ジュンの受難


「ククククク……いいざまだな、ガッチャマン」
 天井からロープで吊るされたジュンに向かい、ギャラクター司令、ベルク・カッツェが明らかな嘲笑を投げかける。ぎゅっと唇を噛み締め、ジュンは顔を背けた。
「貴様たちにはさんざん邪魔をされてきたが、それもこれまでだ。いかにガッチャマンといえど、五人そろわねば我らの敵ではない。しかも、ガッチャマンが恐ろしいのはバードスタイルで居る時だけだ。基地の場所を特定し、奇襲をかければひとたまりもあるまい」
 笑いながらそう言うと、ベルク・カッツェは手にした乗馬鞭のようなしなやかなロッドをびゅっとジュンの顔へと突き付けた。
「さぁ、言え! 貴様たちの基地の場所を! 素直に白状するなら、痛い目を見ずに済むぞ?」
「ふ、ふん。私たちを甘く見ないで。ギャラクターなんかの拷問に、ガッチャマンが屈すると思って?」
「ククククク……威勢がいいな。だが、その強がり、一体いつまで持つかな?」
 そう言いながら、ベルク・カッツェが鞭を振るい、部下たちに指示を出す。タタタっと駆け寄ったギャラクターの戦闘員たちがジュンの両足を左右から抱え込む。吊るされたまま身をよじり、最初の一人の顎に蹴りを食らわせ吹き飛ばしたジュンだが、いくらなんでも多勢に無勢。体勢の悪さも手伝ってそれ以上の抵抗も出来ず、左右に大きく足を割り開かれてしまう。それぞれの足に二人ずつの男がしがみついていて、こうなるとどうあがいても抵抗できない。
 ミニスカートから露出した白い太股へと、ベルク・カッツェの鞭が襲いかかる。びしぃっという音と共に赤い跡が一筋、ジュンの太股に刻み込まれた。唇を噛み締めて悲鳴を殺し、ジュンが僅かに身をよじる。クククと笑いを浮かべながら更に数度、ベルク・カッツェの鞭が振るわれ、ジュンの左右の太股に赤い鞭の跡が刻み込まれていく。
「たいしたことないわね。こんな子供だましで、私に口を割らせるつもりなの?」
 痛みに僅かに表情を歪めつつ、ジュンが憎まれ口を叩く。ふんと鼻を鳴らすとベルク・カッツェが後ろに控える部下たちに視線を移した。頭を下げ、部下たちが走って部屋から出ていく。
 さほどの時をおかず、部下たちが部屋に戻ってきた。下にキャスターの付いた、三角木馬をごろごろと押してくる。僅かに息を飲んだジュンのミニスカートにベルク・カッツェが手を掛け、ビリビリビリっと引き裂いた。恥辱に頬を染めるジュンにはかまわず、更にパンティも引き裂いてジュンの下半身を裸に剥く。
「くっ……この変態っ」
「な、何を言うかっ。えぇい、かまわん。始めるのだっ」
 ジュンの罵倒に一瞬ペースを乱されかけ、ベルク・カッツェがことさらに大きな声をあげた。ジュンの真下へと三角木馬が設置され、彼女を吊っているロープがするすると降りてくる。鋭く尖った木馬の頂きが股間に触れ、くぅっとジュンの口から呻きが漏れた。
 ブーツの上からジュンの足首に鉄製の輪がはめられる。その輪から伸びた細い鎖が床のフックにかけられた。戦闘員の一人が壁のレバーを引くと、鎖を引っ掻けられたフックが床の下へと沈んでいく。当然、鎖に繋がれた足首を捕らえる輪も下へと引っ張られ、ジュンの身体全体を下へと強く引くことになる。マスクに覆われた頭を大きく後ろにのけぞらし、ジュンが悲鳴をあげた。
「くぅっ……ああぁっ! きゃああああっ」
「ククククク……どうだ? 痛いか? 苦しいか? ギャラクターの拷問は、こんなものではないぞ? これはまだ、ほんの小手調べなのだからな」
 股間から脳天までを貫く激痛に身をよじるジュンへと、ベルク・カッツェが嘲けるようにそう言う。全身にびっしょりと汗を浮かべながら、懸命にジュンは唇を噛んで悲鳴を殺した。つうっと、歯で食い破られた唇から滴った血が彼女の顎へと伝う。
「うっ、くぅっ。う、あ……んっ。く、うぅっ」
 フックはどんどんと床の中へ引き込まれていき、強く引かれた足がピンと伸びる。あまりに強く引かれるせいで、ミシミシと膝の関節が嫌な音を立てて軋んでいた。その力は股間にもかかり、鋭い木馬の頂きがジュンの皮膚と肉を食い破って体内へと食い込んでいく。どくどくとあふれる鮮血が木馬の側面を染め、床の上に血溜りを作る。
「さぁ、どうだ。基地の場所を、しゃべる気にはなったか?」
「う、あぁっ。あ、甘く、見ないでっ。こ、こんな、子供だましで……きゃああああっ」
 ベルク・カッツェの問い掛けに、激痛に喘ぎながら答えを返そうとしたジュンが大きな絶叫をあげた。戦闘員たちが木馬の前後を手で掴み、前後に動かし始めたのだ。下にキャスターが付いている点を最大に生かし、押しては引き、引いては押すというように行ったりきたりさせる。鮮血にまみれた木馬の頂きが、前後に動くたびに肌と肉を深く裂き、えぐる。本当にこのまま身体をまっぷたつにされてしまうのではないかと思うほどの激痛に、ジュンの口から悲鳴があふれた。大きく目を見開き、激しく身悶えながら泣き叫ぶ。
「さぁ、言え! 言うのだっ! 貴様らの基地はどこにあるのだ!?」
「イヤァッ、イヤッ、イヤアアアァッ。言わないっ、絶対に言わないわ! あぁっ、い、やっ、きゃああああああっ」
 ひときわ大きな絶叫をあげ、ジュンが身体を大きく後ろにのけぞらせる。びくびくっと数度その身体が震え、硬直したかと思うとぐったりと力が抜けた。失神したジュンへと向かってふんと鼻を鳴らすと、ベルク・カッツェはいったん拷問を中断させた。

