剣闘士


 無数の国が割拠し、互いに覇を争う戦乱の時代。日常茶飯事ともいえる戦いは、必ず勝者と敗者とをうむ。勝者には全てが与えられ、敗者は全てを失う……それは、絶対の掟だ。ある者は生命を失い、またある者は富を失う。そして中には、『自由』を失う者もいる。
 今、円形の闘技場の中に立つ女も、そんな『自由』を失った人間の一人だった。戦いに敗れ、捕らわれの身となった彼女を待っていたのは、闘技場で戦う剣闘士奴隷として生きる道……人々に娯楽を提供するため、自らの命をかけて見世物のために戦う道だけだった。
 戦士として鍛え上げられた、贅肉のない引き締った肉体。しかし決して筋肉の塊といったイメージはなく、女性らしいしなやかさと滑らかさも同時に兼ね備えている。短く揃えた赤毛は手入れが行き届かずぼさぼさになっているが、顔立ちそのものも悪くない。
「暇人ばかり、だな……」
 闘技場の観客席を埋め尽くす観客たちを見るともなしに眺めながら、彼女が小さく呟く。見世物として行われる戦い故に、彼女は鎧どころか衣服すら身につけない完全な全裸でいることを強制されていた。(挿絵)そもそも、戦場に出る兵士のほとんどは男であり、女兵士というのはごく珍しいとまでは言わないまでも数は少ない。にもかかわらず、剣闘士奴隷は女ばかりだ。戦いに敗れ捕らえられた者によって構成されているというのに、である。くだらない見世物だとは思うが、自分が再び自由を勝ち取るにはここで戦い、勝ちつづける以外に道はない。
「さて、今日の相手は、何だ?」
 右手に握った剣の柄を握りなおしつつ、まだ開かぬ正面の扉を見据えて女がそう呟く。同じ剣闘士奴隷か、それとも獣や怪物の類か……対戦相手に関する情報は一切与えられていない。
 と、軋んだ音を立てながら扉がゆっくりと開き、その向こうから対戦相手がゆっくりと姿を現わす。観客席から僅かにどよめきが起こり、女が眉をしかめる。
「ローバー、か……」
 人間大のイソギンチャク、と、そう形容するのが一番分かりやすい姿。南方の湿地帯に生息する、肉食植物だ。植物といっても自ら動き回り、口(?)の周囲に生やした触手を用いて獲物を捕らえる危険な生物である。
「どうやら、私の死ぬところを見せたいらしいな。だが……」
 口の中で小さくそう呟く女の耳に、ジャーンという銅鑼の音が届く。戦いの開始を告げる合図だ。同時に、その音に刺激されたのかローバーの口元でうねうねと蠢いていた触手のうちの二本がいきなり伸び、びゅうんっと風を裂いて女へと襲いかかる。まだ両者の間にはかなりの距離があったため、一瞬女の反応が遅れた。
「くっ……!」
 小さく声を漏らし、女が横へ飛ぶ。女の身体を捕らえそこね、虚しく地面を叩いたローバーの触手が本体のほうへと引き戻され、入れ替わりになるように別の触手が伸びて女を襲う。だが、今度は女のほうも迎撃の準備は出来ていた。
「遅いっ!」
 気合の声とともに振るった剣が、見事にローバーの触手を切り落とす。シャーっと悲鳴とも威嚇ともつかない声(?)を上げ、ぶるぶると毒々しい色合いの胴体を震わせローバーが更に触手を伸ばす。
「はっ、遅い! 遅い、遅い、遅いっ!」
 上、右、左と次々に襲いかかってくるローバーの触手を、嘲りの声を上げながら女が次々と剣で切り落とす。どぼっという水の詰まった袋を叩き切ったような重い手応え。紫色の体液を切断面から撒き散らし、シャーッ、シャーッとローバーが奇声を上げながらぶるぶると触手を震わせる。飛び散る体液が女の肌にべちゃりとかかるが、特に身体が痺れたり痛みを感じたりといった悪影響がないので女はそれを無視し、次々に伸びては襲いかかってくるローバーの触手をあるいは避け、あるいは切り落とす。
「そんな馬鹿の一つ覚えで、私が倒せるかっ!」
 どちらかといえば単調なローバーの触手攻撃をかわしつつ、女が嘲るようにそう言う。女の動きにローバーは対応できず、ただ闇雲に触手を振りまわしては女の剣で切り落とされていく。
