第二話 霹靂


 ベットに腰かけ、ぼんやりとマヤは白い壁を見つめていた。その壁は、非常に柔軟性に富んだ素材で出来ている。頭を壁に打ちつけて自殺するのを防ぐためだろう。床も似たような素材で出来ているらしく、一歩歩くたびに足首近くまでめり込んでしまう。走った勢いを利用することも出来ないわけだ。
 軽く溜息を付くと、彼女は天井近くに設置された監視カメラへと視線を向けた。もちろん、これみよがしに設置されたそれはダミーで、本当の監視装置は巧妙に隠されているのだろうが。四六時中監視されているというのは気分がいいものではないが、文句を言っても始まらない。
(生きて、ここを出ることは、多分、出来ない……)
 自分でも意外なほど冷静にそう思えた。情報を漏らしたところで、命が助かるはずもない。どうせ、見せしめのために公開処刑されることになるだろう。
(自殺も、無理)
 カメラに向けた視線を膝の上に置いた自らの両手に移し、心の中でそう呟く。ベット以外に調度品の類はなく、そのベットもちょっと力を込めればぐにゃりと歪む。もちろん、ロープや刃物の類もない。カメラで常に監視されている以上、舌を噛んだところですぐに治療されるだけだ。映画や漫画のようにすぐ死ねるならともかく、舌を噛んで死ぬと言うことは、即ち出血が原因で窒息すると言うこと。死ぬまでにはそれなりに時間がかかる。
 あとはやるとすれば、食事に手を付けずに飢死する、ぐらいだが。そんなことをしても栄養剤か何かで無理矢理命をつなぎとめられるだけで無意味だ。むしろ、体力と気力の双方がなくなって拷問に耐えきれなくなる事の方が恐い。
(私に出来ることは、ただひたすら耐えて、拷問の中で死ぬことぐらい)
 いつまでも黙秘を続ければ、当然加えられる拷問もエスカレートする。いつかは、死ねるはずだ。
 ぎゅっと、唇を噛み締めるとマヤはまだ傷の癒えない自分の手を見つめた。
(耐えなくちゃ……死ぬまで)
 心の中でそう呟いた時、がちゃりと鍵の外れる音が響いた。思わずはっと身構えたマヤへと、室内へと入って来た男--東城がにやりと笑う。
「さぁて、マヤちゃん。そろそろ気は変わったかなぁ?」
 軽薄そうな口調と裏腹に、その瞳に宿る光は鋭く、剣呑なものだ。ごくりと唾を飲みこみながら、マヤは首を左右に振った。
「言ったでしょう? 私は仲間を売ったりはしないわ」
「ふぅん、なるほど。健気だねぇ。ただ、一つ忠告をしておくとな、俺は今まで、自白しない奴を責め殺したことはないんだよ。自殺できないんなら俺に殺してもらおう、だなんて甘い考えは、捨てた方がいいぜ?」
 顎の辺りを撫でながら、東城がそう言う。内心を見透かされて一瞬マヤが表情を強張らせた。だが、すぐに皮肉げな笑みを浮かべてみせる。
「……それなら、私が、最初の一人になるのね」
「無駄だよ。一時の苦痛に耐えられる人間は居ても、際限無く繰り返される苦痛に耐えられる奴は居ない。絶対、いつかは口を割ることになる。だったら、最初から素直になったほうがお互いのためだろう?」
「お互いのため?」
 ますます笑みを濃くしながら、マヤがそう呟いた。額に落ちかかってきたさらさらとした銀色の髪を掻き上げつつ、東城の顔をまっすぐに見つめる。
「私が素直に口を割ったら、拷問する口実が無くなるじゃない。それは、あなたにとっては嬉しくない事態なんじゃないの? あなたは人を痛めつけるのが何より好きな変態なんだから」
「おやおや。そう言えば俺が怒るとでも? 可愛いねぇ」
 くっくっくと笑いながら東城がマヤの元へと歩み寄る。反射的に後ずさりそうになって、辛うじてマヤは踏み止まった。浮かしかけた腰を戻し、強張りそうになる唇で懸命に笑みを作る。
