こんこん、という小さなノックの音に、私は日記帳から視線を上げた。既に日は完全に落ち、部屋の外は闇に覆われている。私が以前暮らしていた王都では、このぐらいの時間ならまだ街には多くの灯が点り、出歩く人も数多く居たものだが、辺鄙な農村であるここではほとんどの人間は寝静まっているはずの時間だ。そんな時間の来客に、内心で嫌な予感を覚えつつ私は椅子から立ち上がった。
「はい、どなたですか?」
「こんな遅くに申し訳ございません。ユリアでございます」
 扉の向こうに声をかけると、躊躇いを含んだ若い女性の声が返ってくる。私が扉を開くと、申し訳なさそうな表情を浮かべながらユリアさんが室内へと入ってきた。
「実は、神父様にお願いしたいことがございまして……」
 躊躇いがちに視線を伏せ、ユリアさんがそう言う。村でも随一といわれる美貌の持ち主が、愁いに顔を曇らせている姿は、私の目にはひどく魅力的に映った。思わずごくっと唾を飲み込みつつ、外見上は何とか平静を保って私が問いかける。
「何でしょうか。私で力になれることであれば、よろしいのですが」
「はい、それが……」
 私の問いに、ユリアさんが口篭る。軽く首を傾げ、私は問いを発した。
「もしかして、懺悔に来られたのですか?」
「は、はい」
 私の言葉にユリアさんがこくんと頷く。ふうッと内心で溜息を吐き、私はユリアさんに椅子を指し示した。
「私は神の下僕。信者の懺悔を聞く事は当然の義務です。もちろん、懺悔の内容を他に漏らすような真似は決していたしません。どうか、何も心配せずに懺悔なさい。罪を犯しても、それを悔い改める者には、必ずや神は慈悲の手を差し伸べてくださるのですから」
 表面上は非の打ち所のない温和な笑みを浮かべてそう告げながら、私は内心でもう一度溜息をついた。
 私が、この村に赴任してからまだ一月にもならないが、この村の人たちは頻繁に教会を訪れ、懺悔をしていく。私の前任者がかなり厳格な人物で、些細なことに対しても厳しい態度で臨んでいたことが一因ではないかと思うのだが、普通に考えてわざわざ懺悔に来るほどでもないようなことまで懺悔に来るのだから、私の仕事は想像以上に多い。別に、辺鄙な村に赴任を命じられたこと自体は--左遷だとはいえ--それほど気にしていなかった私だが、ここまで多忙になると知っていればもう少しは抵抗したかもしれない。
「神父様。実は、私は、淫魔に取り憑かれているのです」
 思わず自分の思考に入りかけた私の意識を、床に膝まづいたユリアさんの言葉が引き戻す。は? と、つい間抜けな声を上げてしまった私のことを真剣そのものの表情で見上げ、ユリアさんが言葉を続けた。
「夫を亡くしてから半月あまりがたちますが、毎晩のように、その、淫らな夢を……」
 顔を羞恥のためか真っ赤に染めてそう告白するユリアさんのことを、私は呆然として見つめた。彼女のような若い女性が、しかも新婚間もなく夫を事故で亡くしたのだ。下世話な言い方だが、身体が疼くぐらいは当たり前のことではないだろうか?
 しかし、私が呆然としているのを、別の意味に捉えたのか、ユリアさんが突然私の足にすがりつくようにして涙声になって訴えかけてくる。
「神父様が呆れられるのも当然です。ですが、どうか私のことをお救いください。お願いいたしますッ、どうか、特別の慈悲を以って、私に取り憑いた淫魔を払う儀式を……!」
「わ、分かりました、分かりましたから、ユリアさん。どうか落ち着いてください」
 あまりに必死なユリアさんの態度に、思わず私は頷いてしまった。正直言って、今のユリアさんに口で何かを言っても聞いてもらえるとは思えない。気は進まないが、ともかくこうなってしまっては儀式を行うしかないだろう。
「それでは、ユリアさん。淫魔祓いの儀式を執り行います。その前に一つお伺いしたいのですが、ユリアさんはこの儀式がどのようなものか、ご存知なのですか?」
 私の言葉に、ユリアさんがこくんと頷く。ここで首を振ってくれれば、聖水と聖句によるそれらしい儀式を執り行うつもりだったのだが、知っているのであればそれに沿った儀式を行う必要がある。重い気分になった私へと、ユリアさんが視線を伏せながら言葉を続ける。
「クリード神父様は、淫魔や悪魔を祓うためには、肉体に苦痛を与え、身体から追い出す必要があると仰っていました。私自身は、この儀式を受けたことはございませんが、例え気絶しても無理矢理目覚めさせ、淫魔や悪魔が離れるまでひたすら苦痛を与えると、聞いております」
「……その通りです」