 女が優勢に戦いを進めていくのを見て、観客たちの一部からから僅かに落胆の声が上がる。観客たちが本当に望んでいる『若く美しい女が無残に殺される光景』は見られそうにないからだ。激しく動き回っているせいでブルンブルンと結構なボリュームの胸が揺れ、それが観客たちの目を楽しませているものの、それなら剣闘士奴隷同士の対戦でも楽しめる。モンスターを相手に闘わせる時はそんなものよりも女が惨殺される光景こそが観客の望むものなのだ。
「そらそらそらっ、そらっ! 遅いっ!」
 ざくざくざくと、景気よく左右から次々に襲いかかってくる触手を切り飛ばし、女がローバー本体に向かって突進する。びゅうんっと正面から槍のように突き出されてきた触手を僅かに右に身体を傾けてかわし、すれ違いざまに切り飛ばす。足元を払うように横薙ぎに振るわれた触手を飛び越え、着地と同時に更に身体めがけて伸びてくる触手を二本まとめて切り払う。切り裂かれた触手から吹き出す紫色の体液をまるで返り血のように全身に浴びつつ、女がシャーっ、シャーっと奇声を上げるローバー本体へと迫る。
「うっ……あ? な、何、だ……?」
 あと数歩でローバー本体を剣の間合いに捉える、というところまで来たところで、女の口から怪訝そうな声が漏れ、苦しげに眉がしかめられる。僅かに動きが鈍り、右側から振るわれた触手を防ぐのに今までのように最小限の動きでかわしたり剣で切り払ったりするのではなく、後ろに大きく飛びのかざるを得なくなる。
「身体が、熱い……? う、あ、はぁ……な、何、だ?」
 息が荒くなり、目の前が僅かにぼやける。本能的な動きで周囲から叩きつけられる触手の群れをかわしていくものの、明らかに自分の身体の動きが鈍くなっているのを女は感じた。剣を振るう腕にも力が入らず、今まで軽々と切り裂けた触手に剣が弾かれそうになる。くちゅっと、触手をかわした動きの流れの中で触れ合った太股が湿った音を立てるのを聞くというよりは感じ、女がはっと目を見開いた。
「こ、こいつの体液は……うあぁっ」
 自分の股間から汗とは違うものが溢れていることを知り、相手の体液に催淫効果があることに遅まきながら気づいた途端、身体の内側で一気に欲情の炎が燃え上がる。苦しげな息を漏らして足元をふらつかせた女の手足に、肉色の触手がぐるりと巻きつき、宙へと持ち上げた。
「しまっ……くっ、この、はなせっ!」
 観客席からわきあがるどよめき。女が表情を歪め、身をよじるが触手の力は意外なほど強く、為す術もなくうねうねと触手を蠢かせるローバーの胴体の真上まで運ばれてしまう。
「このっ、やめろっ、はなせっ、くっ、うっ、あっ!?」
 さんざん切り払ったはずの触手が、いつのまにか再生して自分の身体へと伸びてくるのを目にし、女が恐怖に顔を引きつらせる。ローバーの体液にまみれ、紅潮した裸身へとうねうねと触手が巻きつき、締め上げる。
「う、あっ、がっ、はっ……」
 みしみしと肋骨が鳴るほど強く胴体を締め上げられ、女が苦しげな息を吐く。目を大きく見開き、途切れ途切れの息を吐く女の胸へと、更に触手のうちの二本がくねりながら伸びて巻きつき、搾り出す。グネグネと蠢く触手が女の乳房を歪ませる様に、観客席から笑い声が沸き起こった。
「くうっ、あっ、うああぁっ」
 苦しげに眉を寄せ、女が何とか拘束から逃れようと身悶える。催淫効果のある体液に強制発情させられている状態ではあるが、決して感じているわけではない。ないが、触手から逃れようと身悶える姿は観客の目には感じてよがっているようにも見える。
「うっ、あっ、ひっ!? やめっ、そこはっ……! ひぐううぅっ!?」
 触手に絡みつかれ、空中に磔にされて身悶える全裸の女性……それだけでも淫靡な光景だが、無論観客たちの望みは更にその先にある。どこかでローバーに指示を出す人間がいるのか、それともローバー自身にそうするよう躾がされているのかは不明だが、するすると伸びた触手が女の秘所へと伸び、無造作に貫く。まるっきり受入体勢が整っていなかったわけではないが、人間の男根より二周り以上は太い触手に乱暴に貫かれた女が顔をのけぞらせて悲鳴を上げる。
「ひぐっ、あっ、あぐううぅっ! 動かっ、ないでっ、うぐああああああぁっ!!」
