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実験報告書:第参五零弐号
使用丸太女丸太278
使用実験室第伍実験室
実験者大神志狼
実験内容糞尿実験
実験結果実験中に乙種破損甲種破損に至るまでの経過観察のため、登録抹消の上で保管。

「今日は、尋問の予定がないので実験をご覧になっていただきますね」
「実験……?」
 薄暗い廊下を歩きながらの大神の言葉に、ヴァイが軽く首を傾げる。二人の背後について歩く華蓮が大神の説明を補足した。
「どの程度の拷問を行えば人間は死ぬのか、その限界を確かめることです。もっとも、今日の予定では殺す所まではやらないですけれど。
 実際の尋問の際、やり過ぎて殺してしまっては元も子もありませんからね。これぐらいだったら死なない、これ以上やると死ぬというのは確かめておく必要があるんです。ここ緋号部隊では、その実験に使うために丸太と呼称される実験用の人間を多く集めています」
「なるほど、な。ふん……」
「まぁ、尋問の予行練習、とでも思ってもらえれば結構です。もっとも……今日は、糞尿拷問をやる予定ですので、あんまり見ていて気持ちのいいものではないかもしれませんが」
 ヴァイのやや不機嫌そうな相槌に、軽く苦笑を浮かべて肩をすくめる大神。その口調が後半で微妙に変化して、首を傾げるような感じになる。
「尋問手段としても、それほど有効なものではないですし……見る価値なしと判断されたら、いつでも退室してくださって結構です」
「……? 話が、見えないんだが?」
「いえ、今日やる糞尿拷問というのは、誰に対しても一定の効果があるという類のものじゃないんです。非常に効果的な場合もありますが、まったく効果がない場合もある。その割に致死率は高いですから、実際の尋問の際に採用すると情報を引き出せずに終わる可能性が結構高いんですよ。
 まぁ、私の場合、実用性のあるなしは別として、とりあえず一通りは技法を修めておきたいと考えてますからやるんですけど、ヴァイのお役にはあまり立たないかもしれませんね」
 そんなことを言っている間に、目的地にたどり着いたのか大神が扉の前で足を止める。何か言いかけたヴァイが軽く首を振った。扉に手を伸ばしかけた大神へと、華蓮がややためらうように声をかける。
「大神少尉。僭越とは思いましたが、浣腸の用意をさせてあります。本格的な実験に入る前に、まずそちらをお見せしたらどうでしょうか?」
「……ふむ」
 伸ばしかけた手をいったん引き戻し、顎に当てると小さく大神が唸る。
「確かにあれの方が実際の場では役に立つか……。
 しかし、華蓮。そう言うことは、もっと早く言って欲しいものだな? お前は俺の補佐役だろう?」
「申し訳ありません」
 微かに険悪な視線を華蓮に向けての大神の言葉に、華蓮が頭を下げる。彼女の方に視線を向けたまま、大神は軽く頭を掻いた。
「いや……今のはただの八当たりだな。すまん。そっちにまで頭が回らなかった俺が悪いんだな、一番。
 ヴァイ。すいませんが、少し段取りを変えます。先にお見せしておくべきものがあったのを失念していまして。この部屋では少し問題があるので、別の部屋に移ろうかと思いますがかまいませんか?」
「段取りは任せている。見学させてもらってる俺が、文句を言う筋合いじゃない」
「すいません。華蓮、確かこの時間なら隣の部屋も空いてた筈だな?」
「はい、少尉。丸太と道具を移動させますので、先に行っていてください」
 華蓮の返事に、大神がヴァイを促して隣の部屋に足を進める。その部屋は床がタイル貼りの浴室を思わせる部屋で、壁の蛇口にホースが取りつけられているがその他には何もないがらんとした部屋だった。壁に背を預けたヴァイが部屋の中を見回す。
「何をするんだ? こんな何もない部屋で」
「さっき華蓮がちらっと口にしましたが、浣腸責めを行います。一応、苦痛系の拷問ですので、実際の尋問の際にも応用が効きます。これ単体で自白を引き出せるかどうかは、結構微妙な所ですが」
「ふむ……」