 唇を震わせながらそう言うユリアさんに、私は溜息をつきながら頷いて見せた。確かに、前任のクリード神父が行っていたのは、人間に取り付いた悪魔を祓うための手段の一つである。だが、本来であれば、他の手段を用いてもなお祓えない場合に用いる過酷なものだ。悪魔祓いの儀式といえば聞こえはいいが、実体は拷問と大差ないのだから。悪魔に憑かれて凶悪な犯罪を犯したとか、大きな罪ではなくても長期間にわたって罪を犯し続けたとか、そう言う場合には最初からこの手段を用いる場合もあるが、そうでなければいきなり用いるものではない。
 しかし、この村の人間は、どうやらこの方法が普通のやり方だと思い込んでいるらしい。もちろん、本来であればその誤った思い込みはきちんと指摘し、改善することが必要なわけだが、前任者の赴任期間は三十年にも及ぶ。つまり、ユリアさんのような若い人間にとっては、このやり方は自分が生まれる前からごく当然とされてきたやり方であり、今更それは間違ったやり方です、と言われたところで素直に受け入れられはしないだろう。少なくとも、今のユリアさんを説得できるとは到底思えない。
「では、こちらへ」
 憂鬱な気分になりながら、私は地下室へと続く扉を開き、ユリアさんを招いた。

 一糸まとわぬ全裸となり、鎖で両腕を引き上げられたユリアさんの姿に、思わず私は目を奪われた。しみ一つない滑らかな白い肌。巨乳というほどではないにしろしっかりとした量感を持ち、申し分なく整った乳房。きゅっとくびれた腰に小気味良くしまった尻。未亡人ということも影響しているのか、女の色香をこれでもかと発散している。私もれっきとした若い男だ。美しいユリアさんの裸身に、思わずこのまま押し倒したくなる衝動に駆られる。とはいえ、ここでそんな真似をするわけにもいかない。私は必死にそれを押し止めた。
 だが、と、ふと思う。この場にいるのは私とユリアさんの二人だけだ。そして私はこの儀式の全てを定める聖職者。適当な理由をつけて彼女を抱き、口止めすることも出来るのではないだろうか。例えば、体内に潜む淫魔を祓うために、聖職者と性交することで身体の中から清めるとか言うような……。
「あ、あの、ハウゼン神父様……その、あまり見つめないでください。恥ずかしいです……」
 思わず暴走しかけた私の思考に冷水を浴びせるように、ユリアさんが恥ずかしげに頬を染めてそう言う。はっと我に帰り、私は慌てて取り繕った。
「これは失礼。しかし、私は何も淫らな気持ちであなたのことを見ていたわけではありません。あなたに憑いた淫魔の力を図り、どうすれば祓えるかを考えていたのです」
「そ、そうですね。申し訳ございません、神父様。私は、まるでこれからあなたに犯されてしまうのではと、そう思ってしまったのです。敬虔なる神の下僕である神父様が、そのようなことをするはずなどないというのに」
 心底申し訳なさそうにそう言うユリアさんの言葉に、私は内心ドキッとする。ゆったりとしたデザインの僧服のおかげで、股間の膨らみを見られなかったのは幸いだった。内心の動揺が表に出ないよう、最大限の努力を払いながら、もっともらしく言葉を返す。
「そうですか。それはおそらく、あなたに取り憑いた淫魔がそう思わせたのでしょう。私がそんなことをするはずがないということは、あなたも良く知っているはずなのですから」
「は、はい。神父様、どうか私から淫魔を払ってください。そのためなら、私はどんな責め苦にも、耐えて見せます……!」
 思いつめた表情でそう宣言するユリアさんに、内心で溜息をつきつつ私は頷いて見せた。壁にかけられていた革鞭を手に取り、軽く振って調子を確かめる。赴任して日の浅い私は初めてこの鞭を使うわけだが、よく手入れされているらしく特に問題は感じない。まぁ、もちろん手に馴染むわけではないが、それは仕方のないことだろう。
「では、これより、淫魔祓いの儀式を始めます。よろしいですね?」
「は、はいっ」
 ぎゅっと目をつぶり、身体を固くするユリアさんの太腿の辺りへと私が鞭を振るう。ビシッという音と共に、白い肌に真紅の鞭痕が刻み込まれた。
「あくぅうぅっ」
 噛み締めた唇の間から苦痛の声を漏らし、ユリアさんが身をよじる。それほど強く打ったつもりはないのだが、長さのある一本鞭では手加減は難しい。それに、ユリアさんの思い込みからすると、一度気絶させた上で覚醒させ、更にもう一度気絶させる、ぐらいのことをしないと本人が納得しないかもしれない。
「この者に取り憑きし淫魔よ。速やかに去れ」
 大真面目な顔でそう告げつつ、鞭を反対の太腿へと振るう。乾いた音と共に、白い肌に鮮やかに赤い鞭痕が走る。もともとの色が透けるように白いだけに、ひどく目立つ痕だ。
「くあああああぁっ。はぁ、はぁ、はぁ、い、痛い……」
