番外編3


「兄さん、起きてください」
「んあ~……?」
 と、ある高級マンションの一室。ソファーにだらしなく普段着のまま寝転んだ青年を、眼鏡をかけた一、二歳年下の青年が揺する。寝起きのぼんやりとした声を上げ、ひとつ大きな欠伸を漏らすと青年がソファーから身を起こした。
「……よぉ、友情(ともちか)。もう朝か?」
「もう朝か、じゃないですよ。寝るなら、きちんと着替えてベッドで寝てくださいね」
「んなこといったって、お前、こっちは帰って来たの深夜だったんだぜ? 正義(まさよし)の奴の尻拭いに駆けずり回ってたんだ、疲れてるんだよ」
「それはどうもお疲れ様、と、言いたいところですが、勝利(まさとし)兄さんの場合は、単なる趣味でしょう? 後始末ぐらい、部下に任せておいてもなんら問題はない。それにお疲れの原因も、どうせまた『お楽しみ』だったせいなんでしょうしね」
 皮肉っぽく口元を歪める弟の言葉に、勝利が苦笑を浮かべる。
「ま、広島まで出向いた甲斐はあった、ってとこかな。高校生になる娘がいるとは思えないくらい、いい肉体(からだ)してたよ」
「で、きちんと後始末はしてきたんでしょうね? もみ消すのは簡単ですが、余計な手間はかからなければそのほうがいい」
「大丈夫だよ。ちゃんと、強盗殺人で一家殺害、ってな形にしてある。今日の夕刊か明日の朝刊にちっちゃく記事が載って、それでおしまいさ。迷宮入り確実な事件に駆り出される警察の皆さんにはちょっと同情するがね」
 あっさりとした口調で物騒な発言をする勝利に、無造作に友情が肩をすくめる。
「それも給料のうちと思って、諦めてもらいましょう。で、兄さん、そろそろ出かけるので用意を」
「ん~……あー、そうか」
 ぼりぼりと寝癖のついた髪を掻き回し、勝利が気の進まなさそうな唸り声を上げる。ふうぅっと溜息をつくと彼は友情のほうを見上げた。
「で、例の話、本当なのか?」
「その、確認に出向くんです。もっとも、書類を見る限りでは本人だと思えますし、限りなく黒に近いのは確かですが。あいにく、お祖父(じい)様とは連絡が未だに取れていないので、背景に関しては不明な点も多いんですけどね」
 すっと眼鏡のつるを左手の中指で押し上げつつ、冷静な口調で友情がそう言う。はぁ、と、再び溜息をつくと勝利は勢いをつけてソファーから立ち上がった。
「ま、行けば分かる、ってことか。気はすすまねーが、しゃーねーな」
「そう言うことです」
 小さく頷き、友情も溜息をついた。

 一方、こちらは聖ルシフェル学園一年S組。椅子に腰掛け、退屈そうに足をぶらぶらさせていた赤岩椎名が、開いた扉のほうに視線を向け、勢いよく立ち上がる。
「おっはよー、は~ちゃん」
「あ……おはようございます」
 元気よく挨拶された少女--如月葉月がややびっくりしたような表情を浮かべつつ頭を下げる。とことこと彼女の元に歩み寄った椎名が軽く小首をかしげるようにしながら葉月の顔を見上げた。
「先週末はずっと忙しかったみたいだけどぉ、今日はしぃちゃんと遊べる?」
「え? まぁ、とりあえず一段落着きましたし、今日は特に予定もありませんけど……」
「ほんと? わーい、じゃあ、しぃちゃんと遊ぼ? ね、いーでしょ?」
 喜色満面でそう言う椎名へと、葉月が笑顔を向ける。
「そうですね、いいですよ。何して遊びます?」
「んーと、んとね、いろんなこと」
「ふふっ。まぁ、今日はしぃちゃんに付き合いますよ」
 子供っぽい、というより、子供そのものの態度で喜びをあらわにする椎名へと葉月が笑顔を向ける。うんっ、と、嬉しそうに勢いよく頷いた椎名が、ふと何かに気づいたような表情を浮かべた。
「あ、しぃちゃん、おトイレ行きたい。ね、は~ちゃん、一緒にいこ?」
「ああ、じゃ、荷物を置いて、と。行きましょうか?」
「うんっ」
 自分の席に鞄を置き、椎名の手を引いて教室から出て行く葉月のことを、窓際の席から沙智が鋭い視線で見つめていた……。

「あれぇ~? お客さんだ」
 トイレを済ませ、教室に戻る途中の廊下で、椎名が怪訝そうな声を上げる。その声につられるように視線を動かした葉月が、私服姿の二十代半ばの青年の姿を認めて足を止める。ずきっと、一瞬こめかみの辺りが酷く痛んだ。
「っ」
「ほえ? は~ちゃん、どしたの?」
「あ、いえ、ちょっと頭痛が。最近、多くて。もう治まりましたから、大丈夫です」
「ふーん。頭痛って、どんな感じなの?」
「一瞬、ずきっと痛くなる感じです。長引いたりはしないし、特に病気、というわけでもないらしいんですけど」
 軽く指先でこめかみの辺りを揉むような仕草を見せながら、葉月がそう言う。ふみゅ、と、可愛らしい声を上げて椎名が首をかしげた。
「頭痛、かぁ。いいなぁ~」
「別に、嬉しいものじゃないですけど」
 流石に憮然とした表情を浮かべる葉月に、ふるふると椎名が首を振って見せる。
「でも、羨ましいよぉ。しぃちゃん、痛いってどういう感じなのか、全然分かんないし」
「え?」
「しぃちゃんねぇ、ちっちゃい頃に病気で凄い熱が出たんだって。その時、しぃちゃんの頭がちょっと壊れちゃってね、痛いとか苦しいとか、分かんなくなっちゃったんだって。お医者さんがそう言ってた」
 ちょっと寂しげな微笑を浮かべて椎名がそう言う。一瞬絶句した葉月が口を開くより早く、ひょいっと視線を動かした椎名が首をかしげた。
「あれぇ? あの人、こっち見てる」
「え?」
「何か、用事かなぁ? やっほー、おじさん。どしたの? 何か、しぃちゃんに御用?」
「あ、しぃちゃん!」
 階段に足をかけた態勢で立ち止まっていた青年へと、陽気な声を上げてパタパタと椎名が駆け寄る。慌てて葉月はその後を追った。一方、呼びかけられた青年のほうは苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「おじさんじゃなくって、お兄さんだ。まだ若いんだからな」