 軽く肩をすくめながらの大神の言葉に、ヴァイが顎に手を当てる。さほど待つこともなく、華蓮が背後に兵士と貫頭衣風の衣服を身にまとった女を従えて部屋へとやってくる。
「お待たせしました。それでは、実験を開始したいと思います」
『い、いやっ、もう許してっ。私は何も悪いことなんてしてないわっ。何でこんな酷い目にあわなきゃいけないの……!? もう、私を家に返してよっ』
 後ろ手に縛られ、兵士に肩を押さえられた女が身をよじって叫び声を上げる。もっとも中国語での叫びはヴァイにはまったく理解できないし、いくらか中国語を学んでいる大神にも早口過ぎてはっきりとは聞き取れない。
(ちなみに、大神のように中国語をわざわざ学ぶというのは珍しい。二等国民の言葉など、我々一等国民が学ぶ必要なし、というのが普通の考え方である)
「始めろ」
『いやっ、な、何をするのっ!? いやぁっ、やめてぇっ』
 大神の言葉に兵士がどんっと女の背を突き飛ばし、うつぶせになった女の身体をのしかかるようにして押さえ込む。女の服の裾をまくりあげ、つるんとした尻をあらわにすると華蓮は手にした太い注射器に目を落とした。注射器といっても先端は丸くなっており、針は付けられていない。その先端を、兵士に押さえつけられてもがく女の肛門へとずぶりと差し込むと、華蓮はピストンを押し込んだ。
『うあぁっ、あっ、あああぁ……!』
 冷たい薬液が直腸へと注ぎ込まれる感覚に、女が目を見開いて掠れた悲鳴をあげる。太い注射器一杯に満たされた薬液を全て注ぎ込むと、華蓮は別の同じサイズの注射器を手に取り、更に薬液を女の肛門から注ぎ込んでいく。
『うあっ、あっ、ああぁっ。な、何を、するの……くうぅっ。あっ、ぎひいいぃっ!?』
 二本目の注射器の中身も全て注ぎ込み終えると、華蓮が女の肛門へと鈍く光る鉄の器具を埋め込む。器具の端に付けられたネジを回すと、器具の胴体が膨れて女の肛門を押し広げた。悲鳴を上げて身体をのたうたせる女を無視して更にネジを回し、器具が肛門から抜けないようにがっちりと固定する。
「浣腸液は原液を2リットルです」
 静かにそう告げて華蓮が立ち上がり、懐中時計を取り出して時間を確認する。兵士が女の背を離し、扉の前に立った。
「……で、これからどうするんだ?」
 ごろんと床の上に転がり、身体を折り曲げるようにしている女のことを見やりながらヴァイが大神に問いかける。軽く肩をすくめ、大神が苦笑を浮かべた。
「いえ、後はこのまま放っておきます。原液を薄めずに使っていますからね、効果が出るまでそれほど時間は掛からない筈です。まぁ、個人差も有りますが」
「ふむ……?」
『あ、あぐ、あ……くうっ! お、お腹が、痛い……ああぁっ!』
 怪訝そうなヴァイの視線の先で、身体を折り曲げたまま女が苦しげに呻く。大神の言葉通り、大して時間をかけずに女の腹が少し離れていても聞こえるほどごろごろと低い音を立て始め、女の額にびっしょりと汗が浮かぶ。更に少しの時間が過ぎると、耐えきれなくなったように苦しげな呻きを上げ、後ろ手に縛られたまま女はタイル貼りの床の上をのたうち始めた。
『あっ、ぐっ、お腹が、焼けそう……くうっ、あっ、うあぁっ。お、お腹が、裂ける……ああぁっ、痛い、お腹が、痛いぃ……お、お願い、便所に、行かせて……くううぅっ!』
 床の上で身体を曲げ伸ばしし、ごろん、ごろんと転げまわりながら女が哀願の声と呻きを漏らす。ヴァイの横で同じように壁に背を預け、大神が軽く肩をすくめた。
「尋問をするのであれば、この状態で便所に行きたければ質問に答えろ、とやるわけです。まぁ、派手さはないですが、身体を傷つけることがないので何度でも繰り返せるのが利点です。特に何かをする必要もないので、手間も掛かりませんしね。
 うーん、そうですね。どちらかと言うと、他の拷問の合間に行うのに向いている責めではありますか。これ単体での苦痛では自白に至らなくても、他の拷問の合間に挟むことで精神力を削れますから」
『あうっ、あっ、くううぅっ! お腹が、あっ、ああぁっ。お、お願いっ、便所に行かせてっ! 何でも言うこと聞くから……くうぅっ、あっ、うああああぁっ!! お腹が、裂けちゃうぅっ! くうぅっ!』