 グネグネと蠢く触手による陵辱……生理的な嫌悪感と痛みとに涙を浮かべて女が身体をのたうたせ、悲鳴を上げる。何とか拘束から逃れようと激しく身体をくねらせるが、それは観客の目を楽しませる淫靡なダンスにしかならない。
「やっ、やだっ、やめっ……おごああああああぁっ!」
 更に、別の触手が女の肛門を強引に押し広げ、体内へと侵入する。ぶちぶちと肛門の括約筋が裂け、血が滴る。初めて物を受け入れる場所の痛みと嫌悪感とに女を今まで支えていた矜持が潰え、宙に磔にされた女の口から悲痛な絶叫が溢れた。
「イッヤアアアアアアアアアァッ! もう、いやっ、やめてっ、許してっ、ヒギャアアアアアアアアァッ!?」
 ぼろぼろと涙をこぼして激しく首を振る女の口から、魂消るような絶叫が溢れる。既に一本の触手を受け入れ、蹂躪されていた秘所へと別の触手が強引にもぐりこんだのだ。もちろん、そこは既に満員だ。新たに潜り込んだ触手はぶちぶちと女の秘所を引き裂き、鮮血を滴らせる。
「ヒギッ、ギッ、イギィィッ! ギッ、ヤッ、アガガガガ……!!」
 あまりの痛みにこぼれおちんばかりに目を見開き、切れ切れの悲鳴を上げて身体を震わせる女。だが、無情にも三本目の触手が血を滴らせる女の秘所へと伸び、潜り込む。ビクンっ、ビクンっと女の身体が痙攣し、背骨が折れんばかりに背筋が反り返る。
「ヒギャッ、ガッ……アガガッ……グガアァッ……ギヒイイィッ!!」
 触手がうねくるたびにぶちぶちと秘所が引き裂かれていく。こうなると、相手の体液に催淫効果があろうがなかろうが関係ない。快感など微塵もなく、意識が飛びそうなほどの激痛に責め苛まれるだけだ。
「ハッ、ガッ、アッ……ウギャアアアアアアアアアァッ!!」
 弾かれるように身体を痙攣させ、切れ切れの悲鳴を上げる女。そんな彼女の口から、また凄絶な絶叫が溢れる。肛門と秘所、その双方に一本ずつ、新たな触手が潜り込んだのだ。内側から触手に押し上げられ、女の腹が膨れ上がる。ぼこんと盛り上がった腹がグネグネと蠢き、その度に女の身体が跳ね、短くも悲痛な叫びが上がる。
「アガッ……グガアァッ……ギイイィッ……ヒギャッ……ギャアアァッ!」
 口の端に泡を浮かべ、半ば白目を剥きかけて身悶える女。しかし、やれっ、もっとやれという観客の声が響く。その声に応えるように、更に二本、女の秘所へと触手が追加された。
「ウッギャアアアアアアアアアアアァァッ!! アギャギャギャギャッ、グギャギャッ、アギャアアアアアアアアァッ!!!」
 妊婦のように腹を大きく膨らませた女の口から、獣じみた凄絶な絶叫が上がる。うねうねと内部で蠢く触手の形に不規則に盛り上がる丸く膨れ上がった腹。かっと目を見開いているものの、女の目にはもはや風景など映ってはいないだろう。意識の全てが、痛みだけに支配されているはずだ。
「ヒギャアアアアアアァッ!! グギイイイイイィッ!! ギガガギイイイイイィッ!!」
 更に肛門と秘所に追加される、触手。完全に引き裂かれた秘所と肛門の中で触手がのたうち、女の口から気が狂ったようなめちゃくちゃな絶叫が上がる。がくがくと全身が痛みのために震え、ぼたぼたと鮮血が流れ落ちてローバーの口の中へと消えていく。
 そして、ついに女の最後の時が来た。はちきれんばかりに膨れ上がった女の腹がひときわ大きく蠢き、次の瞬間女の鳩尾の辺りから一斉に触手が飛び出す。
「イッッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ----ッ!! アガ、ガ、ガ……」
 女の口から溢れる、凄絶な断末魔の絶叫。引き千切られた内臓と肉片がぼたぼたと降り注ぐ。ごぶりと口から鮮血が溢れ、触手に絡みつかれたままの手足がビクンビクンと跳ねる。掠れた呻きが僅かに女の口から漏れるが、それもすぐに消え、さざなみのような断末魔の痙攣もやがて止まる。完全に生命を失い、単なる物体と化した女の身体がローバーの口から飲みこまれていく。闘技場を揺らさんばかりの観客たちの歓声が、響いた……。
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