「何度でも言ってあげるわよ、本当のことでしょう? 任務だなんてただの建前。あなたは抵抗できない私をいたぶって楽しんでいるだけの、卑怯な変質者よ!」
「ああ、そのとおりだよ」
 笑顔のままでそう言うなり、東城が右腕を振り抜いた。まともに頬を殴られ、小さく悲鳴を上げてマヤがベットに倒れこむ。
「きゃっ」
「……一つ、忠告しておくとだな、俺はかっとなりやすいたちなんだ。だからって、かっとなった俺がお前を殺すなんて思うなよ? かっとなればなるほど、同時に俺の中には冷静な部分が出来るんだ。
 一思いに殺すなんてもったいない。痛めつけて痛めつけて、『どうかお願いですから殺してください』って懇願するまで痛めつけて、それでも殺さずに生かしておこうって思う、な」
「……」
「意地を張って、俺を挑発して得られるものは、死という名の解放じゃない。恐怖と苦痛に満ちた生き地獄さ。
 だが、ま、ここでこんな話を続けていてもそれこそ時間の無駄だな。いつまでも黙秘を続けられるだなんて考えが甘いってことを、身体に直接教えてやるよ」
 そう言いながら東城がマヤの腕を掴んだ。マヤも特に抵抗のそぶりは見せない。東城を人質にして逃げる、という考えも一瞬脳裏に浮かんだが、到底成功するとも思えなかった。
(耐えるのよ、マヤ。どんなに苦しくても)
 自分自身にそう言い聞かせながら、マヤは東城に従って部屋を出た。部屋を出ると東城は彼女の腕を離したが、同時に外で待機していた二人の警備員らしき男たちがマヤの腕をそれぞれ抱えこむ。
「いろいろと、器材も準備してやったからな。ありがたく思ってくれよ?」
 前を歩く東城の言葉を聞きながら、マヤはぎゅっと唇を噛み締めた。

 マヤが連れていかれたのは、前回よりもかなり大き目の部屋だった。部屋の中央には頑丈そうな椅子が、その横にはいくつものメーターが付いた機械が置いてある。白衣をまとった男が、その機械に取りついて何やら操作をしていた。
「準備は?」
「いつでも大丈夫です」
 東城の言葉に、白衣の男が振り向きもせずにそう言う。声から判断するにまだ若いようだ。
 軽く頷くと、東城が顎をしゃくった。マヤの両腕を抱えこんでいる警備員たちが彼女の服に手を掛ける。男たちに囲まれた今の状況で服を脱がされる恐怖に、反射的にマヤがあがらった。
「あっ、やめて……!」
 ささやかなマヤの抵抗に、無言のまま警備員の一人が拳を振るう。まともに頬を殴られ、一瞬マヤの意識がとんだ。崩れ落ちかかるマヤの腕を掴み、警備員たちが彼女から服を剥ぎ取る。手荒な扱いを受けて服のボタンが一つか二つ、ちぎれて床で跳ねた。
 朦朧とした意識をはっきりさせようと頭を振るマヤを、警備員たちが椅子に座らせた。肘掛けに彼女の両腕を固定する。それから両足首をそれぞれ椅子の足に固定すると、彼らは東城に一礼して部屋から出ていった。
「……どうせなら、下着も外していってもらいたかったんですが」
 ふと機械から視線をマヤの方へと移して白衣の男がそう呟く。淡々とした口調といい表情といい、男が下着姿の若い女に向ける類のものでは無い。実験動物を見る科学者の目だ、と、そう気付いてマヤは僅かに身体を震わせた。
「邪魔かい?」
「ええ、まあ」
 東城の言葉にあまり感情のこもらない返事を返しながら、男が機械の側面から何本ものコードを取り出した。コードの先端の吸盤を、次々にマヤの肌へと張りつけていく。肩、腕、腹、太股。ひんやりとした吸盤の感触にマヤの瞳に微かな恐怖の色が浮かぶ。
「とりあえず、LV.1から始めます」