 じたばたと足をもがかせ、女が哀願の声をあげながら床の上でのたうちまわる。激しく足をばたつかせるせいで服がまくれ上がり、黒々とした茂みやひくひくと痙攣するようにうごめく白い腹があらわになっているが女の側にはそんなことを気にしている余裕はない。腹の中に焼けた火箸を突きいれられ、ぐりぐりと内臓をかき回されているような激痛が走っている。
『くひいいぃっ、ひいっ、うあああぁっ! 便所っ、便所に、行かせてっ! うあっ、あっ、あぐぐぐぐ……うっ、うぐっ、ぐうううぅっ! 何でも、何でもしますからっ、あっ、あぐっ、便所に……ぐううううぅっ』
「確かに、随分と苦しんでいるようだが……この女、元々は何をやっていた女なんだ?」
「さあ? 華蓮、この丸太の出身は?」
「ごく普通の農村の出身だった筈ですが。特に、どこかの組織に所属していたという形跡は有りません」
『あっ、あぐっ、お腹が、焼ける……ぐぐぐ、あっ、便所っ、便所に……ぐうううああぁっ!』
 激しく足をばたつかせ、床の上でのたうちまわる女。全身にびっしょりと汗が浮かび、まるで水でも浴びせられたかのようにぬらぬらと光る。
『痛いっ、痛い痛い痛いっ! うあっ、あぐっ、ああアァッ! 死ぬ、死んじゃう……うぐあああぁっ、便所ぉっ! ぐぐぐ……便所っ、にっ、行かせてっ、うああああぁっ!』
「つまりは、この女は一般人、ということか?」
「ええ、まあ」
「一般人では、拷問に耐えられなくてもあたりまえだろう。訓練を受けた諜報員や、己に酔った狂信的なテロリストどもにどの程度の効果があるんだ?」
 床の上でのたうち、転がりまわる女へと冷たい視線を向けてヴァイがそう言う。軽く肩をすくめて大神がその問いに応じた。
「一度ではまず効果なしでしょうね。ですが、先程も言ったようにこの責めは何度でも間をおかずに繰り返せるのが強みです。まぁ、気絶した相手を無理矢理起こして更に続行、となると、すぐにまた気絶してしまうのでいくらかは間を開けた方が効果的ではありますが」
「気絶……?」
「たかが腹痛と侮ってもらっては困ります。浣腸液の原液を大量に注ぎ込めば、その痛みは充分相手を気絶させるに足るものになるんですよ。じわじわと痛みが増していく類の責めなので、ある程度の時間は必要ですが」
『あぐっ、あっ、おごおおぉっ。おっ、あっ、ぎひいいいぃっ! 死ぬっ、死んじゃうっ、お腹が、裂けて……うあああぁっ! 助けてっ、くうあっ、あっ、あくうううぅっ! 便所、に、くううあああっ!』
 目を見開き、床の上でのたうちまわる女。ヴァイや大神、華蓮などが見守る中、その動きが徐々に緩慢になっていき、やがてぶるぶるぶるっとおこりにかかったように激しく身体を痙攣させ始める。目を見開いたままかはっ、かはっと切れ切れに息を吐き、びくびくっと足を数度痙攣させると女はぎひいいと掠れた悲鳴を上げてがっくりと頭を落とした。
「……三十二分です」
「よし、水!」
 懐中時計を取り出した華蓮が時間を確認してそう告げ、大神が兵士に指示を出す。蛇口がひねられ、ホースの先端から勢いよく飛び出した水が気を失った女の顔にまともに浴びせられた。
『ぶはっ!? あ、ウアアアァッ!? うぶっ、ぶあっ、ぶふぅっ』
 水を浴びせられて目を覚ました女が、腹部から伝わる激痛に叫び声を上げる。その口へと勢いよく水が注ぎ込まれ、目を白黒させて女が身体をのたうたせた。すぐに放水は止み、顔に水を浴びせられるのからは解放された女だが、ほっと一息つく間もなく強烈な痛みが腹から全身へと走る。
『ぐひっ、ひっ、ひあぁっ! 便所っ、便所ぉっ! うぎぎぎぎ……あぐうううううぅっ!』
 床の上でのたうつ女。華蓮が再び懐中時計に目を落とし、時間を確認する。軽く肩をすくめて大神がヴァイの方に視線を向けた。
「まぁ、こんな感じです。次に気を失ったら、この責めは終わりにして次に移ります」
「ふむ……」
『お腹、が、焼ける……あっ、あぐぐっ、ぐあっ、う、うああああぁっ!』
 足をばたつかせ、のたうちまわる女を見やってヴァイは顎に手を当てると小さく唸った。
