第五章 ロバ

 水責めを受けた翌朝。まだ少しフラついているアンナは両腕を覆面に掴まれて再び吊し責めを受けたあの部屋へと連れていかれた。あの時を同じように部屋の中央には櫓が組まれている。
 ただ、前回と違うのは、櫓の横にロバと呼ばれる器具が置いてあることだった。普通のものとは少し異なり、三角形に尖らされた部分の真中へんにまっすぐな木の棒が上を向いて立てられていた。
「そろそろ素直になったらどうじゃ?」
「犯してもいない罪を告白することは、出来ません。私は無実です」
 主張するアンナの言葉も、今日に限っては力がない。まだ完全に昨日の拷問で受けたダメージが消えていないし、司教に自分の主張を聞く積りがまったくないということを悟ったからでもある。既に諦めが彼女の心を蝕みはじめていた。
 それに気付いたのか、やや満足そうな表情を浮かべると司教は右手を上げた。声もなく覆面たちが前に出、手際よくアンナの腕を後に回し、手首を縛り上げる。抵抗する気力は既になく、また、抵抗したとしても女のか細い腕では男たちに敵うはずもない。
 ゆっくりと滑車によってアンナの腕が上へと吊り上げられていく。腕と肩を襲う痛みにアンナの眉がぎゅっと寄った。前に吊るされた時の痛みが脳裏に浮かび、アンナの表情がひきつった。
「罪を告白するか?」
 完全にアンナの足が床から離れ、吊り上げられると司教はそう問い掛けた。苦痛に表情を歪め、額に汗を浮かべながらもアンナが首を横に振る。痛みをこらえるために歯を食いしばっているため、話すことは出来なかった。
 覆面たちがロバを持ち上げ、櫓の下、つまりは吊り下げられたアンナの下へと移動させた。今はアンナが高く吊られているために爪先がちょうどロバの背に触るぐらいになる。彼女の足を左右から覆面が掴み、割り開いた。
「う・・あ、な、何を・・・」
 アンナが怯えた表情を浮かべた。無言のまま覆面たちが左右に割り開かれた足のちょうど真中にロバから生えた木の棒がくるように位置を調整する。巻き上げ機のハンドルを握っていた覆面が、アンナの体を下げる方へとハンドルを回した。
 両足をそれぞれ覆面に掴まれていては抵抗のしようもない。木製の器具をまたぐような態勢でアンナの体がさがっていく。股間へと棒の先端が触れた所で一旦ハンドルを回すのがやめられた。アンナの足を掴まえていた覆面たちも手を離す。反射的にアンナは足を閉じ、膝の辺りでロバの胴体を挟み込んだ。腕にかかる体重が少しとはいえ減少し、腕の痛みが柔らぐ。
 ちらりと巻き上げ機の覆面が司教の方へと視線を向けた。彼が頷くのを確認して一気にハンドルを回す。今までアンナのことを上と引っぱり上げていた力が完全に消えた。小さく呻いて両足に力を込めるアンナ。少しでも力を抜けば棒が彼女の秘所を貫くことになるだろう。
「いつまで我慢出来るかな?」
 薄く笑いを浮かべると司教がそう呟いた。焦る必要はない。たとえ屈強な男であっても、自分の体重をああいった不自然な態勢で長く支えることは出来ない。まして筋肉の発達していない少女が長く持つはずがなかった。
「あ、くぅ・・・」
 ぶるぶると痙攣するようにアンナの足が震える。食いしばった歯の間から呻きが漏れた。小気味よさそうに笑いを浮べながら司教は覆面へと合図をした。壁に掛けられた鞭を手に取り、覆面がアンナの正面に立つ。ぱしっと床で鞭を鳴らすとアンナの表情が恐怖で歪んだ。
「や、やめて・・・お願い・・・」
 覆面が手にしているのは以前に使った皮鞭ではない。真中から先にかけてびっしりと尖った針を植えつけられたイバラ鞭だ。普通に振うだけでも皮膚を裂き、肉を刔る威力を持っている。
 ぶんっと空気を裂いて鞭がアンナの体を打ちすえた。ぱっと胸元から腹部にかけて鮮血がしぶく。悲鳴を上げてのけぞった瞬間、足に込めていた力が抜け、棒の先端が三分の一ほど彼女の秘所へと潜りこんだ。太さはそれほどでもないが、まったく挿入の準備の整っていない秘所に強引に乾いた木の棒を突き立てられ、アンナの口からまた悲鳴が漏れる。彼女は懸命に足に力を込め、体をささえようとした。
 再び、覆面が鞭をふるった。最初の傷と交差するように。体の全面に×の字に傷が刻みこまれる。溢れた涙でアンナの顔が濡れた。
