私がその町を訪れたのは、そろそろ冬にさしかかろうという季節だった。この町の司祭とはかねてからの知り合いで、私の拷問か処刑の様子を見学させてくれないかという頼みを、快く引き受けてもらうことができた。
 彼の話によれば、ちょうど私が来るのと同時ぐらいに一人の魔女の処刑が始まったところなのだという。普通ならば魔女の処刑は広場での火刑と相場が決まっているが、この町では少々事情が違うという。
 いずれにせよ、他の町では見られない処刑が見られるというのだから、ありがたい話ではあった。
「いやぁぁぁ、やめて、痛いぃぃ」
 細い階段を下り、先に立った司祭が鉄の扉を開くと、まず私の耳に女の悲鳴が聞こえてきた。見れば大きな台の上に裸の女が大の字に拘束されている。身体のあちこちに火傷や鞭の跡があるが、これはどこの町にいっても同じなので今更驚くようなことではない。
「あれは?」
「御覧の通り、目を縫い付けています。魔女の魔力のうちで恐ろしいのはまず邪眼の力ですからな」
 私の問いに、司祭はそう答えてくれた。なるほど、彼の言うように、じたばたと暴れる魔女の頭を二人の男が掴み、まだ十代半ばの少女が大きな針を持って魔女の瞼を上下から縫い合わせている。既に左の目は縫い合わされており、右目も半ばが塞がれていた。針に通されているのは、革を細く割いた糸らしい。まつげを摘んで引っ張り上げられた瞼に針が通る度に、ポロポロと文字通りの血の涙を流しながら魔女が絶叫を上げる。
「いやぁぁぁ、ひぃぃぃぃ」
 魔女の上げる悲鳴に、表情一つ変えることなく少女が瞼に針を突き刺し、縫い合わせていく。少し異様な光景と言えなくもないが、腰に鈴を下げていることから見てもこの少女は代々処刑人の家系なのだろう。であれば別に不思議がるようなことでもないのかも知れない。
 右の瞼を縫い合わせ終えると、少女が魔女の頭を押さえている男の一人に視線を向ける。その男が魔女の頭からいったん手を離し、顎の辺りを押さえて無理やり口を閉じさせた。
「むぐ!? むむぅ~~~」
 目を白黒させて、といいたいところだが、目は既にぴったりと縫い合わされている。糸がそれなりの太さを持っているせいで、少しばかりの距離を置いていても縫い目ははっきりと見て取れた。
 少女が左手で唇を摘んで引っ張る。横の台に置いてあった別の針を手にとると、少女は無造作にその先端を唇の端に突き刺した。びくんと魔女が身体を震わせ、くぐもった悲鳴を上げる。二人の男は頭が動かないように必死の形相で押さえ付けているが、それとは対照的に無表情のままで少女が下から刺し込んだ針を上から抜いた。革の糸が唇の中を通って血の球をきらめかせる。
「むー、むむー、むぐぅーー」
 悲鳴を上げる魔女の唇に再び少女が下から針を突き通す。二枚の唇を貫通して顔を覗かせた針の先端を、少女が摘んで引き抜いた。ズルズルと革の糸が唇の中を通り抜けていく。ビクビクっと下半身が跳ねるが、手足はしっかりと金属の輪で台に固定されているから逃れられるはずもない。
「次は、呪文を唱えられないように口を塞ぐわけですか」
「ええ。無論、教会の中は神の加護がありますから、悪魔の力を振るうことは出来ませんが、一応の用心のためです」
 私の言葉に、司祭がそう答える。その間にも淡々と少女は作業を進め、既に魔女の唇は半ば以上が塞がれていた。身体を魔女の上に乗り出すようにして少女が手際よく唇を縫い付けていく。
「んむー。むむー、んーんーむぐぐぅぅぅ」
 鼻に籠った悲鳴を上げながら魔女が身体を震わせる。目と唇の傷から流れる血で魔女の顔はまだらに染まっていた。
「次はどこを?」
「魂が天に召されるまでの間、悪魔の誘惑に耳を傾けることのないように、耳を塞ぎます」
 唇を縫い終えた糸の端を処理すると、少女が次の針を右手に持ち、左手で魔女の右耳を押さえた。ぺったりと耳の穴を塞ぐように折り畳まれた耳たぶに針を通し、頬の辺りへと縫い付けていく。一針ごとにくぐもった悲鳴が上がるが、唇を ぴったりと縫い合わされているために意外とその音量は小さかった。
 右耳の処置が終わると次は左耳も同じように縫い付けられた。以前、私は両耳を切り落とされた男を見たことがあるが、それと同様、どこか人間ではないような不気味な印象がある。
 目、耳、口を塞がれ、デスマスクめいた容貌になった魔女が、顔では唯一残された穴である鼻で必死に息をする。これで頭部の処理は終りなのか、二人の男が頭から手を離して魔女の足の方に移動した。足首を拘束している金属の輪を外し、ぐいっと身体を折り曲げるようにして魔女の両足首を頭の側へともってくる。くぐもった悲鳴を上げて頭を左右に振る魔女の足首を、二人の男は台から伸びた棒の先の輪に通して固定した。
「今度は?」
「悪魔と交わった穴を塞ぎます」
 少女が台の上に上がり、針を魔女の肛門の辺りに突き刺す。不自然な形に身体を拘束された魔女が賢明に尻を振って抵抗するが、もちろんそんなことで逃れられるはずもない。ただ、一応手元が狂わないようにか、二人の男も台の上に上って左右から魔女の尻を押さえ付けた。