「ふみゅ、じゃあ、お兄さん。何か、御用?」
「ん、ああ、ちょっと、弟に会いに、な。っと、まだ名乗ってないな、ここのOBの新城勝利だ。一応、元生徒会長なんだが、ま、新入生の嬢ちゃんたちは知らないよな」
 気さくな口調でそう言う青年に、葉月が表情を硬くした。
「す、すいません。そうとは知らず……」
「何、いいって。で、出来れば可愛いお嬢ちゃんたちの名前も、教えてくれないかい? スリーサイズもあると嬉しいが」
「やだ、おじさんのエッチ」
「ちがーう、お兄さん」
 笑いながら勝利のことを軽く叩く椎名と、同じく笑いながらぐりぐりと椎名の頭を撫でる勝利。そんなやり取りを呆然と眺める葉月の視界に、こちらへと向かってくるもう一人の人物が入ってきた。こちらは眼鏡をかけた青年だが、彼の顔を見たとたん、再びずきっと頭痛がし、小さく呻いて葉月がこめかみに指を当てる。
「ん? どうした、嬢ちゃん」
「あ、いえ、ちょっと、頭痛が。えと、私は、如月葉月といいます。一応、生徒会所属、ということになっています。よろしくお願いします」
「しぃちゃんはねぇ、赤岩椎名っ。同じく生徒会所属だよぉ」
「赤岩椎名、に、如月葉月、ね。如月葉月ってのは、変わった名前だな」
「ええ、まぁ。でも、そうつけられてしまったんですから……しかたありません」
「そりゃそうだ。ちなみにこいつの名前も結構変わってるぞ。友情と書いて、ともちか。な?」
 背後に歩み寄ってきた弟のことを肩越しに指差し、勝利が笑う。ふうっと溜息をついて友情が眼鏡のつるに手をやった。
「人に面倒な手続き押し付けて、ナンパですか? ああ、すいません、兄が迷惑をおかけしたようで」
「い、いえ、別に迷惑なんて……あの、どこかで、お会いしたこと、ありましたっけ?」
 ふるふると首を振り、やや自身無げな口調で葉月がそう問いかける。一瞬驚いたような表情を浮かべ、勝利と友情が顔を見合わせた。
「い、いや? 多分、初対面だと思うが」
「そう、ですか……。あ、すいません、変なこと聞いて」
 こめかみの辺りに再び手をやり、眉をしかめて葉月が頭を下げる。そんな彼女の態度に、友情が心配そうな表情を浮かべた。
「どうしました? どこか、具合でも?」
「あ、いえ、ちょっと頭痛が。大丈夫です、たいしたことはありませんから」
「頭痛、ですか。あまり無理はなさらないほうがいい。僕たちはこれから弟に会いにいかなければならないので、送っていくというわけには行きませんが、保健室かどこかで休まれたほうがいいですよ」
 誠実そうな笑みを浮かべてそう言う友情に、ぺこりと葉月が頭を下げる。では、と、軽く礼を残して階段を上っていく二人のことを見送り、葉月がふうと溜息をついた。まだ頭痛が治まらないのか、顔をしかめたままこめかみの辺りを揉むような仕草を見せる。
「あやや、は~ちゃん、大丈夫?」
「ええ、ちょっといつもより酷いですけど、大丈夫です」
「ふみゅ。なら、いいけど。でも、さっきはびっくりしたよぉ?」
「え?」
「だって、は~ちゃんがあんなこと言うなんて、しぃちゃん思ってなかったもん。意外と積極的なんだねぇ」
 からかうような笑みを浮かべる椎名へと葉月が苦笑を浮かべて見せた。
「別に、ナンパの口実、というわけではなくて、本当に会ったことがあるような気がしただけです。あつつ……」
「ん~、なんか、は~ちゃん記憶喪失の人みたい。昔のことを思い出そうとすると、頭が痛くなるんだよねぇ、あれって確か」
「記憶喪失、って……別にそんなことは、ないはずですけど」
 苦笑を浮かべると、葉月は椎名の手を引いた。えへへっと楽しそうな笑顔を浮かべる椎名と共に、教室へと向かって歩き始める。まだ微かに、頭痛が続いていた……。

「兄さん、兄さんは正真正銘の馬鹿ですね」
 階段を上りながら、横の勝利に向かって友情が冷たい口調でそう言い放つ。僅かに憮然とした表情を浮かべ、勝利が頭に手をやった。
「んなこと言ったって、偶然ばったり、ってのは不可抗力だろうがよ」
「だとしても、すぐにその場を離れるぐらいのことは出来たでしょうに。よりにもよってあんな物騒な相手をナンパするなんて、生命が要らないんですか?」
「いや、別にナンパしてたわけじゃ……」
 もごもごと何か抗弁しかけた勝利だが、じろりと横目で睨まれ口を閉ざす。ふうっと溜息をつくと、友情が眼鏡のつるに手をやり、何か考え込むような表情を浮かべた。
「とりあえず、向こうはこちらのことを今はまだ『忘れて』くれているようですが。正義の話、それに頭痛というのを組み合わせれば、既に封印は壊れ掛けと見たほうがいいでしょうね。予想はしていたとはいえ、厄介な話です」
「あ~、まぁ、な。あいつが本気になったらどれだけの血が流れるか。いっそ、一思いに今のうちに始末する、ってのはどうだ?」
「お祖父様を怒らせるつもりなら、それもありですが。自分の生命と引き換えにして、彼女を止めてみます? 世の中の人からは、感謝されるかもしれませんがね」
 勝利の言葉に、軽く肩をすくめて友情がそう応じる。苦笑を浮かべて勝利が頭を振った。
「んな自己犠牲、俺がするかよ。古人曰く、君子危うきに近寄らずってな」
「彼女の場合、触らぬ神に祟りなし、のほうがしっくりくるでしょうがね」
 苦笑を交し合いながら二人がそんな会話を交わしている間に生徒会室の前に辿り着き、ノックもせずに勝利が扉を開ける。と、かなりに剣幕でまくし立てる女生徒の姿がそこにはあった。
「ですから、状況から見てこれは明白な反逆です。断固たる処置をするべきだと私は……」
「いや、だからね、文乃。彼女の件に関しては、って、ああ、兄さんたち。いらっしゃい」