 息を荒らげ、ユリアさんが苦痛の声を漏らす。まぁ、それも無理はないだろう。彼女は訓練された兵士でもなんでもない、ごく普通の村の人間なのだから。鞭打ちというと拷問としてはごく軽いもののように思われているが、やりようによっては充分人を殺せるのだ。
「淫魔よ、去れ。ここは神の家、汝の居るべき場所にあらず」
 教会で習ったとおりに唱えつつ、鞭を振るう。腰に巻きつくようにして、鞭の先端がユリアさんの尻を打った。びくんっと腰を前に突き出すようにして、ユリアさんが悲鳴を上げる。
「あああぁっ。い、痛い……痛いです、神父様」
「もう、止めて欲しいですか? しかし、淫魔を払うためには、まだ苦痛が不足しています」
「あ、ああぁ……」
 うっすらと涙目になって苦痛を訴えるユリアさんに、あえて私は素っ気無い口調でそう応じて見せた。案の定、悲痛な呻きを漏らしてユリアさんががっくりとうなだれる。これで、あと数度打てば本人も納得するだろう、と内心で計算していた私に向かい、うなだれた顔を上げてユリアさんが毅然とした表情で口を開く。
「分かりました、神父様。もう泣き言は申しません。淫魔が私から離れるまで、何度気絶しようと打ち続けてください」
「……結構。では、続けます」
 恐怖心を煽るつもりが、逆に完全に覚悟を決めさせてしまったことに気付き、内心で頭を抱えつつ私は鞭を振り上げた。こうなってしまっては、もう根比べだ。元々、この儀式自体が、淫魔に憑かれたと思い込んでいるユリアさんを納得させるためのもの。いくら私が口でもう淫魔は祓われた、と言ったところで、彼女が納得しなければ意味がない。そのためには、彼女がもうやめてほしいと懇願するまで、いや、それでもなお打ち続けることで淫魔が祓われたと納得させるしかない。
「くうああああああぁぁっ」
 ビシッと音を立てて鞭がユリアさんの脇腹に食い込む。顔をのけぞらせ、苦痛の声を上げるユリアさんの反対の脇腹へと素早く鞭を振るう。前の鞭の痛みがまだ治まらないうちに新たな鞭の痛みに襲われ、ユリアさんが髪を振り乱して悲鳴を上げた。
「ひいいいいいいいいいいいいぃぃっ」
「淫魔よ、去れ。ここを去らぬ限り、この苦痛に終わりはない」
 全身から脂汗を噴き出して喘ぐユリアさんの元へと歩み寄り、白い肌の上に刻み込まれた赤い鞭痕を指でなぞる。鞭で打たれて腫れ上がり、敏感になっている場所に触れられるのは辛いのか、ぎゅっと眉根を寄せてユリアさんが呻いた。指先に感じるしっとりとした感触と、指を滑らせるたびに細かく震える姿がどうにも魅力的だ。いつまでも楽しみたくなる衝動をこらえ、ユリアさんの肩に手をかけて身体を半回転させる。
「いかに叫ぼうとも、この苦痛に終わりはなし。苦痛より逃れる術は、ここより去る以外になし」
 ゆっくりと唱えながら鞭を振り上げ、白い背中へと鞭を叩きつける。右肩から左腰の辺りまで、綺麗に一本の赤い鞭痕が刻み込まれた。
「うあああああああああぁっ」
 苦痛の叫びと共にユリアさんの背中が弓なりに反り返る。はぁっ、はぁっと荒い息を吐く彼女の元に歩み寄り、背中にかかった金髪を胸の前へと動かし、背中を覆わないようにする。すっと肩から腰にかけて走る鞭痕を指でなぞると、押し殺した呻きを上げてユリアさんが身体を震わせた。
「淫魔よ、速やかに去れ」
「きゃあああああああぁっ」
 ビシィッ、と鞭音が響き、今度は左肩から右腰にかけて斜めに鞭痕が刻み込まれる。以前に教会で悪魔祓いの練習をした時は、相手は浅黒い肌の奴隷女だった。そのため、鞭痕がはっきりとしなかったのだが、ユリアさんの透けるように白い肌は、目にも鮮やかな真紅の鞭痕を浮き上がらせる。汗の浮かんだ白い肌に刻まれた真紅の鞭痕は、ひどく美しく思えた。
「う、ううぅ……きゃああああああああああぁっ」
 二本の鞭痕が交差した辺りを、今度は水平に打ち抜く。苦痛に呻いていたユリアさんがびくんと身体を弓なりにそらせ、悲鳴を上げる。ぞくぞくとした快感が、背中を駆け上るのを感じ、私はごくりと唾を飲み込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……ひいいいいいいいいいいいいいぃぃっ」
 苦痛に喘ぐユリアさんの背中を、鞭で打つ。肉を鞭が打つ乾いた音、くっきりと刻み込まれる鮮やかな鞭痕、そして、ユリアさんの悲鳴。髪を振り乱し、身悶えるユリアさんの尻へと鞭を飛ばす。
「あっ、あああああああああぁっ」
 顔をのけぞらせてユリアさんが悲鳴をあげる。汗に濡れて光る背中や頬にほつれた髪が張り付き、ひどく艶かしい。はぁ、はぁ、はぁと、息を荒らげ、肩越しにこちらへと縋るような視線を向けてくるユリアさんの背中を鞭で打つ。新たな鞭痕が刻み込まれ、悲痛な叫びが上がった。