『うぐっ、あっ、便所っ、にっ、うぐぐぐぐ……ぐうううぅっ』
 苦悶に顔を歪め、苦しげな苦鳴を上げて女がのたうつ。その動きが時間の経過と共に緩慢になり、やがて女は再び意識を失った。
「浣腸責めはここまでとする。後始末を」
 女が気絶したのを確認した大神の言葉に、床の上で身体をひくひくと痙攣させている女へと華蓮が歩み寄り、肛門の栓のネジを操作する。緩んだ栓を手で押さえ、抜けないようにしながら華蓮は兵士の方に顔を向けて小さく頷いた。兵士が蛇口をひねり、気を失った女の顔へと水を浴びせる。
『うぶっ、ぶはぁっ!?』
 水を浴びせられ、女が意識を取り戻したのを確認すると、華蓮が栓を引き抜きながらすばやく下がる。ぶぴゅっ、ぶりぶりぶりっと大きな音を立てて女の肛門から水っぽい大便が大量に噴出した。
『あっ、ああああぁっ! いやっ、見ないでっ、見ないでぇっ!!』
 排便する所を見られる恥ずかしさに、顔を真っ赤に染めて女が悲鳴を上げ、排便を止めようと懸命に肛門へと力を込める。だが、大量に浣腸を受けた状態で、排便を止めることなど出来るものではない。女の肛門から後から後から大便があふれ出し、周囲に臭気が立ち込める。
「酷い臭いだな……」
 顔をしかめ、鼻をつまんでヴァイが呟く。同じように鼻をつまみながら、大神が同じことを中国語で女へと告げた。ますます羞恥に顔を赤く染め、女が身をよじる。その間にも、ぶりぶりっ、びちゃびちゃっと派手な音を立てながら大便の放出は続いていた。
『あ、ああ……酷い……ううぅ』
 死んでしまいたいほどの羞恥にさらされ、女がうつろな視線を宙にさまよわせながらすすり泣く。兵士がホースで女や床へと水を浴びせ、ひり出した大便を洗い流していくのを眺めながら大神が軽く肩をすくめた。
「まあ、こういうふうに相手に精神的な打撃を与え、屈服させる効果もあります。もっとも、こっちの効果は、どの程度有効かの個人差が激しいのであくまでもついでといった感じですが。
 さて、それでは糞尿責めに移りたいと思いますが、その前にこれをどうぞ。糞尿責めは臭いがきついですからね、鼻に詰め物をしておいた方がいいです」
「ああ。しかし、こういう物は、もっと早く出してもらいたかったがな」
「一応、この臭いを知っていてもらわないと、次の責めがどういう物か実感していただけないかと思いまして。頭で理解するのと実感するのは別物ですからね。
 まぁ、それを言い出すと、自分で実際にその責めを受けてみなければ辛さは実感できない、ということになってしまうんですけど、流石にそこまでは出来ませんから」
「ふん……」
 苦笑を浮かべながら紙を丸めたもので鼻に栓をする大神の姿に、ヴァイは小さく鼻を鳴らし、うっかり女の大便の臭いを嗅いでしまって顔をしかめた。

『いっ、いやっ、やめてっ、こんなことしないでっ!』
 衣服をすべて剥ぎ取られ、後ろ手に縛られた上で逆さ吊りになった女が顔を蒼白にして叫び声を上げる。ゆらっ、ゆらっと揺れる彼女の下には大きな樽が置かれ、そこに大量の糞尿が満たされていた。ドス黒い色をした糞尿溜りからむっとするような強烈な臭気が噴き上げてくる。
「まぁ、説明は要らないでしょうが、見ての通りの責めです。形としては、水責めの変化形ということになりますか。もっとも、水責めのような窒息による苦しみを与えるのが目的の責めというよりは、汚物に漬けられることによる精神的苦痛が主体の責めですが」
「なるほど、ぞっとしない責めだな。あんなところに漬けられると思えば、何もかもしゃべりたくなっても無理はない」
 大神の言葉に、しみじみとした口調でヴァイが頷く。小さく頷き返し、大神は軽く片手を上げた。兵士が巻き上げ機を操作し、女の身体を下げていく。ぎゅっと堅く目を閉じ、口を結んだ女の恐怖に引きつった顔が、どぼんと糞尿の中に漬かった。更に身体が下がっていき、膝の辺りまで女の身体が糞尿の中に沈む。激しく身体をくねらせているのか、ギシギシと彼女を吊るすロープが軋み、糞尿溜りがちゃぷちゃぷと音を立てる。

(イヤアアアアアアアアアァッ!! イヤッ、イヤッ、イヤアアアアアアアァァッ!!)