 結局マヤの下着には手を掛けずに機械の元へと戻ると、男がぱちんと音を立ててスイッチを入れた。ブゥンと低い唸りを機械があげる。
「うっ……」
 小さくマヤが呻いた。吸盤を張りつけられた部分に鈍い痛みが走る。刃物で切られる痛み、針で突き刺される痛み、殴られる痛み。そのいずれとも違う、形容しがたい痛みだ。
 痛みの大きさそのものは、実は大したことは無い。だが、寄せては返す波のように強くなったり弱くなったりを繰り返すせいでほっと息を付いた瞬間に痛みが走る。しかも、妙に後に残る痛みだ。
「LV.3ぐらいまではどんどんいってもいいぜ」
 部屋の片隅から椅子をひっぱりだしてきた東城が、軽く笑いながらそう言う。はぁ、と、曖昧な返事を返すと男はスイッチの下のダイヤルを回した。吸盤を張りつけた辺りの筋肉がぴくぴくと痙攣を始める。ぎゅっと唇を噛み締め、マヤが懸命に声を殺す。
「ええと、じゃ、LV.3です」
 そう言いながら、男が更にダイヤルを回した。マヤの口から殺しきれない呻き声が漏れた。
「く、うっ、あっ……」
「電気を流されるのはどんな感じだい? ま、もっとも、今はまだ小手調べ以前の段階だがね。ごくごく弱い電流だから、かえって健康にはいいぐらいだ」
 笑いながらそう言うと東城がコートのポケットから煙草を取り出し、くわえる。ちらりとそちらに視線を向け、白衣の男が眉をしかめた。
「ここは禁煙ではないですけど、床に灰を落とさないでくださいね」
「……わかったよ」
 しぶしぶといった感じで煙草を箱に戻すと東城が小さく舌打ちをする。それにはかまわずに再び機械の方へと視線を戻すと男が二つ目のスイッチを入れた。
「う、あっ、ああっ、あ、あ、あ、ああっ」
 びくんびくんとマヤの身体が小さく跳ねる。痛いのか熱いのか、判断がつきかねる感覚が全身を包む。
「……LV.5」
 ぼそりとそう呟くと男がダイヤルを回す。ざわりとマヤの髪が逆立った。ばち、ばちばちっと青白い火花がいくつか弾ける。マヤの口から漏れる声が呻きから悲鳴に変わった。
「ひい、ぃああっ。ぎ、あ、あ、ひ、ああっ。あああああっ」
 がくがくと全身を痙攣させ、マヤが身悶える。愉快そうな笑みを浮かべながら東城が彼女へと声を掛けた。
「苦しいかい? だが、この程度の電流じゃ、まだまだ心臓は止まってくれないぜ?」
「心臓が弱い人なら、下手すれば死にますけどね」
 ぼそっと、男がそう呟く。ぎゅっと眉を寄せて東城が彼のことを睨んだ。
「余計なことは、言わないでもらえるかい? 有栖川さんよ」
「事実を、述べたまでですが。インスペクター殿がそうおっしゃるんなら、余計なことだったんでしょうね。すみません」
 あまり、というか、少しもすまないとは思っていないような口調で有栖川と呼ばれた男がそう言う。今度ははっきりと東城が舌打ちをした。
「有栖川さんよ……」
「LV.6……と、いけない」
 東城の呼び掛けにかまわず三つ目のスイッチに指をかけた有栖川が、ふと何かに気付いたような表情を浮かべて既にONになっている二つのスイッチを切る。機械が上げていた低い唸りが止まり、マヤががっくりとうなだれて荒い息を吐いた。東城が不審そうな表情を浮かべる。
「どうしたんだい?」
「いえね、準備を、少し忘れていたもので」
 先にやっておけば良かったんですけどねぇ、などと呟きながら、有栖川が機械の側面から更に四本のコードを取り出した。こちらは、先端に付いているのが吸盤ではなくぎざぎざの付いたクリップになっている。ああ、と、納得したような声を東城も上げた。
「そういや、それを忘れてたな」
「うっかりしてましたよ、本当に」