「ああっ、ああっ、あああああああぁっ」
 頭がくらくらするような快感。教会で練習をするときは、半ば義務として嫌々やっていたのだが、その時とはまるで違う。若く美しい女性が、苦痛に満ちた悲鳴を上げて身悶える姿に、背筋にぞくぞくとしたものを覚えて私は鞭を振り上げた。
「ひいいいいいいいいいいいいいぃぃっ。あ、あ、あ……」
 バシッという鞭音と共にユリアさんが悲鳴を上げて顔をのけぞらし、びくびくと身体を痙攣させる。そのまま、微かに呻いて意識を失った彼女の元へと私は歩み寄った。鎖に吊るされる格好でがっくりとうなだれ、ゆっくりと肩を上下させているその姿はひどく無防備だ。何をされようとも抵抗できない、そんなユリアさんの姿にごくっと唾を飲み込みながら、私は軽く頭を振って脳裏に浮かんだ考えを追い払った。水差しに直接口をつけて乾いた喉を潤し、更に残った水をうなだれているユリアさんに頭から浴びせる。
「う、うあ……あ」
「目が覚めましたか? ユリアさん」
「あ、あぁ……神父様……」
「まだ、儀式が終わったわけではありません。気をしっかり持って、鞭の痛みを心に刻みなさい」
「は、はい」
 意識を取り戻したユリアさんに向けて素っ気無い口調で告げ、背中に走る鞭痕に指を這わせる。反射的にその指から逃れようと身をよじるユリアさんの口から、小さく呻きが漏れた。苦痛のためとはいえはぁはぁと喘ぎながら身をくねらせるユリアさんの姿は、愛撫されている姿を連想させる。左腕で彼女の身体を半ば抱え込むようにしながら、私はゆっくりと鞭痕を右手の指でなぞった。
「あ、あぁ、ああぁ……」
「淫魔に取り憑かれると言うのは、あなたの心に隙があった証拠です。この痛みは、そのことに対する戒め。そのことを、よく覚えておきなさい」
「は、い、神父様……くぅぅ。あ、あぁ」
 私の腕の中でユリアさんが身体をくねらせる。私の指が彼女の背中を這うたびに、彼女の口から悩ましげな喘ぎとも呻きともつかない声が漏れる。いつまでも続けていたい衝動に駆られながら、私は彼女の身体から自分の腕を引き剥がし、数歩の距離をとった。汗に濡れて光る白い裸身をもう一度見やり、ゆっくりと鞭を振り上げる。ぎゅっと目を閉じて身を固くするユリアさんの乳房を狙い、私は鞭を振るった。
「ひいいいいいいいいいいいぃぃっ! ああぁっ、あああぁっ、ああああああああああぁっ」
 バシンッという乾いた音と共に、ユリアさんの右乳房へと真紅の鞭痕が刻み込まれる。甲高い悲鳴を上げて顔をのけぞらせ、ユリアさんが激しくもがいた。ガチャガチャと鎖を鳴らして身悶えるユリアさんが、おそらくは本能的にだろう、こちらへと背を向けかけるのを鋭い声を出して制する。
「いけませんっ。そのまま、こちらを向いているのです」
「う、ううぅっ、神父様、お許しを、どうか、胸は、胸だけは……!」
 女性にとっての急所である乳房を打たれるのがよほど辛いのか、ぼろぼろと涙を流しながらユリアさんが哀願する。だが、ゆっくりと首を振り、私は彼女の訴えを却下した。まだだ、まだ、足りない。もっと彼女の悲鳴を聞きたい。彼女が苦痛に身悶える姿を見たい。そう、囁くもう一人の自分がいる。
「これは、淫魔を祓う為に必要な儀式です。さぁ、ユリアさん。しっかりと足を開き、こちらに身体を向けるのです」
「う、ううぅ……」
 心底辛そうに眉をしかめて、ユリアさんがのろのろと身体をこちらに向ける。美しい右の乳房に、くっきりと刻み込まれた真紅の鞭痕。ごくっと唾を飲み込みながら、私は鞭を振り上げた。ビシッという肉を打つ響きと共に、狙い通り左の乳房に鞭痕が刻み込まれる。
「きひいいいいいいいいいいいいぃぃっ! うあぁっ、ああああぁっ、あああああああああああぁっ!」
 おそらくは生まれて始めて味わうであろう激痛に、大きく目を見開いてユリアさんが身悶える。私に背を向けるユリアさんの下へと歩み寄り、肩に手を置くとびくんっと彼女の身体が震えた。
「ユリアさん、こちらを向いてください」
「あぁ、神父様、お許しを、どうか、お願いです、もうお許しを」
 ぼろぼろと涙を流しながら訴えかけるユリアさん。ここで笑みを浮かべ、淫魔は祓われました、と告げれば、彼女はそれで納得し、儀式は終わるだろう。だが、私は厳しい表情のまま首を横に振った。
「駄目です。淫魔は、まだ祓われていません」
「で、ですが、痛いんです。死んでしまいそうなほど、苦しいんです」
 弱々しい声でそう哀願するユリアさんの、涙に濡れた美貌にぞくぞくするものを感じながら、私はゆっくりと首を振った。そうだ、まだ終わりには出来ない。まだ、足りない。もっともっと、楽しみたい……。