 心の中で絶叫しつつ、私は身体をくねらせた。ぬるぬるとした糞尿が全身にまとわりつき、じわじわと肌にしみこんでくるような気がする。目と口を堅く閉ざしても、手を縛られているから鼻までは塞げない。どろっとした糞尿が鼻の中に入り込んできて、気を失ってしまいそうな強烈な臭いがする。
(助けてっ! 誰かっ、助けてぇっ! 私、何にも悪いことなんてしてないのに……! 母さんっ、父さんっ、趙翻……っ! 誰でもいいっ、私を助けて……!)
 身体をくねらせるたびに、ぬるっ、ぬるっとした嫌らしい感触が全身に走る。汚らしい糞尿が全身に付着し、じわじわとしみこんでくる。気が狂いそうだ。キーン、と、耳の奥で甲高い音が聞こえる。ずっと息を止めているせいで胸が苦しい。
(う、あ……い、息が、苦し、い……! う、ぐ、ぐ……も、もう駄目ぇっ!)
 耐えきれなくなり、私はぶはっと息を吐き出した。早く、早く息を吸わないと死んじゃう……!
 大きく息を吸った瞬間、口の中一杯に形容できない味と臭いが広がった。何日も放置されていたであろう大量の糞尿。腐り、酷く臭うそれが、私の口の中へと流れ込んでくる。
(イヤアアアアアアアアァッ!!)
 絶叫を上げ、私は口の中に流れ込んできた糞尿を吐き出した。ううん、吐き出したつもりだった。なのに……吐き出したのよりもっとたくさんの糞尿が、私の口の中に流れ込んでくる!
(イヤアアアアアアァッ! イヤッ! イヤァッ!! イヤアアアアアアアアアァッ!!!)
 私は絶叫し、身体をくねらせた。このままじゃ、全身が腐っちゃう。身体の中と外から糞尿にまみれて、私もこんなドロドロの汚物に変わっちゃう……!
 思わず目を開けてしまい、激しい痛みが目を襲う。目の前が真っ赤……ううん、暗く、なってきた……もう、何も、感じない……。私……死んじゃう、のかな……?
 どすっと、お腹の辺りを殴られた。気がつくと、何時の間にか私はちゅうぶらりんになっている。喉の奥に何かが詰まっているような感じがして、私は何回か咳き込んだ。口の中に苦いものが一杯に広がり、口の中から何かが飛び出して行く。え……嘘、今の、大便……!?
「おえっ、えっ、おええええええぇっ」
 強烈な吐き気。吐いても吐いても収まらない。自分の吐いたもので、顔がべちゃべちゃ……。
 ドロドロとしたものが、私の身体の上を流れてく。私、全身糞尿にまみれてるんだ。涙でにじむ視界の中で、男が二人、私のこと見て笑ってる。何で……? 何で、こんな酷いことできるの……?
 男の一人が、片手を上げる。ふわっとした感覚が来て、私の視界がまっくらになる。目に激痛。全身が、ぬるっとしたものに包まれる。え……? 何、が……?
 また、糞尿に漬けられてるんだ!
(イッヤアアアアアアァッッ!! 助けてっ、誰かっ、助けてぇっ!)