「うっ……」
 小さく呻いてジュンが目を開いた。医療器具を思わせる、大きなポッドの中に彼女の身体は横たえられている。胸、腹、腰、太股、脛、足首と、六本の太いベルトが彼女の身体を拘束していて、気をつけの姿勢を取ったまま身動きが取れない。いつのまにか服とブーツも脱がされていて、彼女が身に付けているのはヘルメットと手首のブレスレットだけだ。この二つは声紋式のロック機構があるから、流石のギャラクターにも簡単には外せなかったらしい。
「お目覚めかね? ガッチャマン」
 ポッドを覗き込みながら、ベルク・カッツェがそう問いかける。ぎりっと奥歯を噛み締め、ジュンは彼のことをにらみつけた。
「まだ元気なようだな。だが、その元気、いつまで続くかな? 我らギャラクターの科学の粋を結集したこの機械にかかっては、さしものガッチャマンも長くはもつまい」
「何をするつもりかは知らないけど、無駄よ。どんな拷問にも私は耐えてみせる」
「ククククク……確かに、貴様を痛め付けても口を割らせることは難しかろう。たとえ死ぬまで責め立てたところで、な。憎っくきガッチャマンを殺すのをためらうつもりもないが、情報を引き出せずに殺すのは出来れば避けたい。だからこそ、この機械が役に立つのだ。
 この機械は、貴様の脳に直接刺激を与え、視覚、聴覚、そして触覚を再現する。永遠に覚めぬ悪夢の中で、貴様は悶え、苦しみ、何度も自らの死を経験するのだ」
 楽しげにベルク・カッツェがそう説明をする。その説明に、ふんとジュンが鼻で笑った。
「なるほど、幻覚を見せる機械、ってわけね。でも、所詮は幻でしょう? そんなもので、私をどうにか出来ると思っているの?」
「そう、幻覚だ。だが、それを味わう貴様にとってはまさに現実の痛み、苦しみとなる。その恐ろしさ、身をもって味わうがいい!」
 ベルク・カッツェの言葉が終わると、戦闘員たちがポッドに駆けよってジュンの身体のあちこちに吸盤付きのコードを張り付けていく。素肌をまさぐられる不快感に僅かにジュンが身をよじるが、太いベルトで何重にも拘束された身では逃れようもない。
 ぶしゅうっと、微かな音を立ててポッドの蓋が閉まる。光を閉ざされ、暗闇の中に取り残されたジュンがぎゅっと唇を噛み締めた。さほど時間をおかずにぶぅんと機械の作動音が響き、ジュンの全身にぴりぴりとした刺激が走り始める。頭の中に手を突っ込まれ、掻きまわされるような異様な感覚に、ジュンは声に鳴らない悲鳴を上げた。そして、悪夢が幕を開ける……。

