さてまたも園田大造である。
 ゲームキャラ・アニメキャラの中で相川珠子が寂しそうなので、今一人乱歩作中の美
少女を対象に妄想を逞しくしてみた。
 今度は「大暗室」である。この乱歩の昭和11年末から13年にかけてキングに連載
され、乱歩作品中最も長い部類に属する小説は、母を同じくする善意の塊のような有明
友乃助、悪の権化としか言いようのない大曾根竜次の二人の対決を軸に進む、推理有り、
猟奇有り、冒険有りの、乱歩自身も言うとおりの少々大時代がかった小説である。
 そしてこの悪の権化である大曾根竜次が凄いのだ。何せ東京の地下に悪の地下王国と
もいうべき「大暗室」を作ってしまうのだ。厳密には大金で雇ったり、誘拐してきた潜
水夫のマスクのようなものを被った銅仮面の人夫たちがさらに拡張中なのだが、そこで
は天井にはオーロラが現れ、人魚が泳ぐ池があるは、天使が舞い跳ぶホールはあるはで、
竜次はそこで女体ベッドなんかで寝起きしている。さらには誘拐してきた美女に人魚や
牧羊神、大イモリや蛇の格好をさせるは、態々新聞記者達を拉致同然に招待してこの大
暗室を見せびらかすわと、まさにやりたい放題なのだが、特記すべきはこの大暗室には、
世界のあらゆる拷問具を集めた拷問窟があるのだ。これを使わぬという手はないが作中、
この拷問具の中で使われるのは、「陥穽と振り子」だけである。これは対象者をベッド
に縛りつけておいて、上から鋭い刃を付けた巨大な振り子を往復させながらじりじりと
降ろしていくという、むしろ処刑じゃないか、という責めである。後は誘拐してきたも
のの言うこと聞かない女に人魚の扮装をさせて水槽に放り込む、というユニークなのも
出てはくるが…。
 さて今回の妄想の対象の星野真弓である。星野真弓は竜次の仇敵で善玉の有明友乃助
の恋人、とは言え友乃助が毎日乗馬の練習の途中に真弓の家の近くに寄ってほんの少し
語り合うと言った程度だが、であり、竜次が狙う伊賀屋の埋蔵金の正式な継承者であり、
それ故、悪の権化の大曾根竜次に拉致されてしまう美少女である。この真弓について乱
歩は「電灯の下にうなだれて、しきりと編み物をしている真弓の横顔は絵のように美し
かった。少しもおめかしをしていないけれど、十九の春がほんのりと頬を桃色に彩って、
睫毛の長い目が美しくうるんで、夢見るような物思わしげの風情である。」と書いてい
るが、これだけでも中々のものである。
 それに落魄し片目が不自由となった父とともに、強欲な伯父の辻堂老人の処に身を寄
せている、と言うだけあって中々芯が強いところを見せる。拉致された真弓は迫ってく
る竜次を短刀で撃退したり、この辺りポーの短編小説の翻案ではあるが、怒り狂った竜
次に「陥穽と振り子」の拷問とにかけられても見事に脱出したり、と気丈で機転の聞く
ところを見せる。また辻堂老人に化けた竜次に抱き締められて若い男の感触にどきまき
したり、とただのお嬢様ではない存在感が有る美少女である。
 ところがこの真弓という美少女、小説中盤頃に殺人振り子から逃れたものの四方から
迫ってくる壁に追い詰められ、落とし穴に身を投げて以来ばったり出てこなくなってし
まう。最後の方にその後様々に責め苦に有ったが雄々しく純潔を守り通してあっさり友
乃助に救出されるだけである。そんな馬鹿な!と思ったものだ。竜次は真弓をほとんど
処刑そのものの拷問に掛けたのだ。しかも竜次は自ら人殺しが大好き、と言っている上、
東京の地下に悪の王国を作ろうと言うほどのスケールを持っている大悪役ではないか!
真弓をもっと残酷な拷問に掛けて散々に責め苛み、いよいよ言うことを聞かないとなれ
ば、身も氷るような、それこそ血を啜り肉を食らうような恐ろしい方法でこの気丈な美
少女を処刑しない訳がないではないか!
 さてそろそろ私の妄想小説を始めるとしよう。
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