 辟易したようにまくし立てる女生徒--八重文乃へと軽く両手を広げて宥めるような声を上げていた生徒会長、新城正義が扉の向こうの兄たちへと視線を向けてほっとしたような表情を浮かべた。慌てて背後を振り返った文乃が恐縮したように頭を下げる。
「こ、これは、お久しぶりです、勝利様、友情様」
「よう、相変わらずだな、文乃。そんなに興奮してると、血管切れるぜ?」
 からかうような口調でそう言いながら、ずかずかと部屋の中に入り込む勝利。軽く苦笑を浮かべながら、友情が文乃へと問いかけた。
「ずいぶんと興奮しているようですが、如月葉月に関する件ですか?」
「は、はい。既に、お耳に入っていましたか。でしたら……」
「まぁ、僕たちがここに来たのは、彼女に関する話し合いをするためですから。もっとも、あなたが主張するように、彼女を処罰するというわけにはいかないんですけどね」
「な、何故です……!?」
 あっさりとした友情の言葉に、文乃が愕然として問いかける。くっくっくと低く笑いながら、勝利が爆弾を投げつけて見せた。
「なら、お前さん、理事長に聞いてみるかい? あなたの娘さんを処罰しようと思いますが、よろしいでしょうかってな」
「む、娘!? 彼女が、理事長の!?」
「一応、戸籍の上では僕たちの従姉妹、ということになっていますが、実際にはお祖父様の娘、つまりは叔母に当たります。僕たちよりも、一族内での地位は彼女のほうが上なんですよ」
 愕然とした表情を浮かべる文乃へと、淡々とした口調で友情がそう説明を続ける。あまりのことに理解が追いつかないのか呆然としている文乃へと、勝利が更に追い討ちをかけた。
「ま、あの爺さんのこったから、俺らより年下の叔父叔母なんてまだまだ探せばいるんだろうけどな。あいつの場合は実の母親と実は姉妹でもあるっておまけつきだ。流石にそんなのは、他には居ないと思うぜ。
 まぁ、あの爺さんに関しては、断言はできないがね」
「え? えぇ……っと?」
「要するに、如月葉月は、お祖父様が嫁にいった自分の娘を犯して孕ませた娘、ということです。戸籍の上では孫ということになりますが、実際には娘なんです。理解できましたか?」
 混乱している文乃へと、苦笑を浮かべながら友情がそう告げる。ぎこちなく頷いた文乃へと、友情が軽く肩をすくめて言葉を続けた。
「世間での評価はおいておいて、お祖父様の実態は聖人君子の対極ですからね。特に、女性関係に関しては見境がないといってもいい。正直な話、僕はお祖父様が如月葉月に自分の子供を産ませようとしている、といわれても驚きはしませんよ」
「ああ、それはありそうだな。つーか、その子が娘だったら、更にそいつにも種付けようとするんじゃねーか、あの爺さんなら」
「百まで現役、とか、言ってますしねぇ。ありえなくは、ないですね」
 ぽんと手を打って苦笑混じりにまぜっかえす勝利へと、同じく苦笑を浮かべながら友情が同意する。衝撃の告白に呆然と佇む文乃へと視線を戻し、友情が真面目な表情になって言葉を続けた。
「ともあれ、生徒会風の言い方をするなら如月葉月はお祖父様の『お気に入り』です。彼女に迂闊に手を出せば、火傷ではすまない。僕たちですら、ね」
「け、けれど、彼女はそんなことは一言も……」
「それはそうでしょう。彼女はそんなことは知らない。いえ、正確に言えば、『忘れて』いるのですから」
 文乃の言葉に、沈痛ともいえる表情になって友情がそう応じる。きょとんとした表情を浮かべた文乃へと、苦笑を浮かべて友情が肩をすくめて見せた。
「今の彼女を知っているあなたには想像し辛いでしょうが、子供の頃の如月葉月というのは、非常に攻撃性が強かったんです。お祖父様もかなり加虐癖の強い人でしたから、似たんでしょうけど。まぁ、子供というのはえてして残酷なものですけど、彼女の場合それが度を過ぎていた。結果、危うく死人が出るような事件を引き起こしてしまったんです。まぁ、他人事のようにいってますけど、実はその事件の被害者というのは僕たちなんですがね」
「もう、十年以上も昔の話だが、あの時の事は今でもよーく覚えてるぜ。まだ小学生だった俺らとあいつが喧嘩になってな。俺は思いっきり股間蹴り上げられて、思わずうずくまったところで頭ぐらいある石で思いっきりがつんとやられたんだ。子供の力だったから良かったようなものの、そうでなきゃ頭が潰れてたんだぜ? 実際、頭蓋骨にヒビ入って三日ぐらい意識不明、結局十針以上頭を縫うっていう大怪我だったんだから」
 思いっきり顔をしかめて頭に手をやり、勝利がそうぼやく。小さく頷き、友情が絶句している文乃へと言葉を続けた。
「慌てて駆け寄った僕は、左目を抉られました。おまけに、その激痛のあまり地面に転がった僕のことを、彼女は笑いながら何度も蹴ってきたんですからね。半分真っ赤に染まった視界に映っていた、彼女の笑顔は今でも忘れられません」
 ゆっくりと首をふりながらそう言う友情。うんうんと何度も頷きながら、勝利がじろっと正義の方を睨んだ。
「そういや、同じくその場にいた誰かさんは、さっさと逃げ出したおかげで無傷だったんだよな」
「え、えと、でも、あの時僕が急いで大人の人を呼んでいたから兄さんたちは殺されずに済んだ、という見方も出来るわけだし……」  もごもごと抗弁しかける正義へとどこか楽しげな表情を浮かべて何か言いかける勝利。だが、呆れたような表情を浮かべてそれを制し、友情が説明を先に進める。
「まぁ、ともかくそれで大騒ぎになりましてね。お祖父様自身は、彼女のことを咎めるどころかむしろその行動を喜んだりもしていましたけど、流石に親戚の人たちも黙っていませんでしたから。ともかく、こんなに攻撃的では近い将来また同じような事件を起こす、このまま放置するわけにはいかないってことになったんです」