「気持ちは分かります。ですが、ここで止めてしまっては、淫魔は祓えない。どうか心を強く持ち、痛みに耐えるのです。あなたの味わう痛みと苦しみは、あなたに取り憑いた淫魔も味わっています。淫魔が苦痛に耐え切れなくなり、あなたの身体から出て行くまで、この儀式を止めるわけにはいきません」
「あ、ああぁ……し、しかし、神父様」
「耐え切る自信が、ありませんか?」
 私の言葉に、こくんとユリアさんが頷く。まぁ、それも無理はないだろう。彼女のような普通の若い女性が、拷問を受けているのだ。いくら頭では分かっていても、鞭の前に自分の身体を差し出すのは難しい。
「大丈夫です、ユリアさん。神はいつも我々を見守っていてくれます。あなたが心から神に祈り、強い心を持てば耐え切れないはずはありません」
「は、はい、それは、分かっています。ですが……鞭は、辛いんです」
「辛くなくては、淫魔は祓えません。逃げたくなる気持ちはよく分かります。ですが、逃げることなく、むしろ進んで鞭を受け入れるのです。あなたが鞭から逃れようとすれば、それは、淫魔に力を与えることになるのですから」
「は、はい、分かっています、分かってはいるのですが……」
「分かっているのなら、逃げてはいけません。さあ、しっかりとこちらを向き、その身で鞭を受けるのです」
 言いよどむユリアさんへと、私はきっぱりとそう告げた。ああぁ、と、絶望の吐息を漏らすユリアさんの姿に、ぞくぞくとした快感が背筋を駆け上がる。数歩の距離を取り、がたがたと震えているユリアさんの乳房めがけて鞭を振るう。が、鞭が当たる寸前でユリアさんが身をよじったせいで、鞭は肩から背中にかかる辺りへと当たった。
「くあああああああぁっ」
「ユリアさん。よけようとしてはいけない、と、そう言った筈ですが?」
 乳房を打たれるよりはましとはいえ、鞭を受けたユリアさんの口からは悲鳴があふれる。そこへ、咎めるような声を投げかけると、びくっとユリアさんが身体を震わせた。
「も、申し訳ございません、神父様」
「よろしいですか? あなたに取り憑いた淫魔も、あなたが感じている痛みをそのまま味わっています。いえ、神の加護がない分、その苦痛はより大きいでしょう。そして、その苦痛を以って、淫魔をあなたの身体から追い出す、それがこの儀式の目的なのです。
 無論、淫魔はあなたの身体から追い出されたくはない。そもそも、苦痛を受けることさえ嫌でしょう。ですから、あなたの心に囁きかけ、鞭の苦痛から逃れようとする。あなたが鞭を避けようとするという事は、とりもなおさず淫魔の囁きに屈しているということです。それでは、淫魔を祓うことは出来ません」
 理路整然と、ユリアさんにそう言い聞かせる。だが、そう言われたところで、身体が動くのを意志の力で押さえつけるのは難しい。案の定、ユリアさんが辛そうな表情で首を振った。
「分かっています、分かってはいるのです。ですが、どうしても、鞭は怖いのです。避けてはいけない、鞭を受けなければいけない、と、そう分かってはいても、いざ打たれるとなると身体が勝手に動いてしまうのです」
「そうですか。どうやら、淫魔は思った以上に深くあなたの心に食い込んでいるようですね」
 鞭に対して恐怖を覚えるのは当然のことだが、それをあえて深刻な事態のように言ってみせる。予想通り、ユリアさんの表情が絶望に染まった。
「そ、そんな……それでは私は……?」
「このまま放置しておけば、あなたは遠からず身も心も淫魔に蝕まれることでしょう。忌まわしい淫魔の一員となり、世の中に害悪を撒き散らす存在と成り果て、死して後は煉獄で永劫の責めを負う事になります」
「そんな……!」
 絶望の表情を浮かべ、ユリアさんががちがちと歯を鳴らす。ゆっくりと首を振り、私は殊更に感情を含まない口調を作って彼女に問いかける。
「どうしますか? ここで儀式を止めるか、それともまだ続けるか。
 ただし、儀式を続けるとしたら、あなたの身体を拘束し、更なる苦痛を与えることになりますが」
「お、お願いですッ、神父様っ。どうか、どうか私を見捨てないでくださいっ。私の身体から、淫魔を追い出してくださいっ」
「よろしいのですか? 今まで以上の苦痛を、味わうことになりますが」
「かまいませんっ。どうか、どうか神父様っ、御慈悲をっ」
 私の言葉に、ユリアさんが涙目になって必死に訴えかけてくる。まぁ、それも当然だろう。彼女がそう反応するように私が仕向けているのだから。