 そう言いつつ、有栖川がマヤのブラジャーをむしり取った。あっと小さく羞恥の声を上げるマヤにはかまわずに腕に張りつけてあった吸盤を外し、あらわになった乳房へと張りつける。それから左手で乳房をすくいあげるようにすると右手に持ったクリップで乳首を挟みこんだ。ぴくんとマヤの身体が震える。
「少し、痛いかもしれませんけど、我慢してくださいね」
 大真面目な表情でそう言うと、反対側の乳房にも同じように吸盤を張りつけ、乳首をクリップで挟みこむ。東城が苦笑を浮かべながら見守る前で有栖川はその場にかがみこむとマヤのパンティに手を掛けた。
「あっ! やめてっ!!」
 顔を真っ赤にしてマヤがそう叫ぶ。苦笑を浮かべたままで東城がマヤに声を掛けた。
「やめて欲しけりゃ、質問に答えるんだな。恥ずかしい目に……」
「別に、Hな事をするわけではありませんから」
 東城の言葉に被せるようにそう有栖川が言う。もっとも、そう言いながらも彼の手はマヤのパンティを引き降ろして陰部をあらわにしているのだが。台詞を遮られた東城が脱力したようにがっくりとうなだれる。
「……なぁ、有栖川さんよ。もしかしてお前さん、俺の邪魔をして楽しんでないか?」
「まさか。僕みたいな一介の技師風情が、インスペクター殿の邪魔をするはずがないでしょう?」
「なら、俺の質問に答える以外は口を聞かないでくれ。いちいち茶々を入れられたんじゃ尋問がやりにくくてしょうがない」
「はぁ。わかりました」
 気のない返事を返しながら、有栖川の指はマヤの割れ目に這っている。ぎゅっと唇を噛んで羞恥に耐えるマヤ。
「う、嘘つきっ!」
「すいませんね。ただ、よく濡らしておかないとまずいんですよ。乾いていると電気の通りが悪くて」
 マヤになじられ、表情一つ変えるでもなく有栖川がそう言う。口調とは裏腹に巧妙でしつこい愛撫に本人の意思とは関係なくその部分が潤みを帯びる。はぁ、と、小さな吐息を漏らしたマヤへとにやにや笑いながら東城が声を掛けた。
「どうした? 感じてるのかい?」
「そ、そんなわけないでしょうっ! ひっ!?」
 嬲るような東城の言葉に反射的に怒鳴り返したマヤが小さく悲鳴をあげた。割れ目の奥にまで有栖川の指が入りこみ、左右に大きく広げたのだ。更に、左右の花びらをぎざぎざの刻まれたクリップで挟みこまれてマヤの身体が小刻みに震える。
「っ、うっ……」
「ええと、再開してもよろしいですか?」
 指を濡らすマヤの愛液を白衣の裾で拭いながら有栖川が立ちあがる。彼の問いに東城が頷いたのを確認したのかしないのか、有栖川は無造作に機械のスイッチを入れた。
「ヒイッ、イッ、アッ! ヒャッ、ヒッ、ヒイイイイイイッ!」
 がくがくと、四肢を拘束している革ベルトを引き千切らんばかりの勢いでマヤが痙攣する。両胸と股間を中心にして、全身を激痛と灼熱感が駆け巡っていた。(挿絵)
「仲間のことを話す気にはなったか?」
「イ、イヤァッ、ヒ、ギ、ヤァァァ! イヤッ、イ、タイ、イヤイヤイヤアアアアァァッ!」
「やれやれ、強情な娘だ。有栖川さんよ、LV.7だ」
「--ィ! ギャッ! ギッ! ヒアアアアアッ! ギャアアアアアッ!」
 これ以上ないというほど大きく目を見開くマヤ。完全に逆立った髪は青白い火花を散らし、吸盤やクリップを取り付けられた部分から微かに白い煙が上がる。口の端には白い泡が浮かび、手や足の指がでたらめに動く。
 マヤの二つの乳房がびくびくと、それ自体が生き物のように痙攣を続ける。乳房同士がぶつかりあうとそこでばちっと火花が散った。
「気は変わったかい? マヤちゃん」
「イギイイイイィイィィヤァァアァアッ! コ、コロ、シテェッ! ヒィヤアアアアッ! ギィヤアァァァッ!」