「まぁ、そこで抹殺なり幽閉なり、ともかく後腐れのないよう処分出来てりゃ話は早かったんだが。爺さんの感覚からすると、あいつの攻撃性・残酷性は好ましいものでこそあれ、悪いもんじゃないってことになるらしくてね。いくら周りの親戚連中が騒いだところで、結局は爺さんの意思が優先されちまうって部分はあるし、そういうきっちり禍根を絶つようなやり方は出来なかったんだよな」
「ええ。それで、結局妥協案として採られたのが、催眠暗示によって彼女に封印をかけること、だったんです。成長し、自分の衝動が理性で抑えられる状態になるまで、暗示によってその性癖を封印しておこう、というわけですね」
「結局、爺さんも最後には折れて、腕のいい術者が呼ばれてあいつに暗示をかけた。本来なら、残虐性とか攻撃性とか、そんなのだけを封じる予定だったんだが、流石にそう上手くはいかないらしくてな。記憶のほうにまで、結構影響しちまったらしい。まぁ、その辺りのことは俺も門外漢だし、詳しくは分からんのだがね」
「結局その事件の後、如月葉月とその両親は海外に引っ越し、お祖父様の意向もあってその後どうなったかは僕たちも分からない、という状態になったわけですが」
 ゆっくりと首を振りながらそう言うと、ひとつ溜息をついて友情が肩をすくめる。
「暗示の影響下、如月葉月はその本来持っていた性格とは対照的な、気弱で他人を傷つけることを好まない少女として育っていくはずでした。だから僕たちも安心していたんですが、まさかよりにもよってこの学院に彼女が来ているとはね。
 あなたに今更言うまでもないでしょうが、この学院では権力(ちから)のあるものがないものを虐げるということは日常的に行われている。普通の人間であっても、この環境下であれば何がしかの影響は受けるでしょう。ましてや、本来の攻撃性を日常の倫理や常識で無理に押さえ込んでいる彼女を、他者を傷つけることが正当化され、さらに日常化されるこの環境に放り込むのはあまりにも危険です。最悪の場合、暗示によって無理に押さえ込んでいたのが裏目に出て、反動でよりその傾向が強化される、ということもありえますし、例えそうならなくても、彼女が自分の行為が間違っていないと考えれば暗示による封印は意味を成さなくなります」
「まぁ、あの爺さんのこったから、それを意図してここにあいつを放り込んだんだろうがね」
 ふう、と、溜息をついて勝利が正義のほうへと視線を向けた。
「で、だ。あいつがここに来たってのは、まぁ、爺さんの差し金ってことだとしても、だ。何だって今までこんな重大な話を黙ってたんだ? 正義よぉ?」
「僕も知らなかったんですよ、勝利兄さん。兄さんたちも会ってみれば分かると思いますけど、今の彼女はまだ封印の影響下にあり、おどおどとした内気そうな普通の少女にしか見えないんです。
 おまけに、僕が彼女に初めて会ったのは、図書委員の木崎さんが『一般生徒の中で面白そうなのを見つけた、罰を与えるから見物に来ないか』、と、そう言ってきた現場だったんですから。確かに滅多にない名前ですからね、一瞬嫌な予感はしましたけど、無様に泣き喚いている姿を見せられては偶然の一致だと考えたくもなりますよ。あの頃の彼女とはあまりにも違いすぎる。それに一応、書類を調べてみて両親の名前が違っているってことも確認しましたし」
「それはこちらでも確認済みです。確かに、書類の上では彼女の両親の名前は別の名前になっていますね。もっとも、そこで安心せずに、こちらに一言連絡をくれれば最悪の事態は避けられた、とも思いますが。お祖父様の企みであれば、その程度のことは偽装のうちにも入りませんよ?」
「う……。ごめんなさい、友情兄さん」
「ふぅ。まぁ、正義の性格では仕方のないことかもしれませんが。それに、過去のことをあれこれ言っても始まりません。今は、現実的な話をしましょう」
「う、うん……。それで、兄さんたちはどうしたらいいと思う?」
 気弱な口調でそう問いかける正義に、皮肉っぽい笑みを浮かべて勝利が肩をすくめて見せた。
「それに関しては、さっき俺らで話し合ってきた。で、だ。出た結論は……ずばり、触らぬ神に祟りなし、だ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 兄さんたちはそれでいいかもしれないけど、僕はどうなるのさ!?」
「例えは悪いですが、彼女は絶滅寸前で保護対象になっている猛獣、みたいな物です。手を出せば、自分の身が危うい。かといって、放置しておけば、自分が食い殺される危険もある。
 だったら、そんな物騒な猛獣は檻の中に入れておけばいい。そうすれば、檻の外の人間は安全です。幸い、この学院は周囲とはほぼ完全に隔絶していて、いわば強固な檻のような物ですからね」
 勝利の言葉に悲鳴じみた抗議の声を上げる正義へと、淡々とした口調で友情がそう言う。思わず椅子から立ち上がり、正義は悲鳴を上げた。
「友情兄さんまで! そりゃ、兄さんたちはそれでいいかもしれないよ!? けど、僕は、その檻の中に居るんだ。兄さんたちは僕に死ねって言うのかい!?」
「大丈夫ですよ。いくら猛獣といっても、満腹している時は狩りはしないものです。飢えさせないように注意して、ちゃんと餌をやっていれば飼育係が食い殺されたりしません」
 にこやかな笑顔でそう言うと、友情は軽く肩をすくめた。
「それに、彼女の封印は、まだ有効です。彼女の記憶が封印されている限り、あなたの身に危険が及ぶ可能性は少ないと言えるでしょう」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「また、封印が解け、あなたに対して憚る必要はないのだと彼女が気づいたとしても、今の彼女はもう子供ではありませんからね。利用価値のある相手は利用する、ぐらいの知恵はあるでしょう。自分には手を出さないほうがむしろ得になると思わせることが出来れば、やはりあなたの身の安全は確保できます」
