火責め


「ひっ、ひいぃっ。お許しをっ、領主様ぁっ」
 全裸に剥かれ、両手を鎖で頭上高く引き上げられた少女が恐怖に表情をこわばらせて叫ぶ。くっくっくと低く笑いながら、領主はべっとりと濡れた羽を手に取った。長く伸びた軸の部分を持ち、羽の先端を蝋燭の炎に触れさせる。ぼうっと勢いよく燃え上がった羽に、ひいっと少女が悲鳴を上げた。
「うまくかわさねば、熱いぞ? くくく……そうら」
 楽しげな笑いを浮かべながら、無造作に領主が羽を放り投げる。燃えながら飛んでくる羽を、悲鳴を上げて少女が避ける。とはいえ、両腕を頭上高く引き上げられた体勢ではあまり大きな動きは出来ない。身体すれすれをかすめるような感じで、羽が通り過ぎていく。
「お許しをっ! ひいっ、いやあぁっ」
 無言のままミレニアが羽を手に取り、火を点け、投げる。恐怖の悲鳴を上げて身をかわす少女。とはいえ、投げているのがひらひらとした羽だ。そうそう思い通りに飛ぶものではなく、身をかわすまでもなく逸れて床に落ちる軌道を取る。
「ふむ、流石に当たらんな。まぁ、そのうち当たることもあろう」
「ひいっ。お許しを、いやっ、いやああぁっ」
 領主の呟きに悲鳴を上げ、身をよじる少女。くっくっくと笑いながら次の羽を取り、火を点ける。
「さて、これは当たるかな?」
「ヒイイイイィッ、嫌あああぁっ」
 投じられた羽を悲鳴を上げながら少女がかわす。全身にびっしょりと汗を浮かべ、年の割りにはかなり豊かな胸を揺らして必死に羽を裂ける少女の姿に、領主が楽しそうな笑い声を上げた。今回の羽も、冷静に見ればそもそも当たらない軌道なのだが、少女の立場でそんな冷静な観察が出来る筈もない。当たる筈のない羽に悲鳴を上げ、必死の形相で避けている。
 楽しそうな領主とは対照的に、無表情のままミレニアが羽を手に取る。ひらひらと飛んだ羽は、今度は少女の方に向かった。ひときわ大きな悲鳴を上げて少女が足を上げる。ぽとりと床に落ちた羽に、少女が恐怖の視線を送った。かなり足元に近く、迂闊に動くと踏んでしまいそうな位置だ。
「ふむ、今のは惜しかったな、ミレニア」
「……はい」
 表情一つ変えずにミレニアが頷く。軽く首を傾げながら領主が羽を取る。
「さあ、下手に避けるとそれを踏むぞ?」
「ひっ、嫌、いやぁ……ひいいぃっ」
 目に涙を浮かべて首を横に振る少女へと、燃える羽が投じられる。甲高い悲鳴を上げて身をよじる少女。今度の羽もかなり大きく外れていたのだが、冷静にそれを見極めることなど出来ない。恐怖に全身をびっしょりと汗で濡らし、肩を大きく上下させる。
「外れたか。さて、ミレニア、次は当てられるかな?」
「……当たらない、とは思いますが」
 小さくそう呟き、ミレニアが燃える羽を投じる。ひらひらっと舞う燃える羽が、悲鳴を上げて身をよじる少女に向かって飛ぶ。胸へと向かって落ちてくる羽にますます大きな悲鳴を上げ、少女が身をよじる。ぶるんと揺れた胸をかすめ、燃える羽が身をよじった少女の左の太股の辺りにぽとりと落ちた。
「キャアアアアアアアァッ! いやっ、熱いっ、キャアアアアアアァッ!!」
 太股に貼り付き、燃える羽に少女が絶叫を上げ、振り落とそうとじたばたと足踏みをする。しかし、べっとりと硫黄で濡れた羽は肌にぴたりと貼り付き、落ちてはくれない。
「キヒイイィッ! ヒイッ! ヒイイイイイィッ!!」
 肉の焼ける臭いが立ち登り、うっすらと煙が上がる。左の太股を燃やされる少女が絶叫を上げ、目を大きく見開いて激しく頭を振り立てる。
「おやおや、またミレニアが当てたか。ふぅむ、今日こそは勝ちたいと思っていたのだがな」
「……申し訳ありません、領主様」
「なに、ゲームに勝ち負けはつきもの。気にする必要はない」
「ヒイイィッ! 熱いっ、ああっ、キヒイイイイィッ!」
 じりじりと肉を焦がしながら燃え続ける羽に、少女が泣きわめく。少女の悲鳴に唇を歪め、領主はミレニアの顎に手をかけてあおむかせると彼女に口づけをした。目を開いたまま口づけを受けたミレニアが、身体を離した領主から目を逸らして顔を伏せる。
「……奥様に、叱られます」
「あの女のことなど、気にせずともよい」
「……そう、ですか」
 未だに悲鳴を上げつづけている少女の方に視線を移し、無表情にミレニアは小さく呟いた。