私はぼんやりと宿の窓からすぐ目の前の広場を眺めていた。火刑やら斬首やらといった大掛かりな処刑が行われる時には、おそらくここは特等席の一つだろう。だが、残念なことに、今は広場の中心近くで一人の男が晒し刑にかけられているだけだった。
 この町の住人はおとなしいのかそれとも無関心なのかは知らないが、さらされている男の前を行きすぎる時もちらりと視線を向けるだけで、石を投げたり罵声を浴びせたりといった他の町ではよく見られる光景は展開されていない。もっとも、私がここに到着したのは昨日の夕方のかなり遅い時間で、その時は彼はもう晒し台に掛けられていたから、そう言った事は既に行われた後なのかもしれないが。
 いずれにしても、平和な光景であった。両手両足を晒し台に拘束され、身動きもままならない状態は確かに苦しいだろうが、頭にパンを乗せてあるだけだから見ている方は今一つ面白味がないのは確かだ。まぁ、パンの重さをごまかしたぐらいの罪では、そんなに無茶なことも出来はしないだろうが。
 特にすることもなく、ぼんやりとしていた私の思考は、いつしか以前に見た晒し刑の回想へと向かっていた。

 あれは、もう何年前だろうか。とある町で、一人の女が晒し台に掛けられたのは。
 近所でも評判の美人なのだが、浮気性なところがあり、隣家の息子に幾度となく手を出そうとしたのだという。もっとも、それを相手が受けていれば姦淫の罪で斬首は確実だし、そうでなくとも魔女の烙印を押されて火あぶりになっていたかもしれないのだから、晒し刑で済んだのは幸運といえるだろう。
 彼女は全裸にされ、首かせと手かせが一体化したものをはめられていた。その大きなかせは二つの支柱の間に渡されており、両手首と顎回りで宙吊りにされる格好になっていたのだ。縄と違って木製のかせは首を締め上げることはないものの、体重の大部分が首回りにかかっているわけだから苦しさはかなりのものだろう。口を開けることもままならず、彼女は目を白黒させながら軋んだ悲鳴と呻きの中間のような声を上げ続けていた。僅かに自由になる手でかせを押さえ、懸命に身体を引き上げようとしているのだがその努力は実りそうにない。何しろ、彼女の両足首にはそれぞれ重し代わりの石が吊るされているのだ。女の細腕で自分の体重を引き上げるのも大変なのに、重石付きではますます無理な相談である。
 その両足も、やはり足かせをはめられて肩はばよりも広いぐらいの間隔に開かされている。この足かせも支柱に固定されているのだが、目的は足をばたばたさせるのを防ぐ為のものらしく、足首よりも穴の直径は多少太い。当然、体重を支える役には立たないわけだ。
 拷問吏が、皮鞭を持って彼女の背後に回る。ひゅんと風を切る音を立てて皮鞭が彼女の背中を打ち据えた。むぐぅぅぅっと、くぐもった悲鳴を女が上げる。
「うぐっ、ぐぅっ、ふぐうぅぅっ」
 パンパンと、小気味のいい音を立てて皮鞭が女を打つ。その度にくぐもった悲鳴を上げ、身体をのたうたせるのだが、拘束された身では鞭を避けようもない。かえって身体を動かすたびに首に負担がかかり、苦痛を増すだけだ。
 背中と尻をそれぞれ20回ずつ打つと、拷問吏が今度は女の側面へと回る。もちろん正面に回れば打ちやすいが、それでは観客の目から女の姿を隠してしまう為にあえて側面から打つ気なのだろう。
 拷問の時に使われるようなものとは違い、晒し刑や鞭打ち刑の時に使われる鞭は刺も何もついていない。だが、それでも素肌を打たれれば当然痛いし、肌と肉を裂くようなことはよほどのことがない限りないから犠牲者に与える消耗は少ないのだ。その分、長時間に渡る責めが出来るわけで、こういった公開での刑の場合にはむしろ向いている。
「むぐうううっ」
 乳房へと鞭の一撃を加えられ、女が目を向いて大きく呻く。白い肌にはくっきりと一条の赤い筋が走っていた。ポロポロと涙をこぼす女にはかまわずに、無造作に拷問吏が鞭を振るう。
「ぐ、うっ、ふぐっ、ぐぅぅっ」
 胸、腹、太股と、次々に鞭の洗礼を浴びて女が身悶える。しばらく鞭打ちを続け、規定の回数を打ち終えると拷問吏は再び女の背後へと戻っていった。はっはっはと息を弾ませている女の背後で鞭を置き、小さな壷のようなものを手に取る。
 拷問吏が壷の中に手を突っ込む。中から取り出されたのは、真っ赤な粉末だ。右手の人さし指から小指までをそろえた上に山盛りになっている。拷問吏はそのまま無造作に左手を女の股間に当て、秘所を割り広げた。あらわになったひだの重なりへと右手で赤い粉末を塗りこむ。
「ふぎいっ、ぎ、ぎ、ぎいっ」
 途端に、びくんと女の身体が跳ねた。熱湯を浴びせられた海老のように激しく身体を暴れさせる。赤い粉末の正体は、唐辛子だ。マスタードが用いられることもあるが、どちらにせよそんな刺激の強いものを敏感な粘膜に直に塗りこまれれば大変なことになるのは変わらない。
 女が何とか痛みから逃れようと激しく身体をくねらし、両手でかせを押し下げようとする。秘所を直接火であぶられているような痛みに、何とか上へと逃げようという思いが働いているのだろう。もちろんそんなことで逃れられるはずもないのだが、火事場の馬鹿力というべきか、ぐぐっと僅かながら女の身体が浮き上がった。