 ジュンは柱に縛り付けられていた。見渡す限りの荒野のただなかに、彼女を縛り付けた柱がぽつんと立っている。そして、彼女の前に立つ四つの人影。
「よくも俺達のことを裏切ったな」
 怒りに燃える口調でガッチャマンのリーダー、オオワシのケンがそう言った。後ろ手に柱に縛り付けられたジュンが身をよじって懸命に訴える。
「ま、待って、ケン! 誤解よ、私は……!」
「聞く耳もたねぇ。裏切り者には死を。それがルールってもんだ」
 そう言いながら、コンドルのジョーが銃を構える。無言のままジンペーとリュウも銃を構える。仲間たちに銃を突き付けられ、ひっとジュンが息を飲んだ。
「ま、待って! お願い、やめてっ!」
「処刑を開始する」
 ケンが自分の銃を構え、そう宣言した。四つの銃声が荒野に響き渡る。着弾のショックにジュンの身体がびくんと震えた。信じられないというように目を見開き、ジュンが口から血をあふれ出させる。
 ターン、ターン。更に二度、銃の引き金が引かれる。合わせて一ダースの銃弾が、ジュンへと向かって発射される。といっても、実際にジュンの身体に当たったのは九発だけで、残りの三発は身体をかすめただけだ。
「あ、ぐ……うぁ……ぅ」
 口から鮮血の塊を吐き出し、ジュンが呻く。命中した九発の弾丸も、すべて心臓から下、腹の辺りに撃ち込まれていた。腹の辺りに灼熱感が走り、激痛に苛まれるがなかなか死にきれない。
「嘘よ……これは幻、現実じゃ、ない……」
 うわごとのようにそう呟くが、今感じている苦痛はまさしく現実のものとしか思えない。苦痛に身をよじるジュンへとゆっくりとケンが歩み寄った。銃口を、ジュンのこめかみへと押し当てる。恐怖に目を見開くジュン。引き金が引かれ、鈍い衝撃と共にジュンの意識は闇に落ちた。

「ひっ!?」
 びくんっと身体を震わせ、ポッドの中でジュンが大きく目を見開く。全身にびっしょりと汗が浮かび、心臓が激しく脈打っている。がちがちと歯を鳴らしながら、懸命にジュンは呼吸を整えようとした。だが、実質何をする間もなく再びジュンの意識は幻覚の渦の中に飲み込まれていった。

 ジュンは十字架に縛り付けられていた。足元にはうず高く薪が積まれている。
「馬鹿な奴だ。素直に白状していれば死なずに済んだものを」
 ベルク・カッツェが侮蔑を隠そうともせずにそう言い、さっと右手を上げる。手に手に松明を持った戦闘員たちがさっとジュンの元へ駆けより、足元に積まれた薪へと松明の火を移す。あっという間に薪が燃えあがり、ジュンの身体を炎が包み込む。幻覚だからなのか、本来もうもうと上がるはずの煙はほとんど上がらない。
「きゃああああっ、イヤッ、熱いっ」
 縛られたまま、ジュンが身をよじる。勢いよく燃えあがった炎は彼女の身体を包み込み、あっという間に服を燃やし、肌を焼く。
「熱いーー! いやっ、やめてぇっ。あ、熱いぃっ」
 炎に包まれ、ジュンが悲鳴を上げて激しく頭を振る。ジリジリと炎に肌を焼かれている感覚が、リアルに感じられた。頭でいくらこれは幻覚、本当に焼かれている訳ではないといい聞かせても、圧倒的なまでの熱さと痛みは消えてくれない。
「ああぁぁーーっ。あっ、あっ、きゃああああぁっ。熱いっ、いやっ、熱いぃっ」
 生きたまま炎に包まれ、悲痛な悲鳴をジュンが上げる。炎で焼けた肌が膨れあがり、ずるりと剥ける。全身に火傷を負い、ジュンはのたうち苦しみつづけた。