「そういうこった。ま、うまくやるこったな」
 無責任な口調でそう言い放つ勝利のことを、正義が恨めしそうに睨む。
「そんな、簡単に言わないでよ」
「とはいえ、僕たちがあまり関わるのは返って良くない結果になると思いますよ? 何しろ、昔の関係者なんですから。僕たちと接触することで封印が解けるきっかけが生まれる可能性だって高いでしょう?」
「う……ん、それは……そうかもしれないけど……」
「ま、恨むんなら、ここにあいつを送り込んだ爺さんのことを恨むんだな」
 口ごもる正義へと、あっさりとした口調でそう言って勝利が肩をすくめる。軽く苦笑を浮かべ、友情が眼鏡のつるを指で押し上げた。
「まぁ、今回の件に関しては、とりあえず不問に処すしかないでしょう。彼女を処罰するわけにはいかないんですから。もっとも、完全にお咎めなしだと、抑止力がなくなりますからね。いずれにせよ、空いた委員長の席を埋めるために会議を招集するのは避けられないわけですから、その席で厳重注意、という辺りですか。今回の件に関しては、状況を考慮して罰っしはしない。けど、今後同じような事件を引き起こすことはないように、とね」
「それで、大丈夫かなぁ……?」
「これはあくまでも僕の判断ですから、それ以上にいい対応があるとあなたが思えば、そちらを採用してくれてもかまいません。あなたの身の安全に関わることですから、最終的にはあなたに判断は任せます」
「それって、無責任な気がするけど……」
 拗ねたように呟く正義へと、友情が苦笑を向ける。
「あなたのことを信頼しているから、ですよ」
「……分かった。確かに、友情兄さんの言う方法が、ベストだと僕も思うよ」
 深く溜息をついて、そう呟くと正義は視線を文乃のほうへと向けた。
「文乃。明日、臨時の生徒会会議を開くから、集まるように通達しておいて。それから、今回の件に関しては、その場で処分を決めるから、それまでの間はみだりに騒がないよう、みんなに釘をさしておいてくれるかな。いいね?」
「は、はい、ご命令とあれば……」
「それから、ここで聞いたことは、他言無用だよ? 念を押すまでもないとは思うけど」
「はい、分かっております。では、私はこれで」
 微かに声を掠れさせてそう言い、文乃が三人に一礼して部屋から出て行く。ふうっと溜息をひとつつき、勝利が髪をがりがりと掻き回した。
「で、今回の件はそれでいいとしても、だ。今後、どうする?」
「どうするといっても、最終的にはお祖父様の判断しだいという部分が大きいですから。一応、僕のほうでも打てるだけの手は打ってみるつもりですが、うまくいくかどうかはやってみないと分かりませんね」
 どこか他人事のような口調で、友情がそう言う。僅かに興味を惹かれたような表情になって、正義が兄へと視線を向けた。
「それって、うまくいけば彼女を何とかできるってこと?」
「まぁ、そうです。もっとも、あなたが期待しているような対応策ではありませんが」
「? どういう意味?」
「僕が考えているのは、彼女がこの学院という檻から外に出た後、どうやって新しい檻を作るか、ということですから。あなたが期待しているような、すぐに効果の出るような対策ではありません」
 友情の言葉に、目に見えて正義が落胆する。
「それって、僕にはともかく一人で頑張れ、ってこと?」
「まぁまぁ、そう落ち込むなよ。もしあいつが完全に封印破っちまって、お前の身に危険が及ぶようなら取引すればいいだろ。ほら、さっき友情の奴が言ってたろ? 餌さえちゃんとやっておけば、猛獣に飼育係が食い殺されるようなことはないって。餌の確保に関しては、いざとなったら俺のほうでも相談に乗るから」
「……うん、ありがと」
 まだ完全に納得した表情ではなかったが、ともかく正義が頷く。とりあえずこの場で出来る相談は全て終わったと判断したのか、友情が軽く肩をすくめた。
「さて、では僕たちはいったん引き上げます。いろいろとやることもありますし」
「え? でも、わざわざここまで来たのは、如月葉月の実物をこっそり見るのが目的でしょう? なのに……」
「いえいえ、そのようでしたら既に済みましたから、どこかの馬鹿のせいでね」
 怪訝そうな正義の言葉に、にこやかな笑みを浮かべながら友情が毒のある口調でそう言う。ごほごほっと軽く咳き込んだ勝利の姿に、事情をなんとなく察したのか正義が呆れたような視線を向けた。
「勝利兄さん……」
「事故だからな、事故。あ~、それと、言い忘れてたけど、頼まれてた清川とかいうのの始末はきっちりつけてきたから。これからそっちの仕事も増えるだろうけど、大船に乗ったつもりで任せてくれていいからな」
 誤魔化そうとしているのか、口早にそう言うと勝利がさっさと部屋から出て行く。こちらも呆れたような表情を浮かべながら、友情が軽く肩をすくめた。
「では、僕もこれで。言うまでもないとは思いますが、充分に注意してくださいね。少しでも気にかかることがあれば、すぐに報告してください。出来る限りのフォローはしますから」
「うん、分かってるよ、友情兄さん」
 沈痛な表情で頷く正義。弟を安心させるように笑顔を浮かべて見せると、友情も部屋を後にした。一人部屋に残された正義が、深々と溜息をつく。
「参ったな、ほんとに……」

「ん、あ、も、もう、許して……ひゃううぅんっ、やっ、そこっ、だめっ、ひいいいぃっ」
「んふふふ……可愛い声ですね」
「やっ、あぁっ、もう、ふわあああぁっ」