「あああああっ、あ、あ、ああアアッ、ひああああああっ」
 口を開くことに成功した女の口から絶叫が迸り出る。これ以上ないというほど大きく目を見開き、激しく身体をくねらせながら女は絶叫を続けた。
「ひあああっ、ぎ、あ、ぎひぃいいいぃっ。ぎ、ぎ、ぐげ、ぐぅっ。ぐうぅぅぅっ」
 無論、火事場の馬鹿力がいつまでも続くわけはない。徐々に彼女の身体は下がり、再び首で吊られる形に戻る。そうなるともう口を開けられないから、漏れるのは絶叫ではなくくぐもった呻きになる。
 それでもしばらくの間は激しく身体をくねらせていたが、次第にその動きは緩慢になってきた。秘所に塗りこまれた唐辛子の刺激が収まってきたのだろう。その頃合を見計らい、再び拷問吏が秘所へと唐辛子を擦り込む。
「ふぎっ、ぎぎぎいっ。いやあああああっ」
 再び繰り返される女の狂乱。髪を振り乱し、涙を流し、汗を散らして身悶える。刺激が少し収まり、一息つけるかと思った瞬間にまた強烈な刺激が全身を貫く。そんな、地獄のような時間が延々と続くのだ。体力を使い果たして女が気を失うか、それとも壷の中身の唐辛子が空になるかするまで。
「ふぎいいいいっ」
 女の悲鳴が、また派手に響いた。げらげらという見物人の笑い声と女の悲鳴が、いつ果てるともなく続いていた……。

 また、別の町でこんな晒し刑を見たこともある。
 あれは確か、結婚前に肉体関係を持った二人の若い男女の晒し刑だった。同い年の幼馴染みだそうだが、男の方は随分と老けて--二十代後半ぐらいに--見え、逆に女の方は随分と幼く--こちらは十代前半に--見えるという不思議な組み合わせだったのでよく憶えている。
 上半身は服を着たままで下半身を剥き出しにされた二人は、それぞれ足を大きく広げて逆さに吊るされていた。両腕は自由を奪う為に背中に回され縛られている。定番の鞭打ちは尻や太股に加えられたわけだが、何度か鞭の先端が性器を直撃し、二人の口から悲鳴をあふれさせていた。
 さて、その鞭打ちが済むと、拷問吏たちはやはり壷を持って二人の側に歩み寄った。といっても、この壷に入っていたのは唐辛子などではない。毒を持たない小さなである。
 拷問吏の一人が、中をくりぬいた木の筒を女の秘所へと押し込む。痛みに上体をのけぞらせた女が、次の瞬間には大きく目を見開いた。秘所へと刺さった筒の中へと蛇が押し込まれたのだ。
「ひあっ、あっ、ああああっ」
 ざらざらとした蛇の鱗が肉ひだを刺激する。蛇は狭い穴へと入り込む習性があるから、身体をくねらせながらどんどんと女の奥深くへと潜っていく。苦痛とも快感ともつかない感覚に襲われ、女が頬を染めながら身体をのたうたせた。
 更に蛇が筒の中へと送り込まれる。ヒイッと女が喉を鳴らした。
「だ、駄目ぇっ。は、入って、こないでぇっ」
 びくっびくっと身体を時折震わせながら、女が哀願の声を上げる。だが、もちろんそんな言葉が蛇に届くはずもない。駄目押しをするかのように、三匹目の蛇が筒の中へと送り込まれた。
「ひいいっ、きぃっ、ひっ、あっ、あっ、あっ、駄目、駄目駄目駄目、やだぁっ」
 狭い肉壷の中で三匹の蛇が暴れまわる。いくら蛇が狭く暗い穴を好むとはいえ、これは狭すぎる。他の蛇への敵意もあり、またあふれ出してきた愛液に溺れそうになってもいるのだから、蛇たちも半狂乱だ。
 拷問吏たちが、慎重に木の筒を女の秘所から引き抜く。女の股間から体内に収まりきらなかった蛇の尾が飛び出し、くねくねとのたうっている光景はこの上もなく淫らだ。
「ふあっ、ふああっ。ひあああっ。ぎいいっ」
 蛇の鱗が柔らかい肉ひだをこする。暴れる蛇が、何とか逃れようと自分を閉じこめる肉の壁へと牙を立てる。快感と苦痛がないまぜになり、女の身体と心を責めたてる。
「ひぃあっ、駄目っ。痛いの……痛いのに……あっ、ああっ、あああっ、変に、なっちゃうぅっ」
「ぐあああっ」
 女の嬌声に、男の苦鳴が加わった。男の肛門にも木の筒が捻じ込まれ、同様に蛇が何匹も送りこまれたのだ。まだ苦痛を快感に紛らわすことのできる女と違って、男の場合は純粋に苦痛と嫌悪感だけのはずだ。まぁ、男でももしかしたらそちらで快感を得ることも出来るのかもしれないが、それが出来るとしたら忌まわしき悪魔の行為に身を染めたという証拠だろう。歯を食い縛り、上体を揺らす男の表情には快感を感じている様子はないから、そういった行為には縁がなかったのだろう。
「ひあっ、あっ、ひいいっ。い、痛っ、ふわああっ。ああぁん」
「ぐ、うっ、ぐぐぐ、ぐああっ」
 苦痛の中にも僅かに甘さの混ざった女の声と、苦痛と嫌悪のみの男の声。二つの声と観客たちの笑う声が混じり合い風に流れる。この男女は後1日か2日はこのままさらされ続けるわけだが、蛇が死ぬまではこの責めは終わらない。途中で引き抜いてやるようなことはないのだから。
 くねくねと上体を揺らしながら、二人は悲鳴を放ち続けていた……。
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