めるの。なら……許してあげるわ」
 薄く笑いながらの葉月の言葉に、ひいいぃ、と、掠れた息を漏らして美冬は白目を剥いた。葉月が軽く肩をすくめながら彼女の両手首を捕らえる手枷を外すと、完全に意識を失った美冬の身体が床の上に倒れこむ。股間からどくどくと大量の血を流し、ひくひくと身体を痙攣させている美冬の身体を見下ろしながら、葉月が口元に冷笑を浮かべた。
「どうせ認めるなら、もっと早く認めておけばよかったのに……」
「美冬! ああ、こんな、酷い……」
 意識を失った美冬の元に駆け寄り、傷だらけの彼女の身体に覆い被さるようにして香織が涙を流す。バケツに汲んであった水に両腕を突っ込み、ばしゃばしゃと血を洗い流しながら、葉月が冷たい視線を彼女に向けた。
「あなたのしたことでしょう? 何を今更」
「あ、なたがっ! あなたがやったんでしょう!? あなたが、こんな酷いことを……!」
「妙な言いがかりをつけるのは、やめてもらえますか? 那智委員長。
 あなたが私にやれと、そう命じたんですよ。そして、あなたは止めようとしなかった。私がやりすぎていると感じたなら、あなたは止めるべきだったし、その権利もあったのに」
「そ、それは……」
「もう一度いいますけど、妙な言いがかりをつけるのはやめてください。さもないと、私だって怒りますよ?」
 赤く染まった水から手を引き抜き、前髪を無造作にかきあげると葉月が冷たい口調でそう言う。思わず絶句した香織の元へとゆっくりと歩み寄りつつ、葉月が口元に冷笑を浮かべる。
「やれといったのは、あなた。止めなかったのも、あなた。悪いのは誰です?」
「そ、それは……けどっ、あなたにだって」
 声を震わせながらそう言いかけた香織の頬が、ぱぁんと乾いた音を立てる。きゃっと悲鳴を上げ、平手打ちを受けた頬を押さえる香織。その彼女の胸倉を両手で掴み、引きずり上げるようにしながら葉月が問い掛ける。
「私が、何です?」
「あ、あなた、こんなことをしてただで……ぐふぅっ!?」
 流石に顔色を変えて怒鳴りつけかけた香織の腹へと、葉月が膝蹴りを叩きこむ。苦痛の声を上げる香織の腹へと、更に二度、三度と葉月は膝を打ちこんだ。苦悶の声を上げ、両腕で腹を押さえた香織のことを、冷ややかな笑みを浮かべつつ葉月が見下ろす。
「これも、聞いた話なんですけどね。喧嘩のときは、相手が二度と逆らう気がなくなるぐらい、徹底的に叩きのめさないといけないんですって。復讐しようだなんて思わなくなるぐらい、徹底的に、ね」
「あ、ぐ……な、何を、ぎゃうっ!」
 苦しげに呻く香織の頭を両手で掴み、葉月が膝を跳ね上げる。顔面に膝を叩きこまれた香織がくぐもった悲鳴を上げた。鼻血をあふれさせ、顔の下半分を真っ赤に染めた香織が、引きつった表情を浮かべて葉月の腕を振り払い、逃げようとする。だが、背を向けたところで葉月が足を払い、香織の身体を床に転がした。一方的な展開だが、別に葉月が喧嘩慣れしているからというわけではない。どちらも特に格闘技などはやっていないし、実戦の経験も皆無に近い。そういう意味では本来互角なはずの二人だが、葉月の方は最初の時点で完全に相手を飲んでいた上に機先を制している。
「逃がしませんよ。言ったでしょう? やるなら、徹底的にやるって」
「ひっ、嫌ッ、やめてっ! あぐうぅっ」
 床に身体を打ちつけて呻く香織に、薄く笑みを浮かべて葉月が告げる。悲鳴を上げ、床を這いずるように逃げかけた香織の腹を、葉月が蹴り飛ばす。苦痛の声を漏らして床の上を転がる香織を、更に葉月が何度も踏みつける。
「あぐっ、がふっ、あ、やめ、ぐふうぅっ……う、ああぁ」
「さあ、あなたにも与えてあげますよ。絶望と、苦痛を……ふふふっ」
 既に抵抗する気力のなくなった香織へと、葉月が笑みを浮かべながらそう告げた……。
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