 照明の抑えられた薄暗い部屋の中に、喘ぎ声が満ちる。ぴちゃぴちゃと濡れた水音が響き、白い二つの少女の裸身が絡み合う。台の上にX字型に手足を鎖で拘束された少女が顔をのけぞらせ、悲鳴にも似た嬌声を上げた。こちらも全身にびっしょりと汗を浮かべ、淫蕩な笑みを浮かべた少女がその身体に覆いかぶさり、敏感な部分を責め立てる。既に幾度となく絶頂に導かれ、敏感になっているのか拘束された少女が甲高い声を上げてびくっ、びくっと身体を痙攣させる。
「……何を、やってるんです? 白井さん」
「あっ」
 不意に響いた怪訝そうな声に、少女の上に覆いかぶさっていた白井絵夢が顔を上げる。はぁはぁと息を荒らげながら、責めから一時解放された少女--加賀野美冬が弱々しく首をもたげた。
「如月さんが、今日は遅くなるからその間好きに遊んでいていいと仰いましたから」
「まぁ、確かにそう言いましたけど……ちょっと意外ですね。あなたのことだから、てっきり拷問してるものかと思いましたけど」
 眉をしかめたまま、ゆっくりと如月葉月が台のほうへと足を進めつつそう言う。びくっと身体を震わせた美冬の表情が、みるみるうちに強張り恐怖に染まる。くすっと小さく笑うと、絵夢はいじられて硬く勃起した美冬の肉芽を捻り潰すように強くつまんだ。
「あひいいいいぃっ!? 痛い痛い痛いいぃっ!」
 敏感な肉芽から生まれた激痛に悲鳴を上げる美冬。くすくすと笑いながら更に肉芽を強く捻りつつ、絵夢が媚びるような笑みを葉月へと向けた。
「如月さんがいらっしゃる前に、あまり傷をつけるわけにもいきませんから」
「へぇ、そう。いい子ね、絵夢。後でご褒美を上げるわ」
 口元に邪悪な笑みを浮かべてそう言う葉月に、ぱっと絵夢が顔を輝かせる。くすっと小さく笑うと悲鳴を上げている美冬の前髪を掴み、強引に持ち上げて葉月が問いかけた。
「さて、加賀野さん? そろそろ、私のお願い、聞いてくれる気になりました?」
「い、や、よ……姉さんまで、こんな目に遭わせるわけ、には……あひいいぃぃっ!?」
 掠れた声でそう答える美冬の肉芽を更に絵夢が捻る。肉芽がもぎ取られそうな激痛に、絶叫する美冬。くすくすと笑いながら葉月が絵夢に目配せを送った。うっとりとした表情になって小さく頷き、絵夢がいったん台の上から降りる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「私がお願いしてるうちに、気を変えたほうがいいですよ? 私があなたにこだわるのは、姉妹奴隷というのが面白そうだから、というだけの理由ですもの。まぁ、あなたのお姉さんを手に入れるのに、あなたを利用するのが一番手っ取り早い、というのも確かに理由ではありますけど、他に手がないわけでもないですからね」
 くすくすと笑いながら葉月が汗に濡れて光る美冬の肌の上に指を滑らせる。ひっと短く息を呑み、身体を硬直させる美冬の反応を楽しむように身体に残る鞭跡を指でなぞり、葉月が低く笑う。
「あなたがあくまでも意地を張るというのなら、別の手段であなたのお姉さんを手に入れるだけのこと。けど、もしそうなれば、あなたとお姉さんは引き離されることになるでしょうね。
 どちらにしてもお姉さんが酷い目に遭うのが避けられないなら、まだしも私の言うことを聞いておいたほうがいいとは思いません? あなたもこれ以上痛い目を見ずに済むし、私が用のない時は好きなだけ姉妹で愛し合っててもらってかまわないんですから、どう考えてもその方が得でしょう?」
「う、うぅ……やめて、姉さんには、手を出さないで……私が言うことを聞くから……何をされてもかまわないから……だから、姉さんには」
 涙声になって懸命に哀願する美冬に、葉月が邪悪な笑みを向ける。コードに繋がれた針を何本も束ねて持ってきた絵夢のほうにちらりと一瞥を向け、葉月は美冬の右乳首をつまみあげた。
「あらあら、まだ自分の立場が分かっていないんですね。それじゃ、立場というものを教えてあげましょうか」
「ひっ!? ひぎゃあああぁぁっ!」
 ぶすり、と、鋭い針が容赦なく摘み上げられ引き伸ばされれた美冬の乳首を貫通する。悲痛な悲鳴を上げて顔をのけぞらせる美冬の反応にくすくすと笑いつつ、葉月が左乳首をつまみ引き伸ばした。絵夢がうっとりとした表情になって手にした針の先端をそこに当てる。
「やっ、やめっ、ぎひいいいいいぃっ!」
 懸命に首をふって哀願する美冬の乳首を、無慈悲に針が貫き通す。大きく目を見開いて身体を痙攣させる美冬。既に散々弄られ、ただでさえ敏感な部分が更に敏感さを増しているのだからたまったものではない。ぼろぼろと涙をこぼしつつ、痛みにひくひくと震える美冬の胸の谷間から腹へとすうっと葉月が指を走らせた。その行き先がどこなのか、否応なしに悟った美冬が激しく首を振り立て哀願の声を上げる。
「やぁっ、やめっ、そこだけは許してっ! 死んじゃううぅっ!!」
「あら、あなたはマゾとしても調教されているんでしょう? だったら、大丈夫でしょう?」
「無理っ、絶対無理っ、やめてっ、もう許してっ! 何でも言うこと聞きますからぁっ、そこだけは許してっ!」
 演技抜きの恐怖の叫びを上げ、美冬が激しく顔を引きつらせる。敏感な肉芽に針を突き立てられる、それだけでも充分耐えがたい激痛を味わうことは知っている。まして、単に針を突き刺すだけでなく、そこから通電しようというのだから、地獄の苦しみを味わうことは明白だ。いくらMとしての調教を受けているとはいえ美冬の本質はS。SMプレイの範疇ならともかく、そんな本格的な拷問から快楽を得ることなど出来はしない。
「あら、そう? なら、あなたのお姉さんを私のものにする件、協力してくれるんですね? なら、これはあなたのお姉さんにするとしましょうか」
 必死に哀願する美冬へと、くすくすと笑いながら嬲るような口調で葉月がそう問いかけた。そして葉月の意図通り、姉を引き合いに出された美冬が表情を強張らせる。