 元々、淫魔に取り憑かれているというのはユリアさんの思い込みだ。鞭を受けたことで淫魔は祓われた、とそう宣言してやれば今後の生活に支障をきたすようなことはないはずだ。まあ、彼女がそう思い込む原因となった身体の疼きはなくならないかもしれないが、だいぶ鞭に対する恐怖感を植えつけられているようだし、それならば再び同じ問題をこちらに持ち込んではこないだろう。また、淫魔憑きを疑われればまたこのような責め苦に遭うと思えば、そうそう何か問題を起こすような真似もしないと思う。つまり、この儀式の表向きの目的は、既に達成しているといえる。
 だから、儀式を終わりにすること自体はいつでも出来る。もしも儀式を始める前の私に、今の状態を説明してどうするかと問えば迷わず儀式を終えると答えただろう。つい少し前の、しかも自分に対していうのもおかしな話だが、無知だったとしか言いようがない。ここで儀式を終わりにしてしまう? こんなに楽しいことを? それは、あまりにももったいない。
 もしかしたら、と、頭のどこかで思う。前任のクリード神父が厳しくしていたのは、この楽しさを少しでも多く味わうためだったのかもしれない、と。以前の私が聞けば、そんなことは聖職者として許されない、と憤然としただろう。だが……今の私には、分かる。彼がそう考えたのは、ごく自然なことだ、と。
「結構。では、儀式を続けましょう。あなたが選んだことですから、もう後戻りは出来ませんよ」
 内心の歓喜が表情に出ないように最大限の努力をしながら私はユリアさんにそう告げた。流石に怯えた表情を浮かべる彼女の姿に、ますます嗜虐心を刺激される。もっと苦痛を、もっと悲鳴を、と、心の中で煽る声が聞こえる。
 天井の滑車から垂れ下がるロープを操作し、その先端に革製の拘束具を取り付ける。ベルト上のそれを、ユリアさんの膝の辺りに巻き付けてしっかり固定すると、私は反対側のロープを思いっきり引っ張った。当然、ユリアさんの片足が上へと引き上げられる。あああっ、と、悲痛な叫びがユリアさんの口からあふれた。
「し、神父様っ」
「暴れないでください」
 ぐいっと力を込めてロープを引きつつ、そう告げる。壁のフックにロープを巻き付け、固定すると私はもう一本のロープを滑車を操作して下ろし、同じように先端に拘束具を取り付けた。片膝を高々と吊り上げられたユリアさんのもう一方の膝に、拘束具を巻きつける。何をされるのか分かっているのだろう、ユリアさんが引きつった声を上げて私を制止するが、もちろんそれは無視だ。ぐいっとロープを引くと甲高い叫びがユリアさんの口からあふれた。
「ひいいいいいいいいいぃっ。嫌っ、ああっ、神父様っ、このような、このような格好は嫌ですっ。どうか、どうか降ろしてくださいっ。こんな、こんな恥ずかしい格好には、耐えられませんっ」
 完全に宙吊りになったユリアさんが悲痛な叫びを上げる。両膝を引き上げられ、ちょうど、幼児の両膝を後ろから抱え、おしっこをさせているような姿になっている。隠しようもなく股間を露わにした姿は、確かに相当恥ずかしいだろう。足を閉じようにも斜めにロープに引っ張られているから無理だ。
「恥ずかしいですか?」
「はいっ、はいぃっ! 恥ずかしいですっ。どうか、神父様っ、降ろしてくださいっ」
「恥ずかしい、というのは良いことです。もしも淫魔があなたの心を完全にのっとっているのであれば、恥ずかしいとは思わないはず。むしろ、見せ付けるように腰を突き出すことでしょう。
 さあ、ユリアさん。これから振るわれる鞭を受け、淫魔を否定するのです。あなたの中から淫魔が祓われれば、もちろんすぐに降ろして差し上げます。ですから、全身全霊を以って、神に祈り、淫魔を否定するのです」
 いかにも誠実な聖職者然とした態度でそう告げ、私は鞭を振り上げた。ひっと短い悲鳴を上げて身体を固くするユリアさんへと、容赦のない一撃を見舞う。
「あひいいいいいいいいいいいいぃぃっ! ひぃっ、ひいいいいいいいいいいぃぃっ!」
 甲高い絶叫。強かに乳房を打ち据えられたユリアさんが大きく目を見開き、激しく身体をのたうたせる。きゅっと足の指を丸め、じたばたと宙を蹴る彼女の足へと、鞭を飛ばす。
「ああああああああああぁぁっ! ああっ、痛いっ、痛いっ。くううあああああっ」
 ビシッ、バシッと、連続して響く鞭音。太腿の内側と、ふくらはぎの辺りに真っ赤な鞭痕を刻み込まれてユリアさんが首を振りたてながら悲鳴を上げる。だが、彼女がどれほど暴れようと、中吊りにされた身体が解放されることはない。どれほど泣き叫ぼうが、私が彼女を解放する気になるまで、ただ鞭打たれなければいけないのだ。彼女の命運を完全に握っているという思いが、ますます私を興奮させる。