「う、あ、う……。くぅっ、あっ。ああああっ」
 ポッドの中でジュンが激しく頭を振り、苦痛の呻きを上げる。びくびくっと身体が震え、ぎゅっと硬く閉じた目から涙があふれ出す。
「い、や……助け、て……」

 ジュンは高い台の上に立たされていた。足首を縛られ、両手を背中側で縛り上げられている。先端を輪にしたロープを首にかけられ、どんっと背中を蹴り飛ばされる。台を踏みはずし、ジュンの身体が落下した。
「うあぁ、ぐぅっ。ぐぐぐぐぐ……!」
 首を吊られ、息が詰まる。ぶらぶらと空中で身体を揺らし、ジュンが空気を求めて喘ぐ。
「く、苦し、い……ぐぐぅっ、ぐ、うぐぐぅっ」
 血管も締め付けられ、顔が真っ赤に染まる。かはっ、かはっと苦しい息を吐き出し、わずかな空気を求めて口をぱくぱくとさせる。
 くねくねと空中で身体をくねらし、ジュンが身悶える。美しかった顔が赤黒く染まり、膨れあがる。びくびくっと身体が痙攣し、太股を失禁した小水が伝う。半開きになった口から、紫色に変色して膨れあがった舌がだらりと顔を覗かせる。激しい耳なりと共に視界が真っ赤に染まり、暗転した。

「きゃあああああっ、あっ、あああああああっ」
 大きく口を開け、ジュンが悲鳴を放つ。両足は樹に巻き付けたロープに結ばれ、両腕から伸びたロープは車に繋がれている。車がアクセルをふかし、ジュンの身体を引き伸ばしていく。
「あ、がっ、あぁっ。うあああああっ」
 ミシミシと、腕や足の関節が嫌な音を立てて軋む。ギャラクターの戦闘員が、ぎらりと光る大刀を持って空中に浮かんだジュンの側へと歩み寄った。その姿を視界の端に認め、ジュンが恐怖に目を見開く。
 湾曲した大きな刃が、ジュンのピンと張りつめた腹へと振り降ろされた。半ば近くまで胴体に切り込まれ、ジュンが悲鳴と共に鮮血を吐き出す。
「うぎゃ、ぐ、きゃあああああっ」
 車によって強く引かれ、腹の傷がぶちぶちぶちっと音を立てて広がっていく。鮮血と共に内臓があふれ、引き伸ばされていく。悲鳴をあげ、激しく頭を振りながらジュンは信じられないというような表情でその光景を見つめていた。
「ぎゃああああああっ」
 ぶちぃっと、肉と内臓がまとめて引き千切られる。車によって引きずられるジュンの上半身。無残な断面から内臓があふれ、地面の上に鮮血の筋を引いている。びくびくっと身体を痙攣させながら、ジュンは必死でこれは幻覚だと自分に言い聞かせつづけていた。

「あ、ぐぅ……」
 小さく呻いてジュンが目を開く。いつのまにかポッドの蓋が開き、横たわる自分のことをベルク・カッツェが見下ろしている。
「どうかね? ガッチャマン。楽しんでもらえたかね?」
「う、うぅ……」
 ベルク・カッツェの嘲笑にも、弱々しく呻くだけでジュンは答えられない。にやりと口元を歪めると、ベルク・カッツェは軽く肩をすくめてみせた。
「なるほど、あの程度ではまだまだ不足、という訳か。結構。プログラムはまだ十分の一も済んでいないのだからな。私の質問に答える気になるまで、ゆっくりと楽しんでくれたまえ」
「ま、待って……!」
 ベルク・カッツェの言葉に、ジュンが明らかな恐怖を含んだ口調で悲鳴を上げる。
「は、話すわ、何でも。だ、だから……もう、やめてっ」
 恐怖にげっそりとやつれ、奇麗に髪の白くなったジュンが悲痛な声でそう、叫んだ……。
TOPへ