 針を通される度に、悲鳴を上げて魔女が身体を震わせる。感情を感じさせない無表情で更に何度か針を通すと少女は糸の端を処理して次の針を手にとった。
「今度は前を?」
「無論です。むしろ念入りに閉じねばなりません」
 綺麗に毛を剃られ、剥き出しになっている秘所へと少女が無造作に指を突っ込み、押し広げる。どうやら幾重にも重なっているヒダの一枚一枚に針を通していくらしい。柔らかい粘膜に針が突き刺さると、一際大きな悲鳴を上げて魔女が身体を震わせた。だが、足首を固定された上に左右から男二人に尻を押さえ込まれている。少女の作業にはほとんど何の影響もない。
 一針、また一針と少女が秘所の奥の粘膜に針を通していく。その度に少女の指が秘所の中を掻き回すことになり、本人の意思とは関係なく溢れてくる愛液と流れる血が混じった液体が折り曲げられた腹へと滴った。
 目や耳、口や肛門といった今までにかかった作業とほぼ同じだけの時間を費やして秘所が完全に縫い付けられる。手にこびりついた粘性の高い液体を布で綺麗に拭き取ると少女は司祭へと一礼した。彼女に頷き返すと司祭は私のほうを振り返った。
「さて、昼食はお済みですかな? まだでしたらご馳走しますが」
「は? しかし、魔女の処刑は……」
「次の段階は、一、二時間たってからです。その間、この魔女は自分の罪を悔い改めるというわけで」
 なるほど、と、私は思った。確かに魔女に自分の罪を悔いるための時間を与えるというのは悪くない話だ。
 不自然な形で身体を拘束され、痛みに身体を震わせている魔女を残して私は司祭と共に食事に出かけた。
 私たちが再び地下室に戻ってくると、先程の少女と男達が処刑の準備を整えて待っていた。といっても、ナイフをもっと小さくしたような刃物を少女が握っているだけである。
 私たちが食事にいっている間に失禁でもしたのか、魔女の腹の上に黄色い液体が溜まっている。男達は魔女の両足首を固定していた金具を外すと、再び最初のように大の字になるように固定し直した。既に諦めたのか、それとも体力が尽きたのか--身体を折り曲げた態勢で長時間放置されると、驚くほど急速に体力を消耗するものである--魔女の抵抗はない。更に男達は魔女の太ももと二の腕の辺りも金属の輪で固定した。
 布で腹の上に溜まった小水を拭き取ると、少女が右手の刃物を魔女の胸の谷間の辺りへと押し当てた。そのまますぅっと腰の辺りまで一気に引く。新たに走った痛みに、くぐもった悲鳴を上げて魔女が身体をのけ反らせた。一直線に走った傷から血が溢れ出す。
 傷の始点に再び少女が刃物を当てた。左手で魔女の胸を押さえながら、胸の膨らみや肋骨に沿うように刃物を走らせる。同じように傷の終点から腰の横の辺りまで少女は切り込みを入れた。びくんびくんと悲鳴を上げながら魔女が身体を震わせるが、固定された上に男達が押さえ付けているので身体の自由はないに等しい。悲鳴も、本来は絶叫なのだろうが、口を縫い合わされていては単なるくぐもった呻き声だ。
 台の反対側に回ると、少女は同様に傷の始点と終点から身体の横までの切れ目を入れた。その後で無造作に身体の中心を走る傷へと手を差し込み、べりっと皮と肉を剥がす。湯気の上がりそうな内臓が私の目に飛び込んできた。驚くことに内臓自体には刃物の傷が付いていない。腹の部分の皮膚と肉を扉のように左右に開かれ、魔女の内臓が露出している。それでも、内臓自体には傷が付いていないから、致命傷にはならない。苦悶の呻きを上げて魔女が身体を震わせている。
「むむーー! むぐぅー! んんむぅーー!!」
 台の上に刃物を置くと、少女が両手を内臓へと突っ込んだ。一際大きく呻いて魔女の首ががっくりと折れる。どうやらあまりの激痛に意識を失ったらしい。それに構わずに少女は一息に内臓を引きずり出した。唇の端から血の泡を吹いて魔女が覚醒する。
 だらんと体外に引きずり出された魔女の内臓を、少女が切り離した。ビクビクと痙攣するように魔女が身体を震わせる。内臓を取り出されてぽっかりと開いた穴へと少女が手を突っ込み、どくん、どくんと脈打っている心臓をゆっくりと掴み出した。血管は付いたままで、その鼓動は徐々に弱まっているもののまだ確かである。
 腕から顔にかけて、返り血で真っ赤になりながら、少女が再び台の上の刃物を手に取る。表情を変えることなく無造作に少女は心臓へと刃物を突き立てた。魔女の口から大きな呻きが漏れ、同時に噴水のように鮮血が心臓から吹き出す。びしゃびしゃと顔にその血を浴びながら、少女は心臓が完全に動きを止めるのを待った。感覚的には長時間だが、現実にはごく短い時間が過ぎ、魔女の心臓がただの肉の塊に変わる。それを確認すると少女は心臓から血管を切り離し、台の横に置いてあった箱へとしまった。
「後は、魔女の身体を炎で焼いて終りです。そちらも見ていかれますか? 他の町で火刑を見慣れているあなたには、退屈なものかも知れませんが」
 正直半ば上の空で、私は司祭の言葉に頷いた。
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All writen by 香月