「し、神父、様、もう……ああっ、いやっ、御慈悲をっ、もうこれ以上は……きゃああああああああああああああああああああぁぁっ!!」
 苦痛に喘ぎながら哀願の声を出そうとしたユリアさんが、ゆっくりと私が鞭を振り上げるのを見て表情を引きつらせ、激しく首を左右に振りながら必死に叫ぶ。その哀れな姿に、ぞくぞくしながら私は鞭を振り下ろした。乳房を狙ったのだが、興奮で手元が狂ったのか、肩の辺りに鞭痕が刻み込まれる。
「ああ、いけませんね。ユリアさん、鞭を避けてはいけません。淫魔に憑かれたのは、あなたの心の弱さが招いたこと。その罪を悔い、進んで鞭の前に身体を差し出しなさい。そうすれば、神の慈悲があなたに与えられ、淫魔から解放されるでしょう。そのように鞭を避けていては、いつまでたっても淫魔は祓えませんよ?」
「ああぁ……分かっています、分かっています。ですが、もうこれ以上は……お願いです、少しだけ、少しだけ休ませてください。これ以上続けて打たれたのでは、死んでしまいます」
「いいえ、そうはいきません。ここで休めば、再び淫魔が力を取り戻してしまいますから」
 私が首を振りながらそう告げると、あぁ、と、絶望に満ちた溜息をユリアさんが漏らす。
「そ、それでは、どうあっても、私はまだ鞭を受けねばならないのですね……?」
「私は、あなたのことを救いたいと思っています。そのためには、例えあなたに恨まれても、ここで鞭を振るうのを止めるわけにはいきません。このままあなたを放置すれば、淫魔に魂を汚され、死後に永遠の苦しみを味わうことになるのは目に見えていますから」
「は、はい。申し訳ありませんでした、神父様」
 本当にすまなさそうにしながらユリアさんが頭を下げる。小さく首を振り、私は穏やかな笑みを浮かべて見せた。
「それでは、儀式を続けます」
「は、はいっ」
 ぎゅっと固く目を閉じ、身体に力を込めて鞭に備えるユリアさん。だが、気力を振り絞っても、鞭の痛みにはそうそう耐えられるものではない。ビシィッと乾いた音を立てて鞭が乳房を直撃すると、かっと目を見開いてユリアさんは絶叫を上げた。
「あひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃっ!!」
 むなしく宙を蹴りながら、身悶えるユリアさんの姿に、興奮を覚えながら私は更に鞭を振り上げた。もがくユリアさんの太腿の内側に、くっきりと真紅の鞭痕を刻み込む。
「ああっ、ああっ、あああああああああああぁっ」
 乳房を打たれるよりはましとはいえ、鞭打たれる痛みが辛いことに変わりはない。悲鳴を上げてもがくユリアさんのことを見つめる私の心に、ふとした考えが浮かんだ。
「ユリアさん。私が振るう鞭は、淫魔に苦痛を与えてあなたの身体から追い出すための鞭です」
「は、はい、分かっています」
 はあはあと息を荒らげながら、ユリアさんがそう応じる。意図的に淡々とした口調で、私は言葉を続けた。
「淫魔を払うためには、あなたが淫魔を否定する必要がある。それも分かっていますね?」
「は、はい、分かっています」
 前と同じ言葉を繰り返すユリアさん。まぁ、他に答えようもないだろうし、何故私が今更そんな分かりきった事を聞くのか、と、当惑してもいるだろう。そんな彼女へと、私は更に言葉を続けた。
「淫魔は、当然鞭を受けたくはない。ですから、淫魔を否定するあなたは、鞭を受けたい、と思わなくてはいけません」
「は、はい……」
 当惑した表情でユリアさんが頷く。もちろん、心情としては、進んで鞭を受ける気にはなれないだろう。いくら頭で必要なことだと分かっていても、鞭の苦痛を考えれば受けずに済ませたいと思うのが当然だ。
「淫魔はあなたに囁きかけ、鞭から逃れようとします。そこであなたは、鞭で打たれるたびに感謝の言葉を口にしてください。そうすれば、淫魔もあなたに取り憑いていてはいつまでたっても苦痛から解放されないと悟り、あなたの身体から去ることでしょう」
「感謝の言葉を、ですか? わ、分かりました……」
 こくんと頷いたユリアさんに笑顔で頷き返し、私は鞭を振り上げた。乾いた音と共にユリアさんの乳房にまた一条、鞭痕が刻み込まれた。
「あひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃっ!」
 甲高い絶叫を上げてユリアさんがのけぞり、もがく。当然、感謝の言葉を口にするどころの騒ぎではない。分かりきっていたことだが、それを咎めるように私はユリアさんに呼びかけた。
「感謝の言葉は、どうしました?」
「うあっ、ああああっ、あり、ありがとうっ、ございっ、ますっ」