「ア、アア、アーー!」
 高い悲鳴と共にずるりと彼女の体が沈み込む。木の棒は完全に彼女の体の中へと姿を消した。再び鞭を振るおうとはせずに覆面が一歩下る。それと入れ代りになるように司教がアンナの正面に立ち、しげしげと彼女の股間を見つめた。
「ふむ・・・。純潔では、なかったようじゃな」
「そ、それは・・・!」
 はっと顔を上げたアンナへと意地の悪い表情で司教が口を開く。
「やはり、悪魔を交わっていたか。お前は魔女だ!」
「違います! 私は・・・!」
 アンナの抗議の言葉が途中で途切れた。いつのまにか背後に回っていた覆面の一人がぐっと彼女の肩を押し下げたのだ。引き裂かれるのではないかと思うほどの痛みが股間から脳天まで突き抜ける。大きく目を見開き、ぱくぱくとアンナは口を開け閉めした。あまりの痛みに悲鳴すら出てこない。
「魔女であることを認めよ。罪を認め、神の慈悲を乞うがいい」
 司教の言葉に懸命にアンナは首を横に振った。ズキズキと股間は痛み、しかもその痛みは徐々に強さを増していく。勝利を確信しているのか。口元に笑みを浮かべると司教は覆面に合図をした。
 以前に使われたのと同じ、一抱えほどもある石を覆面が持ってくる。だが、前回は一つだった石が今回は二つ。そのそれぞれに縄が巻き付けられ、逆の端がアンナの足首へと結びつけられた。
「い、いや、やめ・・・ギャァァァァ」
 覆面たちが石から手を離した瞬間、アンナの口から絶叫が漏れる。股間から溢れた血がロバの側面を真紅にそめ、ぽたぽたと床へと滴った。
「あ、あ、あ、アアアァッ! ギャァァァ!!」
 痛みに激しく状態をのたうたせるアンナ。だが、それは同時に自らの傷を深めてしまう。更に深く刔られ、裂かれた痛みに否応なく体は揺れ動き、痛みが痛みを呼ぶ。白い裸身を血で染め、苦痛にのたうっているアンナのことを薄い笑みを浮べて司教は見守っていた。
「ァ、ア、ガハァ」
 きれぎれの悲鳴を残し、がっくりとアンナが首をおる。意識を失なったアンナへと覆面が鞭を振り上げた。
「ギャッ。ヒ、ヒィッ、や、め・・・ギャァァァ!」
 イバラ鞭が柔肌を切り裂き、真紅に染める。悲鳴を上げて覚醒したアンナは、ロバによって与えられる下半身を切り刻まれるような激痛を再び味あわされることになった。
 イバラ鞭を手にした覆面は、少しでもアンナが意識を失うと鞭を振るい、痛みで無理矢理覚醒させる。
 それが、もう十回以上繰り返された。痛みによって失神し、痛みにとって無理矢理覚醒させられる。そのうち、股間の痛みが麻痺しはじめた。それを見てとったのか、手が空いた二人がアンナの足に吊された重りの石へと足をかけ、命令を待つように司教の方へと視線を向ける。
「お前は悪魔に純潔を捧げ、魔法を使った。そうだな?」
「ち、がっ・・・知ら、な、ァアアッ! グギャ、アッ、ガァァァ!!!」
 グイっと覆面たちが石に載せた足に体重を掛けた獣のような悲鳴を上げ、アンナがのたうつ。上半身はイバラ鞭によってズタズタに引き裂かれ、下半身は裂けた股間から溢れる血潮でやはり真っ赤に染まっている。床に出た血溜りは、もうかなりの大きさになっていた。
「ゲ、フ・・・」
 がっくりとアンナが力なくうなだれた。今までと同じように覆面がイバラ鞭を振るうが、今回は反応が鈍い。わずかに体を震わせ、顔を持ちあげるだけで、すぐにまたがっくりとうなだれてしまう。眉をひそめると司教は手を上げた。
 ハンドルが巻かれ、アンナの体が持ち上がる。腕を捻じあげられる痛みにもアンナはほとんど反応しない。死体のようにぐったりとしている。一応は開かれた瞳が、うつろに空中をさまよっていた。
「司教猊下・・・」
「分っておる、限界だといいたいのじゃろう? 今日はここまで」
 司教が舌打ちとともにそう言った。結局、今日も自白を得ることが出来なかったのだ。血で染まったロバへと視線をやり、彼は溜息をついた。
(まぁ、よい。少なくとも純潔でないことは証明された。いくらでもやりようはあるじゃろうて)
 真紅に染まったロバ。ただ一箇所、アンナの体内に食わえこまれていた棒だけが元の木の色をしていた・・・。
トップページに戻る
第四章へ  最終章へ
All writen by 香月