始めに


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 初めまして、園田大造である。

 この妄想の舞台は江戸川乱歩の「妖虫」の世界を下敷きにしているので、この小説を

未読の方のためあらすじ等一言紹介しておく。

 なおこの文中には身体障害者を誹謗・差別するととられかねない人物が登場する。し

かし乱歩原作の重要な登場人物であり、この人物を除いてはこの物語世界は成立し得な

い。ただそれだけの理由で登場させ、それ以外の意図は何物も存在しないので前以てお

断りしておく。



 「妖虫」は昭和八年発表の江戸川乱歩の通俗物の一つであり、乱歩特有の猟奇趣味の

横溢した作品である。この小説は主人公の相川守青年がある日、レストランで妹の珠子、

珠子の家庭教師の殿村夫人と食事をしている処から始まる。その時、殿村婦人が読唇術

で近くのテーブルの男たちの谷中の幽霊屋敷と呼ばれる家で殺人を行う相談を読み取る。

守がその夜、その幽霊屋敷に忍び込むと果たして人気女優春川月子の殺人が行われる。

驚いた守が警官を連れて戻ってくると、その屋敷には赤蠍の印と共に無惨に解体された

月子の屍があるばかりだった。

 守の妹の珠子はとある赤雑誌で「ミス・トウキョウ美人学生番付」の女王に選ばれた

ほどの美人で、もうすぐ女学校を卒業する十八歳の令嬢である。こともあろうにその赤

蠍が次の獲物に選んだのがこの相川珠子だった。赤蠍はどんなに厳重に警備している部

屋にも楽々侵入し、珠子をいたぶるようにその刻印を残し、守の提案で老名探偵三笠竜

介に護衛を頼むことにする。珠子は訪れた三笠探偵の提案で安全なところに避難する事

にするが、この三笠探偵が真っ赤な偽物だったのだ!そのまま誘拐された珠子は向島の

化物屋敷で散々脅された挙げ句、磔に掛けられて殺されそうになる。

 しかしここで本物の三笠探偵が守を伴って現れ、珠子は間一髪で救出される。と、思

いきや三笠探偵は小さな張りぼての岩の中から伸びた手に刺され、珠子はまたも赤蠍の

手に落ちてしまう。その翌日、珠子は屍となって、銀座のショーウィンドーに飾られて

いた…。(以下略)

 

 という訳でこの小説は相川珠子が再び赤蠍の手に落ちて後、惨殺されるまでの物語で

ある。その屍をショーウィンドーに飾る趣向も悪くないが、私としてはあくまで磔にこ

だわって見た。また殺し方もこのHPのものと重複しないようにしたため、思い切って

グロテスクなものにしてみた。

 それからこの妄想の犠牲者の相川珠子についてだが、上に書いた以上のことを除くと

乱歩自身がほとんど何も書いていないのだから、私に判りようは無い。入浴時に自分の

裸身を眺めながらうっとりと、「殺人鬼さん、そんなに私の体が欲しいの?」と呟いた

りする処から相当なナルシストらしい、良く失神するから見て気は余り強くないのだろ

う、ということが判るくらいだ。ただ連載時の岩田専太郎の挿絵から、私は漠然と二十

歳の頃の中山忍のイメージを抱いている。

 それでは諸君、しばらく私のつまらぬ妄想と御付き合いいただきたい。
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