「そ、そんな……お願いですっ、姉さんには手を出さないでっ」
「あらあら、協力するのも嫌、針を刺されるのも嫌じゃ、私としても困っちゃいますね。絵夢、やって」
「はい。うふふ……」
 葉月が硬くなった美冬の肉芽を摘み上げて絵夢に命じる。嬉しそうな笑みを浮かべ、絵夢が針の先端を肉芽に押し当てる。ひっと悲鳴を上げ、美冬が哀願の声を上げようとした瞬間、ずぶりと針が肉芽を貫いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!」
 長く尾を引く絶叫を上げ、美冬が零れ落ちんばかりに大きく目を見開く。身体を弓なりにそらせて痙攣する彼女の無残な姿に、葉月が楽しそうな笑い声を立てた。
「ふふっ、うふふ。さて、絵夢。あなたにもご褒美を上げる約束だったわね。彼女と同じ位置に、あなたも針を刺しなさい。電極の配置は逆にしてね」
「あぁ……わたくしにも電気を下さるのですね……はいぃ、すぐに準備しますぅ」
 電流責めは絵夢の最も好む責めだ。うっとりとした、どこか異常な笑みを浮かべて絵夢が針にコードを繋ぎ、ためらうことなくぶすりと自分の乳首へと突き立てる。
「あぐうぅっ、ああっ、痛い……痛いです……痛くて、素敵……」
 乳首を張りで貫かれる痛みにうっとりとした表情で呟き、別の針を反対の乳首に突き立てる絵夢。くぐもった苦痛の呻きを漏らし、快楽の吐息を吐きながら既にびっしょりと濡れた自らの股間に絵夢が指を伸ばした。ぷっくりと膨れ上がった肉芽を摘むと、コードを繋いだ針を一気に突き通す。
「ひぎいいいいぃっ! い、痛いっ、痛くてっ、いいぃっ!」
 びくっ、びくっと身体を震わせると絵夢が背をのけぞらせ、そのまま床に倒れこむ。通常の人間にとっては悶絶ものの激痛も、彼女にとっては快楽だ。軽い絶頂に達して床の上でうっとりとした表情を浮かべ、天井を見上げる絵夢のことを侮蔑の笑みで見やりつつ葉月が機械のほうへと足を進めた。
「さて、それじゃ、二人とも楽しんでくださいね」
「やっ、やめてえぇっ!」
「は、早く、お願いしますうぅっ!」
 葉月の呼びかけに美冬と絵夢とが正反対の声を上げる。恐怖と絶望に満ちた美冬の叫び、歓喜と期待に満ちた絵夢の叫び、その正反対の叫びにくすっと笑いを漏らし、葉月が無造作にスイッチを入れた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
 今度は二人の口から同一の絶叫があふれる。手足を固定された美冬が全身を弓なりにのけぞらせてぶるぶると痙攣し、絵夢が床の上でのたうちまわる。乳首と肉芽という、女体の中でもっとも敏感な部分への通電は、電圧が低くとも絶大な痛みをもたらす。二人の悲鳴が掠れた頃を見計らい、葉月がスイッチを切った。
「ぎひいいぃぃ……あ、あが、もう、やめて……許してぇ……」
「ひぎ、いぃ……もっと、もっとわたくしに電気をくださいいぃ……」
 大きく胸を上下させ、空気を貪りながら二人の少女が喘ぐ。正反対の要求を口にする二人の姿をくすくすと笑いながら眺め、葉月は機械のダイアルを回した。
「では、もっと電圧を上げましょうか」
「や、あぁ……やめてぇ……死んじゃうぅ……」
「あぁ……は、はやくぅ……」
 美冬の恐怖に満ちた視線と、絵夢の歓喜に満ちた視線。二人が見つめる中、葉月の指が無造作にスイッチを入れた。
「グエアゴアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!」
「ギエエエエエエエエェェッ! ウギャガアアアアアアアアァァッ!!」
 弾かれたように二人の身体が跳ね上がる。拘束された美冬が拘束を引きちぎらんばかりに激しく弓なりにのけぞった身体を痙攣させ、絵夢が床の上でのたうちまわる。零れ落ちんばかりに目を見開き、口からよだれを撒き散らして苦悶する二人の少女の姿を見つめ、葉月が笑う。
「ひっ、がっ、あ……はあーーっ、はあーーっ、はあーーっ……」
「ひっ、ひっ、ひっ、がはっ、げほげほげほっ……」
 葉月がスイッチを切ると、二人が身体を痙攣させながら空気を貪る。薄く笑いながら、葉月は絵夢へと呼びかけた。
「絵夢、立って」
「う、あ……あぁ、凄いぃ……びくびく、してるぅ……」
 強烈な電流の刺激の余韻が残っているのか、うわごとのような呟きを漏らして視線をさまよわせる絵夢。床の上でぐったりとしている彼女へと葉月はつかつかと歩み寄り、無造作に尻を蹴った。
「ぐえっ!?」
「立て、といったのが聞こえなかった? 早くしなさい」
「は、はいぃ……」
 うっとりとした表情と口調で絵夢がよろよろと立ち上がる。葉月の方へと視線を移し、絵夢がにいっと口元を歪めた。
「何?」
「ああ、いえ、今日の如月さん、最初から凄く素敵だな、と……。いつもは、最初の頃はあんまり気乗りしない雰囲気があるのに、今日は最初から……」
「ああ、そうかもしれませんね。今日は、しぃちゃんと遊んできましたから。いつも最初の頃は、こんなことしちゃいけないんだって気分があって、やってるうちにそれが薄れていく感じですけど、今日はその段階既に過ぎた状態でここに来てますから。
 さ、無駄なお喋りはこの辺にして、続けますよ? 絵夢、彼女の上に寝て。胸と胸、股と股とがくっつくようにね」
「はい、分かりましたわ」
 葉月の言葉ににっこりと笑って絵夢が従順に従う。一方、これまで以上に酷い目に遭うことが予想できるのか、美冬が悲鳴を上げて身をよじった。だが、拘束された状態ではそれも無駄な足掻きにしかならない。暴れる美冬の上へと絵夢が身体を重ね、葉月が拘束用の革ベルトを二人の腕、太腿、胴へと巻きつけていく。大小二つの膨らみが互いに押し潰しあっている姿は、かなり淫靡な光景だ。互いの吐息が顔にかかるほど近くで見つめあう格好になった絵夢と美冬のことを見やり、ベルトの調子を確かめると葉月は機械のほうへと戻った。