「いいとも。仲間のことを話せば、な」
 軽く肩をすくめる東城に向かってぶんぶんとマヤが首を左右に振る。その勢いで頬に当たった髪からも火花が散り、彼女の頬に小さな火傷を作った。マヤの悲鳴が次第に濁音だらけの獣じみたただの絶叫へと変わっていく。
「……おや?」
 マヤの狂乱を無感動に眺めていた有栖川が、ふと何かに気付いたような表情を浮かべて機械を操作する。こちらは楽しげな笑みを浮かべていた東城も、彼の動きに気付いて不審そうな表情を浮かべた。
「どうした?」
「ああ、いえ、たいしたことじゃないんですが。少しトラブルがあったらしくて、スイッチがね、切れないんですよ」
 本当にどうでもいいことのような口調で有栖川がそう言う。ぎゅっと東城が眉を寄せた。
「おいこらちょっと待て。それはまずいんじゃないのか?」
「ギイイイイイッ! ヒアアアアアッ! ギャアアアアアアッ!!」
「まぁ、彼女の命はないでしょうねぇ」
「止められないのか!?」
「アギッ! ギィッ! ヒィッ! ヒギャアアアアアッ!!」
「本部の主電源を落とせば、当然機械も止まりますが、まぁそういう訳にもいかないでしょうね」
「あたりまえだ」
「ギ、ギ、ギィギャッ! ギィイアアアアァァァッ!!」
「後は、緊急停止するしかないですけど。それをやると、逆電圧が彼女にかかるんですよね。ごく一瞬ですけど。そうすると心臓にかなりの負担がかかるんじゃないかと思うんです」
「放っておけば確実に死ぬんだろうが! さっさとやれ!」
「ッ! ギッ! --ィ--ィャッ--ァッ!」
 のんびりとした口調の有栖川を東城が怒鳴りつける。軽く肩をすくめると有栖川はカバーに覆われた赤いボタンへと拳を叩きつけた。
「グッ、ギィッ!! グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 その瞬間、長く尾を引く断末魔のような絶叫をマヤが上げる。ばちばちばちっと激しい火花が彼女の全身を走った。数度痙攣するとがっくりとマヤがうなだれる。
「お、おい、生きてるか!?」
「ええと……ああ、大丈夫みたいですね。完全に気絶してますけど」
 マヤの首筋に指を当て、有栖川がそう答える。浮かせていた腰を椅子に落とすとふぅと東城が大きな溜息をついた。
「頼むぜ、有栖川さんよ。機械のプロなんだろう?」
「はぁ、まあ、それはそうなんですけど。もう五十年近くも倉庫にしまいこまれていたような代物ですからねぇ、こいつは」
 そう言いつつ再び機械の元に戻って何やら作業を開始すると、どうでもよさそうな口調で有栖川が東城に問いかける。
「なんだってこんな骨董品を使う気になったんです? インスペクター殿。電流を使った拷問なら、針を使って神経を直接刺激する方式が一般的でしょうに」
「そいつを本番にするつもりだったんだよ。今回はほんの小手調べ、あんまり強情を張ると次回は本格的
な拷問にかけるぞってな」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
 納得したように頷くと、有栖川は気絶しているマヤの方へと視線を向けた。半開きになった口からはだらんと舌がたれさがり、こぼれた唾液が彼女の胸を汚している。
「これがただの小手調べといわれれば、それは恐怖でしょうねぇ」
「だろう? それで口を割らずに居るのはまず無理だろうからな」
 疲れ切った表情でそう言うと東城はもう一度溜息をついた。
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