 心の中で悲鳴を上げて、私は身体をくねらせた。でも、全身をぬるぬるとした汚物がこすっていくだけで、逃げられない……!
 あ、息、が……苦しい。け、けど、この状態で息を吐いたら、また……。
 う、うう、う……苦しい、苦しいよぉ。お願い、はやく、ここから引っ張り上げて……なんでも、言われた通りにするから……お願い、早く……!
 あ、ああ、も、もう、我慢できない……い、息が……で、でも、糞尿を食べるのは……うぐぐ、苦しい。早く、ここから……ぐぐぐ。
 身体をくねらせながら、私は懸命に哀願した。けど……いつまでたっても、引きあげては貰えない。どのくらいの時間がたったのか、気が狂いそうな時間が延々と続いて、でも、助けては貰えなくって。
 口の中に形容できない味が、広がる。我慢できなくって、息を吐いて、吸って、でも口の中に入ってきたのは空気じゃなくって糞尿で。苦しさは消えなくって、また、糞尿を食べちゃって。
 ふっと目の前が暗くなって、気がついたらまた私はちゅうぶらりんになってた。食べちゃった糞尿を吐き出して、咳き込んで、こっちを見てる男たちに必死に助けてくれって頼んだ。でも、言葉が通じてないのか、それとも無視してるのか、男たちは私をまた樽の中に漬けた。
 全身をぬるっとしたものが包み、しばらくすると息が苦しくなる。身体をくねらせて、もがいて、それでも結局我慢出来なくなって息を吐いて、口一杯に汚物を含んで、飲み込んじゃって。気が狂いそうになりながらもがいて、気が遠くなって。何度も、何度もそれが繰り返される。
 私、もう、人間じゃなくなっちゃう。全身糞尿まみれで、糞尿食べて……来月、結婚する筈だったのに、もう、人間じゃなくなっちゃう……。こんな、糞尿食べるような女は、もう人間じゃないよ……。
 何回目か、それとも十何回目かに目の前が暗くなって、ふと気がつくと私は床の上に転がされていた。あは、あはは、全身に糞尿がまとわりついてる。ドロドロのグチャグチャだぁ……。
 手袋をはめ、ごわごわした服を着た男が私の肩に手をかけ、引きずり起こす。彼の手が私の口に掛かり、大きく開かせた。別の男が、私の口に大きな漏斗をねじ込む。先が喉を突いて、痛い。まだ、私に何かするつもりなのかな……?
 柄杓で樽の中からどろっとした糞尿を掬い上げて、女の子が歩いてくる。私の口にねじ込まれた漏斗、その上で柄杓が傾けられる。喉をどろっとした熱いものが滑り落ちていく……ああ、そうか、私、糞尿を食べさせられているんだ。息が苦しくなって、吐き気がして。自分でも意識してないのに、身体が跳ねる。もがき、苦しんでる私へと、何度も何度も女の子が糞尿を食べさせる。息が出来ない。お腹が苦しくて、痛い。
 あは、あはは……私、糞尿を食べてるんだ。全身糞尿まみれのドロドロで、ぽこっとお腹が膨らむぐらい糞尿を食べてるんだ、私……あはははは。
 身体の中も外も、糞尿でいっぱいだぁ……あはは。私、もう、人間じゃないんだ。糞尿の塊。ドロドロした、汚いごみなんだぁ……あは、あはは、あはははは……。

「おや、狂いましたか。この責めのもう一つの難点ですね、これが。屈辱によって精神的打撃を与え、反抗する気力をなくさせるのが主目的の責めなんですが、効果がありすぎて精神崩壊を起こしちゃうこともあるんですよねぇ。
 かと思えば、これをやられてもまったく堪えない人間もいますし、感染症を起こして死んじゃう危険性も高いです。うまくはまれば一発で屈服させられますけど、裏目に出ると発狂もしくは死亡する。時間がなくていちかばちか、という時にはやってみてもいいですけど、余裕がある時には出来ればやりたくない責めですね」
 糞尿にまみれた無残な姿でうつろに笑う女を見やり、大神が軽く肩をすくめる。不機嫌そうに腕を組むヴァイの見つめる中、笑う女の唇からだらりと茶色っぽい大便があふれた……。
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