「さて……この状態で通電すると、どうなると思います?」
 口元に邪悪な笑みを浮かべてそう問いかける葉月。ひっと美冬が息を呑み、絵夢がうっとりとした表情を浮かべる。自分で問いかけておきながら、二人の返答を待つことなく葉月は無造作にスイッチを入れた。
「ウゲゴガギャアアアアアアァッ!?!? ギャウッ、ゲギャアアァッ、ギャウウゥゥッ!!」
「ウギャギャギャギャギャガアアアアアアアアアァッ!! アヅッイイギャアアアアアアァァッ!!」
 バチバチバチッと、二人の身体に刺された針から火花が散る。時には触れ合い、時には離れる針がショートし火花を散らしているのだ。発熱した針が肉や肌を焼き、電流が不規則に二人の身体を貫く。
「イギャアアアアアアアアアアァァッ! やけっ、るぅっ、グウギャアアアアアアアァァッ!!」
「すごすぎっ、ギエエエエエエエエエエェッ! アギャアアアアアアアアアアァァッ!!」
 絶叫を上げ、二人の少女がのたうちまわる。どちらか、あるいは双方かが失禁したのか重なり合った股間から黄色がかった液体があふれ出し、そこに電気が流れて火花と白煙が上がる。
「ふふっ、天国と地獄、といったところですか」
「アギャガグガエゴガアアアアアアアアァッ! ジヌウウゥゥッ、グエギャアアアアアアァァッ!!」
「凄いっ、電気、がアアアアアアアアアァァッ! ギャビャビャビャビャギャアアアアアァァッ!!」
 笑いながら葉月がダイアルを回し、一層電圧を上げる。狂ったように絶叫を上げて二人が身体を痙攣させる。苦痛ばかりの美冬の絶叫と比べると、絵夢の絶叫にはどこか甘いものが含まれているような気もするが、いずれにせよ断末魔じみた凄絶な叫びであることには変わりない。そして、その常人であれば胸の悪くなるような絶叫を聞きながら、葉月は楽しそうに笑っている。
「だずげっ、ギャビャアアアアアアァァッ! じぬっ、じんじゃううぅっ! ウゲギャガアアアアアアァオオオオオッ!!」
「ごろじでっ、グギェエエエエエエエエエェッ、ぜめごろじで、ウギャガアアアアアアアァァッ!!」
 突き通された針は見た目より頑丈なもので、二人が激しく身体をのたうたせてもそう簡単に歪んだり、ましてや折れたりするような代物ではない。だが、針の先端が滅茶苦茶に肌を引っかき、血を滴らせている。あふれた血にも電流が流れ、広い範囲に焼け付くような痛みを与えていた。ショートした針が焼けているのか、焦げ臭い匂いも漂う。
「ふふっ、さて、加賀野さん?」
 ぱちんとスイッチを切ると、半ば失神した状態の美冬へと葉月が笑いかけた。びくびくと身体を痙攣させ、短く大きな息をついている美冬がのろのろと視線を動かし、恐怖に満ちたまなざしを葉月へと向ける。
「そろそろ、素直になれますか?」
「う、あ、あ……」
「あなたが私に忠誠を誓い、お姉さんを手に入れるのに協力するというのなら、もう電気を流すのは止めにしますけど。まぁ、あなたが泣き叫ぶ姿は見ていて楽しいし、絵夢もまだ満足してないみたいですから、嫌だというなら更に電圧を上げて続けるだけのことですけどね」
 通電のショックでまともに口も聞けない状態の美冬へと、悪魔のような笑みを浮かべて葉月がそう言う。ひいっ、と、笛の鳴るような音を立て、懸命に美冬が首をふった。
「しますっ、しますからっ。もうやめてぇっ!」
「あら、そうですか。けど、私の言うことを聞くってことは、あなたの大切なお姉さんを酷い目にあわせるのに協力する、ということですよ? それでもいいんですか?」
 にこやかな笑みを浮かべて葉月がそう問いかけ、一瞬美冬が言葉に詰まる。だが、すっと葉月が表情から笑みを消したと認識した瞬間、美冬の心を恐怖が満たした。
「いいっ、いいですっ、姉さんを酷い目にあわせるのに協力しますっ。だから、もう許してっ」
 自分の叫びに心が痛む。だが、それを上回る恐怖が美冬に姉を陥れる叫びを放たせた。ぼろぼろと涙をこぼしながら、美冬が必死に許しを請う。
「ふふっ、やっと素直になれましたね。では、ご褒美をあげるとしましょうか」
 するっと上着を脱ぎ捨てると葉月が笑う。重なり合って拘束されている二人の股間を覗き込むと、葉月は無造作に拳を握った腕を突き出した。上下に並んだ絵夢と美冬の秘所へと、葉月の拳が飲み込まれていく。
「ふひゃああああああああぁぁっ!?」
「うあああああああぁっ、いいいぃっ!」
 ずぶずぶと二人の秘所へと葉月の両腕がもぐりこむ。普通であれば腕を突き入れられれば激痛を感じるところだが、絵夢はもともと平気で腕を飲み込む身体だし、美冬のほうもつい先日、片腕どころか両腕を突き入れられたばかりだ。度重なる通電によって脳内麻薬が過剰分泌状態にある美冬の脳はある程度までの痛みであれば逆に快楽として受け取ってしまう。既に引き裂かれて感覚の鈍くなっていた美冬の秘所は、逆に葉月の腕で快楽を生み出していた。
「ふふっ、二人ともいい声ですね。ほらほら、もっと気持ちよくなりなさい」
「あひいいいいぃっ、ひやっ、ふわああああぁっ! なんでっ、何でこんな……ああああーーーっ!」
「もっと、もっとかき回してっ、ああっ、いいっ、もっとめちゃくちゃにしてぇっ」
 ぐりぐりと葉月が腕を動かすたびに二人の少女の口から嬌声があふれる。絵夢が至近距離にある美冬の唇を塞ぎ、美冬の方も既にまともな判断力がなくなっているのか拒むどころかむしろ積極的に舌を絡め、快楽を貪る。
 狂った宴は、深夜まで続いた……。
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