 未だに消えない激痛に喘ぎながら、ユリアさんが懸命に感謝の言葉を口にする。彼女にしてみれば、これでやっと責め苦から解放される、と、そう思ったかもしれない。だが。
「心がこもっていませんね。嫌々口にするのでは、意味がありません。あなたが心からこの鞭を受ける事を望んでいると淫魔に思わせることが大事なのです」
「う、うううぅ……は、はい、神父様」
「では、いきますよ」
 ごくりと唾を飲み身構えるユリアさんの乳房に、鞭を叩きつける。乾いた音と共に真紅の鞭痕が刻み込まれ、ユリアさんの身体がびくんっと跳ねた。
「あひいいいいいいいいいいいぃぃっ! ひいっ、ひいいいいいいいぃっ!」
「この鞭の痛みは神の慈悲。さあ、感謝して受け入れるのです」
「きゃああああああああああああああああああああぁぁっ!」
 激痛に宙吊りのまま身悶えるユリアさんの身体へと鞭を振るう。腹から太腿にかけて、真っ赤な鞭痕が刻み込まれた。大きく首をのけぞらし、虚空を蹴ってユリアさんが悲鳴を上げる。
「痛いっ、ああっ、痛いぃっ」
「鞭を拒んではいけません。それでは、淫魔に力を与えるだけです。さあ、鞭を受け入れ、淫魔を否定するのです」
「きひいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃっ!」
 ぱぁんっと乾いた音が響き、新たな鞭痕が乳房に刻み込まれる。かっと目を見開き、髪を振り乱してユリアさんが甲高い絶叫を上げる。びくびくと身体を痙攣させ、吊られたまま激しくもがく。
「ありっ、ありがっ、とうっ、きゃあああああああああああああああああああああぁぁっ!」
 苦痛に身悶えながら、もつれる舌で懸命に感謝の言葉を口にしようとするユリアさんへと、容赦なく私は鞭を叩きつけた。強張り筋の浮き出た太腿に、赤い鞭痕が刻まれる。鞭の痛みに悲鳴を上げ、感謝の言葉を中断させたユリアさんへと私は責めるような口調で呼びかけた。
「感謝の言葉は、どうしました?」
「うあっ、ああっ、ああぁうぅ」
 全身を襲う鞭の痛みに、まともに喋ることも出来ないのかユリアさんが不明瞭な声を出しながら大きく喘ぐ。無言のまま横なぎに鞭を振るい、私はユリアさんの乳房をまとめて打ち据えた。
「うぎゃああああああああああああ~~~~~~っ!!」
 濁った絶叫。びくびくと身体を震わせ、身悶えるユリアさんの股間から、しゃあっと水流が迸る。苦痛のあまり失禁したらしい。かっと目を見開いて涎を垂れ流すユリアさんへと、続けざまに鞭を振るう。
「ひいっ! きゃあぁっ! あひぃぃっ! ひぎゃっ! ぎゃうぅぅっ! ぎゃっ! ぎゃあああぁっ! ぎえええええぇっ!」
 甲高い悲鳴が、次第にしゃがれた濁った叫びに変わってくる。大きく見開かれた目は虚ろになりかけ、そろそろ体力的に限界が近いことを示していた。大きく腕を振りかぶり、渾身の力を込めて鞭をユリアさんの股間へと叩きつける。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!」
 断末魔にも似た、すさまじい絶叫。柔らかい秘肉が裂けたのか、股間からぽたぽたと血を滴らせながら狂ったようにユリアさんが身悶える。長く尾を引く絶叫が次第に掠れて消え、がっくりとうなだれてユリアさんは意識を失った。ふう、と、溜息をついて私は額に浮かんだ汗を拭う。
「今日は、ここまでですね。ですが……」
 これから先、再びユリアさんの淫魔祓いを行う機会などいくらでもある。目を覚ましたユリアさんに、こう告げるだけでいいのだから。
「淫魔は祓われました。ですが、祓われた淫魔は、まだ完全にここから去ったわけではありません。あなたの心に隙が出来た時、再びあなたに取り憑こうとすることでしょう。一度淫魔に憑かれた人間は、心に隙が出来やすく、二度、三度と同じように淫魔に憑かれてしまう事がままあります。
 ですから、これからしばらくの間は、定期的に私のところにきて、淫魔に憑かれていないかどうか、診断を受けるようにしてください。そうすれば、もし再び憑かれていたとしても、すぐに淫魔祓いの儀式を行うことが出来ます。もちろん、あなたが常に神を信じ、淫魔を拒み続ければ再び憑かれる様な事態は起こらないわけですし、憑かれないのであればそれに越したことはありませんが」
 今回の儀式を受けたことで恐怖を覚えていたとしても、逆らうことは出来ないはず。既にそれだけの土壌は、この村に培われている。そして、次にユリアさんがここを訪れた時は……。
「また、楽しむことが出来る、というわけですね」
 意識を失いぐったりとしているユリアさんを見やり、私は口には出さずにそう呟いた。心の奥底からあふれる歓喜を感じながら……。